特許第6689831号(P6689831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧

特許6689831アスタキサンチン及びカンタキサンチンの精製方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6689831
(24)【登録日】2020年4月10日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】アスタキサンチン及びカンタキサンチンの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 403/24 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   C07C403/24
【請求項の数】18
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-517273(P2017-517273)
(86)(22)【出願日】2015年10月1日
(65)【公表番号】特表2017-530144(P2017-530144A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】EP2015072685
(87)【国際公開番号】WO2016050909
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2018年9月28日
(31)【優先権主張番号】14187492.5
(32)【優先日】2014年10月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100176197
【弁理士】
【氏名又は名称】平松 千春
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】ジーゲル,ヴォルフガング
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−529151(JP,A)
【文献】 特開平11−180901(JP,A)
【文献】 特開平07−118226(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/114461(WO,A1)
【文献】 特開2007−308432(JP,A)
【文献】 特表2006−507332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチン及びカンタキサンチンから選択されるキサントフィルを精製する方法であって、
a)キサントフィルを有機溶媒又は溶媒混合物に懸濁することと、
b)有機溶媒又は溶媒混合物中のキサントフィルの懸濁液を高温で処理することと、
c)続いてキサントフィルを固液分離により溶媒から分離することと
を含み、
有機溶媒が、一般式(I)のケトン及び一般式(I)のケトンの混合物
【化1】
(式中、R1は、C1〜C4アルキルであり、R2は、C1〜C6アルキル、C3〜C8シクロアルキル、フェニル及びベンジルから選択され、ここで最後に記載された2つの基のフェニル環は非置換であり、或いはR1とR2は一緒になって、直鎖C4〜C6アルカンジイルであり、これは1つ、2つ又は3つのメチル基を置換基として有することができる)
から選択され、
式(I)のケトンが、キサントフィルの懸濁に使用される有機溶媒の少なくとも95重量%を構成し、
キサントフィルの懸濁液を少なくとも60℃の温度で少なくとも1時間処理し、
使用されるキサントフィルが、枯渇される少なくとも1種の有機リン化合物を含夾雑物を含む、前記方法。
【請求項2】
式(I)のケトンが、懸濁液に使用される有機溶媒の少なくとも99重量%を構成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
懸濁液の生成に使用される溶媒中の水の濃度が20重量%を超えない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
懸濁液を60〜150℃の範囲の温度で処理する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
懸濁液を処理する処理時間が6〜144時間の範囲である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
懸濁液が2〜50重量%の範囲のキサントフィル濃度を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
処理の過程において、式(I)のケトンの少なくとも一部を留去し、式(I)の新たなケトンに交換する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
キサントフィルを有機溶媒から分離する前に、懸濁液を20℃未満の温度に冷却する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ケトンが、R1がメチル又はエチルであり、R2がC1〜C4アルキルである、一般式(I)の化合物及びその混合物から選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
R1がメチル又はエチルであり、R2がC2〜C4アルキルである、一般式(I)のケトン中のキサントフィルの懸濁液を最初に高温で処理し、このようにして得られたキサントフィルをアセトンで処理する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
有機溶媒中のキサントフィルの懸濁液の処理及び続く溶媒からのキサントフィルの分離を、少なくとも1回繰り返す、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
夾雑物が、枯渇される1種以上のハロゲン化炭化水素をさらに含有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
なくとも1種の有機リン化合物トリフェニルホスフィン又はトリフェニルホスフィンオキシドである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
