【実施例】
【0026】
次に実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[マウス]
以降の実験において、C57BL/6J(SLC)マウスは、九動株式会社から購入したものを用いた。
【0028】
[マウス心筋梗塞モデルの作製]
マウス心筋梗塞モデルは、Nishidaらの方法(Nature Chemical Biology, vol.8, p.714-724 (2012))を参考に作製した。
具体的には、8週齢マウス(C57BL/6J(SLC))に、三種混合麻酔薬(ドミトール:0.75mg/kg、ミダゾラム:4mg/kg、ベトルファール:5mg/kg)を腹腔内投与して麻酔をかけた後、開胸し、左冠動脈前下行枝(LAD)を絹縫合糸(6-0号)を用いて結紮した(MI群)。結紮による心筋梗塞が成功しているか否かは、心電図にてST(心室興奮極期)上昇を観察することにより確かめた。同様に麻酔して開胸したが、LADを結紮しなかったマウスをsham群とした。
【0029】
[細胞]
NRCM(Preparation of neonatal rat cardiac myocytes)細胞は、以下のようにして得た。
まず、哺乳一日目のSDラットの胎児を冷温麻酔後、心臓を取り出し、0.05%トリプシン−EDTAにて4℃で16時間インキュベートした。その後、トリプシンを除去し、1mg/mLとなるようにPBS(リン酸生理食塩水)にて希釈したコラゲナーゼII溶液にて37℃で15分間インキュベートした。残渣はさらにコラゲナーゼIIにて37℃で15分間インキュベートした後、70μm nyloncell strainer(BD-Falcon Biosciences社製)を通過させた後、遠心分離(1000rpm、2分間)してコラゲナーゼを除去した。得られた細胞は、FBS(ウシ胎児血清)含有DMEM(10容量% FBS、100unit/mL ペニシリン、及び100μg/mL ストレプトマイシンを含有するDMEM)に懸濁した後、non-coatディッシュに播種し、5容量%二酸化炭素(95容量%空気)、加湿雰囲気下で37℃、1時間培養した。次いで、ディッシュに接着しなかった細胞をNRCM細胞として回収し、ゼラチンコートしたディッシュ又はプレートに播種した。播種したNRCM細胞を、5容量%二酸化炭素(95容量%空気)、加湿雰囲気下で37℃、24時間培養した後、タウリン含有DMEM(5mM タウリン、100unit/mL ペニシリン、及び100μg/mL ストレプトマイシンを含有するDMEM)に培地交換して48時間培養したものを、各実験に用いた。
【0030】
Hela細胞は、FBS含有DMEM(10容量% FBS、100unit/mL ペニシリン、及び100μg/mL ストレプトマイシンを含有するDMEM)にて、5容量%二酸化炭素(95容量%空気)、加湿雰囲気下、37℃で培養した。トランスフェクションは、前日にFBS非含有DMEM(100unit/mL ペニシリン、及び100μg/mL ストレプトマイシンを含有するDMEM)に培地交換して一晩培養したHela細胞に対して、X-tremeGENE9 DNA transfection reagent(Roche社製)を用い、付属の説明書に従い、35mmディッシュあたり3μgのプラスミドを12時間遺伝子導入することにより行った。
【0031】
[Drp1−EGFP及びDrp1−Flagの発現用プラスミドの作製]
C末端側にEGFPを融合させたDrp1(Drp1−EGFP)の発現用プラスミド、及びC末端側にFlagを融合させたDrp1(Drp1−Flag)の発現用プラスミドは、次のようにして作製した。
まず、ラットの心臓よりRNeasy fibrous tissue mini kit(Qiagen社製)を用いて調製したRNAを鋳型として、Prime Script RT(タカラバイオ社製)を用いて調製した。得られたcDNAを鋳型とし、GFPタグ用FwプライマーとGFPタグ用Rvプライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物をBamHIとXhoIにより消化した後にpEGFP−C1ベクターにライゲーションすることにより、Drp1−EGFPの発現用プラスミドを得た。同様に、得られたcDNAを鋳型とし、GFPタグ用FwプライマーとGFPタグ用Rvプライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物をBamHIとXhoIにより消化した後にpcDNA3.1ベクターにライゲーションすることにより、Drp1−Flagの発現用プラスミドを得た。
ライゲーション産物は大腸菌DH5α株に形質転換してシングルコロニーを培養した後、LaboPass(北海道システム・サイエンス社製)によりプラスミドを得た。得られたプラスミドは、シークエンスによる配列の確認後、Qiagen plasmid Maxi kit(Qiagen社製)にて精製し、各実験に用いた。
【0032】
