【文献】
長田 義仁 他,疎水性フィルムに対する水溶性ビニルモノマーのプラズマ開始グラフト重合と金属イオン吸着膜への応用,日本化学会誌,1983年,No.6,P.831-837
【文献】
YINGHAI LIU 他,Grafting of 4-Vinyl Pyridine onto Nylon-6 Initiated by Cu(III),Journal of Macromolecular Science Part.A,2007年,Vol.44,P.1127-1132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記モノマーが、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−アリルピリジン、2−アリルピリジン、3−アリルピリジン、1,2−ジ(4−ピリジル)エチレン、4−スチリルピリジン、4−(1−ナフチルビニル)ピリジンから選ばれる1種以上を含む、請求項1に記載の六価クロム吸着材。
前記高分子基材が、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン及びポリウレタンからなる群から選択される1以上である請求項4又は請求項5に記載の六価クロム吸着材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、メッキ工場の廃水、セメントを使用する現場の廃水、鉱山廃水等に含まれ得る六価クロムによる環境負荷を軽減させるため、廃水中の六価クロムの除去方法が開発されてきた。
【0003】
最も知られた六価クロムの除去方法として、例えば、六価クロムを還元剤処理により環境負荷の極めて小さい三価クロムへ還元する方法が挙げられる。しかしながら、還元剤処理には専用の設備が必要である上、その工程は複雑である。また、鉱山廃水等自然に流れ出る廃水に対し、このような還元剤処理を適用することは困難である。さらに、この還元工程において生ずるスラッジの処理も容易ではない。
【0004】
特許文献1には、六価クロムを含有する廃水をpH1〜6に調整した後、酸化還元電位(ORP)が+100〜−100mVの範囲に維持されるように第1鉄塩水溶液を添加するとともに、pHの値を、前述のとおり調整したpHの値に対し±0.5の範囲に維持されるように還元処理する、六価クロムの除去方法が開示されている。しかしながら、引用文献1の方法は、大規模な設備と精度の高いpH制御を要するという問題がある。
【0005】
一方で、六価クロムを還元するための設備を有しない現場においても、廃水から効率良く六価クロムを除去するために、三価クロムへの還元処理を要さず、六価クロムを短時間で吸着することができる六価クロム吸着材が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、アカマツやアカシアの樹皮、樹葉等の天然物を用いた六価クロム回収材や、セルロース等の多糖を基材に用い放射線グラフト重合により金属を吸着する官能基を導入した吸着材が報告されている。しかしながら、これらの吸着材は、基材に糖を使用しており、生分解性を有するため、屋外で長期間使用するには耐久性に問題がある。
【0007】
また、特許文献3には、基材に無機材料を用いた六価クロム吸着材の報告もされているが、基材と吸着基との化学的な結合が無いため、耐久性に問題がある。
【0008】
ところで、吸着材の経済性及び耐久性を高める観点からは、経済性及び耐久性を併せ持つポリオレフィン等の汎用樹脂を基材として使用することが望ましい。しかしながら、汎用樹脂を基材として効率よく六価クロムを回収することができる六価クロム吸着材はこれまで提案されていない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明するが、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
≪1.六価クロム回収用樹脂≫
本実施の形態に係る六価クロム回収用樹脂は、例えば六価クロムを含有する廃液中から六価クロムを効率的に回収することができる樹脂である。具体的に、この六価クロム回収用樹脂は、原料とする高分子基材の主鎖と、ピリジン環を有するモノマーの重合体のグラフト鎖とを含む。
【0021】
[主鎖]
本実施の形態に係る六価クロム回収用樹脂においては、高分子基材により主鎖が構成されている。
【0022】
主鎖となる高分子基材としては、特に限定されるものではなく、様々な有機系高分子材料を使用することができる。具体的には、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリウレタン等の汎用樹脂により構成することができる。特に、安価で環境負荷の小さい六価クロム回収用樹脂を得ることができる点で、ポリエチレンであることが好ましい。
