特許第6695235号(P6695235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6695235(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルの製造方法、及び該製造方法で得られる(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルを用いた4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695235
(24)【登録日】2020年4月23日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルの製造方法、及び該製造方法で得られる(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルを用いた4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C07D 211/46 20060101AFI20200511BHJP
   C07D 401/12 20060101ALI20200511BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200511BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALN20200511BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20200511BHJP
   A61P 37/08 20060101ALN20200511BHJP
【FI】
   C07D211/46
   C07D401/12
   !C07B61/00 300
   !A61K31/4545
   !A61P43/00 113
   !A61P37/08
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-156286(P2016-156286)
(22)【出願日】2016年8月9日
(65)【公開番号】特開2018-24593(P2018-24593A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】関 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 博将
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0116082(KR,A)
【文献】 特開平02−025465(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/081752(WO,A1)
【文献】 国際公開第02/050057(WO,A1)
【文献】 米国特許第06001854(US,A)
【文献】 特表2001−500107(JP,A)
【文献】 HUAXUE SHIJI,2008年,30(2),pp.145-146
【文献】 Collection Czechoslov. Chem. Commun.,1967年,32,pp.3909-3916
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07B
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−ヒドロキシピリジンと、下記式(1)
【化1】
(式中Xはハロゲン原子、Rは炭素数1〜3のアルキル基、aは1〜5の整数である)
で示されるハロゲン化アルキルカルボン酸エステルとを触媒及び水素の存在下反応させて、下記式(2)
【化2】
(式中、Rおよびaは前記式(1)におけるものと同義である)
で示される(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルを得ることを特徴とする、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記式2におけるRが炭素数2のアルキル基であり、且つ前記式2におけるaが3である、請求項1記載の(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
請求項1における触媒がNi系触媒である、請求項1又は2記載の(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の製造方法で(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルを得、次いで、得られた(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルと、下記式(3)
【化3】
(式中、Xはハロゲン原子または活性エステル基である)
とを塩基の存在下反応させることを特徴とする、4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベポタスチンの製造原料として用いられる(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルの新規な製造方法、及び該製造方法で得られた(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルを用いたベポタスチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸(以下、「ベポタスチン」とも言う。)は、以下の構造を持ち、周知の抗ヒスタミン活性及び抗アレルギー活性を有する治療薬である。ベポタスチンは下記式のとおり、ベンゼンスルホン酸塩として用いられている。
【0003】
【化1】
【0004】
