(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6689571
(24)【登録日】2020年4月10日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】希土類焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
B30B 11/00 20060101AFI20200421BHJP
B22F 3/00 20060101ALI20200421BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20200421BHJP
B22F 3/035 20060101ALI20200421BHJP
B30B 11/02 20060101ALI20200421BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20200421BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
B30B11/00 J
B30B11/00 A
B30B11/00 G
B22F3/00 E
B22F3/02 A
B22F3/02 R
B22F3/035 E
B22F3/035 F
B30B11/02 H
C22C33/02 H
C22C38/00 303D
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-43326(P2015-43326)
(22)【出願日】2015年3月5日
(65)【公開番号】特開2016-159351(P2016-159351A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年1月25日
【審判番号】不服2018-15013(P2018-15013/J1)
【審判請求日】2018年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 修
(72)【発明者】
【氏名】梅林 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 竜二
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴弘
【合議体】
【審判長】
栗田 雅弘
【審判官】
見目 省二
【審判官】
青木 良憲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−197997(JP,A)
【文献】
特開2012−234871(JP,A)
【文献】
実公昭37−21508(JP,Y2)
【文献】
特開2004−106041(JP,A)
【文献】
米国特許第4150927(US,A)
【文献】
特開平10−8102(JP,A)
【文献】
特開2006−142313(JP,A)
【文献】
特開2002−86300(JP,A)
【文献】
特開2013−176583(JP,A)
【文献】
特開2008−272774(JP,A)
【文献】
特開2009−12039(JP,A)
【文献】
特開平9−168898(JP,A)
【文献】
実開平2−76695(JP,U)
【文献】
特開2008−221340(JP,A)
【文献】
特開2005−277180(JP,A)
【文献】
特開2007−217511(JP,A)
【文献】
特表2005−502770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 11/00 - 11/02
B22F 3/00 - 3/035
C22C 33/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に上下動するダイス、上パンチ及び下パンチを具備し、上記ダイスに下側から進入した下パンチ上面と該ダイスの凹部や傾斜部のない平滑な内周面とで形成される空間に材料粉末を投入し、上記上パンチを該ダイスに上側から進入させて該上パンチと上記下パンチとの間で上記成形用粉末を加圧圧縮して、上記材料粉末を所望の形状に成形し、上記上パンチを相対的に上動させて上記ダイスの上端面を開放すると共に、上記下パンチを相対的に上動させて成形体を押し上げ、該成形体を開放した上記ダイスの上端面から取り出すように構成された粉末成形装置を用いて希土類合金粉末を加圧圧縮成形して成形体を得、この成形体を加熱処理して焼結させる希土類焼結磁石の製造方法において、