使用されるキサントフィルがアスタキサンチンである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
使用されるアスタキサンチンが、[5-(4-ヒドロキシ-2,6,6-トリメチル-3-オキソ-1-シクロヘキシル)-3-メチル-2,4-ペンタジエニル]トリフェニルホスホニウムブロミド又は3-[5-(アリールスルホニル)-4-メチルペンタ-1,3-ジエニル]-6-ヒドロキシ-2,4,4-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-オンと、2,7-ジメチルオクタトリエンジアールとのウィッティヒ反応により生成されたアスタキサンチンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
使用されるキサントフィルがカンタキサンチンである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
使用されるカンタキサンチンが、[5-(2,6,6-トリメチル-3-オキソ-1-シクロヘキシル)-3-メチル-2,4-ペンタジエニル]トリフェニルホスホニウムブロミド又は3-[5-(アリールスルホニル)-4-メチルペンタ-1,3-ジエニル]-2,4,4-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-オンと、2,7-ジメチルオクタトリエンジアールとのウィッティヒ反応により生成されたカンタキサンチンである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
キサントフィルから、次の不純物:カンタキサンチン異性体、エキネノン及び/又は他の着色カロテノイド不純物の少なくとも1種枯渇される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサントフィルであるアスタキサンチン及びカンタキサンチンの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カンタキサンチン(β,β-カロテン-4,4'-ジオン)及びアスタキサンチン(3,3-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4'-ジオン)は、下記の式により記載されるキサントフィル群の赤色カロテノイド色素である(それぞれの場合において、全てトランスの異性体が示されている)。
【0003】
【化1】
【0004】
アスタキサンチンは、以下においてAXTとも示され、カンタキサンチンとは異なり、3-及び3'-位に不斉中心を有し、したがって、(3R,3'R)-、(3S,3'S)-及び(3S,3'R)-異性体のジアステレオマー混合物、(3R,3'R)-及び(3S,3'S)-異性体のラセミ化合物又は純粋な異性体の形態として存在することができる。合成AXTは、多くの場合にジアステレオマー(3S,3'S)、(3R,3'S)及び(3R,3'R)の混合物である。天然源から得たAXTは、対応する天然源に応じて、実質的に純粋な(3S,3'S)又は(3R,3'R)の形態で存在することができる。同様に、鏡像的に純粋なアスタキサンチンも、完全合成によって入手可能である。
【0005】
アスタキサンチン及びカンタキサンチンは、主に、様々な動物、特にサケ及びマスへの飼料成分として使用される。したがって、AXTは養殖場の魚の繁殖及び免疫防御にとって利益をもたらすように作用する、ビタミン様活性を有する。アスタキサンチン及びカンタキサンチンは、食用魚の生産において魚の飼料への飼料添加物として許可されている。しかしカンタキサンチン及びアスタキサンチンは、食用色素として、栄養補給食品として又は抗酸化特性を有する化粧用添加物としても使用される。AXTは、UV光線により引き起こされるストレスから皮膚を保護することができ、ビタミンEより顕著に強くこの機能で作用する。AXTは、日焼け止め剤の保護作用を補足し、洗い流されることがない。動物における研究は、AXTが血糖値を下げる及び代謝症候群の様々なパラメーターを改善する、という仮説を可能にする。加えて、高血圧モデルでは、血流の増加及び血管拡張をもたらしている。加えて、AXTは、コネキシン43の形成を促進し、したがって癌に対して化学的保護作用を有すると思われる(A. L. Vine et al., Nutr. Cancer 52(1) (2005), 105-113を参照のこと)。
【0006】
アスタキサンチンは、ブラッドレインの(blood-rain)藻類(ヘマトコッカスプルビアリス(Haematococcus pluvialis))から工業規模で得ることができ、又は甲殻類の殻から得ることができる。アスタキサンチンは、一般に、ジクロロメタンを用いる抽出によって得られる(例えば、CN 102106448を参照のこと)。
【0007】
一般に、(3R,3'R)-及び(3S,3'S)異性体のメソ-(3R,3'S)形態の混合物である合成アスタキサンチンの生成は、文献、例えばモノグラフ、G. Britton, S. Liaanen-Jensen, H. Pfander (editors), Carotenoids, Vol. 2, Birkhauser Verlag, Basle, 1996、特にp. 11, pp. 267 ff.及びpp. 281 ff.、並びにその引用参考文献において、B. Schafer, Naturstoffe der chemischen Industrie [Natural materials of the chemical industry], Akademischer Verlag, Heidelberg, 2007, 427 ff.及びその引用文献などの様々なテキストにおいて、また、特許文献、例えばEP 1197483又はEP 1285912において、広範囲にわたって記載されている。カンタキサンチンを生成する方法は、モノグラフG. Britton, S. Liaanen-Jensen, H. Pfander (editors), Carotenoids, Vol. 2, Birkhauser Verlag, Basle, 1996、特にp. 11, pp. 267 ff.及びpp. 281 ff.、並びにその引用文献、また、Seyoung Choi et al., J. Org. Chem., 2005, 70 (8), p. 3328-333に記載されている。
