(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694578
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】アルミニウム箔の製造方法およびアルミニウム箔製造用陰極ドラム
(51)【国際特許分類】
C25D 1/04 20060101AFI20200511BHJP
C25D 1/22 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
C25D1/04
C25D1/22
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-248256(P2015-248256)
(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公開番号】特開2017-115167(P2017-115167A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松田 純一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 篤志
【審査官】
池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−080632(JP,A)
【文献】
特開2012−246561(JP,A)
【文献】
特開2015−155565(JP,A)
【文献】
特開昭63−065095(JP,A)
【文献】
特開2005−206935(JP,A)
【文献】
特表2007−506861(JP,A)
【文献】
特表2015−503027(JP,A)
【文献】
特開昭64−079394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/04
C25D 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極ドラムの胴体の少なくとも一部に銅めっき層が形成され、前記銅めっき層の一端が前記胴体から剥離されて銅箔を形成している陰極ドラムを用い、前記陰極ドラムの少なくとも一部および前記銅めっき層の他端を含む部分がアルミニウム電解液に浸漬され、前記銅箔の一端が巻取りリールに固定された状態としておき、前記アルミニウム電解液に浸漬された陽極部材と前記陰極ドラムとの間に直流電流を印加することで前記アルミニウム電解液に浸漬された前記銅めっき層の前記他端を含む表面にアルミニウム被膜を形成しながら、前記巻取りリールおよび前記陰極ドラムを回転させることにより、前記銅めっき層を前記胴体から剥離して巻取りリールに巻取り、さらに前記銅めっき層から繋がって前記胴体の表面に形成されたアルミニウム被膜を連続して前記陰極ドラムの胴体から剥離して前記巻取りリールに巻取ることを特徴とするアルミニウム箔の製造方法。
【請求項2】
前記銅めっき層の厚さは、1μm〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム箔の製造方法。
【請求項3】
前記陰極ドラムの胴体は、チタンからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム箔を電解析出法によって製造するアルミニウム箔の製造方法およびこれを製造するための陰極ドラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム箔の製造方法としては、アルミニウムイオンを含有した電解液からアルミニウムを電解還元により析出させる方法によってアルミニウム箔を作製する方法が知られている。例えば、陰極ドラムと陽極板がアルミニウム電解液を介して対向して配置されたアルミニウム箔の製造装置があり、陰極ドラムと陽極板の両極間に通電し、陰極ドラムを回転させながら陰極ドラム表面にアルミニウム被膜を析出させ、直ちに剥離させてアルミニウム箔を得る方法が知られている。(例えば、特許文献1)
【0003】