上記粉末成形装置の上記下パンチの外周面に全周に亘るリング状の溝を形成すると共に、この溝に潤滑剤を含浸可能な弾性材料からなる塗布材を取り付け、かつこの塗布材に潤滑剤を供給する潤滑剤供給路を該下パンチに設け、該潤滑剤供給路を通して上記塗布材に潤滑剤を供給し、上記成形動作の際に上記下パンチが上記ダイス内で相対的に上下動することにより、該塗布材に含浸された上記潤滑剤が上記ダイス内面に塗布され、上記成形動作を繰り返すことにより、その都度この潤滑剤塗布動作を繰り返すこと、また上記希土類合金粉末を上記下パンチ上面と上記ダイス内周面とで形成される空間に投入して該空間を該希土類合金粉末で満たした後、上記下パンチを相対的に下動させて該希土類合金粉末の上側に上記上パンチを上記ダイスに挿入するための予備空間を形成し、この予備空間に上記上パンチを挿入し該予備空間の分だけ下動させて、該上パンチを希土類合金粉末の上面に接触させた状態にセットした後、該上パンチと上記下パンチとの間で上記希土類合金粉末を加圧圧縮すること、更に上記粉末成形装置が、上記下パンチ上面と上記ダイス内周面とで形成される空間に磁場を印加する磁場印加手段を具備し、上記材料粉末に磁場を印加するように構成されたものであり、上記予備空間に上記上パンチを挿入して該上パンチを希土類合金粉末の上面に接触させた状態で上記磁場印加手段により磁場を印加して、上記希土類合金粉末を着磁し、分散、配向させた後、この希土類合金粉末を、その配向が乱れないように磁場の印加を続けながら、上記上パンチと上記下パンチとの間で加圧圧縮して、上記成形体とすることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
上記塗布材が、潤滑剤を0.01g/cm2以上含浸可能なフェルト材、不織布又はスポンジ材である請求項1記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
上記上パンチ、下パンチ又はその両方で成形体を加圧しながら上下両パンチ間に成形体を所定圧力で挟んだまま、該上下両パンチをダイスと相対的に上動させて成形体をダイスから取り出すようにした請求項1又は2記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
上下両パンチ間に成形体を挟んだ状態で該上下両パンチをダイスと相対的に上動させて成形体をダイスから取り出す際、上下両パンチの移動中に上記加圧の圧力を増加又は減少させる請求項3記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
上記潤滑剤が、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸メチル、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸から選ばれる1種又は2種以上を揮発性溶媒に溶解したものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
上記揮発性溶媒が、沸点50〜150℃のフロン類である請求項5記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
上記加圧圧縮成形後、上記磁場印加手段により着磁時とは逆方向でかつ着磁時よりも弱い磁場を印加して脱磁処理を施した後、上記成形体を上記ダイスから取り出す請求項1〜6のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類焼結磁石などを製造する際に好適に用いられる粉末成形装置、及び希土類焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd磁石を代表とする希土類焼結磁石は、高い磁気特性を有していることから、近年、ハードディスク、エアコン、ハイブリッド車等に使用される各種モーター、センサーなどに広く使用されるようになっている。