前記ベポタスチンは、以下の合成経路で製造する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
【化2】
【0006】
このような治療薬として有用なベポタスチンは、光学異性体を有するが、特に有用であるのは(S)型異性体であると言われており、その効率的な製造方法が検討されている。例えば特許文献2では、以下の合成経路で示されるとおり、(4−クロロフェニル)−2−ピリジニルメタノンを不斉還元した後に、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブチル酸エチルエステルの金属アルコラートを反応させることにより、ベポタスチンの(S)型異性体のフリー体を製造する方法が示されている。
【0007】
【化3】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−25465号公報
【特許文献2】韓国特許公開10−2012−0116082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2記載の方法は、(4−クロロフェニル)−2−ピリジニルメタノンから誘導されるスルホン酸エステル体と(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルとの反応によってベポタスチンを得るものであり、ベポタスチンの効率的な製造方法であり、該合成経路において、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルは重要な原料である。この(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルを含む、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキル酸エチルエステルの製造方法としては、塩基の存在下4−ヒドロキシピペリジンと、ブロモアルキル酸エチルエステルとの反応によって製造されるが、4−ヒドロキシピペリジンが比較的高価であること、上記反応による収率の点で尚改善の余地があり、工業的に効率的な製造方法が望まれていた。
【0010】
従って本発明の目的は、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキル酸エチルエステルを安価な原料を用いてより簡便な方法で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。ブロモアルキル酸エチルエステルと反応させる基質として窒素原子の反応性が高いピリジンに着目し、4−ヒドロキシピリジンとハロゲン化アルキル酸エチルエステルとの反応を検討した結果、塩基を存在させることなく、上記反応が選択的に進行することを確認した。そこで、さらに、得られた4−ヒドロキシ−1−ピリジノアルキル酸エチルエステルの接触水素還元についても検討を行った結果、驚くべきことに特定の触媒の存在下で水添圧力及び反応温度を下げることが可能であること、さらに、4−ヒドロキシピリジンと、ハロゲン化アルキル酸エチルエステルとを触媒及び水素の存在下反応させることで、一段階の反応より、目的物である(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキル酸エチルエステルが高収率で得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
4−ヒドロキシピリジンと、下記式(1)
【0013】
【化4】
【0014】
(式中Xはハロゲン原子、Rは炭素数1〜3のアルキル基、aは1〜5の整数である)
で示されるハロゲン化アルキルカルボン酸エステルとを触媒及び水素の存在下反応させて、下記式(2)
【0015】
【化5】
【0016】
(式中、Rおよびaは前記式(1)におけるものと同義である)
で示される(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルを得ることを特徴とする、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルの製造方法である。
【0017】
本発明においては、さらに以下の態様が好適に採り得る。
1)前記式2におけるRが炭素数2のアルキル基、及びaが3であること。
2)請求項1における触媒がNi系触媒であること。
【0018】
さらに本発明の別の発明は、上記製造方法(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルを得、次いで、得られた(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルと、(3)



【0019】
【化6】
【0020】
(式中、Xはハロゲン原子または活性エステル基である)
とを塩基の存在下反応させることを特徴とする、4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によれば、比較的安価な4−ヒドロキシピリジンを用いて、一段階の反応で、高収率で効率良く(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルを得ることができる。
【0022】
