(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリハロ芳香族化合物の仕込み量が、(a)アルカリ金属水硫化物に由来する硫黄原子1モルに対して、または、(b)アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属硫化物に由来する硫黄原子1モルに対して、0.7モル〜1.2モルとなる範囲である、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
(a)アルカリ金属水酸化物および前記アルカリ金属塩の合計の仕込み量が、アルカリ金属水硫化物に由来する硫黄原子1モルに対して、0.01〜2.0モルとなる範囲であるか、または、(b)アルカリ金属硫化物および前記アルカリ金属塩の合計の仕込み量が、アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属硫化物に由来する硫黄原子1モルに対して、0.01〜2.0となる範囲である、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PPSと言うことがある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PASと言うことがある。)は、耐熱性、耐薬品性に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯器部品、繊維、フィルム用途等に幅広く用いられている。
【0003】
高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法として、ポリハロ芳香族化合物および有機極性溶媒の存在下に、アルカリ金属硫化物を滴下して重合反応させる、いわゆる「S滴下法」と呼ばれる方法が知られている。
【0004】
例えば、有機極性溶媒及びポリハロ芳香族化合物を含む混合物中にアルカリ金属水硫化物及び/またはアルカリ金属硫化物からなる含水スルフィド化剤を反応混合物から水が除去され得る速度で導入して反応を行うことによって、高分子量かつ直鎖状のポリアリーレンスルフィドを製造し、ポリアリーレンスルフィドの靱性を改善する技術が開示されている。しかし、前記方法によって得られるポリアリーレンスルフィドは、分子量が高く靱性が多少改善されるものの、未だ十分なものではなかった。また、ポリアリーレンスルフィドの靱性を改善する為に、シランカップリング剤で変成する方法も知られているが、この方法によって得られるポリアリーレンスルフィドは、分子量は高められるものの、酸又はアルカリとの反応活性点が少ないためシランカップリング剤等のカップリング剤で変性することが困難であり、結局、実用的な靱性が得られないものであった。
【0005】
そこで、ポリハロ芳香族化合物、脂肪族系環状化合物、アルカリ金属水酸化物及び水の存在下、前記脂肪族系環状化合物を加水分解させ(工程1)、次いで、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物を系内に滴下して順次加えながら重合反応(工程2)を行う方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
この方法は、脂肪族系環状化合物の加水分解物とポリハロ芳香族化合物(DCB)の存在下で、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物を系内に順次加えるため、該脂肪族系環状化合物の加水分解物がアルカリ金属塩(SMAB)を生成し、さらに該SMABと該ポリハロ芳香族化合物とが副反応を起こして、下記構
造式(1)
【0007】
【化1】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(以下、CP−MABAと表すことがある。)を生成するため、見かけ上のカルボキシ基量が多く測定されるものであった。
また、この方法は、反応系にスルフィド化剤を順次加えるため、原料中に占める硫黄源の存在割合が低く、該脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩の割合も低くなることから、ポリマーの成長末端が副反応を起こす確率も低くなる。その結果、反応活性点となるポリマー末端のカルボキシ基量を充分増加させることができていなかった。このため、CP−MABAを精製工程で除去した後に得られるPAS樹脂は、シランカップリング剤や官能基含有熱可塑性エラストマー等で変性しても、靱性や耐衝撃性等の機械的強度の向上が充分なものとは言えなかった。また、ポリマーの成長末端が副反応を起こす確率が低くなるとはいえ、やはりCP−MABAの存在により、さらにポリマーの高分子量化を図る際には、阻害要因となっており、この方法によって得られるポリアリーレンスルフィドも、分子量の高いポリマーが得られるものの、未だ十分なものではなかった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法は、脂肪族系環状化合物とポリハロ芳香族化合物を含む反応容器中に、(a)水と、アルカリ金属水硫化物と、脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩(以下、脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩を「SMAB」と言うことがある)と、アルカリ金属水酸化物とを供給しながら、または、(b)水と、アルカリ金属水硫化物と、前記アルカリ金属塩と、アルカリ金属硫化物とを供給しながら、重合反応させることを特徴とする。以下、具体的に詳述する。