【0008】
アスタキサンチン及びカンタキサンチンは、大部分の有機溶媒に低い溶解度しか有さない。オクタノール水分配係数の対数P(オクタノール/水)は、同じ範囲内にある。アスタキサンチンの対数Pは13.27であり(The EFSA Journal 2005, 291, p. 10)、カンタキサンチンの対数Pは9.79である(FooDB data base, entry FDB015890)。これに対して、ジクロロメタン又はクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素へのこれらの溶解度は、多くの目的において適切である。したがって、アスタキサンチンの合成的生成は、少なくとも最終ステップにおいて、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、トリクロロメタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエテン又はトリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素中において進行する。一般に、ジクロロメタン、ジクロロエタン又はトリクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素は、天然源からのアスタキサンチンの抽出に使用される。したがってアスタキサンチンは、一般に、有意な量のハロゲン化炭化水素を夾雑物として含み、これらを通常の補助剤により除去することができない。しかし、ハロゲン化炭化水素には毒物学的な問題がある。多くの用途において、特に医薬の目的において又は食品における使用において、ハロゲン化炭化水素に関する厳格な制限値が維持されなければならない。例えば、多くの用途におけるアスタキサンチン又はカンタキサンチンの例えばジクロロメタン含有量は、600ppmの値を超えてはならない。他のハロゲン化炭化水素にも同様に厳格な制限値が適用される。比較的に高い揮発性にもかかわらず、アスタキサンチン及びカンタキサンチンにおけるハロゲン化炭化水素夾雑物は、除去するのに大きな困難を伴うことがある。
【0009】
特に合成アスタキサンチンの場合に生じる更なる夾雑物は、有機リン化合物、特にトリフェニルホスフィンオキシドであり、それは、多くの生成方法がウィッティヒ反応又はHorner-Emmons反応を含むからである。したがって、工業合成では、アスタキサンチンは、[5-(4-ヒドロキシ-2,6,6-トリメチル-3-オキソ-1-シクロヘキシル)-3-メチル-2,4-ペンタジエニル]トリフェニルホスホニウムブロミド又は対応するHorner-Emmons誘導体と、2,7-ジメチルオクタトリエンジアール、C10-ジアルデヒドとの反応によって主に生成され、ここで、トリフェニルホスフィンオキシド又はHorner-Wadsworth-Emmons変形の場合では対応するホスホネートが形成される。Juliaオレフィン化の文脈における3-[5-(アリールスルホニル)-4-メチルペンタ-1,3-ジエニル]-6-ヒドロキシ-2,4,4-トリメチル-シクロヘキサ-2-エン-1-オンとC10-ジアルデヒドとの反応によるアスタキサンチンの生成も、同様に文献によって知られている(G. Britton et al. loc. cit., p. 12及びpp. 103 ff.を参照のこと)。更なる夾雑物は、カンタキサンチン異性体、エキネノン及び他の着色カロテノイド不純物でありうる。カンタキサンチン異性体は、例えば、9Z-カンタキサンチン及び13Z-カンタキサンチンである。他の着色カロテノイド不純物は、例えば、λmaxが400〜700nmの範囲のβ-カロテン及びβ-カロテン由来分解生成物である。
【0010】
カンタキサンチンについての同等の生成方法が知られており、例えば、[5-(2,6,6-トリメチル-3-オキソ-1-シクロヘキシル)-3-メチル-2,4-ペンタジエニル]トリフェニルホスホニウムブロミド又は対応するHorner-Emmons誘導体と、C10-ジアルデヒドとの反応、またJuliaオレフィン化の文脈における3-[5-(アリールスルホニル)-4-メチルペンタ-1,3-ジエニル]-2,4,4-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-オンとC10-ジアルデヒドとの反応である。β-カロテンと酸化剤との反応によるカンタキサンチンの生成(例えば、DE 2534805及びその引用文献を参照のこと)も、同様に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】CN 102106448
【特許文献2】DE 2534805
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】G. Britton et al. loc. cit., p. 12及びpp. 103 ff.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、以下で定義されている一般式(I)のケトン溶媒又は一般式(I)のケトンの混合物中のアスタキサンチン又はカンタキサンチンの懸濁液を高温で処理し、続いてキサントフィルを固液分離によりケトン溶媒から分離することによって、溶媒夾雑物、特にハロゲン化炭化水素のみならず、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル又はアセトニトリルなどの他の有機溶媒も、効率的に除去できることが見出された。同時に、この方法によって、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシドなどのリンを含む化合物の枯渇も成し遂げられる。同様に、キサントフィルからの、特にカンタキサンチンからのカンタキサンチン異性体、エキネノン及び他の着色カロテノイド不純物の枯渇を達成することもできる。このことは驚くべきことであり、それは発明者たち自身の研究が、C1〜C3-アルカノール又は超臨界CO2などの多くの現行の溶媒にとって、AXT又はカンタキサンチンなどの他のキサントフィル中のハロゲン化炭化水素の含有量を要求される閾値まで低減することが不可能であることを見出していたからである。
