(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における金属炭化物含有薄膜とは、特に限定されるものではなく、例えば、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化チタン、炭窒化ジルコニウム、炭窒化ハフニウム、炭窒化チタンなどを含有する薄膜であればよく、さらにこれらとモリブデン、アルミナ、窒化物、ホウ化物などとのセラミックスなどを挙げることができる。
【0015】
上記一般式(I)において、R
1〜R
5は、同一であっても異なっていてもよく、水素又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、R
6〜R
8は、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Mはチタン、ジルコニウム又はハフニウムを表す。
【0016】
上記R
1〜R
5及びR
6〜R
8で表される炭素原子数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第2ブチル基、第3ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基等が挙げられる。
【0017】
上記一般式(I)において、R
1〜R
5の少なくとも一つが1級アルキル基である場合や、R
6〜R
8の少なくとも一つが1級アルキル基である場合は、一般式(I)で表される化合物の蒸気圧が高いことから生産性良く金属炭化物含有薄膜を製造することができることから好ましい。なかでも、R
1〜R
5のすべてが1級アルキル基である場合や、R
6〜R
8のすべてが1級アルキル基である場合は、一般式(I)で表される化合物の蒸気圧が特に高いことから生産性良く金属炭化物含有薄膜を製造することができることから好ましい。さらに、R
1〜R
5及びR
6〜R
8のすべてがメチル基である場合は、ALDウィンドウと呼ばれるALD法に適用可能な温度範囲が広く、高品質の金属炭化物含有薄膜を製造することができることから好ましい。
【0018】
上記一般式(I)で表される化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造される。製造方法としては、例えば、Mがチタンの場合は、モノシクロペンタジエニルトリクロロチタンやモノアルキルシクロペンタジエニルトリクロロチタンにアルキルリチウムを−20℃〜50℃、好ましくは0℃〜30℃で反応させることによって得ることができる。Mがジルコニウム又はハフニウムである場合も、同様の方法で製造することができる。
【0019】
一般式(I)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば、下記化合物No.1〜No.18で表される化合物が挙げられる。なお、下記化合物No.1〜No.18において「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表す。
【0023】
本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料とは、一般式(I)で表される化合物を、金属炭化物を含有する薄膜を形成するための化学気相成長法用プレカーサとしたものであり、その形態は、該薄膜形成用原料が適用される製造プロセスによって異なる。例えば、炭化チタン薄膜を製造する場合、本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料は、上記一般式(I)におけるMがチタンである化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である。一方、チタン以外の金属及び/又は半金属と、炭化チタンとを含有する薄膜を製造する場合、本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料は、上記一般式(I)におけるMがチタンである化合物に加えて、チタン以外の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、他のプレカーサともいう)を含有する。本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料は、後述するように、更に、有機溶剤及び/又は求核性試薬を含有してもよい。本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料は、上記説明のとおり、プレカーサである一般式(I)で表される化合物の物性がCVD法、ALD法に好適であるので、特に化学気相成長用原料(以下、CVD用原料ということもある)として有用である。
【0024】
本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料の形態は使用されるCVD法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0025】
上記の輸送供給方法としては、CVD用原料を該原料が貯蔵される容器(以下、単に原料容器と記載することもある)中で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気とし、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、該蒸気を基体が設置された成膜チャンバー内(以下、堆積反応部と記載することもある)へと導入する気体輸送法、CVD用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気とし、該蒸気を成膜チャンバー内へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表される化合物そのものをCVD原料とすることができる。液体輸送法の場合は、上記化学式(I)で表される化合物そのもの又は該化合物を有機溶剤に溶かした溶液をCVD用原料とすることができる。これらのCVD原料は更に他のプレカーサや求核性試薬等を含んでいてもよい。
【0026】
また、多成分系のCVD法においては、CVD用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、上記一般式(I)で表される化合物と他のプレカーサとの混合物若しくは該混合物を有機溶剤に溶かした混合溶液をCVD用原料とすることができる。この混合物や混合溶液は更に求核性試薬等を含んでいてもよい。
【0027】
上記の有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることが出来る。該有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を混合して用いてもよい。これらの有機溶剤を使用する場合、プレカーサを有機溶剤に溶かした溶液であるCVD用原料中におけるプレカーサ全体の量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。プレカーサ全体の量とは、本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料が、上記一般式(I)で表される化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である場合、上記一般式(I)で表される化合物の量であり、本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料が、上記一般式(I)で表される化合物以外の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(他のプレカーサ)を含有する場合、上記一般式(I)で表される化合物及び他のプレカーサの合計量である。
