特許第6694722号(P6694722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694722
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】光学式エンコーダ及びその原点決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/36 20060101AFI20200511BHJP
   G01D 5/347 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   G01D5/36 X
   G01D5/347 110L
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-24721(P2016-24721)
(22)【出願日】2016年2月12日
(65)【公開番号】特開2017-142203(P2017-142203A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】石黒 達也
【審査官】 吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−58165(JP,A)
【文献】 特表2008−503745(JP,A)
【文献】 特開2008−158301(JP,A)
【文献】 特開平10−2717(JP,A)
【文献】 特開平10−321601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00−5/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部と受光部を有するリーディング・ヘッドと、このリーディング・ヘッドに対向して配置され、反射部と透過部で構成されるスケール・パターンが複数形成されたスケールと、を有するインクレメンタル方式の光学式エンコーダにおいて、
前記スケールは、複数の前記スケール・パターンにおける前記反射部と前記透過部の幅が実質的に同一であり、その全長における少なくとも1箇所において前記反射部または前記透過部が欠落したスケール・パターンを有し、前記受光部は連続する複数の前記反射部または前記透過部からの光を受光するよう構成され
前記受光部は受光した光を検出信号に変換し、前記エンコーダは前記検出信号を演算処理する処理部を有し、前記処理部は、前記検出信号中の各波形からピーク値をサンプリングして自己相関係数ρを演算する演算部を有することを特徴とする光学式エンコーダ。
【請求項2】
前記スケールが、前記リーディング・ヘッドに相対的に移動可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光学式エンコーダ。
【請求項3】
前記処理部は、前記検出信号から抽出した連続するN個の前記ピーク値からなる第1のピーク値群と、開始位置が前記第1のピーク値群の最終のピーク値であって、連続するN個(Nは複数)の第2のピーク値群とに対して、次式で示した前記自己相関係数ρを演算し、この前記自己相関係数ρが最小となる前記ピーク値の位置を原点に決定することを特徴とする請求項1または2に記載の光学式エンコーダ。
ここで、xi(i=1、N)は前記第1のピーク値群のピーク値、yi(i=1、N)は前記第2のピーク値群のピーク値である。
【数3】
【請求項4】
前記受光部は、少なくともA相とこのA相と90°異なるB相とを検出するよう構成されていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の光学式エンコーダ。
【請求項5】
反射部と透過部からなるスケール・パターンを複数並べて形成したスケールに対向して配置したリーディング・ヘッドを前記スケールに相対的に移動させて計測するインクレメンタル方式の光学式エンコーダの原点決定方法において、
前記スケールは、その全長における少なくとも1箇所において前記反射部または前記透過部が欠落したスケール・パターンを有し、前記リーディング・ヘッドを前記欠落部に対して相対的に移動させて前記リーディング・ヘッドの出力波形を求め、この出力波形から複数のピーク値を抽出し、抽出したピーク値に対して自己相関係数を演算し、演算した自己相関係数の値に基づいて前記欠落部を求め、その位置を原点と決定することを特徴とする光学式エンコーダの原点決定方法。