【0014】
したがって本発明は、キサントフィルであるアスタキサンチン及びカンタキサンチンの精製方法であって、
a)キサントフィルを有機溶媒又は溶媒混合物に懸濁することと、
b)有機溶媒又は溶媒混合物中のキサントフィルの懸濁液を高温で処理することと、
c)続いてキサントフィルを固液分離により溶媒から分離することと
を含み、
有機溶媒が、一般式(I)のケトン及び一般式(I)のケトンの混合物
【0015】
【化2】
(式中、R1は、C1〜C4アルキルであり、R2は、C1〜C6アルキル、C3〜C8シクロアルキル、フェニル及びベンジルから選択され、ここで最後に記載された2つの基のフェニル環は非置換であるか、又は1つ若しくは2つのメチル基又は1つ若しくは2つのエチル基を有することができ、或いはR1とR2は一緒になって、直鎖C4〜C6アルカンジイルであり、これは1つ、2つ又は3つのメチル基を置換基として有することができる)
から選択され、
式(I)のケトンが、キサントフィルの懸濁に使用される有機溶媒の少なくとも95重量%を構成する、前記方法に関する。
【0016】
以下に記載される方法は、キサントフィルのE-異性体のみならず、様々なZ-異性体にも適用可能である。
【0017】
本発明の方法の好ましい実施形態は、本出願の特許請求の範囲に提示されている。
【0018】
本方法は、多数の利点と関連している。例えば、キサントフィルであるアスタキサンチン及び/又はカンタキサンチン中のハロゲン化炭化水素の含有量を、要求される毒物学的閾値まで又は未満に効率的に下げることが可能である。この低減は、精製されたキサントフィルの良好な回収率という利点を伴って成し遂げられる。加えて、同時に、有機リン化合物の含有量の効率的な低減が観察される。
【0019】
また本発明は、ハロゲン化炭化水素及び/又はリン化合物を夾雑物として含有するキサントフィルであるアスタキサンチン及び/又はカンタキサンチンから、ハロゲン化炭化水素及び/又はリン化合物を枯渇させるための、本明細書に記載されている方法の使用に関する。特に、本発明は、キサントフィルであるアスタキサンチン及び/又はカンタキサンチンから、ハロゲン化炭化水素及びリン化合物を同時に枯渇させるための、本明細書に記載されている方法の使用に関する。更に、本発明は、キサントフィルからの、次の不純物:カンタキサンチン異性体、エキネノン及び/又は他の着色カロテノイド不純物の少なくとも1種のための、本明細書に記載されている方法の使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ここで及び以下で、接頭辞Cn〜Cmは、それと共に示されている分子又はそれと共に示されている基が有することができる炭素原子の数を示す。
【0021】
例えば、C1〜C4アルキルは、1〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、2-ブチル、イソブチル又はtert-ブチル(=2-メチル-2-プロピル)である。したがって、C1〜C6アルキルは、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族炭化水素基であり、例えば、C1〜C4アルキルにおいて引用された基のうちの1つ、また、n-ペンチル、2-ペンチル、2-メチル-1-ブチル、3-メチル-1-ブチル、2-メチル-2-ブチル、3-メチル-2-ブチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、2-ヘキシル、2-メチル-1-ペンチル、3-メチル-1-ペンチル、2-メチル-2-ペンチル、2-メチル-3-ペンチル、3-メチル-3-ペンチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル又は3,3-ジメチルブチルである。
【0022】
C3〜C6シクロアルキルは、3〜6個の炭素原子を有する飽和脂環式炭化水素基、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル又はシクロヘキシルである。
【0023】
直鎖C4〜C6アルカンジイルは、4〜6個の炭素原子を有する飽和分岐鎖二価炭化水素基、例えば、1,4-ブタンジイル、1,5-ペンタンジイル又は1,6-ヘキサンジイルである。
【0024】
使用されるとき、アリールは、C1〜C4アルキルから、とりわけメチル及びエチルから選択される1つ、2つ又は3つの同一又は異なる基で置換されうるフェニルである。
【0025】
精製条件及び使用される式(I)の溶媒についての並びにまた本発明の方法の実施形態及び実施様式についてのここ及び以下での記載は、アスタキサンチン及びカンタキサンチンに等しく適用される。特に、精製されるキサントフィルとしてアスタキサンチンが使用されるときに適用され、その精製は、本発明の方法の好ましい実施形態である。
【0026】
本発明の方法において、各キサントフィル、すなわち、アスタキサンチン又はカンタキサンチンは、式(I)のケトン又は式(I)のケトンの混合物中に懸濁される。R1及びR2が、特に組み合わされて、以下の意味を有するケトンが好ましい:
R1が、特にメチル又はエチルであり、
R2が、特にC1〜C4アルキル、とりわけメチル又はエチルである。
【0027】
式Iのケトンの例は、アセトン(2-プロパノン)、メチルエチルケトン(MEK、2-ブタノン)、ジエチルケトン(DEK、3-ペンタノン)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、2-ペンタノン、3-メチルブタノン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノンである。
【0028】
式(I)のケトン又は複数のケトンは、懸濁に使用される有機溶媒の少なくとも95重量%、特に少なくとも99重量%を構成する。好ましくは、懸濁液の生成に使用される有機溶媒又は溶媒混合物は、実質的にハロゲン化アルカンを含まず、特に1000ppm未満、とりわけ500ppm未満のハロゲン化アルカンを含む。これらは、リン夾雑物にも同様に当てはまる。好ましくは、懸濁液の生成に使用される有機溶媒又は溶媒混合物は、式(I)のケトンと異なる有機溶媒を含まない又は1重量%未満の僅かな量で含む。これらには、メタノール、エタノール、n-プロパノール又はイソプロパノールなどのC1〜C4アルカノール、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサンなどの環状及び非環状脂肪族エーテル、加えて、酢酸エチルなどの脂肪族カルボン酸のエステル、また、アセトニトリルが含まれる。
