特許第6691636号(P6691636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6691636スパッタリング装置用のカソードユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691636
(24)【登録日】2020年4月14日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】スパッタリング装置用のカソードユニット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
   C23C14/34 V
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-508976(P2019-508976)
(86)(22)【出願日】2018年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2018008619
(87)【国際公開番号】WO2019021519
(87)【国際公開日】20190131
【審査請求日】2019年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2017-143364(P2017-143364)
(32)【優先日】2017年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】田代 征仁
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−128976(JP,U)
【文献】 特開昭62−10270(JP,A)
【文献】 特開平10−147863(JP,A)
【文献】 特開2013−171941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 21/203
H01L 21/285
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットを備えて真空チャンバに取り付けられるスパッタリング装置用のカソードユニットにおいて、
真空チャンバの外壁に取り付けられる支持フレームと、
支持フレームで支持されて真空チャンバに対して近接離間可能に進退する環状の可動ベースと、
可動ベースの内方空間をターゲットのスパッタ面に平行にのびるように当該可動ベースで軸支された回転軸体と、
回転軸体の軸線方向をX軸方向、X軸方向に直交する可動ベースの進退方向をZ軸方向とし、回転軸体にその径方向に向けて突設され、その先端面にターゲットが着脱自在に取り付けられる少なくとも1個のターゲットホルダと、
真空チャンバの外壁面からZ軸方向に所定間隔離した支持フレームの部分に設けられる、開閉扉を有する予備チャンバであって真空チャンバと独立して真空排気自在であるものと、
可動ベースと予備チャンバとの間及び可動ベースと真空チャンバとの間に設けられてターゲットホルダを囲繞する一対の真空ベローズとを備え、
ターゲットホルダがZ軸上に位置し且つターゲットが真空チャンバ側を向く姿勢で真空チャンバに対しZ軸方向に近接移動させた可動ベースの成膜位置では真空チャンバに形成した第1開口の周縁部に密接してターゲットが存する真空チャンバ内を隔絶すると共に、ターゲットが予備チャンバ側を向く姿勢で真空チャンバに対しZ軸方向に離間移動させた可動ベースの交換位置では予備チャンバに形成した第2開口の周縁部に密接してターゲットが存する予備チャンバ内を隔絶する隔絶部がターゲットホルダに設けられ、隔絶部が第1開口と第2開口とから離れた可動ベースの中立位置で回転軸体をX軸回りに回転する回転機構を更に備えることを特徴とするスパッタリング装置用のカソードユニット。
【請求項2】
前記回転軸体に、同一線上で相反する方向に夫々のびるように前記ターゲットホルダを2個設けたことを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置用のカソードユニット。
【請求項3】
前記ターゲットホルダ内に、ターゲット表面に漏洩磁場を作用させる磁石ユニットと、この磁石ユニットをZ軸回りに回転駆動する駆動手段とを内蔵したことを特徴とする請求項1または請求項2記載のスパッタリング装置用のカソードユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットを備えて真空チャンバに装着されるスパッタリング装置用のカソードユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
