特許第6695259号(P6695259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6695259複合成形体及びその製造方法、並びに複合成形体製造用金型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695259
(24)【登録日】2020年4月23日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】複合成形体及びその製造方法、並びに複合成形体製造用金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20200511BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20200511BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20200511BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B29C45/27
   B29L9:00
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-211799(P2016-211799)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-69563(P2018-69563A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 広隆
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−130463(JP,A)
【文献】 特開2016−068531(JP,A)
【文献】 特開平08−156138(JP,A)
【文献】 特開2001−129848(JP,A)
【文献】 特開2000−000827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層部材の存在下、第1の樹脂組成物を射出成形して前記内層部材の少なくとも一部を覆う外層を形成し、前記内層部材からなる内層と前記外層とを有する複合成形体を得る外層形成工程を有し、
前記複合成形体の少なくとも一部の肉厚が5.0mm以上であり、
前記内層部材が、互いに反対側を向く面1a及び面1bを少なくとも一つ有し、
前記外層形成工程において、前記外層の樹脂注入口の痕跡が形成される面2aが前記面1aの少なくとも一部を覆い、前記面2aと反対側を向く面2bが前記面1bの少なくとも一部を覆い、かつ、前記面2aと該面2aに最も近い前記面1aとの距離をaとし、前記面2bと該面2bに最も近い前記面1bとの距離をbとした場合に、a及びbが、以下の式I〜IIIを満たすように、外層が形成されることを特徴とする、複合成形体の製造方法。
1.2≦b/a≦2.0 ...I
0.5mm≦a≦2.0mm ...II
0.6mm≦b≦3.0mm ...III
【請求項2】
前記外層形成工程の後に、前記複合成形体の寸法調整を行わない、請求項1に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項3】
前記外層形成工程の前に、第2の樹脂組成物を射出成形して、前記内層部材を形成する内層形成工程を有する、請求項1又は2に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の樹脂組成物及び前記第2の樹脂組成物が、熱融着性を有する、請求項3に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の樹脂組成物及び前記第2の樹脂組成物が、結晶性熱可塑性樹脂を含有する、請求項3又は4に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項6】
前記第2の樹脂組成物が無機充填剤を含有し、前記第1の樹脂組成物が繊維状無機充填剤を含有しない、請求項3から5のいずれか一項に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項7】
内層と、該内層の少なくとも一部を覆い第1の樹脂組成物を含む外層とを有する複合成形体であって、
少なくとも一部の肉厚が5.0mm以上であり、
前記内層が、互いに反対側を向く面1a及び面1bを少なくとも一つ有し、
前記外層が、樹脂注入口の痕跡を有する面2a及び該面2aと反対側を向く面2bを有し、
前記面2aが前記面1aの少なくとも一部を覆い、前記面2bが前記面1bの少なくとも一部を覆い、かつ、前記面2aと該面2aに最も近い前記面1aとの距離をaとし、前記面2bと該面2bに最も近い前記面1bとの距離をbとした場合、a及びbが以下の式I〜IIIを満たすことを特徴とする、複合成形体。
1.2≦b/a≦2.0 ...I
0.5mm≦a≦2.0mm ...II
0.6mm≦b≦3.0mm ...III
【請求項8】
前記内層が第2の樹脂組成物を含む、請求項7に記載の複合成形体。
【請求項9】
複合成形体製造用金型であって、
内層部材の存在下、第1の樹脂組成物を射出成形して前記内層部材の少なくとも一部を覆う外層を形成するための外層形成用金型を有し、
前記外層形成用金型は、樹脂注入口を通して第1の樹脂組成物が充填される空洞部と、該空洞部内に前記内層部材を保持する保持部と、を有し、
前記空洞部の少なくとも一部の幅が5.0mm以上であり、
前記内層部材が、互いに反対側を向く面1a及び面1bを少なくとも一つ有し、
