特許第6688156号(P6688156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6688156サンゴ礫堆積による陸化方法、そのための透過構造物および構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6688156
(24)【登録日】2020年4月7日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】サンゴ礫堆積による陸化方法、そのための透過構造物および構造体
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/00 20060101AFI20200421BHJP
   E02B 3/18 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   E02B3/00
   E02B3/18 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-105990(P2016-105990)
(22)【出願日】2016年5月27日
(65)【公開番号】特開2017-210833(P2017-210833A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年4月22日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国土技術政策総合研究所「サンゴ礁海岸保全モデルの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】前田 勇司
(72)【発明者】
【氏名】琴浦 毅
(72)【発明者】
【氏名】佐貫 宏
(72)【発明者】
【氏名】茅根 創
(72)【発明者】
【氏名】田島 芳満
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−127819(JP,A)
【文献】 特開2003−342930(JP,A)
【文献】 米国特許第04710056(US,A)
【文献】 特開平10−331126(JP,A)
【文献】 特開平11−323873(JP,A)
【文献】 実開昭56−087517(JP,U)
【文献】 特開2015−045159(JP,A)
【文献】 特開2002−013118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 1/00−3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴ礫を堆積させ陸化する方法であって、
サンゴ礫を捕捉可能な複数の開口を有する透過性構造物を水塊が通過可能な方向に設置し、
前記透過性構造物には、その天端側に前記水塊の移動方向の上流側に突き出た庇部を設け、
前記透過性構造物の開口において前記水塊を通過させ前記サンゴ礫を捕捉することで前記サンゴ礫を堆積させるサンゴ礫堆積による陸化方法。
【請求項2】
前記透過性構造物は、前記開口を有する面状の捕捉部を備え、
前記庇部が前記捕捉部の天端から延びている請求項1に記載のサンゴ礫堆積による陸化方法。
【請求項3】
前記庇部が前記開口を有する請求項1または2に記載のサンゴ礫堆積による陸化方法。
【請求項4】
サンゴ礫を堆積させ陸化するための透過性構造物であって、
サンゴ礫を捕捉可能な複数の開口と、
天端側に設けられ前記水塊の移動方向の上流側に突き出た庇部と、を有し、
水塊が通過可能な方向に設置されることで前記開口において前記水塊を通過させ前記サンゴ礫を捕捉するための透過性構造物。
【請求項5】
前記開口を有する面状の捕捉部を備え、
前記庇部が前記捕捉部の天端から延びている請求項4に記載の透過性構造物。
【請求項6】
前記庇部が前記開口を有する請求項4または5に記載の透過性構造物。
【請求項7】
サンゴ礫を堆積させ陸化するための構造体であって、
