【実施例1】
【0025】
以下
図1を用いて、CeB
6を用いたCFE電子源(以下、CeB
6−CFE電子源)の構成を説明する。
図1は本実施例に係るSEMに搭載されるCeB
6−CFE電子源である。以下で電子源の各部分の説明をする。
【0026】
CeB
6−CFE電子源は、CeB
6<310>単結晶901を保持部902で保持し、保持部902を加熱部903で保持する。加熱部903の両端はそれぞれ二つの加熱電極904に接続する。加熱電極904は絶縁部905で保持する。二つの加熱電極904はそれぞれ二つのピン906と電気的に接続する。
【0027】
CeB
6<310>単結晶901には、フローティングゾーン法などで成長させた大型結晶を切削して細分化した小型結晶を用いる。大型結晶を細分化して使用することで、高純度の結晶を大量に低コストで調達できる利点がある。また、結晶の寸法のばらつきも低減でき、個体差が生じなくなる利点がある。不純物や欠陥のない結晶を使うことで、得られる電子線の再現性も向上する。
【0028】
大型結晶の大きさは直径数mmから数十mm、長さは数十mm程度である。細分化したCeB
6<310>単結晶901の大きさは、直径が0.1mmから1mm程度、長さが1mmから5mm程度である。なお、CeB
6<310>単結晶901は円柱に限らず、四角形や多角径、楕円などの断面をもった柱構造でも良い。
【0029】
CeB
6<310>単結晶901の先端は電界放出を可能にするために電解研磨で先鋭化する。電解研磨はmmオーダの結晶の先端をnmオーダにまで先鋭化でき、CFE電子源を低コストで大量生産できる利点がある。電解研磨した電子源先端の曲率半径は50nmから500nmとする。CeB
6は後述の表面制御を行うことで表面の仕事関数が低くでき、電界放出に必要な引出電圧が低くなる。このため、従来のWを用いたCFE電子源よりも曲率半径を大きくしても十分な電界集中ができ、電子を放出できる。曲率半径を大きくすると電子線の放出部分の面積が広がり、大電流が得られるとともにエネルギー幅も低減できる。また、電子放出後の電子間のクーロン相互作用が小さくなり、電子線の輸送時の不要なエネルギー幅の増大が起こりにくくなる利点がある。この効果を得るためには、先端の曲率半径を300nmから500nmにすることが望ましい。
【0030】
CeB
6<310>単結晶901の大きさは0.1mmから1mm程度であることから、人の手や、機械を用いて電子源へと組み立てることができる。この結果、電子源を低コストで大量生産できる利点がある。また、この程度の大きさであれば、組み立てに専用の工具を用いることで、各要素の取り付け位置や寸法、角度のばらつきを低減できる。この結果、電子源全体としての個体差を低減できる利点がある。
【0031】
一方、CeB
6<310>単結晶901に直径が数十から数百ナノメートル程度のナノワイヤを用いることも可能ではあるが、ナノメートルオーダの結晶を電子源として組み立てるためには、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)とSEMの複合機を用いて、電子顕微鏡下でマニュピレータを用いた組立が必要となる。この作業は長時間を要し、コストが大きくなる。また、結晶の個体差がそのまま電子源の個体差となり、性能にばらつきが生じる。このため、生産性を向上させる上で課題となる。その他に、ナノワイヤのように先端の半径が細すぎると、電流量を大きくできない課題もある。一方、適当なナノワイヤを選定することで、切削することなく利用できる利点がある。
【0032】
結晶軸に<310>を選ぶ理由は発明者の発見に基づいており、後述する表面制御方法によって{310}面から特性の良い電子線が得られるためである。単結晶を用いた電子源では、結晶軸に対応した結晶面が先端中央に現れ、この面から放出する電子線は軸上を通過する。電子顕微鏡では軸上の電子線をプローブ電流として用い、レンズ等を用いて試料に照射する。このため、利用したい結晶面を電子源の先端中央の軸上に配置することが適している。一方、軸外から放出する電子線を偏向器で曲げて軸上に導くことも可能である。この場合、電子顕微鏡の構成は複雑になるが、<100>軸などその他の結晶軸の電子源を用いて{310}面から放出する電子線を利用することもできる。
【0033】
電子放出源にCeB
6を選ぶ理由は、仕事関数が低いことの他に、フェルミ準位の状態密度が高いことがあげられる。Ceは4f軌道に電子をもつ。f電子のエネルギー準位は局在化し、Ceの場合、フェルミ準位に位置して、その状態密度を高くする。電界放出はフェルミ準位近傍の電子を放出することから、この準位の状態密度が高く、局在化しているほどエネルギー幅は狭くなる。また、フェルミ準位付近の状態密度が高い場合、表面にガス吸着があっても、状態密度の変化は相対的に小さくなる。この結果、電子線の再現性が良くなる利点がある。
【0034】
ランタンを除くランタノイド(プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)はこの4f軌道を有することから、これらの材料、またはこれらの六硼化物を用いたCFE電子源についても、CeB
