特許第6693352号(P6693352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693352
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】トルクセンサ用コイル及びトルクセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20200427BHJP
   B29C 45/37 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
   G01L3/10 301J
   B29C45/37
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-174432(P2016-174432)
(22)【出願日】2016年9月7日
(65)【公開番号】特開2018-40665(P2018-40665A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099597
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 賢二
(74)【代理人】
【識別番号】100124235
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100124246
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 和光
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】清水 悠輝
(72)【発明者】
【氏名】中村 晃之
【審査官】 谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−200552(JP,A)
【文献】 特開2007−278865(JP,A)
【文献】 特開2007−086018(JP,A)
【文献】 特開2006−126130(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0007083(US,A1)
【文献】 米国特許第02553833(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/10
B29C 45/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪特性を有する回転軸の周囲に取り付けられ、前記回転軸に付与されたトルクを測定するトルクセンサに用いられるトルクセンサ用コイルであって、
前記回転軸と離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成されると共に、その外周面に軸方向に対して所定角度傾斜した複数の第1傾斜溝と、軸方向に対して前記第1傾斜溝と反対方向に前記所定角度傾斜した複数の第2傾斜溝とが形成されている非磁性体からなるボビンと、
前記第1傾斜溝に沿って絶縁電線を前記ボビンに巻き付けて形成される第1検出コイルと、
前記第2傾斜溝に沿って絶縁電線を前記ボビンに巻き付けて形成される第2検出コイルと、を備え、
前記ボビン前記第1及び第2傾斜溝の側壁、前記第1及び第2傾斜溝の各側壁を形成する金型抜去方向に対して平行または当該平行な方向よりも前記第1及び第2傾斜溝が径方外方に向かって拡がる方向に傾斜して形成されている、
トルクセンサ用コイル。
【請求項2】
前記ボビンは、その軸方向の両端部に、前記第1傾斜溝と前記第2傾斜溝とに囲まれ、かつ前記ボビンの軸方向の端面を構成している第1凸部を複数有し、
前記各第1凸部の軸方向の端面に、前記ボビンの周方向に沿って形成されており、軸方向外方に開口すると共に、その周方向の端部にて前記第1及び前記第2傾斜溝に連通されており、隣り合う前記第1傾斜溝間あるいは隣り合う前記第2傾斜溝間の前記絶縁電線を収容すると共に、当該絶縁電線の径方向外方への移動を規制して前記ボビンからの脱落を抑制するための電線係止溝を有している、
請求項1に記載のトルクセンサ用コイル。
【請求項3】
前記ボビンは、隣り合う2本の前記第1傾斜溝と、隣り合う2本の前記第2傾斜溝とに囲まれた矩形状の第2凸部を複数有し、
前記第2凸部は、隣り合う2本の前記第1傾斜溝の側壁の間隔が、径方向外方に向かって徐々に拡がっていると共に、隣り合う2本の前記第2傾斜溝の
側壁の間隔が、径方向外方に向かって徐々に拡がっている
請求項2に記載のトルクセンサ用コイル。
【請求項4】
前記第2凸部は、前記ボビンの軸方向において前記第1凸部とオーバーラップして配置されており、
前記第2凸部には、前記第1凸部の前記電線係止溝の底壁と軸方向における同じ位置に底壁を有し、軸方向外方に開口する副電線係止溝が形成されている、
請求項3に記載のトルクセンサ用コイル。
【請求項5】
前記第1凸部は、前記ボビンの周方向に等間隔に配置されており、かつ、前記ボビンの軸方向の一端部に設けられた前記第1凸部と、軸方向の他端部に設けられた前記第1凸部とが、軸方向に対向配置されており、
前記第2凸部は、前記ボビンの周方向に等間隔に配置されていると共に、周方向に隣り合う前記第1凸部の間の位置となるように配置されており、かつ、軸方向の一端部及び他端部に設けられた前記第1凸部と軸方向にオーバーラップする位置に配置されており、
前記各第2凸部の軸方向における両端部に、前記副電線係止溝がそれぞれ形成されている、
請求項4に記載のトルクセンサ用コイル。
【請求項6】
1本の前記第1傾斜溝と1本の前記第2傾斜溝とが交差した傾斜溝対を周方向に複数有する
