(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、IC、LSI等のデバイスの高集積化、小型化に伴い、シリコン等の半導体基板の表面に、SiOF、BSG(SiOB)等の無機物系の膜やポリイミド系、パリレン系等のポリマー膜である有機物系の膜からなる低誘電率絶縁体被膜(Low−k膜)と回路を形成する機能膜が積層された積層体からなるデバイス層が形成されたウェーハが実用化されている。
【0003】
しかし、このようなデバイス層のあるウェーハのダイシングは、膜剥がれやバリ等が発生しやすく、ダイシング工程における大きな問題となっている。特に、デバイス層にLow−k膜が含まれる場合、Low−k膜は非常に脆いことから、ダイシングブレードによる切断が行われると、Low−k膜に剥離が生じやすい問題がある。すなわち、ダイシングブレードによって切断すると、Low−k膜が破壊され、この破壊された領域がデバイス形成領域(チップ形成領域)に広がると、チップは不良品となり、製造される半導体装置の歩留りを低下させてしまう要因となる。
【0004】
上記問題を解消するために、ダイシングブレードによる切断に先立って、ストリートと称される分割予定ラインに沿ってレーザ加工溝を形成してデバイス層を分断した後に、ダイシングブレードによって切断を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、ダイシング装置のほかにレーザ加工装置(レーザスクライバ)が必要である。また、レーザ照射工程では、ダイシングブレードの幅より広いレーザ加工溝を形成するために、レーザ光の照射を1つのストリートに沿って往復移動して行わなければならない。このため、生産性が悪く、コストアップを招く問題がある。
【0006】
一方、特許文献2は、加圧液体を液体ジェットにて噴射し、それを光導波路としてレーザ光を被加工物へ照射するレーザ加工装置が開示されている。このレーザ加工装置では、被加工物に向けて液体ジェットが噴射されるので加工時の熱ダメージやコンタミネーションによる影響を防ぎつつ、レーザ光が液体ジェットにより拡散することなく被加工物に向けて誘導されるので高精度な加工を行うことが可能となる。また、ダイシングブレードによるダイシングやレーザダイシング等のダイシング工程が不要となる。
【0007】
また、特許文献2には、液体ジェットにより誘導されるレーザ光の出力を観察する観察装置が開示されている。この観察装置は、液体ジェットを遮蔽しかつレーザ光を透過し得る遮蔽材と、遮蔽材の背後に計測手段とを有し、レーザ光を遮蔽材越しに計測手段に入射させてレーザ光の出力を計測するようにしている。これによれば、液体ジェットに導光されたレーザ光の出力を直接計測でき、レーザ光出力の問題点を事前に察知することが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示される従来の観察装置は、主にレーザ光の出力測定の用途で作られており、そのため液体ジェットと被加工物の接面でのレーザ光の分布を観察することはできない。
【0010】
また、液体ジェットにより誘導されるレーザ光により被加工物を加工する場合、加工条件(例えば、液体ジェット長さなど)がわずかに異なる場合でも加工痕形状が変化してしまう問題がある。そのため、任意の加工痕形状で被加工物を加工するためには予備的な加工が必要となり、生産性の低下やコストアップを招く要因となる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、液体ジェットにより誘導されるレーザ光の分布を観察することができるレーザ加工装置、レーザ加工方法、レーザ光分布観察装置、及びレーザ光分布観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様に係るレーザ加工装置は、被加工物を保持するワークテーブルと、レーザ光を出力するレーザ発振器と、レーザ発振器から出力されたレーザ光を集光する集光レンズと、液体ジェットを被加工物に向けて噴射する液体ジェット噴射ノズルを有し、集光レンズにより集光されるレーザ光を液体ジェットの中に導光することにより液体ジェットに誘導されるレーザ光を被加工物に向けて照射する加工ヘッドと、液体ジェットにより誘導されるレーザ光の分布を観察するレーザ光分布観察装置と、を備え、レーザ光分布観察装置は、加工ヘッドに対して被加工物と相対的に同一の高さに配置され、液体ジェットを遮蔽しかつ液体ジェットに誘導されるレーザ光を透過する遮蔽板と、遮蔽板を透過したレーザ光を結像する結像レンズと、結像レンズに対して遮蔽板と共役な位置関係に配置され、結像レンズにより結像されたレーザ光を受光する光検出器と、光検出器から出力された出力信号に基づき、液体ジェットと遮蔽板との接面におけるレーザ光の分布を示すレーザ光分布画像データを取得する画像データ取得手段と、画像データ取得手段により取得されたレーザ光分布画像データを表示する表示手段と、を有する。