【0003】
希土類焼結磁石は、通常、粉末冶金法により、次のような工程を経て製造される。まず、所定の組成となるよう原料を配合し、高周波溶解炉等を用いて溶解、鋳造することにより合金を作製し、この合金をジョークラッシャー、ブラウンミル、ピンミル等の粉砕機、水素粉砕法(水素脆化処理)などで粗粉砕し、更に、ジェットミル等により微粉砕して、平均粒径1〜10μmの微粉末を得る。次いで、磁気異方性を付与するために、微粉末を磁場中にて所望の形状に成形して成形体を作製し、焼結及び熱処理を施すことによって焼結磁石を得る。
【0004】
一般的な粉末冶金法による希土類焼結磁石の製造における磁場中成形法としては、ダイス、上パンチ及び下パンチからなる金型のダイス及び下パンチで形成したキャビティに微粉末を充填し、上パンチと下パンチの間で一軸加圧する金型成形が行われており、その際上記ダイスの成形面に潤滑剤を塗布して上下パンチとダイス内面との摩擦を低減させると共に成形物の離型性を向上させることが行われている。
【0005】
この潤滑剤の塗布は、ダイスの内面に潤滑剤をスプレーするなどの方法が一般に採用されているが、この方法では所定回数成形を行う度、又は成形を行う度に、成形動作を一旦停止して潤滑剤の塗布作業を行うことになり、この潤滑剤の塗布作業が生産性を低下させることにもなる。このため、より効率的に潤滑剤の塗布を行うことができ、希土類焼結磁石の生産性を向上させることができる方策の開発が望まれる。なお、本発明に関連する従来技術としては、下記特許文献1〜5を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−214803号公報
【特許文献2】特開平9−104902号公報
【特許文献3】特開2000−197997号公報
【特許文献4】特開2003−25099号公報
【特許文献5】特開2006−187775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、相対的に上下動するダイス、下パンチ及び上パンチを具備した粉末成形機により材料粉末を加圧圧縮成形する際に、生産性を低下させることなく効率的に潤滑剤を塗布して成形を行うことができ、希土類焼結磁石を製造する際の成形工程に好適に採用することができる粉末成形装置、及び該成形装置を用いた希土類焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、下記請求項1〜7の希土類焼結磁石の製造方法を提供する。
請求項1:
相対的に上下動するダイス、上パンチ及び下パンチを具備し、上記ダイスに下側から進入した下パンチ上面と該ダイスの凹部や傾斜部のない平滑な内周面とで形成される空間に材料粉末を投入し、上記上パンチを該ダイスに上側から進入させて該上パンチと上記下パンチとの間で上記成形用粉末を加圧圧縮して、上記材料粉末を所望の形状に成形し、上記上パンチを相対的に上動させて上記ダイスの上端面を開放すると共に、上記下パンチを相対的に上動させて成形体を押し上げ、該成形体を開放した上記ダイスの上端面から取り出すように構成された粉末成形装置を用いて希土類合金粉末を加圧圧縮成形して成形体を得、この成形体を加熱処理して焼結させる希土類焼結磁石の製造方法において、
上記粉末成形装置の上記下パンチの外周面に全周に亘るリング状の溝を形成すると共に、この溝に潤滑剤を含浸可能な弾性材料からなる塗布材を取り付け、かつこの塗布材に潤滑剤を供給する潤滑剤供給路を該下パンチに設け、該潤滑剤供給路を通して上記塗布材に潤滑剤を供給し、上記成形動作の際に上記下パンチが上記ダイス内で相対的に上下動することにより、該塗布材に含浸された上記潤滑剤が上記ダイス内面に塗布され、上記成形動作を繰り返すことにより、その都度この潤滑剤塗布動作を繰り返すこと、また上記希土類合金粉末を上記下パンチ上面と上記ダイス内周面とで形成される空間に投入して該空間を該希土類合金粉末で満たした後、上記下パンチを相対的に下動させて該希土類合金粉末の上側に上記上パンチを上記ダイスに挿入するための予備空間を形成し、この予備空間に上記上パンチを挿入し
