【文献】
S.Saito(他5名),Technology for next-generation digital terrestrial broadcasting . Field experiments of 8K Super Hi-Vision transmission using dual-polarized MIMO and ultramultilevel OFDM,2014 IEEE International Symposium on Broadband Multimedia Systems and Broadcasting,米国,IEEE,2014年 6月,mm14-024,pp.1-6
【文献】
齋藤進(他7名),8Kスーパーハイビジョン地上波長距離伝送実験,放送技術,日本,2014年 5月,第67巻5月号,pp.181-185
【文献】
齋藤進(他5名),偏波MIMO−超多値OFDM方式を用いた8Kスーパーハイビジョン地上波伝送実験,映像情報メディア学会技術報告,日本,映像情報メディア学会,2014年 2月,Vol.38,No.8,pp.53-56
【文献】
Y.Nakaya(他4名),Measured Capacity Evaluation of Indoor Office MIMO Systems using Receive Antenna Selection,2006 IEEE 63rd Vehicular Technology Conference,米国,IEEE,2006年 5月,pp.2922-2926
【文献】
A.Yoshimoto(他1名),Capacity-based Link Design of MIMO Radio Systems,2007 4th International Symposium on Wireless Communication Systems,米国,IEEE,2007年10月,pp.543-547
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のアンテナからなる送信アンテナを介して送信された信号を、MIMO伝送路及び複数のアンテナからなる受信アンテナを介して受信し、受信信号に基づいて、所定地点の受信品質を測定する受信品質測定装置において、
前記受信信号に基づいて、帯域内のキャリア毎に、前記MIMO伝送路の伝送路行列を推定する伝送路推定部と、
前記伝送路推定部により推定された前記伝送路行列に基づいて、前記帯域内のキャリア毎に、条件数を算出する条件数算出部と、
前記条件数算出部により算出された前記条件数に対応する所要C/N劣化量を、条件数及び当該条件数に対応する所要C/N劣化量が格納されたテーブル、または、条件数及び当該条件数に対応する所要C/N劣化量の関係が定義された数式を用いて、前記帯域内のキャリア毎に特定し、前記帯域内のキャリア毎の所要C/N劣化量を前記帯域内で平均化し、帯域内平均所要C/N劣化量を求める所要C/N算出部と、
を備えたことを特徴とする受信品質測定装置。
複数のアンテナからなる送信アンテナを介して送信された水平偏波の変調信号及び垂直偏波の変調信号を、MIMO伝送路及び複数のアンテナからなる受信アンテナを介して受信し、水平偏波の受信信号及び垂直偏波の受信信号に基づいて、所定地点の受信品質を測定する受信品質測定装置において、
前記水平偏波の受信信号に基づいて、前記水平偏波の受信信号の受信電力を測定し、前記垂直偏波の受信信号に基づいて、前記垂直偏波の受信信号の受信電力を測定する受信電力測定部と、
前記水平偏波の受信信号に基づいて、前記水平偏波の受信信号の受信C/Nを計算し、前記垂直偏波の受信信号に基づいて、前記垂直偏波の受信信号の受信C/Nを計算するC/N計算部と、
前記水平偏波の受信信号及び前記垂直偏波の受信信号、前記受信電力測定部により測定された前記水平偏波の受信信号の受信電力及び前記垂直偏波の受信信号の受信電力、並びに、前記送信アンテナを介して送信された前記水平偏波の変調信号及び前記垂直偏波の変調信号に含まれる既知信号に基づいて、帯域内のキャリア毎に、前記MIMO伝送路の伝送路行列を推定する伝送路推定部と、
前記伝送路推定部により推定された前記伝送路行列に基づいて、前記帯域内のキャリア毎に、条件数を算出する条件数算出部と、
前記条件数算出部により算出された前記条件数に対応する所要C/N劣化量を、条件数及び当該条件数に対応する所要C/N劣化量が格納されたテーブル、または、条件数及び当該条件数に対応する所要C/N劣化量の関係が定義された数式を用いて、前記帯域内のキャリア毎に特定し、前記帯域内のキャリア毎の所要C/N劣化量を前記帯域内で平均化し、帯域内平均所要C/N劣化量を求める所要C/N算出部と、