6と同様にフェルミ準位の状態密度が高くなる利点があり、CFE電子源に適する。
【0035】
保持部902はCeB
6<310>単結晶901を固定し、電気的にも接続する。CeB
6は加熱するとほとんどの金属と化学反応する特徴があることから、保持部902にはカーボンやレニウム、タンタルなどのCeB
6と反応性が小さい導電性物質を用いる。または、これらの材料を表面に成膜した金属、または、これら材料を複数組み合わせた部品でも良い。また、保持部902に電気抵抗の高い材料を用い、保持部902自身も通電加熱によって高温になるようにしても良い。
【0036】
加熱部903は保持部902を固定するとともに、CeB
6<310>単結晶901を加熱する。加熱部903にはWやタンタルなどの線を用い、通電加熱する。加熱によるCeB
6先端の表面再構成については後述する。
【0037】
加熱電極904には加熱部903の両端を固定する。加熱電極904はピン906と電気的に接続し、ピン906を介して外部の加熱電源に接続する。この加熱電源から電流を流すことで、加熱部903を通電加熱する。
【0038】
絶縁部905は加熱電極904を固定するとともに、二つの加熱電極904をそれぞれ電気的に絶縁する部品である。また絶縁部905を電子顕微鏡の電子銃内部に固定することで、電子源全体を保持する。
【0039】
以上、
図1の電子源構造を用いることで、高純度で個体差の少ないCeB
6−CFE電子源を低コストで大量生産することができる。
【0040】
次に、
図2から
図10を用いてCeB
6−CFE電子源から再現性の良い電子線を得るための表面制御プロセスについて説明する。
【0041】
図2はCeB
6−CFE電子源の表面制御プロセスのフローチャートである。
図1のCeB
6−CFE電子源を電解研磨したままの状態で用いた場合、電子放出面が一定とならず、得られる電子線の特性も毎回異なる。このため、再現性の良い電子線を得ることができないことがわかった。そこで、
図2に示す表面制御プロセスを行うことで再現性の良い電子線を得ることができる。
【0042】
図2のフローチャートに示すように、まず、先鋭化プロセスS11において、前述したCeB
6<310>単結晶901の電解研磨を行い、先端をnmオーダに先鋭化する。次に、先端成形プロセスS12において、電解研磨した先端表面にある凹凸や歪みを除去し、先端表面を原子レベルで球状に成形する。次に、表面再構成プロセスS13において、成形した先端表面にファセット構造を作り、{310}面にCeを偏析させる。次に、電子線放出プロセスS14において、電子源から電子線を電界放出させる。最後に、パターン検査S15において、放出した電子線のエミッションパターンを調べ、所望のパターンが得られたかを確認する。所望のパターンが得られなかった場合、得られるまで表面再構成プロセスS13を追加で行う。以下でそれぞれのプロセスを説明する。
【0043】
先端成形プロセスS12では、電界蒸発を用いて電子源先端を球状に成形する。電解研磨はmmオーダの結晶の先端をnmオーダにまで先鋭化できることから、電子源を大量生産するのに適した方法である。しかし、発明者等が検討した結果、研磨された先端の表面形状は原子レベルでは荒く、凹凸や歪みが生じる問題があることがわかった。従来のCFE電子源の材料であるWは表面張力が強いため、フラッシングをして先端を半溶融状態にすると自然に球状に丸まる。この結果、先端表面の凹凸や歪みが取れ、一定の形状にできていた。
【0044】
一方、CeB
6は表面張力の弱い材料であり、加熱をしても先端が丸まることはなく、凹凸や歪みが残ったまま昇華する。このような形状が不均一な電子源を電界放出させると、電子源ごとに電子放出箇所が異なり、電子線の特性も異なる。また、電子源が破損することも多い。従って、CeB
6−CFE電子源を加熱のみで用いることはできない。
【0045】
そこで、CeB
6先端の凹凸と歪みを除去するために、電界蒸発を行ったところ、再現性の良い電子線が得られることが分かった。そこで本プロセスでは電界蒸発のステップを取り入れることとした。電界蒸発とは電子源に+数十V/nmの正極の電界を印加することで、先端表面の原子をイオン化し、徐々に剥ぎ取る方法である。電界蒸発は電界強度が強い箇所で優先的に起こる。このため、表面の尖った箇所やステップ部の原子が蒸発し、時間をかけることで全面を蒸発できる。やがて、電界蒸発が十分進むと、電子源先端は電界強度が全面にわたって均一となる球状になる。この形状をField Evaporation End Formと呼ぶ。
【0046】
電界蒸発は真空中でも行えるが、HeやNe、H
2といった結像ガスを10
−3Paから10
−2Pa程度導入して行うことで、電子源先端の表面像を観察しながら行うことができる。この観察手法を電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscopy:FIM)と呼ぶ。結像ガスは電子源先端でイオン化し、放射状に放出する。対向面にマイクロチャンネルプレート(MCP)をおき、放出したイオンを検出することで電子源先端の表面像を原子分解能で観察できる。
【0047】
図3は電界蒸発前後のCeB
6−CFE電子源先端のFIM像である。