【0013】
なお、「加工ヘッドに対して被加工物と相対的に同一の高さ」とは、加工ヘッドと遮蔽板との間の距離が加工ヘッドと被加工物との間の距離と等しいことを意味する。すなわち、加工ヘッドから被加工物に液体ジェットが噴射されるときの液体ジェットの長さと、加工ヘッドから遮蔽板に液体ジェットが噴射されるときの液体ジェットの長さとが互いに等しいことを意味しており、被加工物と遮蔽板とが絶対座標的に同一高さであることは必ずしも必要ではない。例えば、被加工物と遮蔽板とが絶対座標的に異なる高さである場合でも、加工ヘッドに対する相対的な高さが互いに同一であればよい。
【0014】
本発明の第2態様に係るレーザ加工装置は、第1態様において、液体ジェットと遮蔽板との接面におけるレーザ光の分布を変更するレーザ光分布制御手段を備える。
【0015】
本発明の第3態様に係るレーザ加工装置は、第2態様において、レーザ光分布制御手段は、液体ジェットの長さを変化させることによりレーザ光の分布を変更する。
【0016】
本発明の第4態様に係るレーザ加工装置は、第2態様又は第3態様において、レーザ発振器と集光レンズとの間に配置され、レーザ光を偏向するレーザ光偏向手段を備え、レーザ光分布制御手段は、液体ジェットに対するレーザ光の入射位置及び入射角度が変化するようにレーザ光偏向手段を制御することによりレーザ光の分布を変更する。
【0017】
本発明の第5態様に係るレーザ加工装置は、第2態様〜第4態様のいずれか1つの態様において、レーザ発振器と集光レンズとの間に配置され、レーザ光を整形するビーム形状整形手段を備え、レーザ光分布制御手段は、レーザ光の形状、サイズ、又は強度分布が変化するようにビーム形状整形手段を制御することによりレーザ光の分布を変更する。
【0018】
本発明の第6態様に係るレーザ加工装置は、第2態様〜第5態様のいずれか1つの態様において、加工ヘッドに対して加圧液体を供給する加圧液体供給手段を備え、レーザ光分布制御手段は、加圧液体供給手段により供給される加圧液体の圧力を制御することによりレーザ光の分布を変更する。
【0019】
本発明の第7態様に係るレーザ加工装置は、第2態様〜第6態様のいずれか1つの態様において、レーザ光分布制御手段は、液体ジェット噴射ノズルのノズル径を制御することによりレーザ光の分布を変更する。
【0020】
本発明の第8態様に係るレーザ加工方法は、レーザ発振器から出力されたレーザ光を集光する集光工程と、液体ジェットを被加工物に向けて噴射するとともに、集光工程により集光されるレーザ光を液体ジェットの中に導光することにより液体ジェットに誘導されるレーザ光を被加工物に向けて照射する液体ジェット噴射工程と、液体ジェットにより誘導されるレーザ光の分布を観察するレーザ光分布観察工程と、を備え、レーザ光分布観察工程は、液体ジェットを遮蔽板で遮蔽しかつ液体ジェットに誘導されるレーザ光が遮蔽板を透過するレーザ光透過工程と、遮蔽板を透過したレーザ光を結像レンズにより結像する結像工程と、結像レンズにより結像されたレーザ光を、結像レンズに対して遮蔽板と共役な位置関係に配置される光検出器で受光する受光工程と、光検出器から出力された出力信号に基づき、液体ジェットと遮蔽板との接面におけるレーザ光の分布を示すレーザ光分布画像データを取得する取得工程と、レーザ光分布画像データを表示する表示工程と、を有する。
【0021】
本発明の第9態様に係るレーザ加工方法は、第8態様において、液体ジェットと遮蔽板との接面におけるレーザ光の分布を変更するレーザ光分布制御工程を備える。
【0022】
本発明の第10態様に係るレーザ光分布観察装置は、液体ジェットを遮蔽しかつ液体ジェットに誘導されるレーザ光を透過する遮蔽板と、遮蔽板を透過したレーザ光を結像する結像レンズと、結像レンズに対して遮蔽板と共役な位置関係に配置され、結像レンズにより結像されたレーザ光を受光する光検出器と、光検出器から出力された出力信号に基づき、液体ジェットと遮蔽板との接面におけるレーザ光の分布を示すレーザ光分布画像データを取得する画像データ取得手段と、画像データ取得手段により取得されたレーザ光分布画像データを表示する表示手段と、を備える。
