特許第6690610号(P6690610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6690610
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/06 20060101AFI20200421BHJP
   H01S 5/022 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   H01S5/06
   H01S5/022
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-146624(P2017-146624)
(22)【出願日】2017年7月28日
(65)【公開番号】特開2019-29477(P2019-29477A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2018年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】栗林 渉
(72)【発明者】
【氏名】三好 隆
(72)【発明者】
【氏名】森住 直人
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−527518(JP,A)
【文献】 特開2012−190628(JP,A)
【文献】 特開2009−016543(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/088790(WO,A1)
【文献】 特開2007−175429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00− 5/50
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を発する半導体発光素子と、
蛍光体を含み、前記励起光が照射されることにより蛍光を発する波長変換部材と、
前記半導体発光素子と前記波長変換部材とを支持するパッケージと、
前記パッケージ内に配置され、前記励起光を検出し得る受光素子と、前記蛍光を検出し得る受光素子と、を備え
前記励起光を検出し得る受光素子は、前記半導体発光素子の出射端面から出射され、前記波長変換部材に到達し、波長変換されずに戻った励起光が入射する位置に配置されている発光装置。
【請求項2】
前記励起光を検出する受光素子の検出値と、前記蛍光を検出する受光素子の検出値との比に基づいて、前記半導体発光素子の発光を止めることが可能な制御手段を有する請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記励起光を検出する受光素子が前記励起光を透過するバンドパスフィルタを備え、前記蛍光を検出する受光素子が前記蛍光を透過するバンドパスフィルタを備える請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記複数の受光素子が近接して配置されている請求項1〜3のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項5】
前記波長変換部材は、光を透過し得る部材である請求項1〜4のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項6】
前記波長変換部材は、光を透過し得る光透過層と光反射層との積層部材である請求項1〜4のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項7】
前記半導体発光素子は半導体レーザ素子である請求項1〜6のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項8】
前記複数の受光素子は、前記半導体レーザ素子の主発光側の端面と対向する端面からのレーザ光が入らない位置に配置されている請求項7に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白色光源用半導体発光装置として、半導体発光素子に可視光のレーザダイオードを使用し、レーザダイオードの発光方向に配置された透明キャップに波長変換部材を固定配置し、これらの混色により白色光を得ることが可能な発光装置が知られている。しかし、このような構成では、波長変換部材の脱落又は破壊等により、レーザダイオードからの光が直接外に漏れ出す危険がある。
このように、発光装置にレーザ光が直接外部に出射することを抑制するために、光検知器を備える構造が提案されている(特許文献1及び2等)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−165598号公報