真空雰囲中で処理すべき基板に対し所定の薄膜を成膜する方法の一つとしてスパッタリング装置を用いるものが従来から知られている。この種のスパッタリング装置は、通常、真空チャンバを備え、真空チャンバの上部には、成膜しようとする組成に応じて製作されるターゲットを備えるカソードユニットが着脱自在に取り付けられている。また、真空チャンバの下部には、ターゲットに対向させてシリコンウエハやガラス基板等の基板が設置されるステージが設けられている。そして、カソードユニットを取り付けた状態で真空チャンバを所定圧力まで真空排気した後、真空チャンバ内にスパッタガス(アルゴンガス等)を所定の流量で導入し、ターゲットに例えば負の電位を持った所定電力を投入することで、ターゲットをスパッタリングし、これによりターゲットから飛散するスパッタ粒子をステージ上の基板表面に付着、堆積させて所定の薄膜が成膜される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上記の如く、ターゲットをスパッタリングすると、ターゲットが侵食されていくため、ターゲットは定期的に交換する必要がある。ターゲットの交換に際しては、スパッタリング装置を用いた成膜処理を一旦中断し、真空チャンバを大気に戻した後に、真空チャンバからカソードユニットを取り外し、この状態でターゲットの交換作業を行うことが一般的である。ここで、真空チャンバを大気に戻すと、真空チャンバの内壁面等には、真空排気され難い水分子等が付着する。このため、ターゲット交換後に、真空チャンバにカソードユニットを再度取り付けて真空チャンバ内を真空排気する場合、真空チャンバの容積によっては、基板への成膜に影響を与えないように真空チャンバ内を所定圧力まで真空排気するのに多大な時間を要し、ターゲット交換に伴う成膜処理の中断時間が長くなるという問題がある。そこで、真空チャンバを大気開放することなく、ターゲットが交換できるカソードユニットの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−91861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、真空チャンバを大気開放することなく、ターゲットが交換できる構造を持つスパッタリング装置用のカソードユニットを提供することをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、ターゲットを備えて真空チャンバに取り付けられる本発明のスパッタリング装置用のカソードユニットは、真空チャンバの外壁に取り付けられる支持フレームと、支持フレームで支持されて真空チャンバに対して近接離間可能に進退する環状の可動ベースと、可動ベースの内方空間をターゲットのスパッタ面に平行にのびるように当該可動ベースで軸支された回転軸体と、回転軸体の軸線方向をX軸方向、X軸方向に直交する可動ベースの進退方向をZ軸方向とし、回転軸体にその径方向に向けて突設され、その先端面にターゲットが着脱自在に取り付けられる少なくとも1個のターゲットホルダと、真空チャンバの外壁面からZ軸方向に所定間隔離した支持フレームの部分に設けられる、開閉扉を有する予備チャンバであって真空チャンバと独立して真空排気自在であるものと、可動ベースと予備チャンバとの間及び可動ベースと真空チャンバとの間に設けられてターゲットホルダを囲繞する一対の真空ベローズとを備え、ターゲットホルダがZ軸上に位置し且つターゲットが真空チャンバ側を向く姿勢で真空チャンバに対しZ軸方向に近接移動させた可動ベースの成膜位置では真空チャンバに形成した第1開口の周縁部に密接してターゲットが存する真空チャンバ内を隔絶すると共に、ターゲットが予備チャンバ側を向く姿勢で真空チャンバに対しZ軸方向に離間移動させた可動ベースの交換位置では予備チャンバに形成した第2開口の周縁部に密接してターゲットが存する予備チャンバ内を隔絶する隔絶部がターゲットホルダに設けられ、隔絶部が第1開口と第2開口とから離れた可動ベースの中立位置で回転軸体をX軸回りに回転する回転機構を更に備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、例えば、真空チャンバの外壁にカソードユニットを取り付けるのに先立って、ターゲットホルダの先端面にターゲットを取り付け、ターゲットホルダがZ軸上に位置し且つターゲットが真空チャンバ側を向く姿勢にする。