(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記化学式1中、Mは、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)からなる群から選択される1種または2種以上の金属元素であることを特徴とする、請求項1記載の非水電解質二次電池用正極。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0028】
<2.非水電解質二次電池の構成>
以下では、
図1を参照して、上述した本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池10の具体的な構成について説明を行う。
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の構成を説明する説明図である。
【0029】
図1に示すように、非水電解質二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ(separator)層40と、を備える。なお、非水電解質二次電池10の形態は、特に限定されない。例えば、非水電解質二次電池10は、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、ボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0030】
正極20は、正極集電体21と、被覆層21aと、正極活物質層22とを備える。正極集電体21は、例えばアルミニウム(aluminium)等で構成される。被覆層21aは、正極集電体21の一方の表面を覆う。なお、被覆層21aは、正極集電体21と正極活物質層22との界面に配置される。したがって、例えば正極集電体21の両面に正極活物質層22が配置される場合(例えば、非水電解質二次電池10が巻回型二次電池となる場合)には、正極集電体21の両面に被覆層21aが配置されることが好ましい。正極集電体21からの金属イオンの溶出をより確実に抑制するためである。
【0031】
被覆層21aは、黒鉛を含む。後述する実施例で示されるように、正極集電体21を黒鉛で覆うことで、サイクル寿命が大幅に改善された。したがって、黒鉛により正極集電体21から金属イオンの溶出が抑制されたと推定される。
【0032】
ここで、本実施形態で使用可能な黒鉛は特に制限されない。黒鉛の例としては、例えば天然黒鉛や人造黒鉛、天然黒鉛や人造黒鉛をなるべく割らずに結合力の弱い層間を剥がしていくような粉砕制御を行うことにより生成した燐片状黒鉛等が挙げられる。黒鉛はカーボンブラックなど他の導電性材料と比較して、比表面積が小さく、被覆用の材料としては、スラリー性状を良好に保てるといった利点を持つ。そのため、集電体上への塗布性が良好で欠陥を生じにくい。
【0033】
被覆層21aは、本実施形態の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば結着剤を含んでいても良い。このような結着剤としては、例えば、正極活物質層22で使用される結着剤等が挙げられる。
【0034】
被覆層21aの厚さは特に制限されないが、例えば、0.5〜2μmであってもよい。被覆層21aの厚さが0.5μm未満となる場合、導電助剤と正極集電体21とが接触する機会や面積が減るので、抵抗値が十分に下がらない可能性がある。また、被覆層21aのコーティングが不完全になる可能性があるため、本来の目的である正極集電体21を高充電圧から保護するという役割が損なわれる可能性がある。逆に被覆層21aの厚さが2μmを超えた場合、抵抗値は厚みに比例して上がるためやはり抵抗値が下がらなくなる可能性がある。また、黒鉛の面密度は、特に制限されないが、0.05〜0.3mg/cm
2程度であることが好ましい。
【0035】
被覆層21aは、例えば、イオン交換水に被覆層21aの材料を分散させたスラリー(slurry)を正極集電体21上に塗工し、乾燥することで形成される。正極活物質層を有機溶媒に分散させたスラリーを塗工する観点から(一度乾燥させた被覆層の上にさらに有機溶媒が触れると、被覆層が剥離する可能性があるため)、被覆層はイオン交換水に分散させた材料を塗工することが望ましい。
【0036】
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質及び導電助剤を含み、結着剤をさらに含んでいてもよい。正極活物質は、以下の化学式1で示される組成を有し、スピネル型結晶構造を有する。
Li
xNi
yMn
2−y−zM
zO
4 (1)
化学式1中、Mは、特定遷移金属及びアルミニウムから選択される何れか1種以上の金属元素である。特定遷移金属は、ニッケル及びマンガンを除く遷移金属である。x、y、zは、0.02≦x≦1.10、0.25≦y≦0.6、0.0<z≦0.10の範囲内の値である。
【0037】
化学式1中、Mは、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)からなる群から選択される1種または2種以上の金属元素であることが好ましい。
【0038】
また、化学式1中、yは、0.40≦y<0.60の範囲内の値であることが好ましい。また、zは0であってもよい。
【0039】
化学式1で示される正極活物質は、スピネル型結晶構造を有するので、非水電解質二次電池10を高電圧下で充放電することができる。例えば、充電のカットオフ電圧の上限値を4.5V以上、好ましくは4.9V程度とすることができる。ただし、非水電解質二次電池10を高温、高電圧下で充放電した場合、正極集電体21から金属イオンが溶出する可能性がある。そこで、本実施形態では、正極集電体21を被覆層21aで覆うことで、金属イオンの溶出を抑制する。正極活物質の含有量は特に制限されず、従来の非水電解質二次電池の正極活物質層に適用される含有量であればいずれであってもよい。
