特許第6693460号(P6693460)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693460
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】ワークの切断方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/00 20060101AFI20200427BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20200427BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20200427BHJP
   B28D 5/04 20060101ALN20200427BHJP
【FI】
   B24B53/00 Z
   B24B27/06 H
   H01L21/304 611W
   !B28D5/04 C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-74779(P2017-74779)
(22)【出願日】2017年4月4日
(65)【公開番号】特開2018-176301(P2018-176301A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】豊田 史朗
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−500341(JP,A)
【文献】 特開2013−058751(JP,A)
【文献】 特開2011−020197(JP,A)
【文献】 特開2015−074037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/00
B24B 27/06
H01L 21/304
B28D 5/04
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一組のワイヤリールの一方から送り出され、他方のワイヤリールに巻き取られる、表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを、複数の溝付ローラに巻掛けることによってワイヤ列を形成し、前記固定砥粒ワイヤを軸方向に往復走行させながら、前記ワイヤ列に対してワークを切り込み送りすることによって、前記ワークが軸方向に並ぶ複数の箇所で同時に切断されるワイヤソーによるワークの切断方法において、
前記ワークの切断開始前に、前記ワークの切断を伴わない前記固定砥粒ワイヤの走行を行うことで、前記ワイヤリール内で前記固定砥粒ワイヤ同士を擦り合わせて、前記固定砥粒ワイヤの表面をドレッシングする砥粒摩耗工程を行い、該砥粒摩耗工程において、前記固定砥粒ワイヤの表面のドレッシングを30分以上行うとき、
前記固定砥粒ワイヤの往復走行のワイヤ走行量及びサイクル時間を調整することによって、前記ワークの切断開始点から前記ワークの直径の20%以上の距離まで前記ワークを切断するのに必要な長さの前記固定砥粒ワイヤをドレッシングすることを特徴とするワークの切断方法。
【請求項2】
前記砥粒摩耗工程において前記固定砥粒ワイヤの表面をドレッシングする際、前記固定砥粒ワイヤの前記ワイヤリールへの巻きつけ張力を15N以上とすることを特徴とする請求項1に記載のワークの切断方法。
【請求項3】
前記砥粒摩耗工程において前記固定砥粒ワイヤの表面をドレッシングする際、前記固定砥粒ワイヤの表面のドレッシングを60分以上行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワークの切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばシリコンインゴットや化合物半導体インゴット等のワークからウェーハを切り出す手段として、表面に砥粒を固着させた固定砥粒ワイヤを具備するワイヤソーが知られている。この固定砥粒方式のワイヤソーでは、複数のローラの周囲に切断用の固定砥粒ワイヤが多数巻掛けられることによりワイヤ列が形成されており、その固定砥粒ワイヤが軸方向に高速駆動され、かつ、加工液が適宜供給されながらワイヤ列に対してワークが切り込み送りされることにより、このワークが各ワイヤ位置で同時に切断されるようにしたものである。
【0003】
ここで、図4に、一般的な固定砥粒ワイヤを用いたワイヤソーの一例の概要を示す。図4に示すように、この固定砥粒方式のワイヤソー101は、主に、ワイヤ(高張力鋼線)の表面に砥粒を固着した、ワークWを切断するための固定砥粒ワイヤ102、固定砥粒ワイヤ102を巻掛けた溝付きローラ103、103’、溝付きローラ103、103’に巻き掛けられた固定砥粒ワイヤ102からなるワイヤ列111、固定砥粒ワイヤ102に張力を付与するための機構104、104’、切断されるワークWを下方へと送り出す手段105、切断時に冷却液109(クーラントとも呼称する)を供給する機構106で構成されている。
【0004】
