特許第6695533号(P6695533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6695533
(24)【登録日】2020年4月24日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】表示体
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20200511BHJP
   G03H 1/02 20060101ALI20200511BHJP
   B42D 25/324 20140101ALI20200511BHJP
   B42D 25/328 20140101ALI20200511BHJP
   B42D 25/40 20140101ALI20200511BHJP
   G09F 19/14 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   G02B5/18
   G03H1/02
   B42D25/324
   B42D25/328
   B42D25/40 100
   G09F19/14
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-89083(P2019-89083)
(22)【出願日】2019年5月9日
【審査請求日】2019年8月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 康昌
(72)【発明者】
【氏名】増永 裕子
(72)【発明者】
【氏名】野村 真義
(72)【発明者】
【氏名】大島 浩行
(72)【発明者】
【氏名】岡田 光洋
(72)【発明者】
【氏名】高原 正義
【審査官】 吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−022478(JP,A)
【文献】 特開2018−161879(JP,A)
【文献】 特開2005−049605(JP,A)
【文献】 特開2011−017760(JP,A)
【文献】 特開2015−132721(JP,A)
【文献】 特開2011−180496(JP,A)
【文献】 特開2004−223726(JP,A)
【文献】 特開2013−190629(JP,A)
【文献】 特表2012−511744(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102346424(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G02B 5/18; 5/32
G03H 1/00− 5/00
B42D15/00;25/00
G09F 1/00− 5/04
G09F19/00−27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影角度を変化させながら物体を撮影することにより得られる複数の画像が、観察角度を変化させることにより順次再生される複数の回折画像として記録された表示体であって、
前記観察角度の変化の大きさに対して、複数の回折画像が順次再生されることによって表現される前記物体の回転の角度の大きさがより大きく、
前記観察角度を第1観察角度範囲内で変化させた場合、及び、前記観察角度を前記第1観察角度範囲の上限値よりも大きな下限値を有する第2観察角度範囲内で変化させた場合の各々において、前記観察角度を前記第1観察角度範囲の上限値よりも大きな下限値を有し且つ前記第2観察角度範囲の下限値よりも小さな上限値を有する第3観察角度範囲内で変化させた場合と比較して、前記観察角度の変化量に対する再生される画像の数の比がより小さい表示体。
【請求項2】
前記観察角度の変化の大きさに対する、前記物体の回転の角度の大きさの比が、1.4乃至1.6の範囲内にある請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記複数の回折画像のうち、前記観察角度が第1値より小さい場合に再生される画像と、前記観察角度が前記第1値と比較してより大きい第2値を超える場合に再生される画像とは、前記観察角度が前記第1値乃至前記第2値の範囲内にある場合に再生される画像と比較してより暗い請求項1又は2に記載の表示体。
【請求項4】
表面にレリーフ構造を有するレリーフ構造形成層と、前記表面を被覆した反射層とを具備し、前記レリーフ構造は、前記レリーフ構造形成層と前記反射層との界面又は前記反射層の表面に、前記複数の回折画像を再生する回折格子を形成した請求項1乃至の何れか1項に記載の表示体。
【請求項5】
請求項1乃至の何れか1項に記載の表示体を含んだ転写材層と、前記転写材層を剥離可能に支持した支持体とを具備した転写箔。
【請求項6】
請求項1乃至の何れか1項に記載の表示体と、前記表示体の一方の主面に設けられた粘着層とを具備した粘着ラベル。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか1項に記載の表示体と、これを支持した物品とを備えた表示体付き物品。
【請求項8】
請求項に記載の表示体を製造するために使用するスタンパ。
【請求項9】