該予備空間の分だけ下動させて、該上パンチを希土類合金粉末の上面に接触させた状態にセットした後、該上パンチと上記下パンチとの間で上記希土類合金粉末を加圧圧縮すること、更に上記粉末成形装置が、上記下パンチ上面と上記ダイス内周面とで形成される空間に磁場を印加する磁場印加手段を具備し、上記材料粉末に磁場を印加するように構成されたものであり、上記予備空間に上記上パンチを挿入して該上パンチを希土類合金粉末の上面に接触させた状態で上記磁場印加手段により磁場を印加して、上記希土類合金粉末を着磁し、分散、配向させた後、この希土類合金粉末を、その配向が乱れないように磁場の印加を続けながら、上記上パンチと上記下パンチとの間で加圧圧縮して、上記成形体とすることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
請求項2:
上記塗布材が、潤滑剤を0.01g/cm
2以上含浸可能なフェルト材、不織布又はスポンジ材である請求項1記載の希土類焼結磁石の製造方法。
請求項3:
上記上パンチ、下パンチ又はその両方で成形体を加圧しながら上下両パンチ間に成形体を所定圧力で挟んだまま、該上下両パンチをダイスと相対的に上動させて成形体をダイスから取り出すようにした請求項1又は2記載の希土類焼結磁石の製造方法。
請求項4:
上下両パンチ間に成形体を挟んだ状態で該上下両パンチをダイスと相対的に上動させて成形体をダイスから取り出す際、上下両パンチの移動中に上記加圧の圧力を増加又は減少させる請求項3記載の希土類焼結磁石の製造方法。
請求項5:
上記潤滑剤が、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸メチル、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸から選ばれる1種又は2種以上を揮発性溶媒に溶解したものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
請求項6:
上記揮発性溶媒が、沸点50〜150℃のフロン類である請求項5記載の希土類焼結磁石の製造方法。
請求項7:
上記加圧圧縮成形後、上記磁場印加手段により着磁時とは逆方向でかつ着磁時よりも弱い磁場を印加して脱磁処理を施した後、上記成形体を上記ダイスから取り出す請求項1〜6のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【0009】
即ち、
本発明の製造方法では、粉末成形装置の下パンチの外周面に全周に亘ってリング状に取り付けられた塗布材に潤滑剤が含浸された状態で成形が行われ、成形時に下パンチがダイス内で上下動することにより、成形を行う度に塗布材に含浸された潤滑剤がダイスの内周面に塗布されるようになっている。この場合、この下パンチは、材料粉末が充填される空間をダイス内に形成する際の動作及び成形体を取り出す際の動作により、ダイス内周面の成形に供される部分と上下両パンチが摺動する部分の全体に亘って移動するので、ダイス内周面の必要部分全面に潤滑剤を塗布することができる。しかも、この下パンチの外周面に取り付けられた弾性材料からなる塗布材は、その弾性によって確実かつ良好にダイス内周面に接触した状態で摺動し、この塗布材に含浸された潤滑剤がムラなく良好にダイス内周面に塗布されるものである。これにより、上下パンチとダイス内面との摩擦を低減させると共に成形物の離型性を向上させて、良好に粉末の成形を行うことができる。
更に、本発明では、下パンチ上面とダイス内周面とで形成される空間に投入された希土類合金粉末の上側に上パンチをダイスに挿入するための予備空間を形成し、この予備空間に上パンチを挿入して希土類合金粉末の上面に接触させた状態にセットした後、加圧圧縮を行うように構成されているため、上パンチがダイスに進入する際に生じる風圧等によって希土類磁石粉末の一部がダイス上端面から溢れ出ることを効果的に防止することができるものである。
【発明の効果】
【0010】
従って、この粉末成形装置によれば、成形作業を中断する必要なく成形動作と同時に潤滑剤を良好に塗布しながら材料粉末の成形を連続して行うことができ、極めて効率的に希土類合金の成形体などを加圧圧縮成形することができる。よって、この粉末成形装置を用いることにより、効率的に希土類焼結磁石を製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例にかかる粉末成形装置を構成するダイス、上パンチ及び下パンチを示す概略断面図である。
