(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、中・大型航空機用ジェットエンジン、発電所用蒸気タービン等を構成する大型の熱間鍛造製品の需要が大きく伸びている。例えば、航空機ジェットエンジンのタービンディスクは、回転体状で直径1メートルを超える大きさがある。さらに、これらの用途に用いられるニッケル基超耐熱合金、チタン合金等は難加工性材料であるため、その鍛造に際しては、加熱した鍛造素材の温度低下を抑制するために、加熱した金型を用いるホットダイ鍛造、金型の温度を所定の範囲内に制御して鍛造する恒温鍛造等が適用されている。
【0003】
上述のように金型を加熱して鍛造を行う場合に用いる金型装置には、加熱した金型からの熱が逃げることを防ぐため、金型とプレス機本体のプラテンとの間に断熱構造を設けることが提案されている(例えば特開2006−192502号公報(特許文献1))。特許文献1では、断熱性を確保しながら断熱手段の厚さを低減するために、金型と金型の支持要素(プラテン)との間に、セラミック、マイカ等の異なる種類の断熱手段を置くことを開示している。
また、特開2013−49071号公報(特許文献2)は、断熱構造材の強度と耐久性を向上させることを目的として、複数の断熱用素材とその外周を保持する保持枠、および底板と押さえ板で一体化された断熱構造材を開示する。ここで断熱用素材、保持枠として例示されているのは、それぞれジルコニアセラミックス、ステンレスである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、大型の鍛造製品を製造する場合のように鍛造荷重が大きい場合には、特許文献1に記載されているような構成では、断熱材の強度が不十分である。一方、特許文献2のように、断熱材の強度を金型用鋼の枠体で補おうとすると、かかる枠体を通じた熱伝達が原因で金型温度の低下を十分に抑制することができないという問題が生じる。
そこで、本発明は、加熱された金型を用いた鍛造において、金型温度の低下を抑制しつつ、大きな鍛造荷重にも耐えうる金型固定装置および鍛造製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、加熱された金型を固定するための金型固定装置であって、前記金型に接する面に配置されたチタン合金板と、前記チタン合金板を支持する熱間金型用鋼からなる基材とを有することを特徴とする。
【0007】
また、前記金型固定装置において、前記基材に設けられた凹部に前記チタン合金板が配置されていることが好ましい。
さらに、前記金型固定装置において、前記チタン合金板が複数の個片からなることが好ましい。
さらに、前記金型固定装置において、前記チタン合金板と前記基材との間の一部に前記チタン合金よりも熱伝導率が低い断熱材が配置されていることが好ましい。
【0008】
別の本発明は、加熱された鍛造素材を金型で熱間鍛造する鍛造製品の製造方法であって、前記金型を加熱して金型固定装置に固定する第1の工程と、加熱された鍛造素材を前記金型に載置する第2の工程と、前記金型によって前記鍛造素材を圧下する第3の工程とを有し、前記金型装置は、前記金型に接する面に配置されたチタン合金板と、前記チタン合金板を支持する熱間金型用鋼からなる基材とを有することを特徴とする。
【0009】
また、鍛造製品の製造方法において、前記前記チタン合金板と前記基材との間の一部に前記チタン合金よりも熱伝導率が低い断熱材が配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金型固定装置および鍛造製品の製造方法によれば、加熱された金型を用いた鍛造において、金型温度の低下の抑制と大荷重での鍛造との両立が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、加熱された金型を固定するための金型固定装置であって、金型に接する面に配置されたチタン合金板と、かかるチタン合金板を支持する熱間金型用鋼からなる基材とを有する金型固定装置である。チタン合金は熱間金型用鋼よりも、熱伝導率が低いため、断熱材として機能する。しかも、高温強度に優れ、高荷重に耐えることができるため、金型に接する面に配置することができる。すなわち熱間金型用鋼で覆うなどの必要がないため、チタン合金が持つ断熱性を有効に利用することができるのである。