また、Drp1のC624S変異体(624番目のシステインをセリンに置換した変異体)のC末端側にEGFPを融合させたタンパク質(Drp1(C624S)−EGFP)の発現用プラスミドは、Drp1−EGFPの発現用プラスミドを鋳型とし、C624S用FwプライマーとC624S用RvプライマーとPCR試薬(製品名:KOD Fx、東洋紡社製)を用いてPCRを行い、得られたPCR産物をBamHIとXhoIにより消化した後にpEGFP−C1ベクターにライゲーションした後、Drp1−EGFPの発現用プラスミドと同様にして調製した。
【0033】
【表1】
【0034】
[MTTアッセイ]
MTTアッセイは、ミトコンドリアのNADHデヒドロゲナーゼ活性を調べるアッセイである。
具体的には、96ウェルプレートに培養したNRCM細胞に、MTT溶液(MTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-triphenyltetrazolium bromide)を5mg/mLとなるようにPBSに溶解させた溶液)を、MTTの最終濃度が0.125mg/mLとなるように添加し、5容量%二酸化炭素(95容量%空気)、加湿雰囲気下で37℃、1時間培養した。培養後、培地を除去し、100μLのDMSOを添加して室温で30分間穏やかに振とうさせることにより、産生されたホルマザンを溶解させた。その後、595nmの吸光度(Abs595)をプレートリーダー(製品名:SpectraMax i3 、Molecular devices社製)を用いて測定した。
【0035】
[参考例1]
NRCM細胞において、低酸素刺激によりミトコンドリアの分裂が誘発され、再酸素化により細胞老化が誘導されることを確認した。具体的には、無刺激のNRCM細胞と、低酸素刺激後のNRCM細胞と、低酸素刺激後再酸素化したNRCM細胞について、ミトコンドリアの形態と老化した細胞の割合(%)と、細胞内活性酸素量(相対値)と、細胞内ATP濃度(μM/ウェル)を調べた。
【0036】
<低酸素刺激と再酸素化>
NRCM細胞の低酸素刺激は、NRCM細胞を、1容量%酸素及び5容量%二酸化炭素(94容量%窒素)、加湿雰囲気下で37℃、16時間培養することにより行った。再酸素化は、低酸素刺激後のNRCM細胞を、5容量%二酸化炭素(95容量%空気)、加湿雰囲気下で37℃、24時間培養することにより行った。
【0037】
<ミトコンドリアの形態>
ミトコンドリア形態は、各細胞のミトコンドリアをMitoTracker Green FM reagent(Life technologies社製)を用いて染色した後、共焦点レーザ走査型顕微鏡(製品名:FV10i、オリンパス社製、倍率:×300)により観察して解析した。ミトコンドリア染色は、より詳細には、まず、35mmガラスボトムディッシュに播種した細胞を、MitoTrakcer Green(0.5μM)を、5容量%二酸化炭素(95容量%空気)、加湿雰囲気下で37℃、10分間インキュベートして反応させた。反応後、PBSで2回洗浄してMitotTackerを除去した後、フェノールレッドフリーのDMEMに交換した。
【0038】
各細胞のミトコンドリアの形態の形態を、小胞状(vesicle)、管状(tubule)、小胞状と管状の中間的な構造(intermediate)に分け、それぞれの存在比を求めた結果を
図1に示す。
図1中、「N」は無刺激の細胞の結果を、「H」は低酸素刺激後の細胞の結果を、「H/R」は低酸素刺激後に再酸素化した細胞の結果を、それぞれ示す。小胞状のミトコンドリアは、低酸素刺激により増大したが、再酸素後には減少していた。
【0039】
<SA−β−gal活性測定>
老化に関係する酸性のβ−ガラクトシダーゼ(SA−β−Gal)活性を測定し、老化した細胞の割合を測定した。SA−β−Gal活性は、senescenceβ−Galactosidase Staining Kit(Cell signaling technology社製)を用いて測定した。
具体的には、まず、35mmディッシュに60%コンフルエントで播種したNRCM細胞を低酸素刺激後に再酸素化した後、PBSで1回洗浄した。対照として、無刺激のNRCM細胞も、PBSで1回洗浄した。また、Drp1に対する選択的阻害物質であり、ミトコンドリア分裂阻害剤であるMdivi−1(CAS No:338967-87-6、Sigma社製)をDMSOに溶解させた溶液として最終濃度が10μMとなるように添加した培養培地を用いた以外は同様にして、無刺激のNRCM細胞及び低酸素刺激後に再酸素化したNRCM細胞も調製した。
次いで、各細胞を、キットに含まれているFixative Solutionにて室温で15分間処理して固定した。固定された細胞を、PBSで1回洗浄後、キットに含まれているβ-galactosidase staining solutionを加え、37℃で一晩インキュベートした。インキュベート後の細胞を、カラーCCDカメラ(Nikon digital camera DXM1200F)付きの正立顕微鏡(製品名:Eclipse 80i、ニコン社製)により観察し、SA−β−Gal活性がポジティブな細胞(染色された細胞)の割合(%)を調べた。