前記保持部は、得られる前記外層の樹脂注入口の痕跡が形成される面2aが前記面1aの少なくとも一部を覆い、前記面2aと反対側を向く面2bが前記面1bの少なくとも一部を覆う位置であって、かつ前記面2aと該面2aに最も近い前記面1aとの距離をaとし、前記面2bと該面2bに最も近い前記面1bとの距離をbとした場合に、a及びbが、以下の式I〜IIIを満たす位置に前記内層部材を保持することを特徴とする、複合成形体製造用金型。
1.2≦b/a≦2.0 ...I
0.5mm≦a≦2.0mm ...II
0.6mm≦b≦3.0mm ...III
【請求項10】
前記保持部が、前記内層部材の位置を変更可能とするように構成されている、請求項9に記載の複合成形体製造用金型。
【請求項11】
第2の樹脂組成物を射出成形して前記内層部材を形成するための内層形成用金型を有する、請求項9又は10に記載の複合成形体製造用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形体及びその製造方法、並びに複合成形体製造用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車部品、電気電子部品又は筐体等の種々の樹脂製品を製造する方法として、射出成形法が知られている。射出成形法は、樹脂を溶融状態にして、スプル、ランナー及びゲートを通して、空洞部を有する金型内に射出充填することにより所望の形状に成形する方法であり、低コストで樹脂製品を製造することができるため広く用いられている。
しかしながら、樹脂は溶融状態から冷却されて固化する際に収縮するため、射出成形法で得られた成形体には凹みや穴などのヒケが生じる場合がある。そのため、射出成形法では、ヒケを防いで寸法精度良く成形体を得るための工夫が必要となる。例えば、樹脂の収縮率を見込んで金型を設計したり、射出時の圧力を上げて金型への樹脂の充填量を高くして収縮を起こりにくくしたり、無機充填剤を添加して樹脂の収縮の影響を抑える等の工夫がなされている。特に、厚肉部分を有する成形体を得る場合は、厚肉部分を構成する樹脂の使用量が多いことで収縮の絶対量も大きくなるため、寸法精度良く成形体を得ることがさらに難しくなる。そこで、厚肉部分を有する成形体の寸法精度を向上させるための方法として、内層を一次成形しその周囲に薄肉の外層を二次成形する二段階の射出成形(二重成形)により厚肉の複合成形体とする技術がある(特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開2016−130463号公報
【特許文献2】特開2007−002690号公報
【特許文献3】特公平07−099341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、厚肉部分を有しかつ寸法精度が高い複合成形体及びその製造方法、並びに複合成形体製造用金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、厚肉部分を有する成形体の寸法精度をより高める方法について検討する過程で、二重成形等の複数回の射出成形を行うことで、各回での成形体、特に最外層の成形体の肉厚が小さくなり、全体的な収縮の絶対量を抑えることができるものの、特に結晶性の熱可塑性樹脂を用いた場合は、外層の成形体における樹脂注入口側の部分とその反対側(樹脂の流動末端側)とが、所望する形状に対し、互いに大きさが違っていたり両端面の平面位置がずれていたりする場合があることを見出した。すなわち、内層部材を外層の成形体で覆うように射出成形する際、外層を構成する樹脂は、金型の樹脂注入口からキャビティ内に射出され、キャビティ内に配置された内層部材に接した後、キャビティと内層部材とがなす空間を内層部材に沿って流動し、内層部材を回り込んで樹脂注入口の反対側(樹脂の流動末端側)に充填されるが、特にその内層部材に接する部分(樹脂注入口側の部分)とその反対側の部分(樹脂の流動末端側の部分)において、所望の寸法精度が得られない場合があることを見出した。さらに研究を進め、外層(二次成形体)に覆われた部分における内層部材(一次成形体)の位置の違いがこれらの寸法精度に影響を与えるとの知見を得た。そして、本発明者は、外層(二次成形体)の厚さが、外層の樹脂注入口側(外層の射出成形に用いる金型の樹脂注入口側)とその反対側(樹脂の流動末端側)とでそれぞれ所定の範囲となり、かつ両者の比率が所定の範囲となる位置に内層部材(一次成形体)を配置することで、結晶性熱可塑性樹脂を用いた場合でも、樹脂注入口側の部分とその反対側の部分の大きさや平面位置に差がでることを防いで寸法精度を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明に係る複合成形体の製造方法は、内層部材の存在下、第1の樹脂組成物を射出成形して前記内層部材の少なくとも一部を覆う外層を形成し、前記内層部材からなる内層と前記外層とを有する複合成形体を得る外層形成工程を有し、前記複合成形体の少なくとも一部の肉厚が5.0mm以上であり、前記内層部材が、互いに反対側を向く面1a及び面1bを少なくとも一つ有し、前記外層形成工程において、前記外層の樹脂注入口の痕跡が形成される面2aが前記面1aの少なくとも一部を覆い、前記面2aと反対側を向く面2bが前記面1bの少なくとも一部を覆い、かつ、前記面2aと該面2aに最も近い前記面1aとの距離をaとし、前記面2bと該面2bに最も近い前記面1bとの距離をbとした場合に、a及びbが、以下の式I〜IIIを満たすように、外層が形成されることを特徴とする。
1.2≦b/a≦2.0 ...I
0.5mm≦a≦2.0mm ...II
0.6mm≦b≦3.0mm ...III
【0006】
本発明において、前記外層形成工程の後に、前記複合成形体の寸法調整を行わないように構成することができる。また、前記外層形成工程の前に、第2の樹脂組成物を射出成形して、前記内層部材を形成する内層形成工程を有するように構成することができる。
【0007】