具体的には、電解浴槽にアルミニウム電解液を貯留して、このアルミニウム電解液に少なくとも一部が浸漬された陰極ドラムと、この陰極ドラムに対向してアルミニウム電解液に浸漬された陽極板との間を通電することで、陰極ドラムにアルミニウム箔となるアルミニウム被膜を形成するものである。アルミニウム箔は、回転する陰極ドラム上に連続的にアルミニウム被膜として形成された後、陰極ドラム表面から剥離され、箔引出し口から引出され、巻取りリールに巻取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−246561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、特許文献1に開示される製造装置によりアルミニウム箔の製造を試みたところ、陰極ドラムからアルミニウム被膜の剥離を開始して巻取りリールに巻取る際に、諸問題を確認した。アルミニウムは、水よりも卑な金属であり、水系の電解液から電解析出させることは極めて困難であるため、アルミニウムの電解に用いる電解液には非水系のものが用いられている。アルミニウム電解液が大気中の水分の混入によって汚染されないようにするために、アルミニウム箔の製造装置は蓋が設けられており、浴槽内に窒素をパージした密閉構造となっている。
【0006】
このような技術的背景の中、陰極ドラムからアルミニウム被膜を剥離させて、アルミニウム箔を巻取りリールへ誘導させるためには、蓋部の解放を伴い、アルミニウム電解液が空気中の水分に汚染されるという問題が生じる。水分に汚染されたアルミニウム電解液を用いて電解析出を行なう場合は、アルミニウムの電解析出よりも水の電気分解が優先して発生する。その結果、陰極ドラム表面に形成されるアルミニウム被膜にピンホールや部分的な厚みムラが発生し、陰極ドラムからの剥離や巻取りリールに巻取る際に、それらを起点にアルミニウム箔が破断しやすくなるといった問題が生じる。
【0007】
また、陰極ドラムの表面に形成されたアルミニウム被膜を剥離するためには、アルミニウム被膜の端部に、剥離のきっかけとなる切欠きを入れて、そこから剥離して得たアルミニウム被膜の先端を箔引出し口から引出して巻取りリールに誘導する必要がある。その作業の際に、得られるアルミニウム被膜の先端部がハンドリング等で変形してしまい、切り捨てを余儀なくされ、歩留低下という問題に繋がる。さらに、アルミニウム箔の巻取りリールへの誘導は、電解析出を開始して陰極ドラムの表面にアルミニウム被膜を形成した後に、一度電解析出を停止する必要があり、製造効率が低下するといった問題が発生する。
【0008】
上述した問題への対策として、例えば、電解析出させるアルミニウム被膜と同等の材質のアルミニウム被膜(ダミー被膜)を表面に形成し、かつ、そのダミー被膜の一端を剥離した状態の陰極ドラムを浴槽内に配置して密閉し、その後にアルミニウム被膜の電解析出を行いながらダミー被膜の一端を巻取り、これにより製品となるアルミニウム被膜を剥離する方法が考えられる。しかし、上述した方法は大気や水分に触れるリスクが高く、ダミー被膜となるアルミニウム被膜が容易に自然酸化し、その表面には緻密で強固な酸化被膜が形成される。そのため、製品となるアルミニウム被膜とダミー被膜との金属間結合による密着が脆弱になり、巻取りにおける破断が危惧される。
【0009】
本発明の目的は、アルミニウム被膜の陰極ドラムからの初期の剥離方法を改善し、アルミニウム被膜の形成から巻取りまでの動作を連続して行なうことができ、さらにアルミニウム電解液が空気中の水分と接触することを抑制し、連続的に製造可能なアルミニウム箔の製造方法およびアルミニウム箔の製造に用いる陰極ドラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、アルミニウム被膜の陰極ドラムからの初期の剥離方法の問題を検討し、陰極ドラムに、その胴体の少なくとも一部に電解析出によって銅めっき層が形成された構成を採用することで、アルミニウム箔の製造効率、歩留、品質等を大きく改善できