【実施例】
【0055】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0056】
(1)第1の製造方法、親水性部分の含有量及び電極密度の評価
実施例1
60%硝酸300mLにケッチェンブラック(商品名EC300J、ケッチェンブラックインターナショナル社製、平均一次粒子径;40nm、窒素吸着を用いたMP法の測定結果から得られた2nm以下の直径を有するミクロ孔の比表面積;430m
2g
−1)10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。この酸処理ケッチェンブラック0.5gと、Fe(CH
3COO)
21.98gと、Li(CH
3COO)0.77gと、C
6H
8O
7・H
2O1.10gと、CH
3COOH1.32gと、H
3PO
41.31gと、蒸留水120mLとを混合し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させて混合物を採集した。次いで、得られた混合物を振動ボールミル装置に導入し、20hzで10分間の粉砕を行なった。粉砕後の粉体を、窒素中700℃で3分間加熱し、ケッチェンブラックにLiFePO
4が担持された複合体を得た。
【0057】
濃度30%の塩酸水溶液100mLに、得られた複合体1gを添加し、得られた液に超音波を15分間照射させながら複合体中のLiFePO
4を溶解させ、残った固体をろ過し、水洗し、乾燥させた。乾燥後の固体の一部を、TG分析により空気中900℃まで加熱し、重量損失を測定した。重量損失が100%、すなわちLiFePO
4が残留していないことが確認できるまで、上述の塩酸水溶液によるLiFePO
4の溶解、ろ過、水洗及び乾燥の工程を繰り返し、LiFePO
4フリーの導電性カーボンを得た。
【0058】
次いで、得られた導電性カーボンの0.1gをpH11のアンモニア水溶液20mlに添加し、1分間の超音波照射を行なった。得られた液を5時間放置して固相部分を沈殿させた。固相部分の沈殿後、上澄み液を除去した残余部分を乾燥させ、乾燥後の固体の重量を測定した。乾燥後の固体の重量を最初の導電性カーボンの重量0.1gから差し引いた重量の最初の導電性カーボンの重量0.1gに対する重量比を、導電性カーボンにおける「親水性部分」の含有量とした。
【0059】
Fe(CH
3COO)
2と、Li(CH
3COO)と、C
6H
8O
7・H
2Oと、CH
3COOHと、H
3PO
4とを蒸留水に導入し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させた後、窒素中700℃で3分間加熱することにより、一次粒子径100nm(平均粒径100nm)のLiFePO
4の微小粒子を得た。次いで、市販のLiFePO
4の粗大粒子(一次粒子径0.5〜1μm、二次粒子径2〜3μm、平均粒径2.5μm)と、得られた微小粒子と、上記導電性カーボンとを90:9:1の質量比で混合して電極材料を得、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、電極を得た。この電極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。
【0060】
実施例2
実施例1における手順のうち、酸処理ケッチェンブラック0.5gと、Fe(CH
3COO)
21.98gと、Li(CH
3COO)0.77gと、C
6H
8O
7・H
2O1.10gと、CH
3COOH1.32gと、H
3PO
41.31gと、蒸留水120mLとを混合する部分を、酸処理ケッチェンブラック1.8gと、Fe(CH
3COO)
20.5gと、Li(CH
3COO)0.19gと、C
6H
8O
7・H
2O0.28gと、CH
3COOH0.33gと、H
3PO
40.33gと、蒸留水250mLとを混合する手順に変更した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0061】
実施例3
40%硝酸300mLに実施例1で用いたケッチェンブラック10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。この酸処理ケッチェンブラック1.8gを、実施例2で用いた酸処理ケッチェンブラック1.8gに代えて用いた点を除いて、実施例2の手順を繰り返した。
【0062】
比較例1
