(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1又は2に記載のインライン検査装置において、前記超音波の送信は、前記マスタセンサと前記スレーブセンサとで交互に行われることを特徴とするインライン検査装置。
請求項1から3のいずれか1項に記載のインライン検査装置において、前記マスタセンサで超音波を送信する基準時間となるクロック信号を生成し、前記クロック信号に同期して前記スレーブセンサで超音波を送信することを特徴とするインライン検査装置。
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインライン検査装置において、前記マスターワークは前記測定面として所定形状の穴が設けられていることを特徴とするインライン検査装置。
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインライン検査装置において、前記マスターワークは前記測定面として正常とされる表面状態を有していることを特徴とするインライン検査装置。
請求項7に記載のインライン検査方法において、前記超音波の送信は、前記マスタセンサと前記スレーブセンサとで交互に行われることを特徴とするインライン検査方法。
請求項7又は8に記載のインライン検査方法において、前記マスタセンサで超音波を送信する基準時間となるクロック信号を生成し、前記クロック信号に同期して前記スレーブセンサで超音波を送信することを特徴とするインライン検査方法。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンの製造工場には鋳物等であるシリンダブロックの加工ラインがあり、シリンダブロックの製造工程では、加工ライン、つまりインラインにおいて、凹凸形状のみならず、その表面状態の判別、加工が適切に行われたことの判別などより精密な検査が要求されている。
【0003】
シリンダブロックには、必ず機械加工による穴やねじ加工が施され、加工穴やねじに対して、切粉や異物の残留、加工後や材料の問題による欠陥(表面のキズ・鋳物の巣)、穴の寸法及び形状、などの検査が必要となる。特に、穴の寸法及び形状としては、真っ直ぐに穴あけが行えており、偏芯が生じていないか、未加工部分が無いか、残留物としてドリルの先端が欠けて穴に残っていないか、などがインラインにおいて、全数自動で検査することが望まれている。
【0004】
シリンダブロックの加工穴の検査を自動化するため、穴を加工するためにNC装置に装着した工具に代えて、探傷プローブをセットして、NC装置により、この探傷プローブを駆動するように、探傷プローブを回転させながら、軸線方向に変位させることが知られ、例えば特許文献1に記載されている。
【0005】
また、シリンダブロックの鋳造に伴って生じる水穴の目詰まり有無をライン上で確実に全数検査するため、挿入体を水穴内に挿入して前進等させ、挿入体の変位から水穴の目詰まりの有無を検査する。即ち、水穴に目詰まりがあると、挿入体と目詰まり部分とが接触した際に、挿入体が装置全体の移動方向と反対方向に相対的に変位するので、この変位を近接スイッチ等の検知手段で検知して目詰まりの存在を確認することが知られ、例えば、特許文献2に記載されている。
【0006】
さらに、加工穴を有するワークを検査する加工穴検査装置および加工穴検査方法において、加工穴に対して先端部がテーパ状となった検査ピンを進退させ、検査ピンの加工穴への進入量を基に、加工穴の良否を判断することが知られ、例えば、特許文献3に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術において、組立あるいは加工の搬送ライン中に接触式でワークの測定を行うものは、ワークの位置ずれ等で高精度な検出が困難であるばかりでなく、衝撃による故障、破壊の恐れがある。
【0009】
