(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吸引口(5)と共に前記公転軸(11)を中心に回転する座標系に対して前記吸引口が自転することを特徴とする請求項2、3、5、6、7のいずれか1つに記載の吸引装置。
前記吸引口(5)が前記公転軸(11)周りに公転することにより、前記吸引口(5)の最外周部が描く形状の内側の領域に公転ゾーンが形成されることを特徴とする請求項2、3、5、6、7、8のいずれか1つに記載の吸引装置。
前記公転ゾーンの吸引速度は、前記公転軸(11)側の内部から外周部にかけて小さくなる速度勾配を有することを特徴とする請求項13ないし15のいずれか1つに記載の吸引装置。
【背景技術】
【0002】
図20に、従来の吸引口による流れを示す。
図20の(a)に示す例では、通常の静止した吸引口105によって発生するポテンシャル流れが矢印のように発生する。(a)の例では、流体である空気がポテンシャル流れを形成して吸引口105からの距離に反比例した速度で均一に吸引口105に吸い込まれている。よって、吸引流れは指向性なく分散し、床面125まで吸引気流が到達していない。
【0003】
図20の(b)に示す従来技術では、空気が人工竜巻131を形成しながら吸引口105に吸い込まれる。この例では、吸引口105及び吸引口ダクト106が自転方向119に自転する。すると吸引口ダクト106の内壁と空気との摩擦抵抗により、矢印で示す空気の渦すなわち人工竜巻131が発生する。人工竜巻131により吸引流れの分散が減少して吸引流れの指向性が生じるので、床面125まで吸引気流が到達する。
【0004】
図21に、
図20の例(b)に示したような人工竜巻131を発生させる吸引装置101の例を示す。吸引装置101は、吸引口105を有する円筒形状の吸引口ダクト106を回転させることで人工竜巻131を発生させている。吸い込まれた空気は、吸引ポンプ103、流量計153を経て吸引装置101の外へ排気される。
【0005】
人工竜巻131は、円筒形状の吸引口ダクト106が回転することで発生する。しかし、吸引口ダクト106の内壁による空気を回転させる力が弱いので、人工竜巻131の回転力は弱く且つ不安定である。したがって、人工竜巻131を継続的に発生させることは困難である。
【0006】
人工竜巻131を発生させて吸引する装置が、特許文献1乃至5に示されている。特許文献1には、吸引口に吸引口の口径より大きいファンと同じ大口径の円筒ダクトファンと共にして回転させて人工竜巻131を発生させる換気装置が示されている。この換気装置では、円筒ダクトの全長がファンの厚みの2倍以上必要なので、換気装置の体格が大きくなってしまう。また、円筒ダクトの内側にガイドベーン等を設けファンと一体で設置する必要がある。
【0007】
特許文献2には、吸引口に円錐型のダクトを付け、ダクトの大口径側の周辺に、旋回流を発生させるように吸気口を設ける吸気ノズルが示されている。この吸気ノズルは大型となり、吸気口に噴流を供給する送風機が必要である。
【0008】
特許文献1、2の装置は、吸引のみの構造で人工竜巻を発生させるが、自転する大口径の円筒ダクト、または円錐型のダクトおよび噴流を供給する送風機を必要とする。
【0009】
特許文献3には、吸引口周りに吸引流を集める大型のフードをつけ、フードの下流側にエアカーテンでゾーンを作り、ゾーン内部にエアカーテンを構成する4本のパイプのエア吐出口から旋回流を構成するようにエアを吐出し人工竜巻131を発生させ吸引口に吸引する排気装置が示されている。この排気装置には、大型フード、エアカ−テン用のパイプ、及びエアカーテン用の専用の噴流を発生させる送風装置が必要である。
【0010】
特許文献4には、吸引口周りに、大型のフードをつけ、フード内側に外気を周方向に噴流を吐出して旋回流を発生して上流側に1次竜巻として床面に吐出し、床面の反射流として2次竜巻を発生させて吸引口に吸引させる換気装置が示されている。この排気装置には、大型フード、1次竜巻を発生させる噴流専用の送風装置、及び2次竜巻(人工竜巻131)を発生させる床面が必要である。
【0011】
特許文献5には、一方に吸引口、他方に吐出口を設け、吐出口の上流に円筒ダクトを設け、円周に沿って噴流を吐出旋回流を発生させ吐出口から人工竜巻を発生させ、吸引口に吸引する換気装置を有する焼成調理装置が示されている。この焼成調理装置は、吸引口の他方に吐出装置が必要である。
【0012】
