(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、センサの小型化、低廉化により、心電計や加速度計などのセンサおよび無線通信機能を具備したウェアラブルデバイスが発売されており、スポーツを含めた様々な用途で利用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
具体的なスポーツとしてアーチェリー競技を例とする。アーチェリー競技では安定した行射の遂行が求められる。安定した行射のため、心電図・RRI(心拍間隔(R-R Interval):心拍の変動時系列データ)から求められる心拍変動、姿勢の安定性、呼吸などの特徴量が着目されており、センサによるそれら特徴量の計測がなされている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
図20に特許文献2に示されたウェアラブルデバイスの要部の構成を示す。この非特許文献2に示されたウェアラブルデバイスでは各特徴量をそれぞれ異なるセンサにより計測している。
図20において、11(11−1〜11−3)はセンサ端末、12はセンサ端末11(11−1〜11−3)からのセンサデータを受け取る子端末である。
【0005】
センサ端末11−1は、電圧センサ13によって競技者(運動者)の生体電位として心電位を計測し、その計測した心電位をセンサデータとして子端末12に送る。センサ端末11−2は、競技者の動きに伴って生じる床反力を床反力計(フォースプレート)14によって計測し、その計測した床反力をセンサデータとして子端末12に送る。センサ端末11−3は、競技者の鼻部に設置された温度計(サーミスタ)や胸部の変動をコイルの伸縮を用いてインダクタンス変化として計測するベルト等のセンサ15を備え、このセンサ15によって計測されたセンサデータを子端末12に送る。
【0006】
子端末12は記憶部12−1と解析部12−2とを備えている。センサ端末11−1〜11−3からのセンサデータは子端末12の記憶部12−1に格納される。解析部12−2は、記憶部12−1に格納されたセンサデータに基づいて、心拍変動、姿勢の安定性、呼吸などの特徴量を求める。この場合、心拍変動(心電図・RRI)はセンサ端末11−1からのセンサデータに基づいて求められ、姿勢の安定性はセンサ端末11−2からのセンサデータに基づいて求められ、呼吸はセンサ端末11−3からのセンサデータに基づいて求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献2に示されたウェアラブルデバイスのように、電圧センサ、床反力計、温度センサやベルトというような複数の異なるセンサを使用すると、センサ種類が増えるために、コスト高となってしまう課題があった。
【0009】
また、他にも課題があり、床反力計は人体を載せるものなので相応の大きさがあるため、持ち運びに不便である。また、床に設置して使用するものであるため、設置環境へ影響を与える場合や固定が認められない場合などは利用することができない。
【0010】
また、鼻部に設置する温度計は弓の弦を顔に近接させるアンカーリング動作の妨げになる。胸部の変動を伸縮から計測するベルトは胸部を締め付けるため、物理的、精神的に競技への負担となる。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、センサの数を減らすことにより、低コスト化を図ることが可能な、また、持ち運びを容易とし、運動者の物理的、精神的負担も軽減させることが可能な運動支援装置および運動支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために本発明は、運動者の動きを支援する運動支援装置(100)であって、前記運動者の生体電位
として心電位を計測する電圧センサと、前記運動者の
胸部、背部、および前記運動者が持つ弓において互いに直交する3軸の加速度を計測する加速度センサと、前記電圧センサによって計測された
心電位および前記加速度センサによって計測された加速度を入力とする子端末とを備え、前記子端末は、前記電圧センサによって計測された