【請求項6】
複数の前記ピーク値の抽出において、連続する波形の最大値のグループと最小値のグループを形成し、各グループについて自己相関係数を演算し、演算された双方の自己相関係数から前記欠落部を決定することを特徴とする請求項に記載の光学式エンコーダの原点決定方法。
【請求項7】
複数の前記ピーク値の抽出とともに、各波形の最大値と最小値の中央電圧値を求め、前記自己相関係数の演算結果と求めた各波形の中央電圧値とに基づいて原点を決定することを特徴とする請求項またはに記載の光学式エンコーダの原点決定方法。
【請求項8】
前記リーディング・ヘッドはN個の前記反射部または前記透過部からの光を受光可能であり、前記自己相関係数の演算は、連続するN個の第1のピーク値群と、開始位置が前記第1のピーク値群の最終である引き続き連続するN個の第2のピーク値群との間の自己相関係数ρの演算であることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の光学式エンコーダの原点決定方法。
【請求項9】
前記第1のピーク値群と第2のピーク値群との間の自己相関係数ρは、次式で示されることを特徴とする請求項に記載の光学式エンコーダの原点決定方法。
ここで、xi(i=1、N)は前記第1のピーク値群のピーク値、yi(i=1、N)は前記第2のピーク値群のピーク値である。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学スケールを有するエンコーダ及びその原点決定方法に係り、特にエンコーダがインクレメンタル方式である場合に好適な光学式エンコーダ及びその原点決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定器等の分野では、高精度に寸法等の測定が可能な光学式エンコーダ(以下、エンコーダとも称す)を、用いている。エンコーダでは、スケール表面に形成された等間隔の透過・反射のパターンを、半導体フォトセンサのようなリーディング・ヘッドで読み取り、リーディング・ヘッド上を通過したパターンの数から、長さや角度を測定している。
【0003】
このようなエンコーダでは、特にインクレメンタル方式の場合、パターンが形成されたスケールとリーディング・ヘッドの相対的な位置情報しか得られないので、絶対位置基準としての原点検出系を、相対位置検出系のエンコーダとは別に設ける場合が多く、原点検出系と相対位置検出系との相互の関連付けを、別途必要とする。
【0004】
原点検出系と相対位置検出系を別個に有するエンコーダの例が、特許文献1及び特許文献2に記載されている。特許文献1に記載の従来のエンコーダでは、走査方向の依存性を小さくし、A相またはB相信号に同期した原点検出を安定して行うために、エンコーダは、移動方向を示す互いに位相が90°ずれた位置信号であるA相、B相信号と、電源オフ後に再起動したとき等に原点位置を検出するZ相信号を有している。そして、スケールのうち、Z相信号を形成するZ相スケールには、光反射領域および光透過領域の2領域からなるベタパターンを用い、Z相スケールの検出信号をデジタル化して得たパルス状信号をZ相信号として、原点位置を検出している。
【0005】
特許文献2には、Z相信号をより安定させ、確実に原点出しできるコンパクトかつ低コストのエンコーダが開示されている。このエンコーダでは、インクレメンタルなA相、B相用のスケールと並べて原点用のスケールを配置し、原点用スケール・パターンの符号系列を狭帯域化のための変調が掛かったパターンとしている。
【0006】
また、本願出願人の先願に係る特許文献3には、位置検出系と原点検出系とを別個に設けることに起因する課題を解決するため、透過部/反射部が繰り返されるスケールと、スケールに相対的に移動可能な光検出部と、スケールの原点を検出する原点検出系を備えたエンコーダが開示されている。スケールには、光反射部と光透過部のピッチが変更された領域と、ピッチが変更される境界であるピッチ境界部とがあり、原点検出部は、光検出部がピッチ境界部からの反射光を検出して得た信号に基づいて、原点位置を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−103230号公報
