特許第6695287号(P6695287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧 ▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6695287-水系ナトリウムイオン二次電池 図000011
  • 特許6695287-水系ナトリウムイオン二次電池 図000012
  • 特許6695287-水系ナトリウムイオン二次電池 図000013
  • 特許6695287-水系ナトリウムイオン二次電池 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6695287
(24)【登録日】2020年4月23日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】水系ナトリウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20200511BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20200511BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20200511BHJP
   C07H 15/04 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   H01M10/36 A
   H01M4/58
   H01M4/62 Z
   C07H15/04 F
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-574861(P2016-574861)
(86)(22)【出願日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】JP2016054148
(87)【国際公開番号】WO2016129677
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2019年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-25839(P2015-25839)
(32)【優先日】2015年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 重人
(72)【発明者】
【氏名】中本 康介
(72)【発明者】
【氏名】加納 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】平田 修
(72)【発明者】
【氏名】宮地 伸英
(72)【発明者】
【氏名】藤田 賢志
【審査官】 福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/013634(WO,A1)
【文献】 特開2013−063924(JP,A)
【文献】 特開2005−220052(JP,A)
【文献】 特開2005−333879(JP,A)
【文献】 特開2011−086402(JP,A)
【文献】 特表2011−519122(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133527(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36−10/39
H01M 4/00− 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と電解液とを備える水系ナトリウムイオン二次電池であって、前記電解液は、
a)電解質塩、
b)水、及び
c)アルドビオン酸誘導
み、
前記アルドビオン酸誘導体が、下記式(1):
【化1】
(式中、Zは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、X〜Xは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至23のアルキル基を表す。)で表される化合物であることを特徴とする水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記正極が、正極活物質、導電補助材及びバインダーを含み、前記負極が、負極活物質、導電補助材及びバインダーを含むことを特徴とする、請求項1記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質及び前記負極活物質はともに、ナトリウムイオンを挿入および脱離可能なナトリウム−遷移金属複合酸化物からなるが、両活物質は相異なるものであることを特徴とする、請求項記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質が、Co、Ni、Mn、Cr、V、Ti、及びFeから選ばれる1種以上の遷移金属元素を含有するナトリウム−遷移金属複合酸化物からなることを特徴とする、請求項記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質がオリビン型NaFePO、もしくはオリビン型NaMnPOであることを特徴とする、請求項記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記負極活物質が、V、Ti、及びFeから選ばれる1種以上の遷移金属元素を含有するナトリウム−遷移金属複合酸化物からなることを特徴とする、請求項記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記負極活物質が、ナシコン型NaTi(POであることを特徴とする、請求項記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記導電補助材が、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウィスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノ粒子、カーボンナノチューブ、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム、ニッケル及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記導電補助材が、アセチレンブラックであることを特徴とする、請求項記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記バインダーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体及びエチレン−アクリル酸共重合体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記バインダーが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であることを特徴とする、請求項10記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記電解質塩が、NaNO、NaOH、NaF、NaCl、NaBr、NaI、NaClO、NaSO、Na(CHCOO)、NaBF、NaPF、NaN(CFSO、NaN(CSO、NaO、NaCO及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1乃至請求項11のうち何れか1項に記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項13】
前記電解質塩がNaClO又はNaSOであることを特徴とする、請求項12記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項14】
前記電解液は、更に水溶性のポリマーを含む請求項1乃至13のうち何れか1項に記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項15】
前記水溶性ポリマーが、ゼラチン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、澱粉、セルロース及びその誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリサッカライド、ポリビニルアミン、キトサン、ポリリジン、ポリアクリル酸、ポリアルギン酸、ポリヒアルロン酸、カルボキシセルロース及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項14記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系ナトリウムイオン二次電池に関し、詳細には、特定の有機酸誘導体を用いたイオン伝導性の、ゲル状とならない電解液を備えた水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高電圧・高エネルギー密度という利点を有し、かつ、自己放電率も低いことから、鉛電池、ニッケルカドミウム電池等の水溶液系二次電池に代わるものとして、非水電解液二次電池が注日されており、その一部は既に商品化されている。例えば、ノート型パソコンや携帯電話等は、その半数以上が非水電解液二次電池によって駆動している。
【0003】
また、近年の電子機器等の小型化、軽量化の要求に対し、最近では電池ケースとして従来の金属ケースの代わりにラミネートフィルムを用いたラミネート電池が、より軽く、薄く、形状自由度が高いことから注目されている。しかしながら、ラミネート電池は、その構造から、内圧上昇等の内的刺激や、引き裂き等の外的刺激に対する抵抗力が弱く、変形や破損等による破裂、発火等の危険性も高く、結局のところ電池パックケースに格納して用いられることが多く、軽量化の達成にいたっていない。また該ラミネート電池も、他の非水電解液電池と同様に、電解液としてエステル系化合物及びエーテル系化合物等の可燃性有機溶媒が一般に用いられており、該可燃性有機溶媒が電池の破裂、発火等の問題を引き起こす大きな原因の一つとなっている。
【0004】
このような問題を解決する一例として、高分子中に電解質が均一固溶した形態をとった高分子固体電解質が提案されているが、該高分子固体電解質は、イオン伝導度が液状電解質に比較して著しく低いために実用上問題がある。また、最近では、上記高分子に従来用いられている液状の電解質を含浸させたポリマーゲル電解質が、電池外部への液漏れによる電解液の着火の問題を解決する手法として提案されている。しかしながら、該ポリマーゲル電解質を用いた電池は、液漏れ以外に対する安全性の確保という点では、これまでの非水系電解質を用いた電池と同様の問題(例えば、電池異常時の短絡・過充電等)を抱えており、電池そのものが根本的に安全であるわけではない。
【0005】
近年、新たな様式の電池としては、1MのLiSOを水溶性ポリマーであるポリビニルアセトアミドでゲル化させ、ゲル電解質とした水系リチウムイオン電池が報告されている(特許文献1)。上述のような水系リチウムイオン二次電池は、電解液に有機溶媒を用いることがないため基本的には燃焼・発火することがなく、従来提案された二次電池における発火という問題を回避することが出来ることが期待される。さらに、製造工程において水分管理を必要としないため、製造コストを大幅に低減できる。また、水溶液系の電解液は非水系電解液に比べて一般的に伝導度が高いため、非水系リチウムイオン二次電池に比べて内部抵抗を低くできるという利点も期待される。
【0006】
また、一方でノート型パソコンや携帯電話等の小型端末向けモバイル機器の用途以外に大型化された蓄電池のニーズも高まっている。これは、近年の停電や電力不足リスクの回避のために、各家庭や商工業施設において大型化された蓄電池の需要が急速に高まっているためである。しかし、上記したリチウムイオン二次電池は、その原料となる金属リチウムはレアメタルであり、高コストであるとともに、資源の埋蔵量と供給量バランスの観点から大型化された二次電池の普及には抜本的な課題が残されている。
【0007】
この観点から、金属リチウムと比較して安価で埋蔵量の豊富なナトリウムを用いた水系ナトリウムイオン二次電池に関心が集まっている。これまでに、ナトリウムイオン二次電池を構成する電極活物質に関する文献や特許がいくつか報告されており、例えば、層状岩塩型構造を有する結晶NaFeOからなるもの(非特許文献1)や、ナシコン型構造を有する結晶Na(POから成るもの(非特許文献2)がある。一方、負極に関しての知見は少なく、正極活物質との最適な組み合わせにおける負極活物質の報告が一部ある(例えば、特許文献2)。しかしながら、未だ実用化に耐え得るだけの十分な放電電圧や放電容量、充放電サイクルは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−102086号公報
【特許文献2】特開2013−89391号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S.Okada,Y.Takahashi,T.Kiyabu,T.Doi,J.YamakiandT.Nishida,Abstract of 210th ECS Meeting, B2,#201,(2006).