なお、金型固定装置を上型側で用い、チタン合金板が基材の下側になる場合であっても、チタン合金板が基材に固定されている限り、基材はチタン合金板を「支持」するものとして取り扱う。
【0013】
本実施形態に係る金型固定装置は、型彫り面を有する金型を用いた熱間鍛造等において、加熱された金型をプレス機本体に固定するためのものである。ここでいう熱間鍛造には、熱間プレス、恒温鍛造、ホットダイ等も含む。なお、加熱された金型を固定する態様としては、予め加熱炉等で加熱した金型をプレス機本体に固定する態様の他、予め金型をプレス機本体に固定し、プレス機本体に固定された状態で金型を加熱する態様も含まれる。
以下、本発明に係る金型固定装置の実施形態を、図を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本実施形態において説明する各構成は、その機能を損なわない限りにおいて互いに組み合わせることが可能である。
【0014】
図1に金型固定装置の一実施形態を示す。
図1(a)は金型固定装置を上下方向(z方向)から見た平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA−Aの位置でのxz断面図である。金型固定装置100は、金型に接する面に配置されたチタン合金板1と、チタン合金板1を支持する熱間金型用鋼からなる基材2を有する。金型が載置される金型固定装置100は受圧プレートとも称される。チタン合金板1は熱間鍛造用金型用鋼等で覆われていないため、金型固定装置100の表面に露出し、載置される金型に直接接する。チタン合金板1はボルト等の固定治具(図示せず)によって基材2に固定され、金型固定装置100もボルト、クランプ等の固定治具によってプレス機本体に固定される。金型固定装置100は、下型、上型の一方に用いることもできるが、断熱効果を高めるためには、下型および上型の両方に用いることがより好ましい。
【0015】
基材2を構成する熱間金型用鋼の材質はこれを特に限定するものではなく、強度とコストを勘案して、JIS G4404で規定されるSKD61、SKT4等の熱間金型用鋼やその改良鋼を用いることができる。また、チタン合金板1の材質もこれを特に限定するものではない。例えば、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−15V−3Cr−3Sn−3Al、Ti−6Al−4V、その他質量%含有量でTiが最も多い合金を用いることができる。上記のSKD61等の熱間金型用鋼の熱伝導率はおおよそ30W/(m・K)程度あるのに対して、上記のようなTiを主成分とするチタン合金の熱伝導率は8W/(m・K)以下であり、熱間金型用鋼の1/3以下である。そのためチタン合金板1は断熱材として機能するのである。しかも、上述のチタン合金の強度は、一般に耐力で900MPa以上を示すことから、鍛造荷重を受けるのに十分な強度を備える。したがって、チタン合金板を備えた
図1に示す金型固定装置100によれば、加熱された金型を用いた熱間鍛造において、金型温度低下の抑制と大荷重での鍛造との両立が可能になる。
【0016】
図1に示す実施形態では、取扱いのしやすさ等からチタン合金板1および基材2の外形は四角形状であるが、これに限定されるものではない。また、金型固定装置100に載置する金型の外形形状は、円形状でもよいし、四角形状でもよい。金型を金型固定装置に載置した際に金型の一部がチタン合金板1に接し、一部が基材2に接するようにすれば、鍛造荷重の一部を基材2で受け、高い鍛造荷重に対応することも可能である。ただし、チタン合金板1による断熱効果を効率よく発揮させるためには、金型固定装置100に金型を載置した際に、金型の底面の外縁がチタン合金板1の外縁よりも内側に位置するように、すなわち金型がチタン合金板1の外縁からはみ出さないようにチタン合金板1の大きさ、形状、配置を設定することが好ましい。
チタン合金板1が存在することで断熱効果が発揮されるとともに、チタン合金板1は基材2に支持されているので、チタン合金板の厚さ(z方向の寸法)は特に限定するものではない。断熱効果をより高める観点および作製の容易さ等の観点からは10mm以上であることが好ましい。一方、チタン合金板1が厚くなると材料コストが増えることから、チタン合金板の厚さは例えば30mm以下が好ましい。
【0017】