【0040】
導電助剤のBET比表面積は、35〜350m
2/gである。BET比表面積は、45〜350m
2/gであることが好ましく、100〜300m
2/gであることがより好ましく、120〜220m
2/gであることがより好ましい。後述する実施例で示される通り、導電助剤のBET比表面積がこれらの範囲内の値となる場合に、サイクル寿命がさらに向上する。スピネル型結晶構造を持つ正極活物質は、常温における粉体抵抗率が低い(例えば、10
−6〜10
−7Ωcm程度)。このため、導電助剤によって正極活物質層22の導電性を高めることが非常に重要になる。本実施形態では、このようなBET比表面積を有する導電助剤を用いることで、正極活物質層22の導電性を高め、ひいては、非水電解質二次電池10のサイクル寿命を向上させることができる。BET比表面積は、例えば、高精度・多検体ガス吸着量測定装置(Autosorb,カンタクローム・インスツルメンツ)によって測定可能である。なお、導電助剤の含有量は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極活物質層に適用される含有量であればいずれであってもよい。
【0041】
導電助剤としては、例えば、ケッチェンブラック(ketjen black)、アセチレンブラック(acetylene black)、ファーネスブラック(furnace black)等のカーボンブラック(carbon black)が挙げられる。これらのうち、いずれか1種以上のカーボンブラックが含まれていてもよい。これらのカーボンブラックのうち、好ましい例はアセチレンブラックである。アセチレンブラックは、他のカーボンブラックに比べて欠陥の数が少ない。カーボンブラックの欠陥部分は、非水電解質二次電池10を高電圧下で充放電した際に電解液と反応する可能性がある。当該反応が起こると、ガスが発生し、非水電解質二次電池10の膨張等が起こりうる。このような観点からは、カーボンブラックはアセチレンブラックであることが好ましい。
【0042】
結着剤は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(ethylene−propylene−diene terpolymer)、スチレンブタジエンゴム(styrene−butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile−butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluoroelastomer)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethyl methacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ニトロセルロース(nitrocellulose)等である。なお、結着材は、正極活物質および導電助剤を正極集電体21上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。また、結着剤の含有量は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極活物質層に適用される含有量であればいずれであってもよい。
【0043】
正極活物質層22は、例えば、適当な有機溶媒(例えばN−メチル−2−ピロリドン(N−methyl−2−pyrrolidone))に正極活物質、導電助剤、および結着剤を分散させたスラリー(slurry)を被覆層21a上に塗工し、乾燥、圧延することで形成される。
【0044】
負極30は、負極集電体31と、負極活物質層32とを含む。負極集電体31は、例えば、銅(cupper)、ニッケル等で構成される。
【0045】
負極活物質層32は、非水電解質二次電池の負極活物質層として使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、負極活物質層32は、負極活物質を含み、結着剤をさらに含んでいてもよい。負極活物質は、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、ケイ素(Si)もしくはスズ(Sn)もしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金、およびLi
4Ti
5O
12等の酸化チタン(TiO
x)系化合物等を使用することができる。なお、ケイ素の酸化物は、SiO
x(0≦x≦2)で表される。また、負極活物質としては、これらの他に、例えば金属リチウム等を使用することができる。
【0046】
また、結着剤は、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)などが用いられる。なお、負極活物質と結着剤との質量比は特に制限されず、従来の非水電解質二次電池で採用される質量比が本発明でも適用可能である。
【0047】
セパレータ層40は、セパレータと、電解液とを含む。
【0048】