請求項1乃至5の何れか1項に記載のトルクセンサ用コイル。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載のトルクセンサ用コイルを備えた、
トルクセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクセンサ用コイル及びトルクセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁歪式のトルクセンサが知られている。磁歪式のトルクセンサは、応力が付与された際に透磁率が変化する磁歪特性を有する回転軸を用い、トルクが付与されて回転軸が捩じれた際の回転軸の透磁率の変化を検出コイルのインダクタンスの変化として検出することにより、回転軸に付与されたトルクを検出する。
【0003】
回転軸にトルクが付与されると、軸方向に対して所定角度(例えば+45度)傾斜した方向に圧縮(又は引張)の応力が作用し、軸方向に対して反対方向に所定角度(例えば−45度)傾斜した方向に引張(又は圧縮)の応力が作用する。よって、軸方向に対して例えば+45度及び−45度傾斜した方向の透磁率の変化を2つの検出コイルでそれぞれ検出するように構成し、かつ、ブリッジ回路等を用いて両検出コイルの両端電圧の差分を測定するように構成することで、回転軸に付与されたトルクを感度よく検出することが可能になる。
【0004】
このような磁歪式のトルクセンサでは、回転軸と離間して同軸に設けられた非磁性体からなる中空円筒状のボビンを用い、そのボビンに絶縁電線を巻き付けることで検出コイルを形成している。ボビンの外周面には、軸方向に対して+45度傾斜した複数の第1傾斜溝が形成されると共に、軸方向に対して―45度傾斜した複数の第2傾斜溝が形成されている。また、第1傾斜溝に沿って絶縁電線をボビンに巻き付けて第1検出コイルが形成され、第2傾斜溝に沿って絶縁電線をボビンに巻き付けて第2検出コイルが形成されている。以下、ボビンと、ボビンに絶縁電線を巻き付けて形成された検出コイルとを、まとめてトルクセンサ用コイルと呼称する。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1,2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−21588号公報
【特許文献2】特開2003−347117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のトルクセンサ用コイルでは、ボビンにおける絶縁電線を巻き付けるための溝(上述の第1傾斜溝や第2傾斜溝を含む)を、切削加工により形成していた。しかしながら、溝を1つ1つ切削加工により形成することは手間がかかり、量産性の観点から課題があった。
【0008】
量産性を向上させるためには、ボビンを金型を用いた樹脂成形により製造することが望ましいが、従来のトルクセンサ用コイルでは、溝の側壁がボビンの径方向に沿うように形成されているため、アンダーカットとなる部分が存在し、成型後の金型の抜き取りが困難になってしまうという課題があった。
【0009】
そこで、本発明は、ボビンを樹脂成形により形成可能であり、量産性に優れたトルクセンサ用コイル及びトルクセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、磁歪特性を有する回転軸の周囲に取り付けられ、前記回転軸に付与されたトルクを測定するトルクセンサに用いられるトルクセンサ用コイルであって、前記回転軸と離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成されると共に、その外周面に軸方向に対して所定角度傾斜した複数の第1傾斜溝と、軸方向に対して前記第1傾斜溝と反対方向に前記所定角度傾斜した複数の第2傾斜溝とが形成されている非磁性体からなるボビンと、前記第1傾斜溝に沿って絶縁電線を前記ボビンに巻き付けて形成される第1検出コイルと、前記第2傾斜溝に沿って絶縁電線を前記ボビンに巻き付けて形成される第2検出コイルと、を備え、前記ボビン前記第1及び第2傾斜溝の側壁、前記第1及び第2傾斜溝の各側壁を形成する金型抜去方向に対して平行または当該平行な方向よりも前記第1及び第2傾斜溝が径方外方に向かって拡がる方向に傾斜して形成されている、トルクセンサ用コイルを提供する。
【0011】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、前記トルクセンサ用コイルを備えた、トルクセンサを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ボビンを樹脂成形により形成可能であり、量産性に優れたトルクセンサ用コイル及びトルクセンサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係るトルクセンサを示す図であり、(a)は回転軸に取り付けた際の側面図、(b)はそのA−A線断面図である。
図2】トルクセンサ用コイルに用いるボビンを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
図3】(a)は図2のボビンの側面図、(b)はそのB−B線断面図である。
図4】ボビンを展開した状態を模式的に示す平面図であって、(a)は第1検出コイル及び第4検出コイルにおける絶縁電線の巻き方を説明するための図、(b)は第2検出コイル及び第3検出コイルにおける絶縁電線の巻き方を説明するための図である。
図5】トルクセンサの検出信号により回転軸に付与されたトルクを測定する測定部の構成例を示す回路図である。
図6】ボビンの成型に用いる金型を示す図であり、(a)はボビンの径方向外方から見た図、(b)は下型を省略しボビンの軸方向から見た図である。