60%硝酸300mLに実施例1で用いたケッチェンブラック10gを添加し、得られた液に超音波を1時間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。この酸処理ケッチェンブラックを、窒素中700℃で3分間加熱した。得られた導電性カーボンについて、実施例1における手順と同じ手順で親水性部分の含有量を測定した。また、得られた導電性カーボンを用いて、実施例1における手順と同じ手順でLiFePO
4含有電極を作成し、電極密度を算出した。
【0063】
比較例2
30%硝酸300mLに実施例1で用いたケッチェンブラック10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。次いで、振動ボールミルによる粉砕を行なわずに、窒素中700℃で3分間加熱した。得られた導電性カーボンについて、実施例1における手順と同じ手順で親水性部分の含有量を測定した。また、得られた導電性カーボンを用いて、実施例1における手順と同じ手順でLiFePO
4含有電極を作成し、電極密度を算出した。
【0064】
比較例3
親水性部分の電極密度に対する寄与を確認するために、実施例1の導電性カーボンの40mgを純水40mLに添加し、30分間超音波照射を行ってカーボンを純水に分散させ、分散液を30分間放置して上澄み液を除去し、残留部分を乾燥させることにより固体を得た。この固体について、実施例1における手順と同じ手順で親水性部分の含有量を測定した。また、得られた導電性カーボンを用いて、実施例1における手順と同じ手順でLiFePO
4含有電極を作成し、電極密度を算出した。
【0065】
比較例4
実施例1で用いたケッチェンブラック原料について、実施例1における手順と同じ手順で親水性部分の含有量を測定した。また、この導電性カーボンを用いて、実施例1における手順と同じ手順でLiFePO
4含有電極を作成し、電極密度を算出した。
【0066】
図2は、実施例1〜3及び比較例1〜4の導電性カーボンについての親水性部分含有量と、実施例1〜3及び比較例1〜4の電極についての電極密度との関係を示した図である。
図2から明らかなように、親水性部分の含有量が導電性カーボン全体の8質量%を超えると、電極密度が増大しはじめ、9質量%を超えると、電極密度が急激に増大しはじめ、親水性部分の含有量が導電性カーボン全体の10質量%を超えると、2.6g/cc以上もの高い電極密度が得られることがわかった。また、実施例1の結果と比較例3の結果との比較から明らかなように、電極密度の向上には導電性カーボンの親水性部分の寄与が大きいことがわかった。
【0067】
(2)第2の製造方法、親水性部分の含有量及び電極密度の評価
実施例4
ケッチェンブラック(商品名EC300J、ケッチェンブラックインターナショナル社製、平均一次粒子径;40nm、ミクロ孔の比表面積;430m
2g
−1)0.45gと、Co(CH
3COO)
2・4H
2Oの4.98gと、LiOH・H
2O1.6gと、蒸留水120mLとを混合し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、ろ過により混合物を採集した。次いで、エバポレーターを用いてLiOH・H
2O1.5gを混合した後、空気中、250℃で、30分間加熱し、ケッチェンブラックにリチウムコバルト化合物が担持された複合体を得た。濃度98%の濃硫酸、濃度70%の濃硝酸及び濃度30%の塩酸を体積比で1:1:1に混合した水溶液100mLに、得られた複合体1gを添加し、得られた液に超音波を15分間照射させながら複合体中のリチウムコバルト化合物を溶解させ、残った固体をろ過し、水洗し、乾燥させた。乾燥後の固体の一部を、TG分析により空気中900℃まで加熱し、重量損失を測定した。重量損失が100%、すなわちリチウムコバルト化合物が残留していないことが確認できるまで、上述の塩酸水溶液によるリチウムコバルト化合物の溶解、ろ過、水洗及び乾燥の工程を繰り返し、リチウムコバルト化合物フリーの導電性カーボンを得た。
【0068】
次いで、得られた導電性カーボンについて、実施例1における手順と同じ手順で親水性部分の含有量を測定した。親水性部分の含有量は、カーボン全体の14.5質量%であった。
【0069】
Li
2CO
3と、Co(CH
3COO)
2と、C
6H
80
7・H
2Oとを蒸留水に導入し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させた後、空気中800℃で10分間加熱することにより、平均粒径0.5μmのLiCoO
2微小粒子を得た。次いで、市販のLiCoO
