特許第6693485号(P6693485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693485
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】炭素濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20200427BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20200427BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
   H01L21/66 L
   G01N21/64 Z
   C30B29/06 501A
   C30B29/06 502Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-157924(P2017-157924)
(22)【出願日】2017年8月18日
(65)【公開番号】特開2019-36661(P2019-36661A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2019年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 明浩
【審査官】 小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−101529(JP,A)
【文献】 特開2012−102009(JP,A)
【文献】 特開2013−152977(JP,A)
【文献】 特開平4−344443(JP,A)
【文献】 特開2015−222801(JP,A)
【文献】 特開2007−187624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
C30B 29/06
G01N 21/64
G01N 21/00
G01R 31/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローティングゾーン(FZ)法により製造されたFZシリコン単結晶からなる測定用半導体試料中の炭素濃度をフォトルミネッセンス(PL)法によって測定した測定値から求める炭素濃度測定方法であって、
予め、製法が異なることにより含有酸素濃度が異なる複数種類の原料からそれぞれFZ法により製造されたFZシリコン単結晶を準備し、該それぞれのFZシリコン単結晶からなる標準サンプルからフォトルミネッセンス(PL)法による測定値と炭素濃度との関係を示す検量線を前記FZシリコン単結晶の原料の種類別に作成して用意しておき、
該用意した複数の検量線の中から前記測定用半導体試料の原料と同じ種類の原料の検量線を選択し、
該選択した検量線を用いて、前記測定用半導体試料のフォトルミネッセンス法による測定値から前記測定用半導体試料の炭素濃度を求めることを特徴とする炭素濃度測定方法。
【請求項2】
前記原料の種類別に複数用意する検量線は、原料の種類が多結晶シリコンインゴットである前記標準サンプルとチョクラルスキー法で引き上げたシリコン単結晶インゴットである前記標準サンプルのそれぞれについて用意することを特徴とする、請求項1に記載の炭素濃度測定方法。
【請求項3】
前記検量線を求めるための前記標準サンプルについてPL法以外の測定手法によって測定した炭素濃度の測定値を参照して、前記PL法による測定値と炭素濃度との関係を示す検量線を作成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の炭素濃度測定方法。
【請求項4】
前記検量線における、前記PL法以外の測定法によって測定する炭素濃度領域を1x1014atoms/cm以上とすることを特徴とする請求項3に記載の炭素濃度測定方法。
【請求項5】
前記検量線として、前記PL法以外の測定方法によって測定された炭素濃度を参照して作成した検量線を外挿したものを用意することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の炭素濃度測定方法。
【請求項6】