請求項8に記載のスタンパの製造方法であって、
撮影角度を変化させながら物体を撮影することにより得られる複数の画像データの各々と、前記撮影角度に0より大きく且つ1未満の係数を乗じることにより得られる観察角度とを関連付けることと、
前記観察角度と各々が関連付けられた前記複数の画像データから、描画パターンを生成することと、
前記描画パターンに従ってレジスト膜への電子線描画を行い、レジストパターンを得ることと
を含んだスタンパの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
レリーフ型ホログラムは、通常の印刷手法による偽造や複製が困難である。従って、従来から、物品が真正品であることを示すために、レリーフ型ホログラムが用いられている。
【0003】
通常、レリーフ型ホログラムは、複数のレリーフ型回折格子で構成されている。レリーフ型ホログラムが射出する回折光の色や射出角は、溝のピッチや長さ方向に応じて適宜設定することができる。従って、レリーフ型ホログラムに適切な設計を採用すると、照明又は観察方向の変化に応じて形状及び位置の少なくとも一方が変化する画像、例えば、立体画像(三次元画像)や動画を表示することが可能である(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−281804号公報
【特許文献2】特開平7−104211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ホログラムで回折画像を表示する表示体には、これを傾けることによって、異なる撮影角度で撮影した物体の画像を回折画像として順次再生し、この物体の回転を表現する動画を表示するものがある。しかしながら、本発明者らは、このような動画が観察者へ与える印象について改善の余地があると考えている。
【0006】
そこで、本発明は、傾き角、換言すれば観察角度を変化させることによって回折画像を順次再生して、物体の回転を表現する動画を表示する表示体について、その動画が観察者へ強い印象を与えることを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、撮影角度を変化させながら物体を撮影することにより得られる複数の画像が、観察角度を変化させることにより順次再生される複数の回折画像として記録された表示体であって、前記観察角度の変化の大きさに対して、複数の回折画像が順次再生されることによって表現される前記物体の回転の角度の大きさがより大きい表示体が提供される。
【0008】
回折画像を表示する一般的な表示体は、表示面が平面又はそれに近い形状である。それ故、そのような表示体は、回折画像を視認可能な表示体の傾き角、即ち観察角度の範囲に制限がある。そのような制限のもとでは、動画によって表現される物体の回転の角度を大きくすることはできない。
【0009】
これに対し、上記の表示体では、観察角度の変化の大きさに対して、回折画像が順次再生されることによって表現される物体の回転の角度の大きさをより大きくしている。それ故、観察角度の変化が小さくても、動画において物体を大きく回転させることができる。従って、この表示体が表示する動画は、観察者へ強い印象を与え得る。例えば、観察者は、この動画はダイナミックに変化するという印象を受ける。
【0010】
前記観察角度の変化の大きさに対する、前記物体の回転の角度の大きさの比は、1.4乃至1.6の範囲内にあることが好ましい。この比を小さくすると、この表示体が表示する動画が観察者へ与える印象が弱くなる傾向にある。この比を過剰に大きくすると、観察角度を僅かに変えただけで動画において物体が大きく回転するため、動画を観察し辛くなる可能性がある。
【0011】
前記複数の回折画像が順次再生される前記観察角度の上限値と下限値との差、即ち、観察角度範囲は、40°乃至60°の範囲内にあることが好ましい。この観察角度範囲を小さくすると、動画における物体の回転を確認し辛くなる可能性がある。この観察角度範囲を大きくすると、明るい動画を表示することが難しくなるか、又は、観察角度の変化に応じた画像の変化の滑らかさが低下する可能性がある。
【0012】
本発明の更に他の側面によると、前記複数の回折画像のうち、前記観察角度が第1値より小さい場合に再生される画像と、前記観察角度が前記第1値と比較してより大きい第2値を超える場合に再生される画像とは、前記観察角度が前記第1値乃至前記第2値の範囲内にある場合に再生される画像と比較してより暗い上記側面に係る表示体が提供される。
【0013】
比較的狭い観察角度範囲内で動画を表示するように設計されたホログラムは、上記角度範囲内の全域に亘って鮮明な画像を表示することができる。しかしながら、比較的広い観察角度範囲内で動画を表示するように設計されたホログラム、特には、画像の形状及び位置の少なくとも一方が照明又は観察方向の変化に応じて大きく変化するように設計されたホログラムは、以下に説明するように、それが表示する画像が観察者に不自然な印象を与える可能性がある。
【0014】