【特許文献2】特開2011−247746号公報
【特許文献3】特開2015−10964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
絶対的な位置情報を有しないインクレメンタル方式のエンコーダでは、絶対的位置基準としての原点検出系用スケールを位置検出系用スケールとは別個に設けて、位置検出系と原点検出系の対応付けを図っている。もしくは、一つのスケールを位置検出系と原点検出系で兼用し、位置検出用と原点検出用のリーディング・ヘッドでそれぞれ読み込んで、位置検出系と原点検出系の対応付けを図っている。その際、いずれの方法においても、簡単でコンパクトな構成となることが望まれている。または、原点検出系を含む複雑で高価な対応付けのための構成を不要とすることが望まれている。
【0009】
上記特許文献1、2では、原点検出系を、位置検出系として用いるA相、B相の他に、Z相として設けることにより、原点検出系と位置検出系を統合している。しかしながら、この特許文献1では、A相、B相のためのスケール及び発光部、受光部の外に、ほぼこれと同規模のZ相のための発光部、受光部を必要とし、エンコーダ自体を小型化/薄型化することが困難である。また、2本のスケール及び両スケールを検出するリーディング・ヘッドが必要であるので、これら各部品の取付け誤差の影響が累積する。そのため、この誤差を補償する位置検出系と原点検出系の光学的位置合わせが必要になり、多大な工程を要する。特に、エンコーダを長さや角度、厚さ、内外径の計測装置等に使用する場合、できるだけ簡素で簡単な機構になることが望まれている。
【0010】
また、特許文献3に記載の光学式のエンコーダは、原点検出系と位置検出系を別個に設ける必要がないので、装置の薄型化/小型化が可能であり、アッベ誤差が発生する恐れがないという利点を有している。しかしながら、この特許文献3に記載のエンコーダでは、原点検出用の個別のスケールや検出器がない分、原点決定のために検出信号を信号処理する必要があり、信号処理回路が複雑化してコスト増を招く恐れがある。
【0011】
本発明は上記従来の技術の不具合を鑑みなされたものであり、その目的は、インクレメンタル方式の光学式エンコーダにおいて、原点検出用の特別なスケールを設けることなく、簡単な構成及び簡単な信号処理で原点位置を確実に決定することにある。また、この原点位置決定方法を備えたエンコーダを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、発光部と受光部を有するリーディング・ヘッドと、このリーディング・ヘッドに対向して配置され、反射部と透過部で構成されるスケール・パターンが複数形成されたスケールと、を有するインクレメンタル方式の光学式エンコーダにおいて、前記スケールは、複数の前記スケール・パターンにおける反射部と前記透過部の幅が実質的に同一であり、その全長における少なくとも1箇所において前記反射部または前記透過部が欠落したスケール・パターンを有し、前記受光部は連続する複数の前記反射部または前記透過部からの光を受光するよう構成されていることにある。
【0013】
そしてこの特徴において、前記スケールが、前記リーディング・ヘッドに相対的に移動可能に構成されているのがよく、前記受光部は受光した光を検出信号に変換し、前記エンコーダは前記検出信号を演算処理する処理部を有し、前記処理部は、前記検出信号中の各波形からピーク値をサンプリングして自己相関を演算する演算部を有することが望ましい。また、前記受光部は、少なくともA相とこのA相と90°異なるB相とを検出するよう構成されていることが好ましい。
さらに、前記処理部は、前記検出信号から抽出した連続するN個のピーク値からなる第1のピーク値群と、開始位置が前記第1のピーク値群の最終のピーク値であって、連続するN個(Nは複数)の第2のピーク値群とに対して、自己相関係数ρを演算し、この自己相関が最小となるピーク値の位置を原点に決定するのが好ましい。