図3を用いて先端成形プロセスS12による表面形状の変化を説明する。FIM像では輝点の一つ一つが原子に対応し、電界が集中する尖った箇所や原子ステップの原子ほど明るく表示される。また、平坦面であるファセットは尖った箇所がないため暗くなる。
【0048】
図3(a)に示すように電界蒸発する前のFIM像では、(100)面と(110)面のファセットが斜めに歪んでいる。これは、先端表面が歪んでいることを表している。
図3(b)は電界蒸発した後の同じ電子源のFIM像である。
図3(b)では(100)面と(110)面のファセットが円形になっている。この結果から、電界蒸発で電子源先端の歪みが除去され、均一な球状に成形されることがわかる。
【0049】
次に、表面再構成プロセスS13では、電界蒸発した電子源の表面にCeを偏析させ、仕事関数を低減する。発明者等が検討した結果、電界蒸発したままの電子源表面にはBが露出するため、仕事関数が高く、電子源には適さない問題があることがわかった。そこで、表面再構成プロセスS13で電子源に適した表面に変化させる。以下でCeB
6−CFE電子源の表面にBが露出する理由と、その表面にCeを露出させる方法を説明する。
【0050】
図4はCeB
6の単位格子を表した原子モデルである。CeB
6は体心立方格子をもち、Ce原子と、六個のB原子からなる正八面体構造のB
6の分子をもつ。一つのCe原子のまわりに八つのB
6分子が配置する。
【0051】
図5はCeB
6−CFE電子源先端の原子モデルである。なお、この図では説明のために<100>結晶軸をもったCeB
6−CFE電子源を示した。CeB
6はCe原子層とB
6分子層が交互に重なった構造をもつ。B−B間の結合力は強い一方、Ce−Ce間やCe−B間の結合力は弱い。このため、CeB
6を電界蒸発した場合、表層のBが蒸発して下層からCeが現れたとしても、Ceは直ちに蒸発する。この結果、
図5に示したように電子源表面には主にBが露出する。
【0052】
ここで、電子源の先端表面にBが露出すると仕事関数は高くなり、電子放出に必要な引出電圧は高くなる。また、電子線のエネルギー幅は広くなる。このため、電子源として利用するには適さない。CeB
6をCFE電子源として用いるためには、表面にCeを露出させ、仕事関数を低下させることが望ましい。そこで、発明者らは電界蒸発したCeB
6を一定時間加熱することで、表面の再構成が起こり、仕事関数を低化できることを見いだした。
【0053】
図6は電界蒸発したCeB
6−CFE電子源を異なる温度で2分間加熱し、電界放出顕微鏡(Field Emission Microscopy:FEM)像を測定した結果である。この図を用いて加熱による表面再構成を説明する。
【0054】
FEMとは電子源から電界放出した電子線を蛍光板やMCP上に投影し、そのエミッションパターンから電子源表面の電子放出箇所を調べる方法である。電界集中度が高く、仕事関数が低い箇所ほど明るくなる。また、パターンの対称性と強度から電子源表面の電子放出面の配置や対応する結晶面、表面状態の違いがわかる。
【0055】
図6(a)に示すように、900℃で加熱したFEM像には対称性のあるパターンは見られないが、
図6(b)に示すように、1000℃で加熱したFEM像には{310}面と{210}面から電子が放出し、(100)を中心とした4回対称の十字パターンが現れている。
図6(c)、(d)、(e)に示すように、1100℃から1300℃に加熱したFEM像もほぼ同様であり、{310}面と{210}が電子放出し、(100)面からの電子放出はなくなっている。
図6(f)に示すように、1400℃で加熱したFEM像では、(210)面からの電子放出がなくなり、(310)面のみとなっている。
図6(g)に示すように、1500℃で加熱したFEM像では{310}面よりも(100)面の付近で電子放出が起こっている。
図6(h)に示すように、1600℃で加熱したFEM像では電子放出箇所に対称性がなくなり、一部から強い電子放出が起きている。
【0056】
図6(i)は得られたFEM像の概念図である。
図6に示したFEM像はMCPを用いて測定し、エミッションパターンの一部を拡大して観察している。これら
図6(a)から(h)の結果から1000℃から1400℃に加熱することで電界蒸発した先端の表面状態が変わり、{310}面から電子線が放出することがわかった。なお、この加熱プロセスは10
−8Pa以下の真空中で行うことで、複数の異なるCeB
6−CFE電子源で行っても再現し、再現性の良い電子放出面と電子線の特性を得ることができた。10
−7Pa以上の圧力で行う場合、表面に吸着物が付きやすくなり、電子放出面が変わることがあった。このため、10
−8Pa以下の圧力下で加熱することが適する。
【0057】
図7は各加熱温度において、トータル電流10nAを得るのに必要な引出電圧を測定した結果である。電界蒸発したままのCeB
6−CFE電子源は、表面の仕事関数が高いことから、必要な引出電圧は1.2kVと高い。一方、1000℃から1500℃に加熱することで引出電圧は0.45kVまで減少した。すなわち、この温度で加熱することで仕事関数が下がり、電子放出に適した表面が形成されたことがわかる。1600℃では引出電圧がさらに0.15kVまで低下している。これは電子源表面が蒸発し、一部に突起が生じたためである。蒸発した表面から放出する電子線には再現性がないことから、1600℃の加熱は適さない。