さらに本発明で得られた(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルを用いることにより、ベポタスチンを容易に製造することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の製造方法は、4−ヒドロキシピリジンと、ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルとを触媒及び水素の存在下反応させることが特徴である。この方法により、一段階の反応で、高収率で、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルを得ることができる。本発明の方法によって、高収率で(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルを得られる理由について詳細は明らかではないが、本発明者らは、以下のように推測している。即ち、本発明の製造方法では、ピリジン環の接触水素還元反応と、ピリジン環の窒素原子へのアルキルカルボン酸エステルの付加反応(4級化反応)の2つの反応が考えられる。一般に水素を用いた接触水素還元反応と4級塩の形成反応とを比べると、反応速度は4級塩化反応の方が早い。このため本発明の製造方法においては、(4−ヒドロキシ)−1−ピリジニウムアルキルカルボン酸エステルが中間体として生成した後、接触水素還元反応により目的の(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルが製造されていると考えられる。ここで、4−ヒドロキシピリジンにおけるハロゲン化アルキルカルボン酸エステルの反応点としては、ピリジン環の窒素原子の他に、水酸基が考えられるが、ピリジン環の窒素原子の反応性が高いために、水酸基を保護することなく、選択的に4級化反応が進行するものと推測される。さらに、ピリジン環が4級化されることで、ピリジン環の電子密度が低くなり、ピリジン環の還元反応性が向上するため、高収率でピリジン環の接触水素還元反応も進行するものと推測される。
以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0024】
(ハロゲン化アルキルカルボン酸エステル)
本発明の製造方法に用いるハロゲン化アルキルカルボン酸エステルは、
下記式(1)
【0025】
【化7】
【0026】
(式中Xはハロゲン原子、Rは炭素数1〜3のアルキル基、aは1〜5の整数である)
で示される。
【0027】
上記式(1)中、Xはハロゲン原子であり、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、工業的な入手のし易さ、反応性の点から、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましい。また、式中Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。中でも、工業的な入手のし易さ、後工程の反応(脱エステル化)のし易さ等を考慮すると、Rはメチル基又はエチル基であることが好ましい。またaは1〜5の整数であるが、反応の進行しやすさから2〜3が好ましい。上記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルの中でも、ベポタスチン製造において用いられる点から、Xが臭素原子、Rがエチル基、aが3である、ブロモブチル酸エチルエステルを用いることが特に好ましい。
【0028】
上記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルの使用量は、4−ヒドロキシピリジンと反応させるために十分な量を用いれば良く、特に制限されるものではない。反応収率の点、或いは精製が容易であるとの観点から4−ヒドロキシピリジン1モルに対して、前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルを0.8〜5モル使用することが好ましく、さらに1〜2モル使用することが好ましい。
【0029】
(触媒)
本発明の製造方法における触媒とは、接触水素還元触媒である。接触水素還元触媒を具体的に例示すると、ラネーニッケル等のNi系;Pd/C等のPd系;PtO2、Pt/C等のPt系;Ru/C等のRu系等の不均一系接触還元触媒、ウイルキンソン触媒等の金属と配位子との錯体を用いた均一系接触還元触媒を挙げることが出来る。これらの中でも安価で収率も高いことから不均一系接触還元触媒が好ましく、特に価格の点からNi系触媒、さらにはラネーニッケルが特に好ましい。これらの触媒は一種類でも複数の触媒を組み合わせて使用しても良いが、工業的に優位な点から一種類の触媒を用いることが好ましい。
【0030】
触媒の使用量は、接触水素還元反応が十分に進行する程度使用すれば良く、特に制限されるものではない。反応収率の観点から4−ヒドロキシピリジン1質量部に対して、触媒を0.001〜1質量部使用することが好ましく、さらに0.01〜0.2質量部使用することが好ましい。
【0031】
(水素)
本発明の製造方法では、水素の存在下で製造を行う。この時に水素源としては、反応系に直接水素を供給する他に、触媒の存在下において分解して水素を発生させる化合物を存在させて反応系で水素を発生させるものであってよい。触媒の存在下において水素を発生させる化合物として具体的には、ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム等のギ酸塩等が挙げられる。
【0032】
接触還元反応時の圧力は、特に制限されるものではなく用いる触媒によって適宜選択すればよい。例えば触媒として、Ni系触媒を用いた場合には反応促進の観点から好ましくは9.8×10〜9.8×10Paの範囲で、特に好ましくは2.9×10〜4.9×10Paの範囲で製造を行うことが好ましい。また、触媒としてPd系触媒を用いた場合には反応促進の観点から好ましくは9.8×10〜4.9×10Paの範囲で、特に好ましくは2.9×10〜2.0×10Paの範囲で製造を行うことが好ましい。或いは、触媒としてPt系触媒を用いた場合には反応促進の観点から好ましくは9.8×10〜4.9×10Paの範囲で、特に好ましくは9.8×10〜9.8×10Paの範囲で製造を行うことが好ましい。
【0033】
また、触媒の存在下において分解して水素を発生させる化合物を用いる場合には、4−ヒドロキシピリジン1モルに対して、1〜100モルの水素が発生するように該化合物を用いれば良い。