前記所要C/N算出部により求めた帯域内平均所要C/N劣化量を、予め設定された本来の所要C/Nに加算し、実際の所要C/Nを求め、前記C/N計算部により計算された前記受信C/Nから前記実際の所要C/Nを減算することで、余裕度を算出する余裕度算出部と、
を備えたことを特徴とする受信品質測定装置。
【背景技術】
【0002】
8Kスーパーハイビジョンの伝送を目指して、衛星放送だけでなく次世代地上放送の検討が進められている。その中で、水平偏波及び垂直偏波を同時に使い、伝送容量を2倍に拡大させる偏波MIMO技術が注目されている。
【0003】
このような偏波MIMO技術において、信号の品質を判断する指標として、例えば搬送波電力対雑音電力比(C/N:Carrier to Noise Ratio)を用いることで、高精度に信号を分離する手法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、偏波MIMO技術を用いた地上デジタル放送において、MERまたは搬送波電力対雑音電力比(C/N:Carrier to Noise Ratio)を用いることで、特定の地点の受信品質を測定する受信品質測定装置が知られている。
【0005】
この受信品質測定装置は、特定の地点のMERまたは受信C/Nを測定し、送信側から信号を誤りなく受信するために必要なMERまたは受信C/N(以下、所要MER、所要C/Nという。)までの差を測定し、これを余裕度として提示する。余裕度の値が大きいほど、受信品質が良いことになる。
【0006】
地上デジタル放送では、水平偏波または垂直偏波のうちの片方の偏波のみを用いて送受信を行う技術、及び反射または遮蔽による周波数特性の歪みを補償する技術によって、所要C/Nの変動を小さくすることができる。これにより、その地点の受信品質の余裕度を観測することができる。
【0007】
しかしながら、偏波MIMO技術において、受信側は、受信特性の異なる2つの偏波を受信して復調を行い、偏波間の干渉を除去するための信号分離を行う。このため、同じ偏波MIMO伝送システムであっても、伝搬環境によっては所要C/Nが大きく変動してしまうことがあり得る。
【0008】
図7は、伝搬環境によって受信品質が変動する様子を示す図である。
図7(a)は、帯域内の周波数特性(伝送路特性)が一定であり、伝搬環境が良好な場合の受信品質を示し、
図7(b)は、周波数特性が一定でなく歪んでおり、伝搬環境が悪い場合の受信品質を示す。
【0009】
図7(a)に示すように、伝搬環境が良好な場合には、その地点における実際の所要C/Nは、偏波MIMO伝送システム本来の所要C/Nから乖離しない。このため、見かけの余裕度は、本来の余裕度に等しい。
【0010】
一方、
図7(b)に示すように、伝搬環境が悪い場合には、その地点における実際の所要C/Nは、偏波MIMO伝送システム本来の所要C/Nから乖離する。このため、見かけの余裕度は、実際の余裕度と大きく異なる。伝搬環境が極端に悪い場合には、実際の所要C/Nが受信C/Nを上回ってしまい、見かけは余裕があるにも関わらず受信不可という事態も起こり得る。
【0011】
偏波MIMO伝送システムにおいて、本来の所要C/Nと実際の所要C/Nとの間の差(所要C/N劣化量)は、条件数に対して、ある傾向を示すことが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0012】
この傾向は、帯域内の各キャリアにおいて条件数が一定である場合に適用することができるが、帯域内の各キャリアにおいて条件数が一定でない場合には適用が難しい。
【0013】
図8は、偏波MIMO伝送システムにおいて、実際のフィールドの伝送実験にて取得した帯域内の平均条件数及び所要C/N劣化量の関係を示す図である。横軸は帯域内の平均条件数(dB)、すなわち、帯域内で各キャリアの条件数を平均した値を示す。縦軸は所要C/N劣化量(dB)を示す。丸印は、取得したサンプルであり、αは、取得したサンプルに基づいて設定した両者の傾向を示す曲線である。
【0014】
図8において、曲線αは、帯域内で条件数が一定の場合の所要C/N劣化量の特性を示しており、条件数に対する所要C/N劣化量の理想値を表している。また、
図8から、曲線αから大きく乖離しているサンプルが存在していることがわかる。これらは、帯域内で条件数が一定でなく変動しているサンプルである。
【0015】
図9は、帯域内で条件数が一定でない測定地点における、条件数の周波数特性を示す図である。横軸は帯域の周波数を示し、縦軸は条件数を示す。
図9から、この測定地点では、帯域内で条件数が一定でないことがわかる。
【0016】