心電位から少なくとも心拍間隔および呼吸波形を算出する心拍間隔・呼吸波形算出手段と、前記加速度センサによって計測された加速度
および前記加速度センサの軸の傾きから前記運動者の姿勢を算出する姿勢算出手段と
、前記姿勢算出手段によって算出された姿勢から前記運動者が矢を射る際のリリースのタイミングをイベントとして検出するイベント検出手段と、前記イベント検出手段によって検出されたリリースのタイミングと前記電圧センサによって計測された心電位に含まれる前記リリースのタイミングの直前のR波の発生タイミングとの時間差を前記運動者の前記イベントの実行時の特徴量として算出するイベント実行時特徴量算出手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
なお、加速度センサ(4−1〜4−3)によって計測された加速度から運動者の姿勢が算出され、電圧センサ(3−1)によって計測された生体電位から心拍間隔(RRI)や呼吸波形が算出される。これにより、本発明では、床反力計を用いることなく、運動者の特徴量として姿勢の安定性を求めることが可能となる。また、温度計やベルトなどを用いることなく、運動者の特徴量として呼吸を求めることが可能となる。
【0014】
なお、加速度センサ(4−1〜4−3)によって計測された加速度から運動者の姿勢を算出し、この算出した姿勢から運動者の特定の動作の型をイベントとして検出し、この検出されたイベントと電圧センサ(3−1)によって計測された生体電位とから運動者のイベントの実行時の特徴量を算出するようにしてもよい。例えば、アーチェリー競技を対象とした競技者の動きを支援する場合、加速度センサ(4−1〜4−3)によって計測された加速度から競技者の姿勢を算出し、この算出した姿勢から競技者が矢を射る際のリリースのタイミング(弦を引く手から弦が離れるタイミング)をイベントとして検出し、この検出したリリースのタイミングと直前のR波の発生タイミングとの時間差(R波とリリースの発生時間差)を競技者のイベントの実行時の特徴量として算出する。このイベントの実行時の特徴量(R波とリリースの発生時間差)から、R波の発生がリリース動作にどのような影響を与えたかなどについて、推察することが可能となる。
【0015】
このようにして、本発明では、電圧センサ(3−1)と加速度センサ(4−1〜4−3)だけで、心拍変動(心電図・RRI)、姿勢の安定性、呼吸などの運動者の特徴量を求めることが可能となり、センサの数を減らし、低コスト化を図ることができるようになる。また、持ち運びも容易となり、運動者の物理的、精神的負担を軽減させることも可能となる。
【0016】
なお、上記説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の構成要素を、括弧を付した参照符号によって示している。また、本発明において、加速度センサに代えてジャイロセンサを設けるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したことにより、本発明によれば、電圧センサと加速度センサ(もしくはジャイロセンサ)だけで、心拍変動(心電図・RRI)、姿勢の安定性、呼吸などの運動者の特徴量を求めることが可能となり、センサの数を減らし、低コスト化を図ることができるようになる。また、持ち運びも容易となり、運動者の物理的、精神的負担を軽減させることも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態では、アーチェリー競技を対象とし、このアーチェリー競技を行う際の競技者(運動者)の動きを支援するものとして説明する。
【0020】
〔実施の形態1〕
図1は本発明の実施の形態1に係る運動支援装置100の要部を示す図である。
図1において、1はセンサ端末、2はセンサ端末1からのセンサデータを受け取る子端末である。この例では、センサ端末1として、3つのセンサ端末1−1〜1−3が設けられている。
図2にセンサ端末1−1〜1−3の設置状況を示す。
【0021】
この運動支援装置100において、センサ端末1−1は、競技者Mの胸部に設置される(
図2(a)参照)。センサ端末1−2は、競技者Mが持つ弓21に設置される(
図2(a)参照)。センサ端末1−3は、競技者Mの背部に設置される(