【0058】
図6と
図7の結果を合わせると、1000℃から1300℃の加熱によって{310}面と{210}面に、1400℃で{310}面に電界放出に適した低仕事関数な表面が形成されることがわかる。また、1500℃以上では表面が次第に崩れ、1600℃では表面の蒸発が起こる。従って、加熱時間を2分とした場合、1000℃から1400℃に加熱することで{310}面から電子線が得られるとわかる。
【0059】
非特許文献1に記載のFEM像と本実施例のFEM像は異なることから、両者の電子源先端表面の結晶面の配置やファセット構造、仕事関数などの表面状態は異なり、得られる電子線の特性も異なると考えられる。
【0060】
低仕事関数の表面はCeが表面に露出しない限り得られないことから、加熱によって{310}面にCeが偏析し、仕事関数が低下したと考えられる。前述したようにCe−Ce間、またはCe−B間の結合はB−B間の結合よりも弱い。従って、加熱状態のCeB
6ではCe原子がB
6格子を抜けて拡散移動できる。加熱によってCeB
6内部からCeが析出し、表面のBを覆ってCeが露出する。また、電子源の根元部分の表面にあるCeが表面拡散で先端まで移動する。この拡散移動したCeが特に{310}面に優先的に偏析し、表面が再構成されたことで低仕事関数化したと考えられる。
【0061】
図5に示したように、電界蒸発したCeB
6−CFE電子源の(310)面において、最表層に露出したCeの数は単位格子あたり1個、B
6分子は3個となる。このとき、CeとBの原子数の比は1対18、(310)面の全原子数のうち5%がCeとなる。
【0062】
表面再構成を行うことで、(310)面に露出するCeの数はこの状態よりも増え、低仕事関数化が起こる。単位格子中にCeの吸着サイトは2箇所あり、この一箇所にCeが埋まったとすると、真空側に露出したCeの数は2個、B
6分子の数は2個となる。このとき、Ceの数とB
6分子数が等しくなり、これよりもCeの数が多いとCeに起因した仕事関数の低下が顕著になると考えられる。このときのCeとBの原子数の比は2対12、(310)面の最表層の原子数の14%がCeとなる。
【0063】
より好適には、Ceが2箇所の吸着サイトに埋まることで、Ceによる低仕事関数化が顕著になる。このとき、単位格子面中のCeの数は3個、B
6分子の数は1個となる。CeとBの原子数の比は1対6となり、(310)面の最表層の原子数の33%がCeになる。CFE電子源は室温以下で動作させることから、二原子層以上のCeの吸着も可能と考えられる。従って、表面のCeの原子数が33%以上にCeが表面に偏析することも可能と考えられる。
【0064】
表面再構成は加熱温度を下げ、加熱時間を長くすることでも行える。
図8は加熱温度を800℃にし、22時間まで加熱した場合のFEM像である。
図8(a)に示すように、2分間の加熱では電子放出面は得られなかったが、
図8(b)に示すように、2時間では
図6(b)の1000℃で2分間加熱した場合と同様のFEM像が得られた。また、
図8(c)に示すように、22時間では、
図6(c)の1100℃で2分間加熱した場合と同様のFEM像が得られた。
【0065】
加熱温度を700℃にした場合でも、数十時間加熱することで同様のFEM像が得られ、表面再構成ができる。低温で長時間を必要とする理由は、Ceの拡散速度が温度の指数乗に比例するためである。原理的には、より低い温度でも表面再構成は可能であるが、数日から数十日の加熱時間を要するため、実用性が低下する。
【0066】
逆に、加熱温度を高くするほど、短い加熱時間で表面再構成を行うことができる。例えば1200℃以上の加熱であれば、約20秒以下で再構成が完了する。より高温にすることで数秒以下にすることもできる。ただし、加熱温度を上げて短時間にするほど、表面が崩れる可能性が高まる。また、加熱温度にも上限があり、1500℃以上では
図6(g)に示したように表面状態が崩れ始め、適さない。従って実用的な時間と表面が崩れるリスクを最小限にするために、1000℃から1400℃で、5秒以上10分以下程度の加熱が好ましい。加熱時間を長くし、加熱温度を下げて用いることで、表面が崩れる危険性なく、再現性の良い電子放出面を作ることができる。
【0067】
表面再構成によって電子源表面に露出する原子種だけでなく、表面構造にも変化が生じる。
図9は表面再構成プロセスS13を行う前後のFIM像とFEM像である。ここで、FIMとFEMの電子源先端表面の拡大率はほぼ同じである。従って、FIM像にある結晶面はFEM像のほぼ同じ位置にある。FIM像とFEM像を比較することで、どの結晶面から電子が放出しやすいかを調べることが出来る。
【0068】
図9(a)に示すように、表面再構成を行う前のFIM像は、電界蒸発したままのField Evaporation End Formを表している。このFIM像には(100)面と(210)面、そして(110)面の一部のファセットが見られるが、全体に輝点が生じており、電子源先端が球状に成形されていることを示している。