【0015】
本発明は、まず始めに、反応容器内に、脂肪族系環状化合物とポリハロ芳香族化合物を供給し、脂肪族系環状化合物とポリハロ芳香族化合物を含む重合反応に供する溶液を得る(以下、工程(1)と記す)。
【0016】
本発明で用いる脂肪族系環状化合物としては、加水分解によって開環し得るものであれば公知のものを特に限定されることなく用いることができるが、このような脂肪族系環状化合物の具体例としてはN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する。)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸などの脂肪族環状アミド化合物、アミド尿素、及びラクタム類が挙げられる。これらの中でも反応性が良好である点から脂肪族環状アミド化合物、特にNMPが好ましい。
【0017】
本発明で用いるポリハロ芳香族化合物としては、例えば、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0018】
前記ポリハロ芳香族化合物の中でも、本発明では線状高分子量PAS樹脂を効率的に製造できる点から、2官能性のジハロ芳香族化合物が好ましく、とりわけ最終的に得られるPAS樹脂の機械的強度や成形性が良好となる点からp−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが好ましく、特にp−ジクロロベンゼンが好ましい。また、線状PAS樹脂のポリマー構造の一部に分岐構造を持たせたい場合には、上記ジハロ芳香族化合物と共に、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、又は1,3,5−トリハロベンゼンを一部併用することが好ましい。
【0019】
その他、ポリハロ芳香族化合物の適当な選択組合せによって2種以上の異なる反応単位を含む共重合体を得ることもでき、例えば、p−ジクロルベンゼンと、4,4’−ジクロルベンゾフェノン又は4,4’−ジクロルジフェニルスルホンとを組み合わせて使用することで耐熱性に優れたポリアリーレンスルフィドを得ることもでき、好ましい。
【0020】
ポリハロ芳香族化合物の仕込み量は、特に限定されないが、仕込み量がそのまま重合反応に供されるため、生産性ないし経済性から、後述する工程(2)で仕込む、(a)アルカリ金属水硫化物に由来する硫黄原子1モルに対して、または、(b)アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属硫化物に由来する硫黄原子1モルに対して、0.7モル〜1.2モルの範囲が好ましく、さらに0.8〜1.1モルの範囲がより好ましく、等モルの割合で用いることが特に好ましい。
【0021】
脂肪族系環状化合物とポリハロ芳香族化合物を含む反応容器は、温度や圧力等の条件を適宜調整することにより、脂肪族系環状化合物とポリハロ芳香族化合物を含む重合反応用溶液を得る。反応容器内の条件としては、開放系又は密閉系の何れでもよいが、不活性ガス存在下に、密閉系で反応させことが生産性を向上させる観点から好ましい。温度条件としては、特に制限されないが、120〜280℃、好ましくは180〜250℃の範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明は、次に、(a)水と、アルカリ金属水硫化物と、SMABと、アルカリ金属水酸化物とを、または、(b)水と、アルカリ金属水硫化物と、SMABと、アルカリ金属硫化物とを、前記工程(1)で仕込んだ脂肪族系環状化合物とポリハロ芳香族化合物とを含む反応容器中に供給しながら、これら各成分を用いて重合反応させる(以下、工程(2)と記す)。水は、単独で反応容器中に供給しても良いし、水以外の任意の一成分以上、好ましくは水以外の全ての成分を水溶液とすることで反応容器中に供給しても良い。
【0023】
前記SMABは、(a)水と、アルカリ金属水硫化物と、SMABと、アルカリ金属水酸化物とを供給する場合、または、(b)水と、アルカリ金属水硫化物と、SMABと、アルカリ金属硫化物とを供給する場合、いずれの場合においても(i)アルカリ金属水酸化物および脂肪族系環状化合物を水の存在下で反応させることにより得たものを用いるか、または、(ii)アルカリ金属硫化物と脂肪族系環状化合物を水の存在下で反応させることにより、SMABとアルカリ金属水硫化物の混合物として得たものを用いることができる。
【0024】
前記SMABを、(i)アルカリ金属水酸化物および脂肪族系環状化合物を水の存在下で反応させることにより得る場合、それぞれの仕込み量は特に限定する必要はないが、収率や反応性の観点から、(アルカリ金属水酸化物)/(脂肪族系環状化合物)がモル比で1/1以下の範囲であることが好ましく、1/1〜1/10の範囲であることがより好ましい。同じく、(アルカリ金属水酸化物)/(水)がモル比で1/1以下の範囲であることが好ましく、1/1〜1/10の範囲であることがより好ましい。
【0025】