図2(b)参照)。子端末2としては、スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどが用いられる(
図2(c)参照)。なお、
図2(b)において、競技者Mが持つ弓21は省略している。
【0022】
センサ端末1−1は電圧センサ3(3−1)と加速度センサ4(4−1)とを備えている。電圧センサ3−1は、競技者Mの生体電位として心電位を計測し、加速度センサ4−1は、競技者Mの動きに伴って発生する胸部の加速度を計測し、その計測した心電位および加速度をセンサデータとして子端末2に送る。
【0023】
センサ端末1−2は加速度センサ4(4−2)を備えている。加速度センサ4−2は、弓21の加速度、すなわち弓21を保持する競技者Mの動きに伴って発生する手の加速度を計測し、その計測した加速度をセンサデータとして子端末2に送る。
【0024】
センサ端末1−3は加速度センサ4(4−3)を備えている。加速度センサ4−3は競技者Mの動きに伴って発生する背部の加速度を計測し、その計測した加速度をセンサデータとして子端末2に送る。
【0025】
センサ端末1−1〜1−3からのセンサデータは、「BlueTooth(登録商標)」や「WiFi(登録商標)」、「LTE(登録商標)」などの無線通信機能により、子端末2へ送信される。子端末2では、受信したセンサデータから競技者Mの各種の特徴量、この例では、心拍変動(心電図・RRI)、姿勢の安定性、呼吸、R波とリリースの発生時間差(後述)などを求める。
【0026】
子端末2は、電圧センサ3−1によって計測された心電位から心拍間隔(RRI)および呼吸波形を算出する心拍間隔・呼吸波形算出部2−1と、加速度センサ4−1〜4−3によって計測された加速度から競技者Mの姿勢を算出する姿勢算出部2−2と、姿勢算出部2−2によって算出された姿勢から競技者Mの特定の動作の型をイベントとして検出するイベント検出部2−3と、電圧センサ3−1によって計測された心電位から求められるR波の発生タイミングとイベント検出部2−3によって検出されたイベントとから競技者Mのイベントの実行時の特徴量を算出するイベント実行時特徴量算出部2−4とを備えている。
【0027】
図3は、心電位と心電位から算出されたRRIの波形を示す図である。心拍間隔・呼吸波形算出部2−1は、心電位を用いてRRIを算出する(非特許文献3の2.8参照)。その手順は、心電位の差分波形(t+1番目の心電位とt番目の心電位との差を示す波形)を求め、差分波形が任意の閾値を越えた際にR波の発生とみなし、R波の発生間隔をもってRRIとする。
【0028】
図4は、心電位と心電位から算出された呼吸波形を示す図である。心拍間隔・呼吸波形算出部2−1は、心電位を用いて呼吸波形を算出し(非特許文献4参照)、心電位におけるR波とS波の電圧差(RS振幅)の経時変化を持って呼吸波形とする。
【0029】
なお、呼吸波形ではなく呼吸数を指標としたい場合は、呼吸波形における上部もしくは下部のピーク間隔から波の周期(単位は[s])を求め、その周期の逆数をとれば呼吸周波数(単位は[Hz])となり、これに60を乗じたものが1分間あたりの呼吸数となる。この場合、心拍間隔・呼吸波形算出部2−1では、算出した呼吸波形から呼吸数が求められることになる。また、心拍間隔・呼吸波形算出部2−1において、算出したRRIから心拍数を求めるようにしてもよい。
【0030】
姿勢算出部2−2は、加速度センサ4−1〜4−3によって計測された加速度から競技者Mの姿勢を算出する。この場合、姿勢は、加速度センサ4−1〜4−3の軸の傾きをもって算出する。各加速度センサ4の傾きは、非特許文献5の記載を参考にこれを改変し、下記の(1)式および(2−1)式または(2−2)式により求める。
【0033】
上記の(1)式および(2−1)式,(2−2)式において、θは鉛直方向に対する加速度センサ4のY軸の傾き、φは鉛直方向に対する加速度センサ4のX軸の傾きであり、単位は度[degree]である。A
x,out、A
y,out、A
z,outは加速度センサ4の出力値であり、単位は重力加速度G(1.0G≒9.8m/s
2)である。
【0034】