本発明において、前記第1の樹脂組成物及び前記第2の樹脂組成物が、熱融着性を有することが好ましい。前記第1の樹脂組成物及び前記第2の樹脂組成物が、結晶性熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。前記第2の樹脂組成物が無機充填剤を含有し、前記第1の樹脂組成物が繊維状無機充填剤を含有しないことが好ましい。
【0008】
本発明に係る複合成形体は、内層と、該内層の少なくとも一部を覆い第1の樹脂組成物を含む外層とを有する複合成形体であって、少なくとも一部の肉厚が5.0mm以上であり、前記内層が、互いに反対側を向く面1a及び面1bを少なくとも一つ有し、前記外層が、樹脂注入口の痕跡を有する面2a及び該面2aと反対側を向く面2bを有し、前記面2aが前記面1aの少なくとも一部を覆い、前記面2bが前記面1bの少なくとも一部を覆い、かつ、前記面2aと該面2aに最も近い前記面1aとの距離をaとし、前記面2bと該面2bに最も近い前記面1bとの距離をbとした場合、a及びbが以下の式I〜IIIを満たすことを特徴とする。
1.2≦b/a≦2.0 ...I
0.5mm≦a≦2.0mm ...II
0.6mm≦b≦3.0mm ...III
【0009】
本発明において、前記内層が第2の樹脂組成物を含むことが好ましい。
【0010】
本発明に係る複合成形体製造用金型は、内層部材の存在下、第1の樹脂組成物を射出成形して前記内層部材の少なくとも一部を覆う外層を形成するための外層形成用金型を有し、前記外層形成用金型は、樹脂注入口を通して第1の樹脂組成物が充填される空洞部と、該空洞部内に前記内層部材を保持する保持部と、を有し、前記空洞部の少なくとも一部の幅が5.0mm以上であり、前記内層部材が、互いに反対側を向く面1a及び面1bを少なくとも一つ有し、前記保持部は、得られる前記外層の樹脂注入口の痕跡が形成される面2aが前記面1aの少なくとも一部を覆い、前記面2aと反対側を向く面2bが前記面1bの少なくとも一部を覆う位置であって、かつ前記面2aと該面2aに最も近い前記面1aとの距離をaとし、前記面2bと該面2bに最も近い前記面1bとの距離をbとした場合に、a及びbが、以下の式I〜IIIを満たす位置に前記内層部材を保持することを特徴とする。
1.2≦b/a≦2.0 ...I
0.5mm≦a≦2.0mm ...II
0.6mm≦b≦3.0mm ...III
【0011】
本発明において、前記保持部が、前記内層部材の位置を変更可能とするように構成されていることが好ましい。また、第2の樹脂組成物を射出成形して前記内層部材を形成するための内層形成用金型を有するように構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、厚肉部分を有しかつ寸法精度が高い複合成形体及びその製造方法、並びに複合成形体製造用金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】複合成形体の一例を示す模式図であり、(A)は斜視図、(B)は(A)におけるP−P線断面図である。
図2】複合成形体の製造方法についての概略説明図であり、(A)〜(C)は内層形成工程についての説明図、(D)〜(F)は外層形成工程についての説明図である。
図3】寸法精度の評価方法について説明する模式図であり、(A)は斜視図、(B)は(A)の鉛直線M方向からみた両端面の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
[複合成形体100]
図1に、本実施形態の複合成形体100の模式図を示す。複合成形体100は、図1に示すように、内層部材1からなる内層と外層2とを有する。なお、「寸法精度がよい(優れている、高い)」とは、ここでは、複合成形体に求められる大きさ及び形状等と実際に成形された複合成形体の大きさ及び形状等の差が小さいことを意味している。以下に詳述する本実施形態の複合成形体100は、特に外層の樹脂注入口側(外層形成用金型の樹脂注入口側)とその反対側(樹脂の流動末端側)とで大きさや平面位置がずれてしまうことが抑制されており、寸法精度が従来よりも優れている。
【0016】
(内層部材1)
内層部材1は、複合成形体100の内層を構成するインサート部材である。内層部材1(内層)は、図1(B)に示すように、互いに反対側を向く面1a及び面1bを少なくとも一つ有している。なお、以下において、「面」は平面又は略平面であることが好ましい。「略平面」とは、例えば、平面上に多少の凹凸を有していてもよいことを意味している。内層部材1の形状は、得られる複合成形体100に求められる形状の基礎となるように、複合成形体100の形状と同じ形状とすることができる。例えば、互いに反対側を向く面1a,1bを有する形状としては、円柱状や角柱状の他、上面や下面が階段状に形成されている柱状であってもよい。内層部材1の寸法は、複合成形体100に求められる寸法から後述する外層2の肉厚を差し引いた大きさとする。
【0017】
内層部材1の材質やその製造方法は特に限定されないが、軽量化やコストの観点で樹脂組成物を含むことが好ましい。なお、後述する外層2を構成する樹脂組成物(「第1の樹脂組成物」又は「樹脂組成物B」)と区別するため、内層を構成する樹脂組成物を「第2の組成物」又は「樹脂組成物A」という。第2の樹脂組成物(樹脂組成物A)としては、特に限定されないが、射出成形により製造することができる点で、熱可塑性樹脂を含有することが好ましく、得られる複合成形体の強度を高める点で、結晶性熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂(以下、単に「樹脂」ともいう。)としては、射出成形に供することが可能なものであれば、特に限定されず、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。中でも、耐熱性、耐薬品性が優れている点で、ポリフェニレンサルファイド、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物A中、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。