前記測定用半導体試料の炭素濃度が1x1014atoms/cm以上と測定された場合に、該測定された炭素濃度が、PL法以外の測定方法により測定した炭素濃度と一致しているかどうかを検証し、一致していない場合には前記検量線を補正することを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の炭素濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体試料、特にはシリコンウェーハ中の炭素濃度を測定する方法に関し、特にフローティングゾーン(FZ)法により製造されたFZシリコン単結晶(FZ単結晶と称する)の炭素濃度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CIS(CMOSイメージセンサー)やパワーデバイス用基板として用いられる半導体ウェーハでは高ライフタイム化の要求があり、ライフタイム低下を避けるために低炭素化が求められており、低炭素濃度を正確に測定することは非常に重要である。従来よりFT−IR法(フーリエ変換赤外分光法)で炭素濃度を測定することは可能だが、昨今の要求レベルに比べると感度が悪い。それに比べ低温フォトルミネッセンス(PL)法は高感度である。
【0003】
PL法とは、バンドギャップよりも大きいエネルギーの光を励起源に用いて、励起光をシリコンウェーハに照射すると励起された電子正孔対が形成される。これらが準安定状態を経由して再結合する際の発光(ルミネッセンス)を検出し、シリコンウェーハに存在する欠陥および不純物を評価・定量する方法である。
【0004】
シリコン単結晶に電子線を照射し、その単結晶中に生成された炭素・酸素複合欠陥に起因したフォトルミネッセンスのピーク強度からシリコン単結晶中の炭素不純物濃度を測定する方法が特許文献1に開示され、また、そのようなフォトルミネッセンスのピーク強度はシリコン単結晶中の炭素濃度と酸素濃度の両方に依存することが特許文献2に開示されている。
【0005】
特許文献1の測定方法は、シリコン単結晶中の炭素濃度と上記PL法によるスペクトルにおける格子間炭素・置換型炭素複合欠陥起因のピーク(G線)強度のシリコンピーク(特許文献1ではTO線と表記、以下、自由励起子発光(FE:Free Exciton)線と表記する)強度に対する比(強度比)とを、炭素濃度が異なる複数のシリコン単結晶毎に取得し、炭素濃度と強度比の相関関係を予め導出する。次いで、その相関関係と炭素濃度が未知のシリコン単結晶(測定用シリコン単結晶)から取得した上記ピークの強度比から測定用シリコン単結晶中の炭素濃度を測定する方法である。しかし、ここではシリコン単結晶中の酸素濃度を考慮しておらず、あくまで酸素濃度が同一のシリコン単結晶でしか炭素濃度を測定できない(特許文献2)。
【0006】
そこで特許文献3には、シリコン単結晶中の炭素濃度と酸素濃度の比([Cs]/[Oi])と、電子線照射後のG線と格子間炭素・格子間酸素複合欠陥起因のピーク(C線)のピーク強度比(G/C)の相関を求めておき、測定用シリコン単結晶の酸素濃度、ピーク強度比の結果から相関関係に基づき未知の炭素濃度を求める炭素濃度評価方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献4の[0065]段落には、シリコン半導体中の酸素濃度によってC線強度とG線強度のバランスが変化するため、G線強度と不純物のイオン注入量との関係をより正確に求めるためには、第1試料の各々の酸素濃度が等しいことが好ましい、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−152977
【特許文献2】特開平4−344443
【特許文献3】特開2015−101529
【特許文献4】特開2015−222801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、PL法による炭素濃度測定では、炭素と酸素の複合欠陥によるピークを用いるため、酸素濃度に対する補正は数多く研究されてきた。しかしながら、どの程度酸素濃度が異なったら別の検量線を用いる必要があるのかは明らかにされていない。特にFZ単結晶の場合はCZ単結晶(チョクラルスキー(CZ)法により製造された単結晶)に比較して酸素濃度が非常に低く、従来は1つの検量線で炭素濃度を定量しても問題ないと考えられていた。