請求項4乃至6のいずれか1項に記載の透過性構造物を複数備える構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンゴ礫を堆積させ陸化する方法、そのための透過構造物および構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の領海や排他的経済水域(EEZ)の基点となっている離島は約500に上るが、水底資源や水産資源の保護のために離島の保全・管理の強化が必要とされている。離島においてはサンゴ礁が島の周りを取り囲むなど、サンゴ礁の保全、活用の必要性が認識されている。たとえば、特許文献1,2はサンゴ礁の移設、特許文献3,4はサンゴ礁の増殖、特許文献5はサンゴの育成・保護、特許文献6はサンゴ礫断片の飛散防止、および、特許文献7はサンゴ育成構造体の構築などの技術をそれぞれ提案する。特許文献8は、サンゴ砂礫等を自然に集積するために、海水不透過部と海水透過部により構成され海底から立ち上がる環状堤体構造物を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-125293号公報
【特許文献2】特開2006-158218号公報
【特許文献3】特開2008-141979号公報
【特許文献4】特開2011-125347号公報
【特許文献5】特開2014-212704号公報
【特許文献6】特開2014-212702号公報
【特許文献7】特開2013-165693号公報
【特許文献8】特開2015-45159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サンゴ礁が卓越する離島付近では、死滅したサンゴが砂礫となり、気海象条件などにより、サンゴ礫が島を形成し、陸地化している箇所がある。また、海岸侵食が卓越している地点では海岸保全を目的に、石材やブロックなどで形成される離岸堤が建設されることがあるが、離岸堤背後の砂浜は回復することがあるものの、離岸堤周辺は洗掘されることが多い。また、離島の保全は現在の島の管理はもちろん、周辺のサンゴ礫が水面上まで堆積して陸地している箇所の保全に加え、新たにサンゴ礫を用いて陸地を形成することができれば、国土保全に資することができる。
【0005】
サンゴに関しては複数の技術が特許文献1〜7のように提案されているものの、サンゴ礫を用いて陸地化する技術に関する提案ではない。すなわち、特許文献1〜5は生存しているサンゴの移設、増殖、保護を目的としているが、サンゴは水面下のみで生息するため、これらの方法では陸地化することは難しい。また、特許文献6の方法は水底に堆積したサンゴ礫の飛散防止に過ぎず、これによる堆積効果は期待できない。また、特許文献7の構造体・方法は、網目状で全面が略閉塞される籠体の中にサンゴ石灰石を収納することでサンゴ育成体を提供するもので、堆積を促進するものではない。また、特許文献8の環状堤体構造物は、陸地化技術ではあるものの、コンクリートブロックや砕石、人工基盤などを設置する必要があり、大規模な作業が必要となる。さらに、自然界ではサンゴ礫で陸地化することはあるが、意図した場所にサンゴ礫を用いて簡易的な手法により陸地を形成する技術は未だない。
【0006】
そこで、本発明者等は、他の発明者とともに、先に特願2015-195733においてサンゴ礫を堆積させ陸化する方法を提案した。このサンゴ礫堆積による陸化方法は、図4のように、サンゴ礫1を捕捉可能な複数の開口13を有する透過性構造物100を水塊が通過可能な方向に設置し、透過性構造物10の開口13において水塊を通過させサンゴ礫1を捕捉することでサンゴ礫を堆積させるものである。このサンゴ礫堆積による陸化方法によれば、透過性構造物の前面(上流側)にサンゴ礫が堆積することを促進するが、越波時には透過性構造物の背面(下流側)にサンゴ礫が堆積することを促進する場合もある。
【0007】
しかし、本発明者等のさらなる検討・研究によると、上記透過性構造物の堆積形態・形状について下記の問題があることが判明した。
(1)透過性構造物が鉛直に設置された場合、越波時に透過性構造物の前面(上流側)に堆積したサンゴ礫が巻き上げられると、透過性構造物の天端を越え易く、背面(下流側)に堆積してしまう。このように、透過性構造物の背面に堆積するサンゴ礫の供給源は前面に堆積したサンゴ礫であることから、前面における礫の堆積が非効率的になってしまう。
(2)透過性構造物の前面におけるサンゴ礫の堆積形状は天端幅がかなり狭くなってしまい、幅広い陸地形成の上で非効率である。