固定砥粒ワイヤ102は、一方のワイヤリール107から送り出され、張力付与機構104を経て、溝付きローラ103に入っている。固定砥粒ワイヤ102は溝付きローラ103、103’に300〜400回程度巻掛けられた後、もう一方の張力付与機構104’を経てワイヤリール107’に巻き取られている。
【0005】
また、溝付きローラ103、103’は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に一定のピッチで溝を切ったローラであり、巻掛けられた固定砥粒ワイヤ102が、駆動用モータ110によって予め定められた周期で往復方向に駆動できるようになっている。
【0006】
なお、ワークWの切断時には、ワーク送り手段105によってワークWは保持されつつ相対的に押し下げられ、溝付きローラ103、103’に巻掛けられた固定砥粒ワイヤ102からなるワイヤ列111に対して送り出される。このとき、固定砥粒ワイヤ102にワイヤ張力付与機構104を用いて適当な張力をかけて、駆動用モータ110により固定砥粒ワイヤ102を往復方向に走行させながら冷却液109を、ノズル108を介して供給しながら、ワーク送り手段105でワークWを切り込み送りすることでワークWをウェーハ状に切断する。また、ワークWの切断が完了した後は、切断済みのワークを切断時と逆方向に相対的に移動させてワイヤ列111から切断済みワークを引き抜く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−95993号公報
【特許文献2】特開平11−28654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような固定砥粒方式のワイヤソーでは、ワーク切断開始時において、固定砥粒ワイヤの表面の砥粒の初期摩耗が大きいことと、砥粒の切れ味が十分でないためワイヤがワークの軸方向に振動することとから、切り始め部分のウェーハの厚さが薄くなり、ウェーハの厚さむら(TTV:Total Thickness Variation)が大きくなってしまうという問題があった。切断時の固定砥粒ワイヤの初期摩耗を抑制し、十分な切れ味を確保して良好なウェーハ品質を実現するには、切断開始前の固定砥粒ワイヤに適切なドレッシング(目立て)を行うことが必要となる。
【0009】
切断開始前に固定砥粒ワイヤにドレッシングを行う方法としては、ワイヤソー装置内に電解槽を導入して導電性液による電解反応でドレッシングを行う方法(特許文献1)や、ワイヤソー装置内にドレッシングストーンを内蔵してドレッシングを行う方法(特許文献2)が知られている。しかし、上記特許文献1、2の方法では、新規にワイヤソーを設計するか、従来のワイヤソーを改造する必要があり、その対応は容易ではない。そのため従来では、コストが高くなってしまったり、簡単に実施できなかったりするといった問題があった。
【0010】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、低コストで簡単に固定砥粒ワイヤのドレッシングを行い、ウェーハの厚さむらを抑制できるワークの切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、一組のワイヤリールの一方から送り出され、他方のワイヤリールに巻き取られる、表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを、複数の溝付ローラに巻掛けることによってワイヤ列を形成し、前記固定砥粒ワイヤを軸方向に往復走行させながら、前記ワイヤ列に対してワークを切り込み送りすることによって、前記ワークが軸方向に並ぶ複数の箇所で同時に切断されるワイヤソーによるワークの切断方法において、前記ワークの切断開始前に、前記ワークの切断を伴わない前記固定砥粒ワイヤの走行を行うことで、前記ワイヤリール内で前記固定砥粒ワイヤ同士を擦り合わせて、前記固定砥粒ワイヤの表面をドレッシングする砥粒摩耗工程を行い、該砥粒摩耗工程において、前記固定砥粒ワイヤの表面のドレッシングを30分以上行うことを特徴とするワークの切断方法を提供する。
【0012】
このように、30分以上の空運転による砥粒摩耗工程を導入することで、ワイヤリール内で固定砥粒ワイヤ同士が擦り合わされ、砥粒のドレッシングが十分な時間行われることにより、ドレッシングが行われた固定砥粒ワイヤでワークを切断することができるので、切断したウェーハの厚さむらを抑制できる。また、このような方法であれば、既存のワイヤソーで実施でき、新規にワイヤソーを設計する必要や従来のワイヤソーを改造する必要が必ずしもないため、コストの増加を抑制でき、かつ、簡単に実施できる方法となる。
【0013】
このとき、前記砥粒摩耗工程において前記固定砥粒ワイヤの表面をドレッシングする際、前記固定砥粒ワイヤの前記ワイヤリールへの巻きつけ張力を15N以上とすることが好ましい。
【0014】
このように、ワイヤリールへの固定砥粒ワイヤの巻きつけ張力を15N以上とすれば、ワイヤリール内で固定砥粒ワイヤ同士が十分に強い力で擦り合わされ、確実にドレッシングが行われた固定砥粒ワイヤで切断を開始することができるので、切断したウェーハの厚さむらをより小さく抑制することができる。