【0023】
高分子基材に用いるポリエチレンとしては、ポリエチレン構造を主骨格とするものであれば特に限定されないが、後述のグラフト率を高くできる点で、低結晶性である低密度ポリエチレンであることが好ましい。ここで、低密度ポリエチレンとは、旧JIS K6748:1995によるものであり、密度が0.910g/cm
3以上、0.930g/cm
3未満のポリエチレンをいう。また、高分子基材に用いるポリエチレンとしては、ポリエチレンのみからなるものや、吸着性能に悪影響を与えない限りにおいて他の成分を含むものを用いることができる。
【0024】
また、ポリエチレン基材の形状は、特に限定されないが、六価クロム回収用樹脂としてのハンドリング性を向上させ、かつ表面積の増大によって六価クロム回収率を高めるために、織布、不織布、組み紐等の繊維状であることが好ましい。
【0025】
[グラフト鎖]
本実施の形態に係る六価クロム回収用樹脂においては、上述した主鎖である高分子基材に対して、ピリジン環を有するモノマーの重合体によりグラフト鎖が構成されている。
【0026】
(グラフト鎖骨格)
具体的に、グラフト鎖の骨格としては、例えば、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−アリルピリジン、2−アリルピリジン、3−アリルピリジン、1,2−ジ(4−ピリジル)エチレン、4−スチリルピリジン、4−(1−ナフチルビニル)ピリジン等から選択される1以上のモノマーの重合体により構成することができる。この中でも、高分子基材に対するグラフト重合反応の反応性やグラフト鎖の立体構造によるクロム吸着能の観点から、4−ビニルピリジンの重合体により構成することが好ましい。
【0027】
このように、ピリジン環を有するグラフト鎖を導入した六価クロム回収用樹脂を用いることで、効率よくクロムを吸着させることができる。なお、「ピリジン環」とは、ピリジンの他、ピリジン環に各種の官能基が導入されたピリジン誘導体等をも含む概念をいう。
【0028】
(アニオン交換基)
本実施の形態に係る六価クロム回収用樹脂においては、上述したグラフト鎖を構成するピリジン環は、酸処理によりピリジニウム環に変換されてアニオン交換基となり、アニオン交換に供される。
【0029】
ピリジニウム環としては、特に限定されず、例えば、ピリジニウム塩酸塩等の各種の酸の塩が挙げられる。
【0030】
このように、本実施の形態に係る六価クロム回収用樹脂は、高分子基材の主鎖と、ピリジン環を有するモノマーの重合体のグラフト鎖とを含み、グラフト鎖のピリジン環がピリジニウム環となってアニオン交換基を構成する。この六価クロム回収用樹脂を用いて、例えば六価クロムを含有する廃水に対する六価クロム除去処理を行うことによって、廃水中の六価クロムがアニオン交換基に吸着する。本実施の形態に係る六価クロム回収用樹脂によれば、上述したような構成からなっていることにより、高い回収率でクロムを回収することができる。
【0031】
上述したような構成を有する六価クロム回収用樹脂は、ピリジン環を有するモノマーを高分子基材に直接グラフト重合させることによって製造することができる。詳細は後述するが、グラフト重合に際しては、モノマー溶液中へ基材を浸漬し電離性放射線を照射する、同時照射法を用いることが好ましい。
【0032】
六価クロム回収用樹脂におけるグラフト鎖の割合としては、特に限定されないが、下記式(1)によって算出されるグラフト率の下限値が、10%以上であることが好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。六価クロム回収用樹脂のグラフト率を10%以上にすることで、六価クロムの吸着量を高めることができる。一方で、グラフト率の上限値は、100%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。なお、六価クロム回収用樹脂のグラフト率が100%を超えると、六価クロム吸着能の向上は少なく、むしろ樹脂の強度が低下するおそれがある。
【0033】
グラフト率(%)=((W
g−W
0)/W
0)×100 ・・・ (1)
ここで、W
gは基材に対してモノマーをグラフト重合したグラフト重合基材の質量であり、W
0は原料として用いた(グラフト重合前の)高分子基材の質量である。
【0034】
六価クロム回収用樹脂においては、上述のように高分子基材に対してピリジン環を有するモノマーをグラフト重合させて得られた、いわゆるクロム回収用樹脂前駆体(「グラフト重合基材」ともいう)に対して、希塩酸等で酸処理を施すことによってピリジニウム塩により構成されるアニオン交換基が導入される。