図9(c)はこの電子源表面から電界放出させた場合のFEM像である。電界蒸発した表面は(100)面から電子が放出する。しかし、前述したように表面にBが露出していることから仕事関数が高く、トータル電流10nAを得るのに必要な引出電圧は1.2kVと高い。
【0069】
図9(b)に示すように、表面再構成を行った後のFIM像は、(100)面と(210)面、(110)面の暗い領域が広がっている。これはファセットが成長し、平坦な領域が増えたことを示している。その他に、{311}面と{211}面にもファセットが生じており、表面はField Evaporation End Formからファセットが組み合わさった多角形形状のThermal End Formに変化している。(310)面を取り囲むように自己組織化的にファセットが生じることで、(310)面は表面全体の曲率に比べて尖った部分になる。この結果、局所的に電界集中度が上がる。従って、仕事関数の低下に加えて、この形状の変化も(310)面から電界放出しやすくなる原因である。
図9(d)が
図9(b)の表面に対応したFEM像である。{310}面と{210}面から電子放出しており、その引出電圧は0.45kVに低下した。
【0070】
電子源表面にイオンが衝突し、原子構造が変わったとしても、再度、表面再構成プロセスS13を行うことで表面は
図9(b)に示したThermal End Formに戻る。従って、表面再構成プロセスS13で電子源先端の原子構造の修復が可能である。
【0071】
図10は表面再構成プロセスS13を行う前後のFowler−Nordheim(FN)プロットである。この結果から、表面再構成後の仕事関数がわかる。
【0072】
電界放出で得られる電子線の電流量I(A)と引出電圧V(V)との間には定数AとBを用いて以下の式が成り立つ。
【0073】
【数1】
【0074】
この式から、横軸に1/V、縦軸にln(I/V
2)をプロットすると結果は直線になる。これが
図10のFNプロットである。ここで、直線の傾きである定数Bは、仕事関数φ(eV)と電子源の先端表面全体を平均した電界集中係数β(1/m)を用いて以下の式で表される。
【0075】
【数2】
【0076】
従って、二つの直線の傾きを比べることで仕事関数を求めることができる。表面再構成前の傾きは−21858、表面再構成後の傾きは−8525である。また、表面再構成前の表面にはBが露出しており、その仕事関数はB単体の仕事関数4.6eV程度と考えられる。これらの値と式(2)から、表面再構成後の表面の仕事関数は2.46eV程度となる。この結果から、加熱によってCeB
6表面の仕事関数が4.6eVから2.46eVに低下したことがわかる。
【0077】
電子線放出プロセスS14ではCeB
6−CFE電子源に引出電圧を印加して電界放出させる。
【0078】
パターン検査S15では得られたFEM像を検査する。得られたFEM像が
図6(b)から
図6(f)のFEM像で示した{310}面からの4回対象のエミッションパターンであれば、表面の再構成が完了し、電子源として利用できる。また、後述する放射角電流密度とトータル電流の比や、エネルギー幅、または、引出電圧に対するトータル電流とプローブ電流量、引出電圧の変化に対するこれら電流量の変化率、これら電流の時間変化などを同時に測定して所望の電子線の性能を発揮しているかを検査する。
【0079】
以上の
図2から
図10で説明した表面制御プロセスを用いることで、CeB
6−CFE電子源の{310}面を低仕事関数化でき、この面から再現性の良い電子線を得ることができる。
【0080】
次に、
図11A、
図11Bから
図13を用いてCeB
6−CFE電子源から得られる電子線の特性を説明する。
図11A及び
図11BはそれぞれW<310>単結晶を用いたCFE電子源(以下、W−CFE電子源)とCeB
6−CFE電子源のFEM像を蛍光板で測定した結果を示す。従来のW−CFE電子源と比べて、CeB
6−CFE電子源は、中心にコンファインした電子線が得られる特徴がある。
【0081】
図11Aに示すように、W−CFE電子源のFEM像は広範な領域で電子放出があり、{310}面の他に{311}面や{111}面からも電子放出がある。一方、
図11Bに示すように、CeB
6−CFE電子源のFEM像には{310}面と{210}面からの電子放出が主であり、それ以外の結晶面からの電子放出は少ない。すなわち、電子線の放出領域は狭い領域にのみコンファインしている。これは、CeB
6−CFE電子源を用いることで少ないトータル電流で高いプローブ電流を得ることができることを意味する。
【0082】
トータル電流が少ないと、引出電極に当たる電流量が減り、ここから放出する電子衝撃脱離ガスが減って真空度の悪化が少なくなる。この結果、大電流を放出しても安定な電子線が得られる。その他に、トータル電流が少ないことで、その反射電子がプローブ電流に混入することも少なくなる。この結果、電子顕微鏡の観察像にフレアが生じることを防ぐことができる。
【0083】
図12はW−CFE電子源とCeB
6−CFE電子源の電子線の集中度を比較した結果である。なお、CeB