【0014】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、反射部と透過部からなるスケール・パターンを複数並べて形成したスケールに対向して配置したリーディング・ヘッドを前記スケールに相対的に移動させて計測するインクレメンタル方式の光学式エンコーダの原点決定方法において、前記スケールは、その全長における少なくとも1箇所において前記反射部または前記透過部が欠落したスケール・パターンを有し、前記リーディング・ヘッドを前記欠落部に対して相対的に移動させて前記リーディング・ヘッドの出力波形を求め、この出力波形から複数のピーク値を抽出し、抽出したピーク値に対して自己相関を演算し、演算した自己相関の値に基づいて前記欠落部を求め、その位置を原点と決定することにある。
【0015】
そしてこの特徴において、複数の前記ピーク値の抽出において、連続する波形の最大値のグループと最小値のグループを形成し、各グループについて自己相関を演算し、演算された双方の自己相関から前記欠落部を決定するものであってよく、複数の前記ピーク値の抽出とともに、各波形の最大値と最小値の中央電圧値を求め、前記自己相関の演算結果と求めた各波形の中央電圧値とに基づいて原点を決定することが望ましい。さらに、前記リーディング・ヘッドはN個の反射部または透過部からの光を受光可能であり、前記自己相関の演算は、連続するN個の第1のピーク値群と、開始位置が前記第1のピーク値群の最終である引き続くN個の第2のピーク値群との間の自己相関係数ρの演算であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、インクレメンタル方式の光学式エンコーダが、透過部と反射部を繰り返す光学スケールを有し、そのスケールの少なくとも1箇所に透過部または反射部の欠落部分を形成し、リーディング・ヘッドの出力波形に対して自己相関を演算するようにしたので、特別な原点検出系を設けることなく、簡単な構成及び簡単な信号処理で原点位置を決定できる。また、原点位置決定方法を備えたエンコーダを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るエンコーダの(a)上面図、(b)正面図である。
図2】本発明に係るエンコーダの一実施例の(a)上面図、(b)正面図である。
図3】本発明に係るエンコーダの他の一実施例の(a)上面図、(b)正面図である。
図4】自己相関を説明する図である。
図5】リーディング・ヘッドの出力波形の例を示すグラフであり、シミュレーション結果を示す。
図6図5に示した出力波形からピーク値を抽出した結果を示すグラフである。
図7図6に示したピーク値に対して自己相関を演算した結果を示すグラフである。
図8】自己相関係数の変化を説明するグラフである。
図9】外乱によるリーディング・ヘッドの出力波形の変化を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るインクレメンタル方式の光学式エンコーダを、図面を用いて説明する。図1ないし図3は、リニアスケールを有する光学式エンコーダの部分拡大図であり、各図において、図(a)はリニアスケール4の上面図を、図(b)はその正面図を示す。なお、以下の説明では、リニアスケールを有するリニアエンコーダについて説明するが、同様のスケールを有する光学式ロータリ・エンコーダにも本発明は適用できる。また、以下の説明では反射光を計測に用いているが、透過光を計測に用いる光学式エンコーダにも本発明を適用できることは、言うまでもない。
【0019】
初めに、図1を用いて、リニアスケール4の大部分を占める一般の状態を説明する。リニアスケール4では、例えばガラス製のスケール基板1aに、Cr、Au、Pr、Ag、Al等の光反射率の高い金属を蒸着等で成膜して、反射部5bが形成されている。各反射部5bの両側には、この反射部5bのピッチp/2と同じピッチp/2で、透過部5aが形成されている。すなわち、透過部5aと反射部5bとで、ピッチpのスケール・パターン5が形成される。その結果、このパターン5(スケール・パターンとも称する)が、リニアスケール4の長手方向に複数形成される。本実施例では、p=20μmであり、したがって反射部の幅p/2=10μmである。
【0020】
一般に、リニアスケール4は図示しない静止体に取り付けられて計測用に供されており、このリニアスケール4の長手方向、すなわちパターン5が形成された方向(X方向)に移動可能にリーディング・ヘッド1が、図1(b)で上方に間隔を置いて、リニアスケール4に対向配置されている。リーディング・ヘッド1とリニアスケール4は、光学式のリニアエンコーダ100の主要部を構成する。
