(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、食品の品質に対する関心がますます向上しつつあり、揚げ物等の加工食品に活用されている食用油脂についても例外ではない。食用油脂は、一般的に熱と光により劣化する。この時、水分の存在により加水分解劣化が、また、酸素の存在により酸化劣化が起こり、風味や色調も劣化する。特に、フライ、天ぷら、から揚げ等のフライ調理では水分を多く含むため、180℃前後の油で加熱調理を行う場合には、加水分解劣化を抑えることが重要となる。また、スーパー、飲食店、レストラン等で使用される業務用の加熱調理用油脂は、長時間にわたって大量のフライ調理品を高温で加熱調理することが多いため、劣化が早く進行し、フライ調理品の風味や外観にも悪影響を及ぼす。このため短期間で廃棄・交換しなければならないが、経済面、環境面でも負担が大きいため、加熱調理用油脂の劣化抑制技術が必要とされている。
【0003】
加熱調理用油脂の加熱による劣化の指標としては、油脂の加水分解や酸化などによって生成した遊離脂肪酸量を間接的に示す「酸価」が代表的に用いられており、加熱による酸価上昇を抑制することが検討されてきた。例えば、特許文献1では、ナトリウム、カリウムから選ばれる1以上の成分を油脂中に0.1〜1μmol/g含有させることによって、加熱による油脂の酸価上昇を抑制する発明が開示されている。
【0004】
ところで、加熱調理用油脂の加熱による劣化の指標として、酸価上昇の他に、着色、泡立ちなども劣化の指標とされている。着色は、揚げダネなどの調理対象物から溶出した物質の加熱や、油脂の加熱により生じる共役ジエン量やカルボニル、ヒドロキシ、エポキシ基などが共働的に関与していると考えられ、フライ製品への着色を引き起こす原因にもなる。泡立ちは、主として、油脂の加熱により生成する油脂重合物や、揚げ種から溶出するリン脂質等によって引き起こされると考えられており、フライ時の作業性、安全性の低下を引き起こす。
なお、特許文献2には、アルカリ金属を含むリン脂質と有機酸モノグリセリドを配合した炒め油が開示され、リン脂質配合油の欠点として高温加熱による着色、泡立ち、異臭等が挙げられているが、改善されているのは泡立ちと風味のみであり、より長時間高温加熱にさらされるフライ油には適さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸価上昇、着色、泡立ちなどの劣化の各指標は、それぞれ評価対象が異なるため、1の指標だけでなく、酸価上昇、着色および重合物生成の全てをバランスよく抑制することができ、フライ時の作業性や安全性をも向上させることができる手段が必要とされている。
【0007】
そこで、本発明は、加熱による酸価上昇、着色および重合物生成をバランスよく抑制することができる加熱調理用油脂組成物およびその製造方法、ならびに加熱調理用油脂の加熱による劣化を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、油脂と、有機酸モノグリセリドと、アルカリ金属とを含有し、加熱調理用油脂組成物中の、該有機酸モノグリセリドの含有量が0.01〜
0.31質量%であり、該アルカリ金属の含有量が0.1〜
1.5質量ppmであることを特徴とする。
【0009】
本発明の加熱調理用油脂組成物では、前記有機酸モノグリセリドの有機酸が、コハク酸およびクエン酸からなる群より選択される少なくとも1つ以上であ
る。
【0010】
本発明の加熱調理用油脂組成物は、フライ用であること
が好ましい。
【0011】
本発明の加熱調理用油脂組成物では、前記有機酸モノグリセリドと前記アルカリ金属が、アルカリ金属を含む有機酸モノグリセリドであることがよ
り好ましい。
【0012】
本発明の加熱調理用油脂組成物の製造方法は、油脂の精製工程の後に、精製油脂に、有機酸モノグリセリドと、アルカリ金属を含有する成分を、加熱調理用油脂組成物中の、該有機酸モノグリセリドの含有量が0.01〜
0.31質量%、該アルカリ金属の含有量が0.1〜
1.5質量ppmとなるように添加することを特徴とする。
【0013】
本発明の加熱調理用油脂組成物の製造方法では、前記有機酸モノグリセリドの有機酸が、コハク酸およびクエン酸からなる群より選択される少なくとも1つ以上であ
る。
【0014】
本発明の加熱調理用油脂の加熱による劣化を抑制する方法は、加熱調理用油脂に、有機酸モノグリセリドおよび/又はアルカリ金属を含有する成分を、加熱調理用油脂中の、該有機酸モノグリセリドの含有量が0.01〜
0.31質量%、該アルカリ金属の含有量が0.1〜