2の粗大粒子(平均粒径10μm)と、得られた微小粒子と、上記導電性カーボンとを90:9:1の質量比で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、電極を得た。この電極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、4.2g/ccであった。
【0070】
比較例5
実施例4で用いたケッチェンブラック原料について、実施例1における手順と同じ手順で親水性部分の含有量を測定した。親水性部分の含有量は、カーボン全体の5質量%であった。また、実施例4と同じ手順でLiCoO
2含有電極を作成し、電極密度を算出した。電極密度の値は、3.6g/ccであった。
【0071】
実施例4と比較例5との比較より、親水性部分の含有量が導電性カーボン全体の10質量%以上であれば、電極密度が大幅に向上することがわかる。
【0072】
(3)リチウムイオン二次電池としての評価
(i)活物質:LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2
実施例5
Li
2CO
3と、Ni(CH
3COO)
2と、Mn(CH
3COO)
2と、Co(CH
3COO)
2とを蒸留水に導入し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させた後、ボールミルで混合し、空気中800℃で10分間加熱することにより、平均粒径0.5μmのLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2微小粒子を得た。この微小粒子と実施例1の導電性カーボンとを90:10の質量比で混合し、予備混合物を得た。次いで、86質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2の粗大粒子(平均粒径5μm)と、9質量部の上記予備混合物と、2質量部のアセチレンブラック(一次粒子径;40nm、ミクロ孔の比表面積;0m
2g
−1)とを混合し、さらに3質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、4.00g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0073】
実施例6
94質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子(平均粒径5μm)と、2質量部の実施例1の導電性カーボンと、2質量部のアセチレンブラック(一次粒子径;40nm、ミクロ孔の比表面積;0m
2g
−1)とを混合し、さらに2質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.81g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0074】
比較例6
94質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子(平均粒径5μm)と、4質量部のアセチレンブラック(一次粒子径;40nm、ミクロ孔の比表面積;0m
2g
−1)とを混合し、さらに2質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.40g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0075】
図3に実施例6のリチウムイオン二次電池の正極の断面についてのSEM写真を、
図4に比較例6のリチウムイオン二次電池の正極の断面についてのSEM写真を示す。各図において、(A)は1500倍の写真であり、(B)は25000倍の写真である。
図3(A)及び
図4(A)において活物質層の厚みがtで示されているが、活物質層における活物質粒子とカーボンとの含有量が同一であるにもかかわらず、実施例6のリチウムイオン二次電池における活物質層は比較例6のリチウムイオン二次電池における活物質層より薄くなっていることが分かる。また、
図3(A)と
図4(A)との比較より、実施例6のリチウムイオン二次電池における活物質層では、活物質粒子どうしが接近し、画像における活物質層全体の面積に対するカーボンによって占められる面積の割合が少ないことが分かる。さらに、
図3(B)と
図4(B)から把握されるように、両者におけるカーボンの形態は著しく異なっている。比較例6のリチウムイオン二次電池における活物質層(
図4(B))では、カーボン(アセチレンブラック)一次粒子の粒界が明瞭であり、カーボン粒子間の空隙に加えて、活物質粒子とカーボン粒子との界面近傍、特に活物質粒子の表面に形成された孔の近傍に大きな空隙が存在するのに対し、実施例6のリチウムイオン二次電池における活物質層(