この場合、可動ベースは中立位置にあり、また、大気圧下の予備チャンバの開閉扉は閉じた状態とする。そして、カソードユニットをその支持フレームを介して真空チャンバの所定位置に取り付ける。カソードユニットを取り付けると、真空ポンプを作動して真空チャンバ及び予備チャンバを真空排気する。真空チャンバと予備チャンバとは同一の真空ポンプまたは夫々独立の真空ポンプにより真空排気することができ、真空チャンバと予備チャンバとの真空排気に伴って、第1開口及び第2開口を通して可動ベースの内方空間を含む一対の真空ベローズの内方空間が同時に真空排気される。
【0008】
真空チャンバ及び予備チャンバが所定圧力まで真空排気されると、可動ベースを真空チャンバに対しZ軸方向に近接移動させ、可動ベースが成膜位置に達すると、ターゲットホルダの隔絶部により、ターゲットホルダに取り付けたターゲットが真空チャンバ内に存する状態でこの真空チャンバ内が隔絶され、ターゲットのスパッタリングによる成膜が可能になる。そして、ターゲットのスパッタリングでターゲットが所定量侵食されると、ターゲットが交換される。
【0009】
ターゲット交換に際しては、可動ベースを中立位置に戻し、回転機構により回転軸体をX軸回りに180度回転させる。すると、ターゲットホルダに取り付けた使用済みのターゲットが予備チャンバ側を向く姿勢になる。そして、可動ベースを真空チャンバに対しZ軸方向に離間移動させ、可動ベースが交換位置に達すると、ターゲットホルダの隔絶部により、ターゲットホルダに取り付けたターゲットが予備チャンバ内に存する状態でこの予備チャンバ内が隔絶される。そして、予備チャンバに窒素ガスや空気等を導入して大気圧に戻し、開閉扉を開けて使用済みのターゲットの交換が可能になる。
【0010】
ターゲット交換後には、開閉扉を閉じた後、予備チャンバを所定圧力まで真空排気し、予備チャンバが所定圧力に達すると、可動ベースを真空チャンバに対しZ軸方向に近接移動させ、可動ベースが中立位置に達すると、再度、可動ベースをX軸回りに例えば180度回転させる。すると、ターゲットホルダに取り付けた未使用のターゲットが真空チャンバ側を向く姿勢になり、可動ベースを成膜位置に移動すれば、ターゲットのスパッタリングにより成膜を行うことができる状態になる。以降、上記操作を繰り返して、ターゲットの交換が行われる。
【0011】
以上の如く、本発明では、ターゲット交換に必要な容積だけを有していればよい、真空チャンバとは別の予備チャンバを設けておき、ターゲット交換に際しては、予備チャンバのみを大気開放して使用済みターゲットを未使用のものと交換できる構成を採用したため、ターゲット交換時、真空チャンバを大気圧に戻す必要はなく、また、ターゲット交換後には予備チャンバのみを真空排気すればよいため、ターゲット交換のために中断される処理時間を可及的に少なくできる。
【0012】
本発明においては、前記回転軸体に、同一線上で相反する方向に夫々のびるように前記ターゲットホルダが2個突設されていることが好ましい。これによれば、ターゲット交換後に、開閉扉を閉じ、予備チャンバを所定圧力まで真空排気して所定圧力に達すると、可動ベースを近接移動させるだけで、ターゲットのスパッタリングにより成膜を行うことができる状態にでき、しかも、次に使用するターゲットを常時真空雰囲気に保管できるため、有利である。
【0013】
また、本発明においては、前記ターゲットホルダ内に、ターゲット表面に漏洩磁場を作用させる磁石ユニットと、この磁石ユニットをZ軸回りに回転駆動する駆動手段とを内蔵する構成を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態のカソードユニットをその可動ベースの中立位置で示す断面図。
図2】本発明の実施形態のカソードユニットをその可動ベースの成膜位置で示す断面図。