(3)越波時において、透過性構造物の背面では流速が比較的大きくなるが、これにより、背面におけるサンゴ礫の堆積形状は前面に比べ幅広で低天端になるため、陸地化という観点から見た場合、非効率的である。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、サンゴ礫捕捉のために設置される透過性構造物の前面にサンゴ礫を効率的に堆積させるとともに堆積物の天端幅を確保可能なサンゴ礫堆積による陸化方法、そのための透過構造物および構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためのサンゴ礫堆積による陸化方法は、サンゴ礫を堆積させ陸化する方法であって、サンゴ礫を捕捉可能な複数の開口を有する透過性構造物を水塊が通過可能な方向に設置し、前記透過性構造物には、その天端側に前記水塊の移動方向の上流側に突き出た庇部を設け、前記透過性構造物の開口において前記水塊を通過させ前記サンゴ礫を捕捉することで前記サンゴ礫を堆積させる。
【0010】
このサンゴ礫堆積による陸化方法によれば、透過性構造物は、波や潮流などにより移動する水塊を透過させる一方、水塊の移動に伴い移動するサンゴ礫を捕捉することができる。この捕捉されたサンゴ礫は透過性構造物の前面(上流側)に堆積するが、透過性構造物を越波するような水塊(波)が来た場合、透過性構造物の天端側に上流側に突き出た庇部を設けたので、前面に堆積したサンゴ礫の背面への移動が抑制され、このため、透過性構造物の前面に堆積したサンゴ礫の安定性が向上し、透過性構造物の前面にサンゴ礫を効率的に堆積させることができる。また、庇部の突き出し長さに応じてサンゴ礫の堆積物の天端幅を制御できるので、庇部によりサンゴ礫の堆積物の天端幅を確保することができる。
【0011】
上記サンゴ礫堆積による陸化方法において、前記透過性構造物は、前記開口を有する面状の捕捉部を備え、前記庇部が前記捕捉部の天端から延びていることが好ましい。
【0012】
また、前記庇部が前記開口を有することで、庇部においてサンゴ礫の捕捉が可能であるとともに、透過性構造物の前面に堆積したサンゴ礫の背面への移動を抑制できる。
【0013】
なお、前記透過性構造物の設置予定位置周辺に存在するサンゴ礫を採取し、前記採取したサンゴ礫の長手方向の寸法および短手方向の寸法を計測し、前記計測結果から平均的な寸法を算出し、前記平均的な寸法に基づいて前記開口のサイズを設定することが好ましい。実際のサンゴ礫に近似した平均的な寸法を得ることができ、サンゴ礫のより効率的な捕捉が可能となる。また、前記開口のサイズを前記平均的な寸法の長手寸法以下および短手寸法以上に設定することが好ましい。
【0014】
上記目的を達成するための透過性構造物は、サンゴ礫を堆積させ陸化するための透過性構造物であって、サンゴ礫を捕捉可能な複数の開口と、天端側に設けられ前記水塊の移動方向の上流側に突き出た庇部と、を有し、水塊が通過可能な方向に設置されることで前記開口において前記水塊を通過させ前記サンゴ礫を捕捉するためのものである。
【0015】
この透過性構造物によれば、波や潮流などにより移動する水塊を透過させる一方、水塊の移動に伴い移動するサンゴ礫を捕捉することができる。この捕捉されたサンゴ礫は透過性構造物の前面(上流側)に堆積するが、透過性構造物を越波するような水塊(波)が来た場合、透過性構造物の天端側に上流側に突き出た庇部を設けたので、前面に堆積したサンゴ礫の背面への移動が抑制され、このため、透過性構造物の前面に堆積したサンゴ礫の安定性が向上し、透過性構造物の前面にサンゴ礫を効率的に堆積させることができる。また、庇部の突き出し長さに応じてサンゴ礫の堆積物の天端幅を制御できるので、庇部によりサンゴ礫の堆積物の天端幅を確保することができる。
【0016】
上記透過性構造物は、前記開口を有する面状の捕捉部を備え、前記庇部が前記捕捉部の天端から延びていることが好ましい。
【0017】
また、前記庇部が前記開口を有することで、庇部においてサンゴ礫の捕捉が可能であるとともに、透過性構造物の前面に堆積したサンゴ礫の背面への移動を抑制できる。
【0018】
上記目的を達成するための構造体は、サンゴ礫を堆積させ陸化するための構造体であって、上述の透過性構造物を複数備える。
【0019】
この構造体によれば、複数の透過性構造物を設置することで、より広い範囲でサンゴ礫の堆積による陸化が期待できる。