図3(B))では、カーボン一次粒子の粒界が認められず、カーボンが糊状であり、この糊状のカーボンが活物質粒子の50nm以下の幅を有する孔(一次粒子間の間隙)の深部にまで侵入しており、空隙がほとんど存在しないことが分かる。また、活物質粒子の表面の90%以上が糊状のカーボンと接触していることが分かる。このカーボンの形態の相違により、実施例6及び比較例6のリチウムイオン二次電池の正極における電極密度の相違がもたらされていることが分かった。
【0076】
上述したように、実施例6における活物質層は比較例6における活物質層より薄くなっていることから、前者の活物質層における材料充填率が大きいことが分かるが、以下の式を用いて材料充填率を確認した。なお、理論電極密度とは、活物質層における空隙が0%であると仮定したときの電極密度である。
材料充填率(%)=電極密度×100/理論電極密度 (I)
理論電極密度(g/cc)
=100/{a/X+b/Y+(100−a−b)/Z} (II)
a:活物質層全体に対する活物質の質量%
b:活物質層全体に対するカーボンの質量%
100−a−b:活物質層全体に対するポリフッ化ビニリデンの質量%
X:活物質の真密度 Y:カーボンブラックの真密度
Z:ポリフッ化ビニリデンの真密度
【0077】
その結果、実施例6における活物質層の材料充填率は86.8%、比較例6における活物質層の材料充填率は79.1%であり、本発明の導電性カーボンを含む電極において、7.7%もの充填率の向上が認められた。
【0078】
図5に、実施例6における活物質層と比較例6における活物質層について、窒素ガス吸着法により細孔分布を測定した結果を示す。比較例6における活物質層には、直径20nm未満の細孔がほとんど存在せず、細孔のほとんどが直径約30nm、直径約40nm、直径約150nmにピークを示す細孔であることが分かる。直径約150nmにピークを示す細孔は、主に活物質粒子に起因する細孔であり、直径約30nm、直径約40nmにピークを示す細孔は、主にアセチレンブラックの粒子間に認められる細孔であると考えられる。これに対し、実施例6における活物質層では、比較例6における活物質層の細孔のうちの直径約100nm以上の細孔が減少しており、これに代わって直径5〜40nmの範囲の細孔が増加していることが分かる。直径約100nm以上の細孔が減少しているのは、活物質粒子の細孔が糊状の導電性カーボンにより覆われているためであると考えられる。また、直径5〜40nmの細孔は、主に緻密化した糊状の導電性カーボンにおける細孔であると考えられるが、蓄電デバイス中の電解液が糊状の導電性カーボンを通過して活物質粒子に至るのには十分な大きさである。したがって、電極における糊状の導電性カーボンは、蓄電デバイス中の電解液の含浸を抑制しないと判断された。
【0079】
図6は、実施例5、実施例6、及び比較例6のリチウムイオン二次電池についての、レートと正極活物質層の体積当たりの放電容量との関係を示した図である。実施例6のリチウムイオン二次電池は、比較例6のリチウムイオン二次電池より増大した容量を示し、実施例5のリチウムイオン二次電池は、実施例6のリチウムイオン二次電池よりさらに増大した容量を示した。すなわち、正極の電極密度が増大するにつれて、体積当たりの放電容量も増大した。また、これらの二次電池は略同一のレート特性を示した。このことから、実施例5、実施例6の二次電池における活物質層に含まれる糊状の導電性カーボンが、導電剤として機能するのに十分な導電性を有するとともに、二次電池中の電解液の含浸を抑制しないことが分かる。実施例5の二次電池の正極と実施例6の二次電池の正極とは、活物質層における活物質粒子とカーボンとの含有量が略同一であるにもかかわらず、前者が後者より高い電極密度を示すが、これは、実施例5の二次電池の正極における活物質層では、微小粒子が実施例1の導電性カーボンを押圧しながら該導電性カーボンと共に隣り合う粗大粒子の間に形成される間隙部に押し出させて充填されるためであると考えられた。
【0080】
実施例6と比較例6のリチウムイオン二次電池について、60℃、0.5Cの充放電レートの条件下、4.6〜3.0Vの範囲で充放電を繰り返した。
図7に、得られたサイクル特性の結果を示す。実施例6の二次電池が比較例6の二次電池より優れたサイクル特性を有することが分かる。これは、
図3と
図4の比較から把握されるように、前者における活物質層中の活物質粒子の表面の略全体が、活物質粒子の表面の孔の深部に至るまで、糊状のカーボンによって被覆されており、この糊状のカーボンが活物質の劣化を抑制しているためであると考えられた。