【0035】
≪2.六価クロム回収用樹脂の製造方法≫
本実施の形態に係るクロム回収用樹脂は、電離性放射線を照射によって、ピリジン環を有するモノマーを高分子基材に対しグラフト重合することによって製造することができる。
【0036】
図1は、六価クロム回収用樹脂の製造過程の概要を模式的に示した図である。なお、
図1に示す例において、原料の高分子基材としては低密度ポリエチレン(LDPE)を、ピリジン環を有するモノマーとしては4−ビニルピリジンと、酸処理用の酸として希塩酸を用いる場合を示しているが、これに限定されるものではない。
【0037】
本実施の形態に係る六価クロム回収用樹脂の製造方法は、モノマーの溶液に高分子基材を浸漬させる浸漬工程(I)と、モノマー溶液に浸漬させた高分子基材に電離性放射線を照射することでモノマーをグラフト重合させて前駆体樹脂を得るグラフト重合工程(II)と、前駆体樹脂を酸処理する酸処理工程(III)と、を含む。
【0038】
[浸漬工程(I)]
浸漬工程(I)は、ピリジン環を有するモノマーの溶液に高分子基材を浸漬させる工程である。このように、モノマー溶液に高分子基材を浸漬させて、その基材表面にモノマー分子を接触させておくことで、続くグラフト重合工程(II)におけるグラフト重合反応を速やかに進行させることができる。
【0039】
また、必須の態様ではないが、ピリジン環を有するモノマーの溶液に不活性ガスを吹き込み、溶存酸素を除去しておくことが好ましい。これにより、続くグラフト重合工程(II)においてモノマー溶液中の溶存酸素による重合停止反応を抑制し、グラフト率を向上させることができる。
【0040】
また、浸漬工程(I)においては、特に限定されないが、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。これにより、続くグラフト重合工程(II)での重合反応時におけるモノマー溶液中の溶存酸素量を低減させることができ、その溶存酸素による重合停止反応を抑制してグラフト率を向上させることができる。
【0041】
原料の高分子基材としては、特に限定されず、上述したように、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリウレタン等の汎用樹脂を用いることができ、特に、低密度ポリエチレンを用いことが好ましい。
【0042】
また、高分子基材としては、六価クロム回収用樹脂としてのハンドリング性を向上させ、かつ表面積の増大によってクロム回収率を高める観点から、織布、不織布、組み紐等の繊維状であることが好ましい。
【0043】
ピリジン環を有するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−アリルピリジン、2−アリルピリジン、3−アリルピリジン、1,2−ジ(4−ピリジル)エチレン、4−スチリルピリジン、4−(1−ナフチルビニル)ピリジン等から選択される1以上のモノマーを用いることができる。この中でも、グラフト重合反応の反応性やグラフト鎖の立体構造による六価クロム吸着能の観点から、4−ビニルピリジンの重合体を用いるのが好ましい。
【0044】
なお、モノマーには、保存や流通時における自発的重合を防止するために、重合禁止剤が含まれることがある。一般的な重合方法においては、このような重合禁止剤によって意図した重合が停止してしまうおそれがあり、そのため、重合禁止剤の除去工程が必須となる。一方で、本実施の形態に係るクロム回収用樹脂の製造方法では、後述のグラフト重合工程(II)において電離性放射線を照射してグラフト重合させるようにしているため、重合禁止剤の存在下でも重合反応が進行する。そのため、重合禁止剤の除去工程は必ずしも要しない。
【0045】
ピリジン環を有するモノマーの溶液の溶媒としては、そのモノマーが十分に溶解するものであれば特に限定されず、例えば、水、アルコール、アセトン、酢酸エチル等の一般的な溶媒や、上述の溶媒の2種以上の混合溶媒を用いることができる。その中でも、水による引火点の上昇及びアルコールによる非水系のモノマーに対する高い溶解性の両方が得られるという点や経済性の観点から、水とアルコールとの混合溶媒を用いることが好ましい。なお、アルコールとしては、特に限定されないが、非水系のモノマーの溶解性の観点から、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールを用いることが好ましい。
【0046】
[グラフト重合工程(II)]
グラフト重合工程(II)は、ピリジン環を有するモノマー溶液に浸漬した高分子基材に電離性放射線を照射し、そのモノマーを高分子基材にグラフト重合させ、前駆体樹脂であるグラフト重合基材を得る工程である。
