(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6692020
(24)【登録日】2020年4月16日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】電池用電極材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/48 20100101AFI20200427BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20200427BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20200427BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/36 B
H01M12/08 K
H01M4/90 X
【請求項の数】21
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-507207(P2018-507207)
(86)(22)【出願日】2017年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2017009499
(87)【国際公開番号】WO2017163906
(87)【国際公開日】20170928
【審査請求日】2018年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-62182(P2016-62182)
(32)【優先日】2016年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】園山 範之
(72)【発明者】
【氏名】服部 達哉
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 賢信
【審査官】
鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−529618(JP,A)
【文献】
特表2009−518265(JP,A)
【文献】
特開2009−044009(JP,A)
【文献】
特開2013−149586(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/101128(WO,A1)
【文献】
HUO, Ruijie et al.,Nanoscale,2014年,6,203-206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
H01M 4/36
H01M 4/90
H01M 12/08
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池用電極材料であって、前記電極材料が、
カーボンと、
岩塩型構造のカチオン欠損金属酸化物で構成される、又は層状複水酸化物及び岩塩型構造のカチオン欠損金属酸化物で構成される、結晶性材料と、
を含み、前記カーボンが、前記カチオン欠損金属酸化物と、又は前記層状複水酸化物及び前記カチオン欠損金属酸化物と複合化されており、前記結晶性材料が直径5〜10nmの粒子状であり、前記結晶性材料の粒子が前記カーボンで取り囲まれている、電極材料。
【請求項2】
前記結晶性材料が、前記層状複水酸化物及び岩塩型構造のカチオン欠損金属酸化物で構成される、請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記結晶性材料が、前記カチオン欠損金属酸化物で構成される、請求項1に記載の電極材料。
【請求項4】
前記結晶性材料が前記カーボンにナノメートルオーダーで分散されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極材料。
【請求項5】
ラマン分光測定に付された場合に、前記カーボンに由来するピークの少なくとも一つが、グラファイトに相当するピークとして観察される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極材料。
【請求項6】
前記電池が、リチウムイオン二次電池、金属空気電池、アルカリ燃料電池及び亜鉛二次電池からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電極材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電極材料の製造方法であって、
有機物質を含む塩基性水溶液を用意する工程と、
前記塩基性水溶液に、前記層状複水酸化物及び/又は前記カチオン欠損金属酸化物を構成可能な2種以上の陽イオンの塩を添加して沈殿を生成させる工程と、
前記沈殿をオートクレーブ中での水熱処理に付して、前記有機物質が挿入された前記層状複水酸化物を形成させる工程と、