図3】本発明の実施形態のカソードユニットをその可動ベースの交換位置で示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、基板表面に所定の薄膜を成膜するスパッタリング装置に用いられる本発明のスパッタリング装置用のカソードユニットの実施形態を説明する。以下においては、図1に示す姿勢を基準とし、後述の回転軸体が、ターゲットの未使用時のスパッタ面に平行な水平方向(図1中、左右方向)にのびるように設けられるものとし、この回転軸体の軸線方向をX軸方向、X軸方向に直交する後述の可動ベースの進退方向(図1中、上下方向)をZ軸方向とし、また、Z軸回りの方向を周方向として説明する。
【0016】
図1を参照して、Vcは、図外の真空ポンプにより真空排気されて真空雰囲気の形成が可能な真空チャンバであり、そのZ軸方向上面には、後述のターゲットが臨む第1開口Vc1が形成されている。そして、第1開口Vc1の直上に位置させて真空チャンバVcの外壁面には本実施形態のカソードユニットCUが取り付けられている。なお、スパッタリング装置用の真空チャンバVcの内部構造自体は、公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0017】
カソードユニットCUは、略筒状の輪郭を持つ支持フレーム1を有し、支持フレーム1内には、真空チャンバVcに対し近接離間可能(上下方向)に進退する環状の可動ベース2が設けられている。可動ベース2には、周方向に間隔を存して、上下方向に貫通する2個のねじ孔部(図示せず)が形成され、各ねじ孔部には、支持フレーム1の上部に設けられた第1モータDm1に連結された送りねじ21が夫々螺合している(図1では、片側の第1モータDm1で駆動される送りねじ21のみを示している)。また、可動ベース2には、周方向に間隔を存して、上下方向に貫通する4個のガイド孔(図示せず)が形成され、ガイド孔には、支持フレーム1に設けたガイドピン22が夫々挿通している。そして、第1モータDm1を一方向に回転駆動させると、可動ベース2が、ガイドピン22に案内されてその姿勢を維持したまま真空チャンバVcに向けて近接移動し、第1モータDm1を逆方向に回転駆動すると、可動ベース2がガイドピン22に案内されてその姿勢を維持したまま真空チャンバVcに対して離間移動するようになっている。
【0018】
可動ベース2には、その内方空間23をX軸方向に貫通する回転軸体3が軸支されている。この場合、回転軸体3のX軸方向の一端(図1中、左側端)は、真空シール兼用の磁気軸受等の軸受部材(図示せず)を介して可動ベース2の外方に突出し、この突出した回転軸体3の一端が第2モータDm2に連結されている。また、回転軸体3のX軸方向の他端(図1中、右側端)は、可動ベース2のX軸方向の側壁に設けた真空シール兼用の軸受部材4が設けられている。本実施形態では、第2モータDm2や軸受部材4で回転軸体3をX軸回りに回転する回転機構を構成する。そして、第2モータDm2を回転駆動すると、回転軸体3がX軸回りに回転される。軸受部材4内には、後述のバッキングプレートに冷却水を循環するための流体通路41が形成されており、スパッタリング中、後述のターゲットを冷却できるようにしている。図1中、42は、図外の通水ポンプからの水管を接続するためのアダプタである。なお、特に図示して説明しないが、回転軸体3には、図示省略のスパッタ電源からの出力ケーブルが接続され、スパッタリング時、ターゲットに対して例えば負の電位を持った所定電力が投入できるようにしている。
【0019】
可動ベース2の内方空間23に位置する回転軸体3の外周部分には、その径方向にのびる2本の筒状のターゲットホルダ5,5が180度位相をずらして(即ち、同一線上で相反する方向にのびるように)立設されている。そして、円形の輪郭を持つターゲットホルダ5,5の先端面に、円形の輪郭を持つターゲットTg1,Tg2がバッキングプレートBp1,Bp2を介して着脱自在に取り付けられている。ターゲットTg1,Tg2としては、基板に成膜しようとする薄膜の組成に応じて、公知の方法で製作されたものが利用され、本実施形態では、同一組成のターゲットTg1,Tg2が用いられる。また、ターゲットホルダ5,5の内部空間には、ターゲットTg1,Tg2表面に漏洩磁場を夫々作用させる磁石ユニット6と、Z軸周りに磁石ユニット6を回転駆動する第3モータDm3とが設けられている。なお、磁石ユニット6自体は公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0020】