【0029】
懸濁液の生成に使用される式(I)の溶媒又はその溶媒混合物は、水を含むことができる又は実質的に無水でありうる。しかし、懸濁液の生成に使用される溶媒中の水の濃度は、多くの場合に20重量%を超えず、とりわけ10重量%を超えない。多くの場合、懸濁液を生成するため、2重量%未満の水を含む式(I)の溶媒又はその溶媒混合物が使用される。しかし、2重量%を超える水を含む式(I)の溶媒又はその溶媒混合物を使用することも、可能である。
【0030】
特別の実施形態において、アセトンが単一の式(I)の溶媒として使用され、又は少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%のアセトンと、20重量%まで、特に10重量%までの、アセトンと異なる式(I)の溶媒とを含む、式(I)の溶媒の溶媒混合物が使用され、アセトンと異なる式(I)の溶媒は、特に、R1がメチル又はエチルであり、R2がC2〜C4アルキルから選択される、式(I)のケトンから選択される。
【0031】
懸濁液は、それぞれの場合に懸濁液の総重量に基づいて、好ましくは2〜50重量%の範囲、特に5〜40重量%の範囲、とりわけ10〜20重量%の範囲のキサントフィルであるアスタキサンチン又はカンタキサンチンの濃度を有する。
【0032】
ここで及び以下で、表現「高温」は、少なくとも60℃、特に少なくとも80℃、とりわけ少なくとも90℃の温度を意味する。
【0033】
キサントフィルからの夾雑物の効率的な枯渇を達成するため、キサントフィルの懸濁液は、好ましくは60〜150℃の範囲、特に80〜120℃の範囲、とりわけ90〜110℃の範囲の温度で処理される。
【0034】
処理は、非加圧下又は加圧下で実施することができ、処理容器中の圧力は、好ましくは10barを超えない。好ましくは、処理は、密閉処理容器において処理温度で確立された溶媒の固有の圧力下で進められる。
【0035】
キサントフィルからの夾雑物の枯渇では、処理の際に、溶媒又は溶媒混合物の一部を蒸留によって除去し、新たな式(I)の溶媒と交換することが有利でありうる。例えば、処理の際に5〜90重量%の溶媒又は溶媒混合物を留去して、新たな溶媒に交換しうる。留去された溶媒と新たな溶媒の定量比は、変わりうるが、好ましくは新たな溶媒が更に加えられず、留去された溶媒の量に相当する。当然のことながら、加えられる新たな溶媒の量は、留去される溶媒の量より少ないこともあり得、この方法により懸濁液を濃縮することができる。特に、留去された溶媒と加えられた新たな溶媒の比は、1:1〜10:1の範囲である。
【0036】
高温での懸濁液の処理は、好ましくは、例えば懸濁液の振とう又は撹拌により、懸濁液を混合する又はかき混ぜることを伴って進められる。
【0037】
高温での懸濁液の処理は、バッチ様式若しくは半バッチ様式で不連続的に又は連続的に実施することができる。それに適した装置は当業者に知られている。不連続反応手順の場合、処理は、通常、懸濁液を混合する手段、例えば撹拌機又は循環ポンプを備えることができる反応ケトルにおいて進められる。連続処理は、それ自体既知の撹拌タンクカスケード又は管型反応器によって実施することができる。
【0038】
所望の閾値又は複数の閾値での夾雑物(複数可)の枯渇に必要な高温での処理時間、すなわちケトン又はケトンの混合物の作用時間は、当然のことながら、キサントフィル中の夾雑物の濃度、夾雑物の種類、許容される毒物学的閾値及び処理温度よって左右される。必要な時間は、一連の実験により又は試料採取により決定することができる。処理時間は、一般に少なくとも1時間である。処理時間の上限は、一般に経済的要因によって決まり、望ましい場合、数日間又は一週間までにもなりうる。好ましくは、総処理時間は、少なくとも6時間、特に少なくとも12時間、とりわけ少なくとも24時間であり、例えば、6〜144時間の範囲、特に12〜120時間の範囲、とりわけ24〜96時間の範囲である。
【0039】
処理の後に、キサントフィル、とりわけアスタキサンチンを溶媒混合物から分離する。分離過程は、それ自体既知の方法による、例えば、濾過若しくは遠心分離又はこれらの手段の組み合わせによる固液分離によって、自然に進められる。収率の損失を回避するため、固液分離を、低温、好ましくは最大20℃、特に最大10℃、とりわけ最大0℃の温度、例えば、-20〜+20℃の範囲、特に-10〜+10℃の範囲、とりわけ-10〜0℃の範囲の温度で実施することが有用であると証明されている。好ましくは、懸濁液は、固液分離が実施される前に、好ましくは最大20℃、特に最大10℃、特に最大0℃の温度に冷却される。懸濁液が冷却される温度限界は、通常-20℃、特に-10℃を超えない。好ましくは、精製されたキサントフィルの固液分離が実施される装置を冷却することが、可能である。
【0040】
固液分離から生じる精製キサントフィル、とりわけアスタキサンチンを、式(I)の新たな溶媒により洗浄して、付着した溶媒残留物を除去することができる。好ましくは、洗浄は、-20〜+20℃の範囲、特に-10〜+10℃の範囲、とりわけ-10〜0℃の範囲の温度で進められる。好ましくは、洗浄に使用される式(I)の溶媒の量は、キサントフィルの1重量部に対して、10重量部を超えて構成されず、例えば、1〜10重量部、特に3〜5重量部である。
【0041】
次に、固液分離から生じる精製キサントフィル、とりわけアスタキサンチンを乾燥し、調合することができる。乾燥は、それ自体既知の方法により、好ましくは窒素流下又は減圧下で進められ、好ましくは20〜100℃の範囲の温度が、乾燥に使用される。
【0042】
固液分離から生じる精製キサントフィル、とりわけアスタキサンチンを、式(I)の溶媒又は式(I)の溶媒混合物に再び懸濁することもでき、懸濁液を、高温の処理に再び付すことができる。この方法によって、一般に、キサントフィルに含まれた夾雑物の更なる枯渇を成し遂げることができる。したがって本発明の方法は、1回又は好ましくは複数の処理サイクルを含むことができる。処理サイクルとは、式(I)の溶媒又は複数の溶媒中の懸濁液の処理と、続くキサントフィルの固液分離を意味する。好ましくは、処理は、少なくとも2回、特に少なくとも3回の処理サイクル、例えば、2〜6サイクル、特に3〜5サイクルを含む。