前記有機物質が挿入された層状複水酸化物を焼成して、カーボンと複合化された前記カチオン欠損金属酸化物を形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項8】
前記塩基性水溶液のpHが8〜14であり、前記沈殿の生成が前記pHを維持しながら行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記有機物質が有機酸である請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記有機酸がカルボン酸である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記有機物質が界面活性剤である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項12】
前記界面活性剤がイオン性界面活性剤である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記イオン性界面活性剤がアニオン界面活性剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記有機物質がカルボン酸又はアニオン界面活性剤である場合、前記カルボン酸又はアニオン界面活性剤が、炭素数1〜50の有機化合物である、請求項10又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記カルボン酸が、セバシン酸及びテレフタル酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項10又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記アニオン界面活性剤が、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項17】
前記焼成が300℃超600℃未満で行われる、請求項7〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記焼成が減圧雰囲気下で行われる、請求項7〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記カーボンと複合化されたカチオン欠損金属酸化物を水に接触させて層状複水酸化物を再生させ、それにより前記カーボンと複合化された層状複水酸化物を得る工程をさらに含む、請求項7〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記水に、CO2、水酸化物、塩化物、硝酸塩、有機酸、及び界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一種が溶解されている、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記水との接触が、20〜200℃で行われる、請求項19又は20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電極材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロタルサイトに代表される層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide)(以下、LDHともいう)は、
図1にその結晶構造が模式的に示されるように、水酸化物の層と層の間に交換可能な陰イオンを有する物質群であり、その特徴を活かして触媒や吸着剤、耐熱性向上のための高分子中の分散剤等として利用されている。特に、近年、電池用の電極材料としても注目され、様々な検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1(特許第5158150号公報)には、空気極触媒として層状複水酸化物を、導電性材料とともに含有する、金属空気電池用空気極が開示されている。また、非特許文献1(K.Tadanaga et al., J. Mater. Chem. A, 2013, 1, 6804-6809)には、層状複水酸化物が金属空気電池のイオン伝導相として機能することが開示されている。
【0004】
また、LDHを焼成することにより得られたカチオン欠損金属酸化物も知られている。このカチオン欠損金属酸化物は一般式MO
1+δ(式中、Mは1〜6価の金属元素を含み、δはカチオン欠損量である)で表され、
図2に模式的に示されるような、カチオン欠損を伴った岩塩型の結晶構造を有する。例えば、特許文献2(特開2013−149586号公報)には、LDHを焼成することにより得られた複合金属酸化物を、リチウム二次電池等の二次電池用の正極又は負極として利用可能であることが開示されている。特に、この文献で開示される複合金属酸化物は、従来から負極に使われてきた理論容量が小さい黒鉛等の炭素材料とは異なり、インターカレーション反応ではなく、コンバージョン反応を利用する二次電池の提供を可能とするものである。なお、コンバージョン反応とは金属酸化物が放電時に金属に還元され、リチウム酸化物(Li