1.5質量ppmとなるように添加することを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の加熱調理用油脂の加熱による劣化を抑制する方法では、前記有機酸モノグリセリドの有機酸が、コハク酸およびクエン酸からなる群より選択される少なくとも1つ以上であ
る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加熱による酸価上昇、着色および重合物生成をバランスよく抑制あるいは低減することができる加熱調理用油脂組成物及びその製造方法を提供することができる。また、加熱による酸価上昇、着色および重合物生成をバランスよく抑制あるいは低減することができる、加熱調理用油脂の加熱による劣化を抑制する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、油脂に有機酸モノグリセリドとアルカリ金属とを含有させることによって、業務用のフライ調理用油脂のような高温且つ長時間の過酷な使用条件下においても、加熱による酸価上昇、着色および重合物生成をバランスよく抑制あるいは低減することができることを見出した。この知見に基づき、本願発明の加熱調理用油脂組成物およびその製造方法、ならびに加熱調理用油脂の加熱による劣化を抑制する方法を完成するに至った。
【0018】
<加熱調理用油脂組成物>
以下、本発明の加熱調理用油脂組成物について、その含有成分ごとに詳説する。
【0019】
(油脂)
本発明の加熱調理用油脂組成物は、通常の加熱調理用油脂を主成分として含む。通常の加熱調理用油脂は、一般に加熱調理用として使用される動植物油脂及びその水素添加油、分別油、エステル交換油などを単独あるいは組み合わせて用いることができる。動植物油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などが挙げられる。室温で固形化するものは、使用時に加熱により溶解させる必要があるので、20℃で液状の態様のものが好ましい。原料油脂そのものが20℃で固体であっても、他の原料油脂と併用して用いることによって、油脂全体として液状であれば好適に使用できる。特に、融点の低い液状油でありながら、酸化安定性も良好であるという利点を有することから、なたね油、なたね油と大豆油との混合物などを好適に使用することができる。
本発明の加熱調理用油脂組成物において、上記通常の加熱調理用油脂は、有機酸モノグリセリド、アルカリ金属および必要に応じて添加される他の添加剤を除く残部を構成するのが好ましい。
【0020】
(有機酸モノグリセリド)
本発明の加熱調理用油脂組成物は、有機酸モノグリセリドを含有する。有機酸モノグリセリドは、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリド)の水酸基に有機酸が結合した構造を有する。有機酸モノグリセリドを構成する有機酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、等が挙げられる。中でも、コハク酸およびクエン酸からなる群より選択される少なくとも1つ以上であるのが好ましい。
【0021】
有機酸モノグリセリドを構成する脂肪酸残基としては、特に限定されないが、例えば、オレイン酸、エルカ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、これら脂肪酸の混合脂肪酸、あるいはパーム油、菜種油、サフラワー油、大豆油等由来の混合脂肪酸の脂肪酸残基とすることができる。
【0022】
本発明で使用できる有機酸モノグリセリドの例としては、コハク酸モノオレイン酸グリセリン、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、コハク酸モノステアリン酸グリセリン、クエン酸モノステアリン酸グリセリン、ジアセチル酒石酸モノステアリン酸グリセリン、ジアセチル酒石酸モノオレイン酸グリセリン、乳酸モノオレイン酸グリセリン、乳酸モノステアリン酸グリセリンなどが挙げられる。これら有機酸モノグリセリドは、食品添加用の乳化剤として市販されているものを使用することができる。例えば、コハク酸モノオレイン酸グリセリンとして、「サンソフトNo.683CB」(太陽化学株式会社製)を、クエン酸モノオレイン酸グリセリンとして、「サンソフトプラスF」(太陽化学株式会社製)等を使用することができる。
なお、これらの有機酸モノグリセリドは、通常、無触媒で製造されるが、本発明では、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等をアルカリ触媒として用いて製造し、アルカリ触媒由来のアルカリ金属がカルボン酸塩として残存している有機酸モノグリセリドを用いてもよい。本発明では、「アルカリ金属を含む有機酸モノグリセリド」の例として、当該アルカリ触媒由来のアルカリ金属が残存している有機酸モノグリセリドを挙げることができる。