【0019】
樹脂組成物Aは、内層部材1が外層成形に供される樹脂の圧力で変形又は破壊されることを防ぎ、内層部材1自体の成形収縮率や線膨張係数を抑え、さらに最終的な用途において求められる強度を確保するといった目的で、無機充填剤をさらに含有することが好ましい。
【0020】
無機充填剤としては、(ア)外層2の形成段階で内層部材1が変形又は破壊することを防ぐことができる程度の強度及び剛性を有し、(イ)成形収縮率、線膨張係数が小さく、成形完了後、金型から取り出した時の寸法変化が小さく、(ウ)最終的に得られる複合成形体に求められる強度、剛性を達成可能なものであれば特に限定されるものでない。
【0021】
無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ウィスカー繊維、ガラスフレーク、マイカ、タルク等が挙げられる。中でも、無機充填剤は、複合成形体に引張強度や剛性が求められる場合は、それらを好適に高められる点で高強度な炭素繊維であることが好ましい。また、低コストであることが求められる場合は、無機充填剤は、ガラス繊維であることが好ましい。
【0022】
無機充填剤の含有量は、特に制限されるものでないが、上記(ア)〜(ウ)を考慮すると、樹脂組成物A中、5質量%以上90質量%以下であることが好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上75質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
樹脂組成物Aには、必要に応じて、他の添加剤を添加することもできる。他の添加剤としては、酸化防止剤、安定剤、核剤、可塑剤、滑剤、離型剤、耐加水分解性向上剤、流動性改良剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、有機充填剤、金属充填剤、エラストマーや他の樹脂等を挙げることができる。
【0024】
樹脂組成物Aを得る方法は、特に限定されず、上記した熱可塑性樹脂及び必要に応じて無機充填剤やその他の添加剤を、例えば、1軸又は2軸押出機等の溶融混練装置を用いて溶融混練して押出した後、得られた樹脂組成物を粉末、フレーク、ペレット等の所望の形態に加工して得ることができる。
【0025】
内層部材1は、樹脂組成物Aを用いる場合、射出成形、押出成形、圧縮成形等により形成することができ、それらを切削、接着、溶着等したものを用いてもよい。また、金属やセラミックスを用いる場合、鋳型、焼結等で形成し、樹脂組成物Aを用いる場合と同様に切削等したものを用いることができる。樹脂組成物Aを用いる場合の成形条件は、用いる樹脂に応じて適宜設定することができる。内層部材1は、外層2により少なくとも一部が覆われるので、それ自体には多少のヒケや反り等の変形を有していてもよい。なお、内層部材1が、射出成形体である場合は、いずれかの部分に、内層形成用金型の樹脂注入口の痕跡を有している。
【0026】
(外層2)
外層2は、複合成形体100の外層(アウター部材)を構成する射出成形体であり、内層部材1(内層)の少なくとも一部を覆うように形成されている。外層2は、内層部材1の全体を覆うように構成することもできる。外層2は、射出成形体であるので、図1(B)に示すように、いずれかの面に、外層形成用金型の樹脂注入口の痕跡3を少なくとも一つ有している。外層2は、少なくとも、この樹脂注入口の痕跡3を有する面2a(以下、「樹脂注入口側の面2a」又は、単に「面2a」ともいう。)及び該面2aと反対側を向く面2b(以下、「樹脂の流動末端側の面2b」又は、単に「面2b」ともいう。)を有している。樹脂注入口の痕跡3が複数形成される場合は、面2a及び面2bは、複数存在することがある。面2aは内層部材1(内層)の面1aの少なくとも一部を覆い、面2bは内層部材1(内層)の面1bの少なくとも一部を覆っている。面2a及び面2bは、それぞれ、面1a及び面1bの全体を覆っていることが好ましい。
【0027】
外層2が上記構成を有するので、少なくとも面2a及び面2bと、面2a及び面2bを結ぶ少なくとも一つの面とが存在する領域において、内層部材1(内層)及び外層2で構成される厚肉部を形成することができる。このように内層部材1(内層)及び外層2の複数の層で厚肉部分を構成する場合、予め製造しておいた又は別個に射出成形した内層部材1(内層)の周囲に、外層2を薄い厚さで射出成形して複合成形体100を形成することができる。この場合、外層2を構成する樹脂の収縮を少なく抑えることができ、その結果、1層で構成する場合よりも(1回の射出成形で構成する場合よりも)樹脂の収縮の影響を少なくして寸法精度を高めることができる。
【0028】
外層2の厚さについて、「樹脂注入口側の厚さ」及び「樹脂注入口側の反対側の厚さ」、並びに「樹脂注入口側の面2aと樹脂の流動末端側の面2bの間にある面の厚さ」に分けて説明する。
【0029】
まず、外層2の厚さのうち、「樹脂注入口側の厚さ」及び「樹脂注入口側の反対側の厚さ」(面2a側の厚さ及び面2b側の厚さ)は、図1(B)に示すように、外層2の面2aと該面2aに最も近い内層部材1の面1aとの距離をaとし、面2aの反対側の面2bと該面2bに最も近い内層部材1の面1bとの距離をbとした場合、a及びbが以下の式I〜IIIを満たす厚さである。
1.2≦b/a≦2.0 ...I
0.5mm≦a≦2.0mm ...II
0.6mm≦b≦3.0mm ...III
【0030】