本発明の一実施形態に係るセパレータは、特に制限されない。本発明の一実施形態に係るセパレータ本体は、非水電解質二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものでも使用可能である。例えば、セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene),ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybuthylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル(perfluorovinylether)共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン(fluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン(hexafluoroacetone)共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン(ethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン(propylene)共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン(trifluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を使用することができる。なお、セパレータの気孔率も特に制限されず、非水電解質二次電池のセパレータが有する気孔率が任意に適用可能である。
【0049】
また、セパレータは、無機フィラーを含むコーティング層を有していてもよい。具体的には、コーティング層は、Mg(OH)
2またはAl
2O
3の少なくともどちらか一方を無機フィラーとして含んでいてもよい。かかる構成によれば、無機フィラーを含むコーティング層は、正極とセパレータとの直接の接触を防止するため、高温保存時に正極表面で発生する電解液の酸化、分解を防止し、電解液の分解生成物であるガスの発生を抑制することができる。
【0050】
ここで、無機フィラーを含むコーティング層は、セパレータの両面に形成されてもよく、セパレータの正極側の片面のみに形成されてもよい。無機フィラーを含むコーティング層は、少なくとも正極側に形成されていれば、正極と電解液との直接の接触を防止することができる。
【0051】
また、本発明は、上記例示に限定されない。例えば、無機フィラーを含むコーティング層は、セパレータ上ではなく、正極上に形成されてもよい。かかる場合、無機フィラーを含むコーティング層は、正極の両面に形成されることによって、正極とセパレータとの直接の接触を防止することができる。なお、無機フィラーを含むコーティング層は、正極上およびセパレータ上の両方に形成されていてもよいことは言うまでもない。
【0052】
電解液は、リチウムイオン二次電池に使用される各種の非水溶媒を含む。溶媒は、ハイドロフルオロエーテル(HFE)及びフルオロカーボネート(フルオロエチレンカーボネート等)のフルオロ系の非水溶媒を少なくとも1種以上含んでいることが特に好ましい。溶媒は、さらに鎖状炭酸エステルを含んでいても良い。
【0053】
ハイドロフルオロエーテルは、エーテルの水素の一部をフッ素に置換することで、耐酸化性が向上したものである。このようなハイドロフルオロエーテルとしては、正極材料の充電電圧及び電流密度に対する耐性等を鑑みると、2,2,2−トリフルオロエチルメチルエーテル(CF
3CH
2OCH
3)、2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(CF
3CH
2OCHF
2)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメチルエーテル(CF
3CF
2CH
2OCH
3)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル(CF
3CF
2CH
2OCHF
2)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル(CF
3CF
2CH
2OCF
2CF
2H)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル(HCF
2CF
2OCH
3)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテル(HCF
2CF
2OCH
2CH
3)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルプロピルエーテル(HCF
2CF
2OC
3H
7)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルブチルエーテル(HCF
2CF
2OC
4H
9)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソブチルエーテル(HCF
2CF
2OCH
2CH(CH
3)
2)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソペンチルエーテル(HCF
2CF
2OCH
2C(CH
3)
3)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(HCF
2CF
2OCH
2CF
3)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(HCF
2CF
2OCH
2CF
2CF
2H)、ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル((CF
3)
2CHOCH
3)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−トリフルオロメチルプロピルメチルエーテル((CF
3)
2CHCF
2OCH
3)、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(CF
3CHFCF
2OCH
3)、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルエチルエーテル(CF
3CHFCF
2OCH
2CH
3)及び2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルジフルオロメチルエーテル(CF
3CHFCF
2CH
2OCHF
2)等が挙げられる。