【0043】
処理が複数の処理サイクルを含む場合、各サイクルは、上記に記載された方法により実施される。処理サイクルが実施される条件は、上記に記載された条件に相当する。しかし、連続するサイクルの条件が同一である必要はない。むしろ、処理時間、温度、圧力、濃度、使用される溶媒、固液分離などの各サイクルに用いられる条件は、変わりうる。好ましくは、温度、圧力、濃度、使用される溶媒及び固液分離のパラメーターに関して、好ましいものとして上記に挙げられた条件を用いることができる。これに対して、単一サイクルの処理時間は、全ての処理サイクルの総処理時間が、少なくとも6時間、特に少なくとも12時間、とりわけ少なくとも24時間、例えば、6〜144時間の範囲、特に12〜120時間の範囲、とりわけ24〜96時間の範囲であるように選択される。1つのサイクルの処理時間は、好ましくは1〜48時間の範囲、特に6〜36時間の範囲、とりわけ12〜30時間の範囲である。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、最初に、キサントフィル、とりわけアスタキサンチンの懸濁液を、R1がメチル又はエチルであり、R2がC2〜C4アルキルである式(I)のケトン、例えばジエチルケトン、メチルイソブチルケトン又はメチルエチルケトン中において、1回以上のサイクル、例えば、1、2、3又は4サイクルで高温で処理し、このようにして得たキサントフィルを1回以上のサイクル、例えば、1又は2サイクルでアセトンで処理する。
【0045】
本発明の方法において精製され、使用されるキサントフィル、とりわけアスタキサンチンは、当然のことながら、所望の用途に望ましい又は要求される制限値又は閾値を超える量で枯渇される量を少なくとも1つ含む。
【0046】
本発明の方法において精製され、使用されるキサントフィル、とりわけアスタキサンチンは、一般に少なくとも1種のハロゲン化炭化水素、特に、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、トリクロロメタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン又はテトラクロロエテンなどの1種以上の塩素化炭化水素を含む。ハロゲン化炭化水素、特に、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、トリクロロメタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン又はテトラクロロエテンなどの1種以上の塩素化炭化水素の含有量は、多くの場合に少なくとも500ppm、特に少なくとも1000ppm、とりわけ少なくとも1500ppm、例えば、1000〜10000ppm又は1500〜5000ppmである。
【0047】
本発明の方法において精製され、使用されるキサントフィルは、合成キサントフィル又は天然源からのキサントフィルでありうる。好ましくは、合成キサントフィル、特に、ウィッティヒ反応又はHorner-Wadsworth-Emmons反応又はJulia反応が実施される合成における、特に合成の最終段階におけるキサントフィルである。この方法で生成されるキサントフィルは、合成がウィッティヒ反応又はHorner-Wadsworth-Emmons反応を含む場合、一般に、トリフェニルホスフィン又はトリフェニルホスフィンオキシドなどの有機リン化合物を含む。
【0048】
本発明の方法の特定の実施態様では、[5-(4-ヒドロキシ-2,6,6-トリメチル-3-オキソ-1-シクロヘキシル)-3-メチル-2,4-ペンタジエニル]トリフェニルホスホニウム塩、特に臭化物と、2,7-ジメチルオクタトリエンジアールとのウィッティヒ反応により生成されたアスタキサンチンが使用される。そのようなアスタキサンチンは、生成に関連したトリフェニルホスフィン及び/又はトリフェニルホスフィンオキシドを含む。
【0049】
本発明の方法の更なる特定の実施態様では、3-[5-(アリールスルホニル)-4-メチルペンタ-1,3-ジエニル]-6-ヒドロキシ-2,4,4-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-オンと2,7-ジメチルオクタトリエンジアールとのJulia反応により生成されたアスタキサンチンが使用される。
【0050】
本発明の方法の更なる特定の実施態様では、[5-(2,6,6-トリメチル-3-オキソ-1-シクロヘキシル)-3-メチル-2,4-ペンタジエニル]トリフェニルホスホニウム塩、特に臭化物と、2,7-ジメチルオクタトリエンジアールとのウィッティヒ反応により生成されたカンタキサンチンが使用される。そのようなカンタキサンチンは、生成に関連したトリフェニルホスフィン及び/又はトリフェニルホスフィンオキシドを含有する。
【0051】
本発明の方法の更なる特定の実施態様では、3-[5-(アリールスルホニル)-4-メチルペンタ-1,3-ジエニル]-2,4,4-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-オンと2,7-ジメチルオクタトリエンジアールとのJulia反応により生成されたカンタキサンチンが使用される。
【0052】
本発明の方法の更なる特定の実施態様では、β-カロテンの酸化により生成されたカンタキサンチンが使用される。
【0053】
本発明の方法の一群の実施形態において、精製されるキサントフィルは、特に1種以上の有機リン化合物、特に、トリフェニルホスフィン及び/又はトリフェニルホスフィンオキシドを含む。そのようなキサントフィルにおけるリン含有量は、一般に少なくとも20ppm、多くの場合に少なくとも50ppmであり、本発明の方法により20ppm未満、特に10ppm未満の値に低下させることができる。本明細書に列挙されたリン含有量は、リン元素に基づいた含有量である。
【0054】