【
図2】同粉末成形装置の下パンチ上面とダイス内周面とで形成された空間に材料粉末を充填した状態を示す概略断面図である。
【
図3】同粉末成形装置の下パンチを相対的に下動させて、材料粉末の上側に上パンチをダイスに挿入するための予備空間を形成した状態を示す概略断面図である。
【
図4】同粉末成形装置の上パンチを上側からダイスに進入させて材料粉末に当接させた状態を示す概略断面図である。
【
図5】同粉末成形装置の上パンチと下パンチの間でダイス内の材料粉末を加圧圧縮して所望形状に成形した状態を示す概略断面図である。
【
図6】同粉末成形装置の上パンチを相対的に上動させてダイスの上端面を開放した状態を示す概略断面図である。
【
図7】同粉末成形装置の下パンチを相対的に上動させて成形体を押し上げ、開放したダイスの上端面から成形体を取り出す際の状態を示す概略断面図である。
【
図8】同粉末成形装置を構成する下パンチを示す概略斜視図である。
【0012】
以下、本発明につき、具体例を示して詳細に説明する。
本発明の粉末成形装置は、相対的に上下動するダイス、上パンチ及び下パンチを具備し、該ダイス内において上下両パンチ間で粉末を加圧圧縮して所望の形状に成形するものであり、また本発明の希土類焼結磁石の製造方法は、この成形装置を用いて希土類合金粉末を所望の形状に成形し、その成形体を加熱処理して焼結させるものである。この本発明の粉末成形装置としては、例えば
図1〜7に示した成形装置を例示することができる。
【0013】
即ち、
図1〜7は、本発明の一実施例にかかる粉末成形装置を用いて希土類合金粉末などの材料粉末を加圧圧縮成形し、得られた成形体を取り出すまでの工程を示すものであり、この粉末成形装置は、
図1に示されているように、四角筒型のダイス1と、このダイス1に下から進入する四角ブロック状の下パンチ2と、該ダイス1に上から進入する上パンチ3とを具備している。
【0014】
これらダイス1、下パンチ2及び上パンチ3は、いずれも同一の軸(運動軸)4に沿って相対的に上下動するようになっている。例えば、下パンチ2が上動し、又はダイス1が下動し、あるいはその両方の運動により、下パンチ2がダイス1に下側から進入し、ダイス1の上端面にまで移動し得、更にダイス1との相対的動作によってダイス1内で上下動することができるようになっている。また、上パンチ3も同様に、該上パンチ3が下動し、又はダイス1が上動し、あるいはその両方の運動によりダイス1に上側から進入し、更にダイス1との相対的動作によってダイス1内で上下動することができるようになっている。
【0015】
ここで、
図8に示したように上記下パンチ2の外周面の上部には、全周に亘って四角リング状の溝21が形成されている。この溝21には、所定個数(本例では、一面3個×4面で合計12個)の潤滑剤吐出孔22が等間隔に形成されており、各潤滑剤吐出孔22は下パンチ2内に設けられた潤滑剤供給路23(
図1〜7参照)と連通している。そして、図示しない潤滑剤供給手段により該潤滑剤供給路23を通して上記各潤滑剤吐出孔22から潤滑剤が随時吐出するようになっている。
【0016】
上記溝21には、潤滑剤を含浸可能な弾性材料からなる塗布材24が全周に亘って取り付けられており、上記各潤滑剤吐出孔22から吐出される潤滑剤がこの塗布材24に含浸されるようになっている。この塗布材24は、下パンチ2の外周面から10〜1000μm程度突出して、上記ダイス1に進入した際にダイス1の内周面に適度な圧力で確実に接触するようになっており、下パンチ2がダイス1内で相対的に上下動することによって、この塗布材24に含浸された潤滑剤がダイス1の内周面に自動的に塗布されるようになっている。
【0017】
ここで、上記塗布材24を構成する弾性材料は、潤滑剤を含浸可能な弾性材料であればよく、公知の材料から適宜選択して用いればよい。例えば、公知のフェルト材、不織布、スポンジ材などを用いることができる。ここで、特に制限されるものではないが、この弾性材料は潤滑剤を0.01g/cm
2以上、特に0.04g/cm
2以上、更には0.1g/cm
2以上含浸可能なものであることが好ましく、厚さ等を調節してこのような含浸量を達成させることが好ましい。この場合、潤滑剤の含浸量が0.01g/cm