一方、前記SMABを、(ii)アルカリ硫化物および脂肪族系環状化合物を水の存在下で反応させることにより、SMABとアルカリ金属水硫化物の混合物として得る場合、それぞれの仕込み量は特に限定する必要はないが、収率や反応性の観点から、(アルカリ金属硫化物)/(脂肪族系環状化合物)がモル比で1/1以下の範囲であることが好ましく、1/1〜1/10の範囲であることがより好ましい。同じく、(アルカリ金属硫化物)/(水)がモル比で1/1以下の範囲であることが好ましく、1/1〜1/30の範囲であることがより好ましい。
【0026】
前記SMABを得る、(i)および(ii)いずれの方法においても反応させる際の条件はSMABを得る公知の範囲で特に制限されないが、反応温度150〜250の範囲で、不活性ガス存在下に、密閉系で反応させことが生産性を向上させる観点から好ましい。
【0027】
このようにして得られたSMABまたはSMABとアルカリ金属水硫化物の混合物は、適宜、水と、アルカリ金属水硫化物と、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属硫化物と伴に、前記工程(1)を経て得られた反応容器中に供給し、これら各成分を重合反応させればよい。
【0028】
反応容器に供給するSMABとアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属硫化物とのそれぞれの仕込み量は特に限定する必要はないが、収率や反応性の観点から、以下の範囲とすることが好ましい。
【0029】
すなわち、(a)水と、アルカリ金属水硫化物と、SMABと、アルカリ金属水酸化物とを、反応容器中に供給する場合は、アルカリ金属水硫化物に由来する硫黄原子の合計1モルに対して、SMABとアルカリ金属水酸化物の合計が0.01〜2.0モルの範囲であることが好ましく、0.1〜1.5モルの範囲であることがより好ましく、0.4〜1.2モルの範囲がさらに好ましい。また、アルカリ金属水酸化物とSMABの合計1モルに対して、SMABが0.01〜1.0モルの範囲であることが好ましく、0.05〜0.5モルの範囲であることがより好ましく、0.1〜0.2モルの範囲であることがさらに好ましい。さらに反応容器に供給されるアルカリ金属水硫化物1モルに対して、反応容器に供給されるSMABと、工程(1)で仕込んだ反応容器中に含まれる脂肪族系環状化合物との合計が1〜6モルの範囲となるよう調整することが好ましい。さらに、反応容器に供給する水の仕込み量はアルカリ金属水硫化物に由来する硫黄原子の合計1モルに対して、1〜50モルの範囲であることが好ましく、さらに2〜20モルの範囲であることがより好ましい。
【0030】
また、(b)水と、アルカリ金属水硫化物と、SMABと、アルカリ金属硫化物とを、反応容器中に供給する場合は、アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属硫化物に由来する硫黄原子の合計1モルに対して、SMABとアルカリ金属硫化物の合計が0.01〜2.0モルの範囲であることが好ましく、0.1〜1.5モルの範囲であることがより好ましく、0.4〜1.2モルの範囲がさらに好ましい。また、アルカリ金属硫化物1モルに対して、SMABが0.01〜1.0モルの範囲であることが好ましく、0.05〜0.5モルの範囲であることがより好ましく、0.1〜0.2モルの範囲であることがさらに好ましい。さらに反応容器に供給されるアルカリ金属水硫化物とSMABの合計1モルに対して、反応容器に供給されるSMABと、工程(1)で仕込んだ反応容器中に含まれる脂肪族系環状化合物との合計が1〜6モルの範囲となるよう調整することが好ましい。さらに、反応容器に供給する水の仕込み量はアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属硫化物に由来する硫黄原子の合計1モルに対して、1〜50モルの範囲であることが好ましく、さらに2〜20モルの範囲であることがより好ましい。
【0031】
アルカリ金属水硫化物と、SMABと、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属硫化物の各成分は、貯留漕(タンク)に貯留され、貯留漕から反応容器へ、配管を通じて供給され、反応容器中で、重合反応が行われる。アルカリ金属水硫化物、SMABと、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属硫化物の各成分は、それぞれ独立に貯留漕に貯留されていてもよいし、任意の2成分以上の成分を同じ貯留漕に貯留していても良い。特に、上記(ii)の方法ではSMABとアルカリ金属水硫化物の混合物として得られるので、両成分を同じ貯留漕に貯留しておくことが望ましい。また、各配管は、各貯留漕から反応容器へそれぞれ合流することなく連通していてもよいし、任意の配管同士が途中で合流されていてもよい。
【0032】
貯留漕(タンク)、配管およびポンプが前記各成分と接する部分(以下、接液部)は、ステンレス鋼にチタンやジルコニウム等の耐腐食性に優れた素材を用いて耐腐食加工を施した材料を用いることもできるが、上記(a)の方法、すなわち、各貯留漕から反応容器へ供給される各成分がアルカリ金属水硫化物と、脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩と、アルカリ金属水酸化物であり、かつ、それぞれ別々に供給する場合にあっては、ステンレス鋼をそのまま用いてもステンレス鋼を構成する金属原子の溶出を抑えることができるため、特殊な加工処理が不要となり、製造設備の簡素化の観点から好ましい。