真空チャンバVcに対しZ軸方向に離間する支持フレーム1の部分には、上面を開口した予備チャンバRcが設けられている。予備チャンバRcの上面には、上面開口Rc1を開閉自在に閉塞する開閉扉Rdが設けられている。また、予備チャンバRcの下面には、真空チャンバVcの第1開口Vc1に対峙させると共に同一の開口径を持つようにターゲットTg1,Tg2が臨む第2開口Rc2が形成されている。この場合、第1開口Vc1及び第2開口Rc2の周縁部には、Z軸方向に窪む環状の嵌合凹部Vc11,Rc21が夫々形成され、可動ベース2を近接離間方向の移動させると、ターゲットホルダ5,5の先端面に形成したフランジ部51a,51bが、Oリング52a,52bを介して嵌合凹部Vc11,Rc21と嵌合して密接し、ターゲットホルダ5,5により真空チャンバVcまたは予備チャンバRcが隔絶されるようになっている。この場合、Oリング52a,52bを設けたフランジ部51a,51bが本実施形態の隔絶部を構成する。
【0021】
予備チャンバRcの容積は、ターゲットTg1,Tg2の交換作業を考慮して可及的に小さく設定され、また、予備チャンバRcには、真空ポンプPuに通じる排気管Epと、ベントバルブVvに通じるベント管Vpとが接続されている。真空ポンプPuとしては、図1に示すように、予備チャンバRcを独立して真空排気できる専用のものを用いることができるが、真空チャンバVcを真空排気する真空ポンプ(図示せず)に切換えバルブを介して接続してもよい。また、可動ベース2と予備チャンバRcとの間及び可動ベース2と真空チャンバVcとの間には、ターゲットホルダ5,5が設けられた空間61を囲繞する上下一対の真空ベローズ7,7が設けられ、後述の可動ベース2の中立位置にて、可動ベース2の内方空間23を含む上下一対の真空ベローズ7,7の内方空間71を通して予備チャンバRcと真空チャンバVcとが真空雰囲気中で連通できるようになっている。以下に、図2及び図3も参照して、上記カソードユニットCUの使用例をそのターゲットの交換方法を含め具体的に説明する。
【0022】
真空チャンバVcに対してカソードユニットCUを取り付けるのに先立ち、ターゲットホルダ5,5の先端面に、バッキングプレートBpに接合されたターゲットTg1,Tg2を夫々取り付ける。そして、両ターゲットホルダ5,5がZ軸上に位置して一方のターゲットTg1が予備チャンバRc、他方のターゲットTg2が真空チャンバVc側を向く姿勢にし、この状態で真空チャンバVc外壁面の所定の位置に支持フレーム1を介してカソードユニットCUを取り付ける(図1に示す状態)。この場合、ターゲットホルダ5,5のフランジ部51a,51bが第1開口Vc1及び第2開口Rc2から夫々離れるように可動ベース2を位置させる(これを可動ベース2の中立位置という)。また、予備チャンバRcの開閉扉Rdは閉じられていると共に、真空チャンバVc及び予備チャンバRcは大気状態である。カソードユニットCUが取り付けられると、図外の真空ポンプ及び予備チャンバRc用の真空ポンプPuを夫々作動し、真空チャンバVc及び予備チャンバRcを真空排気する。このとき、可動ベース2の内方空間23を含む上下一対の真空ベローズ7,7の内方空間71も真空排気される。
【0023】
真空チャンバVc及び予備チャンバRcが所定圧力(例えば、1×10−5Pa)まで真空排気されると、可動ベース2を真空チャンバVcに対して近接移動させる(図1中、下方に移動させる)。すると、他方のターゲットホルダ5の先端面に形成したフランジ部51bがOリング52bを介して嵌合凹部Vc11に嵌合して密接する。これにより、図2に示すように、他方のターゲットホルダ5に取り付けたターゲットTg2が真空チャンバVc内を臨む状態で、真空チャンバVcが真空ベローズ7,7の内方空間71から縁切りされて隔絶される(これを可動ベース2の成膜位置という)。成膜位置では、ターゲットTg2に対向配置される図外の基板に対してターゲットTg2のスパッタリングによる成膜が行われる。なお、他方のターゲットTg2をスパッタリングしている間、一方のターゲットホルダ5に取り付けられた未使用のターゲットTg1は真空雰囲気の真空ベローズ7,7の内方空間71に保管されることになり、例えば、十分な脱ガスを行うことができ、有利である。そして、ターゲットTg2が所定量侵食されると、このターゲットTg2が交換される。
【0024】