また、光学式のTVカメラ、変位式レーザーセンサを用いるものでは、搬送ラインの置かれている環境の影響を受ける。例えば、自動工具交換機能をもち、目的に合わせてフライス削り、中ぐり、穴あけ、ねじ立てなどの異種の加工を行うマシニングセンタ等の工作機械では加工直前に機種の判別を行う必要があるが、光学式では微粒子であるオイルミスト、粉塵の環境下で光、レーザが拡散して正確な測定が困難であった。
【0010】
さらに、ほこり、水、油などに強いとされる高周波磁界を利用した渦電流式変位センサを用いた場合は、精度や応答速度が速いが、測定可能距離が数mm程度と短く、マシニングセンタ等の搬送ラインに用いることは適していない。
【0011】
さらに、超音波を媒体とした超音波式変位センサを用いたものは、測定距離が長いので搬送ラインに用いるには適している。しかし、単に用いただけでは精度が他方式に比較して低く、測定面の大きさも大きくならざるを得なく、ワークの表面状態として傷や亀裂、あるいは基準位置からの穴深さを求めるには困難であった。
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、組み立てあるいは加工の搬送ラインにワークとして複数種類が混在して流れる場合においても、インラインでワークの凹凸形状、表面状態として傷や亀裂などの異常、あるいは加工後において、加工が正確に行われたかどうかの判別を行うことにある。特に、自動車のエンジンの製造工場におけるシリンダブロックの搬送ラインにおいて、基準位置から穴深さ、穴の曲がり、その他の異常を検査して、信頼性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、加工ライン上のワークを非破壊で検査するインライン検査装置において、前記ワークの所定位置に設けられた基準面あるいは測定面へ向けて超音波を送信して反射波を受信し、送信から受信までの時間を測定するマスタセンサと、前記マスタセンサが前記基準面へ向けて超音波を送信する場合、前記測定面へ向けて超音波を送信して反射波を受信し、送信から受信までの時間を測定し、前記マスタセンサが前記測定面へ向けて超音波を送信する場合、前記基準面へ向けて超音波を送信し反射波を受信し、送信から受信までの時間を測定するスレーブセンサと、を備え、前記マスタセンサと前記スレーブセンサにより測定された値の差分を用いて前記測定面の状態を判別するものである。
【0014】
マスタセンサ及びスレーブセンサにてそれぞれ測定された値の差分を用いて測定面の状態を判別するので、マスタセンサ及びスレーブセンサからワークの測定面までの距離の測定における気温、オイルミスト、粉塵などの影響を相殺することができる。したがって、シリンダブロックの製造ラインのような環境でも、加工の障害にならない十分な動作距離とした上で正確に良否判別をすることできる。
【0015】
また、本発明は、加工ライン上のワークを非破壊で検査するインライン検査装置において、前記ワークの所定位置に設けられた基準面あるいは測定面へ向けて超音波を送信するマスタ送信部と、その反射波を受信するマスタ受信部と、送信から受信までの時間を測定するマスタ時間測定部とを有するマスタセンサと、前記測定面あるいは前記基準面へ向けて超音波を送信するスレーブ送信部と、その反射波を受信するスレーブ受信部と、送信から受信までの時間を測定するスレーブ時間測定部とを有し、前記マスタセンサが前記基準面へ向けて超音波を送信する場合、前記測定面へ前記超音波を送信し、前記マスタセンサが前記測定面へ向けて超音波を送信する場合、前記基準面へ向けて超音波を送信するスレーブセンサと、前記マスタ時間測定部と前記スレーブ時間測定部とで測定された値の差分を用いて前記測定面の状態を判別する判別部と、を備えたものである。
【0016】
さらに、上記のものにおいて、前記超音波の送信は、前記マスタセンサと前記スレーブセンサとで交互に行われることが望ましい。
【0017】
これにより、マスタセンサとスレーブセンサとで互いに超音波が干渉することを避けることができる。
【0018】
さらに、上記のものにおいて、前記マスタセンサで超音波を送信する基準時間となるクロック信号を生成し、前記クロック信号に同期して前記スレーブセンサで超音波を送信することが望ましい。
