特許第6694786号(P6694786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6694786即席食品用の乾燥緑色野菜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694786
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】即席食品用の乾燥緑色野菜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/02 20060101AFI20200511BHJP
【FI】
   A23B7/02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-171872(P2016-171872)
(22)【出願日】2016年9月2日
(65)【公開番号】特開2018-33425(P2018-33425A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2018年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】茂山 恵里那
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 慎二
(72)【発明者】
【氏名】上野 宏治
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−172152(JP,A)
【文献】 特開2001−045966(JP,A)
【文献】 特開2002−262817(JP,A)
【文献】 特開昭60−058033(JP,A)
【文献】 特開2013−099314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱風乾燥した即席食品用の乾燥緑色野菜であって、
マルトース及び/又はラクトースを10重量%以上含み、
水分含量が14重量%以下であり、
全糖含量が5〜80重量%であり、
前記即席食品用の乾燥緑色野菜の20倍希釈液のpHが7〜8であることを特徴とする即席食品用の乾燥緑色野菜。
【請求項2】
前記マルトース及び/又はラクトースの含量が22重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の即席食品用の乾燥緑色野菜。
【請求項3】
前記即席食品用の乾燥緑色野菜がマグネシウム塩を含むことを特徴とする請求項1または2記載の即席食品用の乾燥緑色野菜。
【請求項4】
前記即席食品用の乾燥緑色野菜の20倍希釈液のpHが7.2〜7.8であることを特徴とする請求項1〜3何れか一項記載の即席食品用の乾燥緑色野菜。
【請求項5】
緑色野菜をブランチングするブランチング工程と、
前記ブランチング工程でブランチングした前記緑色野菜に少なくともラクトース、マルトース及び麦芽水飴から選ばれる一種又は二種以上を含む糖類を添加する糖類添加工程と、
前記糖類添加工程で糖類を添加した前記緑色野菜を100℃以下の熱風で乾燥する熱風乾燥工程と、を含む即席食品用の乾燥緑色野菜の製造方法であって、
前記ブランチング工程または前記糖類添加工程において、製造後の前記即席食品用の乾燥緑色野菜の20倍希釈液のpHが7〜8となるように調整し、
前記糖類添加工程において、前記即席食品用の乾燥緑色野菜中にマルトース及び/又はラクトースが10重量%以上含まれ、且つ全糖含量が65〜80重量%含まれるように前記糖類を添加し、
前記乾燥工程において、前記即席食品用の乾燥緑色野菜の水分が14重量%以下となるように乾燥することを特徴とする即席食品用の乾燥緑色野菜の製造方法。
【請求項6】
前記糖類添加工程において、マグネシウム塩を添加することを特徴とする請求項記載の即席食品用の乾燥緑色野菜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、即席食品用の乾燥緑色野菜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、即席食品として、湯かけ調理、鍋炊き調理及び電子レンジ調理等により簡便に喫食できる商品、例えば即席麺、即席スープ、即席みそ汁、即席米飯など多数の商品が上市されている。
【0003】
即席食品用の具材としては、乾燥肉類、乾燥卵、乾燥野菜などが挙げられる。この内、乾燥野菜については、野菜をブランチングした後、通風乾燥、熱風乾燥、真空凍結乾燥、マイクロウェーブ乾燥等の乾燥方法によって乾燥させることが一般的である。
【0004】