図7】(a)は上型の斜視図であり、(b)は上型とボビンとを組み合わせた際の斜視図である。
図8】(a)は下型の斜視図であり、(b)は下型とボビンとを組み合わせた際の斜視図である。
図9】(a)はスライドコアの斜視図であり、(b)はスライドコアとボビンとを組み合わせた際の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0015】
(トルクセンサの全体構成)
図1は、本実施の形態に係るトルクセンサを示す図であり、(a)は回転軸に取り付けた際の側面図、(b)はそのA−A線断面図である。
【0016】
図1(a),(b)に示すように、トルクセンサ100は、磁歪特性を有する回転軸101の周囲に取り付けられ、回転軸101に付与されたトルク(回転トルク)を測定するものである。
【0017】
トルクセンサ100は、本実施の形態に係るトルクセンサ用コイル1と、磁性体リング102と、を備えている。
【0018】
回転軸101は、磁歪特性を有する材料から構成され、円柱状(棒状)に形成されている。磁歪特性を有する材料としては、例えば、ニッケル、鉄−アルミニウム合金、鉄−コバルト合金等が挙げられる。なお、回転軸101に用いる材料としては、圧縮時に透磁率が低下し引張時に透磁率が増加する正磁歪材料、圧縮時に透磁率が増加し引張時に透磁率が低下する負磁歪材料のどちらを用いても構わない。回転軸101は、例えば、車両のパワートレイン系のトルク伝達に用いられるシャフト、あるいは車両のエンジンのトルク伝達に用いられるシャフトである。
【0019】
トルクセンサ用コイル1は、非磁性体である樹脂からなるボビン2と、ボビン2の外周に絶縁電線を巻き付けて構成される複数の検出コイル3と、を有している。ボビン2は、回転軸101と離間して同軸に設けられており、中空円筒状に形成されている。トルクセンサ用コイル1の詳細については後述する。
【0020】
磁性体リング102は、磁性体(強磁性体)からなり、中空円筒状に形成されている。磁性体リング102の中空部にはトルクセンサ用コイル1が挿入される。磁性体リング102の内径は、ボビン2の外径(後述するフランジ部2a以外の部分の外径)と略同じに(若干大きく)形成されている。磁性体リング102は、トルクセンサ用コイル1の検出コイル3で生じた磁束が外部に漏れて感度が低下することを抑制する役割を果たす。
【0021】
図示していないが、トルクセンサ100は、トルクセンサ用コイル1と磁性体リング102とを一体に固定する固定部材をさらに備えていてもよい。固定部材としては、例えば、軸方向の両側からトルクセンサ用コイル1と磁性体リング102とを挟み込み互いに固定される一対のリング状の部材や、トルクセンサ用コイル1と磁性体リング102とを一体に覆う樹脂モールド等が挙げられる。
【0022】
(ボビン2の説明)
図2は、トルクセンサ用コイル1に用いるボビン2を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図である。また、図3(a)はボビン2の側面図、図3(b)はそのB−B線断面図である。
【0023】
図2,3に示すように、ボビン2は、全体として中空円筒状に形成されている。ボビン2の外周面には、回転軸101の軸方向に対して所定角度傾斜した複数の第1傾斜溝4と、軸方向に対して第1傾斜溝4と反対方向に所定角度(第1傾斜溝4と同じ角度)傾斜した複数の第2傾斜溝5とが形成されている。第1傾斜溝4及び第2傾斜溝5は、ボビン2の径方向に窪んだ溝によって形成されている。
【0024】
本実施の形態では、ボビン2には、軸方向に対して+45度傾斜するように第1傾斜溝4が形成され、軸方向に対して−45度傾斜するように第2傾斜溝5が形成されている。トルクセンサ100では、第1及び第2傾斜溝4,5に沿って絶縁電線を巻き付けて検出コイル3を形成するが、回転軸101にトルクが付与された際の透磁率の変化は軸方向に対して±45度の方向で最も大きくなるので、第1及び第2傾斜溝4,5を軸方向に対して±45度傾斜するように傾斜することで、検出感度を向上させている。
【0025】
なお、第1及び第2傾斜溝4,5の傾斜角度は±45度に限定されない。ただし、第1及び第2傾斜溝4,5の傾斜角度が小さすぎたり大きすぎたりすると感度が低下するため、第1及び第2傾斜溝4,5の軸方向に対する傾斜角度は、±30〜60度の範囲とすることが望ましい。
【0026】
本実施の形態では、8本の第1傾斜溝4を周方向に等間隔に形成すると共に、8本の第2傾斜溝5を周方向に等間隔に形成しており、全体としてジグザグ状の溝をボビン2の外周面に形成している。なお、第1及び第2傾斜溝4,5の数はこれに限定されず、ボビン2の外径や回転軸101の外径等に応じて適宜変更可能である。
【0027】
また、本実施の形態では、1本の第1傾斜溝4と1本の第2傾斜溝5とが、軸方向の中央部においてX字状に交差しており、このX字状に交差した第1傾斜溝4と第2傾斜溝5の対(以下傾斜溝対10という)が、周方向に等間隔に配置されている。任意の傾斜溝対10の第1傾斜溝4の両端部と、当該傾斜溝対10と隣り合う(周方向の両隣の)傾斜溝対10の第2傾斜溝5の端部とは、連通されている。同様に、任意の傾斜溝対10の第2傾斜溝5の両端部と、当該傾斜溝対10と隣り合う(周方向の両隣の)傾斜溝対10の第1傾斜溝4の端部とは、連通されている。
【0028】
これにより、ボビン2の軸方向の両端部に、第1傾斜溝4と第2傾斜溝5とに囲まれ、かつボビン2の軸方向の端面を構成している三角形状の複数(両端部にそれぞれ8個)の第1凸部6が形成される。本実施の形態では、第1凸部6は、径方向外方から見て、頂点を軸方向内方に向けた略二等辺三角形状に形成されている。第1凸部6は、ボビン2の周方向に等間隔に配置されており、かつ、ボビン2の軸方向の一端部に設けられた第1凸部6と、軸方向の他端部に設けられた第1凸部6とが、第1傾斜溝4と第2傾斜溝5の交差部分を挟んで、軸方向に対向配置されている。