従来の受信品質測定装置は、前述の非特許文献1からすると、帯域内の平均条件数に対する所要C/N劣化量を求めることが想定される。つまり、従来の受信品質測定装置は、MIMO伝送路の伝送路行列から、帯域内のキャリア毎に条件数を算出し、帯域内で条件数を平均した平均値(帯域内の平均条件数)を算出し、当該平均条件数に対する所要C/N劣化量を求める。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。
〔本発明の概要〕
まず、本発明の概要について説明する。本発明は、帯域内のキャリア毎に条件数を算出し、帯域内のキャリア毎に条件数に対応する所要C/N劣化量を特定し、帯域内で所要C/N劣化量を平均化することで、特定の地点の受信品質を測定することを特徴とする。これにより、帯域内で条件数が一定でなく大きく変動する場合においても、精度の高い受信品質を測定することができる。
【0031】
以下、水平偏波及び垂直偏波を用いた2×2のMIMO伝送システムを例に挙げて説明する。MIMO伝送路に用いる送信アンテナは、水平偏波用アンテナ及び垂直偏波用アンテナからなる偏波共用送信アンテナであり、受信アンテナは、水平偏波用アンテナ及び垂直偏波用アンテナからなる偏波共用受信アンテナである。MIMO伝送路を数式で表すと、以下のようになる。
【数1】
【0032】
前記数式(1)において、Y
Hは、水平偏波の受信信号、Y
Vは垂直偏波の受信信号、X
Hは、水平偏波の送信信号、X
Vは垂直偏波の送信信号、n
Hは水平偏波の雑音、n
Vは垂直偏波の雑音をそれぞれ示す。
【0033】
h
HHは、受信側の水平偏波のアンテナ素子(水平偏波用アンテナ)と送信側の水平偏波のアンテナ素子(水平偏波用アンテナ)との間の伝送路特性を示す。h
VVは、受信側の垂直偏波のアンテナ素子(垂直偏波用アンテナ)と送信側の垂直偏波のアンテナ素子(垂直偏波用アンテナ)との間の伝送路特性を示す。
【0034】
h
HVは、受信側の水平偏波のアンテナ素子(水平偏波用アンテナ)と送信側の垂直偏波のアンテナ素子(垂直偏波用アンテナ)との間の伝送路特性を示し、垂直偏波から水平偏波に漏れ込む信号の伝送路特性に相当する。h
VHは、受信側の垂直偏波のアンテナ素子(垂直偏波用アンテナ)と送信側の水平偏波のアンテナ素子(水平偏波用アンテナ)との間の伝送路特性を示し、水平偏波から垂直偏波に漏れ込む信号の伝送路特性に相当する。
【0035】
以下の数式のように、これらの伝送路特性h
HH,h
VV,h
HV,h
VHを要素として、伝送路行列Hが生成される。
【数2】
【0036】
条件数K(H)は、以下の数式のように、伝送路行列Hを固有値分解して得られる第1固有値λ
1及び第2固有値λ
2のうち、最大値λ
maxと最小値λ
minとの間の比にて算出される。
【数3】
ここで、条件数K(H)は1以上の値をとる。条件数K(H)が1に近い小さい値の場合、伝送路行列Hは良条件の行列であり、精度の高いMIMO復調を実現できることを示している。一方、条件数K(H)が大きい値の場合、伝送路行列Hは悪条件の行列であり、精度が低く誤差の生じるMIMO復調が実現されることを示している。
【0037】
MIMO伝送路が理想的であり、受信アンテナを構成する水平偏波用アンテナにおける受信利得と垂直偏波用アンテナにおける受信利得とが完全に一致し、交差偏波に漏れ込む信号が極小の場合、以下の数式で表される。この場合、MIMO復調にて受信信号を理想的に分離し、送信信号を復元することができる。
【数4】
【0038】
しかしながら、例えば、受信アンテナを構成する水平偏波用アンテナと垂直偏波用アンテナとの間の指向性の違いに起因して、水平偏波と垂直偏波との間に受信利得の差(受信レベル差)が生じることがある。交差偏波に漏れ込む信号が存在する場合には、この受信レベル差が伝送路行列Hの対角位置の要素値の差となり、条件数K(H)は1に近くない大きい値となり、結果として所要C/Nに劣化が生じる。つまり、条件数K(H)が小さいほど、両アンテナの受信レベル差による所要C/Nの劣化は小さくなり、条件数K(H)が大きいほど、所要C/Nの劣化は大きくなるという関係がある。
【0039】
そこで、本発明の実施形態では、条件数K(H)と所要C/N劣化量との間の関係が定義されたテーブル等を用いて、帯域内のキャリア毎に所要C/N劣化量を特定し、帯域内で所要C/N劣化量を平均化して受信品質を測定する。条件数K(H)と所要C/N劣化量との間の関係は、変調多値数、誤り訂正符号等のシステム要件により異なるが、特定のMIMO伝送システムにおいて、計算機シミュレーションまたは実験により算出することができる。
【0040】
従来は、帯域内で条件数が一定であることを前提として受信品質を測定していたが、本発明の実施形態では、帯域内で条件数がキャリア毎に異なることを前提として受信品質を測定する。