従来、緑色野菜は、酵素や加熱により色が退色又は変色するという問題があり、緑色野菜の退色又は変色防止方法としてアルカリ条件下でブランチング処理を行うのが一般的である。しかしながら、緑色野菜を乾燥する場合には、これだけでは、退色又は変色を防ぐには不十分である。
【0005】
保存性及び品質の良好な乾燥野菜の製造方法として、特許文献1には、野菜をpH7〜10であり、マグネシウムイオンを0.01〜20g/L含む水溶液にてブランチングした後、乾燥することを特徴する乾燥野菜の製造方法が記載されている。しかしながら、この方法は、通常のアルカリ条件下でのブランチング処理以上に乾燥後の緑色野菜の色調を保持することができるが、長期保存するにおいては、気密性の高いパウチを用いて窒素処理するか脱酸素剤と共に保存する必要があり、普通に保存した場合は、すぐに変色してしまう課題があった。
【0006】
また、緑黄色野菜の新鮮な色調を維持する技術として、特許文献2には、ブランチングした野菜類をpH8.0−9.0に調整し、還元水飴等の溶液に浸漬した後、凍結乾燥する技術が記載されている。しかしながら、この方法は、凍結という工程があることで凍結時に発生する氷結晶が野菜の組織を破壊するため、野菜の種類によっては、食感が著しく悪くなる課題があった。また、還元水飴等を多く野菜に含ませると、乾燥中に過発泡が起きたり、凍結や乾燥に時間がかかるため、乾燥野菜を作製するのに費用が掛かり、還元水飴等を含ませられる量には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−58033号公報
【特許文献2】特許第2926691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、保存時の退色又は変色を防止できる即席食品用の乾燥緑色野菜及びその製造方法を提供することと課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、保存時の退色又は変色する原因について、鋭意研究した結果、ブランチング時の緑色野菜のpHをコントロールするだけでは不十分であり、乾燥野菜の自由水を少なくし、酸素との接触を抑えることが重要であると考えた。そこで、ブランチングしてpHをコントロールした緑色野菜に糖類を添加することで、糖類により野菜を被覆するだけでなく、乾燥野菜中の自由水を抑えることを試みた。しかしながら、使用する糖類の種類によっては、保存時の変色を抑えるどころか逆に変色を促進することがわかり、さらに鋭意研究した結果、添加する糖類の種類と含量が重要であることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、即席食品用の乾燥緑色野菜であって、マルトース及び/又はラクトースを10重量%以上含み、水分含量が14重量%以下であり、全糖含量が55〜80重量%であり、前記即席食品用の乾燥緑色野菜の20倍希釈液のpHが7〜8であることを特徴とする即席食品用の乾燥緑色野菜、及び、緑色野菜をブランチングするブランチング工程と、
前記ブランチング工程でブランチングした前記緑色野菜に少なくともラクトース、マルトース及び麦芽水飴から選ばれる一種又は二種以上の糖類を添加する糖類添加工程と、前記糖類添加工程で糖類を添加した前記緑色野菜を100℃以下の熱風で乾燥する熱風乾燥工程と、を含む即席食品用の乾燥緑色野菜の製造方法であって、前記製造方法によって得られる前記即席食品用の乾燥緑色野菜が、マルトース及び/又はラクトースを10重量%以上含み、水分含量が14重量%以下であり、全糖含量が55〜80重量%であり、前記即席食品用の乾燥緑色野菜の20倍希釈液のpHが7〜8であることを特徴とする即席食品用の乾燥緑色野菜の製造方法である。
【0011】
さらに、前記糖類添加工程において、マグネシウム塩を添加することにより、マグネシウム塩を含ませ、乾燥直後の緑色の発色具合を良くすることが好ましい。
【0012】
さらに、乾燥緑色野菜の20倍希釈液のpHが7.2〜7.8に調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、保存時の退色又は変色を防止できる即席食品用の乾燥緑色野菜及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0015】
本発明における緑色野菜としては、クロロフィル由来の緑色を呈する野菜であり、例えば、ホウレン草、小松菜、キャベツ、ブロッコリー、ピーマン、ニガウリ、ネギ、ニラ、ワケギ、インゲン、エンドウ、カイワレダイコン及び豆苗等が挙げられる。
【0016】
緑色野菜は、必要により、洗浄、次亜塩素酸による殺菌を施した後、適当な大きさにカットする。カットした緑色野菜は、石灰水やにがりを含む水溶液等に浸漬してもよい。
【0017】