【0021】
リーディング・ヘッド1は、大別して発光部2と受光部3とをスケール基板1a上に有しており、それらは透明な樹脂材(図示せず)で覆われている。発光部2は、LEDアレイやレーザアレイからなる光源と、この光源の発光面側に配置され一定ピッチで形成された格子と、格子の上面を覆い保護する光透過部材とを有するが、詳細は図示を省略する。発光部2は、リニアスケール4上の複数のスケール・パターン5に、入射光11aを発光する。
【0022】
受光部3は、フォトダイオードアレイからなる受光素子を備えている。図示は省略したが、発光部2にはその駆動回路が、受光部3には受光信号の信号処理回路が設けられており、これらはリーディング・ヘッド1として一体化されていてもよい。その場合、これら回路をハイブリッドIC化し、リーディング・ヘッド1に一体化すれば、光学式エンコーダをコンパクト化できる。
【0023】
このように構成した光学式リニアエンコーダ100では、図1(a)に示すように、リーディング・ヘッド1を図中左右方向(X方向)に移動させると、図1(b)に示すように、発光部2から発光された入射光11aは、リニアスケール4上の複数のスケール・パターン5上に入射する。そして、各反射部5bで反射して、反射光11bとなって受光部3に達する。一方、スケール・パターン5の透過部5aに到達した入射光11aは、透過光11cとなって、リニアスケール4を通り抜ける。
ここで、他の実施形態としてリーディング・ヘッド1がリニアスケール4を挟み込む形態を成すか、または、リーディング・ヘッド1が分割されることによりリニアスケール4を挟み込む形態を成すこと等によって、発光部2と受光部3とがリニアスケール4を挟む様に配置される形態(不図示)を成していても良い。この場合は、発光部2から発光された入射光11aのうち透過部5aを透過した透過光11cが受光部3に達して受光されることになる。この場合においても、本発明を適用することができ、同様の作用効果を奏することができる。
【0024】
リーディング・ヘッド1の受光部3に配置した図示しないフォトダイオードは、複数の反射部5bで反射した反射光11bを受光可能であり、受光した反射光11bを電気信号に変換する。リーディング・ヘッド1が長手方向に移動すると、フォトダイオードの出力が周期的に変化する。そこで、フォトダイオードのこの周期的な変化数を計数することにより、リニアスケール4上のどのスケール・パターン5の位置に、リーディング・ヘッド1が位置しているかが分かり、測長が可能になる。
【0025】
しかしながら、インクレメンタル方式のエンコーダでは、基準位置、すなわち原点が分からないので、基準点を別の方法で求めるか、リニアスケールに何等かの処理を施して、原点位置を特定できるようにする必要がある。上述したように、位置検出系の他に原点検出系を設けることは、装置が複雑になるばかりでなく、それら2つの系を正確に対応付ける必要があり、エンコーダのコンパクト化とコスト低減とが困難になる。
【0026】
そこで、本発明では、図2及び図3に示すような原点位置検出用のスケール・パターン5を、リニアスケール4に設けている。図2及び図3は、図1に対応する図であり、図2は、反射部5bが欠落したスケール・パターン5をリニアスケール4の長手方向に1箇所だけ設けた場合であり、また図3は、透過部5aが欠落したスケール・パターン5を、リニアスケール4の長手方向に1箇所だけ設けた場合である。なお、後にその理由を詳述するが、これらの欠落部6、7はいずれの場合にも、リニアスケール4の両端部から数パターンの範囲内には施さない。
【0027】
図2に示した反射部5bの欠落部6を作製するには、蒸着等に用いる欠落部の無い通常使用のマスクの1箇所だけマスクを外すだけで対処できる。同様に、透過部5aの欠落部7を作製するには、蒸着等に用いる欠落部の無い通常使用のマスクの1箇所だけ、マスクを増やせばよい。したがって、リニアスケール4のスケール・パターン5作製における変更がほとんどなくて済み、リニアスケール4製作の工数やコストの増加もほとんどなく、製作も容易である。
【0028】
次に、このように構成した光学式リニアエンコーダ100の受光部3が有するフォトダイオードの出力とその信号処理について、図4ないし図9を用いて説明する。なお、以下の説明においては、リニアスケール4で1個の透過部5aが欠落した場合について説明するが、反射部5bが欠落した場合も、その処理は同じである。