【0054】
また、電解質塩としては、例えば、LiClO
4、LiBF
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiSCN、LiBr、LiI、Li
2SO
4、Li
2B
10Cl
10、NaClO
4、NaI、NaSCN、NaBr、KClO
4、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC(C
2F
5SO
2)
3、(CH
3)
4NBF
4、(CH
3)
4NBr、(C
2H
5)
4NClO
4、(C
2H
5)
4NI、(C
3H
7)
4NBr、(n−C
4H
9)
4NClO
4、(n−C
4H
9)
4NI、(C
2H
5)
4N−maleate、(C
2H
5)
4N−benzoate、(C
2H
5)
4N−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(lithium stearyl sulfate)、オクチルスルホン酸リチウム(lithium octyl sulfate)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(lithium dodecylbenzene sulphonate)等の有機イオン塩等を使用することができる。なお、これらのイオン性化合物は、単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。また、電解質塩の濃度は、従来のリチウム二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本発明では、適当なリチウム化合物(電解質塩)を0.5〜2.0mol/L程度の濃度で含有させた電解液を使用することができる。
【0055】
<3.非水電解質二次電池の製造方法>
(3−1.正極活物質の製造方法)
まず、正極活物質の製造方法について説明する。正極活物質の製造方法は、特に制限されないが、例えば、共沈法を用いることできる。以下では、かかる共沈法を用いた正極活物質の製造方法について一例を挙げて説明を行う。
【0056】
まず、硫酸ニッケル6水和物(NiSO
4・6H
2O)、硫酸マンガン5水和物(MnSO
4・5H
2O)、および金属元素Mを含む化合物をイオン交換水に溶解させて、混合水溶液を製造する。ここで、硫酸ニッケル6水和物、硫酸マンガン5水和物、および金属元素Mを含む化合物の総質量は、混合水溶液の総質量に対して、例えば20質量%程度であればよい。また、硫酸ニッケル6水和物、硫酸マンガン5水和物、および金属元素Mを含む化合物は、Ni、MnおよびMの各元素のモル(mole)比が所望の値となるように混合される。なお、各元素のモル比は、製造される正極活物質の組成に応じて決定されるが、例えば、LiNi
0.5Mn
1.45Al
0.05O
4を製造する場合、各元素のモル比Ni:Mn:Alは50:145:5となる。
【0057】
なお、金属元素Mは、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)からなる群から選択される1種または2種以上の金属元素であることが好ましい。金属元素Mを含む化合物とは、例えば、金属元素Mの硫酸塩および硝酸塩などの各種塩、酸化物、ならびに水酸化物などである。
【0058】
また、反応層に所定量(例えば500ml)のイオン交換水を投入し、このイオン交換水の温度を50℃に維持する。以下、反応層内の水溶液を反応層水溶液と称する。次に、窒素等の不活性ガス(gas)によってイオン交換水をバブリング(bubbling)することによって溶存酸素を除去する。
【0059】
ついで、反応層内のイオン交換水を撹拌し、イオン交換水の温度を50℃に維持しながら、上述した混合水溶液をイオン交換水に滴下する。さらに、イオン交換水に、飽和NaCO
3水溶液を混合水溶液のNi、Mn、Mに対して過剰量滴下する。なお、滴下中は、反応層水溶液のpHを11.5に、温度を50℃に維持する。混合水溶液及び飽和NaCO
3水溶液の滴下速度は特に制限されないが、早過ぎると均一な前駆体(共沈水酸化物塩)が得られない可能性がある。例えば、滴下速度は、3ml/min程度とすればよい。混合水溶液及び飽和NaCO
3水溶液の滴下は、所定時間、例えば10時間程度で行う。これにより、各金属元素の水酸化物塩が共沈する。
【0060】
続いて、固液分離(例えば吸引ろ過)を行い、共沈水酸化物塩を反応層水溶液から取り出し、取り出した共沈水酸化物塩をイオン交換水で洗浄する。さらに、共沈水酸化物塩を真空乾燥させる。この時の温度は、例えば、100℃程度とすればよく、乾燥時間は、例えば、10時間程度とすればよい。
【0061】
次に、乾燥後の共沈水酸化物塩を乳鉢で数分間粉砕し、乾燥粉末を得る。そして、乾燥粉末と、炭酸リチウム(Li
2CO
3)とを混合することで、混合粉体を生成する。ここで、LiとNi+Mn+M(=Me)とのモル比は、正極活物質の組成に応じて決定される。例えば、LiNi
0.5Mn
1.45Al
0.05O
4を製造する場合、LiとMeとのモル比Li:Meは1.0:2.0となる。
【0062】
さらに、この混合粉体を焼成する。なお、焼成は大気下で行っても良い。また、焼成時間、焼成温度は任意に調整されればよい。焼成温度は、例えば、900〜1100℃程度とすればよく、焼成時間は、例えば、6時間程度とすればよい。以上の工程により、正極活物質を作製する。
【0063】
(3−2.非水電解質二次電池の製造方法)
続いて、非水電解質二次電池10の製造方法の一例について説明する。なお、以下に説明する製造方法はあくまで一例であり、他の方法で非水電解質二次電池10を製造可能であることはもちろんである。
【0064】