ついで、カットした緑色野菜をブランチングする。緑の野菜は生のまま乾燥するとクロロフィルが分解されてフェオフィチンとなり退色するため、ブランチングを行うことが一般的である。ブランチング方法は特に限定はなく、使用する緑色野菜にあわせて、ボイル又はスチームによって時間を調整して行えばよい。
【0018】
また、ボイルによりブランチングする場合には、ブランチング液のpHは特に限定はないが、酸性になるとクロロフィルが分解され、アルカリ性が強すぎると緑色野菜の繊維が軟化して食感が柔らかくなりすぎるため、中性から弱アルカリ性が好ましく、好ましくは、pHが7〜8.5程度となるように炭酸塩等により調整しながらブランチングすることが好ましい。
【0019】
次いで、ブランチングした緑色野菜を必要により脱水し、糖類を添加する。糖類を添加する目的としては、乾燥緑色野菜を被覆し酸素を遮断し、自由水を少なくすることで保存中の退色や変色を防ぐだけでなく、乾燥中に野菜に柔軟性を持たせ、製造中の野菜の破損を防ぎ、また、乾燥後に硬化して輸送中の破損を防ぎ、即席食品の具材として使用した際の復元性を確保するためである。
【0020】
通常、糖類は、遊離アミノ酸と反応し、メーラード反応を起こし、褐色に変化する原因と言われている。この反応は、還元性を示す糖類ほど起り易いと言われており、還元性を示す糖類を使用することで保存中にメーラード反応が進み、保存中の変色(褐変)が進むものと考えた。そこで、還元性を示さないショ糖やトレハロース、還元水飴等を用いれば、保存中の変色を抑えることができると考えたが、意外にも還元性を示さない糖類を使用した場合においても保存中の変色が進むことが判明し、必ずしもメーラード反応が保存中の変色の原因でないことが判明した。そこで、様々な糖類を用いて検証した結果、原因は不明だが、保存中の変色を抑える上では、ラクトース及びマルトースが保存中の変色を抑える上で好ましいことが判明した。
【0021】
本発明における添加する糖類は、少なくともラクトース、マルトース及びマルトースを多く含む麦芽水飴から選ばれる一種又は二種以上であり、乾燥後の緑色野菜中のラクトース又は/及びマルトース含量としては、乾燥緑色野菜中に10重量%以上、より好ましくは、22重量%以上含むように添加することが好ましい。ラクトース及びマルトース含量の測定方法は、HPLC法によって行えばよい。また、本発明における麦芽水飴は、でん粉を酸又は酵素で分解した物であり、これを水素で還元した還元水飴は含まない。乾燥後のラクトース又は/及びマルトース含量としては、できるだけ多いことに越したことはないが、後述するように乾燥緑色野菜中の全糖量が、乾燥緑色野菜の重量に対して80重量%より多くすることは、実質的に困難であるため、多くても乾燥緑色野菜中に80重量%以下であり、野菜が持つもともとの糖量を考慮すると70重量%以下である。
【0022】
また、乾燥緑色野菜中の全糖量が、乾燥緑色野菜の重量に対して55〜80重量%となるように添加することが好ましい。全糖量の分析方法は、単糖、二糖及びこれらの還元糖のみ添加している場合には、HPLC法で各糖分析を行い積算して算出すればよい。添加している糖が麦芽糖水飴や還元水飴等のように三糖以上の糖を含む場合には、フェノール硫酸法により算出すればよい。乾燥緑色野菜中の全糖量が、乾燥緑色野菜の重量に対して55重量%未満の場合は、糖類による乾燥緑色野菜の被覆が不完全になるため、退色や変色が起り易くなる。また、乾燥中に緑色野菜が柔軟性に欠け、製造中に割れ易くなり、さらには、乾燥後に脆くなり輸送中に割れ易くなるだけでなく、復元性が悪くなる。逆に、乾燥緑色野菜中の全糖量を乾燥緑色野菜の重量に対して80重量%より多くすることは、野菜の持っているもともとの固形分量や乾燥緑色野菜の水分量があるため、現実的に困難である。より好ましい範囲としては65〜75重量%である。
【0023】
本発明における添加する糖類としては、ラクトース、マルトース及び麦芽水飴の他に、グルコース、トレハロース、ソルビトールなどの還元糖、還元水飴、澱粉分解物、還元澱粉分解物を混合することができるが、この内、添加する糖類としては、できる限りラクトース又は/及びマルトースが含まれるように添加することが好ましい。
【0024】
また、保存中の変色を促進する糖類としては、フルクトース及びスクロースが挙げられた。よって添加する糖類としては、できる限り、フルクトース及びスクロースを含まないことが好ましいが、フルクトースやスクロースは、もともと緑色野菜中に含まれていることが多く、乾燥緑色野菜中のフルクトース含量として、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下にコントロールすることが好ましい。フルクトース及びスクロース含量の分析方法は、HPLC法によって行えばよい。
【0025】
糖類の添加方法としては、粉体混合により添加しても、糖類水溶液に浸漬して添加してもよい。