【0029】
また、ボビン2の軸方向における中央部には、隣り合う2本の第1傾斜溝4と、隣り合う2本の第2傾斜溝5とに囲まれた矩形状の複数(8個)の第2凸部7が形成される。第2凸部7は、ボビン2の周方向に等間隔に配置されていると共に、周方向に隣り合う第1凸部6の間の位置となるように(周方向に隣り合う第1凸部6の中間となる周方向位置に)配置されている。
【0030】
ボビン2の軸方向における一方の端部(図3(a)における左側の端部)には、ボビン2の外周面から径方向外方に延びるフランジ部2aが形成されている。ここでは、各第1凸部6の軸方向外方の端部から径方向外方に延びるように、円弧状の複数のフランジ部2aを形成している。フランジ部2aは、接続端子の固定の役割を果たすと共に、磁性体リング102の軸方向に沿った移動を規制して磁性体リング102とボビン2との位置合わせを行う役割とを兼ねている。
【0031】
複数のフランジ部2aには、検出コイル3を構成する絶縁電線の端部に設けられる接続端子(不図示)を挿入し固定するための端子取付用孔2bが形成されたものが含まれている。本実施の形態では、隣り合う2つのフランジ部2aに、それぞれ2つの端子取付用孔2bを形成した場合を示しているが、端子取付用孔2bの位置(つまり接続端子の位置)は適宜変更可能である。
【0032】
本実施の形態では、検出コイル3をボビン2の外周面に形成しているため、ボビン2は、検出コイル3で生じた磁束に影響を与えない非磁性体からなるものを用いる必要がある。また、トルクセンサ100を潤滑油等の油が接触する環境で使用する場合には、ボビン2として、耐油性を有する材料からなるものを用いる必要がある。またさらに、トルクセンサ100を高温環境で使用する場合には、ボビン2として、耐熱性を有する材料からなるものを用いることが望ましい。本実施の形態では、ボビン2の材料として、非磁性体である樹脂を用いる。
【0033】
また、ボビン2の熱による膨張により、銅を主成分とする絶縁電線が断線しないように、ボビン2として、銅(絶縁電線)と同等の線膨張係数を有するものを用いることが望ましい。より具体的には、ボビン2に用いる樹脂としては、線膨張係数が銅の線膨張係数の±25%以内のものを用いることが望ましい。なお、銅の線膨張係数は1.66×10−5〜1.68×10−5/℃であるから、ボビン2に用いる樹脂としては、線膨張係数が1.25×10−5/℃以上2.1×10−5/℃以下のものを用いることが望ましい。
【0034】
このような条件を満たす樹脂としては、例えば、ポリフタルアミド樹脂(PPA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等が挙げられる。このうちPPA及びPPSの線膨張係数は1.3×10−5〜1.5×10−5/℃である。また、ボビン2を構成する樹脂にガラス繊維を混入することで、線膨張係数を調整することも可能である。このような樹脂からなるボビン2を用いることで、耐油性及び耐熱性に優れ、信頼性の高いトルクセンサ100を実現できる。
【0035】
また、本実施の形態では、ボビン2は、金型を用いた樹脂成形(射出成形)によって形成された樹脂成形体からなる。以下、金型を使用可能とするための具体的な構成について詳細に説明する。
【0036】
本実施の形態に係るトルクセンサ用コイル1では、ボビン2は、周方向に複数の領域に分割されており、各領域において、第1及び第2傾斜溝4,5の側壁の全てが、各領域毎に異なる方向に設定されている金型抜去方向に対して平行に形成されている。
【0037】
図3(b)に示すように、本実施の形態では、ボビン2が、第1及び第2傾斜溝4,5と同数の8つの領域A1〜A8に分割されている。以下、軸方向におけるフランジ部2a側から見て時計回り方向に順次領域A1〜A8が形成されているとする。各領域A1〜A8は、ボビン2の中心軸を中心として45°の角度範囲に形成されており、同じ大きさに形成されている。つまり、本実施の形態では、ボビン2を周方向に等分割するように各領域A1〜A8が設定されており、各領域A1〜A8の周方向の長さが等しい。
【0038】
各領域A1〜A8に対応した金型抜去方向を、図3(b)に矢印B1〜B8として示す。本実施の形態では、金型抜去方向(矢印B1〜B8)は、対応する領域A1〜A8の周方向における中心位置での径方向(径方向内方から外方に向かう方向)に設定されている。本実施の形態では、ボビン2を周方向に等分割して8つの領域A1〜A8を形成しているため、周方向に隣り合う領域(例えば領域A1とA2)の金型抜去方向同士がなす角度は45°となり、ボビン2の径方向に対向する領域(例えば領域A1とA5)では、金型抜去方向が反対方向となる。
【0039】
なお、金型抜去方向は、対応する領域A1〜A8の周方向における中心位置での径方向とは異なる方向に設定することも可能である。ただし、詳細は後述するが、金型抜去方向は金型(後述するスライドコア64)を抜去する方向となるため、隣り合う金型と干渉せずに金型を抜去できる方向に設定する必要がある。例えば、領域A1がボビン2の周方向における0°〜45°の位置に形成されているとすると、領域A1の金型抜去方向は、0°以上45°以下の周方向位置における径方向(径方向内方から外方に向かう方向)に設定されるとよい。
【0040】