正極20は、以下のように製造される。まず、正極集電体21上に被覆層21aを形成する。具体的には、被覆層21aを構成する材料(例えば、上述した天然黒鉛及び結着剤)をスチレンブタジエンゴム(SBR),CMCを所望の質量比(例えば、1:1:1)の比率(質量比)で秤量したものをイオン交換水に分散させることでスラリーを形成する。ついで、スラリーを正極集電体21上に塗工し、乾燥させることで、正極集電体21上に被覆層21aを形成する。なお、塗工の方法は、特に限定されないが、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法等を用いてもよい。以下の各塗工工程も同様の方法により行われる。
【0065】
ついで、正極活物質層22を構成する材料(例えば、正極活物質、導電助剤、および結着剤)を有機溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)に分散させることでスラリーを形成する。次に、スラリーを被覆層21a上に塗工し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。さらに、圧縮機により正極活物質層22を所望の厚さとなるように圧縮する。これにより、正極20が製造される。ここで、正極活物質層22の厚さは特に制限されず、非水電解質二次電池の正極活物質層が有する厚さであればよい。なお、正極活物質を集電体に塗布する工程は、ドライ環境下で行っても良い。
【0066】
負極30は、まず負極活物質、カルボキシメチルセルロース(CMC)及び導電助剤を所望の割合で混合したものを、イオン交換水を所定量加えて固練り混合する。その後、さらにイオン交換水を加えて粘度を調整し、スチレンブタジエンゴム(SBR)バインダを加え、負極スラリーを形成する。次に、スラリーを負極集電体31上に塗工し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成する。さらに、圧縮機により負極活物質層32を所望の厚さとなるように圧縮する。これにより、負極30が製造される。ここで、負極活物質層32の厚さは特に制限されず、非水電解質二次電池の負極活物質層が有する厚さであればよい。また、負極活物質層32として金属リチウムを用いる場合、負極集電体31に金属リチウム箔を重ねれば良い。
【0067】
続いて、セパレータを正極20および負極30で挟むことで、電極構造体を製造する。次に、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。さらに、当該容器内に所望の組成の電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、非水電解質二次電池10が製造される。
【実施例】
【0068】
<1.実施例1>
以下では、本実施形態に係る実施例について説明する。
(1−1.正極活物質の作製)
まず、硫酸ニッケル6水和物(NiSO
4・6H
2O)、及び硫酸マンガン5水和物(MnSO
4・5H
2O)をイオン交換水に溶解させて、混合水溶液を製造した。ここで、硫酸ニッケル6水和物、及び硫酸マンガン5水和物の総質量は、混合水溶液の総質量に対して20質量%程度とした。各元素のモル比Ni:Mnは5:15とした。
【0069】
一方、反応層に500mlのイオン交換水を投入し、このイオン交換水の温度を50℃に維持した。次に、窒素等の不活性ガス(gas)によってイオン交換水をバブリング(bubbling)することによって溶存酸素を除去した。
【0070】
ついで、反応層内のイオン交換水を撹拌し、イオン交換水の温度を50℃に維持しながら、上述した混合水溶液をイオン交換水に滴下した。さらに、イオン交換水に、飽和NaCO
3水溶液を混合水溶液のNi、Mnに対して過剰量滴下した。なお、滴下中は、反応層水溶液のpHを11.5に、温度を50℃に維持した。混合水溶液及び飽和NaCO
3水溶液の滴下速度は3ml/min程度とした。混合水溶液及び飽和NaCO
3水溶液の滴下は、10時間かけて行った。これにより、各金属元素の水酸化物塩が共沈した。
【0071】
続いて、固液分離(例えば吸引ろ過)を行い、共沈水酸化物塩を反応層水溶液から取り出し、取り出した共沈水酸化物塩をイオン交換水で洗浄した。さらに、共沈水酸化物塩を真空乾燥した。乾燥温度は100℃程度とし、乾燥時間は、10時間程度とした。
【0072】
次に、乾燥後の共沈水酸化物塩を乳鉢で数分間粉砕し、乾燥粉末を得た。そして、乾燥粉末と、炭酸リチウム(Li
2CO
3)とを混合することで、混合粉体を生成した。ここで、LiとNi+Mn(=Me)とのモル比Li:Meは、1.0:2.0とした。
【0073】
さらに、この混合粉体を大気下で焼成した。焼成温度は、900〜1100℃の範囲内の温度を維持し、焼成時間は、6時間程度とした。以上の工程により、正極活物質を作製した。実施例1では、正極活物質の組成は、LiNi
0.5Mn
1.5O
4となる。正極活物質の平均粒径(球相当径の算術平均値)は、SEM画像を解析することで算出した。すなわち、複数個の正極活物質の球相当径をSEM画像に基づいて算出し、これらの算術平均値を平均粒径とした。この結果、平均粒径は7μmであった。
【0074】
(1−2.コインハーフセルの作製)
以下の処理によりコインハーフセルを作製した。まず、天然黒鉛(日本黒鉛工業社製)、スチレンブタジエンゴム(SBR),CMCを1:1:1の質量比で秤量したものをイオン交換水に分散させてスラリーを形成した。ついで、このスラリーを正極集電体21となるアルミ箔上に塗工し、乾燥させることで、アルミ箔上に被覆層21aを形成した。ここで、スラリー中の天然黒鉛の濃度及び塗工量は、被覆層21a中の天然黒鉛の面密度が0.07mg/cm
2となるように調整した。被覆層21aの厚さは0.5μmとした。
【0075】
ついで、正極活物質、BET比表面積133m