屋内では、通常、表示体の照明に使用する光源は、点光源ではなく、また、平行光線を射出するものでもない。即ち、通常、屋内では、表示体には様々な方向から光が入射する。それ故、或る方向から表示体を観察した場合、その方向から表示体を観察した場合に見えるべき画像(以下、正像という)と、他の方向から表示体を観察した場合に見えるべき1以上の画像(以下、ゴースト像という)とが部分的に重なって見える可能性がある。
【0015】
但し、実際には、表示体には、全方向から同じ強さの光が入射する訳ではない。通常、特定の方向から表示体へ入射する光が最大強度を示し、その方向からのズレが大きくなるほど入射光の強度は低下する。
【0016】
また、最大強度を示す入射光に対する回折光の回折角と、この入射光とは入射角が僅かに異なる入射光に対する回折光の回折角との差は、それら回折角が大きくなるのに伴って増大する。即ち、回折角が小さな回折光が表示する画像を観察する観察条件下では、入射角が僅かに異なる入射光に由来する正像及びゴースト像は、形状及び位置の相違が小さい。これに対し、回折角が大きな回折光が表示する画像を観察する観察条件下では、入射角が僅かに異なる入射光に由来する正像及びゴースト像は、形状及び位置の相違が大きい。
【0017】
それ故、上記の重なり合いが画像の鮮明さに及ぼす影響は、回折角が小さな回折光が表示する画像を観察する観察条件下では、知覚不可能な程度に小さい。これに対し、回折角が大きな回折光が表示する画像を観察する観察条件下では、上記の重なり合いに起因して、画像がぼやけて見えることがある。このような画像は、観察者に不自然な印象を与える。
【0018】
この問題は、例えば、照明又は観察方向の変化に応じた画像の形状及び位置の変化を小さくすることにより解消できる。しかしながら、この場合、動画によって表現される物体の回転の角度が小さくなる。
【0019】
或いは、この問題は、上述した物体の回転を知覚可能な観察角度の範囲を狭めることによっても解消できる。しかしながら、この場合、観察角度を僅かに変えただけで、この方向が上記範囲から外れる。即ち、観察角度を僅かに変えただけで、上述した物体の回転を知覚できなくなる。それ故、そのような構造を採用した表示体は、観察者に不自然な印象を与える。
【0020】
上記の表示体は、複数の回折画像のうち、観察角度が第1値より小さい場合に再生される画像と、観察角度が第1値と比較してより大きい第2値を超える場合に再生される画像とが、観察角度が第1値乃至第2値の範囲内にある場合に再生される画像と比較してより暗くなるように設計している。従って、例えば、観察角度を第1値乃至第2値の範囲内から第1値未満又は第2値超へ変化させた場合に、画像の明るさが低下する。
【0021】
画像が暗くなると、ゴースト像の明るさも低下し、ゴースト像が画像の鮮明さに及ぼす影響は小さくなる。また、画像が暗くなると、正像とゴースト像との重なり合いに起因したぼやけも知覚され難くなる。従って、この表示体は、観察者に不自然な印象を与えることなしに、比較的広い角度範囲内で動画を表示することが可能である。
【0022】
上記表示体は、前記観察角度が前記第1値より小さい第3値から前記第2値より大きい第4値までの範囲内で前記画像を表示し、前記第2値と前記第1値との差は25°乃至35°の範囲内にあり、前記第1値と前記第3値との差は5°乃至15°の範囲内にあり、前記第4値と前記第2値との差は5°乃至15°の範囲内にあることが好ましい。これら差が上記範囲内にある場合、観察者に不自然な印象を与えないことと、比較的広い角度範囲内で動画を表示することとを、特にバランスよく達成することができる。
【0023】
上記側面に係る表示体の各々では、前記観察角度を第1観察角度範囲内で変化させた場合、及び、前記観察角度を前記第1観察角度範囲の上限値よりも大きな下限値を有する第2観察角度範囲内で変化させた場合の各々において、前記観察角度を前記第1観察角度範囲の上限値よりも大きな下限値を有し且つ前記第2観察角度範囲の下限値よりも小さな上限値を有する第3観察角度範囲内で変化させた場合と比較して、前記観察角度の変化量に対する再生される画像の数の比がより小さい。
【0024】
観察角度の変化量に対する再生される画像の数の比を大きくすると、観察角度の変化に応じた画像の変化は滑らかになる。一方、この比を小さくすると、観察角度の変化に応じた画像の変化の滑らかさは低下する。但し、動画の明るさは、この比が小さな観察角度範囲では、この比が大きな観察角度範囲と比較してより暗い。それ故、この比が小さな観察角度範囲では、観察角度の変化に応じた画像の変化の滑らかさが低いとしても、それが観察者に不自然な印象を与える可能性は小さい。
【0025】
また、上記の通り、画像を暗くすると、正像とゴースト像との重なり合いに起因したぼやけは知覚され難くなる。これと同様に、動画を暗くした場合も、正像とゴースト像との重なり合いに起因したぼやけは知覚され難くなる。従って、この点でも、この表示体は、観察者に不自然な印象を与えることなしに、比較的広い角度範囲内で動画を表示することが可能である。
【0026】
前記第1観察角度範囲の上限値と下限値との差は25°乃至35°の範囲内にあり、前記第2観察角度範囲の上限値と下限値との差は5°乃至15°の範囲内にあり、前記第3観察角度範囲の上限値と下限値との差は5°乃至15°の範囲内にあることが好ましい。これら差が上記範囲内にある場合、観察者に不自然な印象を与えないことと、比較的広い角度範囲内で動画を表示することとを、特にバランスよく達成することができる。