【0033】
ここで、本発明で用いるアルカリ金属水硫化物としては、アルカリ金属水硫化物の水和物等が挙げられ、該アルカリ金属水硫化物としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウムまたは水硫化セシウム等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらアルカリ金属水硫化物の中では水硫化ナトリウムと水硫化カリウムが好ましく、特に水硫化ナトリウムが好ましい。これらアルカリ金属水硫化物は無水物または水和物等として使用することができ、入手の容易さから、化合物内に結晶水を有する、液状又は固体状の水和物として用いることもできる。これらアルカリ金属水硫化物は、反応系内に仕込む際の取扱い性に優れることから水溶液として用いることが好ましく、その濃度は1質量%から水溶液の取扱い時の温度における飽和濃度までの範囲であることが好ましく、さらに5〜50質量%となる範囲がより好ましい。
【0034】
また、本発明で用いるアルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられる。これらの中でも特に水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液として用いることが好ましく、その濃度は1質量%から水溶液の取扱い時の温度における飽和濃度までの範囲であることが好ましく、さらに5〜50質量%となる範囲がより好ましい。
【0035】
さらに、本発明で用いるアルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウムおよび硫化セシウムが挙げられ、これらアルカリ金属硫化物の中では硫化ナトリウムと水硫化カリウムが好ましく、特に硫化ナトリウムがより好ましい。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらアルカリ金属硫化物は無水物または水和物等として使用することができ、入手の容易さから、化合物内に結晶水を有する、液状又は固体状の水和物として用いることもできる。これらアルカリ金属硫化物は、反応系内に仕込む際の取扱い性に優れることから水溶液として用いることが好ましく、その濃度は1質量%から水溶液の取扱い時の温度における飽和濃度までの範囲であることが好ましく、さらに5〜25質量%となる範囲がより好ましい。
【0036】
工程(2)では、リチウム塩化合物を反応系内に加え、リチウムイオンの存在下で反応を行ってもよい。ここで使用できるリチウム塩化合物の具体例としては、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウム、リン酸リチウム、リン酸水素リチウム、リン酸二水素リチウム、亜硝酸リチウム、亜硫酸リチウム、塩素酸リチウム、クロム酸リチウム、モリブデン酸リチウム、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、ブタン二酸リチウム、吉草酸リチウム、ヘキサン酸リチウム、オクタン酸リチウム、酒石酸リチウム、ステアリン酸リチウム、オレイン酸リチウム、安息香酸リチウム、フタル酸リチウム、ベンゼンスルホン酸リチウム、p−トルエンスルホン酸リチウム、硫化リチウム、水硫化リチウム、水酸化リチウム等の無機リチウム塩化合物;リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムポロポキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウムブトキシド、リチウムフェノキシド等の有機リチウム塩化合物が挙げられる。これらの中でも塩化リチウムと酢酸リチウムが好ましく、特に塩化リチウムが好ましい。また、上記リチウム塩化合物は無水物又は含水物又は水溶液として用いることができる。リチウム塩化合物を反応系内に加え、リチウムイオンの存在下で反応を行う場合、その使用量は、アルカリ金属水硫化物の硫黄原子1モルに対し、好ましくは0.01モル以上0.9モル未満の範囲となる割合で用いることがポリアリーレンスルフィド樹脂をより高分子量化できるため好ましい。
【0037】
工程(2)の反応条件は特に制限されるものではないが、重合反応が容易に進行し得る温度、すなわち200〜300℃、好ましくは210〜280℃、更に好ましくは215〜260℃の範囲にて、脱水を行いながら反応させることが好ましい。
【0038】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法の重合反応に存在させる水分は、加水分解反応などの併発を回避させるために、なるべく少ない方が良い傾向にあるものの、他方、重合反応が全く無水の状態である場合は、反応速度が著しく遅くなるといった問題がある。従って、本発明の重合反応において反応系内に存在すべき水分量は、重合に使用したアルカリ金属水硫化物またはアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属硫化物に由来する硫黄原子の合計1モルに対して、重合反応終了時1モル未満であることが好ましく、反応が円滑に進行する点から、0.02モル以上存在させることがより好ましく、さらに0.03〜0.60モルの範囲が特に好ましく、0.05〜0.50の範囲が最も好ましい。上記の範囲を満たす場合には、反応速度の制御性と高分子量化との両立がより容易に行えるため好ましい。