【特許文献2】特開2011−66069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、より高い出力と信頼性とを確保し得る発光装置として、レーザ光の外部への出射を防止することのみならず、波長変換部材の破壊等による温度特性の悪化による光束の低下を防止することも求められている。
本願発明は、高い出力、安全性及び信頼性を兼ね備えた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の発光装置は、励起光を発する半導体発光素子と、
蛍光体を含み、前記励起光が照射されることにより蛍光を発する波長変換部材と、
前記半導体発光素子と前記波長変換部材とを支持するパッケージと、
前記パッケージ内に配置され、前記励起光を検出し得る受光素子と、前記蛍光を検出し得る受光素子とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本願発明によれば、波長変換部材の脱離等を即座に検出することができ、より高い出力、安全性及び信頼性を確保し得る発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】実施形態1に係る発光装置の概略断面図である。
図1B】実施形態1に係る発光装置のステム近傍の平面図である。
図2】実施形態1に係る発光装置のステム近傍の温度分布のシミュレーション図である。
図3】実施形態1に係る発光装置のブロック図である。
図4】実施形態1に係る発光装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図5A】実施形態2に係る発光装置の概略断面図である。
図5B】実施形態2に係る蓋体を除去した発光装置の平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明を以下に限定するものではない。また、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするために誇張していることがある。さらに、同一の名称、符号については、原則として同一もしくは同質の部材を示しており、重複した説明は適宜省略する。
【0009】
実施形態1
この実施形態の発光装置10は、透過型の発光装置であり、図1Aに示すように、励起光を発する半導体発光素子1と、蛍光を発する波長変換部材2と、励起光を検出し得る受光素子3と、蛍光を検出し得る受光素子4とを備える。これら半導体発光素子1、波長変換部材2、受光素子3、4は、いずれも、パッケージ5内に配置され、パッケージ5によって支持されている。
【0010】
このように、励起光を検出し得る受光素子と、蛍光を検出し得る受光素子との少なくとも2種類の波長の光を検出し得る受光素子を備えることにより、パッケージ内で反射又はパッケージ内に入射する光(励起光及び蛍光)を同時に検出することができる。これによって、蛍光体の劣化、割れ又は脱落等の異常を即座に検知することができる。その結果、半導体発光素子の駆動を停止するなどして、安全性及び信頼性が高い高出力の発光装置を得ることができる。また、発光装置は連続駆動によって、それ自体の温度が変化し、あるいは、使用環境によって温度の変動を伴うことがあるが、本実施形態の発光装置では、低温から高温での広範囲な温度環境においても、上述した安全性及び信頼性を、高出力を維持することができる。
【0011】
(半導体発光素子1)
半導体発光素子1は、励起光を発する、発光ダイオード、半導体レーザ素子など、種々のものを利用することができる。特に、この実施形態の発光装置は、後述する波長変換部材の脱落及び破壊を即座に検出することができることから、直接人体に照射すると危険な半導体レーザを用いることが好ましい。
半導体発光素子としては、例えば、300nm〜500nmに発光ピーク波長を有するものが挙げられ、400nm〜470nmに発光ピーク波長を有するものが好ましく、420nm〜470nmに発光ピーク波長を有するものがより好ましい。典型的には、端面発光型の半導体レーザ素子を使用することができる。これにより発光装置の出力が向上する。半導体レーザ素子としては、高出力のものを用いることができ、例えば、1つの半導体レーザ素子において、1W〜100Wの出力のものを用いることができる。
【0012】
本実施形態では、半導体発光素子1は、後述するパッケージ5、特に、後述するパッケージ5を構成するステムのブロック部12に、ダイボンド部材を用いて固定されている。ダイボンド部材は、放熱性の優れたはんだ材、Au−Sn、Agペースト、In合金等を用いることが好ましい。