【0027】
本発明の更に他の側面によると、複数のサブ画素を各々が含んだ複数の画素を備え、前記複数の画素のうち、法線方向から照明光で照明した場合に回折光を射出するサブ画素を2以上含んだものの各々において、前記2以上のサブ画素は前記回折光を異なる射出角で射出する上記側面の何れかに係る表示体が提供される。
【0028】
上記の表示体では、各画素が含んでいる1以上のサブ画素は、照明方向及び観察方向に対する表示体の傾きが或る角度である場合に観察者に知覚させるべき画像の一部(画像要素)に利用することができる。そして、この表示体は、或る画像を、複数の画素に亘って分布した或るサブ画素群で表示し、他の画像を、複数の画素に亘って分布した他のサブ画素群で表示するように設計され得る。
【0029】
なお、同一の画像を右眼と左眼とで知覚するように画素を設計すると、平面画像が表示される。また、同一の物体を異なる角度又は異なる位置から撮影した画像に相当する右眼用画像及び左眼用画像をそれぞれ右眼と左眼とで知覚するように画素を設計すると、両眼視差を利用した立体画像が表示される。
【0030】
本発明の更に他の側面によると、前記複数の回折画像としてフルカラー画像を表示するように構成された上記側面の何れかに係る表示体が提供される。
【0031】
上記の表示体には、モノクローム画像を表示する構成を採用することも、フルカラー画像を表示する構成を採用することも可能である。フルカラー画像を表示するには、例えば、各画素内に、赤色用サブ画素、緑色用サブ画素及び青色用サブ画素の組を観察角度毎に配置すればよい。
【0032】
本発明の更に他の側面によると、表面にレリーフ構造を有するレリーフ構造形成層と、前記表面を被覆した反射層とを具備し、前記レリーフ構造は、前記レリーフ構造形成層と前記反射層との界面又は前記反射層の表面に、前記複数の回折画像を再生する回折格子を形成した上記側面の何れかに係る表示体が提供される。
【0033】
レリーフ構造形成層の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は紫外線若しくは電子線硬化性樹脂を使用する。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂又はビニル樹脂を使用する。熱硬化性樹脂としては、例えば、反応性水酸基を有するアクリルポリオール若しくはポリエステルポリオールにポリイソシアネートを架橋剤として添加して架橋させたウレタン樹脂、メラミン樹脂又はフェノール樹脂を使用する。紫外線又は電子線硬化性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂を使用できる。アクリル樹脂としては、例えば、エポキシアクリル、エポキシメタクリル、ウレタンアクリレート又はウレタンメタクリレートを使用する。
【0034】
レリーフ構造形成層は、例えば、以下の方法より形成することができる。例えば、熱可塑性樹脂層に、レリーフ構造が設けられたスタンパを、熱を印加しながら押し当て、その後、熱可塑性樹脂層からスタンパを取り除く。或いは、紫外線硬化性樹脂からなる塗膜を形成し、これにスタンパを押し当てながら紫外線を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化させ、その後、塗膜からスタンパを取り除く。或いは、熱硬化性樹脂からなる塗膜を形成し、これにスタンパを押し当てながら加熱して熱硬化性樹脂を硬化させ、その後、塗膜からスタンパを取り除く。レリーフ構造形成層の厚さは、例えば、1μm以上25μm以下とすることができる。
【0035】
反射層としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層として、レリーフ構造形成層とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、レリーフ構造形成層と接触しているものの屈折率は、レリーフ構造形成層の屈折率とは異なっていることが望ましい。反射層は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。誘電体層又は誘電体多層膜には、無機化合物又は有機化合物を使用できる。
【0036】
無機化合物としては、例えば、酸化物、硫化物、及び窒化物が挙げられる。酸化物としては、例えば、金属酸化物やシリコン酸化物(SiO)を用いることができる。窒化物としては、例えば、金属窒化物を用いることができる。硫化物としては、例えば、金属硫化物を用いることができる。金属酸化物としては、例えば、チタン酸化物(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、又はアルミナを用いることができる。硫化物としては、例えば、硫化亜鉛(ZnS)又は硫化アルミニウム(AlS)を用いることができる。窒化物としては、例えば、窒化カルシウム(CaN)を用いることができる。
【0037】
反射層は、レリーフ構造形成層の2つの主面のうち、レリーフ構造が形成された主面であるレリーフ構造面の一部又は全部を覆っている。反射層がレリーフ構造面の一部を覆っている場合、反射層の輪郭の形状に対応したパターンを表示することができる。反射層の輪郭が表示するパターンは、レリーフ構造が表示するパターンと関連したものとすることができる。