【0020】
上記構造体としての第1の構造体は、サンゴ礫を堆積させ陸化するための構造体であって、上述の透過性構造物を複数備え、前記複数の透過性構造物が横方向に一列に並べられて設置されたものである。この構造体によれば、より幅広い範囲でサンゴ礫の堆積による陸化が期待できる。
【0021】
同じく第2の構造体は、サンゴ礫を堆積させ陸化するための構造体であって、上述の透過性構造物を複数備え、前記複数の透過性構造物が前記水塊の移動方向に離れて設置されたものである。この構造体によれば、透過性構造物を単独または複数一列で設置した場合、水塊の移動方向が一様であれば堆積が促進されるが、期間により水塊の移動が逆方向となった場合、堆積したサンゴ礫が破壊されることが予想される。そこで、複数の透過性構造物を水塊の移動方向に離して設置することで、水塊の移動が逆方向となったとしても、各透過性構造物の間の空間でサンゴ礫の捕捉が可能となる。
【0022】
同じく第3の構造体は、サンゴ礫を堆積させ陸化するための構造体であって、上述の透過性構造物を複数備え、複数の前記透過性構造物が横方向に一列に並べて設置され、さらに複数の前記透過性構造物が前記水塊の移動方向に離れて横方向に一列に並べて設置されるようにして、複数列が前記移動方向に離れて設置されたものである。この構造体によれば、より幅広い範囲でサンゴ礫の堆積による陸化が期待できるとともに、水塊の移動が逆方向となったとしても、各列の間の空間でサンゴ礫の捕捉が可能となる。
【0023】
上記第2,第3の構造体において、前記移動方向に離れて設置された前記透過性構造物は、それらの天端高さが前記移動方向の上流側から下流側に向けて順次に高くなるように構成されることが好ましい。水塊の移動方向の上流側では天端高さを低くし、移動方向下流側になるにつれて天端高さを高くすることで、水塊の移動が逆方向となったとしても、各透過性構造物の間の空間におけるサンゴ礫の捕捉がいっそう効率的になる。
【0024】
同じく第4の構造体は、サンゴ礫を堆積させ陸化するための構造体であって、上述の透過性構造物を複数備え、複数の前記透過性構造物が一領域を包囲するように設置され、さらに複数の前記透過性構造物が、前記一領域を包囲する前記複数の透過性構造物を包囲するように設置されたものである。かかる構造体の平面的設置形状例として、たとえば、同心円状、正方形状、長方形状、多角形状、長円形状などがある。
【0025】
上記第4の構造体において、前記各透過性構造物は、それらの天端高さが前記一領域のある内側から外側に向けて順次に低くなるように構成されることが好ましい。
【0026】
上記各構造体において、前記透過性構造物が移動しないように水底に対し固定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、サンゴ礫捕捉のために設置される透過性構造物の前面にサンゴ礫を効率的に堆積させるとともに堆積物の天端幅を確保可能なサンゴ礫堆積による陸化方法、そのための透過構造物および構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態による透過性構造物の基本的構成を示す斜視図である。
図2図1の透過性構造物を概略的に示す側面図である。
図3】水底に設置された図1の透過性構造物10の側面図で、サンゴ礫が捕捉され堆積する過程(a)〜(d)を概略的に示す。
図4】先願(特願2015-195733)における透過性構造物の基本的構成を示す斜視図である。
図5図1の捕捉部12の変形例を示す要部上面図(a)(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による透過性構造物の基本的構成を示す斜視図である。図2図1の透過性構造物の概略的な側面図である。なお、図1等では、開口やサンゴ礫は、説明の便宜上、誇張して示されている。
【0030】
図1図2に示すように、本実施形態による透過性構造物10は、底板部11と、底板部11に設けられた捕捉部12と、を備える。捕捉部12は、平面状乃至平板状に構成され、平面に多数の開口13が形成されている。捕捉部12の天端には、図1のように、水塊の移動方向xの上流側に水平方向に突き出るように延びる庇部15を設けている。庇部15は捕捉部12と同様の開口13を有する。