【0040】
SA−β−Gal活性がポジティブな細胞の割合(%)の測定結果を
図2に示す。
図2中、「H/R」欄が「(−)」は無刺激のNRCM細胞の結果を、「(+)」は低酸素刺激後、再酸素化したNRCM細胞の結果を、それぞれ示す。また、
図2中、「Midivi−1」欄が「(−)」はMidivi−1無添加のNRCM細胞の結果を、「(+)」はMidivi−1添加のNRCM細胞の結果を、それぞれ示す。Midivi−1無添加の場合、無刺激の細胞よりも低酸素刺激後、再酸素化した細胞のほうがSA−β−Gal活性がポジティブな細胞の割合が増大しており、低酸素刺激後、再酸素化することにより、細胞老化が誘発されることが確認された。一方で、Midivi−1添加の細胞では、低酸素刺激後、再酸素化した細胞におけるSA−β−Gal活性がポジティブな細胞の割合が低く、Midivi−1により、低酸素刺激後、再酸素化することにより誘発される細胞老化が抑制されることがわかった。
【0041】
<ミトコンドリアの活性酸素量の測定>
ミトコンドリアからの活性酸素産生量は、MitoSOX Red (Life technologies社製)を用いて測定した。
具体的には、まず、35mmガラスボトムディッシュに播種したNRCM細胞を、低酸素刺激した後、又は低酸素刺激後に再酸素化した後、PBSで1回洗浄した。対照として、無刺激のNRCM細胞も、PBSで1回洗浄した。また、培養培地にDMSOに溶解させたMdivi−1(Sigma社製)を最終濃度が10μMとなるように添加した以外は同様にして、無刺激のNRCM細胞、低酸素刺激したNRCM細胞、及び低酸素刺激後に再酸素化したNRCM細胞も調製した。
次いで、各細胞に、MitoSOX(5μM)を添加し、5容量%二酸化炭素(95容量%空気)、加湿雰囲気下で37℃、10分間インキュベートして反応させた。反応後、PBSで2回洗浄してMitoSOXを除去した後、フェノールレッドフリーのDMEMに交換した。染色された細胞を、共焦点レーザ走査型顕微鏡(製品名:FV10i、オリンパス社製、倍率:×300)により観察して、各細胞について、細胞あたりの蛍光強度を測定し、無刺激かつMdivi−1無添加の細胞の細胞あたりの蛍光強度を100%とした相対値を、ミトコンドリアの活性酸素量の相対値(%)として算出した。
【0042】
ミトコンドリアの活性酸素量の相対値(%)の算出結果を
図3に示す。
図3中、「N」、「H」、「H/R」は
図2と同じ意味であり、
図3中、「Midivi−1」欄が「(−)」はMidivi−1無添加のNRCM細胞の結果を、「(+)」はMidivi−1添加のNRCM細胞の結果を、それぞれ示す。
図3に示すように、低酸素刺激及びその後の再酸素化によりミトコンドリアの活性酸素量は増大したが、Midivi−1処理により、低酸素刺激後及びその後の再酸素化におけるミトコンドリアの活性酸素量の増大は抑制された。
【0043】
<細胞内ATP量の測定>
細胞内ATP量は、Luciferase assay (和光純薬工業社製) を用いて測定した。
具体的には、まず、96ウェルプレートに播種したNRCM細胞を、低酸素刺激した後、又は低酸素刺激後に再酸素化した後、PBSで1回洗浄した。対照として、無刺激のNRCM細胞も、PBSで1回洗浄した。また、培養培地にDMSOに溶解させたMdivi−1(Sigma社製)を最終濃度が10μMとなるように添加した以外は同様にして、無刺激のNRCM細胞、低酸素刺激したNRCM細胞、及び低酸素刺激後に再酸素化したNRCM細胞も調製した。
次いで、培地を除去してフレッシュなDMEM(100μL)に交換した後、ただちにLuciferase reagentを20μL添加し、10分間室温でインキュベートした。インキュベート後の細胞の発光を、SpectraMax i3 (Molecular devices社製) で測定し、発光強度からウェルあたりのATP濃度を求めた。発光強度からのATP濃度の算出には、ATPを最終濃度0、0.01、0.1、1、又は10μMとなるように含有するDMEMの発光強度を同様にして求め、得られた発光強度とATP濃度の関係から求めた検量線を用いた。
ウェルあたりのATP消費量は、細胞に10μMのcarbonyl cyanide m-chlorophenyl hydrazine (CCCP)を添加して5分間室温でインキュベートすることにより、ミトコンドリアからのATP合成を阻害する処理を行った後、Luciferase assayに供し、細胞内の残存ATP量を測定した。
【0044】
各細胞の細胞内ATP量(ウェルあたりのATP濃度)の測定結果を
図4に示す。
図4中、「N」、「H」、「H/R」は
図2と同じ意味であり、「control」はMidivi−1無添加のNRCM細胞の結果を、「Midivi−1」はMidivi−1添加のNRCM細胞の結果を、それぞれ示す。低酸素刺激後再酸素化により細胞内ATP量は増大するが、この増大傾向は、Midivi−1処理により抑制された。
【0045】
[実施例1]