【非特許文献2】野口良典、小林栄次、L.S.Plashnitsa、土井貴之、岡田重人、山木準一、第49回電池討論会,2E07(2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、一般のリチウムイオン電池は電解液に非水系の溶媒が使用されているため、電池の破損による液漏れ等が起こった場合、引火・爆発の危険があり、電池の製造及び使用に際し安全性に大きな問題を抱えている。非水系の電解液をゲル化させたリチウムポリマーゲル電池では液漏れの危険性は回避されるが、基本的に非水系の溶媒を使用しているため、引火・爆発を完全に回避するまでにはいたっていない。
【0011】
一方、水系のリチウムイオン電池については、電解液に非水系の溶媒を使用しないため、引火・爆発の危険性は回避できるものの、水溶液を用いた場合には電池の破損による液漏れは回避することができず、また、これまで提案された水系リチウムポリマーゲル電池は、ゲル化剤を使用していない水系電解液の電池と比較して、ゲル化剤の存在及び溶液の高粘度化に起因してリチウムイオンの移動が低下し、これによる電気伝導度の低下や充放電容量の劣化がみられ、電解液をゲル化させることによる電池特性の低下という別の問題が生じることが懸念されている。更には、金属リチウムを原料とした大型化された二次電池では、コスト、埋蔵量と供給量の観点から汎用的に普及するには抜本的な課題が残されている。
【0012】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、従来提案された非水系の溶媒を使用した電池につきまとう安全性への不安の問題の解決を図り、且つ、電池特性の低下、充放電サイクルという問題をも解決できる、ゲル状とならない電解液を備えた新規な水系ナトリウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、水系ナトリウムイオン二次電池の電解液として、特定の有機酸誘導体、電解質塩及び水とを含むゲル状とはならない電解液を採用することにより、従来の電解液において問題とされた有機溶媒の使用における安全性確保の問題の解決を図り、且つ、良好なイオン伝導性を有し、従来の液状の電解液を用いた電池以上の充放電特性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は第1観点として、正極および負極と電解液とを備える水系ナトリウムイオン二次電池であって、前記電解液は、
a)電解質塩、
b)水、及び
c)アルドビオン酸誘導体、アルドン酸誘導体又はウロン酸誘導体
を含むことを特徴とする水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第2観点として、前記アルドビオン酸誘導体が、下記式(1):
【化2】
(式中、Zは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、X〜Xは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至23のアルキル基を表す。)で表される化合物であり、
前記アルドン酸誘導体が、下記式(2):
【化3】
(式中、Zは、水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、X〜X13は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至23のアルキル基を表す。)で表される化合物であり、
前記ウロン酸誘導体が、下記式(3):
【化4】
(式中、Zは、水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、X14〜X17は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至23のアルキル基を表す。で表される化合物である、第1観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第3観点として、前記正極が、正極活物質、導電補助材及びバインダーを含み、前記負極が、負極活物質、導電補助材及びバインダーを含むことを特徴とする、第1観点又は第2観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第4観点として、前記正極活物質及び前記負極活物質はともに、ナトリウムイオンを挿入および脱離可能なナトリウム−遷移金属複合酸化物からなるが、両活物質は相異なるものであることを特徴とする、第3観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第5観点として、前記正極活物質が、Co、Ni、Mn、Cr、V、Ti、及びFeから選ばれる1種以上の遷移金属元素を含有するナトリウム−遷移金属複合酸化物からなることを特徴とする、第4観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第6観点として、前記正極活物質がオリビン型NaFePO、もしくはオリビン型NaMnPOであることを特徴とする、第5観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第7観点として、前記負極活物質が、V、Ti、及びFeから選ばれる1種以上の遷移金属元素を含有するナトリウム−遷移金属複合酸化物からなることを特徴とする、第6観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第8観点として、前記負極活物質が、ナシコン型NaTi(POであることを特徴とする、第7観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第9観点として、前記導電補助材が、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウィスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノ粒子、カーボンナノチューブ、