【0031】
開口13のサイズは、サンゴ礫の代表寸法の長手寸法以下、短手寸法以上とする。これにより、捕捉部12に設けられた多数の開口13により、水塊を通過させながらサンゴ礫を効率的に捕捉することができる。ここで、代表寸法とは、透過性構造物10の設置予定位置周辺に存在するサンゴ礫を採取して長手方向および短手方向の寸法を計測し、統計的処理により算出した平均的な長手方向の長さ、短手方向の長さとする。なお、たとえば、サンゴ礫の寸法に関する過去のデータ等に基づいて開口のサイズを設定するようにしてもよい。
【0032】
捕捉部12は、たとえば、平板状のメッシュ部材から構成することができ、多数の開口13は、メッシュ部材のメッシュから構成され、開口13のサイズは、メッシュ部材のメッシュサイズに対応する。上記例では、メッシュサイズは、サンゴ礫の平均的寸法の長手寸法以下で短手寸法以上のものが選択される。
【0033】
図1図2の透過性構造物10は、底板部11が水底Gに設置され、多数の開口13を有する平面状乃至平板状の捕捉部12が鉛直方向に立つように構成される。透過性構造物10の捕捉部12は波や潮流などの水塊の移動方向xに直交するように位置決められる。また、透過性構造物10は、移動しないように底板部11でアンカー等の固定手段(図示省略)により水底Gに固定される。なお、かかる固定手段ではなく、底板部11の重力で固定する重力式固定としてもよい。
【0034】
庇部15は、図2のように、透過性構造物10の捕捉部12の天端から水平方向に延びているが、庇部15の長さLは、上述のようにして計測されたサンゴ礫の平均的な長手方向の長さ以上、設置位置における高潮位時の水深H以下であることが望ましい。また、庇部15は、水平方向から上下に傾斜していてもよく、その傾斜角αは水平方向に対し±45°以内であることが好ましい。
【0035】
次に、図1図2の透過性構造物10の作用効果について図3を参照して説明する。図3は、水底に設置された図1の透過性構造物10の側面図で、サンゴ礫が捕捉され堆積する過程(a)〜(d)を概略的に示す。
【0036】
図3(a)のように、波や潮流などにより移動する水塊が透過性構造物10の捕捉部12にほぼ直交するように移動方向xに流れ、多数の開口13を透過する。かかる水塊の移動に伴い水中を移動したサンゴ礫1が多数の開口13で捕捉され、図3(a)のように、捕捉されたサンゴ礫1が透過性構造物10の前面(上流側)(図の右側)において底板部11やその周囲に堆積をはじめる。
【0037】
ある程度の堆積厚になるまで、堆積したサンゴ礫の透過性により、水塊は多数の開口13に作用し続け、引き続きサンゴ礫1は、水塊とともに移動し、多数の開口13に捕捉され堆積し続け、図3(b)のように、サンゴ礫1の堆積厚が増加し、堆積したサンゴ礫1がサンゴ礫堆積物2となる。
【0038】
サンゴ礫堆積物2は、ある程度の堆積厚になると、透過性が低下し、新しい水底地盤となって、水塊の流れる高さがサンゴ礫堆積物2の上面よりも高い位置になる。その結果、図3(c)のように、サンゴ礫1は順次、より高い位置へと堆積し、サンゴ礫堆積物2の上面が上昇する。図3(c)のように、透過性構造物10を越波するような波が来襲し、堆積したサンゴ礫1aが巻き上げられても、透過性構造物10の捕捉部12の天端にある庇部15が水平方向に上流側に延びているので、透過性構造物10の天端を越え難い。この結果、透過性構造物10の前面(上流側)に堆積したサンゴ礫1は、背面(下流側)(図の左側)への移動が抑制される。このため、サンゴ礫1は透過性構造物の前面側において効率的に堆積する。
【0039】
図3(c)(d)のように、サンゴ礫1の堆積が進むと、サンゴ礫堆積物2の上面がしだいに高くなるとともに、サンゴ礫堆積物2の下部が幅広で上部が幅狭となる前浜勾配が形成され、このため、水塊の移動方向がしだいに斜め上方の方向x’に変化する。図3(d)のように、透過性構造物10の天端が水面上よりも高い位置にある場合には、サンゴ礫1は水面上にまで打ち上げられて堆積し、その結果、サンゴ礫堆積物2の上面が水面から露出するとともに、庇部15の端部から安定勾配となるような堆積形状を保持できる。
【0040】