Drp1−EGFPを発現させたNRCM細胞に、各種カルシウム拮抗剤の存在下で低酸素刺激及び再酸素化処理を行い、細胞内ATP量、ミトコンドリアの形態、老化した細胞の割合(%)、及びDrp1の局在を調べた。
具体的には、NRCM細胞に、Drp1−EGFPの発現用プラスミドをトランスフェクションした後、シルニジピン(CIL)、アムロジピン(Aml)、ベラパミル(Ver)、ジルチアゼム(Dil)のDMSO溶液又はω−コノトキシン(ω−Ctx)のリン酸緩衝液(PBS)を最終濃度が10μMとなるように添加した培養培地にて低酸素刺激及び再酸素化を行い、各処理後の細胞の細胞内ATP量、ミトコンドリアの形態、老化した細胞の割合(%)、及びDrp1の局在を調べた。対照として、等量のDMSOのみを添加した培養培地で培養したNRCM細胞についても同様に測定した。低酸素刺激及び再酸素化処理は参考例1と同様にして行い、細胞内ATP量、ミトコンドリアの形態、及び老化した細胞の割合(%)は、参考例1と同様にして測定した。Drp1の局在は、融合しているEGFPの蛍光を共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察して調べた。
【0046】
この結果、シルニジピン以外のカルシウム拮抗剤の存在下で低酸素刺激及び再酸素化を行った細胞では、対照(DMSOのみを添加した培養培地の細胞)と同様に、低酸素刺激及び再酸素化により細胞内ATP量が増大していたが、シルニジピン存在下で低酸素刺激及び再酸素化を行った細胞では、対照に比べて再酸素化後の細胞内ATP量が明らかに低かった。これらの結果から、シルニジピンにより、低酸素刺激及び再酸素化による細胞内ATP量の増大が抑制されるが、この抑制効果は、カルシウム拮抗作用とは関係のない作用であることが示唆された。
【0047】
対照の細胞(DMSOのみを添加した培養培地の細胞)とシルニジピン存在下で低酸素刺激及び再酸素化を行った細胞のミトコンドリアの形態の形態を、参考例1と同様に小胞状、管状、小胞状と管状の中間的な構造に分け、それぞれの存在比を求めた。結果を
図5に示す。
図5中、「N」、「H」、及び「H/R」は
図1と同じ意味であり、「control」が対照の細胞の結果を、「CIL」がシルニジピン存在下で低酸素刺激及び再酸素化を行った細胞の結果を、それぞれ示す。シルニジピンにより、低酸素刺激による小胞状のミトコンドリアはほとんど増えておらず、低酸素刺激によるミトコンドリアの分裂が抑制されることが示された。
【0048】
シルニジピン存在下又は非存在下で低酸素刺激及び再酸素化した細胞のSA−β−Gal活性がポジティブな細胞の割合(%)の測定結果を
図6に示す。
図6中、「H/R」欄が「(−)」は無刺激のNRCM細胞の結果を、「(+)」は低酸素刺激後、再酸素化したNRCM細胞の結果を、それぞれ示す。また、
図6中、「CIL」欄が「(−)」は対照のNRCM細胞(DMSOのみを添加した培養培地の細胞)の結果を、「(+)」はシルニジピンを添加したNRCM細胞の結果を、それぞれ示す。対照の細胞では、低酸素刺激及び再酸素化によりSA−β−Gal活性がポジティブな細胞の割合(%)は増大するが、シルニジピン存在下の細胞では、低酸素刺激及び再酸素化によるSA−β−Gal活性がポジティブな細胞の増大が抑制されていた。すなわち、シルニジピンにより、低酸素刺激及び再酸素化による細胞老化が抑制されることが示された。
【0049】
シルニジピン存在下又は非存在下で低酸素刺激した細胞における、Drp1とミトコンドリアの局在を示した顕微鏡写真を
図7に示す。
図7中、「N」は無刺激の細胞の結果を、「H(Control)」は対照の細胞の低酸素刺激後の結果を、「H(CIL)」はシルニジピンを添加した細胞の低酸素刺激後の結果を、それぞれ示す。無刺激の細胞では、シルニジピン添加の細胞におけるDrp1−EGFPとミトコンドリアの細胞内局在は、対照の細胞と特に差はなく、Drp1−EGFPは細胞質にブロードに存在していた。低酸素刺激後の細胞では、対照の細胞では、Drp1−EGFPはミトコンドリアの小胞近傍に小胞状に局在していたのに対して、シルニジピンを添加した細胞のDrp1−EGFPは、小胞状に局在するものが少なく、また、ミトコンドリアとの共局在も観察されなかった。
【0050】
[実施例2]
C57BL/6Jマウスから作製したマウス心筋梗塞モデル(MI群)と対照とするsham群に対してシルニジピンを投与し、心筋梗塞後の心臓に対するシルニジピンの影響を調べた。
【0051】
<シルニジピンの投与>
シルニジピンの投与は、DMSOとPEG300を容量比3:7で混合した混合溶媒に溶解させた状態で、浸透圧ポンプ(製品名:model2004、Alzet社製)を用いて、心筋梗塞後(LADの結紮手術後)24時間後より持続投与した。シルニジピンの投与量が30mg/kg/dayとなるように投与したマウスのうち、MI群のマウスに投与したものをCIL30−MI群、sham群のマウスに投与したものをCIL30−sham群とした。同様に、シルニジピンの投与量が100mg/kg/dayとなるように投与したマウスのうち、MI群のマウスに投与したものをCIL100−MI群、sham群のマウスに投与したものをCIL100−sham群とした。さらに、対照として、DMSOとPEG300を容量比3:7で混合した混合溶媒のみをMI群及びsham群に投与したマウスを、それぞれ、Vehicle−MI群及びVehicle−sham群とした。