【0013】
(波長変換部材2)
波長変換部材2は、半導体発光素子1からの励起光を入射することができるように、半導体発光素子1の励起光の出射端の前面に配置されている。波長変換部材2は、半導体発光素子1からの励起光を吸収して他の波長の光(蛍光)を発光することが可能な蛍光体を含む。この実施形態の発光装置は、後述するパッケージ5の支持体14の貫通孔を塞ぐように設けられた波長変換部材2中に蛍光体が含有されて構成されている。これにより、半導体発光素子1の光と波長変換部材2で波長変換された光との混色光、例えば、白色光を透過させて、外部に取り出すことができる。半導体発光素子の種類及び蛍光体の種類を選択することにより、取り出したい光の色を適宜調整することができる。
【0014】
蛍光体としては、例えば、用いる光源の出射光の波長、得ようとする光の色などを考慮して、公知のもののいずれをも用いることができる。具体的には、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット(LAG)、ユウロピウム及び/又はクロムで賦活された窒素含有アルミノ珪酸カルシウム(CaO−Al−SiO)、ユウロピウムで賦活されたシリケート((Sr,Ba)SiO)、βサイアロン蛍光体、KSF系蛍光体(KSiF:Mn)などが挙げられる。なかでも、耐熱性を有する蛍光体を用いることが好ましい。
【0015】
これらの蛍光体を利用することにより、可視波長の励起光及び蛍光の混色光(例えば白色系)を出射する発光装置、紫外光の励起光に励起されて可視波長の蛍光を出射する発光装置等とすることができる。特に、青色発光素子に組み合わせて白色発光させる蛍光体としては、青色で励起されて黄色のブロードな発光を示す蛍光体を用いることが望ましい。
【0016】
蛍光体は、単層構造の波長変換部材において1種類用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。また、積層構造の波長変換部材において、それぞれ異なる種類の蛍光体を含有させたものでもよい。
例えば、半導体発光素子の発光波長に合わせてCIEの色度図上の色度点の異なる蛍光物質の量を調整し、含有させることにより、その蛍光体間と半導体発光素子で結ばれる色度図上の任意の点の波長の光を発光させることができる。蛍光体は、単層構造又は積層構造において、分散状態を均一にすることが好ましい。これにより波長変換部材の部位によらず均一に波長変換を行い、ムラのない均一な混色光を得ることができる。
【0017】
蛍光体は、平均粒径(メジアン径)が1μm以上であるものが好ましい。なかでも、比較的大きな平均粒径を有するものを用いることが好ましく、例えば、平均粒径が10μm以上、12μm以上であるものが好ましい。また、平均粒径が50μm以下、30μm以下、25μm以下であるものが好ましい。平均粒径は、例えば、F.S.S.S.No(Fisher Sub Sieve Sizer’s No)における空気透過法で得られる粒径を指す。このように、比較的大きな平均粒径を有することにより、半導体発光素子からの光による発熱を低減させることができ、さらに波長変換部材からの熱の放出を容易とすることができる。
蛍光体は、波長変換部材の総重量に対して、例えば0.05重量%〜50重量%とすることが好ましく、1重量%〜15重量%がより好ましい。
【0018】
蛍光体は、例えば、透光部材に分散されて波長変換部材を構成する。透光部材は、光透過率のよい材料によって形成されていることが好ましい。例えば、光透過率は、用いる光源、例えばレーザダイオードから出射される光を50%以上、60%以上、70%又は80%以上を透過するものが好ましい。また、高出力の光が照射しても、変質等しない耐光性及び耐熱性の良好な材料によって形成されているものが好ましい。例えば、融点が1000℃〜3000℃のものが挙げられる。
【0019】
透光部材の材料としては、例えば、ガラス、セラミックスが挙げられる。セラミックスとしては、アルミナ又はサファイア等の酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化チタン、酸化イットリウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、透光性が良好であり、融点、熱伝導性及び拡散性等の観点から、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素を含むものが好ましく、酸化アルミニウムを含むものがより好ましい。透光部材は、単一の材料又は複数の材料によって単層構造でも積層構造でもよい。