【0081】
(ii)活物質:LiCoO
2
実施例7
Li
2CO
3と、Co(CH
3COO)
2と、C
6H
80
7・H
2Oとを蒸留水に導入し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させた後、空気中800℃で10分間加熱することにより、平均粒径0.5μmのLiCoO
2微小粒子を得た。この微小粒子と実施例1の導電性カーボンとを90:10の質量比で混合し、予備混合物を得た。次いで、86質量部の市販のLiCoO
2の粗大粒子(平均粒径10μm)と、9質量部の上記予備混合物と、2質量部のアセチレンブラック(一次粒子径;40nm、ミクロ孔の比表面積;0m
2g
−1)とを混合し、さらに3質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、4.25g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0082】
実施例8
94質量部の市販のLiCoO
2粒子(平均粒径10μm)と、2質量部の実施例1の導電性カーボンと、2質量部のアセチレンブラック(一次粒子径;40nm、ミクロ孔の比表面積;0m
2g
−1)とを混合し、さらに2質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、4.05g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0083】
比較例7
94質量部の市販のLiCoO
2粒子(平均粒径10μm)と、4質量部のアセチレンブラック(一次粒子径;40nm、ミクロ孔の比表面積;0m
2g
−1)とを混合し、さらに2質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.60g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0084】
実施例8における活物質層と、比較例7における活物質層について、上述した式(I)(II)を用いて材料充填率を確認した。その結果、実施例8における活物質層の材料充填率は85.6%、比較例7における活物質層の材料充填率は79.1%であり、本発明の導電性カーボンを含む電極において、6.5%もの充填率の向上が認められた。
【0085】
図8は、実施例7、実施例8、及び比較例7のリチウムイオン二次電池についての、レートと正極活物質層の体積当たりの放電容量との関係を示した図である。
図6に示した結果と同様に、電極密度が増大するにつれて放電容量も増大し、略同一のレート特性が得られていることが分かる。実施例8と比較例7のリチウムイオン二次電池について、60℃、0.5Cの充放電レートの条件下、4.3〜3.0Vの範囲で充放電を繰り返した。
図9に、得られたサイクル特性の結果を示す。
図7に示した結果と同様に、実施例8の二次電池が比較例7の二次電池より優れたサイクル特性を有することが分かる。
【0086】
(iii)活物質:Li
1.2Mn
0.56Ni
0.17Co
0.07O
2
実施例9
Li(CH
3COO)の1.66gと、Mn(CH
3COO)
2・4H
2Oの2.75gと、Ni(CH
3COO)
2・4H
2Oの0.85gと、Co(CH
3COO)
2・4H
2Oの0.35gと、蒸留水の200mLとを混合し、エバポレーターを用いて溶媒を除去し、混合物を採集した。次いで、採集した混合物を振動ボールミル装置に導入し、15hzで10分間の粉砕を行ない、均一な混合物を得た。粉砕後の混合物を、空気中900℃で1時間加熱し、平均粒径が1μm以下のリチウム過剰固溶体Li
1.2Mn
0.56Ni
0.17Co
0.07O
2の結晶を得た。この結晶粒子の91質量部と、4質量部の実施例1の導電性カーボンとを混合し、さらに5質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.15g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0087】
比較例8
91質量部の実施例9において得られたLi
1.2Mn
0.56Ni
0.17Co
0.07O
2粒子と、4質量部のアセチレンブラック(一次粒子径;40nm、ミクロ孔の比表面積;0m
2g
−1)とを混合し、さらに5質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、2.95g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0088】