特許文献3乃至5の装置は、吸引側だけでなく、その他方側に床面や噴流を吹きだす装置が必要で、大掛かりな設備を必要とする。
【0013】
よって、従来の人工竜巻を利用する装置は、いずれも人工竜巻を発生させるために大型のダクトやフード、旋回流を発生させる噴流用の送風装置が必要となる問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0029】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態を示す。第1実施形態は、吸引口5の公転が、吸引ダクト8の公転軸11周りの自転により、実現されている。
【0030】
本実施形態の吸引装置1は、吸引口ダクト6と、連結ダクト7と、吸引ダクト8と、吸引ポンプ3と、吐出ダクト9と、不図示の駆動装置を有している。吸引口ダクト6は、連結ダクト7から遠い側の端部に、吸引口5を有している。吸引口ダクト6、連結ダクト7、および吸引ダクト8は、一体的に回転する。
【0031】
吸引口ダクト6、連結ダクト7、および吸引ダクト8が一体的に回転すると、吸引口5は、公転中心10の回りを公転する。公転中心10は公転軸11上にある。吸引口5は、円形をしており円の中心点を公転ポイント13とする。公転ポイント13と公転中心10との距離を公転半径Rとする。公転ゾーン15は、吸引口5が公転中心10の周りを公転するときに吸引口5の最外周部が描く形状(すなわち円弧)の内側の領域である。なお、
最外周部とは、公転軸11を中心とする径方向の最も外側の周をいう。吸引口5が公転中心10の周りを公転するときに吸引口5の最内部が描く吸引口内側軌跡16の内側も、公転ゾーン15に含まれる。なお、最内部とは、公転軸11を中心とする径方向の最も内側の部分をいう。
【0032】
吸引口5が公転中に吸引ポンプ3が作動すると、空気が吸引口5から吸引口ダクト6内に流入し、その後、連結ダクト7、吸引ダクト8、吸引ポンプ3、吐出ダクト9をこの順に通って、吐出ダクト9から流出する。
【0033】
すなわち、吸引口5を有する吸引口ダクト6の連結ダクト7に近い側の開口部は、連結ダクト7の一方の開口部に接続されている。連結ダクト7の他方の開口部は、吸引ダクト8の一方の開口部と接続されている。吸引ダクト8の他方の開口部は、吸引ポンプ3の吸入口に接続されている。吸引ポンプ3の吐出口には吐出ダクト9の一方の開口部が接続されている。吐出ダクト9の他方の開口部は、開放されている。
【0034】
吸引ダクト8は、公転軸11がその内部に位置するように、公転軸11を取り囲んで、公転軸11に沿って、伸びる。連結ダクト7は、吸引ダクト8側の開口部から吸引口ダクト6側の開口部まで、公転軸11から遠ざかるように、伸びている。吸引口ダクト6は、公転軸11から離れた位置で、公転軸11に平行に、伸びている。
【0035】
吸引ダクト8が、不図示の駆動装置(例えば電気モータ)によって駆動されて、公転軸11を中心として向き12に自転すると、連結ダクト7および吸引口ダクト6が公転軸11の周りに公転する。その結果、上述の通り、吸引口5が公転中心10の周りを公転する。公転ポイント13の公転軌道は公転中心10を中心とする円である。
【0036】
公転軸11は吸引装置1の吸引ダクト8の中心線に一致している。したがって、不図示の駆動装置が、吸引ダクト8を、吸引ダクト8の中心線回りに回転させると、吸引口5は、公転軸11回りに、公転半径Rを有して公転する。
【0037】
吸引口5が公転しながら空気を吸引すると、吸引口5には、空気が人工竜巻31を形成して吸引される。空気は連続流体であるので、吸引口5の公転回転数Nは人工竜巻31の渦の回転数とほぼ同じになる。人工竜巻31は、吸引口5の上流側の公転軸11方向に形成される。よって、人工竜巻31による公転軸11の方向への指向性をもつ吸引流が形成されることになる。
【0038】
人工竜巻31の周囲の空気は、人工竜巻31に殆ど吸引されず、速度の小さい随伴流33として吸引装置1側へ流れる。
【0039】
(第2実施形態)
図2A、
図2Bに、本発明の第2実施形態を示す。
図2Aは、本実施形態における吸引装置1の正面図、本実施形態における吸引装置1の
図2Bは、側面図を示す。第2実施形態は、吸引口5の公転を、回転板4の公転中心10を中心とする自転により実現している。公転中心10は、第1実施形態と同様、公転軸11上にある。回転板4は、円盤形状を有しているが、他の形状であってもよい。
【0040】