【0041】
これにより、帯域内で条件数が一定でなく変動が大きい場合に、本発明の実施形態により算出される帯域内の所要C/N劣化量(キャリア毎の所要C/N劣化量を平均化した値)は、従来技術にて算出される帯域内の所要C/N劣化量(帯域内の平均条件数を用いて求めた所要C/N劣化量)よりも精度の良い値となる。したがって、本発明の実施形態では、MIMO伝送システムにおいて、特定の地点の受信品質を正確に測定することが可能となる。
【0042】
〔受信品質測定装置〕
以下、本発明の実施形態による受信品質測定装置について説明する。説明の簡略化のため、2×2の偏波MIMO伝送システムにおいて、特定の地点の受信品質を測定する例を挙げて説明する。送信側の送信アンテナを介して送信される送信信号は、OFDMまたはシングルキャリア等の変調信号であるものとする。
【0043】
送信側は、送信アンテナを介して、伝送路を推定するための既知信号(例えばパイロット信号)を含む水平偏波の信号及び垂直偏波の信号を送信する。受信側の受信品質測定装置は、送信側から送信された水平偏波の信号及び垂直偏波の信号を、受信アンテナを介して受信する。送信アンテナは、水平偏波用アンテナ及び垂直偏波用アンテナにより構成され、受信アンテナも、水平偏波用アンテナ及び垂直偏波用アンテナにより構成される。
【0044】
図6は、送信アンテナを介して送信される送信信号のフォーマットの一例を説明する図である。
図6(a)は、送信アンテナの水平偏波用アンテナから送信される信号(水平偏波送信信号)のフォーマットを示し、
図6(b)は、送信アンテナの垂直偏波用アンテナから送信される信号(垂直偏波送信信号)のフォーマットを示す。横軸は周波数(キャリア番号)を示し、縦軸は時間(シンボル番号)を示す。黒塗りで表した位置の信号は、既知のSP(Scattered Pilot)信号であり、斜め横線で表した位置の信号は、既知のヌル(Null)信号であり、白塗りで表した位置の信号はデータである。
【0045】
図6(a)の水平偏波送信信号では、基準信号であるSP信号及びヌル信号が所定の周波数間隔及び時間間隔で配置され、
図6(b)の垂直偏波送信信号においても、基準信号であるSP信号及びヌル信号が同じ所定の周波数間隔及び時間間隔で配置されている。
図6(a)の水平偏波送信信号におけるSP信号が配置された位置には、
図6(b)の垂直偏波送信信号におけるヌル信号が配置されている。また、
図6(a)の水平偏波送信信号におけるヌル信号が配置された位置には、
図6(b)の垂直偏波送信信号におけるSP信号が配置されている。
【0046】
このようなSP信号及びヌル信号の配置により、水平偏波と垂直偏波との間で直交性を持たせることができるから、受信側の受信品質測定装置は、送信アンテナと受信アンテナとの間の伝送路行列Hの各要素を個別に求めることができる。
【0047】
図1は、本発明の実施形態による受信品質測定装置の構成例を示すブロック図である。この受信品質測定装置1は、受信電力測定部10−1,10−2、C/N計算部11−1,11−2、伝送路推定部12、条件数算出部13、テーブル14、所要C/N算出部15、余裕度算出部16及び測定結果出力部17を備えている。
【0048】
受信品質測定装置1は、送信側の送信アンテナを介して送信されたOFDMまたはシングルキャリア等の変調信号を、図示しない受信アンテナを介して受信する。この変調信号には、前述のとおり、伝送路行列Hを推定するための既知信号(例えばパイロット信号)が含まれている。受信アンテナは、水平偏波用アンテナ及び垂直偏波用アンテナにより構成される。
【0049】
受信品質測定装置1は、水平偏波用アンテナを介して受信した受信信号Y
Hを入力し、垂直偏波用アンテナを介して受信した受信信号Y
Vを入力し、以下のように、受信信号Y
H,Y
Vに基づいて、当該受信品質測定装置1の地点の受信品質を測定する。
【0050】
受信電力測定部10−1は、受信アンテナを介して受信した受信信号Y
Hを入力し、受信信号Y
Hに基づいて受信電力P
Hを測定する。そして、受信電力測定部10−1は、受信電力P
Hを伝送路推定部12及び測定結果出力部17に出力する。
【0051】
受信電力測定部10−2は、受信アンテナを介して受信した受信信号Y
Vを入力し、受信信号Y
Vに基づいて受信電力P
Vを測定する。そして、受信電力測定部10−2は、受信電力P
Vを伝送路推定部12及び測定結果出力部17に出力する。
【0052】
C/N計算部11−1は、受信信号Y
Hを入力し、受信信号Y
Hに基づいて受信C/N
Hを計算する。そして、C/N計算部11−1は、受信C/N