図10は、実施例9及び比較例8のリチウムイオン二次電池についての、レートと正極活物質層の体積当たりの放電容量との関係を示した図である。
図6に示した結果と同様に、電極密度が増大するにつれて放電容量も増大し、略同一のレート特性が得られていることが分かる。実施例9と比較例8のリチウムイオン二次電池について、25℃、0.5Cの充放電レートの条件下、4.8〜2.5Vの範囲で充放電を繰り返した。
図11に、得られたサイクル特性の結果を示す。
図7に示した結果と同様に、実施例9の二次電池が比較例8の二次電池より優れたサイクル特性を有することが分かる。
【0089】
(iv)カーボン原料の変更
実施例10
60%硝酸300mLに空隙を有するファーネスブラック(平均一次粒子径20nm、ミクロ孔の比表面積;1131m
2g
−1)10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してファーネスブラックを回収した。回収したファーネスブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ファーネスブラックを得た。この酸処理ファーネスブラック0.5gと、Fe(CH
3COO)
21.98gと、Li(CH
3COO)0.77gと、C
6H
8O
7・H
2O1.10gと、CH
3COOH1.32gと、H
3PO
41.31gと、蒸留水120mLとを混合し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させて混合物を採集した。次いで、得られた混合物を振動ボールミル装置に導入し、20hzで10分間の粉砕を行なった。粉砕後の粉体を、窒素中700℃で3分間加熱し、ファーネスブラックにLiFePO
4が担持された複合体を得た。
【0090】
濃度30%の塩酸水溶液100mLに、得られた複合体1gを添加し、得られた液に超音波を15分間照射させながら複合体中のLiFePO
4を溶解させ、残った固体をろ過し、水洗し、乾燥させた。乾燥後の固体の一部を、TG分析により空気中900℃まで加熱し、重量損失を測定した。重量損失が100%、すなわちLiFePO
4が残留していないことが確認できるまで、上述の塩酸水溶液によるLiFePO
4の溶解、ろ過、水洗及び乾燥の工程を繰り返し、LiFePO
4フリーの導電性カーボンを得た。
【0091】
次いで、得られた導電性カーボンの0.1gをpH11のアンモニア水溶液20mLに添加し、1分間の超音波照射を行なった。得られた液を5時間放置して固相部分を沈殿させた。固相部分の沈殿後、上澄み液を除去した残余部分を乾燥させ、乾燥後の固体の重量を測定した。乾燥後の固体の重量を最初の導電性カーボンの重量0.1gから差し引いた重量の最初の導電性カーボンの重量0.1gに対する重量比を、導電性カーボンにおける「親水性部分」の含有量とした。この導電性カーボンは、13%の親水性部分を含有していた。なお、原料として用いた空隙を有するファーネスブラックにおける親水性部分はわずかに2%である。
【0092】
94質量部の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子(平均粒径5μm)と、2質量部の得られた導電性カーボンと、2質量部のアセチレンブラック(一次粒子径;40nm、ミクロ孔の比表面積;0m
2g
−1)とを混合した。
図12に、得られた混合物についての50000倍のSEM写真を示す。粒子の表面が部分的に糊状物に覆われて輪郭が明瞭に把握されなくなっているが、この糊状物は、ファーネスブラック原料を酸化処理して得られた導電性カーボンが、混合の圧力により、粒子の表面を覆いながら広がったものである。また、平均一次粒子径20nmの微細なファーネスブラック及び一次粒子径40nmのアセチレンブラックが、良好に分散していることがわかる。一般に微細な粒子は凝集しやすいといわれているが、空隙を有するファーネスブラックを酸化処理して得られた導電性カーボンにより微細な粒子の凝集が効果的に抑制されている。
【0093】
次に、得られた混合物に2質量部のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。この正極におけるアルミニウム箔上の活物質層の体積と重量の実測値から電極密度を算出した。電極密度の値は、3.80g/ccであった。さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。また、得られた電池について、60℃、0.5Cの充放電レートの条件下、4.6〜3.0Vの範囲で充放電を繰り返した。