【0026】
また、糖類の添加時に炭酸マグネシウムや塩化マグネシウムなどのマグネシウム塩を同時に添加することが好ましい。マグネシウム塩を添加することにより、マグネシウム塩を添加しない場合と比較し、乾燥後の緑色具合が維持されやすい。また、糖類添加時に炭酸ナトリウムや石灰水等のアルカリ剤を添加することにより、乾燥後の緑色野菜のpHを所定の範囲になるように調整することもできる。
【0027】
次いで糖類を添加した緑色野菜は、水分が14重量%以下となるように乾燥する。乾燥方法は特に限定はないが、糖類を多く添加し、安価に乾燥するためには、通風乾燥や熱風乾燥が好ましい。熱風乾燥を行う場合には、100℃よりも高い温度であると乾燥中に変色が進むため好ましくない。より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは、60℃以下で乾燥することが好ましい。乾燥後の緑色野菜の水分含量は、少ない方が好ましく、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは7重量%以下である。水分の測定方法は、常圧乾燥方法により105℃4時間の乾燥条件で行えばよい。
【0028】
また、乾燥後の緑色野菜のpHは、乾燥緑色野菜の20倍希釈液のpHが7〜8であることが好ましい。分析方法を例示すると、乾燥緑色野菜10gに190gの純水を加え、ミキサーで粉砕攪拌し、粉砕攪拌した20倍希釈液攪拌しながらpHメーター(電極式)で測定すればよい。pHが7未満であると乾燥後の段階で緑色の退色が認められ、pHが8よりも高いと保存中に変色が進みやすい。より好ましくは、乾燥緑色野菜の20倍希釈液のpHが7.2〜7.8の範囲になるように、ブランチング又は糖類添加時にpHを調整することが好ましい。
【0029】
乾燥した即席食品用の乾燥緑色野菜は、湯かけ調理、鍋炊き調理及び電子レンジ調理等により、復水し、即席食品用の具材として用いられる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明する。
<予備試験>
糖類の種類によって、保存中の退色又は変色にどのような影響をおよぼすかについて予備試験にて検証した。糖類の種類は、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、ソルビトール、麦芽水飴(マルトース含量33%、固形分含量75%)、還元水飴(固形分75%)を用いた。
【0031】
乾燥緑色野菜としては、熱風乾燥したキャベツを指標とした。
【0032】
乾燥キャベツの作製方法としては、緑色を有する外側のキャベツの葉を約30x25mmの大きさにカットし、0.1%重曹水溶液で98℃、2分間ブランチング処理し、ブランチングしたキャベツを取り出し、流水にて冷却洗浄した後、生キャベツの重量の60重量%となるまで遠心脱水した。次いで脱水したキャベツ100重量%に対して上記の糖類を固形分量として20重量%の糖類を添加し、乾燥後のキャベツに含まれる全糖類の重量が70重量%程度となるように混合・静置し、余分なドリップを除去した後、80℃で2時間乾燥した後、70℃で2時間さらに乾燥し、60℃で4〜6時間乾燥して、水分含量が7重量%となるように調整し、乾燥キャベツサンプルを作製した。また、乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは約7.5前後となるように調整した。
【0033】
作製した乾燥キャベツサンプルの保存中の色調の変化を簡易的に確認する方法として乾燥キャベツに重量の10重量%の水分を加湿し、加湿した乾燥キャベツを60℃で48時間加熱処理を行い、強制的に劣化させ、色調について評価を行った。評価については、5人の熟練のパネラーにて目視で行い、乾燥後の色調を5点としたときに、外観上同等のものを5点、やや退色もしくは変色があるが良好なものを4点、退色もしくは褐変があるが概ね可なものを3点、退色もしくは褐変が目立ち商品として不可なものを2点、退色もしくは変色が著しく、商品として非常に不可なものを1点とした。
【0034】
予備試験結果を下記表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
上記の結果から、保存中の退色や変色を防ぐ効果がある糖類としては、ラクトース、マルトース及びマルトースを多く含む麦芽水飴が好ましいことがわかった。逆にフルクトース、スクロースが保存中の変色を促進する可能性が高いことがわかった。その他の糖類については、保存中の変色がある程度進むが、フルクトースやスクロースと比較して変色の度合いが少なく、麦芽水飴(固形分含量75%、糖組成マルトース33重量%)の結果から、ラクトースやマルトースが多く含まれていれば、ある程度の他の糖類が含まれていたとしても保存中の退色や変色への影響は少ないものと考えられた。また、還元性を示さないスクロース、トレハロース、ソルビトール及び還元水飴を用いた場合も保存中の変色を示す可能性があることからメーラード反応だけが保存中の変色の原因でないことが示唆された。