【0052】
図8に、Vehicle−MI群、CIL30−MI群、及びCIL100−MI群の生存率(%)の経時的変化を示す。この結果、CIL30−MI群及びCIL100−MI群の生存率は、Vehicle−MI群に比べて明らかに高く、また、CIL30−MI群よりもCIL100−MI群の生存率のほうが高かった。これらの結果から、シルニジピンは、心筋梗塞後の突然死を抑制し得ることが示唆された。
【0053】
図9に、心筋梗塞後(LADの結紮手術後)4週間目の各群のマウスの体重当たりの心臓重量(mg/g)の測定結果を示す。心臓重量は、心臓超音波検査を常法に従って行い、測定した。
図9中、「CIL」欄が「(−)」はVehicle群の結果を、「30」はCIL30群の結果を、「100」はCIL100群の結果を、それぞれ示す。この結果、sham群では、心重量に対するシルニジピンの投与の有無や投与量の影響は観察されなかったが、MI群では、心重量の増大がシルニジピンの投与により抑制されていた。これらの結果から、シルニジピンは、心筋梗塞後の心重量の増大を抑制し得ることが示唆された。
【0054】
<線維化及び心筋細胞面積の観察>
心筋梗塞後(LADの結紮手術後)4週間目の各マウスの心臓を1−6 picrosirius red染色及びHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色し、心筋の繊維化及び心筋細胞面積を、Nishidaらの方法(The EMBO Journal (2008) vol.27, p.3104−3115)に準じて調べた。
まず、マウスの心臓をホルマリン処理により固定した後、心室中央の部位を切り出し、パラフィンにより包埋した心室標本を作製した。次いで、この心室標本を、厚さ3μmに薄切し、キシレン、エタノールによりパラフィンを除去した。パラフィン除去後の心室標本を、ヘマトキシリン液又はピクリン酸飽和溶液を用いて調製した0.1% Direct Red 80溶液に浸漬させて60分間処置した後、さらに1% 塩酸アルコールにより分別し、エタノール、キシレンにより脱水し、封入した。封入された標本、特に非梗塞領域を、顕微鏡(製品名:BZ-9000、Keyence社製)により観察した。コラーゲン含量の比率は、染色されて染まった面積を心臓横断総面積で除したものを百分率で表示したものとして算出した。
【0055】
1−6 picrosirius red染色像及びHE染色像の結果から、CSA(cross sectional area; 心筋細胞面積(μm
2))の測定結果を
図10に、CVF(Collagen volume fraction; コラーゲン陽性領域)(%)の測定結果を
図11に、それぞれ示す。この結果、CSAとCVFは、共に心筋梗塞により増大するが、この増大がシルニジピンの投与により抑制されていた。これらの結果から、シルニジピンは、心筋梗塞後の左室リモデリングを濃度依存的に抑制し得ることが示唆された。
【0056】
<心臓切片におけるSA−β−gal活性測定>
心臓切片におけるSA−β−Gal活性を、Shlushらの方法(BMC Cell Biology,2011,vol.12,16)に準じて測定し、老化した細胞の割合を測定した。
具体的には、まず、心筋梗塞後(LADの結紮手術後)4週間目に心臓を摘出した。摘出された心臓は、PBS中で洗った後、4% PFA含有PBSで固定した後、スクロース置換を行い、O.C.T. compound(Sakura社製)を用いて凍結包埋した。凍結包埋標本からLEICA CM1100を用いて10μmに薄切した心臓切片は、Senescence β−Galactosidase Staining Kit(Cell signaling technology社製)のプロトコールを改変し、pH4.0中のβ−Galactosidase溶液中で37℃、一晩インキュベートすることにより反応を行った。インキュベート後の細胞をPBSで洗浄した後、VECTASHIELD Mounting Mediumで封入した。この封入された標本を、カラーCCDカメラ(Nikon digital camera DXM1200F)付きの正立顕微鏡(製品名:Eclipse 80i、ニコン社製)により観察し、[SA−β−Gal活性がポジティブな領域の面積(β−Galactosidase陽性面積、青色発色)]/[全体の組織切片面積]×100(%)で解析及び定量を行った。
【0057】
図12に、各群のマウスの心筋梗塞後の非梗塞領域心筋におけるSA−β−Gal活性がポジティブな組織の割合(面積比)(%)の測定結果を示した。