【0094】
実施例10と比較例6とは、正極のためのカーボンの種類において異なるが、その他の条件は同一であり、実施例10では、空隙を有するファーネスブラック原料から得られた導電性カーボンとアセチレンブラックとが用いられたが、比較例6では、アセチレンブラックのみが用いられた。比較例6における正極の電極密度は3.40g/ccであり、空隙を有するファーネスブラック原料から得られた導電性カーボンの使用により、電極密度が大幅に向上した。また、実施例10と実施例6とは、正極のためのカーボンの種類において異なるが、その他の条件は同一であり、実施例6では、ケッチェンブラック原料から得られた導電性カーボンとアセチレンブラックとが用いられたが、実施例10では、ファーネスブラック原料から得られた導電性カーボンとアセチレンブラックとが用いられた。実施例6における正極の電極密度は3.81g/ccであり、導電性カーボンにおける原料の相違に関わらず、ほぼ同一の電極密度が得られた。
【0095】
図13に、実施例10及び比較例6のリチウムイオン二次電池についての、レートと正極活物質層の体積当たりの放電容量との関係を示し、
図14に、実施例10及び比較例6のリチウムイオン二次電池についてのサイクル特性の結果を示す。
図13より、電極密度が増大するにつれて放電容量も増大し、略同一のレート特性が得られていることが分かる。また、
図6における実施例6の二次電池のレート特性と
図13における実施例10の二次電池のレート特性とを比較すると、正極のために用いた導電性カーボンにおける原料の相違に関わらず、ほぼ同一のレート特性が得られることが分かる。
図14より、実施例10の二次電池が比較例6の二次電池より優れたサイクル特性を有することが分かる。また、
図7における実施例6の二次電池のサイクル特性と
図14における実施例10の二次電池のサイクル特性とを比較すると、正極のために用いた導電性カーボンにおける原料の相違に関わらず、ほぼ同一のレート特性が得られることが分かる。
【0096】
(4)活物質の溶解性
上述したように、本発明の導電性カーボンを含む活物質層を有する正極を備えたリチウムイオン二次電池の優れたサイクル特性は、活物質粒子の表面の略全体が糊状のカーボンによって被覆されており、この糊状のカーボンが活物質の劣化を抑制しているためであると考えられるが、このことを確認するために、活物質の溶解性を調査した。
【0097】
実施例1の導電性カーボン及びアセチレンブラックのそれぞれを、平均粒径0.22μmのLiFePO
4粒子、平均粒径0.26μmのLiCoO
2粒子、及び平均粒径0.32μmのLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粒子と5:95の質量比で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥し、圧延処理を行って、電極を得た。この電極と、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液に水1000ppmを加えた電解質とを用いて、コイン型電池を作成した。この試験では、電解液と接触する活物質の面積を増加させる目的で、比表面積が大きい微小粒子が使用された。また、水1000ppmは、水が多いほど活物質が溶解しやすいため、加速試験を目的として添加された。この電池を60℃で1週間放置した後に分解し、電解質を採取して、ICP発光分析装置により電解質に溶解している金属量を分析した。表1に得られた結果を示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1から明らかなように、実施例1の導電性カーボンは、アセチレンブラックに比較して、活物質の電解質中への溶解を顕著に抑制する。これは、実施例1の導電性カーボンが、活物質が0.22〜0.32μmの平均粒径を有する微小粒子であっても、この微小粒子の凝集を効果的に抑制し、活物質粒子の表面の略全体を被覆しているためであると考えられる。
【0100】
(5)導電性カーボンに対する圧力印加の影響
(i)SEM観察
図15は、実施例1の導電性カーボン及び比較例4の導電性カーボンについて、それぞれ分散媒に分散し、得られた分散物をアルミニウム箔上に塗布し、乾燥した塗膜を撮影したSEM写真、及び、塗膜に300kNの力の圧延処理を行った後に撮影したSEM写真を示す。比較例4の導電性カーボンの塗膜は、圧延処理の前後で、大きな変化を示さなかった。しかし、実施例1の導電性カーボンの塗膜では、SEM写真より把握されるように、圧延処理により表面の凹凸が顕著に減少し、カーボン粒子が広がって粒界が認められにくくなっていた。従って、強酸化処理により、カーボンの性状が大きく変化したことがわかる。