チタン合金板1は十分な強度を有するため、周囲を熱間金型用鋼等の強度補助部材で囲うことなく基材2の表面上に配置した構成も適用可能である。ただし、
図1に示す実施形態のように、基材に設けられた凹部4にチタン合金板1が配置された構成を採用することで、より大きな鍛造荷重にも耐えることが可能になる。また、仮に熱間鍛造中にチタン合金板1に割れが発生しても、凹部4内にチタン合金板が留まるため、断熱性能や金型固定装置の機能を維持することができる。
図1に示す実施形態では、凹部に挿入されたチタン合金板1の表面と、その周囲の基材の表面とは略面一となっている。凹部4の内周面がなす形状は、チタン合金板1の外周面がなす形状に倣って構成されており、凹部4の内周面とチタン合金板1の外周面との間には、組立性と鍛造時の変形を考慮して若干の隙間が設けられている。
【0018】
図2に金型固定装置の他の実施形態を示す。
図2(a)は金型固定装置を上下方向(z方向)から見た平面図、
図2(b)は、
図2(a)のB−Bの位置でのxz断面図である。
図2に示す金型固定装置200は、チタン合金板3が複数の個片からなる点が、
図1に示す実施形態と異なる。それ以外の構成は
図1に示す実施形態と同様であるので説明を省略する。
図2に示す金型固定装置200のチタン合金板3は、主面が四角形状の二つの個片で構成されているが、個片の数としてはこれに限定されるものではない。二つ以上の個片でチタン合金板を構成する分割型のチタン合金板を採用することで、個々のチタン合金板を小さくし、チタン合金板作製にかかる負荷、コストを低減することができる。
【0019】
図3に金型固定装置の他の実施形態を示す。
図3(a)は金型固定装置を上下方向(z方向)から見た平面図、
図3(b)は
図3(a)のC−Cの位置でのxz断面図、
図3(c)は
図3(b)と同じ断面図で見た分解図である。
図3に示す金型固定装置300は、チタン合金板3と基材4との間の一部にチタン合金よりも熱伝導率が低い断熱材5が配置されている点が
図2に示す実施形態と異なる。なお、
図3(a)では、チタン合金板3の下側に部分的に配置された断熱材5の位置を便宜的に点線で示してある。チタン合金板3と基材4との間に、チタン合金よりも熱伝導率が低い断熱材5を配置することで断熱性を高め、基材4に逃げる熱を更に低減することができる。断熱材の厚さ(z方向の寸法)はこれを特に限定するものではないが、より高い断熱性、取扱いのし易さの観点からは厚い方が好ましく、例えば1mm以上が好ましい。一方、厚くなりすぎると断熱材の材料コストが増えること、断熱材を収容する凹部の形成が煩雑になることから、例えば20mm以下が好ましい。
図3に示す金型固定装置300では、基材4の凹部6の底部に、さらに断熱材5を配置するための凹部7が設けられており、かかる凹部7に断熱材5が収容されている。断熱材5と凹部7の嵌めあいは軽圧入程度で収容されている。かかる構成によれば、断熱材5の外周を基材4で囲むため、チタン合金板に比べて強度が落ちる断熱材を用いる場合でも、断熱材の強度が障害になることを回避することができる。
【0020】
図3に示す金型装置300では、外形が円形状の金型を固定することを想定しており、断熱材5はかかる金型の載置範囲に配置すれば十分であるので、断熱材5の外形は固定する金型の外形に倣って円形状にしてある。また、断熱材5は一体で構成することもできるが、二つ以上の個片で断熱材5を構成する分割型の断熱材を採用することで、断熱材5の組立性向上、コスト低減が可能である。
図3に示す金型装置300では、断熱材5は全体で円環状をなしている。かかる断熱材5は周方向に密接に配置された複数の扇形状の個片で構成されている。
さらに、
図3に示す金型装置の変形例を
図4に示す。
図4は金型固定装置を上下方向(z方向)から見た平面図である。
図4に示す金型固定装置400の基材9は、熱間鍛造終了後に鍛造素材を取り出すためのノックアウトピン用の貫通孔10を有する。また二つのチタン合金板8においても、貫通孔10に対応する位置に半円状の切欠きが設けられ、かかる切欠きを並置することでチタン合金板にも貫通孔部分が構成されている。一つのチタン合金板に貫通孔を設けるよりも、複数のチタン合金板に設けられた切欠き同士を向い合せて貫通孔部分を作製する方が製造が容易であり、コスト低減にも有利である。
【0021】
上述の金型固定装置を適用した鍛造製品の製造方法について以下説明する。