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、陰極ドラムの胴体の少なくとも一部に銅めっき層が形成され、前記銅めっき層の一端が前記胴体から剥離されて銅箔を形成している陰極ドラムを用い、前記陰極ドラムの少なくとも一部および前記銅めっき層の他端を含む部分がアルミニウム電解液に浸漬され、前記銅箔の一端が巻取りリールに固定された状態としておき、前記アルミニウム電解液に浸漬された陽極部材と前記陰極ドラムとの間に直流電流を印加することで前記アルミニウム電解液に浸漬された前記銅めっき層の前記他端を含む表面にアルミニウム被膜を形成しながら、前記巻取りリールおよび前記陰極ドラムを回転させることにより、前記銅めっき層を前記胴体から剥離して巻取りリールに巻取り、さらに前記銅めっき層から繋がって前記胴体の表面に形成されたアルミニウム被膜を連続して前記陰極ドラムの胴体から剥離して前記巻取りリールに巻取るアルミニウム箔の製造方法の発明である。
前記銅めっき層の厚さは、1μm〜50μmであることが好ましい。
前記陰極ドラムの胴体は、チタンからなることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、陰極ドラムの胴体の表面に電解析出させたアルミニウム被膜を剥離してアルミニウム箔を製造するために用いられる陰極ドラムであって、前記陰極ドラムの胴体の少なくとも一部に銅めっき層が形成されているアルミニウム箔製造用陰極ドラムの発明である。
前記銅めっき層の厚さは、1μm〜50μmであることが好ましい。
前記陰極ドラムの胴体は、チタンからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アルミニウム箔の製造効率、歩留、品質等を飛躍的に改善することができ、アルミニウム箔の製造にとって有用な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を適用した実施形態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述したように、従来のアルミニウム箔を製造する装置においては、アルミニウム電解液を介して陰極ドラムと陽極板を対向して配置し、電極間に直流電流を印加しながら陰極ドラムを回転させて陰極ドラム表面に箔となるアルミニウム被膜を析出・形成させ、これを剥離させてアルミニウム箔を得ることが開示されている。しかしながら、陰極ドラム表面に析出させたアルミニウム被膜をどのように剥離して巻取りリールに巻取り始めるかという、初期の剥離方法については具体的に開示されていなかった。
【0016】
本発明では、陰極ドラムの胴体の少なくとも一部に銅めっき層が形成され、その銅めっき層の一端が陰極ドラムの胴体から剥離されて銅箔を形成している陰極ドラムを用いる。この銅めっき層は電解析出によって形成することができる。なお、大気や水分に触れた銅めっき層は自然酸化するが、その表面はアルミニウムのような緻密で強固な酸化被膜ではなく疎な組織となるため、上記の銅箔と製品となるアルミニウム被膜との金属間結合による密着は十分に得られる。また、銅の電解に用いる電解液は水系のものを用いることができるため、非水系の電解液を用いるアルミニウムの場合と異なり、取扱いが簡便である。したがって、予め陰極ドラムの胴体の少なくとも一部に銅めっき層を形成しておく本発明によれば、アルミニウム被膜の初期の剥離を容易とすることに加え、アルミニウム被膜の形成から巻取りまでの動作を連続して行なうことができ、アルミニウム電解液が空気中の水分と接触することを抑制し、アルミニウム箔を連続的に製造することができる。
【0017】
また、上記の銅めっき層は、その一端が陰極ドラムの胴体から剥離されて銅箔を形成される。そのため、その銅箔の一端を長く伸びた状態にすることにより、アルミニウムの電解析出前に巻取りリールへ固定することができ、アルミニウム箔を巻取る際のリード材の役目を果たす。なお、銅めっき層を巻取りリールへ固定する際には、別のリード用部材と銅箔の一端を接続し、その別のリード用部材を巻取りリールへ固定することでもよく、銅箔の一端が実質的に巻取りリールに固定されるように構成されていれば良い。