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム、ニッケル及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、第3観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第10観点として、前記導電補助材が、アセチレンブラックであることを特徴とする、第9観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第11観点として、前記バインダーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体及びエチレン−アクリル酸共重合体からなる群から選択されることを特徴とする、第3観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第12観点として、前記バインダーが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であることを特徴とする、第11観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第13観点として、前記電解質塩が、NaNO、NaOH、NaF、NaCl、NaBr、NaI、NaClO、NaSO、Na(CHCOO)、NaBF、NaPF、NaN(CFSO、NaN(CSO、NaO、NaCO及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、第1観点乃至第12観点のうち何れか1項に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第14観点として、前記電解質塩がNaClO又はNaSOであることを特徴とする、第13観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第15観点として、前記電解液は、更に水溶性のポリマーを含む第1観点乃至第14観点のうち何れか1項に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
第16観点として、前記水溶性ポリマーが、ゼラチン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、澱粉、セルロース及びその誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリサッカライド、ポリビニルアミン、キトサン、ポリリジン、ポリアクリル酸、ポリアルギン酸、ポリヒアルロン酸、カルボキシセルロース及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、第15観点に記載の水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水系ナトリウムイオン二次電池は、溶媒として水系の溶媒である水を用いていることにより、電池の破損による液漏れ等が原因による引火や爆発の危険性を回避できる。このため、一般のナトリウムイオン電池や非水系溶媒の電解液をゲル化させて用いている電池と比較すると安全性を大幅に向上させることができる。
【0016】
また本発明の水系ナトリウムイオン二次電池は、従来提案された水系ナトリウムイオン電池でみられた電池性能の劣化が抑制され、従来の液状の電解液を用いた電池と同様の充放電特性を得ることができる。
このように、ゲル化しない添加剤でもサイクル特性の改善効果が観られた理由としては、以下の二点の可能性が想定される。
(1)緩衝効果:ナシコン負極はアルカリに弱く、充放電サイクル途中で負極表面がアルカリ性になるのを添加剤が緩和している可能性。
(2)対極亜鉛の影響:亜鉛腐食を防止している可能性。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例で合成された活物質NaFePのX線回折図である。
図2】本発明の実施例で合成された活物質NaTi(POのX線回折図である。
図3】本発明の実施例で合成された正極NaFeP、負極NaTi(PO評価用ビーカー型フルセルの概略図である。
図4】本発明の実施例で合成された正極NaFeP、負極NaTi(PO評価用ビーカー型フルセルの電流密度2.0mA/cmでのサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、それぞれナトリウムイオンの挿入および脱離が可能である物質からなる正極および負極と、ナトリウム塩が溶解した水溶液を含むゲル状とならない電解液とを少なくとも備えた水系ナトリウムイオン二次電池に関する。この電解液は、電解質塩(ナトリウム塩)と、水と、前記式(1)で表される化合物からなる電解液である。
特に本発明は、水系ナトリウムイオン二次電池の電解液として、アルドビオン酸誘導体、アルドン酸誘導体又はウロン酸誘導体を含むゲル状とならない電解液を用いていることを大きな特徴とする。
以下、各構成成分について説明する。
【0019】
[正極]
本発明の水系ナトリウムイオン二次電池において用いる正極としては、従来よりナトリウムイオン二次電池の正極として提案されている正極を使用可能で、中でもナトリウムに対して4V以下の放電平坦部をもつものが好適である。
例えば正極は、正極活物質と導電補助材とバインダーとを含むものから構成され、具体的には、該正極活物質と導電補助材にバインダーを加えた正極材料を集電体に圧着させて形成される。
【0020】
前記正極活物質としては、ナトリウムイオンを挿入および脱離可能なナトリウム−遷移金属複合酸化物からなり、具体的には、ナトリウムイオンの挿入又は脱離に伴って価数が変化する遷移金属元素としてCo、Ni、Mn、Cr、V、Ti、及びFeから選ばれる1種以上を含有するナトリウム−遷移金属複合酸化物からなり、例えば、オリビン型NaFePO、オリビン型NaMnPO、NaFePOF、O3型NaFeO、O3型NaCrO、O3型NaFe0.5Co0.5、P2型Na2/3Fe0.5Mn0.5、Na(PO、Na(PO、NaCo(PO等の複合酸化物を挙げることができる。