本実施の形態では、任意の領域A1〜A8に含まれる第1及び第2傾斜溝4,5の側壁8の全てが、当該領域A1〜A8に設定された金型抜去方向に対して平行に形成されている。そのため、本実施の形態では、周方向に隣り合う領域(例えば領域A1とA2)の側壁8同士がなす角度は45°となり、ボビン2の径方向に対向する領域(例えば領域A1とA5)では、側壁8同士が平行(側壁同士がなす角度が180°)となる。なお、ここでいう第1及び第2傾斜溝4,5の側壁8とは、換言すれば、第1及び第2傾斜溝4,5を挟んで対向する第1及び第2凸部6,7の側壁8であり、第1及び第2傾斜溝4,5の底面(底壁)と第1及び第2凸部6,7の外周面(外壁)とを繋ぐ段差部分である。
【0041】
このように構成することで、各領域A1〜A8に対応する8個の金型(後述するスライドコア64)を周方向に配置して樹脂成形を行った際にアンダーカットの部分が生じなくなるので、成形後に各金型を抜去することが可能になり、樹脂成形によりボビン2を形成することが可能になる。
【0042】
なお、本実施の形態では、側壁8を金型抜去方向に対して平行に形成したが、金型が抜去できればよいので、側壁8は、金型抜去方向よりも第1及び第2傾斜溝4,5が径方外方に向かって拡がる方向に傾斜していてもよい。
【0043】
また、本実施の形態では、1つの領域A1〜A8に1つの傾斜溝対10(X字状に交差した1本の第1傾斜溝4と1本の第2傾斜溝5)が含まれるように、領域A1〜A8が設定されている。つまり、本実施の形態では、各領域A1〜A8に1本の第1傾斜溝4と1本の第2傾斜溝5とが形成されており、第1及び第2傾斜溝4,5の数と領域A1〜A8の数とが同数である。また、各領域A1〜A2の境界は、第2凸部7の周方向における中心(軸方向の両端に位置する角部同士を繋ぐ位置)に位置することになる。
【0044】
このように領域A1〜A8の境界を設定することで、第2凸部7が2つの領域にわたって配置されることになる。例えば、領域A1と領域A2とにわたって配置される第2凸部では、領域A1内の側壁8と領域A2内の側壁8の角度(向き)が異なっており、本実施の形態では、領域A1内の側壁8と領域A2内の側壁8とが45°の角度をなすことになる。その結果、第2凸部7は、その対向する側壁8の間隔が、径方向外方に向かって徐々に拡がることになり、絶縁電線を巻き付けて検出コイル3を形成する際に、絶縁電線が第1及び第2傾斜溝4,5から脱落しにくくなる。
【0045】
また、本実施の形態では、ボビン2は、各第1凸部6の軸方向の端面に、ボビン2の周方向に沿って形成された電線係止溝9を有している。電線係止溝9は、軸方向外方に開口すると共に、その周方向の端部にて第1及び第2傾斜溝4,5に連通されている円弧状の溝からなる。
【0046】
電線係止溝9は、隣り合う第1傾斜溝4間あるいは第2傾斜溝5間で、絶縁電線をボビン2の周方向に案内する案内路となるものであり、隣り合う第1傾斜溝4間あるいは隣り合う第2傾斜溝5間の絶縁電線が電線係止溝9に収容されている。また、電線係止溝9は径方向外方に開口されておらず、当該電線係止溝9に収容されている絶縁電線の径方向外方への移動を規制して、絶縁電線(検出コイル3)のボビン2からの脱落を抑制する役割を果たしている。詳細は後述するが、電線係止溝9は、第1及び第2傾斜溝4,5を形成する金型(後述するスライドコア64)とは別体に形成され軸方向に抜去される金型(後述する上型62及び下型63)により形成される。
【0047】
電線係止溝9を形成することにより、第1凸部6は、電線係止溝9の底壁9aであってボビン2の径方向に沿って延びる軸部91と、軸部91の径方向外方の端部から軸方向外方に延びる傘部92とを一体に有している。このうち軸部91が絶縁電線を巻き付ける部分となり、傘部92が絶縁電線の脱落を抑制する部分となる。フランジ部2aは、軸方向の一方に設けられた第1凸部6の傘部92の端部(軸部91と反対側の端部)から径方向外方に突出するように設けられている。
【0048】
さらに、本実施の形態では、第2凸部7は、ボビン2の軸方向において第1凸部6とオーバーラップして配置されており、第2凸部7には、第1凸部6の電線係止溝9の底壁9aと軸方向における同じ位置に底壁11aを有し、軸方向外方に開口する副電線係止溝11が形成されている。底壁9a,11aは共に軸方向に対して垂直に形成されている。
【0049】
本実施の形態では、第2凸部7は、軸方向の一端部及び他端部に設けられた第1凸部6と軸方向にオーバーラップする位置に配置されており、各第2凸部7の軸方向における両端部に、副電線係止溝11がそれぞれ形成されている。
【0050】
副電線係止溝11は、電線係止溝9を通した絶縁電線をさらにガイドし、第1傾斜溝4または第2傾斜溝5へと導く溝である。副電線係止溝11は径方向外方へは開口しておらず、第2凸部7の径方向外方の端部には、軸方向外方に向かって突出し、副電線係止溝11に収容された絶縁電線の脱落を防止する第2傘部11bが一体に形成されている。
【0051】
副電線係止溝11を有することにより、第2凸部7と第1凸部6とをオーバーラップして配置した場合(電線係止溝9の底壁9aが第2凸部7よりも軸方向内方に位置している場合)であっても、電線係止溝9と副電線係止溝11とによって絶縁電線を周方向に沿ってガイドすることが可能になり、ボビン2の小型化、すなわちトルクセンサ用コイル1の小型化に寄与する。
【0052】
(検出コイル3の説明)
図4は、ボビン2を展開した状態を模式的に示す平面図である。図示右側の端部と図示左側の端部は実際には連結されている。図4(a)では、第1検出コイル31と第4検出コイル34を1本の線で図示している。図4(b)では、第2検出コイル32と第3検出コイル33を1本の線で図示している。
【0053】
図4(a),(b)に示すように、トルクセンサ用コイル1は、第1傾斜溝4に沿って絶縁電線をボビン2に巻き付けて形成される第1検出コイル31及び第4検出コイル34と、第2傾斜溝5に沿って絶縁電線をボビン2に巻き付けて形成される第2検出コイル32及び第3検出コイル33と、を備えている。