【0028】
また、多成分系のCVD法の場合において、上記一般式(I)で表される化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、CVD用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。該プレカーサに用いられる配位子は構造中に酸素原子を含まないものが、得られる金属炭化物含有薄膜中の酸素の混入量を少なくできることから特に好ましい。
【0029】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と珪素や金属(但しチタン、ジルコニウム及びハフニウムを除く)との化合物が挙げられる。また、プレカーサの金属種としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、アルミニウム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられる。
【0030】
上記の有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、第2ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、第3ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−メトキシ−1−メチルエタノール、2−メトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−エトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエタノール、2−プロポキシ−1,1−ジエチルエタノール、2−s−ブトキシ−1,1−ジエチルエタノール、3−メトキシ−1,1−ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類等が挙げられる。
【0031】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるグリコール化合物としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0032】
また、β−ジケトン化合物としては、アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、5−メチルヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、2−メチルヘプタン−3,5−ジオン、5−メチルヘプタン−2,4−ジオン、6−メチルヘプタン−2,4−ジオン、2,2−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6−トリメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、2,2,6−トリメチルオクタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルオクタン−3,5−ジオン、2,9−ジメチルノナン−4,6−ジオン、2−メチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン、2,2−ジメチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン等のアルキル置換β−ジケトン類;1,1,1−トリフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,3−ジパーフルオロヘキシルプロパン−1,3−ジオン等のフッ素置換アルキルβ−ジケトン類;1,1,5,5−テトラメチル−1−メトキシヘキサン−2,4−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−メトキシヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−(2−メトキシエトキシ)ヘプタン−3,5−ジオン等のエーテル置換β−ジケトン類等が挙げられる。
【0033】
また、シクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、第3ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられ、上記の有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、第2ブチルアミン、第3ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0034】
上記の有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、ケチミン化合物、アミジネート化合物、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、第2ブチルアミン、第3ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン、ビス(トリメチルシリル)アミン等が挙げられる。
【0035】
上記の他のプレカーサは、当該技術分野において公知のものであり、その製造方法も公知である。製造方法の一例を挙げれば、例えば、有機配位子としてアルコール化合物を用いた場合には、先に述べた金属の無機塩又はその水和物と、該アルコール化合物のアルカリ金属アルコキシドとを反応させることによって、プレカーサを製造することができる。ここで、金属の無機塩又はその水和物としては、金属のハロゲン化物、硝酸塩等を挙げることができ、アルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等を挙げることができる。
【0036】
上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、上記一般式(I)で表される化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましく、カクテルソース法の場合は、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応による変質を起こさないものが好ましい。
【0037】
また、本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料には、必要に応じて、該原料の安定性を付与するため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ−ジケトン類が挙げられる。これらの求核性試薬の使用量は、上記一般式(I)で表される化合物1モルに対して0.1モル〜10モルの範囲が好ましく、より好ましくは1〜4モルである。また、これらの求核性試薬を用いる場合、該求核性試薬の構造中に酸素原子を含まないものが好ましく、さらに構造中に窒素原子を含むものが特に好ましい。