但し、正極活物質は、後述する負極に含まれるナトリウム−遷移金属複合酸化物とは異なる複合酸化物であることが好ましい。
前記正極活物質の中でも、NaFePOもしくは、NaMnPOと用いることがより好ましい。
【0021】
前記バインダーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体又はエチレン−アクリル酸共重合体を用いることが可能である。
中でも、本発明において、使用するバインダーとしてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることが好ましい。
【0022】
前記導電補助材としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウィスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノ粒子、カーボンナノチューブなどの炭素材料、或いは、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム、ニッケルなどの金属又は金属酸化物を使用することが可能である。これら導電補助材の形状としては、粉状、球状、フレーク状、フィラメント状、繊維状、スパイク状、針状などから選択される形状を採用することができる。
本発明において、使用する導電補助材としては、アセチレンブラックであることが好ましい。
【0023】
さらに、前記集電体としては、ステンレスメッシュ、ニッケルメッシュ、金メッシュ等を用いることができる。
【0024】
[負極]
本発明の水系ナトリウムイオン二次電池において用いる負極としては、従来よりナトリウムイオン二次電池の負極として提案されている負極を使用可能である。
例えば負極は、負極活物質と導電補助材とバインダーとを含むものから構成され、具体的には、該負極活物質と導電補助材にバインダーを加えた負極材料を集電体に圧着させて形成される。
ここで負極に用いられる導電補助材、バインダー及び集電体は、前述の[正極]において挙げたものを好適に使用できる。
【0025】
前記負極活物質としては、ナトリウムイオンを挿入および脱離可能なナトリウム−遷移金属複合酸化物からなり、具体的にはナトリウムイオンの挿入および脱離に伴って価数が変化する遷移金属元素としてV、Ti、及びFeから選ばれる1種以上を含有するナトリウム−遷移金属複合酸化物からなり、例えばNaTi(PO、NaV(PO等の複合酸化物を挙げることができる。
但し負極活物質は、前述した正極に含まれるナトリウム−遷移金属複合酸化物とは異なる複合酸化物であることが好ましい。
前記負極活物質の中でも、NaTi(POを使用することがより好ましい。
【0026】
[電解液]
<アルドビオン酸誘導体>
本発明において、ゲル状とならない電解液に用いられるアルドビオン酸誘導体としては、下記式(1):
【化4】




(式中、Zは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、X〜Xは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至23のアルキル基を表す。)で表される化合物が挙げられる。
【0027】
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム及びバリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属が好ましく、また、アルカリ土類金属としては、カルシウムが好ましい。
好ましいZとしては、1/2Ca等が挙げられる。
炭素原子数1乃至23のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ノルマルペンチル基、ノルマルデシル基等が挙げられる。
好ましいX〜Xとしては、水素原子が挙げられる。
好ましいアルドビオン酸誘導体としてはラクトビオン酸カルシウムが挙げられる。
【0028】
<アルドン酸誘導体>
本発明において、ゲル状とならない電解液に用いられるアルドン酸誘導体としては、下記式(2):
【化5】




(式中、Zは、水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、X〜X13は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至23のアルキル基を表す。)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム及びバリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属が好ましく、また、アルカリ土類金属としては、カルシウムが好ましい。
好ましいZとしては、水素原子、1/2Ca等が挙げられる。
炭素原子数1乃至23のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ノルマルペンチル基、ノルマルデシル基等が挙げられる。
好ましいX〜X13としては、水素原子が挙げられる。
好ましいアルドン酸誘導体としてはグルコン酸、グルコン酸カルシウム、ガラクトン酸、ガラクトン酸カルシウム、マンノン酸、マンノン酸カルシウム等が挙げられる。
【0030】
<ウロン酸誘導体>
本発明において、ゲル状とならない電解液に用いられるウロン酸誘導体としては、下記式(3):
【化6】




(式中、Zは、水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、X14〜X17は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至23のアルキル基を表す。)で表される化合物が挙げられる。
【0031】
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム及びバリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属が好ましく、また、アルカリ土類金属としては、カルシウムが好ましい。