【0054】
本実施の形態では、第1検出コイル31及び第4検出コイル34は、第1傾斜溝4、電線係止溝9、及び副電線係止溝11に沿って絶縁電線をボビン2に巻き付けて形成される。第2検出コイル32及び第3検出コイル33は、第2傾斜溝5、電線係止溝9、及び副電線係止溝11に沿って絶縁電線をボビン2に巻き付けて形成される。第1検出コイル31、第2検出コイル32、第3検出コイル33、及び第4検出コイル34は、それぞれ複数の層にわたって形成される。
【0055】
絶縁電線をボビン2に巻き付ける際には、ボビン2を治具に固定して作業を行う。絶縁電線としては、例えば銅又は銅にニッケル等のめっきを施した導体の外周に、耐油性及び耐熱性に優れた絶縁層を形成したものを好適に用いることができる。絶縁電線の絶縁層としては、例えば、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミドからなるものを用いることができる。絶縁電線の外径は、例えば0.12mmであるが、絶縁電線の外径は適宜変更可能である。
【0056】
図4では、ボビン2のフランジ部2a側に周方向に並ぶ8個の第1凸部6を符号6a〜6hで示している。また、ボビン2のフランジ部2aと反対側に第1凸部6a〜6hと対向して周方向に並ぶ8個の第1凸部6を符号6i〜6pで示している。さらに、ボビン2の周方向に並ぶ8個の第2凸部7を符号7a〜7hで示している。
【0057】
また、図4(a)中、符号31a,31bは、それぞれ第1検出コイル31の1層分の入力端と出力端を示し、符号34a,34bは、それぞれ第4検出コイル34の1層分の入力端と出力端を示す。図4(b)中、符号32a,32bは、それぞれ第2検出コイル32の1層分の入力端と出力端を示し、符号33a,33bは、それぞれ第3検出コイル33の1層分の入力端と出力端を示す。
【0058】
図4(a)に示すように、第1検出コイル31及び第4検出コイル34を構成する2本の絶縁電線を、第1凸部6a,6pと第2凸部7aとに1回巻き付ける。この際、隣り合う第1傾斜溝4間の絶縁電線は、電線係止溝9と副電線係止溝11とに収容され、巻き付けた絶縁電線が閉じた平行四辺形を形成するようにされる。その後、絶縁電線を、第1凸部6i,6bと第2凸部7bとに1回巻き付け、次に、第1凸部6j,6cと第2凸部7cとに1回巻き付け、次に、第1凸部6k,6dと第2凸部7dとに1回巻き付け、次に、第1凸部6l,6eと第2凸部7eとに1回巻き付け、次に、第1凸部6m,6fと第2凸部7fとに1回巻き付け、次に、第1凸部6n,6gと第2凸部7gとに1回巻き付け、次に、第1凸部6o,6hと第2凸部7hとに1回巻き付ける。以上で第1検出コイル31及び第4検出コイル34を構成する絶縁電線の1周分(1ターン)の巻き付けが終わる。
【0059】
図4(b)に示すように、第2検出コイル32及び第3検出コイル33を構成する2本の絶縁電線を、第1凸部6h,6iと第2凸部7aとに1回巻き付ける。この際、隣り合う第2傾斜溝5間の絶縁電線は、この際、隣り合う第2傾斜溝5間の絶縁電線は、電線係止溝9と副電線係止溝11とに収容され、巻き付けた絶縁電線が閉じた平行四辺形を形成するようにされる。その後、絶縁電線を、第1凸部6a,6jと第2凸部7bとに1回巻き付け、次に、第1凸部6b,6kと第2凸部7cとに1回巻き付け、次に、第1凸部6c,6lと第2凸部7dとに1回巻き付け、次に、第1凸部6d,6mと第2凸部7eとに1回巻き付け、次に、第1凸部6e,6nと第2凸部7fとに1回巻き付け、次に、第1凸部6f,6oと第2凸部7gとに1回巻き付け、次に、第1凸部6g,6pと第2凸部7hとに1回巻き付ける。以上で第2検出コイル32及び第3検出コイル33を構成する絶縁電線の1周分(1ターン)の巻き付けが終わる。
【0060】
このような絶縁電線を巻き付ける作業を目的のターン数繰り返すと、第1〜第4検出コイル31〜34が得られる。第1〜第4検出コイル31〜34のターン数は、例えば20〜40である。なお、絶縁電線の巻き付け方は図示の方法に限らない。ただし、絶縁電線の巻き付けは専用の巻き付け装置によりなされるのが通常であるが、この際の絶縁電線の巻き付け易さを考慮すると、図4(a),(b)で説明した方法を用いることがより望ましいといえる。すなわち、図4(a),(b)で説明した方法で絶縁電線を巻き付けることで、生産性を向上することが可能になる。
【0061】
(測定部の構成)
図5は、トルクセンサ100の検出信号により回転軸101に付与されたトルクを測定する測定部41の構成例を示す回路図である。測定部41は、第1〜第4検出コイル31〜34のインダクタンスの変化を検出することにより、回転軸101に付与されたトルクを測定する。
【0062】
以下、第1検出コイル31のインダクタンスをL1とし、第2検出コイル32のインダクタンスをL2とし、第3検出コイル33のインダクタンスをL3とし、第4検出コイル34のインダクタンスをL4とする。
【0063】
測定部41は、第1検出コイル31、第2検出コイル32、第4検出コイル34、第3検出コイル33をこの順序で環状に接続して構成されたブリッジ回路42と、第1検出コイル33と第2検出コイル32との間の接点aと第3検出コイル33と第4検出コイル34との間の接点bとの間に交流電圧を印加する発信器43と、第1検出コイル31と第3検出コイル33との間の接点cと第2検出コイル32と第4検出コイル34との間の接点d間の電圧を検出する電圧測定回路44と、電圧測定回路44で測定した電圧を基に回転軸101に付与されたトルクを演算するトルク演算部45と、を備えている。ブリッジ回路42は、第1検出コイル31及び第4検出コイル34を対向する一方の辺に配置し、第2検出コイル32及び第3検出コイル33を対向する他方の辺に配置して構成される。