2/gのアセチレンブラック(デンカ社製)及びポリフッ化ビニリデンを95:2:3の質量比で混合した。なお、BET比表面積は高精度・多検体ガス吸着量測定装置(Aotosorb,カンタクローム・インスツルメンツ)により測定した。この混合物(正極合剤)をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリーを形成した。スラリーを被覆層21a上に塗工し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成した。そして、正極活物質層22の厚さが50μmとなるように圧延することで、正極20を作製した。
【0076】
負極30は、負極集電体31である銅箔上に金属リチウム箔を載せることで作製した。そして、セパレータとして厚さ12μmの多孔質ポリプロピレンフィルム(両面に水酸化マグネシウムコーティングがなされたもの。帝人社製。)を用意し、セパレータを正極20と負極30との間に配置することで、電極構造体を製造した。次に、電極構造体をコインハーフセルの大きさに加工し、コインハーフセルの容器に収納した。
【0077】
ついで、フルオロエチレンカーボネート(FEC),ジメチルカーボネート(DMC)、及びハイドロフルオロエーテル(HFE)を2:3:5の体積比で混合した非水溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1.15Mの濃度で溶解することで、電解液を製造した。
【0078】
(1−3.充放電処理)
以下の表1に示す充放電レート(rate)にてハーフセルの充放電を行った。CC−CVは定電流定電圧を意味し、CCは定電流を意味する。充放電時の温度は45℃とした。カットオフ電圧は3.0〜4.9V(Li/Li
+)とした。ただし、63サイクル目の充電は1/20*Cをカットオフとした。
【0079】
【表1】
【0080】
そして、2サイクル目の放電容量を実施例1の放電容量とした。また、6サイクル目の放電容量を3サイクル目の放電容量で除算した値(5C/0.5C)を放電負荷特性とした。また、11サイクル目の充電容量を8サイクル目の充電容量で除算した値(5C/0.5C)を充電負荷特性とした。また、63サイクル目放電容量を14サイクル目の放電容量で除算した値をサイクル寿命(いわゆる容量維持率)とした。結果を表2にまとめて示す。
【0081】
【表2】
【0082】
<2.実施例2>
導電助剤をBET比表面積125m
2/gのアセチレンブラック(デンカ社製)とした他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0083】
<3.実施例3>
導電助剤をBET比表面積39m
2/gのアセチレンブラック(デンカ社製)とした他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0084】
<4.実施例4>
硫酸ニッケル6水和物(NiSO
4・6H
2O)及び硫酸マンガン5水和物(MnSO
4・5H
2O)に加え、硫酸アルミニウム16水和物(Al
2(SO
4)
3・16H
2O)を使用した他は、実施例1と同様の工程を行うことで、Li
1.03Ni
0.5Mn
1.45Al
0.05O
4で示される正極活物質を作製した。また、導電助剤としてBET比表面積125m
2/gのアセチレンブラック(デンカ社製)を使用した。他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0085】
<5.実施例5>
硫酸ニッケル6水和物(NiSO
4・6H
2O)及び硫酸マンガン5水和物(MnSO
4・5H
2O)に加え、硫酸アルミニウム16水和物(Al
2(SO
4)
3・16H
2O)を使用した他は、実施例1と同様の工程を行うことで、Li
1.03Ni
0.5Mn
1.49Al
0.01O
4で示される正極活物質を作製した。また、導電助剤としてBET比表面積125m
2/gのアセチレンブラック(デンカ社製)を使用した。他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0086】
<6.実施例6>
硫酸ニッケル6水和物(NiSO
4・6H
2O)及び硫酸マンガン5水和物(MnSO
4・5H
2O)に加え、硫酸銅5水和物(CuSO
4・5H
2O)を使用した他は、実施例1と同様の工程を行うことで、Li
1.03Ni
0.5Mn
1.45Cu
0.01O
4で示される正極活物質を作製した。また、導電助剤としてBET比表面積125m
2/gのアセチレンブラック(デンカ社製)を使用した。他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0087】
<7.実施例7>
硫酸ニッケル6水和物(NiSO
4・6H
2O)及び硫酸マンガン5水和物(MnSO
4・5H
2O)に加え、硫酸亜鉛7水和物(ZnSO
4・7H
2O)を使用した他は、実施例1と同様の工程を行うことで、Li
1.03Ni
0.5Mn
1.49Zn
0.02O
4で示される正極活物質を作製した。また、導電助剤としてBET比表面積125m
2/gのアセチレンブラック(デンカ社製)を使用した。他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0088】
<8.実施例8>
硫酸ニッケル6水和物(NiSO
4・6H
2O)及び硫酸マンガン5水和物(MnSO
4・5H
2O)に加え、硫酸亜鉛7水和物(ZnSO
4・7H
2O)を使用した他は、実施例1と同様の工程を行うことで、Li
1.03Ni
0.5Mn
1.49Zn
0.01O
4で示される正極活物質を作製した。また、導電助剤としてBET比表面積125m
2/gのアセチレンブラック(デンカ社製)を使用した。他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0089】
<9.実施例9>
導電助剤をBET比表面積206m