【0023】
本発明の第11態様に係るレーザ光分布観察方法は、液体ジェットを遮蔽板で遮蔽しかつ液体ジェットに誘導されるレーザ光が遮蔽板を透過するレーザ光透過工程と、遮蔽板を透過したレーザ光を結像レンズにより結像する結像工程と、結像レンズにより結像されたレーザ光を、結像レンズに対して遮蔽板と共役な位置関係に配置される光検出器で受光する受光工程と、光検出器から出力された出力信号に基づき、液体ジェットと遮蔽板との接面におけるレーザ光の分布を示すレーザ光分布画像データを取得する取得工程と、レーザ光分布画像データを表示する表示工程と、を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、遮蔽板と光検出器とが結像レンズに対して互いに共役な位置関係に配置されるので、液体ジェットと遮蔽板との接面におけるレーザ光の分布を光検出器の受光面に忠実に再現することができる。これにより、液体ジェットに誘導されるレーザ光の分布を観察することが可能となるので、予備的な加工を行うことなく、加工痕形状を容易に予測することが可能となる。その結果、全体のスループットが向上し、コストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0027】
図1は、本実施の形態に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【0028】
図1に示すように、本実施の形態に係るレーザ加工装置10は、レーザ電源12と、レーザ発振器14と、ワークテーブル16と、ワークテーブル移動部18と、液体供給手段20と、ヘッドユニット22と、レーザ光分布観察装置26と、制御部30とを備えている。
【0029】
レーザ電源12は、信号ケーブルを介してレーザ発振器14に接続され、レーザ発振器14に電力を供給する。
【0030】
レーザ発振器14は、レーザ電源12から供給される電力を用いてレーザ光Lを出力する。レーザ光Lとしては、水に吸収されにくい波長域のレーザ光が用いられる。
【0031】
ワークテーブル16は、ワークW(被加工物)を吸着して保持する保持面16aを有する。この保持面16aには、ワークWを吸着保持するための吸着穴が複数設けられ、吸着穴は不図示の真空吸着源に接続されている。
【0032】
ワークテーブル移動部18は、Xテーブル32と、θ回転テーブル34とを備えている。Xテーブル32は、水平に設置されており、図示しないX駆動機構によってX方向に移動可能に構成される。θ回転テーブル34は、Xテーブル32上に配設され、図示しないθ駆動機構によってθ方向(Z方向の軸を中心とした回転方向)に移動可能に構成される。そして、θ回転テーブル34上にはワークテーブル16が載置固定される。したがって、ワークテーブル16は、X方向及びθ方向にそれぞれ移動可能に構成される。
【0033】
液体供給手段20は、液体供給路を介してヘッドユニット22の加工ヘッド40に接続され、加工ヘッド40に加圧液体(例えば、加圧水)を供給する。
【0034】
ヘッドユニット22は、偏向部36と、ビーム形状整形手段38と、加工ヘッド40とを備えている。このヘッドユニット22は、図示しないZ駆動機構によってZ方向に移動可能に構成されるZテーブルに配設される。Zテーブルは、図示しないY駆動機構によってY方向に移動可能に構成されるYテーブルに配設される。したがって、ヘッドユニット22は、Y方向及びZ方向に移動可能に構成される。
【0035】
偏向部36は、レーザ光Lの光路上に設けられており、レーザ発振器14から出力されたレーザ光Lを加工ヘッド40に向けて反射する。この偏向部36は、相互に直交する軸線回りに揺動可能な2つのガルバノミラー(不図示)を対向させて構成されており、2つのガルバノミラーを揺動させてレーザ光Lを偏向することで、加工ヘッド40(液体ジェット噴射ノズル48)から噴射される液体ジェットJに対する入射角度及び入射位置を変化させることができるようになっている。偏向部36は、レーザ光偏向手段の一例である。
【0036】
ビーム形状整形手段38は、偏向部36と加工ヘッド40との間に配置され、レーザ発振器14から偏向部36を介して入力されたレーザ光Lを整形する。このビーム形状整形手段38は、例えば、可変アパーチャー(矩形、円形)やアキシコンレンズ、ビームホモジナイザ、及びこれらをレーザ光Lと直交する方向へ微小移動する機構などで構成されており、加工ヘッド40に入射する前のレーザ光Lを所定の形状、サイズ、強度分布に整形する。また、AOD(音響光学素子)、SLM(空間変調素子)、DMD(Digital Mirror Device)、回折素子ならびに方解石などを用いて、レーザ光Lの分岐を含め、静的もしくは動的にレーザ光Lを整形することも可能である。