2O)が生じる反応である。そして、コンバージョン反応を用いるコンバージョン型二次電池用の上記電極によれば、低コストで、高エネルギー密度を有し、さらには優れたサイクル特性を呈することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5158150号公報
【特許文献2】特開2013−149586号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Tadanaga et al., J. Mater. Chem. A, 2013, 1, 6804-6809
【発明の概要】
【0007】
LDHやカチオン欠損金属酸化物は電子伝導性が低い。しかしながら、これらの材料にカーボンを混合することで金属空気電池用正極やリチウムイオン電池用電極として機能させることが考えられる。しかしながら、LDHやカチオン欠損金属酸化物を単にカーボンと混合するだけでは分散性が不十分であり、十分な性能向上が図れない。そこで、カーボンとの単なる混合物ではない、カーボンが高分散された(例えばカーボンとナノレベルで高度に複合化された)LDHやカチオン欠損金属酸化物が望まれる。
【0008】
本発明者らは、今般、LDHの結晶構造中に有機分子を挿入し、焼成することで、リチウムイオン二次電池等の二次電池用電極に好ましく適用可能な、カーボン複合カチオン欠損金属酸化物が得られるとの知見を得た。また、カーボン複合カチオン欠損金属酸化物を加湿処理することで、空気二次電池用正極材料等に好ましく適用可能なカーボン複合LDHが得られるとの知見を得た。すなわち、本発明者らは、カーボンが高分散された、二次電池用電極材料として極めて有用な、カーボン複合カチオン欠損金属酸化物およびカーボン複合LDHを開発した。
【0009】
したがって、本発明の目的は、カーボンが高分散された、電池用電極材料として極めて有用な、カーボン複合カチオン欠損金属酸化物およびカーボン複合LDHを提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、電池用電極材料であって、前記電極材料が、
カーボンと、
層状複水酸化物及び/又は岩塩型構造のカチオン欠損金属酸化物で構成される、結晶性材料と、
を含み、前記カーボンが、前記層状複水酸化物及び/又は前記カチオン欠損金属酸化物と複合化されている、電極材料が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、上記電極材料の製造方法であって、
有機物質を含む塩基性水溶液を用意する工程と、
前記塩基性水溶液に、前記層状複水酸化物及び/又は前記カチオン欠損金属酸化物を構成する2種以上の陽イオンの塩を添加して沈殿を生成させる工程と、
前記沈殿をオートクレーブ中での水熱処理に付して、前記有機物質が挿入された前記層状複水酸化物を形成させる工程と、
前記有機物質が挿入された層状複水酸化物を焼成して、カーボンと複合化された前記カチオン欠損金属酸化物を形成する工程と、
を含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】層状複水酸化物(LDH)の結晶構造を示す模式図である。
【
図2】カチオン欠損金属酸化物の結晶構造を示す模式図である。
【
図3】例1において作製された各種有機分子挿入LDHのXRD測定データである。図中の*はLDHの層間アニオンの種類を示す。
【
図4】例1において測定された各種有機分子挿入LDHのTG−DTA測定データである。
【
図5】例2において有機分子挿入LDHを400℃で焼成して得たサンプルのラマン分光測定データである。図中の*はLDHの層間アニオンの種類を示す。
【
図6】例2においてセバシン酸挿入LDHを300〜700℃の各種温度で焼成して得たサンプルのXRD測定データである。
【
図7】例2においてテレフタル酸挿入LDHを400及び500℃で焼成して得たサンプルのXRD測定データである。
【
図8】例2においてセバシン酸挿入LDHを400℃で焼成して得たサンプルのTEM観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
電池用電極材料
本発明は、電池に用いられる電極材料に関する。本発明の電極材料が適用可能と考えられる電池の好ましい例としては、リチウムイオン二次電池、金属空気電池(例えば金属空気二次電池)、アルカリ燃料電池、及び亜鉛二次電池が挙げられる。亜鉛二次電池の例としては、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池が挙げられる。特に好ましい亜鉛二次電池はニッケル亜鉛二次電池及び亜鉛空気二次電池である。
【0014】