Hを余裕度算出部16及び測定結果出力部17に出力する。
【0053】
C/N計算部11−2は、受信信号Y
Vを入力し、受信信号Y
Vに基づいて受信C/N
Vを計算する。そして、C/N計算部11−2は、受信C/N
Vを余裕度算出部16及び測定結果出力部17に出力する。
【0054】
伝送路推定部12は、受信信号Y
H,Y
Vを入力すると共に、受信電力測定部10−1,10−2から受信電力P
H,P
Vを入力する。そして、伝送路推定部12は、受信信号Y
H,Y
V、受信電力P
H,P
V、及び予め設定された既知信号X
H,X
Vに基づいて、水平偏波及び垂直偏波の受信電力差を正確に反映させた伝送路行列H’を推定する。伝送路推定部12は、伝送路行列H’を条件数算出部13に出力する。
【0055】
予め設定された既知信号X
H,X
Vは、送信側から送信アンテナを介して送信された変調信号に含まれる信号と同一の信号であって、伝送路を推定するための信号(
図6の例ではSP信号及びヌル信号)である。これらは、それぞれ水平偏波の既知信号及び垂直偏波の既知信号である。
【0056】
MIMO伝送路を数式で表した前記数式(1)を展開すると、水平偏波の受信信号Y
H及び垂直偏波の受信信号Y
Vは、以下の数式で表される。尚、雑音n
H,n
Vは0とする。
【数5】
【数6】
【0057】
伝送路推定部12は、伝送路特性h
HH,h
VV,h
HV,h
VHを算出し、これらを要素とした伝送路行列Hに対し、水平偏波及び垂直偏波の受信電力差を正確に反映させた伝送路行列H’を推定する。
【0058】
図2は、伝送路推定部12の構成例を示すブロック図である。この伝送路推定部12は、周波数変換部20−1,20−2、A/D変換部21−1,21−2、FFT部22−1,22−2、パイロット抽出部23−1,23−2、既知信号生成部24、伝送路特性算出部25−1,25−2及び伝送路行列算出部26を備えている。
【0059】
周波数変換部20−1は、受信信号Y
Hを入力し、受信信号Y
Hの周波数を後段のA/D変換部21−1にてA/D変換を行うための周波数に変換し、周波数変換後の受信信号Y
HをA/D変換部21−1に出力する。
【0060】
A/D変換部21−1は、周波数変換部20−1から周波数変換後の受信信号Y
Hを入力し、受信信号Y
Hのアナログ信号をデジタル信号にA/D変換し、デジタルの受信信号Y
HをFFT部22−1に出力する。
【0061】
FFT部22−1は、A/D変換部21−1からデジタルの受信信号Y
Hを入力し、デジタルの受信信号Y
Hの時間領域信号を周波数領域信号に変換し、周波数領域信号をパイロット抽出部23−1に出力する。
【0062】
パイロット抽出部23−1は、FFT部22−1から周波数領域信号を入力し、周波数領域信号のうち既知信号が送信された位置のパイロット信号(SP信号及びヌル信号)を抽出し、受信パイロット信号として伝送路特性算出部25−1に出力する。
【0063】
既知信号生成部24は、予め設定された既知信号(
図6に示したSP信号及びヌル信号)を生成し、既知信号X
H,X
Vを伝送路特性算出部25−1,25−2に出力する。
【0064】
伝送路特性算出部25−1は、パイロット抽出部23−1から受信パイロット信号を入力すると共に、既知信号生成部24から既知信号X
H,X
V(送信パイロット信号)を入力する。そして、伝送路特性算出部25−1は、受信パイロット信号を送信パイロット信号で除算し、MIMO伝送路の周波数特性である伝送路特性h
HH,h
HVを算出し、伝送路特性h
HH,h
HVを伝送路行列算出部26に出力する。
【0065】
送信側から送信される既知信号は、水平偏波及び垂直偏波の間で直交性が保たれているから、前記数式(5)の第1項及び第2項における伝送路特性h
HH,h
HVを分離することができる。これにより、受信信号Y
Hから、伝送路行列Hを構成する要素のうち、伝送路特性h
HH,h
HVが個別に算出される。
【0066】
周波数変換部20−2、A/D変換部21−2、FFT部22−2及びパイロット抽出部23−2は、受信信号Y
Vについて、前述の周波数変換部20−1、A/D変換部21−1、FFT部22−1及びパイロット抽出部23−1と同様の処理をそれぞれ行う。
【0067】
伝送路特性算出部25−2も、前述の伝送路特性算出部25−1と同様の処理を行う。伝送路特性算出部25−2は、パイロット抽出部23−2から受信パイロット信号を入力すると共に、既知信号生成部24から既知信号X
H,X
V(送信パイロット信号)を入力し、伝送路特性h
VV,h
VHを算出する。そして、伝送路特性算出部25−2は、伝送路特性h
VV,h
VHを伝送路行列算出部26に出力する。
【0068】