測定を多数回繰り返しても、超音波の送信タイミングがずれることなく、長時間にわたって干渉を避けることができる。
【0019】
さらに、上記のものにおいて、基準となる前記基準面及び測定面を有したマスターワークと、前記マスターワークを用いて前記マスタセンサとスレーブセンサにより前記基準面及び測定面を測定した差分値を登録した判別用データテーブルと、を備え、前記加工ライン上で前記マスタセンサとスレーブセンサにより前記基準面及び測定面を測定した差分値と比較することにより、加工の良否を判別することが望ましい。
【0020】
これにより、実際に多い加工不良として、加工穴やねじに対する切粉や異物の残留、加工後や材料の問題による欠陥(表面のキズ・鋳物の巣)、穴の寸法及び形状、などの検査をより正確に行うことができる。
【0021】
さらに、上記のものにおいて、前記マスターワークは前記測定面として所定形状の穴が設けられていることが望ましい。
加工後の穴深さの良否をより正確に判別できる。
【0022】
さらに、上記のものにおいて、前記マスターワークは前記測定面として正常とされる表面状態を有していることが望ましい。
加工の前後に係わらず、表面のキズ、鋳物の巣などの欠陥を判別することができる。
【0023】
さらに、上記のものにおいて、前記超音波の発振周波数を200〜400kHzとしたことが望ましい。
これにより、超音波のビームサイズを小さくし、小さな面積の測定面も判別可能とすることができる。
【0024】
さらに、上記のものにおいて、送信される超音波の前記識別部でのビームサイズを15〜20mmとしたことが望ましい。
これにより、シリンダブロックのように、鋳物で複雑な形状をしたものでも測定が障害とならない。
【0025】
さらに、上記のものにおいて、前記マスタセンサ及び前記スレーブセンサから前記識別部までの距離を150〜200mmとしたことが望ましい。
シリンダブロックの製造ラインにおいて、センサを近接する必要がないので、ワークを停止させる位置制御も容易となり、センサ位置も加工の障害にならない。
【0026】
さらに、上記のものにおいて、前記ワークはシリンダブロックであり、前記加工ラインは前記シリンダブロックの加工に用いられることが望ましい。
シリンダブロックの製造工程において、環境、精度、測定面積などの点で適したものとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、マスタセンサ及びスレーブセンサにてそれぞれ測定された値の差分を用いて測定面の状態を判別するので、マスタセンサ及びスレーブセンサからワークの測定面までの距離の測定における気温、オイルミスト、粉塵などの影響を相殺することができる。したがって、シリンダブロックの製造ラインのような環境でも、加工の障害にならない十分な動作距離とした上で正確に判別できる。特に、自動車のエンジンの製造工場におけるシリンダブロックの加工ラインにおいて、信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
自動車の生産には、自動車に対する消費者のニーズの多様化に応えるため、多機種少量生産が望まれている。このような多機種少量生産の下では、生産効率、ラインの全長、付帯設備にかかるコスト、およびラインの稼働率などの観点から、機種ごとの専用ラインで製品を組み立てるよりも、多機種に対応できる多機種混合ラインで製品を組み立てる方が好ましい。また、自動車のエンジンの製造工場には鋳物等であるシリンダブロックの加工ラインがあり、シリンダブロックの製造工程では、加工ライン、つまりインラインにおいて、凹凸形状のみならず、その表面状態の判別、加工が適切に行われたことの判別などより精密な検査が要求されている。シリンダブロックは、シリンダーはもちろん、シリンダーヘッドやクランクシャフト、その他パーツを組み込むための基礎(土台)となる。
【0031】