【0037】
加工ヘッド40は、液体供給手段20から供給された加圧液体を液体ジェットJにてワークWに向けて噴射するとともに、液体ジェットJの中にレーザ光Lを導光することにより、液体ジェットJにより誘導されたレーザ光LをワークWに照射する。加工ヘッド40の具体的な構成は、以下のとおりである。
【0038】
加工ヘッド40は、集光レンズ42と、ヘッド本体44とを備えている。
【0039】
集光レンズ42は、ヘッド本体44の前段(上方)に配置され、レーザ発振器14から偏向部36及びビーム形状整形手段38を介して入射したレーザ光Lをヘッド本体44の内部に向けて集光する。
【0040】
ヘッド本体44の内部には、液体チャンバ46が区画形成されている。液体チャンバ46は、液体供給手段20から供給された高圧液体を収容する。また、ヘッド本体44の下部には、液体ジェット噴射ノズル48が設けられており、液体ジェット噴射ノズル48は液体チャンバ46に連通している。したがって、液体供給手段20から加工ヘッド40に対して高圧液体が供給されると、その加圧液体は液体チャンバ46に収容され、さらに液体ジェット噴射ノズル48からワークW(又は後述するレーザ光分布観察装置26の遮蔽板52)に向けて液体ジェットJが噴射される。
【0041】
ヘッド本体44の上部には、窓部50が設けられている。窓部50は、レーザ光Lに対して光学的に透明な光透過性部材(例えば、石英ガラス)により構成されており、液体チャンバ46を密閉しかつレーザ光Lを透過する。したがって、集光レンズ42から出射したレーザ光Lは、窓部50を透過してヘッド本体44の内部(液体チャンバ46)に入射し、液体ジェット噴射ノズル48へ集光する。
【0042】
なお、本実施の形態では、一例として、ワークテーブル16がX方向及びθ方向に移動可能に構成され、ヘッドユニット22がY方向及びZ方向に移動可能に構成される態様を示したが、ワークテーブル16とヘッドユニット22とがX方向、Y方向、Z方向、及びθ方向に相対的に移動可能に構成されていればよく、本実施の形態とは異なる他の態様を適宜採用することができる。
【0043】
レーザ光分布観察装置26は、液体ジェットJにより誘導されるレーザ光Lの分布を観察する際に、ワークテーブル16に代えて、加工ヘッド40に対向する位置に配置される。
【0044】
レーザ光分布観察装置26は、図示しない観察装置駆動機構を備えており、X方向、Y方向、及びZ方向に移動可能に構成される。これにより、レーザ光分布観察装置26は、加工ヘッド40に対向する観察位置と、その観察位置から離間した退避位置との間で移動することができる。
【0045】
レーザ光分布観察装置26は、遮蔽板52と、液体除去手段54と、結像レンズ56と、光検出器58と、信号処理部62と、モニタ64とを備えている。
【0046】
遮蔽板52は、レーザ光分布観察装置26の上面(加工ヘッド40に対向する面)に設けられる。遮蔽板52は、レーザ光Lに対して光学的に透明な光透過部材(例えば、石英ガラス)により構成されており、液体ジェットJを遮蔽しかつレーザ光Lを透過する。したがって、加工ヘッド40の液体ジェット噴射ノズル48から噴射された液体ジェットJの液体は遮蔽板52により遮蔽される一方で、液体ジェットJに誘導されるレーザ光Lは遮蔽板52を透過し、レーザ光分布観察装置26を構成する本体部60の内部に入射する。
【0047】
遮蔽板52は、加工ヘッド40に対してワークテーブル16に保持されるワークWと相対的に同一の高さに配置される。なお、本実施の形態では、加工ヘッド40と遮蔽板52との間の距離が加工ヘッド40とワークWとの間の距離と等しければよい。すなわち、加工ヘッド40からワークWに液体ジェットJが噴射されるときの液体ジェットJの長さと、加工ヘッド40から遮蔽板52に液体ジェットJが噴射されるときの液体ジェットJの長さとが互いに等しければよく、ワークWと遮蔽板52とが絶対座標的に同一高さであることは必ずしも必要ではない。例えば、ワークWと遮蔽板52とが絶対座標的に異なる高さである場合でも、加工ヘッド40に対する相対的な高さが互いに同一であればよい。加工ヘッド40と遮蔽板52との間の距離は、ヘッドユニット22(加工ヘッド40)又はレーザ光分布観察装置26のZ方向の移動により、加工ヘッド40とワークWとの間の距離と等しくなるように調整される。