送信側から送信される既知信号は、水平偏波及び垂直偏波の間で直交性が保たれているから、前記数式(6)の第1項及び第2項における伝送路特性h
VH,h
VVを分離することができる。これにより、受信信号Y
Vから、伝送路行列Hを構成する要素のうち、伝送路特性h
VV,h
VHが個別に算出される。
【0069】
伝送路行列算出部26は、伝送路特性算出部25−1から伝送路特性h
HH,h
HVを入力すると共に、伝送路特性算出部25−2から伝送路特性h
VV,h
VHを入力し、さらに、受信電力測定部10−1,10−2から受信電力P
H,P
Vを入力する。そして、伝送路行列算出部26は、伝送路特性h
HH,h
VVに基づいて、伝送路特性h
HH,h
VVの電力P’
H,P’
Vをそれぞれ算出する。
【0070】
伝送路行列算出部26は、伝送路特性h
HH,h
HV,h
VV,h
VH、受信電力P
H,P
V及び電力P’
H,P’
Vに基づいて、以下の数式により、伝送路行列H’を算出する。そして、伝送路行列算出部26は、伝送路行列H’を条件数算出部13に出力する
【数7】
【0071】
これにより、水平偏波及び垂直偏波の受信電力差を正確に反映させた電力補正後の伝送路行列H’が算出される。この伝送路行列H’は、全帯域においてキャリア毎に得られる。
【0072】
図1に戻って、条件数算出部13は、伝送路推定部12からキャリア毎の伝送路行列H’を入力し、伝送路行列H’に基づいて条件数K(H’)を算出する。この条件数K(H’)は、全帯域においてキャリア毎に得られる。そして、条件数算出部13は、キャリア毎の条件数K(H’)を所要C/N算出部15に出力する。
【0073】
条件数K(H’)の算出手法は、特異値分解、固有値分解による手法等、複数の手法がある。例えば、エルミート行列の固有値分解手法については、以下の文献を参照されたい。
“エルミート行列の固有値分解アルゴリズム”、[online]、[平成28年2月15日検索]、 インターネット<http://kosugitti.sakura.ne.jp/wp/wp-content/uploads/2013/08/qr.pdf>
【0074】
テーブル14には、条件数及び所要C/N劣化量が格納されている。
図3は、テーブル14のデータ構成例を示す図である。テーブル14には、条件数と、当該条件数に対応する所要C/N劣化量とが格納されている。これらのデータは、
図8に示した、帯域内で条件数が一定の場合の曲線αをテーブル化したものであり、所要C/N劣化量は、条件数に対する理想値を表している。このテーブル14は予め設定される。
【0075】
図1に戻って、所要C/N算出部15は、条件数算出部13からキャリア毎の条件数K(H’)を入力し、キャリア毎に、条件数K(H’)をキーとしてテーブル14を検索し、条件数K(H’)に対応する所要C/N劣化量を読み出す。
【0076】
所要C/N算出部15は、帯域内で、所要C/N劣化量の平均値(帯域内平均所要C/N劣化量)Dを算出し、帯域内平均所要C/N劣化量Dを余裕度算出部16に出力する。
【0077】
キャリア番号nにおける条件数K(H’)に対応する所要C/N劣化量をdeg(n)、帯域内のキャリア数をN、帯域内平均所要C/N劣化量Dをdegとした場合、以下の数式により、帯域内平均所要C/N劣化量Dであるdegが算出される。
【数8】
【0078】
余裕度算出部16は、所要C/N算出部15から帯域内平均所要C/N劣化量Dを入力すると共に、C/N計算部11−1,11−2から受信C/N
H及び受信C/N
Vを入力し、受信C/N
H及び受信C/N
Vの平均値を算出し、これを受信C/Nとする。
【0079】
余裕度算出部16は、以下の数式により、当該MIMO伝送システムにおいて予め設定された本来の所要C/Nに、帯域内平均所要C/N劣化量Dを加算することで、実際の所要C/Nを求める。これにより、当該受信品質測定装置1の地点における実際の所要C/Nを精度高く算出することができる。
[数9]
実際の所要C/N = 本来の所要C/N + 帯域内平均所要C/N劣化量D
・・・(9)
【0080】
余裕度算出部16は、以下の数式により、受信C/Nから、前記数式(9)にて算出した実際の所要C/Nを減算することで、余裕度Fを算出し、余裕度Fを測定結果出力部17に出力する。これにより、当該受信品質測定装置1の地点における余裕度Fを精度高く算出することができる。
[数10]
余裕度F = 受信C/N − 実際の所要C/N ・・・(10)
【0081】
測定結果出力部17は、受信電力測定部10−1,10−2から受信信号Y
Hの受信電力P
H及び受信信号Y
Vの受信電力P
Vを入力すると共に、C/N計算部11−1,11−2から受信信号Y