2を下回ると、潤滑剤の種類によっては良好な潤滑効果を得るために十分な塗布量が得られなくなる場合がある。
【0018】
また、上記潤滑剤にも特に制限はなく、粉末の加圧圧縮成形を行う際に用いられる潤滑剤として公知のものを用いることができ、例えばステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸メチル、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などを例示することができる。この場合、潤滑剤を薄く均一に塗布するため、これら潤滑剤の1種又は2種以上を揮発性溶媒に溶解させて用いることが好ましく、揮発性溶媒としては、潤滑剤の種類等に応じて適宜選定すればよいが、特に成形体を焼結する際に希土類成分と反応しにくい温度である150℃以下で蒸発するものが好ましく用いられ、例えば沸点が50〜150℃のフロン類やアルコール類等から適宜選択して用いればよい。
【0019】
この粉末成形装置を用いて、希土類合金粉末などの材料粉末を加圧圧縮成形する場合は、まず
図1の状態から下パンチ2を相対的に上動させて下側からダイス1内に進入させ、
図2に示されているように、該下パンチ2の上面とダイス1の内周面とで所定容量の空間11を形成し、この空間11に材料粉末5を投入して充填する。このとき、下パンチ2の位置を適宜設定して上記空間11の容量を調節し、材料粉末5をダイス1の上端面一杯まで充填することにより、秤量工程を要することなく材料粉末5の充填量が常に所定の一定量となるように設定することができる。
【0020】
この状態から、
図3,4に順次に示されているように、下パンチ2を相対的に下動させて材料粉末5の上側に上パンチ3をダイス1に挿入するための予備空間12を形成し(
図3の状態)、この状態で上パンチ3を相対的に下動させて該予備空間12に挿入し、上パンチ3を材料粉末5の上面に接触させた状態にセットする(
図4の状態)。このように、一旦予備空間12を設けてから上パンチ3をダイス1に進入させるようにすることにより、上パンチ3の進入時に生じる風圧等によって材料粉末5の一部がダイス1上端面から溢れ出てしまうことを防止することができる。
【0021】
ここで、特に図示していないが、ダイス1の周壁内又はダイス1の周囲に磁場発生手段を設置してダイス1内に充填された材料粉末5に磁場を印加するようにすることができる。これにより、材料粉末5として希土類合金粉末を用いて希土類焼結磁石を製造する場合に、上記空間11内に充填された希土類合金粉末5に磁場を印加して、該希土類合金粉末5を着磁し、分散、配向させることができ、このように磁場を印加して希土類合金粉末5が着磁され、分散、配向した状態で次工程の加圧圧縮による成形が行われることにより、得られる希土類焼結磁石の磁気特性を向上させることができる。
【0022】
次いで、
図5に示されているように、上パンチ3を下動させて所定の圧力で材料粉末5を加圧圧縮し、ダイス1内において上下両パンチ3,2間に所定形状(四角ブロック状)の成形体51を成形する。このとき、
図5では、下パンチ2を固定して上パンチ3で材料粉末5を加圧圧縮した場合を示したが、下パンチ2も上方へと圧力をかけて上下両パンチ2,3の圧力で材料粉末5を加圧圧縮するようにしてもよい。
【0023】
このように、成形体51を成形した後、
図6,7に順次示されているように、上パンチ3を相対的に上動させダイス1から退出させて、ダイス1の上端面を開放し(
図6)、下パンチ2を相対的に上動させ成形体51を押し上げて、ダイス1の開放した上端面から成形体51を取り出す。このとき、
図6,7では、上パンチ3を上動させてダイス1の上端面を開放した後、下パンチ2を上動させて、成形体51をダイス1の上端面から取り出すようにした例を示したが、この取り出しの際、上パンチ3、又は下パンチ2、あるいは上下両パンチ3,2で成形体51を加圧しながら、即ち上下両パンチ3,2で成形体51を所定圧力で挟んだまま、上下両パンチ3,2をダイス1に対して相対的に上動させて成形体51を取り出すようにしてもよい。このように、成形体51を加圧しながらダイス1から抜き出すようにすることにより、取り出し時に成形体にクラックや割れが発生することを効果的に防止することができる。
【0024】