【0038】
反射層のレリーフ構造面側とは反対側の面には、反射保護層が設けられていてもよい。反射保護層を部分的に開口した層として形成し、この反射保護層をエッチングマスクとして用いて、反射層のうち反射保護層で覆われていない部分を選択的にエッチングすることで、レリーフ構造面を部分的に覆った反射層を得ることができる。
【0039】
反射保護層には、例えば、無機化合物、ポリマー、又はそれらの組み合わせを用いることができる。無機化合物としては、例えば、酸化物又は窒化物を用いることができる。酸化物は、例えば、シリコン酸化物(SiO)又はアルミナであり、窒化物は、例えば、窒化カルシウム(CaN)、窒化チタン(TiN)又は窒化アルミニウム(AlN)である。ポリマーは、例えば、ウレタン樹脂又はアクリル樹脂である。
反射層の厚さは、例えば、10nm以上500nm以下とすることができる。
【0040】
本発明の更に他の側面によると、前記回折格子を構成する稜又は溝のピッチは、500nm乃至2000nmの範囲内にある上記側面の何れかに係る表示体が提供される。
【0041】
本発明の更に他の側面によると、前記複数の画素の各々は、縦方向及び横方向の寸法の各々が、10μm乃至200μmの範囲内にあり、好ましくは50μm乃至100μmの範囲内にある上記側面の何れかに係る表示体が提供される。ここで、「縦方向」は、表示体が表示する画像の上下方向である。また、「横方向」は、表示体が表示する画像の左右方向である。
【0042】
本発明の更に他の側面によると、前記サブ画素の各々は、縦方向の寸法が0.5μm乃至50μm、横方向の寸法が50μm乃至0.5μmの範囲内にあり、面積が10μm乃至100μmの範囲内にある上記側面の何れかに係る表示体が提供される。
【0043】
カラー表示を行う場合は、前記複数の画素の各々は、前記サブ画素の各々として、特定の角度で赤色を表示するサブ画素(サブ画素R)、先の特定の角度で緑色を表示するサブ画素(サブ画素G)、先の特定の角度で青色を表示するサブ画素(サブ画素B)を含むことができる。サブ画素R、サブ画素G、及びサブ画素Bの寸法の範囲は、上述した前記サブ画素の寸法の範囲と同様である。
【0044】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る表示体を含んだ転写材層と、前記転写材層を剥離可能に支持した支持体とを具備した転写箔が提供される。
【0045】
一例によれば、転写材層は、互いに隣接した転写部及び非転写部を含んでいる。転写部は、転写材層のうち、物品へ転写される部分であって、上記の表示体を含んでいる。非転写部は、転写材層のうち、物品へ転写されずに残留する部分である。非転写部は、転写部と同様の層構成を有している。
【0046】
支持体は、例えば、樹脂フィルム又はシートである。支持体は、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性に優れた材料からなる。支持体の転写材層を支持している主面には、例えばフッ素樹脂又はシリコーン樹脂を含んだ離型層が設けられていてもよい。支持体の厚さは、4μm以上50μm以下とすることができる。
【0047】
本発明の更に他の側面によると、前記転写材層は、前記表示体と前記支持体との間に介在した剥離保護層を更に含んだ上記側面に係る転写箔が提供される。
剥離保護層は、転写部の支持体からの剥離を容易にするとともに、剥離した転写部、即ち、表示体の表面を損傷及び劣化から保護する役割を果たす。剥離保護層は、例えば、光透過性を有している。剥離保護層は、例えば樹脂からなる。剥離保護層を構成している樹脂は、例えば、紫外線硬化した樹脂、熱硬化した樹脂、又は、熱可塑性樹脂である。この樹脂には、例えば、アクリル樹脂を用いることができる。剥離保護層の厚さは、例えば、0.5μm以上5μm以下とすることができる。
【0048】
本発明の更に他の側面によると、前記転写材層を被覆した接着層を更に具備した転写箔が提供される。
【0049】
接着層は、例えば熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、及びオレフィン樹脂が挙げられる。接着層の厚さは、例えば、0.5μm以上20μm以下とすることができる。
【0050】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る表示体と、前記表示体の一方の主面に設けられた粘着層とを具備した粘着ラベルが提供される。
【0051】
粘着層は、感圧接着剤などの粘着剤からなる。粘着剤としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル系ポリアミド、又は、アクリル系、ブチルゴム系、天然ゴム系、シリコーン系若しくはポリイソブチル系粘着剤を使用する。
【0052】
粘着剤は、添加剤を更に含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、アルキルメタクリレート、ビニルエステル、アクリルニトリル、スチレン及びビニルモノマーなどの凝集成分;不飽和カルボン酸、ヒドロキシ基含有モノマー及びアクリルニトリルなどの改質成分;重合開始剤;可塑剤;硬化剤;硬化促進剤;酸化防止;又はそれらの2つ以上を含んだ混合物を使用する。