【0048】
液体除去手段54は、遮蔽板52により遮蔽された液体ジェットJの液体(残留液体)を除去する。液体除去手段54としては、例えば、残留液体を吸収により除去する液体吸収手段、残留液体を吸引により除去する液体吸引手段、残留液体を送風により除去する液体送風手段、あるいはこれらを組み合わせたものを適宜採用することができる。なお、液体吸収手段としては、布などの繊維質の帯状部材を遮蔽板52の表面に当接させることにより、毛細管現象を利用して残留液体を帯状部材に吸収させる構成を好ましく採用することができる。
【0049】
結像レンズ56は、本体部60の内部において遮蔽板52と光検出器58との間に配置される。結像レンズ56は、複数枚のレンズから構成されており、液体ジェットJにより誘導されるレーザ光Lの分布を光検出器58の受光面に投影する。すなわち、遮蔽板52と光検出器58とは結像レンズ56に対して互いに共役な位置関係に配置されており、液体ジェットJと遮蔽板52との接面におけるレーザ光Lの分布が結像レンズ56により光検出器58の受光面に忠実に再現される。
【0050】
光検出器58は、結像レンズ56により結像されたレーザ光Lの分布を示す投影像を受光する。光検出器58は、2次元的に配置された複数の受光素子を有し、各受光素子は受光した光量に応じた出力信号(電気信号)を出力する。光検出器58としては、例えば、CCDイメージセンサ(Charge Coupled Device Image Sensor)やCMOSイメージセンサ(Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor)などの固体撮像素子が好適に用いられる。光検出器58の各受光素子から出力される出力信号は信号処理部62に入力される。
【0051】
信号処理部62は、光検出器58に接続されており、光検出器58から出力された出力信号に基づいてレーザ光Lの分布を示す画像データ(レーザ光分布画像データ)を取得し、取得したレーザ光分布画像データをモニタ64に表示する。なお、信号処理部62は、画像データ取得手段の一例である。また、モニタ64は、表示手段の一例である。
【0052】
信号処理部62は、判定部66を備えている。判定部66は、レーザ光分布画像データが適正なレーザ光分布を示すものであるか否かを判定し、その判定結果をモニタ64に表示する。
【0053】
本実施の形態では、一例として、レーザ光分布観察装置26は、適正なレーザ光分布を示す1又は複数の基準画像データを記憶するメモリ部(不図示)を備えている。判定部66は、パターンマッチング等の公知の画像比較方法を用いて、レーザ光分布画像データとメモリ部に記憶される基準画像データとが一致しているか否かを判定する。
【0054】
制御部30は、CPU、メモリ、入出力回路部、及び各種制御回路部等からなり、レーザ加工装置10の各部の動作を制御する。
【0055】
図2は、液体ジェットJの中心軸と同軸にレーザ光Lが入射する場合の液体ジェットJ内のレーザ光経路を示した簡略図である。なお、液体ジェットJは、いわばSI型マルチモード光ファイバと同様の機能を有するため、実際には液体ジェットJへの進入角度ごとに液体ジェットJの中心軸方向(長手方向)の移動速度が変わり、それらが干渉し、さらに液体ジェットJの円柱状の外周面(円柱表面)の微小凹凸により発生するスペックルノイズにより複雑化していると考えられるが、ここでは説明を簡単にするために簡略図を用いて説明する。
【0056】
図2に示すように、集光レンズ42により集光されたレーザ光Lが液体ジェットJの中心軸と同軸に入射する場合、レーザ光Lは液体ジェットJの中で全反射により拡縮を繰り返しながら中心軸方向に沿って誘導される。例えば、
図2のaで示した位置ではレーザ光経路の腹部分(レーザ光Lが拡大した部分)にあたるため、その位置におけるレーザ光Lの断面形状(液体ジェットJの中心軸に垂直な断面形状)は液体ジェット径全体に一様に広がっている。一方、
図2のbで示した位置ではレーザ光経路の節部分(レーザ光Lが縮小した部分)にあたるため、液体ジェットJの中心の狭い範囲のみにレーザ光Lが集まった状態となる。
【0057】
図3は
図2のaに示した位置、
図4は
図2のbに示した位置にそれぞれ相当する位置でレーザ光Lの分布を実際に観察した結果を示した図である。また、
図5は
図3と同じ条件で、
図6は
図4と同じ条件でそれぞれワークWに直線状の加工溝を形成したときの加工溝の深さプロファイルを示した図である。
【0058】