2/gのアセチレンブラック(デンカ社製)とした他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0090】
<10.実施例10>
導電助剤をBET比表面積215m
2/gのアセチレンブラック(デンカ社製)とした他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0091】
<11.比較例1>
被覆層21aを設けなかった他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0092】
<12.比較例2>
被覆層21aを設けなかった他は実施例2と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0093】
<13.比較例3>
被覆層21aを設けなかった他は実施例4と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0094】
<14.比較例4>
被覆層21aを設けなかった他は実施例6と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0095】
<15.比較例5>
被覆層21aを設けなかった他は実施例7と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0096】
<16.比較例6>
被覆層21aを設けなかった他は実施例8と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0097】
<17.比較例7>
導電助剤をBET比表面積377m
2/gのファーネスブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とした他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0098】
<18.比較例8>
導電助剤をBET比表面積800m
2/gのファーネスブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とした他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0099】
<19.比較例9>
比較例9では、正極活物質を以下の工程で作製した。まず、硫酸コバルト5水和物をイオン交換水に溶解させ、混合水溶液を製造した。ここで、硫酸コバルト5水和物の質量は、混合水溶液の総質量に対して、20質量%とした。
【0100】
また、反応層に500mlのイオン交換水を投入し、このイオン交換水の温度を50℃に維持した。そして、イオン交換水に40質量%のNaOH水溶液を滴下し、反応層水溶液のpHを11.5に調整した。次に、窒素ガスによってイオン交換水をバブリングすることによって溶存酸素を除去した。
【0101】
そして、反応層水溶液を撹拌し、反応層水溶液の温度を50℃に維持しながら、上述した混合水溶液を3ml/minの速度で反応層水溶液に滴下した。
【0102】
また、反応槽水溶液に、混合水溶液の他に40質量%のNaOH水溶液および10質量%のNH
3水溶液を滴下することで、反応層水溶液のpHを11.5に維持した。ここで、撹拌速度は周速で4〜5m/s、撹拌時間は10時間であった。これにより、水酸化コバルトが沈殿した。
【0103】
続いて、吸引ろ過により水酸化コバルトを反応層水溶液から取り出し、水酸化コバルトをイオン交換水で洗浄した。そして、水酸化コバルトを真空乾燥させた。真空乾燥の温度は100℃とし、乾燥時間は10時間とした。
【0104】
次に、乾燥後の水酸化コバルトを乳鉢で数分間粉砕し、乾燥粉末を得た。そして、乾燥粉末と、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、硝酸アルミニウム9水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O)、硝酸マグネシウム6水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O)とを混合することで、混合粉体を生成した。ここで、Li、Co、Al、Mgのモル比は1.03:0.98:0.01:0.01とした。
【0105】
さらに、この混合粉体を970℃で10時間焼成した。以上の工程により、比較例9に係る正極活物質を作製した。正極活物質の組成は、Li
1.03Co
0.98Al
0.01Mg
0.01O
2となる。したがって、正極活物質は、コバルト酸リチウム系の正極活物質となる。この正極活物質はスピネル型結晶構造を有しないので、高電圧下での充放電を行うことができない。正極活物質の平均粒径(球相当径の算術平均値)を上述した方法により測定したところ、13μmであった。この正極活物質を用いた他は、実施例2と同様の処理を行った。ただし、カットオフ電圧は3.0〜4.6V(Li/Li
+)とした。結果を表2にまとめて示す。
【0106】
<20.比較例10>
被覆層21aを設けなかった他は比較例9と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0107】
<21.比較例11>
比較例11では、正極活物質を以下の工程で作製した。まず、硫酸ニッケル6水和物、硫酸マンガン7水和物、および硫酸コバルト5水和物をイオン交換水に溶解させ、混合水溶液を製造した。ここで、硫酸ニッケル6水和物、硫酸マンガン7水和物、および硫酸コバルト5水和物の総質量は、混合水溶液の総質量に対して、20質量%とした。また、硫酸ニッケル6水和物、硫酸マンガン7水和物、および硫酸コバルト5水和物は、Ni、Co、およびMnの各元素のモル比Ni:Co:Mnが20:20:60となるように混合した。
【0108】