【0037】
<実験1>糖含量並びにラクトース又は/及びマルトース含量について
(実施例1−1)
糖類添加を脱水したキャベツ100重量%に対してマルトース4重量%、グルコース6重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は、予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0038】
(実施例1−2)
糖類添加を脱水したキャベツ100重量%に対してマルトース8重量%、グルコース12重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は、予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0039】
(実施例1−3)
糖類添加をキャベツ100重量%に対してマルトース20重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は、予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0040】
(実施例1−4)
糖類添加をキャベツ100重量%に対してラクトース4重量%、グルコース6重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は、予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0041】
(実施例1−5)
糖類添加をキャベツ100重量%に対してラクトース8重量%、グルコース12重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は、予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0042】
(実施例1−6)
糖類添加をキャベツ100重量%に対してラクトース20重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は、予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0043】
(実施例1−7)
糖類添加をキャベツ100重量%に対してラクトース4重量%、マルトース4重量%、グルコース12重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は、予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0044】
(実施例1−8)
糖類添加をキャベツ100重量%に対して麦芽水飴(マルトース含量33重量%)30重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は、予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0045】
(比較例1−1)
糖類添加をキャベツ100重量%に対してマルトース3重量%、グルコース7重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0046】
(比較例1−2)
糖類添加をキャベツ100重量%に対してマルトース4重量%、グルコース4重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0047】
(比較例1−3)
糖類添加をキャベツ100重量%に対してラクトース3重量%、グルコース7重量%とし、糖類を十分混合した後、25℃で1時間静置して浸透させる以外は予備試験の方法に従って乾燥キャベツサンプルを作製した。
【0048】
各乾燥キャベツサンプルの全糖量、糖含量を分析した。尚、実施例1−8以外は、添加する糖類が2糖以下のため、HPLC法で各糖を個別分析した後、積算して全糖量を算出した。また、実施例1−8については、HPLC法にてマルトース含量を測定するとともに、全糖量は、フェノール硫酸法で測定した。また、予備試験で行った劣化試験についての外観評価に加えて、乾燥中及び乾燥後のキャベツの壊れにくさについても評価を行った。乾燥中の柔軟性、乾燥後の硬さ、強度に優れ、壊れにくく非常に良好なものを◎、乾燥中の柔軟性、乾燥後の硬さ、強度もあり、壊れにくさについては概ね良好なものを○、乾燥中の柔軟性、乾燥後の硬さ、強度に欠け、壊れやすいものを△、乾燥中の柔軟性、乾燥後の硬さ、強度に著しく欠け、著しく壊れやすいものを×とした。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