【0047】
グラフト重合工程(II)における電離性放射線の照射は、ピリジン環を有するモノマー溶液に高分子基材を浸漬した後に行う(以下、「同時照射」という)。具体的には、所定の容器内でピリジン環を有するモノマー溶液に高分子基材を浸漬し、その後、その容器ごとガンマ線を照射することによりグラフト重合させる。
【0048】
ここで、モノマーを高分子基材にグラフト重合させる場合、同時照射ではなく、モノマー溶液に高分子基材を浸漬する前に電離性放射線の照射を施しておき、予め原料の高分子基材にラジカル活性点を発生させる手法(以下、「前照射」という)を用いて行うことが一般的である。これは、モノマーの溶液に浸漬した高分子基材に電離性放射線を照射する、いわゆる同時照射を施すと、その溶液中のモノマー間での重合のみが進行してホモポリマーを生成させ、原料とした高分子基材へのグラフト化は殆ど進行しないためである。
【0049】
本発明者は、ピリジン環を有するモノマーを用いることで、同時照射によって原料とする高分子基材へのグラフト化が効果的に進行することを見出した。このような同時照射によれば、例えば、モノマー溶液への高分子基材の浸漬及び電離性放射線の照射を同一の装置内で行うことができるという利点を有し、簡易な方法により製造することができる。
【0050】
グラフト重合工程(II)においては、特に限定されないが、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気にて行うことが好ましい。これにより、モノマー溶液中の溶存酸素による重合停止反応を抑制し、グラフト率を向上させることができる。
【0051】
照射する電離性放射線の線量としては、特に限定されないが、1kGy以上とすることが好ましく、5kGy以上とすることがより好ましく、10kGy以上とすることがさらに好ましい。このような線量の電離性放射線を高分子基材に照射することで、グラフト重合の開始点となるラジカル活性点を十分に生成させることができる。一方で、高分子基材に照射する電離性放射線の線量の上限値としては、200kGy以下とすることが好ましく、100kGy以下とすることがより好ましく、40kGy以下とすることがさらに好ましい。高分子基材に照射する電離性放射線の線量が100kGyを超えると、高分子基材を構成する分子が切断され、損傷が生じる可能性が高まる。
【0052】
また、高分子基材に照射する電離性放射線としては、特に限定されず、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線、電子線、紫外線等を用いることができる。その中でも、工業的に適用が容易である点でガンマ線又は電子線を用いることが好ましく、物質への透過性が高い点でガンマ線を用いることが特に好ましい。
【0053】
グラフト重合工程(II)におけるグラフト重合では、特に限定されないが、上記式(1)によって算出される六価クロム回収用樹脂のグラフト率が、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上となるように反応させる。六価クロム回収用樹脂のグラフト率を10%以上にすることで、六価クロムの吸着量を高めることができる。一方で、グラフト率の上限値としては、好ましくは100%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下となるように反応させる。六価クロム回収用樹脂のグラフト率が100%を超えると、六価クロムの吸着能の向上効果は少なく、むしろ樹脂の強度が低下するおそれがある。
【0054】
ここで、グラフト重合工程(II)において、例えば、ピリジン環を有するモノマーの添加量、低級アルコールの添加量、純水の添加量等の条件を調整することによって、グラフト率を制御することができる。上述したような範囲のグラフト率を達成するためには、基材1.0gに対しピリジン環を有するモノマーの添加量を0.1〜1.0gとすることが好ましい。また、添加する低級アルコールはモノマーの当量〜5倍量、純水は当量〜10倍量とすることが好ましい。
【0055】
[酸処理工程(III)]
酸処理工程(III)は、原料の高分子基材にピリジン環を有するモノマーをグラフト重合させて得られたグラフト重合基材に対して酸処理を施すことで、そのグラフト重合基材にアニオン交換能を付与する工程である。
【0056】
酸処理に用いる酸としては、酸性溶液であれば特に限定されるものではなく、例えば、希塩酸等を用いることができる。また、酸処理の方法としては、高分子基材を酸性溶液に接触させることができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、浸漬法を用いることができる。