これらの図から分かるように、液体ジェットJによって誘導されるレーザ光Lの分布は、液体ジェットJの中心軸方向の位置、すなわち、液体ジェットJの長さによって変化し、さらにレーザ光Lの分布の変化に応じて加工痕の形状も変化する。
【0059】
したがって、レーザ光Lの分布を変化させる制御を行うことによって、複数のレーザ光Lの分布の中から任意のレーザ光Lの分布を選択することにより加工痕形状を所望なものに制御することができる。
【0060】
次に、本実施の形態に係るレーザ加工装置10を用いたレーザ加工方法について
図7を参照して説明する。
図7は、本実施の形態に係るレーザ加工装置10を用いたレーザ加工方法の一例を示すフローチャートである。なお、特に断らない限り、各処理は制御部30の制御により実行される。
【0061】
(ステップS10:レーザ光分布取得工程)
レーザ光分布取得工程は、ワークWのレーザ加工に先立って行われる。
【0062】
まず始めに、レーザ光分布観察装置26は、図示しない観察装置駆動機構により観察位置(加工ヘッド40に対向する位置)に移動する。なお、遮蔽板52は、加工ヘッド40に対してワークテーブル16に保持されるワークWと相対的に同一の高さに配置される。
【0063】
次に、液体供給手段20から加工ヘッド40に加圧液体を供給する。加工ヘッド40に供給された加圧液体は液体チャンバ46に収容され、さらに液体ジェット噴射ノズル48から遮蔽板52に向けて液体ジェットJが噴射される。
【0064】
また、レーザ発振器14から出力されたレーザ光Lは、偏向部36により加工ヘッド40に向けて偏向され、ビーム形状整形手段38により所定の形状、サイズ、強度分布に整形され、集光レンズ42に入射する。さらに、レーザ光Lは、集光レンズ42により窓部50を介して液体ジェット噴射ノズル48へ集光される。これにより、レーザ光Lは、液体ジェットJに導光され、液体ジェットJにより誘導されて遮蔽板52に向けて照射される。
【0065】
一方、液体ジェット噴射ノズル48から噴射された液体ジェットJは遮蔽板52で遮蔽されるとともに、液体ジェットJにより誘導されたレーザ光Lは、遮蔽板52を透過して、結像レンズ56により光検出器58の受光面に結像される。その際、遮蔽板52と光検出器58とは結像レンズ56に対して互いに光学的に共役な位置関係に配置されるので、液体ジェットJと遮蔽板52との接面におけるレーザ光Lの分布が結像レンズ56により光検出器58の受光面に忠実に再現される。
【0066】
このようにして光検出器58の受光面にレーザ光Lの分布を示す投影像が結像されると、光検出器58の各受光素子はそれぞれ受光量に応じた出力信号を信号処理部62に対して出力する。
【0067】
信号処理部62は、光検出器58の各受光素子から出力される出力信号に基づきレーザ光Lの分布を示す画像データ(レーザ光分布画像データ)を取得し、取得したレーザ光分布画像データをモニタ64に表示する。
【0068】
したがって、ユーザは、液体ジェットJと遮蔽板52との接面におけるレーザ光Lの分布(液体ジェットJとワークWとの接面におけるレーザ光Lの分布に相当)を観察することが可能となる。これにより、予備的な加工を行うことなく、加工ヘッド40によりワークWを加工するときの加工痕形状を容易に予測することが可能となる。
【0069】
また、遮蔽板52により遮蔽された液体ジェットJの液体(残留液体)は液体除去手段54により除去される。そのため、遮蔽板52上の残留液体によるレーザ光Lの散乱の影響を受けることなく、レーザ光Lの分布を安定して精度よく観察することが可能となる。
【0070】
(ステップS12:レーザ光分布判定工程)
次に、信号処理部62における判定部66は、レーザ光分布観察工程(ステップS10)で取得したレーザ光分布画像データが適正なレーザ光分布を示すものであるか否かを判定する。本実施の形態では、一例として、判定部66は、パターンマッチング等の公知の画像比較方法を用いて、レーザ光分布画像データとメモリ部(不図示)に記憶されている基準画像データとが一致しているか否かを判定する。レーザ光分布画像データが適正でない場合(Noの場合)にはステップS14に進み、レーザ光分布画像データが適正である場合(Yesの場合)にはステップS16に進む。
【0071】
(ステップS14:レーザ光分布変更工程)
レーザ光分布判定工程(ステップS12)においてレーザ光分布画像データが適正でないと判定された場合、制御部30は、レーザ光Lの分布を変更する制御を行う。制御部30がレーザ光Lの分布を変更する態様としてはいくつかの態様が考えられる。なお、制御部30は、レーザ光分布制御手段の一例である。