【0018】
また、本発明は、予め銅めっき層を剥離した銅箔の一端を巻取りリールに固定する構成を採用することで、アルミニウム電解液の浴槽内を窒素がパージされた状態で、アルミニウム電解液が空気中の水分と接触することを抑制し、アルミニウム被膜の形成から巻取りまでの動作を連続して行なうことができる。そして、本発明は、上記の構成を採用することで、アルミニウム電解液が水分に汚染されることを抑制でき、ピンホールや部分的な厚みムラが抑制され、陰極ドラムからアルミニウム被膜を剥離する際や巻取りリールに巻取る際に、破断を防止できるという効果を奏する。
【0019】
ここで、陰極ドラムの胴体の表面に銅めっき層を設ける形態としては、例えば銅箔を接着剤や両面テープ等で固定しておくことも可能であるが、巻取りリールに巻き始める際に、粘着成分の剥離が困難になる上、銅めっき層を剥離した後の陰極ドラムの胴体の表面に粘着成分が残存する場合がある。その結果、その領域へのアルミニウムの電解析出が阻害され、連続的なアルミニウム箔の製造が困難になるリスクがある。また、接着剤や両面テープを用いた場合には、陰極ドラムの胴体の表面と銅めっき層の間にアルミニウム電解液の染み込みや水分の残存が発生することがあり、その結果、陰極ドラムの胴体の表面が汚染されてアルミニウムの電解析出が不規則になり、連続的なアルミニウム箔の製造が困難になるリスクもある。
【0020】
本発明では、陰極ドラムの胴体の少なくとも一部に電解析出によって銅めっき層を形成することが好ましく、これにより陰極ドラムの胴体の表面と銅めっき層とが隙間なく密着され、両者の間にはアルミニウム電解液の染み込みや水分の残存は発生しない。このため、本発明を採用することで、ピンホールや部分的な厚みムラを起点とした破断が起き難くなり、連続的にアルミニウム箔の製造が可能となる。
【0021】
また、銅めっき層や銅箔の色彩は、アルミニウム被膜やアルミニウム箔の色彩である白色または銀色とは明確に異なる。例えば、アルミニウム箔と同等の色彩をもつ金属箔をリード材として用いた場合は、リード材とアルミニウム箔の境界部の識別が困難になる。このため、本来製品として使用されるべきアルミニウム箔を余分に切断してしまい、歩留を低下させるリスクがある。そこで、本発明では、リード材として、赤銅色である銅めっき層を採用したのである。これにより、本発明は、リード材とアルミニウム箔との長手方向における境界部の識別が容易になり、切断時の歩留低下を抑制することができる。さらに、銅は、導電性に優れていることから、リード材として用いると、電解析出時の電圧への影響がほとんどなく、均一な厚さのアルミニウム箔を得ることができる。
【0022】
ここで、銅めっき層の形成方法の一例について説明する。銅めっき層の形成は、一般的な電解析出が適用できる。例えば、電解浴槽に銅めっき液を入れ、陰極ドラム胴体の少なくとも一部を銅めっき液に浸漬させ、その陰極ドラムと銅めっき液に浸漬させた陽極板を対向して配置させ、陰極ドラムを回転させながら直流電流を印加し、陰極ドラム胴体の表面に銅を析出させて、銅めっき層を形成する。陰極ドラムの回転に伴い、陰極ドラム胴体の表面に析出した銅めっき層が銅めっき液の液面から露出してきた後に、一度通電を止めて、テープ等を用いて銅めっき層の先端を剥離する。そして、銅めっき層の先端を保持しつつ、通電を開始し陰極ドラムを回転させながら、巻取りリールに固定できる長さまで銅めっき層を形成する。そして、通電を止め、その形成された銅めっき層の先端を巻取りリールにテープ等で固定しておく。そして、通電を再開すると同時に、陰極ドラムおよび巻取りリールの回転を開始させ、陰極ドラムの1周分以上の銅めっき層を形成・剥離させ、銅めっき層の後端が陰極ドラムの胴体表面に密着した状態のまま、通電を止める。
【0023】