【0038】
本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素などの不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及び、同属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が更に好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましい。また、水分は、化学気相成長用原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、プレカーサ、有機溶剤、及び、求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。プレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下が更に好ましい。
【0039】
また、本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが更に好ましい。
【0040】
本発明の金属炭化物含有薄膜の製造方法としては、上記一般式(I)で表される化合物を気化させた蒸気、及び必要に応じて用いられる反応性ガスを基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、次いで、プレカーサを基体上及び/又は成膜チャンバー内及び/又はガス導入口付近で分解及び/又は化学反応させて金属炭化物含有薄膜を基体表面に成長、堆積させるCVD法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法を用いることができる。
【0041】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア、窒素等の構造中に窒素原子を有する化合物のガスや水素ガスが挙げられ、これらは1種類又は2種類以上使用することができる。また、上記反応性ガスをプレカーサと反応させる前にプラズマ処理しておくこともできる。
【0042】
また、上記の輸送供給方法としては、前記に記載の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0043】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス又は原料ガスと反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD、熱とプラズマを使用するプラズマCVD、熱と光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALDが挙げられる。
【0044】
上記基体の材質としては、例えばシリコン;インジウムヒ素、インジウムガリウム砒素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化タンタル、窒化タンタル、酸化チタン、窒化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン、窒化ガリウム等のセラミックス;ガラス;白金ルテニウム、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、タングステン、モリブデン等の金属が挙げられる。基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられ、基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0045】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、上記一般式(I)で表される化合物が充分に反応する温度である100℃以上が好ましく、150℃〜400℃がより好ましい。また、反応圧力は、熱CVD、光CVDの場合、大気圧〜10Paが好ましく、プラズマを使用する場合は、2000Pa〜10Paが好ましい。また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.01〜100nm/分が好ましく、1〜50nm/分がより好ましい。また、ALD法の場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0046】
上記の製造条件として更に、薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする際の温度や圧力が挙げられる。薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする工程は、原料容器内で行ってもよく、気化室内で行ってもよい。いずれの場合においても、本発明の薄膜の製造方法において用いられる薄膜形成用原料は0〜150℃で蒸発させることが好ましい。また、原料容器内又は気化室内で薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする場合に原料容器内の圧力及び気化室内の圧力はいずれも1〜10000Paであることが好ましい。
【0047】
本発明の薄膜の製造方法は、ALD法を採用して、上記の輸送供給方法により、薄膜形成用原料を気化させて蒸気とし、該蒸気を成膜チャンバー内へ導入する原料導入工程のほか、該蒸気中の上記一般式(I)で表される化合物により上記基体の表面に前駆体薄膜を形成する前駆体薄膜成膜工程、未反応の上記一般式(I)で表される化合物ガスを排気する排気工程、及び、該前駆体薄膜を反応性ガスと化学反応させて、該基体の表面に金属炭化物を含有する薄膜を形成する金属炭化物含有薄膜形成工程を有していてもよい。
【0048】
以下では、上記の各工程について、金属炭化物含有薄膜をALD法により形成する場合を例に詳しく説明する。金属炭化物含有薄膜をALD法により形成する場合は、まず、前記で説明した原料導入工程を行う。薄膜形成用原料を蒸気とする際の好ましい温度や圧力は上記で説明したものと同様である。次に、成膜チャンバー部に導入した上記一般式(I)で表される化合物により、基体表面に前駆体薄膜を成膜させる(前駆体薄膜成膜工程)。このときに、基体を加熱するか、成膜チャンバー部を加熱して、熱を加えてもよい。
【0049】
この工程で成膜される前駆体薄膜は、上記一般式(I)で表される化合物が基体表面に吸着したもの、又は該化合物もしくは該化合物の一部が分解及び/又は反応して生成した薄膜であり、目的の金属炭化物含有薄膜とは異なる組成を有する。本工程が行われる際の基体温度は、室温〜600℃が好ましく、150〜400℃がより好ましい。本工程が行われる際の系(成膜チャンバー内)の圧力は1〜10000Paが好ましく、10〜1000Paがより好ましい。
【0050】
次に、成膜チャンバー部から、未反応の上記一般式(I)で表される化合物ガスや副生したガスを排気する(排気工程)。未反応の上記一般式(I)で表される化合物ガスや副生したガスは、成膜チャンバー部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法などが挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01〜300Paが好ましく、0.01〜100Paがより好ましい。