図2Bにおいて、回転板4は、モータ等の駆動装置(図示せず)により、公転軸11の回りに回転する。吸引口ダクト6および吸引ダクト8は、回転板4と一体に回転してもよいし回転しなくてもよい。
【0041】
回転板4に開けられた孔が吸引口5である。回転板4は、吸引口ダクト6の一方の開口部に接続する。吸引口ダクト6の他方の開口部は、吸引ダクト8の一方に接続される。吸引口ダクト6と吸引ダクト8の中心線は共通しており公転軸11であり、回転板4の中心は、公転軸11上にあり公転中心10となる。
【0042】
吸引ダクト8の他方の開口部は、吸引ポンプ3の吸引口5に接続される。吸引ポンプ3の吐出口には、吐出ダクト9の一方の開口部が接続される。吐出ダクト9の他方の開口部は、開放されている。
【0043】
吸引口ダクト6の口径は、吸引ダクト8の口径より大きくなるが、一方の回転板4側の開口部より、他方の吸引ダクト8側の開口部に向けてテーパ状にして、吸引口ダクト6の内部の空気抵抗を小さくしても良い。
【0044】
回転板4が回転しているときに吸引装置1の吸引ポンプ3が駆動されると、空気は、吸引口5から吸引され、吸引口5から吸引口ダクト6内に流入し、その後、吸引ダクト8、吸引ポンプ3、吐出ダクト9をこの順に通って、吐出ダクトの他方の開口部から流出する。
【0045】
図2Aにおいて、回転板4に設けられた吸引口5は、回転板4において、公転軸11から離れた位置に開けられている。したがって、回転板4が回転すると、公転中心10の周りに、公転方向12に公転する。
【0046】
空気は連続流体であるので、吸引口5の公転回転数Nは人工竜巻31の渦の回転数とほぼ同じになる。吸引口5は円形をしており、円の中心点が公転ポイント13である。公転ポイント13と公転軸11の距離が、公転半径Rである。回転板4の回転により、公転ポイント13は、公転半径Rの円形の公転軌跡14を描く。
【0047】
公転ゾーン15は、吸引口5が公転中心10の周りを公転するときに吸引口5の最外周部が描く円弧の領域である。吸引口5が公転中心10の周りを公転するときに吸引口5の最内部が描く吸引口内側軌跡16の内側も、公転ゾーン15に含まれる。
【0048】
このように、本実施形態では、吸引口ダクト6および吸引ダクト8は、公転軸11が内 部に位置するように、公転軸11を取り囲んで伸びる。また、吸引口5は、回転板4において、公転軸11から離れた位置に開けられる。また、回転板4が公転軸11を中心として自転すると、吸引口5が公転軸11の周りを公転する。
【0049】
なお、第1実施形態、第2実施形態共に、以下のような特徴を共有する。吸引口内側軌跡16は、公転半径Rが吸引口半径より大きい場合に存在し、公転半径Rが吸引口半径より小さい場合には存在しない。
【0050】
吸引口5の公転ポイント13は、公転軸11周りに、公転半径Rを有して公転する。吸引口5の形状は円形だけでなく楕円形、正方形等でもよい。公転ポイント13は、吸引口5の公転を規定できるポイントであれば、吸引口5の中心でなくてもよい。公転ポイント13の公転した軌跡は公転軌跡14で示される。公転方向12は、
図1、
図2Aに示した方向とは逆方向でもよい。この場合、人工竜巻31の渦の流れも逆方向となる。
【0051】
(実験結果)
図3に、
図1に示した第1実施形態の吸引装置1が床面25上に鉛直に設置された実験環境の模式図を示す。吸引口5の公転方向12と吸引口ダクト6の自転方向19は、同じ回転方向である。吸引口ダクト6を自転方向19に自転させた場合、人工竜巻31には、自転による回転方向35の回転が加わる。なお、吸引口ダクト6の自転とは、吸引口5と共に公転軸11を中心に回転する座標系に対する、吸引口ダクト6の自転をいう。
【0052】
吸引口5が公転すると、随伴流33は、床面25上を水平に人工竜巻31に向かって引き寄せられるように流れ、人工竜巻31の近傍で吸引装置1のある鉛直上方へ流れる。
【0053】
図4に、
図3に示す実験状態の模式図を具体化した実験装置を示す。吸引ポンプ3の吐出側に風量を測定する流量計53が設置されている。
【0054】
吸引口5と床面25との間が観察領域59である。観察領域59の高さは200mmである。被駆動部55は、
図3に示す吸引口ダクト6、連結ダクト7、及び吸引ダクト8に相当する。第1モータ57は、被駆動部55を回転させることで吸引口5を公転させる駆動装置である。
【0055】