【0023】
本発明の加熱調理用油脂組成物中の有機酸モノグリセリドの含有量は、0.01〜1.0質量%である。有機酸モノグリセリドの含有量が0.01〜1.0質量%であれば、アルカリ金属と組み合わせることにより、酸価上昇、着色および重合物生成の抑制又は低減の効果をバランスよく発揮することができるからである。有機酸モノグリセリドの含有量は、0.01〜0.1質量%であるのが好ましく、0.05〜0.1質量%であるのがより好ましい。
【0024】
3.アルカリ金属
本発明の加熱調理用油脂組成物は、アルカリ金属を含有する。アルカリ金属としては、特に限定されないが、ナトリウムおよびカリウムからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。これらアルカリ金属は、アルカリ金属を含有する成分として添加することができる。アルカリ金属を含有する成分としては、例えば、前述のアルカリ触媒を用いて製造した、アルカリ金属を含む有機酸モノグリセリドや、他のアルカリ触媒を用いて製造した、アルカリ金属を含むポリグリセリン脂肪酸エステルやアルカリ金属を含むショ糖脂肪酸エステルなどを用いることができる。本発明の加熱調理用油脂組成物では、有機酸モノグリセリドと、アルカリ金属を含む成分が、アルカリ金属を含む有機酸モノグリセリドとして含まれることが好ましい。
【0025】
あるいは、アルカリ金属を含有する成分としては、食品添加物として使用可能な水溶性又は油溶性の塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などを用いることができる。ナトリウム塩およびカリウム塩としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、L−アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、カゼインナトリウム、DL−酒石酸ナトリウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0026】
本発明の加熱調理用油脂組成物中のアルカリ金属の含有量は、0.1〜5.0質量ppmである。アルカリ金属の含有量が0.1〜5.0質量ppmであれば、上記有機酸モノグリセリドと組み合わせることにより、酸価上昇、着色および重合物生成の抑制又は低減の効果をバランスよく発揮することができるからである。アルカリ金属の含有量が0.1〜1.0質量ppmであるのが好ましく、0.1〜0.5質量ppmであるのがより好ましい。アルカリ金属の含有量は、上記アルカリ金属を含有する成分を加熱調理用油脂組成物に含有させた状態で、原子吸光光度法によって定量することができる。
【0027】
4.その他の成分
本発明の加熱調理用油脂組成物中には、本発明の効果を損ねない程度に、その他の成分を加えることができる。これらの成分とは、例えば、一般的な油脂に用いられる成分(食品添加物など)である。これらの成分としては、例えば、酸化防止剤、有機酸モノグリセリド以外の他の乳化剤、シリコーンオイル、結晶調整剤、食感改良剤等が挙げられ、脱臭後から充填前に添加されることが好ましい。また、リン脂質等の加熱により着色を引き起こす成分は、着色しない範囲で添加することが好ましく、例えば、リン脂質は0.01質量%未満の添加量、あるいは含有量であることが好ましい。
【0028】
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、アスコルビン酸類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類等が挙げられる。有機酸モノグリセリド以外の他の乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレート、ジアシルグリセロール、ワックス類、ステロールエステル類、リン脂質等から適宜選択される。
【0029】
シリコーンオイルとしては、食品用途で市販されているものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、ジメチルポリシロキサン構造を持ち、動粘度が25℃で800〜5000mm
2/sのものが挙げられる。シリコーンオイルの動粘度は、特に800〜2000mm
2/s、さらに900〜1100mm