【0051】
次に、成膜チャンバー部に反応性ガスを導入し、該反応性ガス又は反応性ガス及び熱の作用により、先の前駆体薄膜成膜工程で得た前駆体薄膜から金属炭化物を含有する薄膜を形成する(金属炭化物を含有する薄膜形成工程)。本工程において熱を作用させる場合の温度は、室温〜600℃が好ましく、150〜400℃がより好ましい。本工程が行われる際の系(成膜チャンバー内)の圧力は1〜10000Paが好ましく、10〜1000Paがより好ましい。
【0052】
本発明の薄膜の製造方法において、上記のようにALD法を採用した場合、上記の原料導入工程、前駆体薄膜成膜工程、排気工程、及び、金属炭化物を含有する薄膜形成工程からなる一連の操作による薄膜堆積を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返してもよい。この場合、1サイクル行った後、上記排気工程と同様にして、成膜チャンバー部から未反応の上記一般式(I)で表される化合物ガス及び反応性ガス、更に副生したガスを排気した後、次の1サイクルを行うことが好ましい。
【0053】
また、本発明の薄膜の製造方法において、上記のようにALD法を採用した場合、プラズマ、光、電圧などのエネルギーを印加してもよく、触媒を用いてもよい。これらのエネルギーを印加する時期は、特には限定されず、例えば、原料導入工程における化合物ガス導入時、前駆体薄膜成膜工程又は金属炭化物を含有する薄膜形成工程における加温時、排気工程における系内の排気時、金属炭化物を含有する薄膜形成工程における反応性ガス導入時でもよく、上記の各工程の間でもよい。また、反応性ガス導入前に反応性ガスに対してこれらのエネルギーを印加することもできる。
【0054】
また、本発明の薄膜の製造方法において、上記のようにプラズマALD法を採用した場合、反応性ガスは製造方法における全ての工程の間で成膜チャンバー内へ流し続けてもよく、金属炭化物を含有する薄膜形成工程の際にのみ、反応性ガスに対してプラズマ処理を行ったものを成膜チャンバーへ導入すればよい。高周波(以下、RFという場合もある)出力は、低すぎると良好な金属炭化物膜となりにくく、高すぎると基板へのダメージが大きいため0〜1500Wが好ましく、50〜600Wがより好ましい。本発明の製造方法において、プラズマALD法を採用した場合には、非常に高品質な金属炭化物含有薄膜を得ることができることから好ましい。
【0055】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、200〜1000℃であり、250〜500℃が好ましい。
【0056】
本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料を用いて金属炭化物を含有する薄膜を製造する装置は、周知な化学気相成長法用装置を用いることができる。具体的な装置の例としては
図1のようなプレカーサをバブリング供給で行うことのできる装置や、
図2のように気化室を有する装置が挙げられる。また、
図3及び
図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置が挙げられる。
図1、
図2、
図3及び
図4のような枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。
【0057】
本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料を用いて製造される金属炭化物を含有する薄膜は、切削工具、電子材料用の配線や電極に用いられており、例えば、半導体メモリ材料やリチウム空気電池用の電極などに用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び評価例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0059】
[評価例1]
上記化合物No.1を大気中で放置することで自然発火性の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果より、化合物No.1は自然発火性を示さず、化学気相成長用原料として大気中でも安全に用いることができるということがわかった。
【0062】
[実施例1]炭化チタン薄膜の製造
化合物No.1を化学気相成長用原料とし、
図3に示す装置を用いて以下の条件のALD法により、シリコンウエハ上に炭化チタン薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線回折法及びX線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、膜厚は7.5nmであり、膜組成は炭化チタンであり、炭素含有量は58atom%(理論量60atom%)であった。有機物としての残留炭素成分は検出されなかった。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.15nmであった。
【0063】
(条件)
反応温度(基体温度):200℃、反応性ガス:水素
(工程)
下記(1)〜(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。
(1)原料容器温度:70℃、原料容器圧力:0.8Torr(106Pa)の条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を成膜チャンバー内に導入し、系圧力0.6Torr(80Pa)で10秒間、シリコンウエハ表面に堆積させる。
(2)20秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(3)反応性ガスを導入し、系圧力0.6Torr(80Pa)で10秒間反応させる。このとき反応ガスに13.56MHz、100Wの高周波出力を印可することによりプラズマ化した。
(4)15秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
【0064】
[比較例1]
化学気相成長法用原料としてテトラキスネオペンチルチタニウムを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で炭化チタン薄膜の製造を行った。
得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線回折法及びX線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、膜厚は6nmであり、膜組成は炭化チタンであり、炭素含有量は40atom%(理論量60atom%)であった。有機物としての残留炭素成分は10atom%以上が検出された。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.12nmであった。
【0065】
実施例1の結果から、本発明の金属炭化物含有薄膜形成用原料を用いた場合には、有機物としての残留炭素成分の含有量が非常に少なく、理論量に近い炭素成分を含有する高品質な炭化チタン薄膜を形成することができた。一方で、比較例1では、有機物としての残留炭素成分が薄膜中に大量に混入し、得られた薄膜は理論量の炭素を含有していない品質の悪い炭化チタン薄膜が得られたことがわかった。