図12中、「CIL」欄が「(−)」はVehicle群の結果を、「(+)」はCIL100群の結果を、それぞれ示す。また、「MI」欄が「(−)」はsham群の結果を、「(+)」はMI群の結果を、それぞれ示す。この結果、Vehicle群では、MI群ではsham群よりも明らかにSA−β−Gal活性がポジティブな組織が増大しており、心筋梗塞後に非梗塞領域心筋において老化する細胞が増大することが確認された。一方で、CIL100−MI群では、SA−β−Gal活性がポジティブな組織はあまり増大していなかった。これらの結果から、シルニジピンは、心筋梗塞後の非梗塞領域心筋における細胞老化を抑制し得ることが示唆された。
【0058】
<Drp1の二量体量の測定>
心筋梗塞後(LADの結紮手術後)1週目及び4週目の各マウスの心臓の左室の心筋梗塞周辺領域を、200μLのGTP-binding buffer(50 mM HEPES (pH 7.5),1 mM EGTA,1.5 mM MgCl
2,150 mM NaCl,10%(v/v) Glycerol,1%(v/v) TritonX-100,及びprotease inhibitor cocktail (ナカライテスク社製))中でポリトロンホモジナイザーにより破砕し、遠心分離処理後(9000×g、10分間、4℃)、上清を回収した。各サンプル(回収された上清)は、Bradford assayによりタンパク質濃度を測定した。
各サンプル中のタンパク質は、SDS−PAGEにより分離した後、2mA/cm
2で電気的にPVDF膜に転写した。タンパク質を転写したPVDF膜は、ウエスタンブロッティングを行う前に、1%BSA溶液にて1時間ブロッキングした。ブロッキング後のPVDF膜を、一次抗体として、抗Drp1抗体又は抗GAPDH抗体(いずれも、Santa Cruz Biotechnology社製)溶液でインキュベートし、次いで二次抗体として、抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)抗体でインキュベートした後、ECLシステム(ナカライテスク社製)を用いて、Drp1及びGAPDHのバンドを検出した。
【0059】
図13に、各群のマウスの左室の心筋梗塞周辺領域のウエスタンブロッティングによりDrp1を検出した結果を示す。
図13中、「sham」はsham群の結果を、「MI」はMI群の結果を、それぞれ示す。また、「Vehicle」がVehicle群の結果を、「Cilnidipine」はCIL100群の結果を、それぞれ示す。sham群では、シルニジピンの投与の有無にかかわらず、Drp1の二量体は検出されなかった。一方で、MI群では、Drp1の二量体が検出されたが、Vehicle群よりもCIL100群のほうが、Drp1の二量体量が明らかに少なかった。この結果から、シルニジピンは、Drp1の二量体化を抑制することが分かった。
【0060】
<FS(左室内径短縮率)の測定>
マウスに心筋梗塞処置前から処置後4週間までの間、1週間ごとに心臓超音波検査を常法に従って行い、FS(%)を測定した(Nature Chemical Biology,vol.8,p.714-724 (2012))。
【0061】
図14に、各群のマウスのFSの測定結果を示した。
図14中、「CIL」欄が「(−)」はVehicle群の結果を、「30」はCIL30群の結果を、「100」はCIL100群の結果を、それぞれ示す。この結果、心筋梗塞により低下したFSが、シルニジピン投与により回復することがわかった。
【0062】
[実施例3]
NRCM細胞を、シルニジピン又はMdivi−1の存在下で培養した場合の細胞老化を調べた。
具体的には、最終濃度が1μMとなるようにシルニジピンを添加した培地と、最終濃度が10μMとなるようにMdivi−1を添加した培地で、それぞれNRCM細胞を72時間培養した後、参考例1と同様にしてSA−β−Gal活性を測定した。対照として、シルニジピンとMdivi−1のいずれも添加していない培地でも同様にNRCM細胞を培養し、SA−β−Gal活性を測定した。
【0063】
図15に、各細胞のSA−β−Gal活性がポジティブな細胞の割合(%)の測定結果を示した。この結果、Mdivi−1存在下で培養した場合には、SA−β−Gal活性がポジティブな細胞が増大していたが、シルニジピン存在下で培養した場合には、無添加の場合よりもSA−β−Gal活性がポジティブな細胞の割合が低下しており、Mdivi−1とは異なり、シルニジピンは、細胞老化を抑制し得ることが示唆された。
【0064】
[参考例2]
10ppmのメチル水銀を含む水を摂取させたマウスに対して横大動脈狭窄(TAC)処置を行い、体重変化(%)、生存率(%)、体重当たりの心臓重量(mg/g)を調べた。
まず、5週齢マウス(C57BL/6J(SLC))22匹に、10ppmのメチル水銀を含む飲水の投与を開始した(MeHg群)。メチル水銀を含む飲水はマウスに自由に摂取させた。同じく5週齢マウス(C57BL/6J(SLC))23匹には、メチル水銀を含まない飲水を自由摂取させた(Vehicle群)。
メチル水銀摂取開始から10日後のマウスに開胸手術を行い、MeHg群の14匹とVehicle群の15匹にTAC処置を行い(TAC群)、MeHg群の8匹とVehicle群の8匹にTAC処置を行わずそのまま縫合した(sham群)。