2/sであることが好ましい。ここで、「動粘度」とは、JIS K 2283(2000)に準拠して測定される値を指すものとする。シリコーンオイルは、シリコーンオイル以外に微粒子シリカを含んでいてもよい。
【0030】
<加熱調理用油脂組成物の用途>
本発明の加熱調理用油脂組成物は、あらゆる加熱調理用途に用いることができるが、加熱による酸価上昇、着色および重合物生成をバランスよく抑制あるいは低減することができ、加熱による劣化を効果的に抑制できるため、フライ用であること、すなわち、フライ用油脂として使用することが好ましい。フライ用油脂は、他の加熱調理用途よりも高温且つ長時間の加熱や反復使用等の過酷な条件下で使用されることが多く、加熱調理用油脂組成物の加熱による劣化の抑制が特に必要とされるからである。
【0031】
<加熱調理用油脂組成物の製造方法>
本発明の加熱調理用油脂組成物の製造方法に使用される油脂は、一般の油脂と同様、植物の種子若しくは果実、または動物性材料から搾油された粗油を出発原料として用い、順に、必要に応じて、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程を経て、さらに必要に応じて脱ろう工程を介した後、脱臭工程を経た精製により製造することができる。上記脱ガム工程、脱酸工程、および脱ろう工程は、採油される前の油糧原料に応じて変動し得る粗油の品質に応じて適宜選択される。
【0032】
本発明の製造方法では、上記のような油脂の精製工程に加えて、精製油脂に、有機酸モノグリセリドと、アルカリ金属を含有する成分とを、加熱調理用油脂組成物中の、該有機酸モノグリセリドの含有量が0.01〜1.0質量%、該アルカリ金属の含有量が0.1〜5.0質量ppmとなるように添加する工程を含む。有機酸モノグリセリドは、精製工程後の油脂を加熱した後、添加、溶解することにより配合されることが好ましい。アルカリ金属を含有する成分は、上述するアルカリ金属を含む有機酸モノグリセリド、アルカリ金属を含むポリグリセリン脂肪酸エステルやアルカリ金属を含むショ糖脂肪酸エステルであってもよく、上述するアルカリ金属塩であってもよい。アルカリ金属塩の場合は、少量の溶媒(水や精製油脂)に溶解させてアルカリ金属塩溶液とし、必要に応じて有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、モノグリセリドなどの乳化剤と混合してから、大量の精製油脂に添加することもできる。「有機酸モノグリセリド」と「アルカリ金属を含有する成分」として、アルカリ金属を含む有機酸モノグリセリドを添加してもよい。
【0033】
有機酸モノグリセリドと、アルカリ金属を含有する成分とを添加後、攪拌などにより有機酸モノグリセリドおよびアルカリ金属を油脂中に均一に溶解又は分散させた後に、必要に応じて脱水処理を行う。なお、脱水は約70〜105℃で減圧にて行うことが好ましい。また、乳化剤と混合して、精製油脂に添加する場合は、乳化剤との混合・脱水後に精製油脂に添加してもよい。
【0034】
本発明の製造方法は、必要に応じて、他の添加剤を添加する工程も含んでいてもよい。他の添加剤の添加工程は、油脂の精製工程後であるのが望ましく、その添加時の油脂温度等の条件は、添加剤の種類、目的によって適宜変更されるのが望ましい。
【0035】
<加熱調理用油脂の加熱による劣化を抑制する方法>
本発明の加熱調理用油脂の加熱による劣化を抑制する方法は、加熱調理用油脂に、有機酸モノグリセリドおよび/又はアルカリ金属を含有する成分を、該加熱調理用油脂中の、該有機酸モノグリセリドの含有量が0.01〜1.0質量%、該アルカリ金属の含有量が0.1〜5.0質量ppmとなるように添加することを含む。加熱調理用油脂としては、上述した通常の加熱調理用油脂を使用することができる。有機酸モノグリセリド、アルカリ金属を含有する成分、およびアルカリ金属は、それぞれ上述する通りである。
【0036】
加熱調理用油脂に、有機酸モノグリセリドおよび/又はアルカリ金属を含有する成分を添加する手法としては、本発明の加熱調理用油脂組成物の製造方法において、有機酸モノグリセリドと、アルカリ金属を含有する成分を添加する工程について上述する手法を使用することができる。有機酸モノグリセリドおよび/又はアルカリ金属を含有する成分が添加される加熱調理用油脂は、上述する精製油脂でも、他の添加剤を含有する油脂でも、有機酸モノグリセリドおよび/又はアルカリ金属を予め含む油脂でもよく、未使用のものでも、調理に使用したものでもよい。また、「有機酸モノグリセリド」および「アルカリ金属を含有する成分」として、アルカリ金属を含む有機酸モノグリセリドを添加してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