6−CFE電子源は、<310>単結晶と、<100>単結晶を用いた二つの電子源について、これらの(310)面から放出する電子線をプローブ電流として用い、その特性を調べた。この図を用いて、CeB
6−CFE電子源の電子線がどれだけコンファインしているか説明する。
【0084】
ここで、電子線の集中度はプローブ電流の放射角電流密度JΩ(μA/sr)をトータル電流It(μA)で割った値として定義した。放射角電流密度とは単位立体角あたりに得られるプローブ電流の値であり、この値が大きいほど電子顕微鏡では明るい像が得られる。
【0085】
一般的に、放射角電流密度JΩはトータル電流Itを増やすほど増える。しかし、
図11Aで示したようにW−CFE電子源では{310}面以外からも多くの電子を放出するため、プローブとして用いられない無駄な電子の放出が多い。その電子線の集中度JΩ/Itはおよそ3となる。一方、CeB
6−CFE電子源の場合、電子放出面は主に{310}面と{210}面のみであり、無駄となる電子が少ない。CeB
6<100>単結晶を用いたCFE電子源のJΩ/Itは6以上、CeB
6<310>単結晶を用いたCFE電子源のJΩ/Itは13以上となる。この結果から、W−CFE電子源に比べ、CeB
6−CFE電子源の{310}面を用いることで、JΩ/Itは2倍以上になり、コンファインした電子線が得られる。
【0086】
CeB
6<310>単結晶の方がCeB
6<100>単結晶よりもJΩ/Itが大きい理由は、電子源先端中央の最も電界が集中する位置に(310)面が配置され、プローブ電流が増強されるためである。以上の結果から、CeB
6−CFE電子源を用いることでJΩ/Itは6以上となり、W−CFE電子源と比べてコンファインしたプローブ電流が得られることがわかる。
【0087】
図13はW−CFE電子源とCeB
6−CFE電子源が放出する電子線のエネルギー幅の計算結果である。
図13を用いて、CeB
6−CFE電子源を用いることで狭いエネルギー幅が得られることを説明する。電界放出で得られる電子線のエネルギー分布P(E)dEは以下の式で表される。
【0088】
【数3】
【0089】
【数4】
【0090】
【数5】
【0091】
ここで、m(kg)は電子の質量、h(Js)はプランク定数、h
b(Js)はディラック定数、k(J/K)はボルツマン定数、T(K)は温度、F(V/m)は電界強度、e(c)は素電荷、φ’(J)は単位をジュールに変換した仕事関数、tとvは補正項である。なお、h
bはプランク定数hを2πで割ったディラック定数の慣用文字ではないが、当該文字が本出願では使用不適合文字に該当するため仮にh
bを用いた。上記式(3)(4)(5)を用いて仕事関数4.3eVのW(310)と仕事関数2.46eVのCeB
6(310)面から放出する電子線のエネルギー分布を計算し、エネルギー幅を求めた結果が
図13である。
【0092】
W−CFE電子源から得られる電子線のエネルギー幅は一般的に0.4eV程度までであることから、使用する電流密度は1×10
13A/m
2以下と考えられる。このときのCeB
6−CFE電子源のエネルギー幅は0.27eV以下となり、W−CFE電子源よりもエネルギー幅が低下することがわかる。使用する電流密度によってエネルギー幅の差は異なるが、Wと比較してCeB
6のエネルギー幅は0.08eVから0.14eV程度低下する。この結果から、CeB
6−CFE電子源をSEMに搭載することで低加速観察時に高い空間分解能を得ることができるとわかる。
【0093】
次に、CeB
6−CFE電子源を用いることで高い輝度が得られることを説明する。電界放出で得られる電子線の換算軸上輝度B
0/V
0 (A/m
2srV)は以下の式で表される。
【0094】
【数6】
【0095】
ここで、B
0(A/m
2sr)は軸上輝度、V
0(V)は加速電圧、j(A/m
2)は電流密度、e(c)は素電荷、dは式(5)で表されるエネルギーである。軸上輝度は微小面積と微小立体角あたりの電流量の極限として表される。また、軸上輝度は加速電圧に比例するため、軸上輝度を加速電圧で割った換算軸上輝度で電子源自体の性能を比べる。
【0096】
電流密度jが1×10
12A/m
2の条件において、W−CFEの換算軸上輝度は9.6×10
11A/m
2srVとなるのに対し、CeB
6−CFE電子源の換算軸上輝度は1.8×10
12A/m
2srVとなる。この差はW−CFE電子源とCeB
6−CFE電子源の仕事関数の差に由来し、どの電流密度においてもCeB
6−CFE電子源の換算軸上輝度はW−CFE電子源の約2倍程度になる。従ってCeB
6−CFE電子源を電子顕微鏡に用いることで電流量が増加することができる。また、電子線の干渉性を高めることができるので、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)や走査透過電子顕微鏡(Scanning transmission electron microscope:STEM)の性能も向上できる。
【0097】
以上、
図11A、
図11Bから
図13で説明したように、CeB