本発明の電極材料は、カーボンと、結晶性材料とを含む。結晶性材料は、層状複水酸化物及び/又は岩塩型構造のカチオン欠損金属酸化物で構成される。層状複水酸化物は、典型的には、一般式:M
a+1−xM
b+x(OH)
2A
n−(a−2+x(−a+b))/n・mH
2O(式中、M
a+はa価の陽イオンであり、M
3+はb価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオンであり、aは1〜6であり、bは1〜6であり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)の基本組成を有する。一方、カチオン欠損金属酸化物は、典型的には、岩塩型構造のMO
1+δ(式中、Mはa価の金属元素及びb価の金属元素を含み、aは1〜6であり、bは1〜6であり、δはカチオン欠損量である)の基本組成を有する。カチオン欠損金属酸化物は層状複水酸化物の焼成により得られるものである。そして、カーボンが、カチオン欠損金属酸化物及び/又は層状複水酸化物と複合化されている。すなわち、カーボンが高分散された(例えばカーボンとナノレベルで高度に複合化された)、電池用電極材料として極めて有用な、カーボン複合カチオン欠損金属酸化物及びカーボン複合LDHが提供される。カチオン欠損金属酸化物におけるカーボンの高度な分散は、LDHの結晶構造中に有機分子を挿入し、焼成することで得られたものであり、カーボンとの単なる混合では実現できないものである。こうして得られたカーボン複合カチオン欠損金属酸化物はリチウムイオン二次電池等の電池用電極に好ましく適用可能である。また、LDHにおけるカーボンの高度な分散は、カーボン複合カチオン欠損金属酸化物を加湿処理することで得られたものである。こうして得られたカーボン複合LDHは空気電池用正極材料等に好ましく適用可能である。
【0015】
上記のとおり、カーボンは、カチオン欠損金属酸化物及び/又は層状複水酸化物と複合化されている。特に、結晶性材料がカーボンにナノメートルオーダーで分散されているのが好ましい。例えば、結晶性材料が直径5〜10nmの粒子状であり、結晶性材料の粒子がカーボンで取り囲まれている構成が好ましい。カーボンの存在形態はラマン分光測定で確認することができる。好ましいカーボンの存在形態においては、結晶性材料がラマン分光測定に付された場合に、カーボンに由来するピークの少なくとも一つが、グラファイトに相当するピークとして観察されるのが典型的である。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、結晶性材料が層状複水酸化物で構成される。層状複水酸化物は空気極触媒活性や水酸化物イオン伝導性を有するが、カーボンと複合化されることで空気極触媒活性の向上が図れる。これは電子伝導体であるカーボンとイオン伝導性の層状複水酸化物とが混合されることで反応場面積が広がるためである。したがって、この態様による電極材料は、特に、金属空気電池、アルカリ燃料電池、及び亜鉛二次電池の正極ないし空気極に好ましく適用可能である。層状複水酸化物は、典型的には、一般式:M
a+1−xM
b+x(OH)
2A
n−(a−2+x(−a+b))/n・mH
2Oの基本組成を有する。上記一般式において、M
a+はa価の陽イオンであり、aは1〜6、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜4、さらに好ましくは2であり、特に好ましくはM
a+はNi
2+、Mn
2+及びFe
2+の少なくともいずれか一つを含み、最も好ましくはNi
2+を含む。M
b+はb価の陽イオンであり、bは1〜6であり、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜4、さらに好ましくは3であり、最も好ましくはM
b+はAl
3+を含む。M
a+とM
b+は互いに異なる陽イオンであるのはいうまでもなく、それ故、典型的にはaとbは互いに異なる価数である。A
n−はn価の陰イオンであり、好ましくはOH
−、CO
32−、有機酸由来のアニオン、及び界面活性剤由来のアニオンの少なくともいずれか一つを含み、より好ましくはCO
32−を含む。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。したがって、層状複水酸化物は、Ni
2+、Mn
2+及びFe
2+の少なくともいずれか一つと、Al
3+と、OH
−、CO
32−、有機酸由来のアニオン、及び界面活性剤由来のアニオンの少なくともいずれか一つとを含むのが好ましいといえる。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。M
a+は1種の陽イオンである必要はなく、互いに同じ又は異なる価数の2種以上の陽イオンであってもよい。例えば、名目上a=2の場合であっても、層状複水酸化物構造を維持できるかぎりにおいて、2価の陽イオンの一部を別の価数の陽イオンで置換してもよい。M