【0039】
なお、本発明の製造方法では、上記水分量を重合終了時に満たしていることが好ましいが、ポリハロ芳香族化合物の転化率が80モル%を越えた時点以降、より好ましくは60モル%を越えた時点以降、さらに好ましくは重合開始直後から上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0040】
ここで、ポリハロ芳香族化合物の転化率とは、次の式で表されるものである。
転化率(%)=(仕込み量−残存量)/仕込み量×100
ただし、「仕込み量」は反応系内に仕込んだポリハロ芳香族化合物の質量を表し、また「残存量」は反応系内に残存するポリハロ芳香族化合物の質量を表すものとする。
【0041】
また、工程(2)において、系内の前記水分量を維持するための脱水方法としては、特に制限されるものでなく、SMABの導入速度の他、反応系の温度、圧力のコントロールによって行うこともできるが、具体的には、水、溶媒、ポリハロ芳香族化合物の各蒸気圧曲線によりコントロールすべき温度、圧力を類推し、その圧力、温度条件に設定することによって所望の系内水分量に調節すればよい。
【0042】
重合反応により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物は後処理工程を施すことができる。後処理工程としては、公知の方法であればよく、特に制限されるものではないが、例えば、重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、且つ少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィド樹脂や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法等が挙げられる。
【0043】
なお、上記に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0044】
この様にして得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、そのまま各種成形材料等に利用可能であるが、空気あるいは酸素富化空気中あるいは減圧条件下で熱処理を行い、酸化架橋させてもよい。この熱処理の温度は、目標とする架橋処理時間や処理する雰囲気によっても異なるものの、180℃〜270℃の範囲であることが好ましい。また、前記熱処理は押出機等を用いてポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上で、ポリアリーレンスルフィド樹脂を溶融した状態で行ってもよいが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の熱劣化の可能性が高まるため、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。
【0045】
以上詳述した本発明の製造方法によって得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形の如き各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物に加工することが出来る。
【0046】
また、本発明により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、更に強度、耐熱性、寸法安定性等の性能を改善するために、各種充填材と組み合わせたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として使用することが出来る。充填材としては、特に制限されるものではないが、例えば、繊維状充填材、無機充填材等が挙げられる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等が使用出来る。また無機充填材としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、バイロフェライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタルパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用出来る。また、成形加工の際に添加剤として離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を含有せしめることが出来る。
【0047】
更に、本発明により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、用途に応じて、適宜、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂、或いは、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマーを配合したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として使用してもよい。