また、被駆動部55の下部には吸引口5を自転させる第2モータ58が搭載されている。第2モータ58は被駆動部55と共に移動する。第2モータ58に電源を供給するために被駆動部55の上部にブラシ機能を持つスリップリング51が搭載されている。観察領域59における人工竜巻31の可視化観察を、ドライアイスミスト、タフトを使って行った。
【0056】
(実施例1)
実施例1では、吸引口5の公転のみと自転のみによる人工竜巻31の発生が確認された。
図5に、実施例1および実施例2の実験条件を示す。風量Qは、60m
3/h。吸引口5の内径は、32mmである。これは、実施例3も同様である。
【0057】
Case1−1、1−2、1−3は、吸引口5が自転のみする例の実験条件を示す。これは、
図20の例(b)に示す従来の吸引口105及び吸引口ダクト106の自転のみの例の条件である。
【0058】
この実験条件では、第2モータ58をオフし、公転半径Rを0mmとして、第1モータ57をオンすることにより行った。よって、
図5の公転回転数Nは、実際には吸引口5公転回転数ではなく吸引口5の自転回転数nに相当する。よって、自転回転数nは、それぞれ120rpm、150rpm、180rpmとしたことになる。
【0059】
公転のみの実験条件を、Case1−4〜1−12に示す。Case1−4、1−5、1−6は、公転半径Rを10mmとした。Case1−7、1−8、1−9は、公転半径Rを20mmとした。Case1−10、1−11、1−12は、公転半径Rを30mmとした。
【0060】
公転回転数Nは、それぞれ120rpm、150rpm、180rpmとした。人工竜巻31の発生状況の観察は、それぞれ3分間行った。
【0061】
図6A、
図6Bに、実施例1の結果を示す。この実験結果では、空気流の可視化のためにドライアイスミストが用いられている。
図6Aは、Case1−12に対応し、公転半径R=30mm、公転回転数N=180rpm、自転回転数n=0rpm、公転のみの条件である。
【0062】
図6Bは、Case1−3に対応し、公転半径R=0mm、公転回転数N=0rpm、自転回転数n=1800rpm、自転のみの条件である。
【0063】
図6Aの公転のみの例では、人工竜巻31は、観察中、3分間途切れることなく継続し、渦管の太さはほぼ一定であった。一方、
図6Bの自転のみの例では、人工竜巻31は、長くても120秒程度の継続で3分継続することは無かった。また、渦管の太さは吸引口5に近づくにつれて細くなった。以上のように、自転のみの場合に比べて、公転のみの場合は、人工竜巻31が強くかなり安定して観察された。
【0064】
図7A、
図7Bに、実施例1の結果を示す。この実験結果では、空気流の可視化のためにタフトが用いられている。それ以外の条件については、
図7Aと
図6Aで同じであり、かつ、
図7Bと
図6Bとで同じである。
【0065】
床面25上の公転軸11との交差部近傍にタフト23をつけて、人工竜巻31の床面25での吸引力を観察した。
図7Aの公転のみの例では、人工竜巻31は、観察中、3分間途切れることなくタフト23が鉛直に持ち上げられることを確認した。よって、遠隔吸引が可能であることを確認した。一方、
図7Bの自転のみでは、人工竜巻31は、タフト23は、鉛直方向に持ちあげられないことを観察した。よって、遠隔吸引は困難であることを確認した。
【0066】
図8に、
図4の実験環境において公転も自転もない状態で吸引を行った場合の、上方向への空気の流速分布を示す。黒塗り部分の流速が5m/s以上、白部分の流速が5m/s未満である。この流速分布は、周知のPIV(Particle Image Velocimetry)により計測された。図中、縦軸が、吸引口5の位置をゼロ点とする上下方向位置、横軸が、水平方向位置に対応する。
図8の例では、上向き5m/s以上の流速は、吸引口5の公転中心10を中心とする半円状の領域にて実現する。この例では、空気のポテンシャル流れの速度場が実現するので、吸引口5から30mm以上離れた位置では、空気の速度がほぼ0m/sである。
【0067】
図9に、PIVによる吸引口5を公転された場合の速度分布を示す。黒塗り部分の流速が5m/s以上、白部分の流速が5m/s未満である。
図9の上段に、公転半径Rを8mm(すなわち、吸引口5の内径φ32mmの0.25倍)として、公転のみを実現した種々の公転速度における、上方向への空気の流速分布を示す。