なお、上下両パンチ3,2間に成形体51を挟んでダイス1から取り出す際の圧力は、成形時の圧力よりも低く設定することが好ましい。この場合、
成形時の圧力を一旦解放してから再び加圧して所定の圧力を設定してもよく、また成形時の圧力を低下させる途中で所定の圧力で保持し、その保持したまま上記の取り出し操作を行うようにしてもよい。また、取り出しの際の上下パンチ3,2の移動中の加圧圧力は、一定でもよいが、上下パンチ3,2の移動中に、加圧の圧力を徐々に増加又は減少させてもよい。このように、取り出しの際の加圧圧力を徐々に減少させることにより、成形体への急激な圧力変化による
クラックや割れの発生をより効果的に防止することができる。
【0025】
このようにして成形体51をダイス1の上端面から取り出し(
図7)、適宜な手段により下パンチ2の上から得られた成形体51を回収する。そして、下パンチ2を相対的に下動させて再び
図1の状態とし、必要に応じて随時ダイス1及び上下両パンチ3,2のクリーニングを行った後、上述した動作を繰り返すことにより、連続的に材料粉末5の成形を行うものである。
【0026】
この場合、本発明の粉体成形装置にあっては、図示しない潤滑剤供給手段により上記潤滑剤供給路23を通して下パンチ2の上記潤滑剤吐出孔22から所定量の潤滑剤が随時吐出され、常に上記塗布材24に適量の潤滑剤が含浸された状態で、上記成形動作が繰り返される。そして、成形動作時の下パンチ2の相対的上下動により、この塗布材24に含浸された上記潤滑剤がダイス1の内周面全面に塗布され、常にダイス内面に潤滑剤の皮膜が良好に形成された状態で上記成形動作が繰り返されるものである。これにより、上下パンチ3,2とダイス1内面との摩擦を低減させると共に成形物の離型性を向上させて、良好に粉末の成形を行うことができる。
【0027】
なお、上記材料粉末5として希土類合金粉末を用いて希土類焼結磁石を製造する場合には、上述のとおり成形した希土類合金粉末からなる成形体51を、公知の方法に従って加熱処理して焼結させ、必要に応じて公知の後処理を施して希土類焼結磁石とすればよい。
【0028】
このように、本発明の粉末成形装置は、下パンチ2の外周面に取り付けられたリング状の塗布材24に潤滑剤が常に含浸された状態で成形が行われ、成形時にこの下パンチ2がダイス内で上下動することにより、成形を行う度に塗布材24に含浸された潤滑剤がダイス1の内周面に塗布されるようになっている。この場合、この下パンチ2は、材料粉末5が充填される空間11をダイス1内に形成する際の動作(
図1〜3の動作)及び成形体51を取り出す際の動作(
図6,7の動作)により、ダイス1内周面の成形に供される部分と上パンチ3が摺動する部分の全体に亘って移動するので、ダイス1内周面の必要部分全面に潤滑剤を確実に塗布することができる。しかも、上記塗布材24は、その弾性によって確実かつ良好にダイス1内周面に接触した状態で摺動し、この塗布材24に含浸された潤滑剤がムラなく良好にダイス1内周面に塗布されるものである。
【0029】
従って、この粉末成形装置によれば、成形作業を中断する必要なく成形動作と同時に潤滑剤を良好に塗布しながら材料粉末の成形を連続して行うことができ、極めて効率的に希土類合金の成形体などを加圧圧縮成形することができる。よって、この粉末成形装置を用いることにより、効率的に希土類焼結磁石を製造することができるものである。
【0030】
次に実験例を示し、本発明の効果をより具体的に示す。
[実験例1]
Nd:25.0質量%、Pr:7.0質量%、Co:1.0質量%、B:1.0質量%、Al:0.2質量%、Zr:0.1質量%、Cu:0.2質量%、Fe:残部、であるNd系磁石合金に対し水素化による粗粉砕、ジェットミルによる微粉砕を行って、平均粒径3.2μmの微粉末(希土類焼結磁石合金粉末)を作製した。この微粉末を用い、
図1〜8に示される金型を備えた成形装置で成形し、焼結して、希土類焼結磁石を製造した。その際、旭硝子社製のハイドロフルオロエーテル系の溶剤「AE3000」を溶媒としてステアリン酸を0.03%の割合で溶かしたものを潤滑剤とし、また塗布材24としては、1.2mm厚の東レ(株)製の三次元不織布材「エクセーヌ」(潤滑剤の最大含浸量:約0.11g/cm
2)を用い、下記の手順により成形を行った。