【0015】
またこのとき、前記砥粒摩耗工程において前記固定砥粒ワイヤの表面をドレッシングする際、前記固定砥粒ワイヤの表面のドレッシングを60分以上行うことが好ましい。
【0016】
このように、砥粒摩耗工程の時間を60分以上とすれば、ワイヤリール内で固定砥粒ワイヤ同士がさらに十分な時間擦り合わされ、より確実にドレッシングが行われた固定砥粒ワイヤで切断することができるので、切断したウェーハの厚さむらをより小さく抑制することができる。
【0017】
また、前記砥粒摩耗工程において前記固定砥粒ワイヤの表面をドレッシングする際、前記固定砥粒ワイヤの往復走行のワイヤ走行量及びサイクル時間を調整することによって、前記ワークの切断開始点から前記ワークの直径の20%以上の距離まで前記ワークを切断するのに必要な長さの前記固定砥粒ワイヤをドレッシングすることが好ましい。
【0018】
このように、ワークを切断開始点から、少なくともワーク径の20%の距離まで切断するのに必要な長さの固定砥粒ワイヤをドレッシングすれば、特に厚さむらが生じ易い切断開始点からワークの直径の約20%の距離深さまでの切断を、確実にドレッシングが行われた固定砥粒ワイヤで切断することができるので、切断したウェーハの厚さむらをより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のワークの切断方法であれば、低コストで簡単に固定砥粒ワイヤのドレッシングを行い、切断したウェーハの厚さむらを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のワークの切断方法で使用できるワイヤソーの一例を示す図である。
図2】実施例1〜4において得られたウェーハの切断位置に対する平均厚さを示すグラフである。
図3】比較例において得られたウェーハの切断位置に対する平均厚さを示すグラフである。
図4】一般的なワイヤソーの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
上記のように、固定砥粒ワイヤソーを用いたワークの切断では、未使用の固定砥粒ワイヤの表面の砥粒の初期摩耗が大きいこと、砥粒の切れ味が十分でないため固定砥粒ワイヤがワークの軸方向に振動することなどから、切り始め部分のウェーハの厚さが薄くなり、ウェーハの厚さむらが大きくなってしまうという問題があった。また、これに対する対策として、固定砥粒ワイヤをドレッシングしていたが、その場合、ワイヤソーに新たにドレッシング機構を設けていたので、コストが増加し、切断工程も煩雑となるという問題があった。
【0023】
そこで、本発明者はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、ワークの切断開始前に、ワークの切断を伴わない固定砥粒ワイヤの走行によりワイヤリール内で固定砥粒同士を擦り合わせて、固定砥粒ワイヤ表面をドレッシングする砥粒摩耗工程を導入し、固定砥粒ワイヤの表面のドレッシングを行うことでウェーハの厚さムラを抑制できることを知見し、本発明を完成させた。
【0024】
まず、本発明のワークの切断方法で使用できるワイヤソーの一例について図1を参照して説明する。図1に示すように、ワイヤソー1は、主に、ワークWを切断するための固定砥粒ワイヤ2、固定砥粒ワイヤ2を巻き掛けた複数の溝付ローラ3、3’、複数の溝付ローラ3、3’間に形成されたワイヤ列11、固定砥粒ワイヤ2に張力を与えるための張力付与機構4、4’、切断するワークWを保持しながらワイヤ列11に切り込み送りすることができ、なおかつ、切り込み送りした方向とは逆方向に相対的にワークWを移動させることもできるワーク送り手段5、切断時に冷却液9を供給するノズル8を備えた冷却液供給機構6を具備する。
【0025】
また、ワイヤソー1は、一組のワイヤリール7、7’を具備している。固定砥粒ワイヤ2は、一方のワイヤリール7から送り出され、張力付与機構4を経て、溝付きローラ3に入っている。固定砥粒ワイヤ2は溝付きローラ3、3’に300〜400回程度巻掛けられた後、もう一方の張力付与機構4’を経てワイヤリール7’に巻き取られている。固定砥粒ワイヤ2としては、例えば、ピアノ線の表面にダイヤモンド砥粒をニッケル電着したものを用いることができる。
【0026】
また、溝付きローラ3、3’は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に一定のピッチで溝を切ったローラであり、巻掛けられた固定砥粒ワイヤ2が、駆動用モータ10によって予め定められた周期で軸方向に往復走行できるようになっている。
【0027】
次に、図1のようなワイヤソー1を使用する場合を例に本発明のワークの切断方法を説明する。本発明の切断方法においては、ワーク送り手段5によってワイヤ列11に対してワークWを切り込み送りする前(即ち、ワークWの切断開始前)に、ワークWの切断を伴わない固定砥粒ワイヤ2の走行を行うことで、ワイヤリール7、7’内で固定砥粒ワイヤ2同士を擦り合わせて、固定砥粒ワイヤ2の表面をドレッシングする砥粒摩耗工程を30分以上行う。ワークWの切断開始前に、固定砥粒ワイヤ2を軸方向に30分以上往復走行させることにより、ワイヤリール7、7’内に巻きつけられた固定砥粒ワイヤ2同士が擦り合わされ、固定砥粒ワイヤ2の表面に固着された砥粒のドレッシングが行われることで、切断後に回収されるウェーハ状のワークWの厚さむらを抑制できる。また、この方法は簡便であり、また、特にドレッシング機構などを新たに設ける必要もないので、コストの増加を防止することができる。