Hの受信C/N
H及び受信信号Y
Vの受信C/N
Vを入力する。また、測定結果出力部17は、余裕度算出部16から余裕度Fを入力する。
【0082】
測定結果出力部17は、受信信号Y
Hの受信電力P
H、受信信号Y
Vの受信電力P
V、受信信号Y
Hの受信C/N
H、受信信号Y
Vの受信C/N
V、及び余裕度Fを、当該受信品質測定装置1の地点における受信品質の測定結果として出力する。
【0083】
図4は、フィールドの各地点における、伝送実験にて取得した所要C/N劣化量(真値)、従来技術及び本発明の実施形態にて取得した所要C/N劣化量を示す図である。横軸は、各地点のサンプル1〜8を示し、縦軸は所要C/N劣化量を示す。
【0084】
サンプル1〜8のそれぞれにおいて、左側のバーは、伝送実験にて取得した所要C/N劣化量(真値)を示し、
図8に示した所要C/N劣化量に相当する。また、中央のバーは、従来技術にて取得した所要C/N劣化量を示し、従来の受信品質測定装置により得られた特性であって、
図8に示した曲線αの所要C/N劣化量に相当する。前述のとおり、従来の受信品質測定装置は、MIMO伝送路の伝送路行列から、帯域内のキャリア毎に条件数を算出し、帯域内で条件数を平均した平均値(帯域内の平均条件数)を算出し、当該平均条件数に対する所要C/N劣化量を求める。右側のバーは、本発明の実施形態にて取得した所要C/N劣化量を示す。
【0085】
図4のサンプル1〜8から、本発明の実施形態にて取得した所要C/N劣化量(右側のバー)は、従来技術にて取得した所要C/N劣化量(中央のバー)に比べ、伝送実験にて取得した所要C/N劣化量(真値、左側のバー)に近いことがわかる。これにより、本発明の実施形態では、従来技術よりも、所要C/N劣化量を正確に求めることができる。
【0086】
以上のように、本発明の実施形態の受信品質測定装置1によれば、受信品質を測定する特定の地点において、送信側から送信された既知信号を含む水平偏波及び垂直偏波の変調信号を、受信アンテナを介して受信する。
【0087】
伝送路推定部12は、受信信号Y
H,Y
V、受信電力P
H,P
V及び既知信号X
H,X
Vに基づいて、水平偏波及び垂直偏波の受信電力差を反映させた伝送路行列H’を推定する。これにより、当該受信品質測定装置1の地点におけるキャリア毎の伝送路行列H’が得られる。
【0088】
条件数算出部13は、伝送路行列H’に基づいて条件数K(H’)を算出する。これにより、当該受信品質測定装置1の地点におけるキャリア毎の条件数K(H’)が得られる。
【0089】
所要C/N算出部15は、キャリア毎に、条件数K(H’)に対応する所要C/N劣化量を、条件数と当該条件数に対応する所要C/N劣化量が格納されたテーブル14から読み出す。そして、所要C/N算出部15は、帯域内で、所要C/N劣化量の平均値を帯域内平均所要C/N劣化量Dとして算出する。これにより、当該受信品質測定装置1の地点における帯域内平均所要C/N劣化量Dが得られる。
【0090】
余裕度算出部16は、本来の所要C/Nに帯域内平均所要C/N劣化量Dを加算することで、実際の所要C/Nを求め、受信C/N(受信C/N
H及び受信C/N
Vの平均値)から実際の所要C/Nを減算することで、余裕度Fを算出する。これにより、当該受信品質測定装置1の地点における余裕度Fが得られる。
【0091】
このように、受信品質測定装置1は、当該受信品質測定装置1の地点において、帯域内のキャリア毎に条件数K(H’)を求め、これに対応する所要C/N劣化量を特定し、帯域内で所要C/N劣化量を平均化するようにした。これにより、帯域内で条件数が一定でなく変動が大きい場合であっても、より正確な帯域内平均所要C/N劣化量Dが算出される。したがって、当該受信品質測定装置1の地点における余裕度Fは、より正確な帯域内平均所要C/N劣化量Dに基づいて算出されるから、MIMO伝送システムにおいて、特定の地点の受信品質を正確に測定することが可能となる。
【0092】
また、地上デジタル放送の放送エリア内において、受信品質の余裕度Fを正確に測定することができるから、結果として、安定した受信を実現する機器を選定することができ、安定した受信が可能となるように改善指導を行うことができる。
【0093】
図5は、本発明の実施形態による受信品質測定装置1の使用例を説明する図である。受信アンテナを設置する作業者は、受信品質測定装置1を所持し、当該受信品質測定装置1の地点である特定の地点の受信品質を得るために、当該受信品質測定装置1に設けられた受信アンテナを所定方向へ向ける。
【0094】
受信品質測定装置1は、測定結果出力部17にて測定した測定結果を表示する表示部を備えている。表示部は、受信アンテナの方向A,B,Cのそれぞれの場合について、