【0034】
(反応溶媒)
本発明の製造方法においては、溶媒を用いずに反応を行うことも可能であるが、局所的な反応を抑制し、反応を円滑に進めるために反応溶媒を用いることが好ましい。本発明の製造方法に用いる反応溶媒としては、接触水素還元反応に一般に用いられる溶媒を用いることが出来る。例示すれば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、シロクヘキサノール等のアルコール類;ヘキサン、ペプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;酢酸、ジオキサン、水等を挙げることができる。これら溶媒は、単独溶媒であっても、複数の溶媒の混合物であってもよい。
【0035】
反応溶媒の使用量は、反応が進行するに十分な量を用いれば良く、特に制限されるものではない。反応収率の点、或いは操作性の観点から、4−ヒドロキシピリジン1質量部に対して、溶媒を1〜100質量部使用することが好ましく、さらに5〜20質量部使用することが好ましい。
【0036】
(その他の添加剤)
本発明において、前記4級化反応が遅い場合には、ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルの反応性を向上させる目的でハロゲン化合物を添加することができる。具体的には、臭化カリウム、臭化セシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム等の無機塩、テトラブチルアンモニウムヨージド、トリオクチルメチルアンモニウムヨージド等のアンモニウムカチオンを有する塩等を挙げることができる。また前記接触還元反応を促進させるためには、酸、アルカリ、無機金属化合物等の助触媒を適宜添加することが出来る。
【0037】
(反応条件)
本発明の製造方法では、4−ヒドロキシピリジンと、前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルとを触媒及び水素の存在下反応させる。反応方法については、触媒及び水素の存在下、4−ヒドロキシピリジンと前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステルとを接触させればよい。すなわち、反応容器内に4−ヒドロキシピリジン、前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステル、及び触媒を添加した後、さらに水素をガス配管等より継続的に供給しても良いし、あるいは、反応容器内に4−ヒドロキシピリジン、前記ハロゲン化アルキルカルボン酸エステル、及び、触媒の存在下において分解して水素を発生させる化合物を添加した後、触媒を添加し反応を開始させても良い。また、反応を効率的に進めるために、反応系内を攪拌混合することが好ましい。
【0038】
本発明の製造方法における反応温度は、特に制限されるものではなく用いる触媒によって適宜選択すればよいが、室温以上、250℃以下であることが好ましい。反応時間は、水素の供給量、反応温度によって異なるが、通常1時間〜24時間で十分である。反応の終結は、薄層クロマトグラフィー(TLC)等により、4−ヒドロキシピリジンの消費量を確認して決定すればよい。
【0039】
このような本発明の製造方法によって、下記式(2)
【0040】
【化8】
【0041】
(式中、Rおよびaは前記式(1)におけるものと同義である)
で示される(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルが得られる。前述のとおり、ベポタスチンの製造原料として有益であるとの観点から、上記式(2)におけるaが3である、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルが好ましい。
【0042】
(ピペリジノアルキルカルボン酸エステルの精製方法)
上記本発明の製造方法で得られた、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルは、ろ過等の操作によって触媒等を除去した後、そのまま、所望の目的に使用することもできるが、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルを精製した後、所望の目的に使用することもできる。(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルの精製方法としては、公知の方法が採用できる。具体的には、上記反応終了後、触媒を除去した後の反応溶液をアルカリ溶液、水等で洗浄し、反応溶媒を除去した後、公知の精製手段(再結晶、洗浄、カラム分離)により精製する方法が挙げられる。
【0043】
このようにして得られた、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノアルキルカルボン酸エステルは、例えばベポタスチンの合成原料等に用いることができる。以下、本発明の製造方法によって得られた、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルを用いた、ベポタスチンの製造方法について説明する。
【0044】
(4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸(ベポタスチン)の製造方法)
前記製造方法で得られる(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルと、下記式(3)
【0045】
【化9】
【0046】
(式中、Xはハロゲン原子または活性エステル基である)
で示される2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物とを塩基の存在下、エーテル化反応をさせることにより、4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸を製造することができる。