また、図3(d)のように、庇部15の下面においてその長さL(図2)に対応してサンゴ礫堆積物2の天端幅L1が保持されるため、庇部15によってサンゴ礫の堆積物の天端幅を確保できる。このように、庇部15の長さLを調整することでサンゴ礫堆積物2の天端幅L1を制御できる。
【0041】
なお、図3(a)〜(d)に示すように、サンゴ礫1の透過性構造物10の前面から背面への移動は完全に抑制できるのではなく、越波時に若干移動することが避けられず、前面に堆積したサンゴ礫1が背面に若干移動してしまうが、透過性構造物が庇部を有しない場合よりも、サンゴ礫の移動が抑制され、サンゴ礫1の前面における堆積が効率的に行われる。
【0042】
庇部のない透過性構造物の場合、越波時には透過性構造物の前面に堆積したサンゴ礫が容易に透過性構造物の背面に移動されるのに対し、本実施形態によれば、天端に庇部を設けることで、かかるサンゴ礫の移動を抑制する効果を期待でき、透過性構造物の前面に堆積するサンゴ礫の安定性を向上させることができる。また、庇部の長さLに応じてサンゴ礫の堆積物の天端幅L1を確保できるので、透過性構造物の前面において効率的に幅広い陸地形成を行うことができる。
【0043】
以上のように、透過性構造物10を設置した領域において、水中を水塊とともに移動するサンゴ礫1を捕捉し、透過性構造物10の前面(上流側)に効率的に堆積させることで陸地化の実現を効率的に図ることができる。すなわち、透過性構造物10を設置するのみで、自然の外力を活用することによりサンゴ礫1による陸地化が促進され、離島の保全が図られる。
【0044】
なお、本実施形態による透過性構造物10は、水底に単独で設置されてよいが、これに限定されず、複数の透過性構造物を設置してもよく、いっそう効率的にサンゴ礫堆積による陸化を図ることができる。例えば、複数の透過性構造物を縦方向に一列に並べて設置してよく、また、横方向に一列または複数列並べて設置してもよい。
【0045】
また、透過性構造物は、図1の底板部11を省略し、捕捉部12の両端の下端で捕捉部12に対し直交して張り出すように支持部材を設けた構成でもよい。また、図1の底板部11を省略し、捕捉部の両脇に鉛直杭を水底に打設し、捕捉部12をその両端の鉛直杭に固定し支持するようにしてもよい。
【0046】
また、多数の透過性構造物10を、所定領域を包囲するように平面的に正方形状、同心円状、長方形状、多角形状、または長円形状などに配置して設置してもよい。
【0047】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、図1では、複数の開口13を有する捕捉部12は平板状乃至平面状に構成されるが、本発明はこれに限定されず、面状であればよく、面状の捕捉部としては、平板状のものや全面が平面状のもののみならず、たとえば、図5(a)のV字状の捕捉部12Aや図5(b)の波形状の捕捉部12Bのように予め変形した形状に構成されたものも含む。
【0048】
また、捕捉部が、たとえば、鉄鋼材料からなる平板やエキスパンドメタル等から構成される場合は、ある程度の剛性があるため供用中も平面状をほぼ保つが、たとえば、樹脂材料や金網のような可撓性のある材料から平面状に構成される場合は、供用中は水塊の移動により湾曲状に変形する場合がある。
【0049】
また、図1図2では、庇部15を捕捉部12の天端に設けたが、天端でなくともよく、天端から若干下側であってもよい。また、庇部を複数設け、多段にしてもよい。
【0050】
また、図1の捕捉部12は波や潮流などの水塊の移動方向xに直交するように位置決められるが、本発明はこれに限定されず、水塊が捕捉部を通過できればよい。
【0051】
また、本明細書のサンゴ礫とは、サンゴ礁由来のもので、形状的には木の枝のような形状やテーブル状の形状のものが多い。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、サンゴ礫を堆積させて陸化を図る方法、そのために使用可能な透過構造物および構造体を提供できるので、新たな島を造成することが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1 サンゴ礫
2 サンゴ礫堆積物
10 透過性構造物
11 底板部
12 捕捉部
13 開口
15 庇部
L 庇部の長さ
L1 サンゴ礫堆積物の天端幅
H 水深
G 水底
x 移動方向
ax 逆方向
α 庇部の傾斜角
図1
図2
図3
図4
図5