本発明の方法の更なる群の実施形態において、精製されるキサントフィル、とりわけカンタキサンチンは、カンタキサンチン異性体、エキネノン及び/又は他の着色カロテノイド不純物から選択される少なくとも1種の不純物を含有する。カンタキサンチン異性体は、例えば、9Z-カンタキサンチン及び13Z-カンタキサンチンである。他の着色カロテノイド不純物は、例えば、λmaxが400〜700nmの範囲のβ-カロテン及びβ-カロテン由来分解生成物である。
【0055】
懸濁液を生成するために使用されるキサントフィル、特に、好ましく使用されるアスタキサンチンは、結晶質、半結晶質又は非晶質であり、結晶質形態が好ましい。多くの場合、本発明の方法に好ましく使用されるアスタキサンチンは、合成ジアステレオマー混合物、特にジアステレオマー(3S,3'S)、(3R,3'S)及び(3R,3'R)の混合物である。
【0056】
懸濁液を精製するために使用されるキサントフィルは、一般に粉末、好ましくは、レーザー回折により決定した5〜100μmの範囲の重量平均粒径を有する粉末である。特に粉末は、150μm未満のd90値を有する。
【実施例】
【0057】
以下の略語が使用される。
DEK:ジエチルケトン
DCM:ジクロロメタン
MIBK:メチルイソブチルケトン
ppm:百万分率
【0058】
使用した出発原料は、G. Britton, S. Liaanen-Jensen, H. Pfander (editors), Carotenoids, Vol. 2, Birkhauser Verlag, Basle, 1996, pp. 283 ff.及びその引用文献に記載された合成に従って、[5-(4-ヒドロキシ-2,6,6-トリメチル-3-オキソ-1-シクロヘキシル)-3-メチル-2,4-ペンタジエニル]トリフェニルホスホニウムブロミドと、2,7-ジメチルオクタトリエンジアールとのウィッティヒ反応により生成されたアスタキサンチン粉末であった。
【0059】
アスタキサンチンの溶媒含有量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーによって決定し、このため、50mgのアスタキサンチンを密閉試料容器の中に入れた。試料容器を80℃に加熱し、1時間後、試料を取り出し、40から200℃の温度勾配でAgilentのDB-624-キャピラリー(30m)を用いるガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0060】
リン含有量は、原子吸光分析法により決定した。
【0061】
カンタキサンチン異性体、エキネノン及び他の着色カロテノイド不純物の含有量は、HPCLにより決定した。
【0062】
[実施例1]
アセトンを用いた精製
圧力容器中に、200gのアスタキサンチンを1100gのアセトンに20〜25℃で懸濁した。この懸濁液を固有圧力(およそ4bar)下において、撹拌しながら100℃で20時間加熱した。続いて、混合物を0℃に冷却し、懸濁液を濾過した。フィルターケーキをアセトンにより0℃で3回洗浄した(第1のサイクル)。フィルターケーキを再びアセトンに懸濁し、懸濁液を、第1のサイクルに記載されたように100℃で24時間加熱し、冷却した後、濾過し、冷アセトンで洗浄した(第2のサイクル)。これを更に2回繰り返した(第3及び4のサイクル)。第4の濾過の後、固体を窒素流下において20℃で恒量に乾燥した。160g(収率80%)の純粋なアスタキサンチンを得た。それぞれのサイクルの後、試料を取り出し、乾燥(20℃、窒素流、恒量)した後、リンの含有量及び溶媒の含有量を決定した。出発原料及び各サイクルの後の分析データを下記に表にまとめる。
【0063】
【表1】
【0064】
[実施例2]
ジエチルケトンを用いた精製
実施例1と同様の方法によって、102℃で還流下において加圧されていないジエチルケトンを使用して、実験を実施した。純粋なアスタキサンチンの収率は同様に80%であった。出発原料及び各サイクルの後の分析データを以下の表にまとめる。
【0065】
【表2】
【0066】
[実施例3]
イソブチルメチルケトンを使用した精製
実施例1と同様の方法によって、100℃で加圧されていないイソブチルエチルケトンを使用して、実験を実施した。純粋なアスタキサンチンの収率は同様に80%であった。出発原料及び各サイクルの後の分析データを以下の表にまとめる。
【0067】
【表3】
【0068】
[実施例4]
蒸留を伴ってジエチルケトンを使用した精製
ジエチルケトン中のアスタキサンチンの15%強度の懸濁液を使用して、実施例2を繰り返し、懸濁液を還流下で4日間加熱し、毎日20%のジエチルケトンを留去し、同じ量の新たなジエチルケトンと交換した。4日目に、懸濁液を0℃に冷却し、固体を濾取した。固体をジエチルケトンにより0℃で3回洗浄し、次に窒素流下において20℃で乾燥した。純粋なアスタキサンチンの収率は85〜90%であった。出発原料及び処理の分析データを以下の表にまとめる。
【0069】
【表4】
【0070】
[実施例5]
シクロヘキサノンを用いたアスタキサンチンの精製
170gのシクロヘキサノン中の30gのアスタキサンチンの懸濁液を、100℃で20時間加熱した。続いて、混合物を0℃に冷却し、懸濁液を濾過した。フィルターケーキを、シクロヘキサノン(毎回25ml)で3回洗浄し、次に乾燥した。22.5gの生成物を得た。
【0071】
【表5】
【0072】
[実施例6]
アセトフェノンを用いたアスタキサンチンの精製
170gのアセトフェノン中の30gのアスタキサンチンの懸濁液を、100℃で20時間加熱した。続いて、混合物を0℃に冷却し、懸濁液を濾過した。フィルターケーキを、アセトン(毎回50ml)で4回洗浄し、乾燥した。21.1gの生成物を得た。
【0073】
【表6】
【0074】
[実施例7]
アセトンを用いたカンタキサンチンの精製
425gのアセトン中の75gのカンタキサンチンの懸濁液を、固有圧力下において100℃で20時間加熱した。続いて、混合物を0℃に冷却し、懸濁液を濾過した。フィルターケーキを、アセトン(毎回100ml)で3回洗浄し、乾燥した。55.9gの生成物を得た。
【0075】
【表7】
【0076】
[実施例8]
ジエチルケトンを用いたカンタキサンチンの精製
170gのジエチルケトン中の30gのカンタキサンチンの懸濁液を、100℃で20時間加熱した。続いて、混合物を0℃に冷却し、懸濁液を濾過した。フィルターケーキを、ジエチルケトン(毎回25ml)で3回洗浄し、乾燥した。35.06gの生成物を得た。
【0077】
【表8】