上記の(1)式および(2−1)式,(2−2)式では、加速度センサ4の出力値の合成ベクトルの大きさ(ノルム)に対する単軸の計測値の比を求め、さらに余弦(コサイン)の逆関数を求めることで、角度の次元をもつ値として加速度センサ4のY軸の傾きθおよびX軸の傾きφを算出している。
【0035】
(1)式、(2−1)式,(2−2)式に含まれるノルムは、アーチェリーのような静止動作条件下においては、加速度センサ4の傾きに依らず一定の値をとるため、ノルムを用いて姿勢を明らかにすることはできない。しかしながら、(1)式、(2−1)式,(2−2)式により傾きを求めることで姿勢を明瞭に把握することが可能となる。
【0036】
図5に競技者Mの背部に設置したセンサ端末1−3の加速度センサ4−3の計測値から算出したY軸の傾きθを示す。
図6に競技者Mの背部に設置したセンサ端末1−3の加速度センサ4−3の計測値から算出したX軸の傾きφを示す。
図5および
図6において、S1はアーチェリー競技を行う際のドローイング動作(
図7(a)参照)の期間を示し、S2はアンカーリング動作(
図7(b)参照)の期間を示し、S3はリリース動作(
図7(c)参照)の期間を示し、S4はフォロースルー動作(
図7(d)参照)の期間を示している。
【0037】
図5および
図6中、ドローイング動作の期間S1においてθとφが共に大きく変化しているのは弓を引くために姿勢が動いていることを示している。また、アンカーリング動作の期間S2においてはドローイング動作の期間S1に比べ、θとφの変化が低減しているが、変化自体が無くなったわけではない。このアンカーリング動作の期間S2におけるθとφから姿勢の安定性を定量的に把握できる。
【0038】
加速度センサ4−1,4−2についても同様のことが言える。すんわち、本実施の形態では、加速度センサ4−1〜4−3を用いることで床反力計を用いなくとも姿勢の安定性を定量的に把握することが可能であり、これにより競技者Mの動きを支援することができる。
【0039】
イベント検出部2−3は、姿勢算出部2−2によって算出された姿勢から競技者Mの特定の動作の型をイベントとして検出する。この例では、競技者Mが矢を射る際のリリースのタイミング(弦を引く手から弦が離れるタイミング)をイベントとして検出し、この検出したリリースのタイミングをイベント実行時特徴量算出部2−4へ送る。
【0040】
イベント実行時特徴量算出部2−4は、電圧センサ3−1によって計測された心電位から求められるR波の発生タイミングとイベント検出部2−3によって検出されたリリースのタイミング(リリースのタイミング)とを入力とし、イベント検出部2−3によって検出されたリリースのタイミングと直前のR波の発生タイミングとの時間差(R波とリリースの発生時間差)Δtを競技者Mのリリース動作の実行時(イベント実行時)の特徴量として算出する。
【0041】
なお、この例では、心拍間隔・呼吸波形算出部2−1でRRIを求める際にR波を検出するので、心拍間隔・呼吸波形算出部2−1からR波の検出タイミングをイベント実行時特徴量算出部2−4へ送り、この心拍間隔・呼吸波形算出部2−1でのR波の検出タイミングをもってR波の発生タイミングとする。
【0042】
イベント検出部2−3では、リリースのタイミングを求める。この場合、リリースのタイミングの検出には、上記の(2)式を用いて算出したφから得られる差分値φ’を用いる。例として、弓21に設置したセンサ端末1−2の加速度センサ4−2から得たφの計測値より差分値φ’を求め、この求めた差分値φ’を用いてリリースのタイミングを求める。
【0043】
φの計測値を
図8に、φの差分値φ’を
図9に示す。横軸は時間(s)であり、縦軸は角度(degree)である。なお、計測開始からt番目のφをφ
tとすると、差分値φ'
tは、φ'
t=φ
t+1−φ
t(t=1、2、3・・・)として求めるものとする。
【0044】
本実施の形態において、リリースのタイミングは次のようにして求める。リリース時には弦の激しい反動動作により、鋭いアーチファクトが計測される。このアーチファクトを用いてリリース動作を次の条件1を持って検出する。
・条件1:計測開始からt番目におけるφの差分値をφ'
tとすると、φ'
t-1≧−3、φ'
t≦−3、φ'
t+1≧−3、を満たすこと.