図9の下段に、公転半径Rを12mm(すなわち、吸引口5の内径φ32mmの0.375倍)として、公転のみを実現した(左から公転回転数120、150、180、210rpm)の実験兼結果における、上方向への空気の流速分布を示す。いずれの場合も、上部の吸込口5の付近には吸込口5の公転に伴う高速域が発生し、その高速域の鉛直下端に向かって上方への流速が高い渦管の速度場(人工竜巻31)が床面25から発生している。よって、床面25に置かれた物の遠隔吸引が可能である。ここで、吸込口5と床面25の間隔は200mmであるが、
図9においてPIVの計測上の制約から吸込口5から140mmである。即ち、人工竜巻31は、吸引口5から遠い場所においても実現している。
【0068】
図10は、公転半径Rが8mm(すなわち、吸引口5の内径φ32mmの0.25倍)、公転速度が150rpm、公転のみの実験における、水平面内の空気の渦度wzの、所定時間幅に亘る平均値を示す図である。この水平面の吸引口からの鉛直方向の距離は、吸引口5の内径と同じ32mmである。また、この図の中心位置は、上記所定時間幅において常に空気の渦管の中心位置に位置するように調整されている。すなわち、この図の中心位置は、空気の渦管の中心位置と共に移動する座標系の原点である。渦度wzは、黒塗り部分が5000(1/s)以上、白部分が5000(1/s)未満である。よって、空気の渦管の中心部には大きな渦度が発生している。尚、白部分に記載されている矢印は水平面内の空気の周方向速度Vθである。
【0069】
図11Aは、公転半径Rが8mm、公転速度が150rpm、公転のみの実験における、水平面内の空気の周方向速度Vθの、所定時間幅に亘る平均値を示す。この水平面の吸引口からの距離は、吸引口5の内径の4倍である128mmである。この図の中心位置は、上記所定時間幅において常に空気の渦管の中心位置に位置するように調整されている。なお、周方向とは、渦管の中心位置を中心とする周方向である。周方向速度Vθは、黒塗り部分が3m/s以上、白部分が3m/s未満である。よって、空気の渦管の中心部は周方向速度Vθが3m/s以上の範囲がドーナッツ状に存在し、ドーナッツの中心は周方向速度Vθが小さく、
図9に示す上方向の空気流れが大きくなっている。
【0070】
図11Bは、公転半径Rが8mm、公転速度が120rpm、公転のみの実験における、水平面内の空気の周方向速度Vθの、所定時間幅に亘る平均値を示す。この水平面の吸引口からの距離は、吸引口5の内径の4倍である128mmである。この図の中心位置は、上記所定時間幅において常に空気の渦管の中心位置に位置するように調整されている。周方向速度Vθは、黒塗り部分が3m/s以上、白部分が3m/s未満である。よって、空気の渦管の中心部は周方向速度Vθが3m/s以上の範囲がドーナッツ状に存在し、ドーナッツの中心は周方向速度Vθが小さく、
図9に示す上方向の空気流れが大きくなっている。
【0071】
また、
図12Aは、空気の周方向速度Vθの所定時間幅に亘る平均値の、径方向分布を示す。
図12Aに示された結果は、公転半径Rを8mmとした場合において、7種類の公転回転数Nについて得られた結果である。ここでいう径方向は、各時点における渦管の中心を中心とする径方向である。この水平面の吸引口からの距離は、吸引口5の内径の4倍である128mmである。この図の中心位置は、上記所定時間幅において常に空気の渦管の中心位置に位置するように調整されている。
【0072】
この
図12Aに示すように、空気の渦の周方向速度Vθは極大値を有する。極大値の径方向内側は、急激に減少し中心部がほぼ0m/sとなる剛体渦として振る舞う。極大値の径方向外側は緩やかに減少する自由渦として振る舞う。つまり、この渦は、一般的なランキン渦状タイプの竜巻と同等の周方向速度分布を有している。
【0073】
ここで、公転速度Nが150rpmの黒丸のグラフにおいて、縦軸の周方向速度Vθが3000mm/s(3m/s)で水平線を引いて、グラフの上部を黒塗り、下部を白で表示したのが
図11Aとなる。
【0074】
図9、
図11A、
図11B、
図12Aに示すように、人工竜巻31は、吸込口5に向かう大きな速度をもつ気流と極大値を有する周方向速度Vθと極大値の内側には大きな吸込口5に向かう気流を有している。
【0075】
図12Bは、
図12Aで示した結果において、各公転回転数Nにおける、周方向速度Vθの径方向分布における極大値を示すグラフである。横軸が公転回転数Nに対応し、縦軸が、周方向速度Vθの径方向分布における極大値に対応する。
【0076】
この図に示すように、周方向速度Vθの径方向分布における極大値は、N<120rpmでは、Nが増大するにつれて増大し、N=120rpmにおいて最大値に達し、N>120rpmでは、Nが増大するにつれて減少する。