「面2aに最も近い面1a」とは、内層部材1が、面1aを複数有している場合において、樹脂注入口側から樹脂の流動末端側に向かう方向で面2aに最も近い位置に形成されている面1aのことを意味している。「面2に最も近い面1b」についても同様である。「距離」は、面2a(又は面2b)から面1a(又は面1b)に垂直に線を引いた場合の最短距離(長さ)である。
【0031】
外層2を構成する樹脂組成物Bは、外層形成用金型の樹脂注入口から射出された後、内層部材1の端面である面1aに接した後、その部分を起点として分流し、内層部材1の周囲を回り込んで、樹脂注入口がある側の反対側で樹脂の流動末端が再び合流することにより、少なくとも面2a及び面2bが内層部材1を覆う外層2を形成する。このとき、樹脂として、後述するように、結晶性熱可塑性樹脂を用いる場合、分子鎖の配向の仕方の違い(特に樹脂組成物Bが繊維状無機充填剤を含む場合は、繊維状無機充填剤の配向の違いも影響する)によって、面2a付近と面2b付近とで、外層の収縮率に差が生じる。理論的には、通常、面2a付近の樹脂は、面2b付近の樹脂よりも収縮率がやや大きくなり、結果として面2a側の部分の寸法(図1(B)のX)が面2b側の部分の寸法(図1(B)のY)よりも若干小さくなる傾向にある。
【0032】
そこで、b/aの値を1.2以上2.0以下(式I)として樹脂注入口側の反対側の厚さbを厚くすることで、あえて、樹脂注入口側の反対側(面2b側)の樹脂の収縮を大きくさせる。その結果、面2b付近の寸法がやや小さくなり面2a側の寸法に近づいてバランスが取れ、寸法精度が向上する。b/aが1.2未満であると、その効果が得られず、分子鎖の配向の仕方の違いにより、樹脂注入口側(面2a側)の寸法Xが小さく、その反対側(面2b側)の寸法Yが大きいままとなってしまう。b/aが2.0を超えると、樹脂注入口側の反対側の厚さが厚くなりすぎて、面2bにヒケが発生してしまう場合がある。
【0033】
面2aの厚さは、上記aの値として、0.5mm以上2.0mm以下(式II)である。aが、0.5mm未満である場合、樹脂注入口側の肉厚が薄くなることで、圧力損失が大きくなり、全体のヒケが出やすくなり、寸法Xと寸法Yの精度が低くなるとともに、得られる複合成形体100の樹脂注入口側の部分と樹脂注入口側の反対側の部分とで、平面視した位置にずれが生じる(円筒度が悪化する)場合がある。
【0034】
面2bの厚さは、上記bの値として、0.6mm以上3.0mm以下(式III)である。bが0.6mm未満である場合、面2bを満たすように樹脂を充填することが困難となり、非常に高圧で樹脂を射出し充填しなければならないため、形状が安定しない。また、内層部材1が歪みを有する場合にその歪みが複合成形体100に残ってしまう場合があり好ましくない。bが3.0mmを超える場合、外層を成形する部分の肉厚が厚すぎてヒケが生じてしまう場合があり好ましくない。
【0035】
以上のように、a,bがI〜IIIを満たすので、樹脂組成物Bに結晶性熱可塑性樹脂を含む場合でも、面2a側の部分の寸法(図1(B)のX)と、面2b側の部分の寸法(図1(B)のY)とに差が生じることを防いで寸法精度をより高めることができる。また、面2a側の部分を平面視した位置と、面2b側の部分を平面視した位置との差(以下、「円筒度」ともいう。)を小さくして寸法精度をさらに高めることができる。なお、寸法X,Yの差(Y−X)は、複合成形体が樹脂注入口側と樹脂の流動末端側とで均一な厚さで成形されているかを判定する指標である。端面2a,2bの平面位置の差(円筒度)は、複合成形体が歪みなく形成されているかを判定する指標である。いずれも、後述する方法により測定することができる。
【0036】
次に、外層2の厚さのうち、「樹脂注入口側の面2aと樹脂の流動末端側の面2bの間にある面の厚さ」は、特に限定されないが、それぞれで略一定であることが好ましい。また、厚すぎると、ヒケ量(肉厚方向の収縮量)が大きくなり、十分に高い寸法精度を得られない可能性があるので、好ましくは、0.5mm以上3.0mm以下である。
【0037】
外層2は、第1の樹脂組成物(以下、「樹脂組成物B」ともいう。)を含む。第1の組成物(樹脂組成物B)としては、特に限定されないが、射出成形により製造することができる点で、熱可塑性樹脂を含有することが好ましく、得られる複合成形体の強度を高める点で、結晶性熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、射出成形に供することが可能なものであれば、特に限定されず、上記内層部材1で述べた熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。中でも、樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとが熱融着する場合、内層部材1と外層2との一体性に優れることから、樹脂組成物B(第1の樹脂組成物)に含まれる樹脂と樹脂組成物A(第2の樹脂組成物)に含まれる樹脂との組合せが、熱融着性の(相溶性を有する)組合せであることが好ましい。
【0039】
特に、(ア)界面での融着性が高まり、内層部材1との熱融着性をよりいっそう高められること、及び(イ)金型温度をはじめとした成形条件として、内層成形での条件と外層成形での条件とで略同じ条件を利用できることから、樹脂組成物Bに含まれる熱可塑性樹脂は、樹脂組成物Aと同じ樹脂を含有することが好ましい。その点で、樹脂組成物Bに含まれる熱可塑性樹脂もまた、ポリフェニレンサルファイド、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物B中、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。
【0040】