【0045】
この条件を満たす場合に「1」、満たさない場合に「0」とする。
図9中に差分値φ’と合わせて示した線Iは、この条件を満たしているか否かを示す線(検出結果を示す線)であり、この検出結果を示す線Iにおいて「0」から「1」へと値が変化しているところがリリース動作が発生しているところを示す。すなわち、上記の条件1を用いることによって、リリース動作を正確に検出できている。
【0046】
イベント検出部2−3では、このようにしてリリース動作が発生している点(リリースのタイミング)をイベントとして検出し、このリリースのタイミングと直前のR波の発生タイミングとの時間差(R波とリリースの発生時間差)Δtを求める。
図10に、心電位と合わせて
図9に示した検出結果を示す線線(条件1を満たしているか否かを示す線)Iを示す。矢印で示されている時間ΔtがR波とリリースの発生時間差であり、リリースのタイミングとリリースのタイミングより過去でかつ最も直近のR波の発生タイミングとの時間差として求められる。
【0047】
図11に、R波とリリースの発生時間差Δtを求めた例を示す。この例では、リリースのタイミングにおいて、R波とリリースの発生時間差ΔtがΔt=0.47秒として計算されている。仮に、RRIの30%の時間をR波とリリースの発生時間差Δtの基準とすると、心拍数80程度におけるRRIの30%は約0.23秒であり、
図11の例ではR波とリリースの発生時間差Δtがこれよりも大きいので、R波の発生がリリース動作に大きな影響を与えた可能性は低いと推察できる。
【0048】
以上の説明から分かるように、本実施の形態の運動支援装置100によれば、電圧センサ3(3−1)と加速度センサ4(4−1〜4−3)だけで、心拍変動(心電図・RRI)、姿勢の安定性、呼吸、R波とリリースの発生時間差などの競技者Mの特徴量を求めることが可能となり、センサの数を減らし、低コスト化を図ることができるようになる。また、持ち運びも容易となり、競技者Mの物理的、精神的負担を軽減させることも可能となる。また、取得された特徴量を1つの子端末2へ集約することで、競技者Mに良質な計測、記録、保持、確認の手段を提供することができ、競技能力を高める取り組みを支援することができる。
【0049】
〔実施の形態2〕
図12に本発明の実施の形態2に係る運動支援装置200の要部を示す。同図において、
図1と同一符号は
図1を参照して説明した構成要素と同一或いは同等構成要素を示し、その説明は省略する。
【0050】
この実施の形態2の運動支援装置200は、実施の形態1の運動支援装置100の変形例であり、行射の得点や、矢が的の中央から外れた方向(方位)の入力を受け付ける外部入力部2−5を子端末2が備えていることを特徴とする。
【0051】
この運動支援装置200では、
図13に示すように、的の中心から矢が外れた方向(方位)を時計の文字盤と同様に1から12までの数で表す。的中した場合は0を用いる。得点の入力例を
図14に、方位の入力例を
図15に示す。
図14、
図15におけるエンドとは、所定回数の行射を1セットとするアーチェリー競技を行う際の1つの単位である。ここでは1エンドが6回の行射で構成される個人戦を例にした。選手はエンドが終わるたびに的まで歩き、矢を的から回収し、次のエンドに移る。
【0052】
図14、
図15における1射から6射は、各エンドにおける行射の順序を指し、最初が1射であり最後が6射である。得点や方位は子端末2のタッチパネル等から手入力する。この場合、数値を打ち込んでもよいし、
図16に示すように、子端末2の画面に的の絵を表示し、実物の矢が刺さった位置と同じ画面上の位置をタップすることで入力するようにしてもよい。
【0053】
この実施の形態2の運動支援装置200では、運動者の特徴量のみならず、アーチェリーの能力の指標である得点や、矢のずれの方向を合わせてデータを一括保持することができる。これにより、利便性の向上が期待でき、競技能力を高める取り組みをさらに支援することができる。
【0054】
〔実施の形態3〕