【0072】
<第1の態様>
第1の態様として、制御部30は、ヘッドユニット22をZ方向に予め設定された移動量だけ移動させることにより、ヘッドユニット22の加工ヘッド40と遮蔽板52(ワークW)との間の距離、すなわち、液体ジェットJの長さを変化させる制御を行う。これにより、
図3や
図4に示したように、液体ジェットJと遮蔽板52(ワークW)との接面におけるレーザ光Lの分布を、液体ジェット径全体に一様に広がった状態(
図3、
図5参照)や、液体ジェットJの中心の狭い範囲のみに集まった状態(
図4、
図6参照)とすることができる。例えば、液体ジェット幅でU字状の加工痕形状を得たい場合には
図3に示したようなレーザ光分布を選択し、液体ジェット幅よりも細い加工痕形状を得たい場合には
図4に示したようなレーザ光分布を選択すればよい。これにより、所望の加工痕形状を得ることが可能となる。
【0073】
<第2の態様>
第2の態様として、制御部30は、偏向部36に配置される2つのガルバノミラーの向きを制御することにより、液体ジェットJに対するレーザ光Lの入射角度及び入射位置を変化させる制御を行う。これにより、レーザ光Lをドーナツ状の分布に設定することができる。
【0074】
図8は、液体ジェットJの中心軸と同軸ではなく斜めに傾けた状態で周辺部にレーザ光Lを入射した場合のレーザ光経路を示した簡略図であり、液体ジェットJを上流側(液体ジェット噴射ノズル48側)から下流側(ワークW側)に観察しているときに相当する図である。この場合、レーザ光経路が液体ジェットJの円柱状の外周面(円柱表面)に沿って液体ジェットJの中を螺旋状に回転しながら中心軸方向に進行していくため、レーザ光経路には、
図2のa、bの位置にそれぞれ形成される腹部分や節部分は形成されず、液体ジェットJの長さが変化してもレーザ光Lの分布及び加工痕形状は大きく変化しない。
【0075】
図9は、
図8に示すようにレーザ光Lを液体ジェットJに入射した場合にレーザ光Lの分布を実際に観察した結果を示した図である。また、
図10は、
図9と同じ条件でワークWに直線状の加工溝を形成したときの加工溝の深さプロファイルを示した図である。
図9及び
図10から分かるように、液体ジェットJの中心軸と同軸ではなく斜めに傾けた状態で周辺部にレーザ光Lを入射した場合には、レーザ光Lはドーナツ状の分布となり(
図9参照)、このときに形成される加工痕形状は、
図5や
図6に示した場合に比べて加工溝の底面が平坦化されたものとなる。
【0076】
このように第2の態様は、加工溝の底面を平坦にしたい場合に好適な態様である。また、液体ジェットJの長さが変化してもレーザ光Lの分布及び加工痕形状が大きく変化しないので、液体ジェットJの微小長さの変化に対する加工安定性を向上させることができる。
【0077】
<第3の態様>
第3の態様として、制御部30は、ビーム形状整形手段38を制御することにより、集光レンズ42に入射する前のレーザ光Lの形状、サイズ、又は強度分布を変化させる。例えば、ビーム形状整形手段38によりレーザ光Lのビーム径を変化させると、集光レンズ42により集光されるレーザ光Lの開口数が変化する。これにより、液体ジェットJ内のレーザ光経路が変化するので、第1の態様のように加工ヘッド40と遮蔽板52(ワークW)との間の距離(すなわち、液体ジェットJの長さ)を変化させなくても、レーザ光Lの分布及び加工痕形状を変化させることができ、液体ジェット幅でU字状の加工痕形状や液体ジェット幅よりも細い加工痕形状を得ることが可能となる。
【0078】
また、液体ジェット幅よりも細い加工痕形状を得たい場合には、ビーム形状整形手段38によりレーザ光Lをスリット状に整形すればよい。この場合、回折効果によりスリットで遮られた方向にレーザ光Lの分布が伸びるので、液体ジェット幅よりも細い加工痕形状を得ることができる。
【0079】
なお、ビーム形状整形手段38としては、例えば、可変アパ-チャ(矩形、円形)やアキシコンレンズ、ビームホモジナイザ、及びこれらをレーザ光Lと直交する方向へ微小移動する機構などで構成することが可能である。また、また、AOD(音響光学素子)、SLM(空間変調素子)、DMD(Digital Mirror Device)を用いることでレーザ光Lの分布を静的もしくは動的に制御したり、回折素子や方解石等によりレーザ光Lを分岐することで整形することにより加工痕形状を制御することも可能である。例えば、レーザ光Lの分布をビーム形状整形手段38で偏在させることにより、
図11に示す様な溝形状を形成することも可能となる。