6−CFE電子源を用いることで高い電子線の集中度と狭いエネルギー幅、高い輝度を得ることができ、電子顕微鏡の性能を向上することができる。
【0098】
次に
図14から
図16を用いてCeB
6−CFE電子源を搭載したSEMの構成とその操作方法を説明する。
【0099】
図14はCeB
6−CFE電子源を搭載したSEMである。SEMの鏡体は電子銃921とカラム922、試料室923から構成される。電子銃921はイオンポンプ924と非蒸発ゲッター(Non Evaporable Getter:NEG)ポンプ925で排気し、その圧力は10
−8Paから10
−10Pa程度にする。電子銃921とカラム922は差動排気構造をもたせ、イオンポンプ926とイオンポンプ927で排気する。試料室923はターボ分子ポンプ928で排気する。
【0100】
電子銃921の内部にCeB
6−CFE電子源929を配置する。CeB
6−CFE電子源929は事前にその他の真空容器内において
図2で示した表面制御プロセスを行い、電子放出面を形成した後にSEMに搭載する。電子銃921の圧力を10
−8Pa以下に保つことで、電子源表面へのガス吸着を低減し、電子線の電流の時間変化を最小限にする。CeB
6−CFE電子源929の対向面には引出電極930を配置する。引出電源941を用いて、CeB
6−CFE電子源929が負極となるように、引出電極930との間に引出電圧を印加することでCeB
6−CFE電子源929から電子線931を電界放出させる。加速電源942を用いて、CeB
6−CFE電子源929と加速電極932の間に加速電圧を印加する。この電位差に従って電子線931は引出電極930と加速電極932の間で加減速される。引出電極930と加速電極932はバトラーレンズ構造をもち、収差を低減する。なお、このバトラーレンズの集光作用によって電子線の放射各電流密度は増加する。この増加分は加速電圧と引出電圧の比に比例する。CeB
6−CFE電子源の仕事関数は従来のW−CFE電子源よりも低いことから、必要な引出電圧は低くなる。この結果、バトラーレンズによる放射角電流密度の向上効果はより大きくなる。
【0101】
その後、電子線931をコンデンサレンズ933によって集光し、絞り934によって使用する立体角を決める。さらに電子線931をコンデンサレンズ935と対物レンズ936で微小スポットに縮小し、図示していないスキャンコイルで走査しながら試料937に照射する。なお、対物レンズ936と試料937の間には減速電界を印加し、低加速観察時の空間分解能を向上する。電子線931を照射することで試料937からは二次電子が放出する。この二次電子を検出器938で検出することで試料像を取得し、これを表示器(表示部)943を介してユーザーに表示する。
【0102】
CeB
6−CFE電子源929には加熱電源944を接続し、加熱部903を通電加熱することで、CeB
6<310>単結晶901を加熱できる。なお、加熱電源944や、引出電源941、加速電源942、検出器938、コンデンサレンズ933、コンデンサレンズ935、対物レンズ936、絞り934は制御器(制御部)945と接続しており、ユーザーが表示器943を介して動作条件を変更できる。例えば、表示器943を介して、加熱電源に対し、加熱温度、加熱時間、チップ製作時に取得された加熱温度に対応した電流、電圧、電力のいずれか、ないしはこれらの組合せ、または加熱強度を表すレベルを選択し、これらを入力することが可能である。また各機器の状態を常時モニタリングすることで、ユーザーの指示がなくともSEM全体を最適な状態に維持する。
【0103】
図15はCeB
6−CFE電子源を搭載したSEMの観察手順を示すフローチャートである。ユーザーが観察を始める場合、まず清浄化プロセスS51において、CeB
6−CFE電子源の先端表面に吸着した残留ガスを除去する。次に電子線放出プロセスS52において、CeB
6−CFE電子源から電子線を放出させる。電流検査S53において電子線の電流量を測定し、あらかじめ定めた基準を満たせば試料観察S54を開始する。基準を満たさなかった場合は、電子銃921内で表面再構成プロセスS55を行い、電子源表面を初期状態に戻す。以下で各プロセスを説明する。
【0104】
清浄化プロセスS51において、CeB
6<310>単結晶901を瞬間的に900℃以上に加熱して、表面の吸着ガスを脱離する。
図16は、表面にガスが吸着したCeB
6−CFE電子源を加熱した後のFEM像である。この実験では、
図2の表面制御プロセスを完了したCeB
6―CFE電子源を一度大気中におき、再び真空容器内に入れて温度を変えて加熱し、FEMを行った。
【0105】
図16(a)に示すように、吸着表面のFEM像には対称性のあるエミッションパターンは得られず、パターンは明滅して常に変化した。
図16(b)に示すように、800℃で加熱したFEM像にも対称性のあるエミッションパターンは得られなかったが、
図16(c)に示すように、900℃で加熱したFEM像では
図6(c)の1100℃で2分間加熱し、表面再構成を行った後と同様の{310}面と{210}面からの電子放出が再び得られた。また、吸着表面に比べて電界放出に必要な引出電圧は低減した。
図16(d)に示すように、1000℃で加熱したFEM像でも