壊れやすさについては、全糖量が55重量%以上であれば、全糖量が高いほど良好であり、特に65重量%以上であると非常に良好であることがわかる。また、全糖量が55重量%未満であると、壊れやすくなるだけでなく、マルトースを含んだとしても変色しやすくなることがわかる。マルトース又は/及びラクトース含量が10重量%以上含まれ、且つ全糖量が55重量%以上であると保存中の変色が抑えられることが示された。
【0051】
また、マルトースの方が、ラクトースより保存中の色調の変化を抑えることができるが、糖がべたつきやすく、ラクトースを添加することで、糖によるベタツキが押させられるため、併用することにより製品の製造適性がよくなる。ラクトースは独特の甘味を有するため、マルトースを主体として、製造適性を改善するためにラクトースを添加することが好ましい。
【0052】
<実験2>pH調整及びマグネシウム塩添加について
(実施例2−1)
98℃の熱湯、2分間ブランチング処理し、乾燥後の乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは7.0とする以外は、実施例1−7の方法に従って乾燥キャベツサンプルを製造した。
【0053】
(実施例2−2)
0.05%重曹水溶液で98℃、2分間ブランチング処理し、乾燥後の乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは7.2とする以外は、実施例1−7の方法に従って乾燥キャベツサンプルを製造した。
【0054】
(実施例2−3)
0.15%重曹水溶液で98℃、2分間ブランチング処理し、乾燥後の乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは7.8とする以外は、実施例1−7の方法に従って乾燥キャベツサンプルを製造した。
【0055】
(実施例2−4)
0.30%重曹水溶液で98℃、2分間ブランチング処理し、乾燥後の乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは8.0とする以外は、実施例1−7の方法に従って乾燥キャベツサンプルを製造した。
【0056】
(実施例2−5)
糖類添加時に炭酸マグネシウム塩を脱水後のキャベツの重量に対して0.1重量%添加し、乾燥後の乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは7.7とする以外は、実施例1−7の方法に従って乾燥キャベツサンプルを製造した。
【0057】
(実施例2−6)
98℃の熱湯、2分間ブランチング処理し、糖類添加時に炭酸マグネシウム塩を脱水後のキャベツの重量に対して0.1重量%添加し、炭酸ナトリウムを0.1重量%添加することで乾燥後の乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは7.5とする以外は、実施例1−7の方法に従って乾燥キャベツサンプルを製造した。
【0058】
(比較例2−1)
0.05%クエン酸水溶液で98℃、2分間ブランチング処理し、乾燥後の乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは6.5とする以外は、実施例1−7の方法に従って乾燥キャベツサンプルを製造した。
【0059】
(比較例2−2)
0.50%重曹水溶液で98℃、2分間ブランチング処理し、乾燥後の乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは8.5とする以外は、実施例1−7の方法に従って乾燥キャベツサンプルを製造した。
【0060】
また、予備試験で行った劣化試験についての外観評価を実験2でも同様に行った。結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
ブランチング時にアルカリ側にpHを調整することでブランチング時の退色を抑えられるが、乾燥後の20倍希釈のpHを8よりも高くすると強制劣化時の変色が進む。逆にブランチング時に酸性側にpHを調整し、乾燥後の20倍希釈のpHを7未満とするとブランチング時及び乾燥時に退色が進む。従って、乾燥後の20倍希釈のpHが、7〜8、さらに好ましくは7.2〜7.8となるようにブランチング処理又は糖類添加時にpH調整を行うことが好ましい。
【0063】
また、ブランチング後の糖添加時にマグネシウム塩を添加し、必要によりpHを調整することにより、乾燥後の緑色の色調がより鮮やかになり、強制劣化後も色調が維持される。