下記表1に示す配合で、実施例
、参考例および比較例のサンプル油を調製し、加熱試験を行った後、酸価、色度および色値、重合物の量について評価を行った。サンプル油の調製の手順、加熱試験の手順、評価方法、結果を具体的に下記に示す。
【0039】
<サンプル油の調製>
油脂として日清キャノーラ油(日清オイリオグループ(株)製)を使用した。
コハク酸モノグリセリドとしては、オレイン酸モノグリセリドとコハク酸を無触媒、水酸化ナトリウム触媒存在下、あるいは水酸化カリウム触媒存在下のそれぞれで、加熱混合して得た、酸価が110のコハク酸モノオレイン酸グリセリンを使用した。
クエン酸モノグリセリドとしては、クエン酸モノオレイン酸グリセリン(太陽化学株式会社製サンソフトプラスF、HLB7)を使用した。
有機酸モノグリセリド以外の他の乳化剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学株式会社製サンソフトQ−1710S、HLB3)を使用した。
【0040】
比較例1は、有機酸モノグリセリドもアルカリ金属もポリグリセリン脂肪酸エステルも含まない油脂のみとした。
実施例1、
および参考例4、6では、水酸化ナトリウムを触媒に用いて得たコハク酸モノオレイン酸エステルを、油脂に均一に添加した。実施
例3,5,
および参考例7では、水酸化カリウムを触媒に用いたコハク酸モノオレイン酸エステルを、油脂に均一に混合した。このように調製した後、原子吸光光度計(日立社製Z2310)によって、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム)含有量を測定した。
比較例2、4、5、7、8および9ならびに実施例2では、ナトリウム又はカリウムを、オレイン酸ナトリウム又はオレイン酸カリウム(オレイン酸石鹸)として添加した。得られた油脂のアルカリ金属(ナトリウム、カリウム)含有量を原子吸光光度計(日立社製Z2310)によって、測定した。
比較例3および7は、有機酸モノグリセリド(無触媒で製造したコハク酸モノオレイン酸グリセリン)のみを油脂に溶解した。
【0041】
<加熱試験>
直径22mm、長さ200mmの試験管に、調製したサンプル油を10.0g入れた。サンプル油を入れた試験管をオイルバス(185℃)に入れ、1日あたり8時間ずつ3日間、合計24時間にわたって加熱した。
【0042】
<酸価>
加熱したサンプル油の酸価を、基準油脂分析試験法「2.3.1−2013 酸価」(日本油脂化学会制定)に従って測定した。酸価は、油脂中に含まれる遊離脂肪酸の量を示すもので、サンプル油1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表わす。酸価の数値が小さいほど、遊離脂肪酸量が少なく、酸価の上昇が抑制されていることを意味する。
<色度及び色値>
加熱したサンプル油の着色度合いを、ロビボンド比色計(The Tintometer Limited社製Lovibond PFX995)で1/2インチセルを使用して、黄の色度(Y)、赤の色度(R)を測定した。色度の数値が小さい程、色が薄く、着色が抑制されていることを意味する。
また、見た目の着色度合いを反映する値として、色値(Y+10R)も算出して評価した。色値の数値が小さい程、見た目の着色度合いが薄く、着色が抑制されていることを意味する。
<重合物>
加熱したサンプル油に含まれる重合物の量を、基準油脂分析試験法「2.5.7−2013 油脂重合物(ゲル浸透クロマトグラフ法)」(日本油脂化学会制定)に従って測定した。数値が小さい程、重合物の生成が抑制されていることを意味する。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
実施例のサンプル油では、油脂のみからなる比較例1と比べて、酸価上昇、着色、重合物生成といった劣化の指標全てについて、バランスよく抑制あるいは低減することができた。
アルカリ金属をオレイン酸石鹸として含み且つ有機酸モノグリセリドを含まない比較例2、5、6、8および9では、比較例1と比べて、酸価上昇および重合物生成は抑制されていたが、着色は促進されていた。
有機酸モノグリセリドのみを少量含む比較例3では、酸価上昇、着色および重合物生成に多少の抑制効果を示したが、有機酸モノグリセリドのみを増量して含む比較例7では、酸価上昇および着色をむしろ促進した。
実施例2の有機酸モノグリセリドに代えて別の乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを含む比較例4では、比較例1と比べて、酸価上昇および重合物生成は抑制されていたが、着色は促進されていた。