また、シリンダブロックはエンジンの心臓部に当たる部品であり、強固なボルト結合によってシリンダーヘッドやエンジンマウント、各種補機類が取り付けられる。さらに、シリンダーの中にはピストンが入り、ブロックの下側にはクランクシャフトが装着され、シリンダーの上には、シリンダーヘッドが乗せられ、吸排気系統やバルブ駆動系が装着される。さらに、シリンダブロックには冷却水が循環する冷却水通路やオイルを各部に行き渡らせるためのオイル通路がある。オイル通路において、冷却水やオイルの管理が悪いと汚れが堆積して、オーバーヒートや焼き付きなどを引き起こす。
【0032】
したがって、シリンダブロックには、必ず機械加工による穴やねじ加工が施され、加工穴やねじに対して、切粉や異物の残留、加工後や材料の問題による欠陥(表面のキズ・鋳物の巣)、穴の寸法及び形状、などの検査をインラインにおいて、全数自動で検査する。特に、穴の寸法及び形状としては、真っ直ぐに穴あけが行えており、偏芯が生じていないか、未加工部分が無いか、ドリルの先端が欠けて穴に残っていないか、などを確認する。
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係わるワーク識別装置を工作機械であるマシニングセンタに適用した構成図を示す。6はワークであり、複数のピストンが収まり、下部のクランクケース部分にはクランクシャフトが取り付けられるシリンダブロックである。
【0034】
シリンダブロックは一般的には鋳鉄、あるいはアルミニウム合金の鋳造品が用いられ、搬送ラインには、多品種のワーク6が混在して投入される。自動車のエンジンの製造工場にはシリンダブロックの搬送ラインがあり、この搬送ラインにはワークとして複数種類のシリンダブロックが混在して流れる場合が多い。
【0035】
そして、加工穴としては、穴の寸法及び傾き、偏芯などの形状、表面のキズ・バリ、鋳物部品の巣穴、切粉や残留物などが完成品の品質に直結しており、インラインで全数自動検査を行う。シリンダブロックの加工は、通常、マシニングセンタで行われる。
【0036】
マシニングセンタは、工作物(ワーク)の取り付けを変えずに、フライス・穴あけ・中ぐり・ねじ立てなど種々の加工を行う数値制御工作機械であり、
図1で例えば、5は穴あけ加工を行う工作機械である。さらに、工具マガジンには多数の切削工具を格納し、コンピュータ数値制御の指令によって自動的に加工を行い、工具自動交換装置を有している。さらに、工作テーブルを高速で回転させ、主軸にバイトを取り付けて旋削ができるものや、フライス工具の代わりに研削砥石を使えたり、寸法計測用のプローブを搭載したりしたものが知られている。加工を主目的としているため、したがって、マシニングセンタの設置された環境は、微粒子であるオイルミスト、粉塵が存在し、その中でシリンダブロックのような鋳物を検査するには超音波式変位センサを用いることが望ましい。
【0037】
ワーク6であるシリンダブロックは、搬送ラインに載置され、工作機械コントローラ4は、ワーク6が破線で示す加工可能な位置に移動を指示した場合、ワーク6の機種に依存する加工の指示を工作機械5へ行う。加工の指示は、例えば、穴あけ加工における仕様としては穴の大きさ、位置などであり、加工条件としては回転速度などである。
【0038】
ワーク6の加工が終了すると、工作機械コントローラ4によってワーク6が矢印A方向に送られて所定位置で停止される。マスタセンサ1及びスレーブセンサ2は超音波式変位センサであり、ワーク6が停止した位置で、マスタセンサ1は、ワーク6の所定位置に設けられた基準面7(
図3参照)へ、スレーブセンサ2は測定面8(
図3参照)、例えば穴の開口部へ向けて超音波をそれぞれ送信して反射波を受信し、それぞれ距離を測定する。
【0039】
マスタセンサ1は、ワーク6の所定位置に設けられた基準面7あるいは測定面8へ向けて超音波を送信するマスタ送信部と、その反射波を受信するマスタ受信部と、送信から受信までの時間を測定するマスタ時間測定部とを有している。
【0040】