【0031】
図1の状態から下パンチ2を相対的に上動させて下側からダイス1内に進入させ、
図2に示されているように、該下パンチ2の上面とダイス1の内周面とで空間11を形成し、この空間11に材料粉末5を充填した。その際、材料粉末5の充填量は空間11内の粉末の密度が1.9g/cm
3となるように調節した。
【0032】
この状態から、
図3に示されているように、下パンチ2を相対的に下動させて材料粉末5の上側に上パンチ3をダイス1に挿入するための予備空間12を形成した後、上パンチ3を相対的に下動させて該予備空間12に挿入し、上パンチ3を材料粉末5の上面に接触させた状態にセットする(
図4の状態)。ここで、ダイス1の周囲に設置した磁場発生手段(図示せず)により0.1Tの磁場を印加し、着磁して材料粉末を配向させた。その後、配向が乱れないように磁場の印加を続けながら、上パンチ3を下動させて所定の圧力で材料粉末5を密度3.8g/cm
3になるまで加圧圧縮し、
図5に示されているように、成形体51を成形した。この状態では成形体は着磁状態であり、その後の取り扱い時に吸引力が働き割れやすい状態になるので、逆方向の弱磁場を印加して脱磁処理をした。その後、
図6,7に順次示されているように、上パンチ3を相対的に上動させダイス1から退出させてダイス1の上端面を開放し(
図6)、下パンチ2を相対的に上動させ成形体51を押し上げて、ダイス1の開放した上端面から成形体51を取り出した。得られた成形体51は、常法に従って1050℃で焼結し500℃で熱処理を行って、希土類焼結磁石とした。
【0033】
上記一連の成形動作の際、図示しない潤滑剤供給手段により上記潤滑剤供給路23を通して下パンチ2の上記潤滑剤吐出孔22から所定量の潤滑剤を随時吐出させ、常に上記塗布材24に適量の潤滑剤が含浸された状態となるようにした。そして、上記下パンチが上下動する際に、この塗布材24からダイス1の内面に上記潤滑剤が塗布され、特に上記
図6と
図7の間の下パンチを上動させた際にダイス1内周面の成形に供される部分全面に潤滑剤が確実に塗布されるので、特に潤滑剤を塗布する為だけの工程を設けることなく、成形操作を繰り返した。安全上で必要な確認作業や設備の調整作業を行った時間を除いて一日中、成形装置を稼働させて上記成形作業を行い、30日間におけるタクトタイム、良品生産量、不具合品数、金型調整回数を調査した。結果を表1に示す。なお、得られた成形体51は、常法に従って1050℃で焼結し500℃で熱処理を行って、希土類焼結磁石とした。
【0034】
[実験例2]
塗布材24として、厚さが0.49mmで潤滑剤の最大含浸量が約0.04g/cm
2のフェルト材を使用したこと以外は実験例1と同じ条件で磁石体を成形し、焼結、熱処理を行って、希土類焼結磁石を製造した。実験例1と同様に、成形工程の30日間におけるタクトタイム、良品生産量、不具合品数、金型調整回数を調査した。結果を表1に示す。
【0035】
[実験例3]
塗布材24を設置せず、下パンチからの潤滑材の供給を行わない代わりに、
図1の状態で、スプレーノズルを通して潤滑剤をダイス1の内面に吹き付ける工程を追加した。なおスプレーノズルはロボットに取り付けて吹き付け位置の調整を行った。なお、この方法での潤滑剤の吹き付け作業には15秒を要した。その他の工程は実施例1と同じ条件で磁石体を成形し、焼結、熱処理を行って、希土類焼結磁石を製造した。実験例1と同様に、成形工程の30日間におけるタクトタイム、良品生産量、不具合品数、金型調整回数を記録した。結果を表1に示す。
【0037】
本発明の成形装置を用い本発明方法に従って成形を行った上記実験例1及び実験例2では、タクトタイムが短く生産性が高いだけでなく、成形品の不具合(クラック、カケ等の発生)が減少する効果も確認された。また、塗布材24により均一に潤滑剤が塗布されるので、金型に傷が入り難く、金型研磨作業による稼働率の低下も抑えられることも分かった。なお、実験例2では厚さが薄いフェルト材を用いた為に1回だけフェルト材が破損したが、交換後には問題無く成形が継続出来た。
【符号の説明】
【0038】
1 ダイス
11 空間
2 下パンチ
21 溝
22 潤滑剤吐出孔
23 潤滑剤供給路
24 塗布材
3 上パンチ
4 軸(運動軸)
5 材料粉末(希土類合金粉末)
51 成形体