【0064】
測定部41では、回転軸101にトルクが付与されない状態では、第1〜第4検出コイル31〜34のインダクタンスL1〜L4は等しくなり、電圧測定回路44で検出される電圧は略0となる。
【0065】
ここで、回転軸101にトルクが付与されると、軸方向に対して+45度の方向の透磁率が減少(又は増加)し、軸方向に対して−45度方向の透磁率が増加(又は減少)する。よって、発信器43から交流電圧を印加した状態で回転軸101にトルクが付与されると、第1検出コイル31及び第4検出コイル34ではインダクタンスが減少(又は増加)し、第2検出コイル32及び第3検出コイル33ではインダクタンスが増加(又は減少)する。その結果、電圧測定回路44で検出される電圧が変化するので、この電圧の変化を基に、トルク演算部45が回転軸101に付与されたトルクを演算する。
【0066】
第1検出コイル31及び第4検出コイル34と、第2検出コイル32及び第3検出コイル33とは、巻き付け方向が異なる以外は全く同じ構成であるから、図5のようなブリッジ回路42を用いることで、第1〜第4検出コイル31〜34のインダクタンスへの温度等の影響をキャンセルすることが可能であり、回転軸101に付与されたトルクを精度よく検出することができる。また、トルクセンサ100では、第1検出コイル31及び第4検出コイル34でインダクタンスが増加(又は低下)すれば、第2検出コイル32及び第3検出コイル33ではインダクタンスが低下(又は増加)するため、図5のようなブリッジ回路42を用いることで、検出感度をより向上することができる。
【0067】
(ボビン2の成型に用いる金型の説明)
図6は、ボビン2の成型に用いる金型を示す図であり、(a)はボビン2の径方向外方から見た図、(b)は下型を省略しボビン2の軸方向から見た図である。
【0068】
図6(a),(b)に示すように、ボビン2の成型に用いる金型61は、上型62、下型63、及び8個のスライドコア(放射型)64と、を有している。
【0069】
スライドコア64の数は、ボビン2における領域A1〜A8の数と同数とされる。8個のスライドコア64は、組み合わせた際に全体として中空筒状となるように形成されている。上型62と下型63は、組み合わせたスライドコア64の開口(軸方向に開放されている開口)を塞ぐようにそれぞれ設けられる。上型62と下型63の金型抜去方向は、軸方向に沿った方向(軸方向外方)とされ、各スライドコア64の抜去方向は、対応する領域A1〜A8における金型抜去方向(矢印B1〜B8に沿った方向)とされる。なお、ここでいう軸方向、周方向、あるいは径方向とは、成形後のボビン2における軸方向、周方向、あるいは径方向を意味するものとする。
【0070】
図6及び図7に示すように、上型62は、円板状に形成された上型円板部62aと、上型円板部62aの軸方向における一方の面から軸方向に突出する円環状の上型環状突起62bと、を一体に有している。上型環状突起62bは、第1凸部6の電線係止溝9、及び第2凸部7の副電線係止溝11を形成するためのものである。
【0071】
図6及び図8に示すように、下型63は、円板状に形成された下型円板部63aと、下型円板部63aの軸方向における一方の面から軸方向に突出する円柱状の中央突起63bと、中央突起63bと離間して形成されると共に中央突起63bと同軸状に形成され、下型円板部63aの軸方向における一方の面から軸方向に突出する円環状の下型環状突起63cと、を一体に有している。中央突起63bは、ボビン2における回転軸101を挿入する中空部を形成するためのものであり、下型環状突起63cは、上型環状突起62bと同様に、第1凸部6の電線係止溝9、及び第2凸部7の副電線係止溝11を形成するためのものである。
【0072】
また、下型円板部63aには、その軸方向における一方の面(中央突起63b及び下型環状突起63cが形成されている面)から軸方向に凹むように、フランジ部2aを形成するための凹部63dが形成されている。凹部63dには、その底面から軸方向に突出するように、端子取付用孔2bを形成するための突起63eが形成されている。
【0073】
図6及び図9に示すように、スライドコア64は、軸方向に垂直な断面形状が円弧状であり、周方向に垂直な断面が矩形状の円弧部64aと、円弧部64aの内壁から径方向内方に突出するように形成されたX字状の傾斜溝形成突起64bと、を一体に有している。傾斜溝形成突起64bは、第1及び第2傾斜溝4,5を形成するためのものである。傾斜溝形成突起64bの軸方向における両端部には、上型62及び下型63と組み合わせた際に、上型環状突起62bや下型環状突起63cとの干渉を避けるための段差部64cが形成されている。
【0074】
上型62、下型63、及び8個のスライドコア64を組み合わせて金型61を完成させ、金型61内に樹脂を流し込むことで、ボビン2が形成される。なお、ここでは樹脂を流し込む樹脂流入口の位置について言及しなかったが、樹脂流入口の位置は特に限定するものではなく、例えば、スライドコア64の1つに樹脂流入口が形成されていてもよい。
【0075】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るトルクセンサ用コイル1では、ボビン2は、周方向に複数の領域A1〜A8に分割されており、各領域A1〜A8において、第1及び第2傾斜溝4,5の側壁8の全てが、各領域A1〜A8毎に異なる方向に設定されている金型抜去方向(矢印B1〜B8の方向)に対して平行または当該平行な方向よりも第1及び第2傾斜溝4,5が径方外方に向かって拡がる方向に傾斜して形成されている。