スレーブセンサ2は、測定面8あるいは基準面7へ向けて超音波を送信するスレーブ送信部と、その反射波を受信するスレーブ受信部と、送信から受信までの時間を測定するスレーブ時間測定部とを有している。
【0041】
3は、マスタセンサ1、スレーブセンサ2による測定や測定結果の判別を行うセンサユニットであり、工作機械コントローラ4から測定開始の指示を受信し、測定結果を送信する。
【0042】
ここで、超音波は集束性、指向性に優れ、空気の疎密波であるため、光学式に比べ空気中にある微粒子による散乱の影響が小さく、工作機械5が設置されたオイルミスト、粉塵の環境下でも安定した測定が可能となる。また、超音波を用いれば、測定対象物(ワーク6)として、金属、木材、ガラス、ゴムなどをはじめ、粉体、液体まであらゆる材質の測定が非接触、ワーク6から長距離、数百mm離れて行うことができる。
【0043】
超音波式変位センサは、送波器により超音波を対象物に向け送信し、その反射波を受波器で受信することにより、対象物の有無や対象物までの距離を検出する。超音波の送信・受信には超音波素子が用いられ、超音波素子は電気エネルギを印加して超音波を発生、または超音波振動エネルギを電気信号に変換する素子であり、通常、圧電現象を利用したチタン酸バリウム振動子を用いる。
【0044】
圧電素子は交流電圧を加えると素子が振動し、固有の振動数を持ち、その周波数と同じ周波数の交流電圧を加える事で効率良く振動する。一般的に40kHzのものが多く使用され、長い距離を測定するには低い周波数、短い距離を正確に測るには高い周波数のものが使われている。
【0045】
また、超音波式変位センサは、金属、木材、ガラス、ゴムなどをはじめ、粉体、液体まであらゆる材質の測定ができ、非接触なので粘度の影響や腐食の問題もない。長距離検出が可能で搬送ラインにおける移動物の妨げにならない、悪環境下のレベル測定が安定してできる、等の特徴を持っている。
【0046】
さらに、超音波式変位センサは測長を超音波の送信から受信までの時間を測定することで行う。したがって、超音波式変位センサは被測定物の表面粗さが大きくても強度が変化しても到達時間に変化がないので、安定した測定が可能となる。特に、ワーク6を鋳物であるシリンダブロックとした場合、この長所を生かすことができ、さらにはシリンダブロックが熱を持った状態でも影響を受けることがない。
【0047】
また、空気中の音速は気温によって変化し、超音波式変位センサの測定結果は大気変化の影響を受ける。そこで、マスタセンサ1、スレーブセンサ2のそれぞれを送信から受信までの時間を測定する超音波式変位センサとし、センサユニット3は一組のマスタセンサ1、スレーブセンサ2による測定値の差分を用いた判別を行う。
【0048】
つまり、スレーブセンサ2は、マスタセンサ1が基準面7へ向けて超音波を送信する場合、測定部8へ超音波を送信し、マスタセンサ1が測定面8へ向けて超音波を送信する場合、基準面7へ向けて超音波を送信する。そして、マスタ時間測定部とスレーブ時間測定部とで測定された値の差分を用いて測定面8の状態を判別する判別部を有している。
【0049】
マスタセンサ1及びスレーブセンサ2にてそれぞれ測定された値の差分を用いて測定を行うので、マスタセンサ1及びスレーブセンサ2からワーク6の基準位置までの距離における気温、オイルミスト、粉塵などの影響を相殺することができる。したがって、シリンダブロックの製造ラインのような環境でも、加工の障害にならない十分な動作距離とした上で、測定を正確に行うことができる。
【0050】
図2は、判別処理を示すブロック図であり、マスタセンサ1、スレーブセンサ2は、それぞれワーク6までの距離を測定する構成となっている。
図3は、ワーク6の測定面を示し、7が基準面、8が測定面である。そして、図に示すように、基準面7がマスタセンサ1と対向する面となり、測定面8がスレーブセンサ2と対向して穴9の深さを測定する。測定においては、ワーク6の停止位置で測定面が
図3のように対向する必要があり、測定面の大きさは、停止位置精度、超音波式変位センサとしてのビームサイズにより決定される。ただし、シリンダブロックは鋳物であり、より小さな測定面積にすることが要求される。