このような製造方法が適用可能な理由は、銅めっき液が水系電解液であり、大気中で作業を行なうことができるためである。なお、本発明の陰極ドラムに形成される銅めっき層は、製造するアルミニウム箔の幅に合わせて、胴体の軸方向に沿って形成され、例えば胴体の周方向に絶縁テープを巻き付けることで、その寸法を適宜調整できる。なお、予め用意していた銅箔等の別のリード材に、陰極ドラムの胴体から銅めっき層を剥離して形成した銅箔の一端を接続し、その別のリード材を巻取りリールに固定することでもよい。
【0024】
また、本発明において、陰極ドラムの胴体の表面上に形成する銅めっき層の厚さは、1μm〜50μmにすることが好ましい。銅めっき層の厚さが1μm未満では、銅めっき層のハンドリングが困難となり、巻取りリールで巻取る際に破断する場合がある。本発明では、銅めっき層の厚さを1μm以上にすることで、ハンドリング性が向上し、銅めっき層を巻取りリールに巻取る際の破断を抑制できるという効果が得られる。
【0025】
一方、銅めっき層の厚さが50μmを超えると、剥離の際に、銅めっき層とアルミニウム被膜との接合部が破断の起点となるリスクがある。これは、銅めっき層の表面と陰極ドラムの胴体の表面との間に、銅めっき層の厚さ分の段差が形成され、アルミニウム被膜の電解析出の際に、その段差の部分で電界集中などの影響によりアルミニウムの析出が不連続となるためである。そこで、本発明では、銅めっき層の厚さを50μm以下として銅めっき層の表面と陰極ドラムの胴体の表面の間の段差を小さく抑制することにより、段差の部分でアルミニウムの析出が不連続にならないようにできるため、剥離する際にアルミニウム被膜の破断を防止できるという効果が得られる。
【0026】
本発明で用いる陰極ドラムの胴体には、例えば、ステンレス、アルミニウム、チタン等の円筒体を用いることができ、その中でも、チタン製の円筒体が好ましい。その理由は、チタンの表面に緻密で安定な酸化膜が形成されていることで、銅めっき層やアルミニウム被膜の剥離性が良好になるためである。陰極ドラムの胴体の表面に緻密で安定な酸化膜がない場合は、銅めっき層やアルミニウム被膜の剥離が不均一になる。
また、本発明で用いる陰極ドラムの胴体は、製造するアルミニウム箔の寸法を考慮して、適宜設定することができ、例えば、外径が100mm〜3000mm、長さが100mm〜2000mmのものが適用できる。
【0027】
本発明を適用した実施形態の一例を
図1に示す。この実施形態において、アルミニウム箔を製造する陰極ドラム1は、予め胴体の少なくとも一部に、電解析出によって銅めっき層8が形成されている。そして、銅めっき層8が胴体に密着している部分があるとともに、その銅めっき層8の一端が剥離されて箔状になっている。この陰極ドラム1を電解浴槽4に入れて、陽極部材である陽極板2と対向して配置させる。そして、銅めっき層8が密着している陰極ドラム1の少なくとも一部および銅めっき層8の剥離されていない他端を含む部分をアルミニウム電解液5に浸させて、陰極ドラム1から剥離された銅めっき層8の箔状の一端が巻取りリール7に固定されているようにしておく。
【0028】
次に、通電の開始によってアルミニウム電解液5に接している銅めっき層8の前記他端を含む表面にアルミニウム被膜3を形成しながら、陰極ドラム1と巻取りリール7の回転を開始させ、巻取りリール7の張力によって箔状となった銅めっき層8を巻取り、銅めっき層8から繋がってアルミニウム電解液5の液面から露出したアルミニウム被膜3を連続して陰極ドラム1の胴体から剥離して、巻取りリール7に巻取ることでアルミニウム箔を得ることができる。なお、陰極ドラム1から全ての銅めっき層8が剥離された後は、その銅めっき層8に連続して陰極ドラム1の胴体の表面に形成されるアルミニウム被膜3が剥離され、アルミニウム箔として巻取られていく。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。また、説明の便宜上、
図1に示す符号を適宜参照する。
陰極ドラム1の胴体の表面に形成するリード材となる銅めっき層8の作製には、市販のピロリン酸銅めっき液を用いた。ピロリン酸銅めっき液を電解浴槽に入れ、直径が140mm、胴長が300mmのチタン製の陰極ドラム1と銅製の陽極板を対向させるように配置した。続いて、電流密度50mA/cm