ところが、本発明者は、FZ単結晶の原料として、多結晶シリコンインゴット(純ポリと称する)およびCZ結晶シリコンインゴット(CZ単結晶と称する)を用いた場合、従来のように1つの検量線を用いてPL法によって炭素濃度を求めると、純ポリを原料として用いたFZ単結晶は、低濃度ではFT−IR法で求めた炭素濃度とPL法で求めた炭素濃度とのずれが大きくなってしまい、逆に、CZ単結晶を原料として用いたFZシリコン単結晶では、高濃度ではFT−IR法で求めた炭素濃度とPL法で求めた炭素濃度とのずれが大きくなってしまい、正確な炭素濃度を定量することが困難であるという問題があることを見出した。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、PL法による炭素濃度測定において、特にFZ単結晶からなる半導体試料において、原料の種類が異なっても正確な炭素濃度測定が可能である炭素濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、フローティングゾーン(FZ)法により製造されたFZシリコン単結晶からなる測定用半導体試料中の炭素濃度をフォトルミネッセンス(PL)法によって測定した測定値から求める炭素濃度測定方法であって、
予め、製法が異なることにより含有酸素濃度が異なる複数種類の原料からそれぞれFZ法により製造されたFZシリコン単結晶を準備し、該それぞれのFZシリコン単結晶からなる標準サンプルからフォトルミネッセンス(PL)法による測定値と炭素濃度との関係を示す検量線を前記FZシリコン単結晶の原料の種類別に作成して用意しておき、
該用意した複数の検量線の中から前記測定用半導体試料の原料と同じ種類の原料の検量線を選択し、
該選択した検量線を用いて、前記測定用半導体試料のフォトルミネッセンス法による測定値から前記測定用半導体試料の炭素濃度を求めることを特徴とする炭素濃度測定方法である。
【0012】
このように、FZ単結晶の酸素濃度は、その原料の含有酸素濃度に依存して決まるため、酸素濃度が異なる原料の種類別に検量線を用意することで、正確に炭素濃度を定量することが出来る。
【0013】
前記原料の種類別に複数用意する検量線は、原料の種類が多結晶シリコンインゴット(純ポリ)である前記標準サンプルとチョクラルスキー(CZ)法で引き上げたシリコン単結晶インゴット(CZ単結晶)である前記標準サンプルのそれぞれについて用意することが好ましい。
【0014】
このように、純ポリは含有酸素濃度が低く、一方CZ単結晶は高い。従って、これらの原料の種類別に検量線を用意すれば正確な炭素濃度測定が可能となる。
【0015】
このとき、前記半導体標準サンプルの炭素濃度をPL法以外の測定手法によって測定し、該測定された炭素濃度を参照して、前記PL法による測定値とPL法以外の測定手法による炭素濃度との関係を示す検量線を作成することが好ましい。
【0016】
また、前記検量線における、前記PL法以外の測定手法によって測定する炭素濃度領域を1×1014atoms/cm以上とすることができる。
【0017】
すなわち、PL法では高感度に炭素を検出できるため、PL法以外の測定手法よりも低炭素濃度の測定が可能となる。そこで、従来手法(PL法以外の測定手法)で定量できる高炭素濃度領域(例えば、1×1014atoms/cm以上の領域)において、従来手法により定量された炭素濃度とPL測定値で検量線を作成すれば、信頼性の高い検量線を作成することができる。
【0018】
またこの場合、前記検量線として、前記PL法以外の測定手法によって測定された炭素濃度を参照して作成した検量線を外挿したものを用意することが好ましい。
【0019】
PL法以外の測定手法によって測定された炭素濃度を参照して作成した検量線を外挿した検量線を用いることによって、例えば、1×1013atoms/cm程度といった低炭素濃度の定量が可能となる。
【0020】
また、前記測定用半導体試料中の炭素濃度が1×1014atoms/cm以上と測定された場合に、該測定された炭素濃度が、PL法以外の測定手法により測定した炭素濃度と一致しているかどうかを検証し、一致していない場合には前記検量線を補正することが好ましい。
【0021】
このように検量線を補正することで、より信頼性の高い検量線を得て、より正確な測定ができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、半導体試料、特にFZ単結晶からなる半導体試料において、原料の種類が異なり、含有酸素濃度が違っていても、正確な炭素濃度測定が可能である炭素濃度測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】PL法によるG線強度/FE線強度とFT−IR法による炭素濃度の関係における従来の検量線を示す。