【0048】
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等の射出成形若しくは圧縮成形、若しくはコンポジット、シート、パイプなどの押出成形、又は引抜成形などの各種成形加工用の材料として、或いは繊維若しくはフィルム用の材料として幅広く有用である。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0050】
(PPS樹脂の溶融粘度の測定)
製造したPPS樹脂を島津製作所製の高化式フローテスター(CFT−500D)を用い、300℃、荷重:1.96×10
6Pa、L/D=10mm/1mmなる条件にて、6分間保持した後に測定した値を溶融粘度(V6)とし、同条件にて、15分間保持した後に測定した値を溶融粘度(V15)とした。
【0051】
(PPS樹脂のカルボキシ基の定量)
PPS樹脂のカルボキシ基の定量を350℃でプレスしたのち、急冷することによって非晶性を示すフィルムを作成し、フーリエ変換赤外分光装置(以下「FT−IR装置」と略記する。)で測定した。赤外吸収スペクトルのうち630.6cm
−1の吸収に対する1705cm
−1の吸収の相対強度を求め、別途後述する方法により作成した検量線を用いて測定サンプル中のカルボキシ基の含有量(以下「カルボキシ基の全含有量」と略記する。)を求めた。カルボキシ基の含有量は樹脂組成物1g中のモル数で示され、その単位はμmol/gで表される。検量線の作成方法は酸処理を行わずにカルボン酸塩を分子末端に含有するPPS樹脂3gに所定量の4−クロロフェニル酢酸を加え良く混合したのち、前記と同じようにしてフィルムを作成し、FT−IR装置で測定を行い、カルボキシ基含有量に対する、前記吸収の相対強度比をプロットした検量線を作成した。PPS樹脂中のカルボキシ基の含有量が多いほど、エポキシシランカップリング剤や官能基含有熱可塑性エラストマーなどの耐衝撃性改質剤との反応性が向上することから、耐衝撃性に優れる組成物が得られることを示す。
【0052】
(CP−MABAの定量方法)
PPS樹脂を含んだ重合混合物のスラリー50gに70℃のイオン交換水100gと1wt%の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10.0以上に調整して10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水100gを加えケーキ洗浄を行った。この操作を3回繰り返し、ろ液を全量集めてHPLCを用いて抽出されたCP−MABA量を測定した。標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積と検量線とから抽出液中の濃度を求め、PPS樹脂1g当たりのCP−MABA含有量を算出した。
【0053】
(反応性評価方法)
PPS樹脂を小型粉砕機で粉砕した後、日本工業規格Z8801の目開き0.5mmの試験用篩いを用いて篩った。篩いを通過したPPS樹脂100質量部に対し、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を配合し、均一に混合した後に溶融粘度V15を測定した。添加後の溶融粘度V15/添加前の溶融粘度V6の比から粘度上昇度を倍率として算出した。粘度上昇度が大きいほど反応性が高く、優れていることを示す。
【0054】
(飛散Sの定量方法)
ビーカーにサンプル0.5gを精秤し、次いで純水を70ml、1%水酸化ナトリウム水溶液4mlを加え、撹拌しながら、電位差自動滴定装置を用いて、0.02mol/L硝酸銀で滴定する。
【0055】
[実施例1]
温度計、圧力計、攪拌翼付チタンライニングの2リットルオートクレーブに、NMP1189.66g(12モル)、48質量%NaOH水溶液32884g(4モル)を仕込み、密閉し、攪拌しながら窒素雰囲気下で230℃まで1時間かけて昇温した。次いで、230℃で3時間反応させた後、室温まで冷却し、白色ゲル状液を得た。
【0056】
得られたゲル状液にアセトン2Lを加えて攪拌し、ろ過し、アセトン1Lでケーキ洗浄した。この操作を3回繰り返し、白色固体を得た。得られた白色固体を150℃で3時間真空乾燥することで目的のsodium N−methyl−aminobutylate(SMAB)を得た。SMABを36.52g(0.26モル)と48.80質量%NaOH水溶液121.52g(1.48モル)と水131.75gを溶解させたSMAB溶液を調整した。
【0057】
SUS製の滴下槽、滴下ポンプ、コンデンサー、デカンターを連結した上記2リットルオートクレーブに、NMP623g、DCB299.86gを仕込み、密閉し、攪拌しながら窒素雰囲気下で内温220℃まで2時間かけて昇温した。220℃到達後、コンデンサーを連結したバルブを開放し、釜内圧力を0.20MPaに調整した。次いで、内温を220℃に、釜内圧力を0.20MPaに保持しながら、48.23質量%NaSH水溶液260.36g(2.24モル)と上記で調整したSMAB溶液を滴下槽に仕込み、滴下ポンプを用いてそれぞれ4時間かけて滴下した。滴下中は同時に脱水操作を行い、留出したp−DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、p−DCBはオートクレーブへ戻した。滴下終了後、バルブを閉止し、オートクレーブを密閉し、1時間保持した。1時間保持後、再度コンデンサーを連結したバルブを開放し、釜内圧力が0.10MPaになるまで10分間で残水を除去した。留出水量は372g、系外に飛散した硫化水素量(飛散S)は7gであった。次いで、内温230℃まで20分掛けて昇温し、230℃で3時間保持した。最終釜内圧力は0.14MPaであった。反応終了後、室温まで冷却した。反応終了時の反応系内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.76モルであった。4時間滴下終了後、DCB消費率は79%であった。