2、液温50℃の条件で、ピロリン酸銅めっき液を循環させながら通電を行ない、陰極ドラム1の胴体の表面に銅を電解析出させる方法により、厚さが20μm、幅が200mmの銅めっき層8の形成を開始した。
【0030】
そして、陰極ドラム1の回転を開始して、陰極ドラム1の胴体の表面の半周程に銅めっき層8を形成した後、一度通電を止め、ピンセットと粘着テープを用いて、液面から露出した陰極ドラム1に析出した銅めっき層8の一端を剥離した。その後、剥離した銅めっき層8の一端を保持しつつ、通電を開始し、陰極ドラム1を回転させて銅めっき層8をさらに剥離することにより、ハンドリングしやすい長さの箔状(銅箔)の部分を形成した。そして、再度通電を止め、剥離によって箔状となった銅めっき層8の一端を、粘着テープを用いて巻取りリールに固定した。
【0031】
次に、通電を再開し、陰極ドラム1と巻取りリールを回転させながら、陰極ドラム1の表面に上記寸法の銅めっき層8を形成させながら、巻取りリールの張力で銅めっき層8を連続的に剥離して銅箔とし、その銅箔を巻取りリールに巻き取った。陰極ドラム1の1周分以上の銅箔を巻取りリールに巻き取った後、通電を止め、陰極ドラム1に析出した銅めっき層8の他端(巻取り方向の後方端)が陰極ドラム1に密着した状態のまま、電解浴槽から銅めっき層8が密着した状態の陰極ドラム1を取り出し、陰極ドラム1と銅めっき層8の洗浄および乾燥を行なった。
【0032】
胴体の表面に電解析出させた銅めっき層8の他端が密着した状態の陰極ドラム1を、アルミニウム電解液5が入ったアルミニウム箔の製造装置に入れ、陰極ドラム1の少なくとも一部および陰極ドラム1に電解析出によって密着した銅めっき層8の他端を少なくとも含む部分をアルミニウム電解液5に浸漬し、陰極ドラム1を陽極部材となるアルミニウム製の陽極板2と対向させるように配置した。なお、陰極ドラム1から剥離させた銅めっき層8の箔状となった一端は、箔引出口6を通って、巻取りリール7に固定されている。この巻取りリール7は、先の工程にて銅めっき層8の先端を巻き付けたリールをそのまま用いても良いし、別のリールに銅めっき層8を隔離して形成した銅箔の部分を巻き直しても良い。
【0033】
次に、上述した製造装置によるアルミニウム箔の連続製造を行った。この際に、アルミニウムの電解析出は、電流密度100mA/cm
2、液温110℃の条件とし、アルミニウム電解液5を撹拌させながら通電を行なった。通電の開始に際して、陰極ドラム1の表面に密着した銅めっき層8の少なくとも前記他端を含む表面上に、アルミニウムを電解析出させるように制御した。それとほぼ同時に、陰極ドラム1および巻取りリール7の回転を開始し、巻取りリール7の張力で銅めっき層8を胴体から剥離して巻取りリール7に巻取り、さらに銅めっき層8から繋がって陰極ドラム1の胴体の表面に形成されたアルミニウム被膜3を連続して胴体から剥離させることによって、厚さが12μm、幅が200mmのアルミニウム箔を作製した。なお、銅めっき層8が全て剥離した後は、アルミニウム被膜3だけが胴体から剥離されるようになり、アルミニウム箔そのものを連続的に作製することができた。
【0034】
本発明の製造方法では、リード材となる銅めっき層を用いない従来の製造方法に比べて、アルミニウム被膜を陰極ドラムから剥離して巻取りリールに巻取る際の初期操作が改善された。そして、銅めっき層を巻取りリールに巻取る際に銅めっき層の破断はなく、また、アルミニウム箔を巻取りリールに巻取る際も破断がなかった。また、本発明の製造方法では、リード材となる銅めっき層とアルミニウム箔との長手方向における境界部の識別が明確にできたので、リード材と製品となるアルミニウム箔との切断が最小限に抑えられ、歩留低下を抑制できた。さらに、本発明の製造方法では、アルミニウム電解液が水分に汚染されることがなかったため、均一な厚さを有するアルミニウム箔を製造することができた。
【符号の説明】
【0035】
1.陰極ドラム
2.陽極板
3.アルミニウム被膜
4.電解浴槽
5.アルミニウム電解液
6.箔引出し口
7.巻取りリール
8.銅めっき層