【0077】
図13に、公転半径R<吸引口半径における人工竜巻が発生するメカニズムを示す概念図を示す。吸引口5は、公転中心10の周りを、公転方向12に公転している。吸引口5が90°づつ3回回転した回転位置を破線で3点示す。円形である吸引口5の中心点を公転ポイント13で示す。公転半径Rである公転ポイント13の軌跡を公転軌跡14で示す。吸引口5の公転によりカバーする吸い込み範囲を公転ゾーン15とする。
【0078】
吸引口5は、空気を吸引しながら120rpm程度で公転するので、公転ゾーン15の面内の空気には、2種類の速度ベクトル(円周方向速度ベクトルVθ、半径方向速度ベクトルVr)が作用する。
【0079】
なお、円周方向速度ベクトルVθと周方向速度Vθは同じ記号表記であるが、前者は3次元ベクトル量であり、後者はスカラー量である。円周方向速度ベクトルVθの大きさが、周方向速度Vθに相当する。
【0080】
円周方向速度ベクトルVθは、吸引口5の公転により連続流体である空気が円周方向に引きずられることにより発生し、公転中心10を中心とする円の円周方向に作用する。なお、円周方向速度ベクトルVθのみでも人工竜巻31は発生する。
【0081】
半径方向速度ベクトルVrは、吸引口5の公転により公転ゾーン15内の吸引風量に速度勾配が発生することにより発生し、公転中心10を中心とする円の半径方向に作用する。公転ゾーン15内の吸引速度の速度勾配は、公転中心10の周囲が大きくなり、外側に移るほど小さくなる。吸引口5は、公転軸11の周囲では常時吸引しているが、外側では公転により間欠的に吸引するからである。よって、半径方向速度ベクトルVrは、公転中心10を中心とする円の半径方向に作用する。
【0082】
よって、人工竜巻31は、円周方向速度ベクトルVθと半径方向速度ベクトルVrの合成速度ベクトルVtにより更に強力で安定して発生する。合成速度ベクトルVtは、人工竜巻31の渦の方向になる。
【0083】
図14に、公転半径R>吸引口半径における人工竜巻が発生するメカニズムを示す概念図を示す。吸引口5は、公転軸11の周りを、公転方向12に公転している。吸引口5が90°づつ3回回転した位置を破線で3点示す。円形である吸引口5の中心点を公転ポイント13で示す。公転半径Rである公転ポイント13の軌跡を公転軌跡14で示す。吸引口5の公転によりカバーする吸い込み範囲を公転ゾーン15とする。公転中心10の近傍には、吸引口5の内側軌跡である吸引口内側軌跡16が存在する。
【0084】
吸引口5は、空気を吸引しながら120rpm程度で公転するので、公転ゾーン15の空気には、2種類の速度ベクトルが作用する。
【0085】
円周方向速度ベクトルVθは、吸引口5の公転により連続流体である空気が円周方向に引きずられることにより発生し、公転中心10を中心とする円の円周方向に作用する。なお、円周方向速度ベクトルVθのみでも人工竜巻31は発生する。
【0086】
半径方向速度ベクトルVrは、吸引口5の公転により公転ゾーン15内の吸引風量に速度勾配が発生することにより発生し、公転中心10を中心とする円の半径方向に作用する。公転ゾーン15内の吸引速度の速度勾配は、吸引口内側軌跡16の外部近傍が大きくなり、外側に移るほど小さくなる。吸引口5は、公転により間欠的に吸引するが、吸引口内側軌跡16の外部近傍の吸引の間隔時間は短く、一方、公転ゾーン15部の外側では吸引の間隔時間が長くなるからである。よって、半径方向速度ベクトルVrは、公転軸11を中心とする円の半径方向に作用する。
【0087】
また、吸引口内側軌跡16の内側は大気圧(静圧)に比べ負圧になる。即ち、吸引口内側軌跡16の内側では閉塞空間からの吸引と同等の状態になり静圧は負圧となる。吸引口内側軌跡16の内側が閉塞空間と同等の状態になるのは、吸引口5は、120rpm(2回/秒)程度の高速回転と同時に空気を吸引しているので、公転ゾーン15の外側の空気の吸引は解放空間からの吸引状態になるのに対して、吸引口内側軌跡16の内側からの吸引は限定された空間からの吸引になるからである。よって、この負圧により、公転中心10を中心とする円の半径方向に作用する半径方向速度ベクトルVrは、大きくなる。
【0088】
以下、大気圧(静圧)からある位置の圧力(静圧)を減算した結果の量を、その位置の負圧レベルという。公転ゾーン15内では、径方向中心部における負圧レベルは、公転中心10を中心とする径方向中心部よりも当該径方向外側にある径方向外周部における負圧レベルよりも大きい。より具体的には、公転ゾーン15内における負圧レベルは、公転中心10から離れるほど小さくなる。