【0029】
図4は、フォトダイオードの出力例(シミュレーション結果)を示すもので、横軸はリーディング・ヘッド1が通過したスケール・パターン5の数nである。スケール・パターン数の差Δn=1が、リニアスケール4上の長さ20μmに相当する。図5は、同じくフォトダイオード出力のシミュレーション結果を示すもので、横軸は時間である。この図5の結果に基づいて、図4を得ている。すなわち、図5の一部を拡大し、横軸の時間軸を長さが一定になるように変化させたものが図4である。
【0030】
シミュレーションで使用した条件は、フォトダイオード3が、同時に13個のスケール・パターン5からの反射光11bを検出可能であり、リーディング・ヘッド1が、0.1秒間に約12mm移動するとしている。フォトダイオード3のサンプル周波数は、500kHzであり、図示した波形数は約600である。
【0031】
まず、リーディング・ヘッド1をリニアスケール4に対して静止もしくは低速状態から移動させると、図5に示すように、初期においてはリーディング・ヘッド1の速度が遅いので、フォトダイオード3の出力波形がはっきり出ているが、数波長後には加速されているので、上限ピーク値51と下限ピーク値52の間で繰り返していることが分かるだけである。ここで、上限のピーク値51と下限のピーク値52との中心電圧値を、各波形について求めて一点鎖線53で示している。中心電圧値53は、シミュレーションの期間中ほぼ一定となった。
【0032】
この図5では、後半部において、フォトダイオード3の上限ピーク値51が低下し、下限ピーク値52が上昇している。この出力変動の原因は、本実施例では反射部5bの欠落によるものであるが、現実のエンコーダの出力波形においては、種々の要因で変化するので、反射部5bの欠落以外の要因(外乱)での出力変動を排除する必要がある。本発明者は、自己相関係数を用いると、このスケール・パターン5の変化以外の外乱を排除できることを見出した。以下に、自己相関係数を用いた欠落部6、7の検出方法を説明する。
【0033】
図4(a)は上述した通り、13個のスケール・パターン5を検出するフォトダイオード3の出力波形の一部を取り出した図であり、約50波長分の検出電圧波形41を示している。図4(b)は、自己相関係数ρを求めるために、2つの波形群を構成することを示す図である。演算を開始するリニアスケール4の位置を、スケール・パターン数n=0とすると、n=13の位置までの13個の波形を含む群を、第1の群42とする。次に、第1の群42の最後の波形を含む後続の波形13個を含む群を、第2の群43とする。したがって、第1の群42の最後の波形と第2の群43の最初の波形は同一物である。第1の群42及び第2の群43に関して、それぞれを構成する各波形のピーク値(最大値)44、46およびピーク値(最小値)45、47を抽出する。これにより、4つの数列が得られる。
【0034】
初めに、最大値44、46について自己相関係数ρを求め、次いで最小値45、47について自己相関係数ρを求める。よく知られた数学の公式より、第1の群42の最大値44の数列に対して、xi(xi=1、N)とし、第2の群43の最大値46の数列に対して、yi(yi=1、N)、N=13とすると、自己相関係数ρは、次式で表される。
【数1】
【数2】
ここで、Nはフォトダイオード3が検出可能なスケール・パターン5に対応している。
【0035】
次に、同様に、第1の群42の最小値45の数列に対して、xi(xi=1、N)とし、第2の群43の最小値47の数列に対して、yi(yi=1、N)、N=13とすると、自己相関係数ρは、同様に上式(数1、数2)で表される。
【0036】
以下、図4(c)で示すように、リーディング・ヘッド1の移動に伴う変化を、第1、第2の群42、43を移動させて演算する。その際、第1の群42の最後の波形と第2の群43の最初の波形が同一になるという関係を維持する。演算を開始するスケール・パターン数は、連続的に変化させてもよいし、数ピッチ間隔を置いて変化させてもよい。また、ランダムに間隔を置いて変化させてもよい。ただし、13個以上間隔をあけると、自己相関係数を全然演算しない部分が生じる恐れがあり、原点検出が不正確になる恐れがある。
【0037】