【0078】
[実施例9]
イソブチルメチルケトンを用いたカンタキサンチンの精製
170gのイソブチルメチルケトン中の30gのカンタキサンチンの懸濁液を、100℃で20時間加熱した。続いて、混合物を0℃に冷却し、懸濁液を濾過した。フィルターケーキを、イソブチルメチルケトン(毎回25ml)で3回洗浄し、乾燥した。32.2gの生成物を得た。
【0079】
【表9】
以下は、本発明の実施形態の一つである。
(1)アスタキサンチン及びカンタキサンチンから選択されるキサントフィルを精製する方法であって、
a)キサントフィルを有機溶媒又は溶媒混合物に懸濁することと、
b)有機溶媒又は溶媒混合物中のキサントフィルの懸濁液を高温で処理することと、
c)続いてキサントフィルを固液分離により溶媒から分離することと
を含み、
有機溶媒が、一般式(I)のケトン及び一般式(I)のケトンの混合物
【化3】
(式中、R1は、C1〜C4アルキルであり、R2は、C1〜C6アルキル、C3〜C8シクロアルキル、フェニル及びベンジルから選択され、ここで最後に記載された2つの基のフェニル環は非置換であるか、又は1つ若しくは2つのメチル基又は1つ若しくは2つのエチル基を有することができ、或いはR1とR2は一緒になって、直鎖C4〜C6アルカンジイルであり、これは1つ、2つ又は3つのメチル基を置換基として有することができる)
から選択され、
式(I)のケトンが、キサントフィルの懸濁に使用される有機溶媒の少なくとも95重量%を構成する、前記方法。
(2)式(I)のケトンが、懸濁液に使用される有機溶媒の少なくとも99重量%を構成する、(1)に記載の方法。
(3)懸濁液の生成に使用される溶媒中の水の濃度が20重量%を超えない、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)キサントフィルの懸濁液を少なくとも60℃の温度で処理する、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)懸濁液を60〜150℃の範囲の温度で処理する、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)懸濁液を少なくとも1時間処理する、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)懸濁液を処理する処理時間が6〜144時間の範囲である、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)懸濁液が2〜50重量%の範囲のキサントフィル濃度を有する、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)処理の過程において、式(I)のケトンの少なくとも一部を留去し、式(I)の新たなケトンに交換する、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)キサントフィルを有機溶媒から分離する前に、懸濁液を20℃未満の温度に冷却する、(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)ケトンが、R1がメチル又はエチルであり、R2がC1〜C4アルキルである、一般式(I)の化合物及びその混合物から選択される、(1)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)R1がメチル又はエチルであり、R2がC2〜C4アルキルである、一般式(I)のケトン中のキサントフィルの懸濁液を最初に高温で処理し、このようにして得られたキサントフィルをアセトンで処理する、(1)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)有機溶媒中のキサントフィルの懸濁液の処理及び続く溶媒からのキサントフィルの分離を、少なくとも1回繰り返す、(1)〜(12)のいずれかに記載の方法。
(14)使用されるキサントフィルが、1種以上のハロゲン化炭化水素を夾雑物として含有する、(1)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)使用されるキサントフィルが、少なくとも1種の有機リン化合物、特にトリフェニルホスフィン又はトリフェニルホスフィンオキシドを夾雑物として含む、(1)〜(14)のいずれかに記載の方法。
(16)使用されるキサントフィルがアスタキサンチンである、(1)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(17)使用されるアスタキサンチンが、[5-(4-ヒドロキシ-2,6,6-トリメチル-3-オキソ-1-シクロヘキシル)-3-メチル-2,4-ペンタジエニル]トリフェニルホスホニウムブロミド又は3-[5-(アリールスルホニル)-4-メチルペンタ-1,3-ジエニル]-6-ヒドロキシ-2,4,4-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-オンと、2,7-ジメチルオクタトリエンジアールとのウィッティヒ反応により生成されたアスタキサンチンである、(16)に記載の方法。
(18)使用されるキサントフィルがカンタキサンチンである、(1)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(19)使用されるカンタキサンチンが、[5-(2,6,6-トリメチル-3-オキソ-1-シクロヘキシル)-3-メチル-2,4-ペンタジエニル]トリフェニルホスホニウムブロミド又は3-[5-(アリールスルホニル)-4-メチルペンタ-1,3-ジエニル]-2,4,4-トリメチルシクロヘキサ-2-エン-1-オンと、2,7-ジメチルオクタトリエンジアールとのウィッティヒ反応により生成されたカンタキサンチンである、(18)に記載の方法。
(20)ハロゲン化炭化水素及び/又はリン化合物を夾雑物として含むアスタキサンチン及びカンタキサンチンから選択されるキサントフィルから、ハロゲン化炭化水素及び/又はリン化合物を枯渇させるための、(1)〜(19)のいずれかに記載の方法の使用。
(21)キサントフィルから、次の不純物:カンタキサンチン異性体、エキネノン及び/又は他の着色カロテノイド不純物の少なくとも1種を枯渇させるための、(1)〜(19)のいずれかに記載の方法の使用。