【0047】
(2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物)
本発明の製造方法に用いる前記式(3)で示される化合物において置換基Xは、塩基存在下、前記2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物と(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブチル酸エチルエステルとが反応する際に脱離し、4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸が得られる置換基であればよい。置換基Xとしては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子といったハロゲン原子、メシル基、トシル基、硫酸エステル基、アセチル基といった活性エステル基を挙げることが出来る。これらの置換基の中で、合成が容易であることから塩素原子が好ましい。
【0048】
前記式(3)で示される2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物は、公知の方法で製造することができる。例えば、特許文献(国際公開92/06971号パンフレット)に記載の方法に従い製造することができる。
【0049】
(塩基)
本発明の製造方法に用いる塩基とは水と接触させたときに水酸化物イオン(OH)を出す物質のことを示す。塩基としては、特に制限されるものではなく、公知の塩基を使用することができる。具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム等の無機炭酸塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド類;金属ナトリウム、金属カリウム等のアルカリ金属;水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化物;トリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族三級アミン化合物;ピリジン、4−N,N−ジメチルアミノピリジン等の芳香族三級アミン化合物等を挙げることができる。これらの中でも、反応が進みやすいことから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸カリウム、炭酸セシウム等の無機炭酸塩を使用するのが好適である。
【0050】
上記塩基の使用量は、反応が進行するに十分な量を用いれば良く、特に制限されるものではないが、前記式(3)で示される2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物1モルに対して、0.5〜10モルとすることが好ましく、1〜3モルとすることがさらに好ましい。
【0051】
(反応溶媒)
本発明の製造方法においては、反応を円滑に進めるために反応溶媒を用いることが好ましい。反応溶媒として具体的には、水;メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、1−ブチルアルコール等の炭素数1〜6のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホキシドを例示することができる。これらの中でも、原料化合物の溶解性が高いことからアミド類、ジメチルスルホキシドを使用することが好ましい。また、反応溶媒として、複数の溶媒を組み合わせて使用する事も出来る。
【0052】
反応溶媒の使用量は、反応が進行するに十分な量を用いれば良く、特に制限されるものではない。反応収率の点から前記式(3)で示される2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物1質量部に対して、反応溶媒を1〜100質量部となる範囲で使用することが好ましく、さらに5〜30質量部となる範囲で使用することが好ましい。
【0053】
(反応条件)
本発明において、原料化合物の使用量は、反応が進行するに十分な量を用いれば良く、特に制限されるものではない。反応収率の点から、前記式(3)で示される2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物1モルに対して、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルを0.8〜5モルの範囲で使用することが好ましく、さらに1〜2モルの範囲で使用することが好ましい。
【0054】
また、本発明の製造方法における、前記2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステル、及び塩基の添加方法は特に制限されない。また、反応を円滑に進行させるために、反応中は攪拌混合させることが好ましい。反応方法として具体的には、反応溶媒で希釈した前記2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物、反応溶媒で希釈した(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステル、及び反応溶媒で希釈した塩基を同時に反応装置に投入して、攪拌混合を行う方法;反応溶媒で希釈した(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブチル酸エチルエステル及び塩基を反応装置内に投入し、攪拌混合しながら、前記2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物を反応装置に添加する方法;反応装置に投入した前記2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステル、及び塩基の混合物に反応溶媒を加えて混合撹拌する方法等が挙げられる。また、前記2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物、(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステル、塩基のいずれかを撹拌混合する段階では一部を添加し、反応中に残量を追加で反応系に追加してもよい。