【0058】
得られた重合スラリー100gに70℃のイオン交換水400gを加えて10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水400gを加えて10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。この操作を2回繰り返した。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水400gと酢酸を加えてpHを4.0に調整して10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水400gを加えて10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキを熱風乾燥機を用いて120℃で4時間乾燥して白色粉末状のポリマーを得た。得られたポリマーの溶融粘度は135Pa・s、カルボキシ基含有量は35μmol/g、CP−MABA生成量は32μmol/g、および反応性は14倍、であった。
【0059】
(比較例1)
滴下する溶液を38.41質量%Na
2S水溶液609.50g(Na
2S3.00モル)に変更した以外は実施例1と同じ操作を行った。留出水量は356g、系外に飛散した硫化水素量(飛散S)は15gであった。最終釜内圧力は0.10MPaであった。4時間滴下終了後、DCB消費率は60%であった。反応終了時の反応系内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.49モルであった。得られたポリマーの溶融粘度は21Pa・s、カルボキシ基含有量は10μmol/g、CP−MABA生成量は16μmol/g、および反応性は1.0倍であった。
【0060】
(比較例2)
実施例1と同じ反応装置を用い、オートクレーブにNMP487g、49.21質量%NaOH 水溶液18.29g(0.225モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で内温100℃まで20分掛けて昇温し、系を閉じ、更に内温220℃ まで40分かけて昇温し、220℃で2時間保持した。最終ゲージ圧力は0.27MPaであった。4時間滴下終了後、DCB消費率は71%であった。
【0061】
次に、コンデンサを連結したバルブを開放し、ゲージ圧力を0.20MPaに調整した。次いで、内温を220℃に、ゲージ圧力を0.20MPaに保持しながら、47.23質量%NaSH 水溶液178.04g(1.500モル)、49.21質量%NaOH 水溶液98.76g(1.215モル)、及びp−DCB220.5g(1.5モル)を3時間かけて滴下した。滴下中は同時に脱水操作を行い、留出したp−DCBと水の混合蒸気はコンデンサで凝縮し、デカンタで分離して、p−DCBはオートクレーブへ戻した。滴下終了後、バルブを閉止し、オートクレーブを密閉した。留出水量は174g、系外に飛散した硫化水素量は1gであった。次いで、内温230℃まで10分掛けて昇温し、230℃で3時間保持した。最終ゲージ圧力は0.28MPaであった。4時間滴下終了後、DCB消費率は67%であった。反応終了後、室温まで冷却し、重合スラリーを得た。反応終了時の反応系内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.20モルであった。得られた重合スラリーを実施例1と同様の操作を行いポリマーを得た。得られたポリマーの溶融粘度は43Pa・s、末端カルボキシ基含有量は8μmol/g、CP−MABA生成量は62μmol/g、および反応性は1.1倍であった。
【符号の説明】
【0062】
1 反応容器
2 撹拌翼
3 精留塔
4 コンデンサ(凝縮器)
5 凝縮器からの液体成分を静置分離するためのデカンタ
6 デカンタ下層部の液体を精留塔に戻す還流ポンプ
7 精留塔及びコンデンサ内部のガス成分の圧力を調製する圧力制御弁
8 飛散した硫化水素の回収装置
9 アルカリ金属水硫化物(水硫化ナトリウム)を反応容器へ供給するための配管
10 アルカリ金属水硫化物(水硫化ナトリウム)を反応容器へ供給するためのポンプ
11 アルカリ金属水硫化物(水硫化ナトリウム)の貯留漕
12 SMABとアルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム)を反応容器へ供給するための配管
13 SMABとアルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム)を反応容器へ供給するためのポンプ
14 SMABとアルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム)の貯留漕