また、反応層に500mlのイオン交換水を投入し、このイオン交換水の温度を50℃に維持した。そして、イオン交換水に40質量%のNaOH水溶液を滴下し、反応層水溶液のpHを11.5に調整した。次に、窒素ガスによってイオン交換水をバブリングすることによって溶存酸素を除去した。
【0109】
そして、反応層水溶液を撹拌し、反応層水溶液の温度を50℃に維持しながら、上述した混合水溶液を3ml/minの速度で反応層水溶液に滴下した。
【0110】
また、反応槽水溶液に、混合水溶液の他に40質量%のNaOH水溶液および10質量%のNH
3水溶液を滴下することで、反応層水溶液のpHを11.5に維持した。ここで、撹拌速度は周速で4〜5m/s、撹拌時間は10時間であった。これにより、各金属元素の水酸化物が共沈した。
【0111】
続いて、吸引ろ過により共沈水酸化物を反応層水溶液から取り出し、共沈水酸化物をイオン交換水で洗浄した。そして、共沈水酸化物を真空乾燥させた。真空乾燥の温度は100℃とし、乾燥時間は10時間とした。
【0112】
次に、乾燥後の共沈水酸化物を乳鉢で数分間粉砕し、乾燥粉末を得た。そして、乾燥粉末と、炭酸リチウム(Li
2CO
3)とを混合することで、混合粉体を生成した。ここで、LiとM(=Ni+Mn+Co)とのモル比は1.4:1とした。
【0113】
さらに、この混合粉体を800℃で10時間焼成した。以上の工程により、比較例11に係る正極活物質を作製した。正極活物質の組成は、0.4Li
2MnO
3−0.6Li(Ni
0.33Co
0.33Mn
0.33)O
2となる。したがって、正極活物質は、固溶体型正極活物質となる。この正極活物質はスピネル型結晶構造を有しないので、高電圧下での充放電を行うことができない。正極活物質の平均粒径(球相当径の算術平均値)を上述した方法により測定したところ、7μmであった。この正極活物質を用いた他は、実施例2と同様の処理を行った。ただし、カットオフ電圧は2.5〜4.6V(Li/Li
+)とした。結果を表2にまとめて示す。
【0114】
<22.比較例12>
被覆層21aを設けなかった他は比較例11と同様の処理を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0115】
<23.対比>
まず、実施例1〜10と比較例1〜6とを比較すると、実施例1〜10は、比較例1〜6よりもサイクル寿命が著しく向上した。むしろ、比較例1〜6では、サイクル寿命が急速に劣化したため、有意な値を得ることができなかった。比較例1〜6では、正極集電体21が被覆層21aで覆われていないため、充放電時に正極集電体21からアルミニウムイオンが溶出したと考えられる。なお、比較例1〜6では、1サイクル目の充放電によって正極集電体21上に不動態膜が形成されていると推定されるが、このような不動態膜によってもアルミニウムイオンの溶出は抑制できないことが明らかとなった。そして、このアルミニウムイオンが負極上に析出し、サイクル寿命を著しく劣化させたと考えられる。これに対し、実施例1〜10では、正極集電体21が被覆層21aで覆われているため、アルミニウムイオンの溶出が抑制できたと考えられる。したがって、スピネル型結晶構造の正極活物質と、被覆層21aで覆われた正極集電体21とを組み合わせることで、高いエネルギー密度を実現することができ、かつ、サイクル寿命が大きく改善された。
【0116】
つぎに、実施例1、2、4〜10と実施例3とを比較すると、実施例1、2、4〜10は実施例3よりもサイクル寿命が優れていた。実施例1、2、4〜10と実施例3とは、導電助剤のBET比表面積が異なっている。さらに、実施例1〜10と比較例7、8とを比較すると、実施例1〜10と比較例7、8とは、導電助剤のBET比表面積が異なっている。したがって、導電助剤のBET比表面積は、35〜350m
2/gであることが必要である。BET比表面積は、45〜350m
2/gであることが好ましく、100〜300m
2/gであることがより好ましく、120〜220m
2/gであることがより好ましい。
【0117】
つぎに、比較例9、10に着目すると、比較例9、10では、サイクル寿命が実施例1〜10に比べて大きく劣化した。比較例9、10の正極活物質は、高電圧下の使用に適さないので、サイクル寿命が大きく劣化したと考えられる。仮に充放電電圧を実施例1〜10と同程度にした場合、サイクル寿命がさらに劣化することは容易に推定できる。このため、比較例9、10では、実施例1〜10に比べて充放電を低電圧下で行う必要があるので、エネルギー密度が小さくなる。なお、比較例9、10では、被覆層21aの有無によるサイクル寿命の変化は観測されなかった。比較例9、10では、実施例1〜10に比べて低電圧下で充放電を行っているので、アルミニウムイオンの溶出がそれほど大きくはならなかったと推定される。このように、被覆層21aは、スピネル型結晶構造を有する正極活物質と組み合わせることで顕著な効果が得られる。
【0118】
つぎに、比較例11、12に着目すると、比較例11、12のサイクル寿命は、比較例9、10よりは良好であった。しかし、比較例11、12のサイクル寿命は実施例1〜10に比べて劣化した。比較例11、12の正極活物質は、高電圧下の使用に適さないので、サイクル寿命が劣化したと考えられる。仮に充放電電圧を実施例1〜10と同程度にした場合、サイクル寿命がさらに劣化することは容易に推定できる。このため、比較例11、12では、実施例1〜10に比べて充放電を低電圧下で行う必要があるので、エネルギー密度が小さくなる。なお、比較例11、12では、被覆層21aの有無によるサイクル寿命の変化は観測されなかった。比較例11、12では、実施例1〜10に比べて低電圧下で充放電を行っているので、アルミニウムイオンの溶出がそれほど大きくはならなかったと推定される。このように、被覆層21aは、スピネル型結晶構造を有する正極活物質と組み合わせることで顕著な効果が得られる。
【0119】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。