b+は1種の陽イオンである必要はなく、互いに同じ又は異なる価数の2種以上の陽イオンであってもよい。例えば、名目上b=3の場合であっても、層状複水酸化物構造を維持できるかぎりにおいて、3価の陽イオンの一部を別の価数の陽イオンで置換してもよい。A
n−は1種のアニオンである必要はなく、互いに同じ又は異なる価数の2種以上のアニオンであってもよい。
【0017】
本発明の別の好ましい態様によれば、結晶性材料がカチオン欠損金属酸化物で構成される。カチオン欠損金属酸化物は、典型的には、岩塩型構造のMO
1+δの基本組成を有する。カチオン欠損金属酸化物はリチウムイオン二次電池の電極活物質(正極活物質や負極活物質)としての機能を呈することができるが、カーボンと複合化されることで電子伝導性の向上、及びそれによる電池サイクル特性の向上が図れる。これは高分散されたカーボンがカチオン欠損金属酸化物粒子同士の電気的接続を確保し、これにより電池反応が進行する活物質面積が増大するためである。したがって、この態様による電極材料は、リチウムイオン二次電池の正極又は負極に好ましく適用可能である。上記一般式において、Mはa価の金属元素及びb価の金属元素を含み、aは1〜6、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜4、さらに好ましくは2であり、bは1〜6、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜4、さらに好ましくは3であり、好ましくはMがNi、Mn及びFeからなる群から選択される少なくとも一種と、Alとを含み、より好ましくはNiとAlを含む。したがって、カチオン欠損金属酸化物が、Ni、Mn及びFeからなる群から選択される少なくとも一種と、Alとを含むのが好ましいといえる。a価の金属元素とb価の金属元素は互いに異なる金属元素であるのはいうまでもなく、それ故、典型的にはaとbは互いに異なる価数である。δはカチオン欠損量である。このカチオン欠損量δは定量が難しいパラメータであるため、MO
1+δなる一般式はMOと略記されてもよい。a価の金属元素は1種の金属元素である必要はなく、互いに同じ又は異なる価数の2種以上の金属元素であってもよい。例えば、名目上a=2の場合であっても、岩塩型構造を維持できるかぎりにおいて、2価の金属元素の一部を別の価数の金属元素で置換してもよい。b価の金属元素は1種の金属元素である必要はなく、互いに同じ又は異なる価数の2種以上の金属元素であってもよい。例えば、名目上b=3の場合であっても、岩塩型構造を維持できるかぎりにおいて、3価の金属元素の一部を別の価数の金属元素で置換してもよい。
【0018】
電極材料の製造方法
本発明の電極材料の製造方法は、水溶液の準備工程と、沈殿生成工程と、水熱処理工程と、焼成工程と、必要に応じて行われる再生工程とを含む。以下、各工程について具体的に説明する。
【0019】
(1)水溶液の準備工程
まず、有機物質を含む塩基性水溶液を用意する。有機物質の量は、後に滴下する金属カチオンの総モル量と同量となるようにするのが好ましい。塩基性水溶液のpHは8〜14が好ましく、より好ましくは9〜13である。塩基性水溶液の例としては、水酸化ナトリウム水溶液が挙げられる。有機物質を含む塩基性水溶液の調製は、導入しようとする有機物質を蒸留水に加えて、塩基性水溶液を用いて溶解させ、上記範囲内のpHになるように調整することにより、好ましく行うことができる。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、有機物質は有機酸である。有機酸の好ましい例としては、カルボン酸、スルホン酸、及びそれらの組合せが挙げられる。特に好ましい有機酸はカルボン酸である。カルボン酸は、炭素数1〜50の有機化合物であるのが好ましく、より好ましくは炭素数1〜40、さらに好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20である。また、カルボン酸は、5Å〜50Åの分子サイズを有するのが好ましく、より好ましくは5Å〜40Åの分子サイズを有する。特に好ましいカルボン酸は、セバシン酸(分子サイズ:14.8Å)、テレフタル酸(分子サイズ:10.1Å)、又はそれらの組合せである。
【0021】
本発明の別の好ましい態様によれば、有機物質は界面活性剤である。界面活性剤は、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれであってもよいが、好ましくはイオン性界面活性剤である。イオン性界面活性剤の例としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、及びそれらの組合せが挙げられ、好ましくはアニオン界面活性剤である。アニオン界面活性剤は、炭素数1〜50の有機化合物であるのが好ましく、より好ましくは炭素数1〜40、さらに好ましく炭素数1〜30である。また、アニオン界面活性剤は、5Å〜50Åの分子サイズを有するのが好ましく、より好ましくは5Å〜40Åの分子サイズを有する。特に好ましいアニオン界面活性剤はドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(分子サイズ:29.8Å以上)である。