【0101】
(ii)プレス圧と密度との関係
実施例1の導電性カーボン及び比較例5の導電性カーボン(カーボン原料)のそれぞれについて、導電性カーボンとポリフッ化ビニリデンとを70:30の割合で適量のN−メチルピロリドンに加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施した。
図16は圧延処理におけるプレス圧のカーボン密度に対する影響を調査した結果を示す図であり、(A)はプレス圧と密度との関係を、(B)はプレス圧と密度増加率との関係を、それぞれ示している。
図16から明らかなように、実施例1の導電性カーボンは、比較例5の導電性カーボンに比較して、プレス前でも密度が大きい。また、実施例1の導電性カーボンは、比較例5の導電性カーボンに比較して、プレス圧の影響を大きく受け、プレス圧の増加に伴う密度増加率が大きく、プレス圧が25kPaで密度増加率が200%を超える。したがって、同じプレス圧の条件下で圧延処理を施された場合には、実施例1の導電性カーボンは比較例5の導電性カーボンに比較して緻密に圧縮されることがわかる。このことから、実施例1の導電性カーボンを含む電極材料を用いて電極を作成すると、圧延処理により実施例1の導電性カーボンが緻密に圧縮され、活物質粒子が互いに接近し、電極密度が向上することが理解される。
【0102】
(iii)プレス圧と導電率との関係
実施例1の導電性カーボン及び比較例5の導電性カーボン(カーボン原料)のそれぞれについて、導電性カーボンとポリテトラフルオロエチレンとを70:30の割合で適量のN−メチルピロリドンに加えて十分に混錬してスラリーを形成し、このスラリーをシート状に成形して乾燥した後、圧延処理を施した。
図17は圧延処理におけるプレス圧のカーボン導電率に対する影響を調査した結果を示す図であり、(A)はプレス圧と導電率との関係を、(B)はプレス圧と導電率増加率との関係を、それぞれ示している。
図17から明らかなように、実施例1の導電性カーボンは、比較例5の導電性カーボンに比較して導電率が低いものの、圧延処理により密度が増加するため、プレス圧の増加に伴い導電率も増加することがわかる。実施例1の導電性カーボンを含む電極材料を用いて電極を作成すると、圧延処理により、実施例1の導電性カーボンが活物質粒子の表面に糊状に広がって導電性カーボンと活物質粒子との接触面積が増加するが、この糊状に広がった導電性カーボンが活物質粒子との接触により緻密に圧縮され、導電性カーボンの導電率が向上する。
【0103】
(6)導電性カーボンと活物質との混合状態
活物質とカーボンとの混合状態を確認するために、以下の実験を行った。
【0104】
(i)微小粒子とカーボンとの混合
実施例1の導電性カーボン及びアセチレンブラックのそれぞれを、平均粒径0.32μmのLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2微小粒子と20:80の質量比で乳鉢に導入して乾式混合を行なった。
図18には、倍率50000倍のSEM写真を示す。カーボンとしてアセチレンブラックを使用した場合には、実施例1の導電性カーボンを使用した場合に比較して、同じ混合条件であるにもかかわらず、微小粒子が凝集していることがわかる。したがって、実施例1の導電性カーボンが微小粒子の凝集を効果的に抑制することがわかる。
【0105】
(ii)粗大粒子とカーボンとの混合
実施例1の導電性カーボン及びアセチレンブラックのそれぞれを、平均粒径5μmのLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2粗大粒子と4:96の質量比で乳鉢に導入して乾式混合を行なった。
図19には、倍率100000倍のSEM写真を示す。カーボンとしてアセチレンブラックを使用した場合には、粗大粒子とアセチレンブラックとが分離して存在しているが、実施例1の導電性カーボンを使用した場合には、粗大粒子が糊状物により覆われ、粗大粒子の輪郭が明瞭に把握されないことがわかる。この糊状物は、実施例1の導電性カーボンが混合の圧力により粗大粒子の表面を覆いながら広がったものである。電極作成時の圧延処理により、実施例1の導電性カーボンがさらに糊状に広がって活物質粒子の表面を覆いながら緻密化し、活物質粒子が互いに接近し、これに伴って実施例1の導電性カーボンが活物質粒子の表面を覆いながら隣り合う活物質粒子の間に形成される間隙部に押し出されて緻密に充填されるため、電極における単位体積あたりの活物質量が増加し、電極密度が増加したと考えられる。