樹脂組成物Bは、得られる複合成形体が、摺動する部材として用いられる場合のように、周囲を構成する部材の磨耗が問題となる際には、繊維状無機充填剤を含有しないことが望ましい。繊維状無機充填剤を含有しないことにより、周囲を構成する部材が繊維状無機充填剤によって削られることがない。なお、「繊維状無機充填剤を含有しない」とは、ガラス繊維やカーボン繊維等のアスペクト比が大きい繊維状の無機充填剤を含有しないことをいい、本発明の効果を阻害しない範囲で、タルクやグラファイト等の板状、ガラスビーズや球状グラファイト等の球状の無機充填剤を含有する態様や、寸法精度に大きな影響を及ぼさない範囲でのティスモ等の直径1μm以下の少量の微細繊維を含有する態様を排除するものではない。また、樹脂組成物Bは、必要に応じて、上記した樹脂組成物Aに含むことができるその他の添加剤を含むこともできる。その他の添加剤は、上記したものと同じものを用いることができる。樹脂組成物Bを得る方法についても、上記した樹脂組成物Aと同じである。
【0041】
(複合成形体100)
複合成形体100は、内層部材1からなる内層及び外層2を有し、少なくとも一部の肉厚が5.0mm以上である。複合成形体100は、少なくとも一部の肉厚が8.0mm以上であるように構成することもできる。複合成形体100は、肉厚が5.0mm以上である厚肉部分を有しているにもかかわらず、内層と外層との複数の層で構成されていることに加えて、外層に覆われている内層の位置を適切に調整しているので、寸法精度が従来よりも優れている。
【0042】
[複合成形体100の製造方法]
図2は、複合成形体100の製造方法を示す概略説明図である。本実施形態の複合成形体100の製造方法は、内層部材1の存在下、第1の樹脂組成物(樹脂組成物B)を射出成形して内層部材の少なくとも一部を覆う外層2を形成し複合成形体100を得る外層形成工程(図2(D)〜(F))を有する。内層及び外層2を連続で形成する場合は、外層形成工程の前に、第2の樹脂組成物(樹脂組成物A)を射出成形して内層部材1を形成する内層形成工程(図2(A)〜(C))を有していてもよい。なお、樹脂組成物A,B、内層部材1及び外層2については、上記のとおりであるから、ここでは記載を省略する。以下、内層形成工程、外層形成工程の順に説明する。
【0043】
(内層形成工程)
内層形成工程では、まず、複合成形体100の内層となる内層部材1を成形するための内層形成用金型10を用意する(図2(A))。内層形成用金型10の構成については後述する。そして、内層形成用金型10を取り付けた射出成形機から、内層形成用金型10の樹脂注入口11を通して内層形成用金型10の空洞部12内に樹脂組成物Aを射出充填し、冷却して、内層部材1を形成する(図2(B))。その後、パーティングラインPL1で内層形成用金型10を分割して内層部材1を取り出すことで、内層部材1を得る(図2(C))。射出成形の条件は、用いる樹脂によって適宜選択することができる。
【0044】
(外層形成工程)
外層形成工程では、まず、外層2を成形するための外層形成用金型20を射出成形機に取り付ける(図2(D))。外層形成用金型20の構成については後述する。内層形成工程で得られた内層部材1又は別に準備した内層部材1の、少なくとも一部、好ましくは全体を、外層形成用金型20の空洞部22内に配置し、射出成形機から、外層形成用金型20の樹脂注入口21を通して樹脂組成物Bを外層形成用金型20の空洞部22内に射出充填し、冷却して、内層部材1と一体化した外層2を形成する(図2(E))。射出成形の条件は、用いる樹脂によって適宜選択することができる。その後、パーティングラインPL2で外層形成用金型20を分割して外層2が形成された成形体を取り出すことで、内層部材1からなる内層及び外層2が一体化された複合成形体100を得る(図2(F))。
【0045】
外層形成工程において、外層2の樹脂注入口の痕跡3が形成される面2aが内層部材1の面1aの少なくとも一部を覆い、面2aと反対側を向く面2bが内層部材1の面1bの少なくとも一部を覆うように、かつ、面2aと面2aに最も近い面1aとの距離をaとし、面2bと面2bに最も近い面1bとの距離をbとした場合に、a及びbが、以下の式I〜IIIを満たすように外層2を形成する。
1.2≦b/a≦2.0 ...I
0.5mm≦a≦2.0mm ...II
0.6mm≦b≦3.0mm ...III
【0046】
a,bが上記式I〜IIIを満たすように外層2を形成するので、上記のように、樹脂注入口側の部分及び樹脂注入口側の反対側の部分の寸法及び平面位置に、分子及び/又は充填剤の配向の違いによる差が生じることを防いで寸法精度がよい複合成形体100を得ることができる。
【0047】
(その他の工程)
本実施形態の複合成形体の製造方法は、必要に応じて、さらに金属部品をインサート成形する工程、内層部材及び/又は複合成形体を、切削する工程、他の部材と嵌合及び/又は接着する工程、他の樹脂成形体と溶着する工程等の他の工程を有していてもよい。
【0048】
本実施形態の複合成形体100の製造方法は、予め製造しておいた内層部材1の周りに外層2を射出成形するか、又は、内層が樹脂組成物で構成される場合は、内層形成工程及び外層形成工程を有する複数回の射出成形により複合成形体100を形成するので、厚肉部を有する複合成形体100を形成する場合でも、全体の収縮を抑えて寸法精度を高めることができる。これに加え、外層2に覆われた部分における内層部材1の位置を調整しているので、樹脂注入口側の部分及び樹脂注入口側の反対側の部分の寸法及び平面位置に差が生じることを防いで寸法精度がよい複合成形体100を得ることができる。
【0049】