【0089】
よって、強力な人工竜巻31は、円周方向速度ベクトルVθと半径方向速度ベクトルVrの合成速度ベクトルVtにより発生する。合成速度ベクトルVtは、人工竜巻31の渦の方向になる。
【0090】
なお、
図13に示す公転半径R<吸引口半径においても、公転ゾーン15の内部に限定された範囲から吸引する状況が発生するので負圧が発生している。以上より、吸込口5を公転させることにより、吸込流れを、指向性を有する流れである人工竜巻31にすることができる。
【0091】
上述したメカニズムで人工竜巻31が、公転ゾーン15に発生すると、人工竜巻31は、公転軸11の吸引口5の上流側に向けて発達していく。空気は連続流体であるので、吸引口5の公転回転数Nは人工竜巻31の渦の回転数とほぼ同じになる。
【0092】
この際、人工竜巻31は、その先端部から主に空気を吸引し、その側面からはあまり吸引しない。人工竜巻31の側面には、随伴流33がゆるやかに吸引装置1の公転ゾーン15の外側に向かって流れる。
【0093】
よって、吸引装置1は、指向性のある吸引を行える。この指向性のある吸引は、大気の自由空間の特定空間に存在する気体や、浮遊物を、効率的に吸引する遠隔吸引を可能にする。
【0094】
これらのようにして発生する人工竜巻31は、上向きの流れ、周方向の流れ、負圧による内向きの流れで構成される。そして、公転ゾーン15の構成が、人工竜巻31のうち、周方向の流れ、と内向きの流れを誘引する。上向きの流れは、公転ゾーン15が無くても(すなわち、吸込口5が公転しなくても)発生する。
【0095】
また、公転半径R>吸引口半径の場合、吸引口内側軌跡16の内側の静圧が大気圧(静圧)に比べて低い負圧になる。これにより、吸引口内側軌跡16の外側にある人工竜巻31が、吸引口内側軌跡16の内側に引っ張られる。その結果、人工竜巻31が従来よりも安定して長時間持続することができる。
【0096】
また、公転半径R≦吸引口半径の場合も、公転軸11の近傍(具体的には、公転軌跡14よりも内側)の静圧が大気圧に比べて低い負圧になる。これにより、吸引口内側軌跡16の外側にある人工竜巻31が、負圧領域に引っ張られる。その結果、人工竜巻31が従来よりも安定して長時間持続することができる。
【0097】
(実施例2)
実施例2では、公転半径Rによる人工竜巻31の発生状況を観察した。
図15A、
図15Bに、実施例2の結果を示す。この実験結果では、空気流の可視化のためにドライアイスミストが用いられている。
【0098】
図15Aは、Case1−10に対応し、公転半径R=30mm、公転回転数N=120rpm、自転回転数n=0rpmで、公転のみの公転半径R=30mmの条件である。
図15Bは、Case1−5に対応し、公転半径R=10mm、公転回転数N=120rpm、自転回転数n=0rpmで、公転のみの公転半径R=10mmの条件である。人工竜巻31は、公転半径R=30mmのほうが公転半径R=10mmより、低速回転数(120rpm)から安定して発生した。
【0099】
(実施例3)
実施例3では、吸引口5の公転に吸引口5の自転を同時に与えて人工竜巻31を観察した。なお、自転方向は公転方向12と同じ方向である。吸引口5の公転により発生する人工竜巻31を、吸引口ダクト6の自転により補強するためである。
【0100】
図16に、実施例3の実験条件を示す。Case2−1〜2−36まで、36条件で人工竜巻31を観察した。
【0101】
図17A、
図17Bに、実施例3の結果を示す。この実験結果では、空気流の可視化のためにドライアイスミストが用いられている。
図17Aは、Case1−5に対応し、公転半径R=10mm、公転回転数N=120rpm、自転回転数n=0rpmで、公転のみの条件である。
【0102】
図17Bは、Case2−11に対応し、公転半径R=10mm、公転回転数N=120rpm、自転回転数n=120rpmで、公転と自転を同時に与えた条件である。人工竜巻31は、公転のみの場合と比べて、自転を加えるとさらに安定化した。
【0103】
図18A、
図18Bに、実施例3の結果を示す。この実験結果では、空気流の可視化のためにタフト23が用いられている。それ以外の条件については、
図17Aと
図17Bの条件と同じである。タフト23は、公転のみに比べ、公転に自転を加えると、より高く上昇し、吸引力が大きくなっていることを確認した。