このような材料により透光部材を形成することにより、半導体発光素子の高出力化により透光部材が高温になった場合でも、透光部材自体が融解することを抑制することができ、ひいては透光部材の変形及び変色を回避することができる。よって、長期間、光学特性を劣化させることなく維持することができる。また、熱伝導率に優れるものを用いることにより、半導体発光素子に起因する熱を効率よく放出することができる。
【0020】
透光部材は、必要に応じて、光散乱材を含んでいてもよい。光散乱材としては、透光部材を構成する材料に対して、融点が高く、屈折率差があればよい。光散乱材としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタンなどの中から透光部材との屈折率差を有するものを使用することができる。また、光散乱材の含有量は、特に限定されず、例えば、使用する第2透光部材の材料よりも少ない量とすることができる。
光散乱材と蛍光体とを併用することにより、半導体発光素子及び蛍光物質からの光を良好に乱反射させ、大きな粒径の蛍光体を用いることによって生じやすい色ムラを抑制することができる。
【0021】
(パッケージ5)
パッケージ5は、上述した半導体発光素子1及び波長変換部材2、後述する受光素子3、4を収容し、支持するものであり、図1Aに示すように、例えば、ステムのベース部11とブロック部12、キャップ13及び支持体14によって構成されている。
発光装置10では、図1A及び1Bに示すように、ステムのベース部11の上面に対して直立した柱状のブロック部12が載置されている。ステムのブロック部12の側面には、半導体発光素子1が固定されているが、サブマウントを介して固定してもよい。
【0022】
ステムのベース部11の縁周近傍であって、ベース部11の上面側に、半導体発光素子1を覆うように中空のキャップ13が接着されている。キャップ13の上面側には、半導体発光素子1と対向する部位において、厚さ方向に貫通して光取出用の窓が形成された支持体14が配置している。この支持体14の窓を塞ぐように、蛍光体が含有された波長変換部材2が固定されている。窓を構成する貫通孔の内壁は、半導体発光素子側から上面側へ孔のサイズが大きくなるように傾斜している。これにより、波長変換部材2への光入射率及び波長変換部材2からの光取出し効率をともに高めることができる。また、発光装置から外部へ取り出される光は、波長変換部材2の内部にて反射を繰り返した散乱光であることから、人体への危険性を低減させることができる。
【0023】
ステムのベース部11の厚さ方向には、絶縁性部材を介して複数のリード15がステムのベース部11の上面側から底面側に貫通固定されている。ステムのベース部11の上面側に延伸したインナーリード部は、半導体発光素子1とワイヤーを介して電気的に接続されている。一方、ステムのベース部11の底面側に延伸したアウターリード部は、回路基板などに実装されて外部の電極と電気的に接続される。
【0024】
ステム(ベース部11、ブロック部12)、キャップ13及び支持体14は、光を吸収しにくい、反射性の材料からなることが好ましい。ここで反射性とは、例えば、用いる半導体発光素子1から出射される光を50%以上反射する材料、60%以上、70%又は80%以上反射する材料が好ましい。
この発光装置では、波長変換部材2からの発熱は、キャップ13を経由してステムのベース部11へと伝熱される。一方、半導体発光素子1からの発熱も、ステムのブロック部12を経由してステムのベース部11へと伝熱される。従って、パッケージ5は、放熱部材として用いられ、熱伝導性が良好な材料からなることが好ましい。ここで、熱伝導率が良好とは、20℃における熱伝導率が数W/m・k以上のものが好ましく、10W/m・k以上、25W/m・k以上がより好ましく、50W/m・k以上がさらに好ましい。この場合、ステム(ベース部11、ブロック部12)、キャップ13及び支持体14は、波長変換部材2よりも熱伝導率の大きな材料により形成されていることが好ましい。これにより、波長変換部材2の熱を効率的に放熱することができる。パッケージ5は、耐熱性の良好な材料からなることが好ましい。ここで、耐熱性が良好とは、融点が数百℃以上のものが好ましく、1000℃以上がより好ましく、1500℃以上がさらに好ましい。
【0025】
パッケージ5は、導電性、絶縁性等種々の材料によって形成することができる。
ステム(ベース部11、ブロック部12)としては、Cu、W、Ta、Mo、Al、Fe、Ag、Au、Rh、コバール、真鍮、CuW、CuMo等の金属などを用いることができる。これらの金属を母材とし、その表面の全面、または一部にAu、Ag、Al等でめっきが施されていてもよい。なかでも、表面が金めっきされた銅又は銅合金により形成されているものが好ましい。特に、ステムのベース部11は、キャップ13と接着されるため、ステムのベース部11の少なくとも表面はキャップ13の表面材質と密着性の良い材料によって構成されていることが好ましい。