かかる鍛造製品の製造方法の一例は、加熱された鍛造素材を金型で熱間鍛造する鍛造製品の製造方法であって、金型を加熱して金型固定装置に固定する第1の工程と、加熱された鍛造素材を金型に載置する第2の工程と、金型によって鍛造素材を圧下する第3の工程とを有する。第3の工程を経て、さらには適宜加工等を施して、鍛造製品が得られる。第1の工程で使用する金型固定装置は、金型に接する面に配置されたチタン合金板と、チタン合金板を支持する熱間金型用鋼からなる基材とを有する。かかる鍛造素材の製造方法によれば、加熱された金型を用いた熱間鍛造において、金型温度低下の抑制と大荷重での鍛造との両立が可能になる。チタン合金板と基材との間の一部にチタン合金よりも熱伝導率が低い断熱材を配置すれば、より確実に金型温度低下を抑制することができる。金型固定装置の具体的な構成や利点は上述のとおりであるので説明を省略する。
【0022】
図5は鍛造製品の製造方法に用いるプレス機の概略構成図である。
図5に示すプレス機500は、金型11、15を加熱して、それぞれ金型固定装置12、16に固定する第1の工程が終了した状態を示している。なお、金型表面14、18(型彫り面)の形状等詳細は省略してある。金型11は下型、金型15は上型であり、これらが対となって鍛造素材の圧下が行われる。金型11、15が固定された金型固定装置12、16は、ボルト、クランプ等を用いてそれぞれプレス機本体13(下ラム)、17(上ラム)に固定される。
【0023】
金型温度低下の抑制と大荷重での鍛造との両立を可能にする、上述の金型固定装置および鍛造製品の製造方法は、熱間鍛造の中でも、特に大型の熱間プレス機を用いた熱間鍛造への適用が好適である。例えば400MN以上の大型の熱間プレス機を用いる場合、直径1mを超える大型の製品を熱間鍛造等に好適である。
鍛造製品は、タービンディスク、タービンブレード等の、鍛造を経て製造される製品であり、鍛造素材は最終的な鍛造製品形状を得るための予備成形体である。鍛造素材には、ビレットの他、複数回(複数ブロー)の熱間鍛造を行う場合の途中段階の中間素材も含まれる。鍛造素材の材質としては、例えばNi基超耐熱合金、Ti合金等を用いることができる。
【実施例】
【0024】
(実施例)
図4に示す構成の金型固定装置を作製した。チタン合金板として厚さ25.4mmのTi−6Al−4V(質量%)板を、基材として厚さ200mmのSKT4を用いた。熱伝導率は、Ti−6Al−4Vで7.5W/(m・K)、SKT4で37W/(m・K)である。チタン合金板は基材に設けられた凹部に収容され、ボルトで固定した。基材の中央部には貫通孔を設けた。チタン合金板は半円状の切欠きを有する二つの個片からなり、半円状の切欠きを向い合せて配置してチタン合金板に基材の貫通孔に対応した貫通孔を形成した。また、チタン合金板と基材との間には断熱材として厚さ5mmのガラス樹脂系断熱材ミオレックスPGX−595(菱電化成株式会社製)を円環状に配置した。かかる円環状の断熱材は、大きさの異なる扇形状の個片を周方向に交互に配置して構成した。かかる個片の数は六つであった。尚、かかる円環状の断熱材の内径はφ400mm、外径はφ1300mmであった。
上記金型固定装置を用いて、以下のように熱間鍛造により鍛造製品を作製した。金型を予熱炉で550℃に加熱して上述の金型固定装置に固定した(第1の工程)。この際、金型底面の外縁がチタン合金板の外縁よりも内側になるように配置した。さらに、かかる金型固定装置をプレス機に固定した後、1000℃に加熱された外径φ1000mmの鍛造素材ニッケル基超耐熱合金(Alloy718)を金型に載置した(第2の工程)。その後、プレス機を作動させ、金型によって鍛造素材を圧下し、外径φ1300mmの円盤状の鍛造製品を得た(第3の工程)。圧下に要した鍛造荷重は500MNであった。
【0025】
予熱炉から金型を取出し、金型固定装置に固定した状態で温度推移を測定した結果を
図6に示す。加熱温度からの温度低下は従来よりも抑制され、30分後で40℃以内、60分後でも60℃以内であり、金型固定の段取り時間を考慮しても十分な水準であった。また、鍛造終了後においても、金型固定装置に破損等の不具合はなんら認められなかった。これらの結果から、実施例に係る金型固定装置および鍛造製品の製造方法によって、金型温度の低下の抑制と大荷重での鍛造との両立が可能になることがわかった。