【0104】
吸引口ダクト6を自転方向19に自転させることにより、人工竜巻31には、
図3に示すように、回転方向35の回転が加わる。その結果、人工竜巻31は更に強力になる。
【0105】
公転軌跡14の公転軌跡の形状は、円形だけでなく楕円形でもよいし、四角形でもよいし、六角形でもよい。吸引口5の形状は、円形だけでなく楕円形でもよいし、四角形でもよいし、六角形でもよい。吸引口5のサイズ(半径等)、吸引流量、公転半径R、及び公転回転数Nによって人工竜巻の強度を調節できる。
図4の実験装置は、吸引口5を自転させる事もできるが、本発明の吸引装置1の人工竜巻31の発生作用は、吸引口5の公転に起因する。
【0106】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について
図19を用いて説明する。本実施形態の空調装置60は、室内の天井または横壁に固定される。空調装置60は、室内を暖房するために、空気を加熱し、加熱された空気61を室内の鉛直斜め下方に吹き出す。従来は、室内の暖房時には、冷気64が室内下方に滞留し、暖気が室内上方に滞留しがちである。このような温度分布は、室内下方の居住スペースが温まらないので暖房効率の悪化に繋がる。
【0107】
これに対し、本実施形態の空調装置60は、
図19に示すように、第1実施形態または第2実施形態に係る吸引装置1を有している。この吸引装置1の吸引口5は、室内鉛直下方または鉛直斜め下方に開口している。
【0108】
吸引装置1の作動形態は、第1、第2実施形態と同様である。吸引口5が空気を吸引しているときに吸引口5が公転軸11周りに公転することで、人工竜巻63が発生する。人工竜巻63が発生すると、室内下方の冷気が吸引口5に吸引される。これにより、空調装置60から吹き出された空気(暖気)は、室内を矢印62のように室内下方に移動する。その結果、暖気が矢印62のように、室内の下端まで届き、室内下方の温度が上昇し上下の温度差が低減され暖房効率は向上する。
【0109】
なお、吸引装置1によって吸引された冷気は、空調装置60の内部で加熱され、その後、再度室内に吹き出される。
【0110】
以上、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、及び実施例により、本発明は以下の作用および効果がある。
【0111】
まず、流体を吸引する吸引口5を有する吸引装置1が、吸引口5を公転軸11周りに公転させることにより公転ゾーン15を有する。吸引口5を公転させ公転ゾーン15を構成することで、吸引口5に空気が円周方向に引きずられることにより公転ゾーン15の円周方向速度ベクトルVθを発生させる。円周方向速度ベクトルVθは、強くて安定な人工竜巻31を発生させる。
【0112】
吸引装置1の吸引口5を公転させる機構のみで人工竜巻31を発生させることができるので、吸引装置1を小型でできる。よって、従来技術で必要であった、大型のダクトやフード、旋回流を発生させる噴流用の送風装置が不要とすることができる。ただし、上記実施形態の吸引装置1が、ダクト、フード、旋回流を発生させる噴流用の送風装置と、組み合わせて用いられてもよい。
【0113】
また、公転ゾーン15の吸引速度は、公転軸側の内部から外周部にかけて小さくなる速度勾配を有する。公転軸側の内部から外周部にかけて小さくなる速度勾配を有することで、公転中心10を中心とする円の半径方向に作用する半径方向速度ベクトルVrが発生する。
【0114】
また、公転ゾーン15の内部に負圧領域がある。公転ゾーン15の内部に負圧領域を有することで、半径方向速度ベクトルVrを更に強力にすることができる。
【0115】
よって、円周方向速度ベクトルVθと半径方向速度ベクトルVrの合成速度ベクトルVtにより、強力で安定した人工竜巻を発生させることができる。
【0116】
また、吸引装置1は、吸引口5を有する吸引口ダクトに連結して、公転軸周りに自転する吸引ダクトを有している。吸引口を有する吸引口ダクト6に連結して、公転軸11周りに自転する吸引ダクト8があることで、吸引口5の公転を吸引ダクト8の自転のみで行うことができる。これにより吸引口5を公転させる機構を、モータの回転に直結できるので簡素化できる。
【0117】
また、吸引口5が公転ポイント周りに自転する。吸引口5を公転ポイント13周りに自転させることで、人工竜巻を更に、強力で安定にすることができる。吸引口ダクト6の内壁で発生する摩擦力が利用できるからである。