【0026】
キャップ13としては、Ni−Fe合金、コバール、CuW、Ni、Co,Fe、真鍮等を用いることができる。特に、熱伝導率が高く、且つ、プロジェクションを用いた抵抗溶接が可能であるNiや、Fe−Ni合金、コバール等が好ましい。
【0027】
支持体14としては、炭化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、サーメット等のセラミックス、タングステン、タンタル、モリブデン、コバール等の高融点金属などが挙げられる。なかでも、高熱伝導率で反射率の高い酸化アルミニウムを含む材料により形成されたものが好ましい。
【0028】
パッケージの形状、大きさ等は、使用目的、意図する作用/効果によって、適宜設定することができる。
【0029】
(受光素子3及び4)
受光素子3は、半導体発光素子によって出射された励起光を検出することができる素子であり、受光素子4は、蛍光体によって励起光の波長が変換された蛍光を検出し得る素子である。例えば、上述したように、白色の光を得るための発光装置では、受光素子3は、青色の励起光を検出することができるものであり、受光素子4は、青色の光によって励起された蛍光体が発する黄色の蛍光を検出することができるものが挙げられる。
【0030】
受光素子としては、半導体受光素子であるSiフォトダイオード、GaAsフォトダイオード、InGaAsフォトダイオード、InGaAsPフォトダイオード等、光電管、光電子増倍管等を用いることができる。
好ましい半導体受光素子として、光受光面側から、反射防止膜、n型InP基板、InGaAsP第1吸収層、n型InPバッファ層、n型InGaAs第2吸収層、p型拡散層領域、無反射膜をこの順に有する半導体受光素子が挙げられる。この半導体受光素子は、InGaAsP第1吸収層のバンドギャップ波長より長波長の光をn型InGaAsP第2吸収層に達した後に光電流として取り出し、InGaAsP第1吸収層のバンドギャップ波長より短波長の光をInGaAsP第1吸収層で吸収することができる。
【0031】
受光素子は、それ自体が可視光線の中の特定の波長にのみ感応する特性をもったものでもよいし、受光素子3、4として、同様の波長の光を検出することが可能であるものを用い、後述するように、特定の波長領域のみを透過するバンドパスフィルタを併用してもよい。これにより、半導体発光素子によって出射された励起光及び波長変換部材2によって変換された蛍光を効率的に検知することが可能となる。
例えば、受光素子3は、用いる半導体発光素子1からの励起光を光電変換して検出することが可能であり、用いる蛍光体による蛍光に対して受光感度がないものを用いることが好ましい。また、受光素子4は、例えば、用いる蛍光体による蛍光を光電変換して検出することが可能であり、用いる半導体発光素子1からの励起光に対して受光感度がないものを用いることが好ましい。ここで、光を光電変換して検出することが可能とは、その光の一部に感度を有し、具体的にはその光の波長に対する変換効率が10%以上のものが好ましく、30%以上のものがより好ましい。
【0032】
なお、1種類の波長の光を検出し得る受光素子を用いた場合であっても、波長変換部材の全体の破損又は脱落による光変換異常を検知することは可能であるが、波長変換部材の一部の破損や機能劣化などに対しては、半導体発光素子1からの励起光が波長変換部材によって変換され得る場合には、光変換異常を検知しにくくなる。また、波長変換部材の全体が破損又は脱落などした際に、半導体発光素子1からの励起光が、発光装置を構成する他の部材等により反射され、受光素子に入射する場合も考えられる。よって、上述したように、少なくとも2種類の受光素子を用いることが好ましい。
【0033】
受光素子3、4は、図1Bに示すように、パッケージ5内に配置されている。発光装置においては、半導体発光素子1の出射端面から出た励起光のうち、その一部は、波長変換部材2に入射されるが、波長変換部材2中の蛍光体で反射される等して波長変換されずにパッケージ5内に戻って受光素子3に入射し、他の一部は、波長変換部材2中の蛍光体によって波長が変換された後、波長変換部材2内で反射して、受光素子4に入射される。従って、受光素子3、4は、例えば、波長変換部材2からの光を検出可能な位置に固定されていればよい。具体的には、ステムのベース部11の上面、ブロック12の上面、キャップ13の内壁等に配置することができる。これらは、配置場所でサブマウントを介して固定してもよい。
【0034】