また本実施例の場合には、自己相関係数ρを求めるのに25個のスケール・パターン5を必要とし、リニアスケール4の端部から少なくともその半分の領域では、演算に必要なスケール・パターン数nを得られず、正確な自己相関係数が求められない。そのため、この部分、本実施例では両端部から12個のスケール・パターン5の部分、に原点用の欠落部6、7を設けることは、無意味となる。
【0038】
図5に示したフォトダイオード3の出力波形から、ピーク電圧のみを求めたのが図6であり、上記自己相関係数の演算結果をプロットしたのが、図7である。図6では、ピーク電圧として、最大値55だけでなく最小値56をも併せて示している。図6から、スケール・パターン5の欠落部6、7近傍では、ピーク電圧の最大値55が低下し、最小値56が上昇していることがわかる。しかしながら上記波形を、スケール・パターン数nを横軸にして変換すると、この変化は、30〜40波形の中での変化になっており、正確なスケール・パターン5の欠落部6、7をこの曲線から求めることは容易ではない。
【0039】
一方、自己相関係数ρの変化を示す図7では、自己相関係数ρをプロットした線58は、スケール・パターン5の欠落部6近傍で急峻な変化を示しており、欠落部6では明確に最小値となっている。なお、この図7ではリーディング・ヘッド1の受光部3に設けたA相、B相のフォトダイオードの出力の中で、A相の出力結果のみを示しているが、A相とは90°位相の異なるB相の出力結果も、ほぼ同じ結果を示した。これにより、自己相関係数を用いることで、より明確にかつ容易にスケール・パターン5の欠落部6を検出でき、この欠落部6を原点とすれば、原点を容易に決定できる。
【0040】
上記説明では最大値を例にしたが、最大値だけでは以下に述べる外乱の影響の排除が難しい。そこで、実際には最小値についても自己相関係数ρを求める。そしてこれら両者の自己相関係数ρが最小となって一致する位置をスケール・パターン5の欠落部6と決定する。以下に述べる外乱の際には、最大値51の相関係数ρが最小となった位置で、各波形の最小値52が増加せず、自己相関係数ρも低下せず、外乱と欠落部6の影響を区別できる。なお、最大値と最小値の平均値は、欠落部6においてもその他の部分とほぼ変わらない。
【0041】
次に図8を用いて、自己相関係数ρの演算において現れるパターンとリニアスケール4のスケール・パターン5の関係を説明する。図8(a)は、スケール・パターン5が整然と繰り返される状態で、リーディング・ヘッド1を移動させた場合に得られるパターン(平時パターン)である。リニアスケール4にもリーディング・ヘッド1の操作にも何ら特別の点がないので、フォトダイオード3の出力電圧が安定しており、パターンは平坦である。この場合、自己相関係数ρはほぼ1になっている。
【0042】
図8(b)は、リーディング・ヘッド1が、スケール・パターン5の欠落部6に近づいている場合、またはスケール・パターン5の欠落部6から遠ざかる場合である。平坦な部分は上記(a)図の場合と同じくスケール・パターン5が整然と繰り返される部分である。しかし、スケール・パターン5の欠落部6に近づくと、欠落部6からは反射光11bが得られないので自己相関係数が低下する。一方、欠落部6から整然としたパターンに戻る部分では、欠落部6の影響が徐々になくなるので、自己相関係数が1に回復するよう増加する。
【0043】
図8(c)は、スケール・パターン5の欠落部6前後の自己相関係数ρの変化パターンである。図8(b)の結果から類推できるように、スケール・パターン5の欠落部6で、フォトダイオード3の出力電圧に基づく自己相関係数ρが極小になり、V字型のような折り返し形状となっている。これらのパターンは、ピーク電圧の最大値55及び最小値56のいずれの場合も同じであり、スケール・パターン5の欠落部6では自己相関係数ρが最小となる。
【0044】
次に図9を用いて、フォトダイオード3の出力波形から欠落部6を決定する際に、外乱の影響を排除する方法を説明する。図9(a)は、一般的な検出波形の例であり、図5に示した波形の一部を示した図である。この図9(a)では、最大値51a、最小値52a、及びその中心電圧値53aを示している。中心電圧値53aは、ほぼ水平な線で表される。図9(b)は、図9(a)の波形の特性のものに対して、リニアスケール4の表面に油膜等が付着してフォトダイオード3の出力が低下した場合を示した図である。図9(b)では、理解しやすいよう誇張して示している。