そのため、本実施形態の複合成形体100の製造方法は、外周面及び端面の旋盤加工をはじめとした後加工による寸法調整を行わなくても、十分な寸法精度を得ることができる。よって、後加工に係るコストを削減できる点で、外層形成工程の後、複合成形体100の寸法調整を行わないことが好ましい。後加工による寸法調整の有無は、例えば、複合成形体100に現れる後加工の跡の有無で確認できる。しかしながら、複合射出成形体100に後加工の跡が形成されていたとしても、後加工前の複合成形体100がすでに好適な寸法精度を有しており、寸法精度が不十分である場合に比べて後加工に係る負担を軽減できるという効果を奏することから、後加工の跡を有する態様が本件発明の技術的範囲から外れるわけではない。
【0050】
[複合成形体製造用金型]
本実施形態の複合成形体製造用金型は、図2(D)に示すように、樹脂組成物Bを含む外層2を射出成形するための外層形成用金型20を有する。複合成形体製造用金型は、さらに、図2(A)に示すように、樹脂組成物Aを含む内層部材1を射出成形するための内層形成用金型10を有していてもよい。樹脂部材A,B、内層部材1及び外層2については、上記のとおりであるから、ここでは記載を省略する。以下、内層形成用金型10、外層形成用金型20の順に説明する。
【0051】
(内層形成用金型10)
内層形成用金型10は、内層部材1の形成用の金型であり、図2(A)に示すように、射出成形機から樹脂注入口11を通して樹脂組成物Aが充填される空洞部12を有する。本実施形態において、空洞部12は、キャビティブロック14及び可動式のコアブロック15で構成されている。
【0052】
空洞部12の寸法(高さ及び幅)は、複合成形体100の寸法から、後述する外層成形工程で得られる外層2の、樹脂注入口側の面の厚さa、樹脂注入口側の反対側(樹脂の流動末端側の面)の厚さb、及び樹脂注入口側の面と樹脂の流動末端側の面の間にある面の厚さを差し引いた上で、樹脂組成物Aの収縮率を見込んだ寸法とする。
【0053】
内層形成用金型10は、得られる内層部材1を保持するための保持部13を有していてもよい。保持部13を有する場合、保持部13を可動式のコアブロック15に一体的に形成することで、得られた内層部材1を保持部13で保持したまま、可動式のコアブロック15ごと内層成形工程から外層成形工程に移動させることができる。保持部13は、内層部材1の位置を変更可能に構成されていることが好ましい。保持部13が内層部材1の位置を変更可能に構成されている場合、後述する外層形成用金型における保持部23としても用いることができ、2段階の射出成形を一連の流れで行うことができる。
【0054】
本実施形態の内層形成用金型10は、樹脂注入口11から樹脂組成物Aが充填された後、樹脂組成物Aが固まり内層部材1が形成されると、パーティングラインPL1でキャビティブロック14及びコアブロック15が分離することで内層部材1を取り出すことができる。
【0055】
(外層形成用金型20)
外層形成用金型20は、外層の形成用の金型であり、図2(D)に示すように、樹脂組成物Aを含む内層部材1の少なくとも一部を覆うように、射出成形機から外層形成用金型20の樹脂注入口21を通して樹脂組成物Bが充填される空洞部22と、内層部材を該空洞部内に保持する保持部23と、を有する。
【0056】
本実施形態において、空洞部22は、キャビティブロック24及びコアブロック25で構成されている。空洞部22の幅(樹脂注入口21が延びる方向に垂直方向の長さ)は、得られる複合成形体の少なくとも一部の肉厚(図1(A)中のw1)が5.0mm以上となるように、少なくとも一部の幅w2が5.0mm以上である。この幅w2は、8.0mm以上とすることもできる。また、空洞部22の高さ(樹脂注入口21が延びる方向の長さ)は、得られる複合成形体100に求められる寸法に、樹脂の収縮率を見込んだ大きさとすればよい。
【0057】
保持部23は、得られる外層2の樹脂注入口の痕跡3が形成される面2aが内層部材1の面1aの少なくとも一部を覆い、面2aと反対側を向く面2bが、内層部材1の面1bの少なくとも一部を覆う位置であって、面2aと面2aに最も近い面1aとの距離をaとし、面2bと面2bに最も近い面1bとの距離をbとした場合に、a及びbが、以下の式I〜IIIを満たす位置に内層部材1を保持する。
1.2≦b/a≦2.0 ...I
0.5mm≦a≦2.0mm ...II
0.6mm≦b≦3.0mm ...III
【0058】
a,bが上記数値範囲内となるように空洞部22内に配置される内層部材1の位置は、内層部材1の面1a,1bと、空洞部22の内面20a,20bとのそれぞれの距離a’,b’(図2(D))を、a,bの数値範囲に樹脂の収縮率を見込んだ位置とすればよい。なお、樹脂の収縮率は、樹脂の種類及び複合成形体100の大きさによって異なるが、例えば、ポリフェニレンサルファイドの場合、樹脂の流動方向に0.2%〜0.8%程度の収縮を見込むことができる。
【0059】
保持部23は、内層部材1の位置を変更可能とするように構成されていることが好ましい。例えば、保持部23を上下に伸縮するように構成することで、内層形成用金型10に必要に応じて設けることができる保持部13としても用いることができるとともに、外層形成用金型20において、上記a,bの値が所定の範囲内になるように内層部材1の位置を空洞部22内で容易に調整することが可能となる。例えば、図2(C),(D)において、内層形成用金型10のコアブロック15は、保持部13が内層部材1を保持した状態で外層形成用金型20に移動する。保持部13は、外層形成用金型20において、上記a,bが上記数値範囲となる位置に突き出て保持部23となり、空洞部22内に内層部材1を保持する。
【0060】
保持部13,23の形状は、特に限定されないが、内層部材1の内部に刺さる側の一部を削りアンダーカットを設けることで、外層形成用金型20で空洞部22に充填される樹脂組成物Bの樹脂圧で位置がずれてしまうことを防ぐことができる。保持部13,23の長さ及び幅は、特に限定されず、得られる複合成形体100の大きさや内層部材1及び複合成形体100を保持するために必要な強度に合わせて適宜選択することができる。