【0051】
また、マスタセンサ1、スレーブセンサ2の測定値の差分を採ることでセンサとワーク6間の測長の行程を打ち消し、基準面7から穴9の測定面8までの距離測定に限定する。単に超音波式変位センサを二つ並べて使用すると、互いに超音波が干渉し合い、測定誤差となるが、マスタセンサ1、スレーブセンサ2は干渉を避けるように交互に超音波の発振を行う。したがって、マスタセンサ1とスレーブセンサ2とで互いに超音波が干渉することを避けることができる。
【0052】
マスタセンサ1、スレーブセンサ2は同様の構成であり、それぞれ超音波素子31、32を有しており、CPU33、34により切り替えられて送信、受信を行う。メモリ35、36は、測定データの一時的な保存を行い、CPU33、34により保存、読み出しがコントロールされる。マスタセンサ1、スレーブセンサ2は互いに結線され、マスタセンサ1の生成するクロック信号に同期してスレーブセンサ2の超音波素子32の発振が行われる。スレーブセンサ2の測定データはマスタセンサ1のCPU33に伝達される。これにより、測定を多数回繰り返しても、超音波の送信タイミングがずれることなく、長時間にわたって干渉を避けることができる。
【0053】
マスタセンサ1のCPU33は、工作機械コントローラ4へ接続され、工作機械コントローラ4によって測定の開始が指示され、加工の良否を示す判別結果はCPU33から工作機械コントローラ4へ伝達される。工作機械コントローラ4は、判別結果を受信した後、判別結果に従って、次のワーク6の移動、停止を行う。
【0054】
マスタセンサ1、スレーブセンサ2は干渉を避けるため、マスタセンサ1で超音波を送信する基準時間となるクロック信号を生成し、生成されたマスタセンサ1側のクロック信号に同期してスレーブセンサ2で超音波を送信するように、マスタセンサ1とスレーブセンサ2とで交互に送信を行い、送信間隔はワークからの反射波による残響が無くなるのに十分な時間に設定する。反射波による残響はマスタセンサ1、スレーブセンサ2とワーク6間の動作距離に依存するため、送信間隔の設定により動作距離を決定する。
【0055】
測定の開始は、まずマスタセンサ1の超音波素子31を送信し、次いでスレーブセンサ2の超音波素子32が送信されることで行われる。これを1セットとして、所定のセット数を繰り返した後、送信を停止する。ワーク6の測定面は、
図3に示すように測定面8に隣接して基準面7が設けられている。
図3の例ではマスタセンサ1からワーク6までの距離が動作距離として200mm、スレーブセンサ2から測定面8までの距離が例えば、203mmとなり、穴9の深さが3mmであり、マスタセンサ1側がスレーブセンサ2側に比べて3mm超音波式変位センサ側に向かって凸となっている。
【0056】
マスタセンサ1の超音波素子31を送信し、ワーク6の凹部からの反射波がマスタセンサ1へ到達するまでの時間を測定データとしてカウントし、メモリ35に記憶する。次に、相互干渉しないようにタイミングをずらしてスレーブセンサ2の超音波素子32を送信し、反射波がスレーブセンサ2へ戻るまでの時間をカウントし、メモリ36に記憶する。
【0057】
送信停止後、スレーブセンサ2は、マスタセンサ1に対して記憶された測定データを出力する。マスタセンサ1は、メモリ35に記憶された自らの測定データとスレーブセンサ2から出力された測定データとの差分を計算する。そして、測定面として基準面7から測定面8までの距離、つまり穴9の深さが3mmであることがマスタセンサ1のCPU33で判別される。
【0058】
図4は、穴9の深さが機種毎に異なる場合の良否判別の手順を示す。まず、機種毎にワーク番号を与え、機種毎に穴9の深さを割当て、判別の基準をメモリ35に記憶させる(マスタリングモード)。良否判別は、穴9の深さとして測定された値で直接行っても良いが、次のように別途、良品として加工された場合の基準を用いて較正することが望ましい。
【0059】