図2】FT−IR法による炭素濃度と、従来の検量線を用いてPL法により求めた炭素濃度の相関関係を示す。
図3】PL法によるG線強度/FE線強度とFT−IR法による炭素濃度の関係における原料の種類別の検量線を示す。
図4】FT−IR法による炭素濃度と、本発明の手法による検量線を用いてPL法により求めた炭素濃度の相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
従来、FZ単結晶は低酸素であることから測定値に酸素の影響はないと考えられ、一つの検量線を用いてPL法で炭素濃度を求めていた。ところが、製法の違いにより含有酸素濃度が異なる原料を用いた場合、FT−IR法で測定した値とPL法から求めた値にズレが大きいことが判った。そこで、本発明者は、含有酸素濃度が異なる原料ごとに検量線を作ることに想到し、本発明を完成させた。
【0026】
すなわち、本発明は、FZ単結晶からなる測定用半導体試料中の炭素濃度をフォトルミネッセンス(PL)法によって測定した測定値から求める炭素濃度測定方法であって、
予め、製法が異なることにより含有酸素濃度が異なる複数種類の原料からそれぞれFZ法により製造されたFZ単結晶を準備し、該それぞれのFZ単結晶からなる標準サンプルからフォトルミネッセンス(PL)法による測定値と炭素濃度との関係を示す検量線を前記FZ単結晶の前記原料の種類別に作成して用意しておき、
該用意した複数の検量線の中から前記測定用半導体試料の原料と同じ種類の原料の検量線を選択し、
該選択した検量線を用いて、前記測定用半導体試料のフォトルミネッセンス法による測定値から前記測定用半導体試料の炭素濃度を求めることを特徴とする炭素濃度測定方法である。
【0027】
本発明における炭素濃度測定法では、半導体標準サンプルの炭素濃度をPL法以外の測定手法によって測定し、該測定された半導体標準サンプルの炭素濃度を参照して、PL法による測定値とPL法以外の測定手法による炭素濃度との関係を示す検量線を作成した後、測定用半導体試料の「PL法による測定値」を求め、前記検量線から該測定用半導体試料の炭素濃度を求める方法である。
【0028】
半導体標準サンプルのPL法以外による炭素濃度測定手法としては、例えば、公知のFT−IR法やSIMS法(二次イオン質量分析法)が挙げられる。PL法以外の測定手法(特に、FT−IR法)によって測定する炭素濃度領域は、1×1014atoms/cm以上とすることができ、上限については、シリコン単結晶が有転位化しない5×1017atoms/cmとすれば良い。
【0029】
PL法以外による炭素濃度測定手法で炭素濃度を測定した後、半導体標準サンプルについて「PL法による測定値」を求める。PL法による炭素濃度測定は従来の方法に倣えば良い。即ち、サンプルに電子線を照射して置換位置の炭素原子(Cs)を格子間位置(Ci)に置換し、G線(Ci−Cs)やC線(Ci−Oi)と呼ばれる炭素・酸素複合欠陥を生成させる。これを液体Heで冷却しながらPL測定し、シリコン由来のルミネッセンスであるFE線も含めてそれぞれのピーク強度を得る。そして、PL測定値としては、G線強度、C線強度や、FE線強度で規格化されたG線強度/FE線強度やC線強度/FE線強度、更にはドーパント濃度で規格化されたG線強度/B(ボロン濃度)、C線強度/B(ボロン濃度)、G線強度/P(リン濃度)、C線強度/P(リン濃度)、などを用いることが出来る。
その際、本発明ではFZ単結晶における炭素濃度の検量線をFZ単結晶の含有酸素濃度が異なる原料の種類別に複数用意する。
【0030】
そこで予め上述のFZ単結晶における炭素濃度の検量線をFZ単結晶の原料の種類別に複数用意するため、標準サンプルとして、直径150mm、リンドープ、抵抗率150ΩcmのFZ単結晶を引き上げた。原料として多結晶シリコンインゴットを用いたFZ単結晶は4本、CZ単結晶インゴットを用いたFZ単結晶は5本である(以下、前者を純ポリFZ、後者をCZ−FZと称する場合がある)。
【0031】
ここでは、FT−IR法による炭素濃度測定値とPL法による測定値から求めた炭素濃度の比較を行った。
【0032】
尚、PL法では低炭素濃度の測定が可能だが、PL法の測定結果の信頼性をFT−IR法で確認するため、敢えてFT−IR法で検出できる高炭素濃度となるように結晶を製造した。