【0045】
リニアスケール4の表面に切削油等の微粒子が付着した場合、フォトダイオード3の検出感度が低下する。この場合、各波形の最大値51bと最小値52bの双方が低下するので、フォトダイオード3の出力の最大値51bをそのまま使用して欠落部6を検出しようとすると、最も汚染が激しい位置を欠落部6とするという、誤った認定をする恐れがある。また、最大値51bとともに、最小値52bや最大値51bと最小値52bの中心電圧値53bを使用しても、同様にフォトダイオード3の感度低下によって生じた、それぞれが最小となる位置を、欠落部6として認定する恐れがある。
【0046】
なお図示は省略するが、衝撃的な外乱やノイズがあっても、上記と同様の理由で、自己相関係数ρを用いることにより、それらの影響を排除できる。すなわち外乱やノイズがある場合には、各波形の最大値51及び各波形の最小値52の双方に、それぞれ自己相関係数を演算することにより、双方の自己相関係数ρがともに最小になることはなく、これにより、スケール・パターン5の欠落部6との区別を明確にすることが可能になる。
【0047】
上記実施例においては、反射部5bの欠落の場合について説明したが、透過部5aの欠落の場合も同様にして原点を決定できる。ただし、フォトトダイオード3の検出波形は、反射光11bが増大するので透過部5aの欠落部7で増大するが、自己相関係数はやはりともに最小となる。
【0048】
以上説明したように本実施例によれば、光学式のリニアエンコーダが有するリーディング・ヘッドのフォトダイオードの出力波形のピーク値に対して、自己相関係数を演算することにより、ノイズ等の外乱により全体的に出力電圧が増減する場合に発生する誤検出を抑制できる。また、ピーク値のみ利用するので、リーディング・ヘッドが一定の速度で移動していなくても、リニアスケールを基準として用いることができる。
【0049】
また、欠落部6ではフォトダイオード3の出力波形の最大値51が下がると最小値52が上がる傾向にあるため、フォトダイオード3の出力波形を1波形のみ取り出した結果で比較すると、相関係数を演算してもほとんど差異を生じない。それに対して、本発明では、複数の波形について相関係数を演算しているので、スケール・パターン5の欠落部における特性、すなわち相関係数が最小となるという特性により、欠落部を容易に決定できる。
【0050】
なお、本発明によるエンコーダは、測長や速度計測、角度計測等に利用できるものであり、上記自己相関係数の演算は、リーディング・ヘッド1に設けてもよく、または別体として設けてもよい。また、この自己相関係数の演算に要する時間は1msec以下であり、リーディング・ヘッド1の運動に十分対応できる。さらに、上記実施例においては、自己相関係数の演算に用いるスケール・パターン数nをn=13としたが、この数は使用するフォトダイオードおよび配置により異ならせることが可能であり、本実施例では通常使用されているフォトダイオードを使用した通常の配置の場合を想定して決定した。したがって、n=13に拘泥するものではないが、上述の理由により複数とする必要がある。
【0051】
本発明によれば、位置検出系と原点検出系を同一の光学式エンコーダ部品で達成することができるので、位置検出系と原点検出系の光学的な位置合わせが不要となる。また、位置検出系と原点検出系が同一系なので、温度などの環境変化を受けにくく、さらに、位置検出系と原点検出系を同一軸上に配置できない場合に生じるアッベ誤差とも無縁である。
【符号の説明】
【0052】
1…リーディング・ヘッド、2…光源(発光部)、3…フォトダイオード(受光部)、4…リニアスケール、5…スケール・パターン、5a…透過部、5b…反射部、6…反射部欠落部、7…透過部欠落部、11a…入射光、11b…反射光、11c…透過光、41…検出電圧波形、42…第1の群、43…第2の群、44…ピーク値(最大値)、45…ピーク値(最小値)、46…ピーク値(最大値)、47…ピーク値(最小値)、51、51a、51b…検出電圧波形(最大)、52、52a、52b…検出電圧波形(最小)53、53a、53b…中心電圧値、55…抽出ピーク値(最大)、56…抽出ピーク値(最小)、58…自己相関係数、100…光学式リニアエンコーダ、ρ…自己相関係数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9