図17に本発明の実施の形態3に係る運動支援装置300の要部を示す。同図において、
図12と同一符号は
図12を参照して説明した構成要素と同一或いは同等構成要素を示し、その説明は省略する。
【0055】
この実施の形態3の運動支援装置300は、実施の形態2の運動支援装置200の変形例であり、各特徴量や得点を用いて重回帰分析を行う解析部2−6を子端末2が備えていることを特徴とする。
【0056】
この運動支援装置300において、解析部2−6での重回帰分析には、次のような重回帰式((3)式)を用いる。
Y’=α+β
1X
1+β
2X
2+β
3X
3+…+β
nX
n …(3)
【0057】
この(3)式におけるY’は全行射の目的変数の推定値を格納するベクトルである。これは後の最小二乗法により自動的に決定される。X
1〜X
nは、説明変数を格納するベクトルであり、全行射の各特徴量を格納する。たとえば、全行射の弓の傾き(手の姿勢)を格納したものがX
1, RRIを格納したものがX
2、といったように用いる。定数項αおよび偏回帰係数β
1,β
2,β
3,…,β
nは最小二乗法により決定される。
【0058】
なお、全ての独立変数を用いる必要はないため、ステップワイズ法、変数増加法、変数減少法等により独立変数の選択を行い、選択された独立変数を重回帰式に導入する。
【0059】
最小二乗法では、目的変数Yと推定値Y’との差の二乗和が最小になるように定数項αおよび偏回帰係数β
1,β
2,β
3,…,β
nを決定する。ここでは目的変数Yは10点(満点)から実際の得点値を引いた値を全行射分格納したものとし、たとえば6回の行射の得点が8,7,8,3,10,7である場合なら2,3,2,7,0,3となる。
【0060】
次に、偏回帰係数β
1,β
2,β
3,…,β
nについて検定を行い、統計的に有意かどうかを判定する。検定統計量としては各種のものが知られているが、本実施の形態ではt分布を用いる検定統計量として知られているt値を用いる。X
1におけるt値をT
1とするとき、自由度をn−2とするt関数の両側検定により確率(p値)を求めることができる。p値は、偶然によってデータの差が生じる確率を意味し、p値が小さい場合には偶然を超えた意味のある差、すなわち“有意差”が存在するとみなす(非特許文献6参照)。
【0061】
本実施の形態において、このp値を用いることにより各特徴量と目的変数との間の有意性を評価することができる。仮に目的変数として満点から実際の得点を差し引いた値を使用し、これとX
1(弓の傾き)との間に有意差が得られた場合、両者の間に偶然を超えた関係があることを示唆する。これは弓の傾きがスコアを下げている可能性を示唆し、運動者の競技能力を律速している要因を突き止められる一手段となり得る。よって運動者は、弓の傾きを正すための練習の検討が推奨される。すなわち、このような律速している特徴量を割り出すことにより運動者を支援することができる。一方で有意な相関が得られなければ、有意水準5%では見つからないほどに各特徴量を運動者が高度に制御できている可能性があり、コンディションの目安として用いることができる。よって、結果に有意性があろうがなかろうが、運動者に有益な情報が提示でき、運動者を支援することができる。
【0062】
なお、重回帰分析により有効な解析を行うためには、統計的に十分なデータ数(行射数)が必要である。本実施の形態で例としている重回帰分析では、説明変数は5つ(RRI、呼吸波形、弓の傾き、姿勢、R波とリリースの発生時間差)である。非特許文献7を参考に、検定力を0.8、有意水準を0.05、効果量の目安を0.35とすると、必要サンプル数は43となる。アーチェリー競技のリカーブ部門、70mラウンドでは行射本数は36本であるので、練習として2セットを行い72射することで十分なデータ量が得られる。さらに条件を厳しく見積り、効果量の目安を0.15と設定した場合でも必要サンプル数は91であるので、もう1セット追加すれば十分なデータ量となる。よって、このような重回帰分析による評価は平時の練習において無理のない現実的な支援方法といえる。