【0033】
FT−IR法による炭素濃度測定はJEITAで規格化されており(JEITA EM−3503)、その検出下限は2×1015atoms/cmである。最近の学会では、1×1014 atoms/cmを測定できた、との報告もある(第76回応用物理学会秋季学術講演会、13p−1E−1、2015年)。
【0034】
上記の標準サンプルであるFZ単結晶育成後、それぞれの結晶について結晶尾部(肩部から100cmの位置)からサンプルを切り出した。
まず初めに、電子線を照射しない状態で各サンプルの炭素濃度をFT−IR法にて測定した。次に、電子線を2MeVで400kGy照射した後、PL測定を行った。FT−IR法で定量された炭素濃度と、電子線照射後のPL測定で得られたG線強度/FE線強度の関係(検量線)を図1に示す。
【0035】
ここで、それぞれの結晶の結晶尾部(肩部から100cmの位置)における酸素濃度は、純ポリFZは4本全てが5.0×1015 atoms/cmであった。一方、CZ−FZは1.3 〜 2.3×1016 atoms/cmであった。このように、FZ単結晶では純ポリFZとCZ−FZの間で酸素濃度に大きな違いはなく、濃度も十分に小さい値であること、また図1の関係(検量線)も1本とみなすことが出来るため、従来は1つの検量線で炭素濃度を定量しても問題ないと考えられていた。
【0036】
そこで、さらに測定用試料として、純ポリFZを10本、CZ−FZを10本引き上げ、それぞれの結晶尾部(肩部から100cmの位置)からサンプルを切り出した。初めに、電子線を照射しない状態で各サンプルの炭素濃度をFT−IR法にて測定した。次に、電子線を2MeVで400kGy照射した後、PL測定を行い、図1の関係(検量線)に従い炭素濃度を求めた。
【0037】
図2に、FT−IR法により求めた炭素濃度と、図1の従来法の検量線を用いてPL法により求めた炭素濃度の関係を示す。このように、純ポリFZの場合は、低濃度の場合に両者のずれが大きく、高濃度では両者の値は近づいた。一方、CZ−FZの場合は、低濃度で両者の値はほぼ一致したが、高濃度では両者のズレが大きくなってしまうことを知見した。
【0038】
この原因として、純ポリFZとCZ−FZで検量線を区別せず、同じ検量線を用いたためと推定された。そこで、発明者は、この推定を確認すべく、図1の検量線をFZ単結晶の原料種類別に求めることとした。これを図3に示す。図3より、確かに純ポリFZとCZ−FZの検量線は異なっていることが知見された。
【0039】
これは、従来は、純ポリFZとCZ−FZとでは、いずれも酸素濃度が十分に小さく、これらの間の酸素濃度差はほとんど無いと考え、両者を区別することなく1本の検量線で良いと考えられていたが、実際には両者の酸素濃度差は有意であり、両者で検量線を区別する必要があることを意味している。即ち、図3において、同程度の炭素濃度に対して、純ポリFZよりCZ−FZの方がG/FE値が小さい。これは、CZ−FZの方が酸素濃度が高いため、純ポリFZよりもC線(Ci−Oi)が形成されやすく、言いかえるとG線(Ci−Cs)が形成されにくく、G/FE値が小さくなっている。また、純ポリFZやCZ−FZのような低酸素濃度の場合は、炭素が高濃度に存在すると(例えば2x1015 atoms/cm以上(図3からの類推))、十分に多くのG線が形成され、酸素濃度の影響は見え難くなる。
【0040】
以上のように、FZ単結晶の正確な炭素濃度測定法としては、特に低温PL法が対象とするような低炭素濃度領域では、FZ単結晶の原料種類別に検量線を作成する必要があることが判った。
【0041】
FZ単結晶の原料種類別の検量線を、上記20本のFZ単結晶に原料種類別に適用した。図4には、FT−IR法により求めた炭素濃度と、図3の純ポリFZとCZ−FZの検量線を用いた本手法によるPL法から求めた炭素濃度との関係を示す。両者は良い一致を示した。このように、FZシリコン単結晶の場合は、その原料種類別に検量線を用意する必要があることを確認できた。
【0042】
なお、CZ−FZの場合について、原料のCZ結晶の含有酸素濃度の影響について確認した。
【0043】
図1図3の作図に用いた5本のCZ−FZ、および、図2図4の作図に用いた10本のCZ−FZの、原料としてのCZ結晶の尾部(肩部から100cmの位置)における酸素濃度は、4.0×1017 atoms/cmから1.2×1018 atoms/cmであった。