例えば、ステムのベース部11の平面視において、図2に示すように、半導体発光素子の上面側(ステムのブロック部12の反対側)が最も高温となり、ステムのベース部11内において、徐々に温度が変化することが放熱シミュレーションによって確認されている。従って、2つの受光素子3、4は、互いに近接して配置することが好ましい。これによって、2つの受光素子間の発光装置内の温度差及び/又は外光による受光感度に対する影響を低減することができる。ただし、温度分布は、図2に示すように、ステムのベース部11の平面視において、半導体発光素子1の中心を通る中線、言い換えると、半導体発光素子1の中心を通り、半導体発光素子1の実装面に対して垂直な直線によって線対称となることから、2つの受光素子3、4は、このような直線に対して線対称となる位置に、互いに近接して配置することが好ましい。ここでの近接とは、受光素子と半導体レーザ素子との距離よりも短い距離を意図する。また、半導体発光素子1として半導体レーザ素子を用いる場合は、2つの受光素子3、4は、双方とも、半導体レーザ素子の直下を避け、半導体レーザ素子の主発光側の端面と対向する端面からのレーザ光(いわゆる、モニタ光)が入らない位置に配置することが好ましい。つまり、半導体レーザ素子の主発光側の端面と対向する端面からのレーザ光の広がり角で定められる照射領域の外側に配置することが好ましい。また、2つの受光素子3、4は、双方とも、同じ高さ(ステム上面からの距離)に配置することが好ましい。これにより、波長変換部材2に脱落又は破壊等が生じた場合に、光の異常を即座に検出することができる。そして、後述するように、光の異常の検出と同時に、半導体発光素子の駆動を停止させることにより、人体に対して危険性の高い励起光の外部放出を回避することができる。
【0035】
この実施形態の発光装置は、受光素子として、上記と同じ波長の光に感度を有するもの、異なる波長の光に感度を有するものなどの1以上をさらに併用してもよい。
【0036】
(バンドパスフィルタ)
受光素子3、4には、それぞれ、バンドパスフィルタを配置してもよい。バンドパスフィルタは、特定の波長領域の光を通過させ、それ以外の波長領域の光を遮光する機能を有する。例えば、所定の波長以下の光のみを透過させるショートパスフィルタ、所定の波長以上の光のみを透過させるロングパスフィルタ等が挙げられる。従って、受光素子3には、半導体発光素子の励起光を透過し、波長変換部材中の蛍光体によって波長変換された蛍光を遮光するバンドパスフィルタを配置し、受光素子4には、波長変換部材中の蛍光体によって波長変換された蛍光を透過し、半導体発光素子の励起光を遮光するバンドパスフィルタを配置することが好ましい。バンドパスフィルタは、受光素子3、4に取り付けてもよいし、受光素子3、4から所定の距離を隔てて配置してもよい。
【0037】
バンドパスフィルタは、誘電体多層膜等で構成されることが好ましく、酸化物、窒化物、ハロゲン化物など、従来から利用されている透光性フィルム材料を用いることができる。具体的には、KRS−5(臭沃化タリウム:TlBr(45.7%)+TlI(54.3%)の混晶)、KRS−6(臭塩化タリウム:TlBr(29.8%)+TlCl(70.2%)の混晶)等により形成されたものが挙げられる。
【0038】
KRS−5により形成したバンドパスフィルタは、青色光、青紫色光又は紫外光等を遮光し、かつ緑色光、黄色光、オレンジ色光、赤色光及び赤外光等の約500nmよりも長い波長を有する光を透過する。青色光、青紫色光又は紫外光のレーザ光を発振する半導体発光素子を用い、蛍光体により波長が変換されなかった光は、非常に鋭い単一ピークをもつため、このバンドパスフィルタにより遮光される。一方、蛍光体により波長が変換された蛍光の少なくとも一部は、ブロードな光に変換されているため、蛍光体により波長が変換された光の少なくとも一部はバンドパスフィルタを透過する。
KRS−6により形成したバンドパスフィルタは、青紫色光又は紫外光等を遮光し、黄色光、青色光、緑色光、赤色光及び赤外光などの約410nmよりも長い波長を有する光を透過する。このため、青紫色光又は紫外光のレーザ光を発振する半導体発光素子を用い、蛍光体により波長が変換されなかった光は、バンドパスフィルタに遮光される。一方、蛍光体により波長が変換された光の少なくとも一部はバンドパスフィルタを透過する。
【0039】
(制御手段)
発光装置10は、図4に示したように、励起光を検出する受光素子3の検出値(PD1)と、蛍光を検出する受光素子4の検出値(PD2)との比に基づいて、半導体発光素子1の発光を止めることが可能な制御手段をさらに有することが好ましい。これにより、光の異常検出と同時に半導体発光素子の動作を停止させることができるため、人体に対して危険性の高い半導体発光素子の光の外部放出を回避することができる。