【0057】
このように、グラフト重合基材に対して例えば希塩酸等の酸を用いて酸処理を施すことで、
図1に示すように、高分子基材にグラフト重合したモノマーのピリジン環がピリジニウム環となり、このピリジニウム環がアニオン交換能を有するようになる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
≪試料の調製≫
以下の操作に従い、実施例1〜6及び比較例1〜3の六価クロム回収用樹脂をそれぞれ調製した。
【0060】
(実施例1)
原料の高分子基材として、芯部がポリプロピレン、鞘部が低密度ポリエチレン(LDPE)からなる芯鞘構造のポリオレフィン不織布(シンワ株式会社製,スパンボンド不織布6550A−1A(目付量50g/m
2))を、0.50gガラススクリュー管に量り取った。なお、原料の高分子基材としては、電離性放射線を照射していないものを用いた。
【0061】
次いで、このガラススクリュー管に、4−ビニルピリジン0.5mlとメタノール2mlと純水3mlとからなる溶液(モノマー溶液)を入れ、そのモノマー溶液に原料の高分子基材を浸漬させた。なお、容器内は窒素ガスで置換して酸素を除去した後密閉した。
【0062】
その後、Co
60を線源に持つガンマ線照射装置により、容器ごとガンマ線を20kGyの線量で照射した。
【0063】
ガンマ線照射後に得られた試料を取り出し、エタノールで洗浄して試料に付着した未反応のモノマーやホモポリマーを除去した。その後、60℃で一晩減圧乾燥させることで、4−ビニルピリジンによってグラフト化したグラフト重合基材を得た。
【0064】
次に、得られたグラフト重合基材を0.1N塩酸溶液に1時間浸漬して酸処理を施し、六価クロム回収用樹脂試料を得た。
【0065】
(実施例2)
4−ビニルピリジンの添加量を0.25mlにしたこと以外は、実施例1と同様の方法により、六価クロム回収用樹脂試料を得た。
【0066】
(実施例3)
4−ビニルピリジンの添加量を1.0mlにしたこと以外は、実施例1と同様の方法により、六価クロム回収用樹脂試料を得た。
【0067】
(実施例4)
4−ビニルピリジンに、重合禁止剤としてtert−ブチルカテコールを0.3wt%添加したこと以外は、実施例1と同様の方法により、六価クロム回収用樹脂試料を得た。
【0068】
(実施例5)
原料の高分子基材として、低密度ポリエチレンのフィルム試料(宇部丸善ポリエチレン株式会社製,F022NH(厚さ25μm))を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法により、六価クロム回収用樹脂試料を得た。
【0069】
(実施例6)
原料の高分子基材として、ナイロン6繊維(東レ株式会社製,繊維径117μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法により、六価クロム回収用樹脂試料を得た。
【0070】
(比較例1)
ガンマ線照射を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により、六価クロム回収用樹脂試料を得た。
【0071】
(比較例2)
原料の高分子基材として、芯部がポリプロピレン、鞘部が低密度ポリエチレン(LDPE)からなる芯鞘構造のポリオレフィン不織布(シンワ株式会社製,スパンボンド不織布6550A−1A(目付量50g/m
2))0.50gを、ガラススクリュー管に量り取った。次いで、このガラススクリュー管を、真空封止した後、電子線を20kGyの線量で照射した。
【0072】
ラジカル活性化された高分子基材を、窒素ガスで置換された4−ビニルピリジン3wt%水溶液中に浸漬させ、50℃で2時間反応させた。その後、60℃で一晩減圧乾燥させることで、4−ビニルピリジンによってグラフト重合基材を得た。
【0073】
次に、得られたグラフト重合基材を0.1N塩酸溶液に1時間浸漬して酸処理を施し、六価クロム回収用樹脂試料を得た。
【0074】
(比較例3)
得られたグラフト重合基材に対して酸処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により、六価クロム回収用樹脂試料を得た。
【0075】
≪評価≫
実施例1〜6及び比較例1〜3において得られた六価クロム回収用樹脂について、以下に述べる方法によって、グラフト率、官能基密度、及び六価クロム回収率を求めた。
【0076】
[グラフト率]
酸処理前のグラフト重合基材の質量(W
g)と、原料とした高分子基材の質量(W
0)とを用いて、下記(1)式によりグラフト率を算出した。
グラフト率(%)=((W
g−W
0)/W
0)×100 ・・・ (1)
【0077】
[官能基密度]