【0076】
これにより、アンダーカットの部分がなくなり、金型61を用いた樹脂成形によりボビン2を製造することが可能となる。その結果、従来のように切削加工により第1及び第2傾斜溝4,5を形成する場合と比較して、トルクセンサ用コイル1の量産性が向上し、製造コストの低減を図ることが可能になる。
【0077】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0078】
[1]磁歪特性を有する回転軸(101)の周囲に取り付けられ、前記回転軸(101)に付与されたトルクを測定するトルクセンサ(100)に用いられるトルクセンサ用コイル(1)であって、前記回転軸(101)と離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成されると共に、その外周面に軸方向に対して所定角度傾斜した複数の第1傾斜溝(4)と、軸方向に対して前記第1傾斜溝(4)と反対方向に前記所定角度傾斜した複数の第2傾斜溝(5)とが形成されている非磁性体からなるボビン(2)と、前記第1傾斜溝(4)に沿って絶縁電線を前記ボビン(2)に巻き付けて形成される第1検出コイル(31)と、前記第2傾斜溝(5)に沿って絶縁電線を前記ボビン(2)に巻き付けて形成される第2検出コイル(32)と、を備え、前記ボビン(2)は、周方向に複数の領域(A1〜A8)に分割されており、各領域(A1〜A8)において、前記第1及び第2傾斜溝(4,5)の側壁(8)の全てが、前記各領域(A1〜A8)毎に異なる方向に設定されている金型抜去方向に対して平行または当該平行な方向よりも前記第1及び第2傾斜溝(4,5)が径方外方に向かって拡がる方向に傾斜して形成されている、トルクセンサ用コイル(1)。
【0079】
[2]前記ボビン(2)は、その軸方向の両端部に、前記第1傾斜溝(4)と前記第2傾斜溝(5)とに囲まれ、かつ前記ボビン(2)の軸方向の端面を構成している第1凸部(6)を複数有し、前記各第1凸部(6)の軸方向の端面に、前記ボビン(2)の周方向に沿って形成されており、軸方向外方に開口すると共に、その周方向の端部にて前記第1及び前記第2傾斜溝(4,5)に連通されており、隣り合う前記第1傾斜溝(4)間あるいは隣り合う前記第2傾斜溝(5)間の前記絶縁電線を収容すると共に、当該絶縁電線の径方向外方への移動を規制して前記ボビン(2)からの脱落を抑制するための電線係止溝(9)を有している、[1]に記載のトルクセンサ用コイル(1)。
【0080】
[3]前記ボビン(2)は、隣り合う2本の前記第1傾斜溝(4)と、隣り合う2本の前記第2傾斜溝(5)とに囲まれた第2凸部(7)を複数有し、前記第2凸部(7)は、その対向する側壁(8)の間隔が、径方向外方に向かって徐々に拡がっている、[2]に記載のトルクセンサ用コイル(1)。
【0081】
[4]前記第2凸部(7)は、前記ボビン(2)の軸方向において前記第1凸部(6)とオーバーラップして配置されており、前記第2凸部(7)には、前記第1凸部(6)の前記電線係止溝(9)の底壁(9a)と軸方向における同じ位置に底壁(11a)を有し、軸方向外方に開口する副電線係止溝(11)が形成されている、[3]に記載のトルクセンサ用コイル(1)。
【0082】
[5]前記第1凸部(6)は、前記ボビン(2)の周方向に等間隔に配置されており、かつ、前記ボビン(2)の軸方向の一端部に設けられた前記第1凸部(6)と、軸方向の他端部に設けられた前記第1凸部(6)とが、軸方向に対向配置されており、前記第2凸部(7)は、前記ボビン(2)の周方向に等間隔に配置されていると共に、周方向に隣り合う前記第1凸部(6)の間の位置となるように配置されており、かつ、軸方向の一端部及び他端部に設けられた前記第1凸部(6)と軸方向にオーバーラップする位置に配置されており、前記各第2凸部(7)の軸方向における両端部に、前記副電線係止溝(11)がそれぞれ形成されている、[4]に記載のトルクセンサ用コイル(1)。
【0083】
[6]1本の前記第1傾斜溝(4)と1本の前記第2傾斜溝(5)とが交差した傾斜溝対(10)を周方向に複数有し、1つの前記領域(A1〜A8)に1つの前記傾斜溝対(10)「が含まれるように、前記領域(A1〜A8)が設定されている、[1]乃至[5]の何れか1項に記載のトルクセンサ用コイル(1)。
【0084】
[7]前記金型抜去方向は、対応する前記領域(A1〜A8)の周方向における中心位置での径方向である、[1]乃至[6]の何れか1項に記載のトルクセンサ用コイル(1)。
【0085】
[8][1]乃至[7]の何れか1項に記載のトルクセンサ用コイルを備えた、トルクセンサ(100)。
【0086】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0087】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、ボビン2を周方向に8つの領域A1〜A8に分割したが、領域の数はこれに限定されない。ただし、領域の数が少なすぎると、領域の周方向の端部における溝の傾斜角度が大きくなりすぎて絶縁電線を巻き付けにくくなり、また凸部6,7の縁部分が鋭角化して欠け等の不具合が発生し易くなるため、領域の数は4つ以上とすることが望ましい。
【符号の説明】
【0088】
1…トルクセンサ用コイル
2…ボビン
3…検出コイル
31…第1検出コイル
32…第2検出コイル
33…第3検出コイル
34…第4検出コイル
4…第1傾斜溝
5…第2傾斜溝
6…第1凸部
7…第2凸部
8…側壁
9…電線係止溝
10…傾斜溝対
11…副電線係止溝
100…トルクセンサ
A1〜A8…領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9