【0040】
制御手段は、受光素子3で検知された励起光の検出値(PD1)と、受光素子4で検知された蛍光の検出値(PD2)との比が、所定の範囲内であるか否かを判定する判定部と、この判定部からの判定出力に基づいて半導体発光素子の駆動を停止するための停止信号をLD駆動部に出力する制御部とを含む。蛍光体の異常が発生していない状態においては、温度によって励起光を検出する受光素子3の検出値(PD1)と蛍光を検出する受光素子4の検出値(PD2)のそれぞれの値は変化するものの、受光素子3の検出値(PD1)と受光素子4の検出値(PD2)は略比例しているので、受光素子3、4の検出値の比(PD2/PD1)は大きく変化しない。一方、蛍光体の異常が発生すると、受光素子3、4の検出値の比(PD2/PD1)が大きく変化する。つまり、受光素子3、4で検出された値の比(PD2/PD1)が、所定の基準範囲(例えば、蛍光体の異常が発生していない状態における常温(ここでは25℃)でのPD2/PD1の値の±10%の範囲)を外れた場合に、何らかの原因で波長変換部材が欠損等したと判断され、半導体発光素子1の駆動が停止される。なお、この基準範囲は、蛍光体の異常が発生していない状態における低温及び高温でのPD2/PD1の値を含むように設定する。
制御手段は、停止信号をLD駆動部に出力することに代えて、電源の供給路に自己保持型のリレースイッチを介在させ、電力供給自体を遮断するようにしてもよい。
駆動部は、制御部のLD駆動部から駆動信号が入力された場合に、半導体発光素子に電力を供給するように構成されている。
【0041】
つまり、図4に示すように、ステップS1において、使用者が所定の操作を行うことにより、制御部から駆動部に駆動信号が出力され、駆動部から半導体発光素子に電力が供給される。これにより、半導体発光素子が駆動する。
半導体発光素子から発振された励起光は、波長変換部材の蛍光体に照射され、蛍光体により、それよりも長い波長を有する蛍光に変換される。また、半導体発光素子から発振された励起光の他の一部は、蛍光体により波長が変換されずに、拡散されて散乱光となる。これにより、発光装置外には、蛍光と散乱光との混合により、白色光として取り出される。一方、波長変換部材内で蛍光体により蛍光に変換された光の一部が、反射により、パッケージ内の受光素子4に入射される。また、波長変換部材内で蛍光に変換されなかった励起光は、波長変換部材内及び/又はパッケージ内等で反射を繰り返して、パッケージ内の受光素子3に入射される。そして、ステップS2において、各信号(PD1、PD2)の値が求められ、PD2/PD1比が基準範囲内か否か判断され、基準範囲内である場合には、ステップS3においては、半導体発光素子の駆動が継続される。その後、ステップS2に戻り、ステップS2の判断が繰り返される。
【0042】
一方、波長変換部材が何らかの原因で欠損等した場合、半導体発光素子から発振されたレーザ光は、波長変換部材に照射等されても、蛍光体によって蛍光に変換されることなく、大部分がそのまま外部に出射されるか、波長変換部材内又はパッケージ内等で反射を繰り返して受光素子3に入射される。従って、PD2/PD1比が基準範囲内と判断されず、ステップ4において、半導体発光素子への電力供給が停止し、ステップ5において、半導体発光素子の駆動が停止する。
なお、波長変換部材の欠損とは、蛍光体の一部が欠け落ちたり、全て脱落したり、その表面が変色、焼け焦げなどによって機能劣化し、励起光が蛍光光に変換されなくなることをさす。
【0043】
このように、本実施形態の発光装置では、励起光を検出し得る受光素子と、蛍光を検出し得る受光素子との少なくとも2種類の波長の光を検出し得る受光素子を備えることにより、励起光及び蛍光を、常に、同時に検出することができることから、蛍光体の割れ又は脱落等の異常を即座に検知することができる。特に、蛍光体の割れ、劣化等に対して、温度特性の悪化による蛍光束の低下を検知することができる。その結果、半導体発光素子の駆動を停止するなどして、安全性及び信頼性が高い高出力の発光装置を得ることができる。
【0044】
(その他の部材)
この実施形態の発光装置は、例えば、光制御部材(プリズム)、レンズ(集光レンズ7、コリメートレンズ等)、ファイバー等の部材を単独で又は組み合わせて用いてもよい。また、波長変換部材を経た後の光を、レンズ等を用いて集光してもよい。このような部材を利用することにより、レーザ光または波長変換部材を経た後の光のスポットのサイズ及び形状を調整することができる。
【0045】
実施形態2