【0063】
〔実施の形態4〕
図18に本発明の実施の形態4に係る運動支援装置400の要部を示す。同図において、
図17と同一符号は
図17を参照して説明した構成要素と同一或いは同等構成要素を示し、その説明は省略する。
【0064】
この実施の形態4の運動支援装置400は、実施の形態3の運動支援装置300の変形例であり、センサ端末1−1において競技者Mの生体電位として心電位を計測し、センサ端末1−2および1−3において競技者Mの生体電位として筋電位を計測することを特徴とする。センサ端末1−2および1−3は競技者Mの筋電位を計測するセンサとして電圧センサ3−2および3−3を備えている。
【0065】
この実施の形態4の運動支援装置400では、センサ端末1−1〜1〜3の仕様を統一することができ、実質的な量産コストをほとんど増やすことなく、製造・販売ができる。胸部に設置されたセンサ端末1−1以外のセンサ端末1−2,1−3では、電圧センサ3−2,3−3を用いて、心電位ではなく筋電位を計測することでより豊富な身体の特徴量を得ることができる。筋電位を計測するためのサンプリングレートは心電位の場合と同じく1000Hzとし、計測された値に対してカットオフ周波数150Hzのローパスフィルタを通してノイズを除去する。
【0066】
ただし、ローパスフィルタのカットオフ周波数は心電をとるか筋電をとるかで可変設定にしてもよい。例えば心電の場合であれば40Hz程度に設定することで150Hzよりもノイズ除去性能が向上する。得られた筋電に対してはノイズフロアレベルの電圧値よりも大きな電圧値に閾値を設定し、閾値の上回りをもって筋電の発生時刻を抽出してもよいし、筋電図のピーク値を抽出することで包絡線を得てもよい。これら筋電の発生時刻や包絡線の値を特徴量として扱い、重回帰分析などの解析を実施してもよい。
図18では、包絡線算出による筋電発生時刻検出部2−7を子端末2に設けている。
【0067】
このように、電圧センサ3−2,3−3を用いて筋電位を計測することで、アーチェリー競技中の身体特徴をさらに豊富に定量的に把握することができる。また、重回帰分析により、能力向上を支援することができる。
【0068】
なお、
図18には実施の形態3の運動支援装置300の変形例を示したが、実施の形態1,2の運動支援装置100,200においても、実施の形態4の運動支援装置400と同様、センサ端末1−2,1−3に競技者Mの筋電位を計測する電圧センサ3−2,3−3を設けるようにしてもよい。
【0069】
〔実施の形態5〕
図19に本発明の実施の形態5に係る運動支援装置500の要部を示す。同図において、
図18と同一符号は
図18を参照して説明した構成要素と同一或いは同等構成要素を示し、その説明は省略する。
【0070】
この実施の形態5の運動支援装置500は、実施の形態4の運動支援装置400の変形例であり、センサ端末1−1〜1−3において加速度センサ4−1〜4−3の代替としてジャイロセンサ5−1〜5−3を備えている。
【0071】
この実施の形態5の運動支援装置500では、ジャイロセンサ5−1〜5−3でセンサ端末1−1〜1−3の回転情報を得ることができるので、θやφを求めることができ、本発明の手法が利用可能である。よって加速度センサを具備しないセンサ端末であってもジャイロセンサを備えていれば、同様に競技者の動きを支援することができる。
【0072】
なお、
図19には実施の形態4の運動支援装置400の変形例を示したが、実施の形態1,2,3の運動支援装置100,200,300においても、実施の形態5の運動支援装置500と同様、ジャイロセンサ5−1〜5−3を設けるようにしてもよい。また、加速度センサ4−1〜4−3に加えて、ジャイロセンサ5−1〜5−3を設けるようにしてもよい。
【0073】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、各実施の形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。