【0061】
本実施形態では、保持部23は、コアブロック25と一体的に形成されていてもよい。この外層形成用金型20は、樹脂注入口21から樹脂組成物Bが充填された後、樹脂組成物Bが固まり外層2が形成されると、パーティングラインPL2でキャビティブロック24及びコアブロック25が分離するように構成することができる。複合成形体100は、コアブロック25に設けられている保持部23に保持されており、複合成形体100の端部に力を加えて複合成形体100を引き抜くことで、内層部材1からなる内層及び外層2を有する複合成形体100を得ることができる。なお、こうして得られた複合成形体100には、保持部23の痕跡4が窪み状に形成されている。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0063】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
第1の樹脂組成物(樹脂組成物B)及び第2の樹脂組成物(樹脂組成物A)として以下の樹脂組成物を用いて、後述する方法により内層部材及び外層を有する複合成形体を得た。
第1の樹脂組成物(樹脂組成物B):ポリプラスチック株式会社製「ジュラファイドPPS(登録商標)0220A9」、繊維状無機充填剤を含有しないポリフェニレンサルファイド樹脂
第2の樹脂組成物(樹脂組成物A):70質量%の上記樹脂組成物Bと、タルク(粒子径D50:3μm)30質量%とを配合したもの
【0064】
(内層形成工程)
キャビティ及びコアブロックにより空洞部を形成する内層形成用の金型を準備した。コアブロックに直径2.5mmのピンを3mm突出させた状態で、金型を射出成形機(ファナック株式会社製)に取り付け、射出成形機のノズルから上記樹脂組成物Aを金型の空洞部に射出し、直径6mm×高さ9mmの円柱形状の内層部材を得た。なお、内層部材は、樹脂の流動末端側の端面から3mmの深さでピンに保持された状態となっている。射出成形の条件を以下に示す。
予備乾燥:120℃、6時間
シリンダー温度:320℃
金型温度:140℃
射出速度:50mm/sec
保圧:50MPa(500kg/cm
【0065】
(外層形成工程)
キャビティブロック及びコアブロックにより空洞部を形成する外層形成用の金型を準備した。内層部材を、コアブロックのピンで保持した状態で外層形成用の金型の空洞部内に移動した。内層部材を保持した状態のピンをさらに突き出すように高さを調整して、得られる外層の厚さ(以下のa,b)が表1に示す値となるようにピンの突き出る高さを調整して内層部材を金型の空洞内に配置した。
a:外層の樹脂注入口の痕跡を有する面と該面に近接する内層部材の面(上面)との距離(mm)
b:外層の樹脂注入口の痕跡を有する面の反対側の面と該面に近接する内層部材1の面(下面)との距離(mm)
【0066】
次いで、射出成形機のノズルから上記樹脂組成物Bを金型の空洞部に射出し、内層部材の周囲を覆うように外層を形成し、冷却後、複合成形体を金型から取り出しピンから引き抜いて、図1に示す内層部材及び外層が一体化した直径10mm×高さ13mmの円柱形状の複合成形体を得た。射出成形の条件は、内層成形工程と同じ条件とした。この複合成形体は、直径が10mmであり、厚肉であるといえる。なお、複合成形体の内層には内層部材が存在するため、外層のみに着目すると、その形状は円筒形状となっていた。また、複合成形体の樹脂の流動末端側の端面には、内層部材を保持したピンの痕跡である窪みが形成されていた。
【0067】
[評価]
(樹脂注入口側の厚さ及びその反対側の厚さ)
実施例及び比較例で得られた複合成形体について、図1に示すP−P線で切断し、外層の樹脂注入口側の面2a及びその反対側の面2bから、それぞれ内層部材の面のうち樹脂注入口側から樹脂の流動末端側に向かう方向において最も近い面までの距離a,bを計測した。結果を表1に示した。
【0068】
(複合成形体の寸法X,Y)
図1(B)及び図3を参照して、複合成形体の寸法X,Yの測定方法を説明する。実施例及び比較例で得られた複合成形体について、上記のように測定した距離a,bにおける最小外接円200a,200bを作成し、その直径X,Yを計測してその差Y−Xを算出した。結果を表1に示した。
Y−Xの値が負の場合、その複合成形体は樹脂注入口側の部分が、反対側よりも太いことを意味している。一方、Y−Xの値が正の場合、樹脂注入口側の反対側の部分が、樹脂注入口側の部分よりも太いことを意味している。よって、Y−Xの値が0に近い程、均一な太さの複合成形体が得られていると評価できる。
【0069】
(円筒度)
図3を参照して、円筒度の測定方法を説明する。ここでいう円筒度は、上記の最小外接円200a,200bを、鉛直線M方向から見た場合のずれ(差)tの最大値を算出したものである。tの値が小さい程、複合成形体の樹脂注入行側の部分の平面位置と、樹脂注入口の反対側の部分の平面位置とのずれが少なく均一に形成されており、寸法精度が高いと評価できる。一方、tの値が大きい程、複合成形体の樹脂注入行側の部分の平面位置と、樹脂注入口の反対側の部分の平面位置とがずれて形成されており、寸法精度が低いと評価できる。
【0070】
【表1】
【0071】
表1から明らかなように、実施例1〜5の複合成形体は、5.0mm以上の厚肉部分を有するにも関わらず、Y−Xの値及び円筒度の値が小さく寸法精度が優れていた。
【符号の説明】
【0072】
1 内層部材(内層)
2 外層
3 樹脂注入口の痕跡
4 保持部の痕跡
10 内層形成用金型
20 外層形成用金型
11,21 樹脂注入口
12,22 空洞部
13,23 保持部
14,24 キャビティブロック
15,25 コアブロック
PL1,PL2 パーティングライン
100 複合成形体
A 樹脂組成物A
B 樹脂組成物B
図1
図2
図3