【0053】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る表示体と、前記表示体を支持した物品とを具備した表示体付き物品が提供される。
【0054】
物品は、どのような方法で表示体を支持していてもよい。例えば、表示体は、物品の表面に貼り付けられていてもよく、物品内に埋め込まれていてもよい。
【0055】
本発明の更に他の側面によると、前記物品は、プラスチック、金属、紙、又はそれらの複合体を含んだ上記側面に係る表示体付き物品が提供される。
【0056】
本発明の更に他の側面によると、前記物品は紙を含み、前記表示体は前記紙に漉き込まれ、前記紙は前記表示体の位置で開口している上記側面の何れかに係る表示体付き物品が提供される。
【0057】
本発明の更に他の側面によると、前記表示体付き物品は、紙幣、有価証券、証明書類、クレジットカード、パスポート及びID(identification)カードなどの個人認証媒体、内容物を包装した包装体である上記側面の何れかに係る表示体付き物品が提供される。
【0058】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る表示体を製造するために使用するスタンパが提供される。
【0059】
本発明の更に他の側面によると、上記側面に係るスタンパの製造方法であって、撮影角度を変化させながら物体を撮影することにより得られる複数の画像データの各々と、前記撮影角度に0より大きく且つ1未満の係数を乗じることにより得られる観察角度とを関連付けることと、前記観察角度と各々が関連付けられた前記複数の画像データから、描画パターンを生成することと、前記描画パターンに従ってレジスト膜への電子線描画を行い、レジストパターンを得ることとを含んだスタンパの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】本発明の第1実施形態に係る表示体を概略的に示す平面図。
図2図1の表示体の一部を拡大して示す平面図。
図3図1及び図2の表示体が含んでいる画素の一例を拡大して示す平面図。
図4図1及び図2に示す表示体の一部を概略的に示す断面図。
図5図1及び図2に示す表示体の製造に使用可能なスタンパの製造方法の一例を示すフローチャート。
図6】撮影方法の一例を概略的に示す斜視図。
図7図1及び図2の表示体を観察者が観察している様子を示す斜視図。
図8】本発明の第2実施形態に係る表示体が含んでいる画素の一例を概略的に示す平面図。
図9】画素に図8の構造を採用した表示体が、正面から観察した場合に表示する画像の一例を示す図。
図10】画素に図8の構造を採用した表示体が、右斜め方向から観察した場合に表示する画像の一例を示す図。
図11】画素に図8の構造を採用した表示体が、右斜め方向からより深い角度で観察した場合に表示する画像の一例を示す図。
図12】画素に図8の構造を採用した表示体が、左斜め方向から観察した場合に表示する画像の一例を示す図。
図13】画素に図8の構造を採用した表示体が、左斜め方向からより深い角度で観察した場合に表示する画像の一例を示す図。
図14】本発明の一実施形態に係る転写箔を概略的に示す断面図。
図15】本発明の一実施形態に係る粘着ラベルを概略的に示す断面図。
図16】本発明の一実施形態に係る表示体付き物品を概略的に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0062】
<表示体>
先ず、本発明の実施形態に係る表示体について説明する。
【0063】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1の表示体の一部を拡大して示す平面図である。図3は、図1及び図2の表示体が含んでいる画素の一例を拡大して示す平面図である。図4は、図1及び図2に示す表示体の一部を概略的に示す断面図である。
【0064】
なお、図4に示す断面は、図3に示す構造のIV−IV線に沿った断面である。また、図1乃至図4において、X方向及びY方向は、表示体1の主面に平行であり且つ互いに直交する方向である。ここでは、X方向及びY方向は、それぞれ、表示体1の横方向及び縦方向である。Z方向は、X方向及びY方向に垂直な方向であり、表示体1の厚さ方向である。
【0065】
図1図2及び図4に示す表示体1は、図4に示すように、レリーフ構造形成層11と反射層12とを含んでいる。この表示体1は、レリーフ構造形成層11側が観察者と向き合う前面であり、反射層12側が背面である。この表示体1は、反射層12側が観察者と向き合う前面であり、レリーフ構造形成層11側が背面であってもよい。何れの場合も、反射層12は、レリーフ構造形成層11のレリーフ面と接するように設置される。
【0066】
この表示体1は、図2に示すように、互いに交差する方向に配列した複数の画素PXを含んでいる。ここでは、画素PXは、X方向及びY方向に配列している。画素PXの少なくとも一方の配列方向は、X方向及びY方向に対して斜めであってもよい。
【0067】