作製した吸着材である六価クロム回収用樹脂の官能基密度、すなわち、吸着材単位質量あたりのピリジン環の物質量を、以下の方法により求めた。
官能基密度(mmol/g−adsorbent)=
(グラフト率×1000)/((グラフト率+100))×M
w) ・・・ (2)
(但し、M
wはピリジン環を有するモノマーの分子量(g/mol)である。)
【0078】
[六価クロム回収率]
容量100mlビーカーに、得られたクロム吸着用樹脂50mgと、pH8.0に調整したCr
6+濃度1mg/lの二クロム酸カリウム水溶液を入れ、室温で1時間撹拌した後に、濾過により吸着樹脂とCr
6+濾液とを分離した。回収された濾液について誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES分析)を行い、Cr
6+濃度を測定することで、Cr
6+回収率を算出した。
【0079】
≪結果≫
下記表1に、実施例1〜6及び比較例1〜3にて得られた六価クロム回収用樹脂のグラフト率、官能基密度、及び六価クロム回収率を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
(ピリジン環を有するモノマーの添加量の効果)
実施例1〜3の実験結果を比較する。実施例1〜3では、ピリジン環を有するモノマーの添加量がそれぞれ異なる。ピリジン環を有するモノマーの添加量は、実施例3、実施例1、実施例2の順に多く、この添加量が多いほど、グラフト率及び官能基密度も多くなった。このように、ピリジン環を有するモノマーの添加量を調整することで、得られる六価クロム回収用樹脂のグラフト率及び官能基密度を制御できることが分かった。
【0082】
なお、実施例1〜3では、グラフト率及び官能基密度は異なるものの、いずれにおいても高いクロム回収率を達成できた。
【0083】
(重合禁止剤の効果)
実施例1と実施例4の実験結果を比較する。実施例1では、ピリジン環を有するモノマーとして重合禁止剤を含まないものを用いたのに対し、実施例4では、ピリジン環を有するモノマーとして重合禁止剤としてtert−ブチルカテコールを含むものを用いた。このような相違点があるにも関わらず、グラフト率、官能基密度、六価クロム回収率に相違は見られなかった。したがって、電離性放射線を同時照射することで、ピリジン環を有するモノマーが重合禁止剤を含むものであっても、グラフト重合反応を十分に進行させることができることが分かった。
【0084】
(原料高分子基材の効果)
実施例1、実施例5、及び実施例6の実験結果を比較する。実施例1では、高分子基材としてLDPE不織布を用い、実施例5ではLDPEフィルム、実施例6はナイロン6繊維をそれぞれ用いたが、グラフト率、官能基密度、及び六価クロム回収率に大きな違いは見られず、いずれも高い六価クロム回収率を達成できた。このように、原料とする高分子基材の種類に関わらず、高い六価クロム回収率を達成できることが分かった。
【0085】
(電離性放射線照射の効果)
実施例1、比較例1、及び比較例2の実験結果を比較する。実施例1では、ピリジン環を有するモノマーの溶液に高分子基材を浸漬しながら電離性放射線を照射した。これに対し、比較例1では電離性放射線を照射せず、比較例2ではピリジン環を有するモノマーの溶液に浸漬させる前に原料の高分子基材に電離性放射線照射を施した。
【0086】
比較例1においては、電離性放射線を照射しなかったため、ピリジン環を有するモノマーのグラフト重合が生じず、その結果、六価クロムを回収することができなかった。一方で、比較例2においては、グラフト重合反応は生じたものの、六価クロム回収率は極めて低く効果的に六価クロムを回収することができなかった。比較例2では、酸処理を施す際に、グラフト重合基材の濡れ性が悪く、塩酸と全く馴染まなかったために、ピリジン環にアニオン交換能を付与できなかったものと考えられる。このような結果から、ピリジン環を有するモノマー溶液に高分子基材を浸漬しながら電離性放射線を照射することで、高い六価クロム回収率を達成できることが分かった。
【0087】
(酸処理の効果)
実施例1及び比較例3の実験結果を比較する。実施例1では、グラフト重合基材に酸処理を施したのに対し、比較例3では、酸処理を施さなかった。実施例1と比較例3とでは、グラフト率及び官能基密度に大きな差はないものの、比較例3において高い六価クロム回収率を達成することはできなかった。これは、酸処理を施さなかったために、グラフト重合鎖が有するピリジン環にアニオン交換能を付与できなかったためと考えられる。このように、実施例で得られたグラフト重合基材に酸処理を施すことによって、グラフト重合鎖が有するピリジン環にアニオン交換能を付与でき、高い回収率で六価クロムを回収できることが分かった。