【0055】
本発明の製造方法において反応温度は、特に制限されるものではないが、0℃以上反応混合物の還流温度以下の範囲が好ましく、25℃以上80℃以下の範囲がさらに好ましい。また、反応時の雰囲気も、特に制限されるものではなく、空気雰囲気下、窒素雰囲気下の何れであってもよい。反応時の圧力も、加圧下、大気圧下、減圧下の何れであってもよい。このような条件下で、反応時間は、原料化合物の消費状態を確認して適宜最適時間を決めればよいが、通常であれば、1〜24時間程度である。
【0056】
以上のような条件で前記2−[(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン化合物と(4−ヒドロキシ)−1−ピペリジノブタン酸エチルエステルとを反応させることにより、4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸(ベポタスチン)を製造することができる。
【0057】
上記本発明の製造方法で得られた、4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸は、そのまま、所望の目的に使用することもできるが、4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸を精製した後、所望の目的に使用することもできる。4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸の精製方法としては、公知の方法が採用できる。具体的には、上記反応終了後の反応溶液をアルカリ溶液、水等で洗浄し、反応溶媒を除去した後、公知の精製手段(再結晶、洗浄、カラム分離)により精製する方法が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0059】
実施例1 (4−ヒドロキシ)−4−ピペリジノブタン酸エチルエステルの製造方法(Ni系触媒)
4−ヒドロキシピリジン9.5g(0.10mmol)、4−ブロモ酪酸エチルエステル19.5g(0.10mol)、ラネーニッケル触媒1g、エタノール80mlを300ml容オートクレーブに入れ、容器内を水素で置換した。容器内に水素ガスを導入しながら、反応器を撹拌しながら220℃に加熱し、水素圧4.9×10Paにて12時間反応を行った。反応器を放冷後、TLCにて4−ヒドロキシピリジンの消失を確認した。触媒をろ別して得られた反応液を濃縮した。残渣に水100mlを加え、酢酸エチル60mlで抽出し、有機層を乾燥、濃縮した。得られた固形物を減圧乾燥後、(4−ヒドロキシ)−4−ピペリジノブタン酸エチルエステル17.7g得た(0.082mmol、収率82%)。H−NMR(CDCl):1.2(3H)、1.8−2.2(4H)、2.3−2.8(10H)、3.4(1H)、4.0(2H).
【0060】
実施例2 (4−ヒドロキシ)−4−ピペリジノブタン酸エチルエステルの製造方法(Pd/C触媒)
4−ヒドロキシピリジン9.5g(0.10mol)、4−ブロモ酪酸エチルエステル21.5g(0.11mol)、5%Pd/C触媒0.5g、エタノール80mlを300ml容オートクレーブに入れ、容器内を水素で置換した。容器内に水素ガスを導入しながら、反応器を撹拌しながら100℃に加熱し、水素圧4.9×10Paにて9時間反応を行った。反応器を放冷後、TLCにて4−ヒドロキシピリジンの消失を確認した。触媒をろ別して得られた反応液を濃縮した。残渣に水100mlを加え、酢酸エチル60mlで抽出し、有機層を乾燥、濃縮した。得られた固形物を減圧乾燥後、(4−ヒドロキシ)−4−ピペリジノブタン酸エチルエステルを18.3g得た(85mmol、収率85%)。
【0061】
実施例3 ベポタスチンの製造方法
300mlナスフラスコに、2−[クロロ(4−クロロフェニル)メチル]ピリジン10g(42mmol)、(4−ヒドロキシ)−4−ピペリジノブタン酸エチルエステル9.9g(42mmol)、ジメチルスルホキシド100mlを入れ窒素雰囲気下、室温で撹拌しながら、水酸化カリウム4.7g(82mmol)を加えた。その後、60℃に昇温し5時間を行ったのち、TLCにて2−[クロロ(4−クロロフェニル)メチル]ピリジンの消失を確認した。放冷後、ジメチルスルホキシドを留去し、塩化メチレン、水を加えた後1N塩酸を加えて中和した。水層を分離後、有機層を濃縮し4−[4−[(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ]ピペリジノ]ブタン酸を14.3g(37mmol、収率87%)得た。
【0062】
参考例1 (4−ヒドロキシ)−4−ピペリジノブタン酸エチルエステルの製造方法(4−ヒドロキシピペリジン原料)
500mlフラスコに4−ヒドロキシピペリジン10.1g(0.10mmol)、4−ブロモ酪酸エチルエステル19.5g(0.10mol)、炭酸カリウム27.6g、ヨウ化カリウム0.5g、メチルイソブチルケトン200mlを入れ24時間加熱還流した後、TLCにて4−ヒドロキシピペリジンの消失を確認した。放冷後、水100mlを加え、酢酸エチル60mlで抽出し、有機層を乾燥、濃縮した。得られた固形物を減圧乾燥後、(4−ヒドロキシ)−4−ピペリジノブタン酸エチルエステルを15.5g得た(0.072mmol、収率72%)。