実際に測定対象となる搬送ラインに載置されたシリンダブロックに対して、別途、基準となる穴9の深さに対して、マスターワーク11を必要とされる種類だけ用意し、マスタセンサ1及びスレーブセンサ2にセットする。ワーク番号1に対応するマスターワーク11に対して測定を行い、読み取ったマスタセンサ1とスレーブセンサ2との差分値をワーク番号1と対応させて良否判別の基準となる判別用データテーブル12へ図示のようにワーク番号1として登録する。判別用データテーブル12は、マスタセンサ1のメモリ35にテーブル構造として保存しておく。
【0060】
図5は、良否判別を示し、搬送ラインに載置されたシリンダブロック(ワーク6)を測定し良否を判別モードである。予め求められたワーク番号のワーク6に対して、既に説明したように測定し、測定されたマスタセンサ1とスレーブセンサ2との差分値と判別用データテーブル12とを比較して、記憶されたワーク番号における穴9の深さの値と一致しているかを求める。一致した場合、工作機械コントローラ4へ加工が正常に行われたことを出力する。工作機械コントローラ4は、次のワーク6に応じた加工指示等を実行する。
【0061】
通常、超音波は、測定値が気温により影響を受けるだけでなく、被測定物であるワーク6に対してビームサイズが広がりを持つ傾向がある。これにより、測定面積を大きくせざるを得なく、シリンダブロックの場合は鋳物の表面形状、粗さにより影響が大きく、実用が困難となる。また、超音波を一定方向に集束して発射、または受信するための反射器である超音波ホーンを設けてビームサイズを小さくすることができる。しかし、反射器の場合、被測定物から直進した超音波しか受信ができなくなる。そこで、超音波は振動数の高さに比例して直進性が増し、ビームサイズを小さくできることを利用することが望ましい。
【0062】
また、周波数が同じで振動子寸法が異なった場合、振動子寸法が大きい場合は指向性が鋭くなり、近距離ではビーム幅が大きいが、遠距離で超音波ビームはあまり広がらない。一方、振動子寸法が小さいと指向性が鈍くなり,近距離でビーム幅が小さいが,遠距離でビームの拡がりが大きくなり距離によるエコー高さの低下が著しくなる。
【0063】
図6は、超音波式変位センサのビームサイズと発振周波数及び距離の関係を示し、一点鎖線が40kHz、破線が100kHz、実線が300kHzである。一方、
図7は、超音波式変位センサのエネルギ密度と発振周波数及び距離の関係を示し、出力強度に関連するエネルギ密度は、図に示されるように発振周波数が高いほど減衰する。
図6と同様に一点鎖線が40kHz、破線が100kHz、実線が300kHzである。
【0064】
図8は、発振周波数を40kHz、300kHzとした場合のビームサイズの実測値を示し、300kHzにすればワーク6(シリンダブロック)からマスタセンサ1までの動作距離200mmで適切な測定面積に対応した20mmとすることができる。なお、発振周波数を200〜400kHz、動作距離を150〜250mm、ビームサイズをシリンダブロックに対する実用的な値である15〜25mmとすることができる。また、マスタセンサ1及びスレーブセンサ2から基準面7までの距離を150〜200mmとしたことにより、シリンダブロックの製造ラインにおいて、センサを近接する必要がないので、ワーク6を停止させる位置制御も容易となり、センサ位置もワーク6を加工する障害にならない。
【0065】
発振周波数を200〜400kHz、動作距離を150〜250mmとすれば分解能を0.1mm程度まで向上できる。超音波の発振周波数を200〜400kHzとしたことにより、超音波のビームサイズを小さくし、測定面の面積を低減できる。また、送信される超音波の識別部でのビームサイズを15〜20mmとしたことにより、シリンダブロックのように、鋳物で複雑な形状をしたものでも測定面の製作が障害とならない。ただし、超音波素子31、32にその共振周波数に近い電気信号をパルス的に印加すると、電気信号がなくなってからも、超音波振動が機械的に短時間持続する現象が生じ、反射形であるのでこの現象が長く続くと検出が困難となる。