【0022】
(2)沈殿生成工程
塩基性水溶液に、層状複水酸化物及び/又はカチオン欠損金属酸化物を構成可能な2種以上の陽イオンの塩(すなわちa価の陽イオンの塩及びb価の陽イオンの塩)を添加して沈殿を生成させる。a価の陽イオンの塩及びb価の陽イオンの塩は前述したLDHの形成に寄与する陽イオンを供給可能な塩であればよく、好ましくは、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、又はそれらの水和物等の形態であることができる。a価の陽イオン(M
a+)の好ましい例としては、Ni
2+、Mn
2+、Fe
2+、及びそれらの組合せが挙げられる。b価の陽イオン(M
b+)の好ましい例としてはAl
3+が挙げられる。a価の陽イオン(M
a+)のb価の陽イオン(M
b+)に対するモル比(M
a+/M
b+)は前述した層状複水酸化物の一般式を満たすような比とすればよく特に限定されない。
【0023】
沈殿の生成は塩基性水溶液のpHを維持しながら行われるのが好ましい。塩基性水溶液pHの維持は、a価の陽イオンの塩及びb価の陽イオンの塩の混合水溶液を徐々に添加すると同時に、水酸化ナトリウム水溶液等の強アルカリ水溶液を添加することにより好ましく行うことができる。
【0024】
(3)水熱処理工程
沈殿をオートクレーブ中での水熱処理に付して、有機物質が挿入された層状複水酸化物を形成させる。水熱処理温度は好ましくは40〜200℃である。また、水熱処理時間は好ましくは1〜24時間である。こうして得られた水熱処理生成物を濾過及び洗浄し、乾燥させるのが好ましい。この乾燥は高温(例えば40〜150℃)で乾燥させることにより行うのが好ましい。こうして有機物質が挿入された層状複水酸化物が得られる。
【0025】
(4)焼成工程
有機物質が挿入された層状複水酸化物を焼成して、カーボンと複合化されたカチオン欠損金属酸化物を形成する。焼成温度は挿入された有機物質の種類に応じて適宜決定すればよく特に限定されないが、好ましくは300℃超600℃未満であり、より好ましくは350℃以上550℃以下、さらに好ましくは400℃以上500℃以下である。焼成は減圧雰囲気下で行われるのが好ましい。また、雰囲気はAr等の不活性雰囲気が好ましい。焼成時間は1時間以上が好ましく、より好ましくは5〜24時間である。
【0026】
(5)再生工程
カーボンと複合化されたカチオン欠損金属酸化物を水に接触させて層状複水酸化物を再生させ、それによりカーボンと複合化された層状複水酸化物を得る。このとき、水に、CO
2、水酸化物、塩化物、硝酸塩、有機酸、及び界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一種が溶解されているのが好ましい。水酸化物の例としては、水酸化ナトリウムが挙げられる。塩化物の例としては、塩化ナトリウムが挙げられる。硝酸塩の例としては、硝酸ナトリウムが挙げられる。有機酸及び界面活性剤の例としては前述したとおりのものが挙げられる。このような物質が水に溶解されていることで、再生されるLDHの層間アニオン源となるため、LDHの再生がしやすくなる。また、水との接触は、0〜200℃で行われるのが好ましく、より好ましくは5〜150℃、さらに好ましくは10〜100℃である。
【実施例】
【0027】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0028】
例1:有機分子挿入LDHの合成
テレフタル酸(分子サイズ:10.1Å)、セバシン酸(分子サイズ:14.8Å)、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(分子サイズ:29.8Å以上)を有機物質として用意した。これら有機物質由来のアニオン(有機アニオン)の各々についてLDH層間への導入を試みた。まず、滴下する金属カチオンの総モル量と同量となるように、導入しようとする有機物質を蒸留水に加えて、1Mの水酸化ナトリウム水溶液を用いて溶解させ、pH11付近になるまで溶液を調整した。その後、Ni(NO
3)
2・6H
2O(キシダ化学株式会社製、特級)とAl(NO
3)
3・9H
2O(キシダ化学株式会社製、特級)を含む混合水溶液(モル比率:Ni/Al=2)を攪拌しながら徐々に滴下した。このときpH11の状態を維持するために、1Mの水酸化ナトリウム水溶液を同時に滴下した。沈殿生成後、得られた沈殿物をオートクレーブ中に密閉して170℃で18時間水熱処理を行った。得られた水熱処理生成物を濾過及び洗浄し、120℃で一晩真空乾燥させた。こうして有機分子挿入LDHを得た。
【0029】