【0028】
このとき、砥粒摩耗工程でドレッシングを行う際、ワイヤリール7および7’への固定砥粒ワイヤ2の巻きつけ張力を15N以上とすることが好ましい。このように、固定砥粒ワイヤ2の巻きつけ張力を15N以上とすれば、ワイヤリール7および7’内で固定砥粒ワイヤ2同士が十分に強い力で擦り合わされ、確実にドレッシングが行われた固定砥粒ワイヤ2でワークWを切断することができるので、切断後に回収されるウェーハの厚さむらをより確実に抑制できる。なお、固定砥粒ワイヤ2の断線を防ぐために、巻きつけ張力は30N以下が好ましい。
【0029】
また、砥粒摩耗工程でドレッシングを行う際、砥粒摩耗工程の実施時間を60分以上とすることが好ましい。このように、砥粒摩耗工程におけるドレッシングの実施時間を60分以上とすれば、ワイヤリール7および7’内で固定砥粒ワイヤ2同士が十分な時間擦り合わされ、確実にドレッシングが行われた固定砥粒ワイヤ2で切断することができるので、切断後に回収されるウェーハ状のワークWの厚さむらをより確実に抑制できる。尚、実施時間の上限は特に限定されないが、あまりに長時間行うと時間の無駄であるので、5時間以内とすることが好ましい。
【0030】
また、砥粒摩耗工程でドレッシングを行う際、固定砥粒ワイヤ2の往復走行のワイヤ走行量およびサイクル時間(固定砥粒ワイヤの前進と後退を切り替える時間)を調整することによって、ワークWを切断開始点から、ワークWの直径の少なくとも20%の距離まで切断するのに必要な長さの固定砥粒ワイヤ2をドレッシングすることが好ましい。このようにすれば、特に厚さむらが生じ易い切断開始点からワークWの直径の約20%の距離の深さまでの切断を、確実にドレッシングが行われた固定砥粒ワイヤ2で切断することができるので、切断後に回収されるウェーハ状のワークWの厚さむらを一層抑制することができる。
【0031】
上記のような砥粒摩耗工程の実施後に、固定砥粒ワイヤ2をワイヤ軸方向に往復走行させながら、ワイヤ列11に対してワークWを切り込み送りすることによって、ワークWをワークWの軸方向に並ぶ複数の箇所で同時に切断する。切断するワークWとしては、例えば、シリコン単結晶インゴットや化合物半導体インゴットなどを用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1〜4)
図1に示すようなワイヤソーを用いて、本発明のワークの切断方法によるワークの切断を行った。切断するワークとしては直径約300mmの円柱状のシリコン単結晶インゴットを用いた。また、切断に用いる固定砥粒ワイヤとしては、下記の表1のような芯線にダイヤモンド砥粒をニッケル電着によって固着した固定砥粒ワイヤを用いた。
【0034】
【表1】
【0035】
また、各実施例の砥粒摩耗工程の条件及び砥粒摩耗工程後のワークの切断条件を下記の表2に示す条件とした。実施例1〜4では、砥粒摩耗工程時の固定砥粒ワイヤのリールへの巻きつけ張力と砥粒摩耗工程の時間を変化させた。一方で、ワークの切断条件は変化させなかった。
【0036】
【表2】
【0037】
以上のような条件でワークの切断を行い、実施例1〜4により切り出されたウェーハの切断方向の厚さの平均をプロットした(図2)。
【0038】
(比較例)
砥粒摩耗工程を行うことなく、実施例1〜4と同じ表1の固定砥粒ワイヤを用いてワークの切断を行った。その他のワークの切断条件は表2の実施例1〜4と同じ条件とした。切断終了後、実施例1〜4と同様に、切り出されたウェーハの切断方向の厚さの平均をプロットした(図3)。
【0039】
図2、3から分かるように、全ての実施例で、比較例よりもウェーハの厚さのむらが小さくなった。このように、本発明のワークの切断方法であれば、30分以上の空運転によって低コストで簡単に固定砥粒ワイヤのドレッシングを行い、ウェーハの厚さむらを抑制できることが確認できた。
【0040】
また、特に、砥粒摩耗工程での巻きつけ張力を実施例4の10Nから15Nへ変更した実施例1で、厚さむらがより抑制されていることが確認された。また、砥粒摩耗工程におけるドレッシングの時間を実施例4の30分から60分へ変更した実施例2で、切断方向の厚さむらがより抑制されていることが確認された。さらに、砥粒摩耗工程での巻きつけ張力と時間の両方をそれぞれ10Nから15Nへ、30分から60分へ変更した実施例3で切断方向の厚さむらが特に大きく抑制されることが確認された。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0042】
1…ワイヤソー、 2…固定砥粒ワイヤ、 3、3’…溝付ローラ、
4、4’…張力付与機構、 5…ワーク送り手段、 6…冷却液供給機構、
7、7’…ワイヤリール、 8…ノズル、 9…冷却液、 10…駆動用モータ、
11…ワイヤ列、 W…ワーク。
図1
図2
図3
図4