【0080】
<第4の態様>
第4の態様として、制御部30は、液体供給手段20の加圧液体の圧力を変化させる制御を行う。例えば、加圧液体の圧力を上げるほど液体ジェットJの外壁がわずかに乱れるため、液体ジェットJの圧力分布がまばらになる。この場合、レーザ光Lの分布は全体に一様な分布となり、液体ジェット幅でU字状の加工痕形状を得ることができる。
【0081】
<第5の態様>
第5の態様として、制御部30は、液体ジェット噴射ノズル48のノズル径(直径)を変化させる制御を行う。この場合、液体ジェット噴射ノズル48のノズル径は、制御部30による制御によって可変できるように構成されている。なお、他の態様として、液体ジェット噴射ノズル48のノズル径が互いに異なる複数の加工ヘッド40の中から、制御部30の制御(あるいはユーザの指示)に従って、任意の加工ヘッド40を選択できるように構成されていてもよい。
【0082】
第5の態様によれば、液体ジェット噴射ノズル48のノズル径を変化させることにより、液体ジェット径が変化する。これにより、液体ジェットJにより誘導されるレーザ光Lの分布が変化し、その変化に応じて加工痕形状も変化させることができる。
【0083】
なお、制御部30は、上述した第1〜第5の態様のうち複数の態様を適宜組み合わせて、レーザ光Lの分布を変更する制御を行ってもよい。
【0084】
以上のようにして、レーザ光分布変更工程が行われた後、ステップS10に戻り、信号処理部62はレーザ光分布画像データを再取得し、判定部66によりレーザ光分布画像データが適正なものと判定されるまで同様の処理が繰り返し行われる。
【0085】
(ステップS16:レーザ加工工程)
レーザ光分布判定工程(ステップS12)においてレーザ光分布画像データが適正なものと判定された場合、レーザ加工工程が行われる。なお、レーザ加工工程が行われる場合には、レーザ光分布観察装置26は退避位置に移動する。
【0086】
まず、ワークテーブル16の保持面16aに吸着保持されたワークWは、図示しないアライメント手段によってθ方向のアライメントとXY方向の位置決めがなされる。なお、ワークWの表面(デバイス層が形成された側の面)を上向きにした状態でワークWはワークテーブル16上に載置される。
【0087】
アライメントが終了すると、Xテーブル32をX方向に移動しながら、加工ヘッド40の液体ジェット噴射ノズル48からワークWに向かって液体ジェットJが噴射されるとともに、液体ジェットJにより誘導されたレーザ光LがワークWに照射される。これにより、膜剥がれやバリ等が発生することなく、ワークWには所定深さの加工溝が分割予定ラインに沿って形成される。
【0088】
1ラインの加工溝の形成が終了すると、ヘッドユニット22が取り付けられたYテーブルがY方向にインデックス送りされ、次のラインも同様に加工溝が形成される。
【0089】
全てのX方向と平行な切断予定ラインに沿って加工溝が形成されると、θ回転テーブル34が90°回転され、先程のラインと直交するラインも同様にして全て加工溝が形成される。
【0090】
以上のとおり、本実施の形態によれば、レーザ光分布観察装置26では、遮蔽板52と光検出器58とが結像レンズ56に対して互いに共役な位置関係に配置されるので、液体ジェットJと遮蔽板52との接面におけるレーザ光Lの分布(液体ジェットJとワークWとの接面におけるレーザ光Lの分布に相当)を光検出器58の受光面に忠実に再現することができる。これにより、液体ジェットJに誘導されるレーザ光Lの分布を観察することが可能となるので、予備的な加工を行うことなく、加工痕形状を容易に予測することが可能となる。その結果、全体のスループットが向上し、コストダウンを図ることができる。
【0091】
また、本実施の形態によれば、制御部30によりレーザ光Lの分布を変化させる制御が行われるので、複数のレーザ光Lの分布の中から任意のレーザ光Lの分布を選択することにより加工痕形状を所望なものに制御することができる。
【0092】
なお、本実施の形態では、一例として、信号処理部62に具備される判定部66によってレーザ光分布画像データが適正なレーザ光分布を示すものであるか否かが自動的に判定される態様を示したが、これに限らず、例えば、ユーザが、モニタ64に表示されたレーザ光分布画像データを確認することにより所望のレーザ光Lの分布であるか否かを判定するようにしてもよい。この場合、信号処理部62には判定部66が不要となる。
【0093】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。