好ましいZとしては、水素原子、1/2Ca等が挙げられる。
炭素原子数1乃至23のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ノルマルペンチル基、ノルマルデシル基等が挙げられる。
好ましいX14〜X17としては、水素原子が挙げられる。
好ましいウロン酸誘導体としてはグルクロン酸、グルクロン酸カルシウム、ガラクツロン酸、ガラクツロン酸カルシウム、マンヌロン酸、マンヌロン酸カルシウム等が挙げられる。
【0032】
本発明における水系ナトリウムイオン二次電池に用いる電解液において、前記アルドビオン酸誘導体、アルドン酸誘導体又はウロン酸誘導体の割合は、得られる電解液の総質量の0.1乃至30質量%、好ましくは、0.5乃至20質量%、より好ましくは、1乃至5質量%である。
【0033】
<電解質塩>
本発明における電解液に用いられる電解質塩としては、従来よりナトリウムイオン二次電池に使用可能であるとして提案されている電解質塩が使用できる。具体例としては、例えば、NaNO、NaOH、NaF、NaCl、NaBr、NaI、NaClO、NaSO、Na(CHCOO)、NaBF、NaPF、NaN(CFSO、NaN(CSO、NaO、NaCO等のナトリウム塩及びこれらの混合物が挙げられる。
【0034】
本発明における電解液に用いられる電解質塩(ナトリウム塩)としては、特にNaClO又はNaSOであることが好ましい。
【0035】
本発明における電解液において、電解質塩は、得られる電解液に0.01乃至5mol/kg、好ましくは、1乃至3mol/kgの濃度で用いられる。
【0036】
<水溶性ポリマー>
上記電解液にはゲル状とならない限りにおいて水溶性のポリマーを含んでいてもよい。水溶性ポリマーを使用することにより、ゲル状の電解液の機械的強度を高めることができ、またゲルの離水防止剤としての役割を担うこともできる。
前記水溶性ポリマーとしては例えば、ゼラチン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、澱粉等の多糖類、セルロース及びその誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリサッカライド、ポリビニルアミン、キトサン、ポリリジン、ポリアクリル酸、ポリアルギン酸、ポリヒアルロン酸、カルボキシセルロース等が挙げられる。
【0037】
前記水溶性ポリマーの中でも、ポリビニルアルコール(PVA)及びポリビニルピロリドンであることが好ましく、特にポリビニルアルコール(PVA)が好ましい。
【0038】
本発明における水系ナトリウムイオン二次電池に用いる電解液において、前記水溶性ポリマーが使用される場合のその割合は、得られる電解液の総質量の0.1乃至30質量%、好ましくは、0.5乃至20質量%、より好ましくは、1乃至5質量%である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に記載するが、本発明は以下の記述によって限定されるものではない。
なお、実施例で用いた略記号は以下の通りである。
LA:ラクトビオン酸(東京化成工業(株)製)
化学構造式:
【化7】




CaLA:ラクトビオン酸カルシウム(東京化成工業(株)製)
化学構造式:
【化8】



【0040】
〔活物質NaFePの合成〕
正極となるNaFePは固相法にて合成した。NaHPOとFe(COO)・2HOを化学量論比で混合し、Ar雰囲気下で600℃、6時間焼成することでNaFePを得た(図1)。同図のXRDパターンから、主相はNaFePと同定された。合成した活物質とアセチレンブラック(AB)を70:25の重量比で混合し、遊星ボールミルを用いて300rpm、10時間カーボンコート処理を行った。得られた粉末(活物質およびAB)を600℃、10時間、Ar雰囲気下で熱処理した。得られた粉末とPTFEを重量比95:5で混合し、ペレットに成形したものを正極とした。
【0041】
〔活物質NaTi(POの合成〕
負極となるNaTi(POはPechini法にて合成した。過酸化水素30%溶液にTi(OCHCHCHCHを溶かした40mLの溶液に28%のアンモニア水15mLおよびTiの2倍モル量のクエン酸を加え、さらにNaCOを溶かし0.25mol/Lに調製した水溶液10mLとNHPOを溶かし1.5mol/Lに調製した水溶液10mL、エチレングリコール0.02molを加えて80℃で1−2時間で蒸発乾固させた後、140℃でさらに2−4時間加熱して橙色のゲルを得る。これを350℃および800℃でそれぞれ大気中焼成することでNaTi(POを得た(図2)。同図のXRDパターンから、主相はICDD#33−1296と一致し、ナシコン型NaTi(PO単相と同定された。合成した活物質とアセチレンブラック(AB)を70:25の重量比で混合し、遊星ボールミルを用いて400rpm、1時間カーボンコート処理を行った。得られた粉末(活物質およびAB)を800℃、1時間、窒素雰囲気下で熱処理した。得られた粉末とPTFEを重量比95:5で混合し、ペレットに成形したものを負極とした。
【0042】
〔水系ナトリウムフルセルの作製〕
実施例で得られた上記NaFeP、NaTi(POのアニール品についてペレットを作製しそれぞれ正極、負極とし、電解液として、電解質のNaSOを超純水に溶かし作製した2M NaSO水系電解液と、作製した電解液にCaLA、LAをそれぞれ3wt%添加したものを使用し、ビーカー型のフルセルを作製した(図3)。
【0043】
図4に電流密度2.0mA/cm における上記で得られたナトリウムフルセルサイクル特性を示す。CaLAを添加した場合に、無添加の電解液および他の添加剤を添加した電解液よりサイクル特性が改善している。これは、無添加の場合のサイクル劣化原因であると考えられる正負極間での不可逆反応の発生による水素発生反応に引き起こされる電解液のアルカリ性化が、添加剤が緩衝剤となることで和らいだためではないかと考えられる。また、LAを添加した場合にサイクル特性が改善されなかった理由は、LAにより酸性環境となった電解液により酸に弱い正極が劣化したためと考えられる。添加剤の中でCaLAが優れた特性を示した。
図1
図2
図3
図4