TAC処置から4週間マウスを飼育し、体重と生存率の変化を調べた。また、TAC処置から1週間目、2週間目、3週間目、及び4週間目に心臓超音波検査を常法に従って行い、心臓重量を測定した。なお、メチル水銀を含む飲水の摂取は、4週間目まで継続した。
【0065】
図16に、各群のマウスのTAC処置時点からの生存率(%)の経時的変化を示した。この結果、各群とも体重には特に差がなかった。一方で、生存率は、MeHg−sham群はVehicle−sham群と同様に、全てのマウスが最後まで生存していたが、MeHg−TAC群は最終的な生存率が60%程度しかなかった。これらの結果から、健常な個体には細胞毒性を誘発しない低濃度のメチル水銀の摂取であっても、TACによる心機能悪化を亢進する作用があることがわかった。
【0066】
なお、TAC処置から1週間目及び4週間目のマウスの体重当たりの心臓重量(mg/g)を調べたところ、MeHg−TAC群とVehicle−TAC群はいずれも心臓重量が増大しており、MeHg−TAC群のほうがVehicle−TAC群よりもより心臓重量が増大していた。
【0067】
[参考例3]
NRCM細胞を、Midivi−1の存在下及び非存在下において、細胞毒性を誘発しない低濃度のメチル水銀(0.1μM)に暴露し、ATP産生量や伸展ストレス感受性への影響を調べた。
具体的には、96ウェルプレートにNRCM細胞を播種し、0.1μMのメチル水銀を含有する培養培地、10μMのMidivi−1を含有する培養培地、0.1μMのメチル水銀と10μMのMidivi−1を含有する培養培地、又はメチル水銀とMidivi−1のいずれも含有しない培養培地中で、5容量%二酸化炭素(95容量%空気)、加湿雰囲気下で37℃、24時間培養した。
【0068】
この培養後の細胞について、参考例1と同様にして、ウェルあたりのATP濃度(μM)を求め、対照の細胞(メチル水銀とMidivi−1のいずれも含有しない培養培地で培養した細胞)のウェルあたりのATP濃度を100%とした相対値を算出した。各細胞の細胞内ATP量は、メチル水銀の暴露により低下するが、このメチル水銀によるATP産生量低減は、Midivi−1により回復できることがわかった。
【0069】
また、各培養培地で培養した後の細胞を細胞伸展装置にかけて20%伸展させた後、MTTアッセイを行った。各細胞の595nmの吸光度(MTT値)から、対照の細胞(メチル水銀とMidivi−1のいずれも含有しない培養培地で培養した細胞)のAbs595を100とした相対値を算出した。この結果、メチル水銀に暴露した細胞では、伸展ストレス後にMTT値が低下し、死細胞が増えていたが、Midivi−1の存在下でメチル水銀に暴露した細胞では、伸展ストレス後でもMTT値の低下は観察されなかった。これらの結果から、有機水銀は伸展ストレス感受性を増大させるが、Midivi−1は、有機水銀による効果を抑制し、伸展ストレスへの適応性を高めることが示唆された。
【0070】
[実施例4]
メチル水銀による心筋細胞毒性を軽減する既存薬剤を探索した。使用した薬剤は、シルニジピン(1μM)、Mdivi−1(10μM)、DIDS(4,4'-Diisothiocyano-2,2'-stilbenedisulfonic acid)(100μM)、ROX(1μM)、ジアゾキシド(Diazoxide)(100μM)、ロッテレリン(Rottelerin)(5μM)、AICAR(5-amino-1-b-D-ribofuranosyl-imidazole-4-carboxamide)(500μM)、アモルジピン(Amlodipine)(1μM)、及びET−1(0.1μM)である。
具体的には、96ウェルプレートにNRCM細胞を播種し、24時間培養した後、タウリン含有DMEM(5mM タウリン、100unit/mL ペニシリン、及び100μg/mL ストレプトマイシンを含有するDMEM)に培地を交換し、さらに24時間培養した。培養後、各薬剤を所定の濃度になるように培地に添加し、1時間培養した。培養後、培地を、0、0.5、又は1μMのメチル水銀を含有するDMEM培地に交換し、24時間培養した後、MTTアッセイを行い、各細胞のAbs595を測定した。各細胞のAbs595の測定値に基づき、薬剤を添加せず、メチル水銀も添加しなかった培地で培養した細胞の生存率を100%とした場合の各細胞の生存率を算出した。算出結果を
図17に示す。この結果、シルニジピン、Mdivi−1、DIDS、ジアゾキシド、及びAICARが、メチル水銀の毒性を軽減させた。
【0071】
[実施例5]
糖尿病モデルマウスにシルニジピンを投与し、血糖値に対する影響を調べた。
まず、48匹のC57BL/6J(SLC)マウスを12匹ずつ4群に分け、このうちの2群(24匹)のマウスに対して、DMSOとPEG300を容量比3:7で混合した混合溶媒に溶解させた状態のストレプトゾトシン(STZ)を200mg/kgとなるように腹腔内投与し、インシュリン依存性糖尿病モデルマウスであるSTZマウスを作製した。残りの2群(24匹)に対しては、対照として、DMSOとPEG300を容量比3:7で混合した混合溶媒のみを投与した(コントロールマウス)。