図5の下部に示すように、受信レベル(受信電力P
H,P
Vの平均値)、受信C/N、余裕度F及び受信可否を表示する。表示部は、余裕度と所定値とを比較し、余裕度Fが所定値以上の場合に、受信可否の判断結果として受信可を示すマーク◎を表示し、余裕度Fが所定値よりも小さい場合に、受信不可を示すマーク×を表示する。
【0095】
図5において、表示部は、受信アンテナの方向Aの場合、受信可否の箇所に受信可を表示し、受信アンテナの方向B,Cの場合、受信可否の箇所に受信不可を表示している。これにより、作業者は、受信アンテナの方向Aとした当該受信品質測定装置1の地点における受信品質が、受信アンテナの方向B,Cとした当該受信品質測定装置1の地点よりも良いことを判断することができる。
【0096】
このように、受信品質測定装置1が連続的に余裕度Fを測定することで、作業者は、余裕度Fが最大となるアンテナの方向を判断することができる。そして、アンテナの方向調整等の受信改善、設備の交換に向けた検討を行うことができ、MIMO伝送システムの安定受信に貢献できる。特に、偏波MIMO伝送システムでは、受信レベル及び受信C/Nは、水平偏波及び垂直偏波の2信号分測定されるため、受信品質を判断するための値が増加してしまう。しかし、本発明の実施形態では、余裕度Fを測定するようにしたから、余裕度Fによって、受信品質を明確に判断することが可能となる。
【0097】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば、実施形態では、水平偏波及び垂直偏波を用いた2×2のMIMO伝送システムについて説明した。本発明は、送信アンテナの本数を2に限定するものではなく、受信アンテナの本数も2に限定するものでもなく、他の本数にも適用がある。また、本発明は、水平偏波及び垂直偏波に限定するものではなく、他の種類の偏波にも適用があり、偏波以外の電波にも適用がある。
【0098】
また、本発明の実施形態では、
図6に示した送信信号のフォーマットを用いるようにしたが、本発明は、
図6に示した送信信号のフォーマットに限定するものではなく、これとは異なる配置のフォーマットを用いるようにしてもよい。また、他のパイロット信号を用いるようにしてもよいし、周波数軸及び時間軸方向に連続して挿入される既知信号を用いるようにしてもよい。また、直交化の手法として、ヌル信号の代わりに、アダマール符号、Alamouti符号を用いるようにしてもよい。
【0099】
また、本発明の実施形態では、受信品質測定装置1の所要C/N算出部15は、条件数K(H’)に対応する所要C/N劣化量を、テーブル14から読み出すようにした。これに対し、所要C/N算出部15は、予め設定された関数の数式に従い、条件数K(H’)に対応する所要C/N劣化量を特定するようにしてもよい。
【0100】
また、本発明の実施形態では、受信品質測定装置1の測定結果出力部17は、受信信号Y
Hの受信電力P
H、受信信号Y
Vの受信電力P
V、受信信号Y
Hの受信C/N
H、受信信号Y
Vの受信C/N
V、及び余裕度Fを、受信品質の測定結果として出力するようにした。これに対し、測定結果出力部17は、さらに、所要C/N算出部15により算出された帯域内平均所要C/N劣化量D、及び条件数算出部13により算出された条件数K(H’)を、受信品質の測定結果として出力するようにしてもよい。
【0101】
また、本発明の実施形態では、受信品質測定装置1について説明したが、MIMO受信装置が、
図1に示した受信品質測定装置1の各構成部を備えるようにしてもよい。この場合、MIMO受信装置は、余裕度F等の測定結果を表示する機能を有する。
【0102】
尚、本発明の実施形態による受信品質測定装置1のハードウェア構成としては、通常のコンピュータを使用することができる。受信品質測定装置1は、CPU、RAM等の揮発性の記憶媒体、ROM等の不揮発性の記憶媒体、及びインターフェース等を備えたコンピュータによって構成される。受信品質測定装置1に備えた受信電力測定部10−1,10−2、C/N計算部11−1,11−2、伝送路推定部12、条件数算出部13、テーブル14、所要C/N算出部15、余裕度算出部16及び測定結果出力部17の各機能は、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。また、これらのプログラム(受信品質測定プログラム)は、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD−ROM、DVD等)、半導体メモリ等の記憶媒体に格納して頒布することもでき、ネットワークを介して送受信することもできる。