各画素PXは、複数のサブ画素を含んでいる。各画素PXにおいて、それが含んでいる複数のサブ画素は、それぞれ、観察角度を変化させることによって順次再生される複数の回折画像の画像要素に対応している。即ち、或る画素PXが含んでいるサブ画素の1つは、複数の回折画像のうちの1つが含んでいる画像要素の1つに対応している。そして、先の画素PXが含んでいるサブ画素の他の1つは、複数の回折画像のうちの他の1つが含んでいる画像要素のうち、先の1つの画像要素と位置が同じものに対応している。
【0068】
サブ画素の各々は、法線方向から照明光で照明した場合に、回折光を射出しないか、又は、回折光を射出する。回折光を射出しないサブ画素は、回折格子を含んでいない。他方、回折光を射出するサブ画素は、回折格子DGを含んでいる。
【0069】
回折格子DGを含んだサブ画素において、サブ画素に占める回折格子DGの面積比は、それらサブ画素間で一定であってもよく、異なっていてもよい。後者の構造によると、階調表示が可能となる。
【0070】
この回折格子DGは、幅方向に配列した複数の稜又は溝PRからなるレリーフ型の回折格子である。1つの画素PXが、回折光を射出するサブ画素を2以上含んでいる場合、それらサブ画素は、回折格子DGの稜又は溝PRの長さ方向が僅かに異なっている。
【0071】
なお、図3に示す例では、各画素PXが含んでいるサブ画素は、Y方向に各々が延び、X方向に配列している。また、図3に示す画素PXでは、それを構成している全てのサブ画素が回折格子DGを含んでいる。これらサブ画素には、他の形状や他の配列を採用してもよい。
【0072】
次に、この表示体1の製造方法について説明する。
図5は、図1及び図2に示す表示体の製造に使用可能なスタンパの製造方法の一例を示すフローチャートである。図6は、撮影方法の一例を概略的に示す斜視図である。
【0073】
表示体1の製造に際しては、先ず、以下の方法により画像データを取得する。
即ち、図6に示すように、被写体としての物体SBを準備する。ここでは、物体SBは人物である。
【0074】
次に、物体SB又はその近傍を通る直線、例えば垂線を回転軸として撮影角度θを角度θ1から角度θ2まで変化させながら、物体SBをデジタルカメラCMで連続的に撮影する(ステップS1)。このようにして、観察角度毎に画像データを取得する。ここでは、画像データは、人物の顔画像を含んだ画像データである。
【0075】
次いで、図示しないコンピュータによって、以下の処理を行う。
先ず、撮影角度θに係数Aを乗じることにより得られる観察角度φを算出する。そして、画像データと観察角度φとを関連付ける。例えば、各画像データに観察角度φを追加する(ステップS2)。
【0076】
ここで、係数Aは0より大きく且つ1未満の数値である。係数Aは、撮影角度θの範囲に対応した動画データを、これよりも狭い観察角度φの範囲の動画データへと変換するための係数である。係数Aは、0.62乃至0.72の範囲内にあることが好ましい。
【0077】
次に、これら画像データから、描画パターンを生成する(ステップS3)。例えば、先ず、或る画像データについて、その画像データと関連付けた観察角度φに対応したサブ画素への回折格子DGの形成の要否を、画素PX毎に判断する。そして、回折格子DGの形成が必要であると判断したサブ画素について、先の観察角度φに対応した回折格子DGを形成するための描画パターンを生成する。これと同様の処理を他の画像データについても行う。このようにして、全ての観察角度φについて描画パターンを生成する。なお、或る観察角度φに対応した回折格子DGは、稜又は溝PRの長さ方向に平行な面が観察方向に対して垂直である。
【0078】
次に、平滑な表面を有する基板、例えばガラス基板上に感光性レジスト材料を塗布して、均一な厚さを有するレジスト膜を形成する。感光性レジスト材料は、ポジ型及びネガ型の何れであってもよい。
【0079】
次に、上記の描画パターンに従って、レジスト膜への電子線描画を実行する(ステップS4)。続いて、このレジスト膜を現像して、レジストパターンを得る(ステップS5)。なお、感光性レジスト材料がポジ型である場合、レジスト膜のうち電子線を照射した部分が、現像液に対して可溶化する。或いは、感光性レジスト材料がネガ型である場合、レジスト膜のうち電子線を照射した部分が、現像液に対して不溶化する。
【0080】
次に、このようにして得られた構造体を原版として用いて、電鋳等の方法により金属製のスタンパを作成する(ステップS6)。電鋳によりスタンパを製造する場合、例えば、先ず、原版の表面に、スパッタリング及び真空蒸着などの気相堆積法により金属薄膜を形成する。次いで、原版をめっき液に浸漬させ、この状態で通電することにより、めっき液中の金属イオンを原版上に電析させる。その後、これにより得られた金属製の構造体から原版を取り除くことにより、スタンパを得る。電析を利用すると、原版の表面に設けられたレリーフ構造を精度よく複製することができる。
【0081】
次に、図4に示すレリーフ構造形成層11を形成する。レリーフ構造形成層11は、例えば、ポリカーボネート又はポリエステルなどからなる基材上に形成する。
【0082】