図16(c)と同様の対称性のあるFEM像が得られた。加熱温度をさらに上げ1500℃以上にすると、エミッションパターンが崩れ始めた。この結果から、CeB
6−CFE電子源の表面を清浄化するためには900℃以上1400℃以下で加熱すれば良いことがわかる。なお、吸着ガスは瞬間的に脱離することから、加熱時間は1秒、またはそれ以下でも良い。加熱時間を数分と長くすることもできるが、効果に違いはなかった。この900℃以上1400℃以下で数秒以下の加熱を断続的に行うことで、CeB
6−CFE電子源の表面を清浄に保つことができ、仕事関数を一定にすることができる。
【0106】
ユーザーが清浄化プロセスS51を行う場合、表示器943に付属した入力部を介して任意の加熱条件を設定して入力できる。このときの設定量は、加熱温度や加熱時間、または電子源作製時に校正した電子源の温度に対応する通電電流、電圧、電力のいずれか、ないしはこれらの組み合わせなどがある。または、予め設定された加熱強度を表すレベルを選択しても良い。W−CFE電子源では吸着ガスの脱離に2000℃以上の加熱を必要としたが、CeB
6−CFE電子源では900℃以上と低温で清浄化できることがわかった。この違いは材料と残留ガスとの結合エネルギーの差によるものであり、CeB
6の方がWと比べて結合エネルギーが小さいためである。また、900℃以上の加熱はCeB
6表面の再構成を行うための温度も含む。従って、清浄化プロセスS51を行うことで表面にCeを偏析させ、形状を修復する作用もある。なお、CeB
6−CFE電子源は、制御器によって加熱電源を制御することにより、断続的に900℃以上1400℃以下に加熱することができる。
【0107】
特に超高真空中の残留ガスの主成分である水素とCeB
6との結合エネルギーは小さく、水素のみであるならば400℃以上の低温加熱で脱離できた。そこで、SEM観察中に断続的にCeB
6−CFE電子源を400℃から700℃に数秒間加熱することで、水素の吸着を最小限にし、表面の仕事関数の変化を少なくできる。また、この低温であれば表面の原子の移動も少なく電子線の特性は変化しない。また、数秒以下であるならば観察を邪魔することもない。この結果、ユーザーを煩わせることなく常に安定な電子線を得ることができる。なお、本処理はあらかじめ設定された加熱強度と実行時間、実行間隔のスケジュールに基いて自動的に実行することも可能である。
【0108】
電子線放出プロセスS52では、CeB
6−CFE電子源929と引出電極930との間に引出電圧を印加することで電子線を電界放出させる。
【0109】
電流検査S53では、絞り934などで電子線の電流量を測定し、予め定めた基準を満たすか検査する。この基準は、例えば前述の放射角電流密度JΩとトータル電流Itとの比が6以上であることや、ある引出電圧に対するトータル電流とプローブ電流量、引出電圧の変化に対するこれら電流量の変化率、これら電流の時間変化などを用いる。電子線の電流量がこの基準を満たさない場合、電子源の表面状態に異常があると判断できる。そこで、電子銃921内で表面再構成プロセスS55を再び行い、再度、電子源表面に電子放出面を形成する。表面再構成プロセスS55は
図2で説明した表面再構成プロセスS13と同様である。例えば、電子源表面に残留ガスのイオンが衝突し、スパッタリングされて表面形状が変化した場合でも、この表面再構成プロセスS55を行うことで、ファセットの成長が起こり、原子構造を初期状態に戻すことができる。また、Ceが再び表面に偏析することで低い仕事関数の表面が得られる。なお、CeB
6−CFE電子源は、制御器によって加熱電源を制御することにより、700℃以上1400℃以下、望ましくは1000℃以上1400℃以下に制御することができる。
【0110】
試料観察S54で、ユーザーは任意の試料の観察や分析を行う。
【0111】
以上
図14から
図16で説明したCeB
6−CFE電子源を搭載したSEMを用いることで、優れた特性をもつ電子線を再現性良く得ることができ、低加速観察時でも高い空間分解能を安定して得ることができる。
【0112】
なお、SEMに搭載するCeB
6−CFE電子源929は、事前にその他の真空容器内において
図2で示した先端成形プロセスS12までを行ったものでも良い。この場合、表面再構成プロセスS13をSEM内で行い、電子放出面を形成する。SEM内でパターン検査S15は行えないことから、
図15に示した電流検査S53を用いて、電子放出面が形成できたかを判断する。先端成形プロセスS12までを行った電子源を搭載することで、表面にBが露出した電子源を大気中で輸送することになり、表面のCeが酸化されるのを防ぐことができる。この結果、Ceが酸化されなくなることから、SEM内で表面再構成することでCeの偏析が容易に行えるようになる。
【0113】
以上本実施例によれば、CFE電子源にCeB
6を用いて低加速観察する場合であっても、高い空間分解能を安定して得られる電子線装置を提供することができる。また、CFE電子源の温度が所定の温度(例えば、700℃以上1400℃以下)となるように加熱電源を制御する制御器を備えることにより、電子線装置内で表面再構成を行うことができる。