【0072】
STZの投与から18日経過後、シルニジピンを含ませた浸透圧ポンプを腹腔内に埋め込み、持続投与を開始した。2群のSTZマウスのうちの1群と2群のコントロールマウスのうちの1群に対して、シルニジピンの投与量が5mg/kg/dayとなるように投与し、それぞれSTZ+cil群、Veh+cil群とした。さらに、対照として、残りの1群のSTZマウスと残りの1群のコントロールマウスに対しては、DMSOとPEG300を容量比3:7で混合した混合溶媒のみを投与し、それぞれ、STZ群及びVeh群とした。
【0073】
STZ投与開始時点から3〜4日ごとに、各マウスの随時血糖値及び空腹時血糖値を測定した。コントロールマウス(Veh群及びVeh+cil群)では、血糖値に対するシルニジピンの投与の影響は観察されなかった。一方で、STZマウスでは、STZの投与から18日経過後、シルニジピン投与前の時点における随時血糖値及び空腹時血糖値は、STZ+veh群及びSTZ+cil群において差異は観察されなかったが、シルニジピン投与開始から10日後から、STZ+cil群において血糖値が低下する傾向が観察された。シルニジピン投与開始14日目(STZ投与後32日目)のSTZ群及びSTZ+cil群の随時血糖値及び空腹時血糖値の測定結果を
図18に示す。これらの結果から、シルニジピンは、インシュリン依存性高血糖状態を軽減し得ることが示唆された。
【0074】
[実施例6]
アルツハイマー病患者では、アミロイドβタンパク質を腫瘍成分とする沈着物が多く観察されており、アミロイドβタンパク質の蓄積は、アルツハイマー病の発症に関与すると考えられている。また、多量のアミロイドβタンパク質が細胞内に取り込まれると、小胞体ストレスが強くなり、アポトーシスが誘導される。そこで、ラットの褐色細胞腫由来の培養細胞株PC−12細胞を用いて、アミロイドβ負荷による細胞障害に対するシルニジピンの影響を調べた。アミロイドβタンパク質としては、Amyloid β
25−35(シグマ・アルドリッチ社製、カタログ番号:A4559)を用いた。
【0075】
未分化のPC−12細胞を培養するための培養用培地としては、D−MEM(High Glucose)(和光純薬社製)に、5%FBSと5%HS(ウマ血清)と1%ペニシリン−ストレプトマイシン(ナカライ社製)とを含有させた培地を用いた。また、PC−12にアミロイドβ負荷をかける際の培地としては、血清不含培地(D−MEM(High Glucose)(和光純薬社製)に、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(ナカライ社製)を含有させた培地)を用いた。
【0076】
まず、24ウェルプレートに、最終濃度0.001%のPoly−L−lysine(PLL)溶液を注入し、37℃で30分間静置した後、PBSで2回洗浄し、風乾させることにより、ウェル内壁をPLLでコートした。PLLコートした24ウェルプレートに、未分化のPC−12細胞を1×10
5個/ウェル(500μL/ウェル)となるように播種し、前記培養用培地で37℃、24時間培養した。
次いで、各ウェル内の細胞を、血清不含培地で1回洗浄した後、1ウェル当たり500μLのシルニジピン(最終濃度1μM)とAmyloid β
25−35(最終濃度10μM)を含有させた血清不含培地、シルニジピン(最終濃度1μM)のみを含有させた血清不含培地、Amyloid β
25−35(最終濃度10μM)のみを含有させた血清不含培地、又は血清不含培地を添加し、37℃で24時間培養した。その後、各ウェルから培地を除去した後、MTT溶液(MTTを5mg/mLとなるようにPBSに溶解させた溶液)を1ウェル当たり12.5μLずつ添加し、軽く振とうさせた後、37℃で1時間インキュベートした。その後、各ウェルからMTT溶液を除去した後、DMSOを1ウェル当たり500μLずつ添加し、しっかりと振とうさせることにより、産生されたホルマザンを溶解させた。その後、各ウェル中の溶液100μLをそれぞれ96ウェルプレートのウェルに分注し、この96ウェルプレートをプレートリーダー(製品名:SpectraMax i3 、Molecular devices社製)に設置し、595nmの吸光度(Abs595)を測定した。
【0077】
Amyloid β
25−35を含有していない血清不含培地で培養した細胞のAbs595に対する、Amyloid β
25−35を含有させた血清不含培地で培養した細胞のAbs595の割合(%)を、細胞の生存率(%)として算出した。算出結果を
図19に示す。この結果、シルニジピン存在下でアミロイドβ負荷をかけた細胞の生存率(図中、「Cil(+)」)は、シルニジピン非存在下でアミロイドβ負荷をかけた細胞の生存率(図中、「Cil(−)」)よりも高く、シルニジピンによりアミロイドβ負荷によるアポトーシスの誘導が抑制された。これらの結果から、シルニジピンは、細胞に対するアミロイドβ負荷を軽減させることが明らかであり、アルツハイマー病の治療に有効であることが期待できる。