【0066】
図9は、従来のように発振周波数を40kHz程度とした場合の発振から受信までの出力電圧の時間変化を示し、超音波を送信してから反射波を受信するが減衰が小さいため多重反射した受信波を誤って検出する恐れがあった。それに対して、発振周波数を200〜400kHzとした場合は、
図10のように減衰が大きく多重反射による影響を小さくすることができ、測定のバラツキを小さくできる。
【0067】
図11は、マスタセンサ1、スレーブセンサ2を1セットとして用いた場合の気温に対する判別効果を示す。気温が10℃上昇した場合、音速が上昇するので200mmの測定値は196.5mmとなるが、差分を計算するのでこの影響は無視できる。実際には1mmの段差の気温10℃上昇の変化は0.017mm程度である。
【0068】
図12は、マスタセンサ1、スレーブセンサ2を1セットとして用いた場合、それぞれ超音波を発振するタイミングを示す。二つの超音波が干渉しない十分な時間、動作距離200mmを往復する時間より大きく、同時に送信がされない時間だけマスタセンサ1の発振に対してスレーブセンサ2の発振を遅らせる。また、二つのタイミングが時間経過に伴って、ずれていかないようにCPU33、34を共通クロックで同期させる。
【0069】
また、測定値のバラツキを小さくするため、一度の識別で測定回数を32〜64回繰り返すことが望ましい。また、メディアンフィルタのように繰り返した測定値の中央値を算出して突出して異なる値を除外して安定化することが望ましい。
【0070】
図13は、穴9が基準面7に対して傾いてあるいは偏芯して加工された場合を示す。スレーブセンサ2による測定値は、
図3で示したような正しく加工された場合に比べ、
図13の矢印ではやや長くなっている。そこで、加工の良否判別は、穴9の深さとして測定された値で直接行っても良い。ただし、送信される超音波のビームサイズを15〜25mmとしているので、穴9の傾斜面の影響等を受ける。したがって、
図4、5で説明したように、機種毎にワーク番号を与え、機種毎にワーク6の基準として所定形状の穴を有したマスターワーク11を測定し、判別用データテーブル12へ登録し、その値と実際に測定された値とを比較して良否判別を行うことが望ましい。
【0071】
また、マスターワーク11として、傾いた穴、偏芯した穴、曲がった穴など加工誤差となるモデルを用意し、予めどのような測定値になるかを求めて学習しておけば、良否判別をより詳細に行い、その様相も判別することができる。
【0072】
図14は、加工穴に残留物10が残った状態を示し、残留物10としては切粉、ドリルの欠損、未加工部分などが挙げられる。スレーブセンサ2による測定値は、
図3で示したような正しく加工された場合に比べ、
図14の矢印では短くなっている。そこで、加工の良否判別は、穴9の深さとして測定された値で直接行っても良い。ただし、残留物10の大きさ、形は様々なこと、送信される超音波のビームサイズが15〜25mmであること、などの影響等を受ける。したがって、
図4、5で説明したように、機種毎にワーク番号を与え、機種毎にワーク6の基準として、亀裂、巣、あるいは許容範囲の表面粗さであり、正常とされる表面状態を有したマスターワーク11を測定し、判別用データテーブル12へ登録し、その値と実際に測定された値とを比較して良否判別を行うことが望ましい。
【0073】
また、マスターワーク11へ残留物10を実際に入れて、予めどのような測定値になるかを求めて学習しておけば、良否判別をより詳細に行い、その様相あるいは原因を区別することができる。
【0074】
以上、
図3以降の説明では、基準位置から穴深さを求めることを例として説明したが、シリンダブロックのような鋳物では、加工の前後に係わらず、表面のキズ、鋳物の巣などの欠陥を判別することも同様にできる。その場合は、基準面7と測定面8を同一の面としてマスタセンサ1、スレーブセンサ2で測定し、予め登録した正常なものと比較すれば良い。