ターゲット交換に際しては、可動ベース2を中立位置に戻した後、第2モータDm2により回転軸体3をX軸回りに180度回転させる。すると、他方のターゲットホルダ5に取り付けられた使用済みのターゲットTg2が予備チャンバRcに対峙する姿勢になり、一方のターゲットホルダ5に取り付けられた未使用のターゲットTg1が真空チャンバRcに対峙する姿勢になる。そして、可動ベース2を真空チャンバVcに対しZ軸方向に離間移動させる(図1中、上方に移動させる)。すると、他方のターゲットホルダ5の先端面に形成したフランジ部51bがOリング52bを介して嵌合凹部Rc21に嵌合して密接する。これにより、図3に示すように、他方のターゲットホルダ5に取り付けられたターゲットTg2が予備チャンバRc内を臨む状態で、予備チャンバRcが真空ベローズ7,7の内方空間71から縁切りされて隔絶される(これを可動ベース2の交換位置という)。
【0025】
予備チャンバRcが隔絶されると、ベントバルブVvを作動させて予備チャンバRcに窒素ガスや空気等が導入され、大気圧に戻される。予備チャンバRcが大気圧に戻されると、開閉扉Rdを開けて他方のターゲットホルダ5に取り付けられた使用済みのターゲットTg2の交換作業が行われる。なお、上記作業の間、一方のターゲットホルダ5に取り付けられた未使用のターゲットTg1は、真空雰囲気に保管されたままとなる。
【0026】
ターゲット交換後には、開閉扉Rdを閉じた後、真空ポンプPuにより予備チャンバVcを所定圧力(例えば、1×10−5Pa)まで真空排気し、予備チャンバRcが所定圧力に達すると、可動ベース2を成膜位置まで真空チャンバVcに対して近接移動させる。これにより、一方のターゲットホルダ5に取り付けられた未使用のターゲットTg1が真空チャンバVc内を臨む状態で、真空チャンバVcが真空ベローズ7,7の内方空間71から縁切りされて隔絶される。以降、上記操作を繰り返して、ターゲットTg1,Tg2の交換が行われる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態によれば、ターゲット交換に必要な容積だけを有していればよい、真空チャンバVcとは別の予備チャンバRcを設けておき、ターゲット交換に際しては、予備チャンバRcのみを大気圧に戻して使用済みターゲットTg2を未使用のものTg1と交換できる構成を採用したため、ターゲット交換時に真空チャンバVcを大気開放する必要はなく、また、ターゲット交換後には予備チャンバRcのみを真空排気すればよいため、ターゲット交換のために中断される処理時間を可及的に少なくできる。しかも、回転軸体3に、同一線上で相反する方向に夫々のびるようにターゲットホルダ5,5が2個突設されているため、ターゲット交換後に、開閉扉Rdを閉じ、予備チャンバRcを所定圧力まで真空排気して所定圧力に達すると、可動ベース2を近接移動させるだけで、ターゲットTg1(Tg2)のスパッタリングにより成膜を行うことができる状態にでき、しかも、次に使用するターゲットTg2(Tg1)を常時真空雰囲気中で保管できるため、有利である。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変形が可能である。上記実施形態では、2枚のターゲットTg1,Tg2を用いるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、回転軸体3に単一のターゲットホルダを設け、これにターゲットを取り付けたものにも本発明は適用できる。
【0029】
また、上記実施形態では、ターゲットホルダ5,5の先端面に同一組成のターゲットTg1,Tg2を取り付ける場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、異なる組成のターゲットを設けることもできる。このような場合、中立位置と成膜位置との間の可動ベース2の移動と回転軸体3の回転とを適宜行うことで、基板表面に交互に異なる薄膜を積層することもできる。また、回転軸体3に3本以上のターゲットホルダを設け、各ターゲットホルダに取り付けられるターゲットを異なる組成のものとし、基板表面に多層膜を形成することもできる。
【符号の説明】
【0030】
CU…カソードユニット、Dm2…第2モータ(回転機構)、Dm3…第3モータ(駆動手段)、Rc…予備チャンバ、Rc2…第2開口、Rd…開閉扉、Vc…真空チャンバ、Vc1…第1開口、Vv…ベントバルブ、1…支持フレーム、2…可動ベース、3…回転軸体、5,5…ターゲットホルダ、51a,51b…フランジ部(隔絶部)、52a,52b…Oリング(隔絶部)、6…磁石ユニット、7,7…真空ベローズ。
図1
図2
図3