この実施形態の発光装置20は、図5A、5Bに示すように、反射型の発光装置であり、励起光を発する半導体発光素子1と、蛍光を発する波長変換部材29と、励起光を検出し得る受光素子3と、蛍光を検出し得る受光素子4とを備える。これら半導体発光素子1、波長変換部材2、受光素子3、4は、いずれも、パッケージ内に配置されている。半導体発光素子1は、サブマウント22上に配置されている。
【0046】
この発光装置20のパッケージは、筐体21と、その筐体の上面を被覆し、光取り出し用の窓を有する蓋体24と、窓を気密封止又は保護するための透光性キャップ23とを有する。蓋体24は、上述したパッケージのキャップと同様の材料によって形成することができる。
筐体21としては、上述したパッケージのステムと同様の材料の他に、炭化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、サーメット等のセラミックス等を用いることができる。これらの金属またはセラミックを母材とし、その表面の全面、または一部にAu、Ag、Al等でめっきが施されることで導電性が確保されていてもよい。筐体21は、蓋体24と接着されるため、筐体21の少なくとも表面は蓋体24の表面材質と密着性の良い材料によって構成されていることが好ましい。
透光性キャップ23としては、蓋体24と線膨張係数が似た部材を選択することで、筐体21との気密性を高めることができるため好ましい。具体的には、透明キャップ23として硼珪酸ガラス等のガラスなどを用いることができる。
【0047】
波長変換部材29は、上側に光を透過し得る光透過層29a、下側に光反射層29bが積層された積層体によって構成されており、光透過層29aは、上述した蛍光体を含む透光部材によって形成されている。光反射層は、例えば、Ag等の光反射性の金属の単層構造又は積層構造、誘電体多層膜、これらの組み合わせ等によって形成することができる。
波長変換部材29と、半導体発光素子1との間には、励起光を波長変換部材29に適切に照射し得るように、レンズ27とプリズム28とを備える。
【0048】
このような形態のパッケージにおいては、受光素子3、4は、パッケージ内に配置されている。受光素子3、4は、例えば、筐体21又は蓋体24の内壁等に配置することができ、配置場所でヒートシンクを介して固定してもよい。なかでも、半導体発光素子から出射される迷光が入らない位置に配置することが好ましい。
図5A、5Bにおいては、筐体21の平面視において、半導体発光素子の前方であり、励起光が当たる波長変換部材29の中心部分が最も高温となり、温度分布は、波長変換部材29の中心部分と半導体発光素子1とを結ぶ線、言い換えると、半導体発光素子1の中心を通る中線によって線対称となる。従って、2つの受光素子3、4は、互いに近接して配置することが好ましいが、このような中線に対して線対称となる位置に、互いに近接して配置することが好ましい。ここでの近接とは、受光素子と波長変換部材の中心との距離よりも短い距離を意図する。また、2つの受光素子3、4は、双方とも、半導体発光素子からの光の入射を避け、同じ高さ(筐体の底面からの距離)に配置することが好ましい。
【0049】
半導体発光素子1から出射された励起光は、励起光を集光又は平行光化するレンズ27を通り、レンズ27からの光を屈折させるプリズム28を通って、斜め上の方向から、波長変換部材29に照射され、波長変換部材29の光反射層によって、上方に向けて、窓から光が取り出される。
このような発光装置20においても、実施の形態1の発光装置10と同様に、波長変換部材2に脱落又は破壊、劣化等が生じた場合に、光の異常を即座に検出することができる。そして、光の異常の検出と同時に、半導体発光素子の駆動を停止させることにより、人体に対して危険性の高い励起光の外部放出を回避することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の発光装置は、各種表示装置、照明器具、ディスプレイ、液晶ディスプレイのバックライト光源、さらには、コピー機、スキャナ等における画像読取装置、プロジェクタ装置、レーザディスプレイ、内視鏡、車載用ヘッドライト、バーコードスキャナ等に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 半導体発光素子
2 波長変換部材
3 受光素子
4 受光素子
5 パッケージ
7 集光レンズ
10、20 発光装置
11 ステムのベース部
12 ステムのブロック部
13 キャップ
14 支持体
15 リード
21 筐体
22 サブマウント
23 透光性キャップ
24 蓋体
27 レンズ
28 プリズム
29 波長変換部材
29a 光透過層
29b 光反射層
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B