このようなCZ原料を用いて作製したFZ単結晶中の酸素濃度は、同じく結晶尾部(肩部から100cmの位置)において、1.3 〜 2.3×1016 atoms/cmであった。このように、FZ工程でCZ結晶インゴット中の酸素がほとんど飛散し、FZ結晶中に残存する酸素濃度はある程度一定になることから、CZ−FZの検量線は酸素濃度別に用意する必要はなく、1つで良いことを確認した。
即ち、FZ単結晶中の炭素濃度を定量するためには、原料のCZ結晶の酸素濃度に関係なく、FZ単結晶の原料の種類別に検量線を用意することが、必要かつ十分である。
【0044】
さらに、従来手法で定量できない低濃度領域については、ここで得られた検量線を外挿した検量線を用意することで定量が可能となり、具体的には、外挿した検量線に当てはめると、1×1014atoms/cmよりも低炭素濃度、例えば、1×1013atoms/cm程度といった低炭素濃度の定量が可能である。
【0045】
尚、測定された測定用半導体試料中の炭素濃度が1×1014atoms/cm以上と高炭素濃度である場合、該測定された炭素濃度が、PL法以外の測定手法により測定した炭素濃度と一致しているかどうかを検証することで、検量線の信頼性を検証することができる。一致していない場合には検量線を補正することにより、より一層信頼性の高い検量線を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例)
上述の通り、予め純ポリFZとCZ−FZとで原料種類別に検量線を区別して図3の検量線を得た。
次に、測定用試料として、直径150mm、リンドープ、抵抗率150Ωcmとし、原料に純ポリおよびCZ単結晶を用いたFZ単結晶を1本ずつ新たに育成した(前者を結晶A、後者を結晶Bとする)。PL法では低炭素濃度の測定が可能だが、PL法の測定結果の信頼性をFT−IR法で確認するため、ここでも敢えてFT−IR法で検出できる高炭素濃度となるように結晶を製造した。それぞれの結晶尾部(肩部から100cmの位置)からサンプルを切り出し、サンプルの一部に電子線を2MeVで400kGy照射した後、PL測定を行った。
その結果、G線強度/FE線強度は、結晶Aでは88.5、結晶Bでは35.1、と求まった。そして、実施例として、原料に応じ、結晶Aでは純ポリFZの検量線を、結晶BではCZ−FZの検量線を適用して炭素濃度を求めたところ、それぞれのサンプルの炭素濃度は、結晶Aは4.2×1014 atoms/cm、結晶Bは4.6×1014atoms/cm、と求まった。
一方、結晶尾部から切り出したサンプルの残りをそのままFT−IRで測定し、炭素濃度を求めた。その結果、結晶A、Bともに、4.4×1014atoms/cmであり、PL法で求めた炭素濃度と良く一致することが確認できた。
【0048】
次に、測定用試料として、直径150mm、リンドープ、抵抗率150Ωcmとし、原料にCZ単結晶を用いたFZ結晶を用意した。この時は低炭素濃度となるように結晶を製造した(結晶C)。結晶尾部(肩部から100cmの位置)からサンプルを切り出し、サンプルの一部に電子線を2MeVで400kGy照射した後、PL測定を行った。
その結果、G/FEは2.8であった。実施例として、原料の種類に合わせてCZ−FZの検量線を用い、これを低濃度側に外挿すると、炭素濃度は3.4×1013atoms/cmと求まった。
【0049】
(比較例)
比較例として、実施例で求めた結晶A、BのPL測定値(G線強度/FE線強度)を、図1の従来の検量線に適用し、炭素濃度を求めた。その結果、結晶Aでは7.7×1014atoms/cm、結晶Bでは3.7×1014atoms/cmとなり、特に結晶A(純ポリFZ)は実施例で求めた値やFT−IRで求めた値から大きく異なってしまった。これは、図1図3の検量線を比較して分かるように、4×1014atoms/cm付近におけるFT−IR法とPL法による炭素濃度のズレは、CZ−FZでは小さいが、純ポリFZでは大きいからである。
【0050】
また、実施例の結晶Cの結晶尾部から切り出した残りのサンプルをFT−IR測定したところ、検出下限値以下で定量できなかった。これに対して、実施例による手法では、上記の通り原料の種類に合わせた検量線を外挿することによって、定量化が可能であることが確認できた。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。


図1
図2
図3
図4