また、参考のため、上記有機物質を添加せず、その代わりに炭酸ナトリウムを添加したこと以外は上記と同様にして、層間アニオンが炭酸であり、かつ、有機分子を挿入しないLDHを作製した。
【0030】
有機分子挿入LDHが実際に合成できたことを確認すべく、XRD測定とTG−DTA測定とを行った。
図3に各LDHのXRD測定データを示す。なお、
図3中の*はLDHの層間アニオンの種類を示す。
図3において、層間アニオンが炭酸(CO
32−)の場合には12°と24°付近にLDH由来のピークが検出された。これにより炭酸アニオン挿入LDHが合成できたことが確認された。
図3に示されるとおり、炭酸の代わりにテレフタル酸、セバシン酸又はドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを混合して合成されたサンプルも、(003)面及び(006)面由来のピークが確認され、LDHの結晶構造を有していることが示唆された。また、これらのサンプルについては、(003)面及び(006)面由来のピークが炭酸アニオン挿入LDHの場合に比べて低角側にシフトしていることから、LDHの層間幅が有機分子の挿入により拡大したことが示唆された。
図4にセバシン酸を挿入したLDHサンプルと、有機物質を挿入していないLDHサンプル(層間アニオンが炭酸であるもの)のTG−DTA測定のDTA曲線を示す。
図4に示されるように、セバシン酸を混合して合成されたサンプルでは300℃付近に発熱ピークが見られた。これは有機物質(ここではセバシン酸)の燃焼による発熱ピークと見られ、このことからセバシン酸を混合して合成されたサンプルは、セバシン酸がLDH内に取り込まれたことが示唆される。これらの結果から、有機分子が層間に挿入された、有機分子挿入LDHが得られたことが確認された。
【0031】
例2:カーボン複合カチオン欠損金属酸化物の合成
例1において得られた層間に有機分子を挿入したLDHを300〜700℃の範囲内の様々な温度でAr雰囲気中、減圧下にて18時間焼成した。この焼成は、セバシン酸を挿入したLDHについては300℃、350℃、400℃、500℃、600℃及び700℃の各温度で、テレフタル酸を挿入したLDHについては400℃及び500℃の各温度で行った。
【0032】
こうして有機分子挿入LDHを焼成して得られたものに対してラマン分光測定及びXRD測定を行った。その結果、
図5〜7に示される測定データが得られた。
図5〜7に示される結果のうち幾つかは、有機分子挿入LDHを焼成して得られたものが、カーボンと金属酸化物の複合体となることを示すものであった。すなわち、
図5に示されるように、セバシン酸を導入したLDHを400℃で焼成して得られたサンプルをラマン分光測定すると、1600cm
−1付近及び1400cm
−1付近にそれぞれGバンドとDバンドと呼ばれるピークが出現した。これらはグラファイト様のカーボン及びダイヤモンド様のカーボンの存在を示すピークであり、これにより焼成サンプルがカーボンを含むことが示唆された。また、
図6及び7に示されるXRD測定から、セバシン酸又はテレフタル酸を挿入したLDHを焼成すると、NiO構造を有する金属酸化物を生成しうることがわかる。よって、有機分子挿入LDHを焼成することにより、カーボン(ラマン分光測定によって確認)と金属酸化物(XRD測定によって確認)が複合したカーボン複合金属酸化物を生成できることが示唆された。また、得られたカーボン複合金属酸化物は、XRDにより、NiOと同じ岩塩型のパターンが得られ、不純物の反射は見られなかった。このことから、この金属酸化物は
図2に示されるような岩塩型のM(II)O(ここではNiO)中に3価のAlが固溶し、電荷補償のためカチオン欠損を有する構造を取るものと解される。すなわち、カーボン複合カチオン欠損金属酸化物が得られたことが示唆された。
【0033】
図8にセバシン酸挿入LDHを400℃で焼成して得たサンプル(すなわちカーボン複合カチオン欠損金属酸化物)のTEM観察結果を示す。TEM像では結晶性の物質に起因した格子模様が確認された(
図8の右側画像の丸で囲まれた部分)。その他の部位は格子模様が観察されず、非晶質のカーボン部位であるものと推定された。また、金属酸化物は直径5〜10nmの粒子状であることから、直径5〜10nmという微小な金属酸化物ナノ粒子が凝集することなくカーボンと混ざっており、両者が高分散していることが分かる。すなわち、結晶性材料がカーボンにナノメートルオーダーで分散されていることが分かる。より具体的には、結晶性材料が直径5〜10nmの粒子状であり、結晶性材料の粒子がカーボンで取り囲まれているということができる。
【0034】
例3:カーボン複合LDHの生成
例2で得られたカーボン複合カチオン欠損金属酸化物を、大気中でオートクレーブの中にイオン交換水と共に封入し、100℃で5時間水熱処理を施して、カーボン複合LDHを得る。こうして得られた試料を25℃、相対湿度が80%程度の室内で自然脱水(乾燥)して目的とするカーボン複合LDHを得る。