レリーフ構造形成層11は、例えば、以下の方法より形成することができる。例えば、熱可塑性樹脂層に、レリーフ構造が設けられた上記スタンパを、熱を印加しながら押し当て、その後、熱可塑性樹脂層からスタンパを取り除く。或いは、紫外線硬化性樹脂からなる塗膜を形成し、これにスタンパを押し当てながら紫外線などの放射線を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化させ、その後、塗膜からスタンパを取り除く。或いは、熱硬化性樹脂からなる塗膜を形成し、これにスタンパを押し当てながら加熱して熱硬化性樹脂を硬化させ、その後、塗膜からスタンパを取り除く。
【0083】
次いで、レリーフ構造形成層11のレリーフ構造が設けられた面に、反射層12を形成する。反射層12は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。気相堆積法によって得られた膜からは、その一部をエッチングなどによって除去してもよい。
以上のようにして、図1及び図2に示す表示体1を得る。
【0084】
この表示体1は、以下に説明する光学効果を奏する。
図7は、図1及び図2の表示体を観察者が観察している様子を示す斜視図である。なお、図7において、参照符号OBは観察者を表している。
【0085】
この表示体1は、観察角度φを変化させることにより、撮影角度θを変化させながら物体SBを撮影することにより得られた複数の画像を回折画像として順次再生する。この動画によって表現される物体SBの回転の角度θ’の大きさは、角度θ2と角度θ1との差に等しい。
【0086】
上記の通り、観察角度φは、撮影角度θに係数Aを乗じることにより得られる値と等しい。それ故、上記の回転を生じる観察角度φの範囲は、角度φ1(=θ1×A)から角度φ2(=θ2×A)までの角度範囲である。
【0087】
角度φ2と角度φ1との差(θ2−θ1)×Aは、先の動画によって表現される物体SBの回転の角度の大きさθ2−θ1よりも小さい。即ち、この表示体1は、観察角度φの変化の大きさに対して、動画によって表現される物体SBの回転の角度θ’の大きさがより大きい。それ故、観察角度φの変化が小さくても、動画において物体SBは大きく回転し得る。従って、この表示体1が表示する動画は、観察者へ強い印象を与え得る。例えば、観察者は、この動画はダイナミックに変化するという印象を受ける。
【0088】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る表示体は、以下に説明する構造を画素PXに採用したこと以外は、第1実施形態に係る表示体と同様である。
【0089】
図8は、本発明の第2実施形態に係る表示体が含んでいる画素の一例を概略的に示す平面図である。図9は、画素に図8の構造を採用した表示体が、正面から観察した場合に表示する画像の一例を示す図である。図10は、画素に図8の構造を採用した表示体が、右斜め方向から観察した場合に表示する画像の一例を示す図である。図11は、画素に図8の構造を採用した表示体が、右斜め方向からより深い角度で観察した場合に表示する画像の一例を示す図である。図12は、画素に図8の構造を採用した表示体が、左斜め方向から観察した場合に表示する画像の一例を示す図である。図13は、画素に図8の構造を採用した表示体が、左斜め方向からより深い角度で観察した場合に表示する画像の一例を示す図である。
【0090】
図8に示す画素PXは、広範囲表示用の領域RAと狭範囲表示用の領域RBとを含んでいる。
【0091】
広範囲表示用の領域RAは、複数の第1サブ画素を含んでいる。これら第1サブ画素は、第1実施形態におけるサブ画素に相当している。領域RAの集合は、第1実施形態における画素PXの集合と同様に、撮影角度範囲αに亘って撮影角度θを変化させながら撮影を行うことにより取得した画像を、観察角度範囲β(<α)内で観察角度φを変化させることにより、回折画像として順次再生する。
【0092】
狭範囲表示用の領域RBは、複数の第2サブ画素を含んでいる。これら第2サブ画素は、第1実施形態におけるサブ画素のうち、観察角度φを第3観察角度範囲β3内で変化させた場合に回折画像を順次表示するためのサブ画素に相当している。領域RBの集合は、第3撮影角度範囲α3に亘って撮影角度θを変化させながら撮影を行うことにより取得した画像を、第3観察角度範囲β3(<α3)内で観察角度φを変化させることにより、回折画像として順次再生する。
【0093】
このように、広範囲表示用の領域RAは、観察角度範囲βの全域に亘って表示に寄与する。他方、狭範囲表示用の領域RBは、第3観察角度範囲β3においてのみ表示に寄与する。即ち、この表示体では、第1観察角度範囲β1及び第2観察角度範囲β2では、広範囲表示用の領域RAのみが表示に寄与し、第3観察角度範囲β3では、広範囲表示用の領域RA及び狭範囲表示用の領域RBの双方が表示に寄与する。
【0094】
第2実施形態では、第1サブ画素のうち第3観察角度範囲β3においてのみ表示に寄与するものと、第2サブ画素とを、法線方向から照明光で照射した場合に、同じ方向へ回折光を射出するように設計する。そのような設計を採用すると、表示体が第3観察角度範囲β3内で再生する回折画像は、表示体が第1観察角度範囲β1及び第2観察角度範囲β2内で再生する回折画像と比較してより明るくなる。即ち、上記の設計を採用すると、表示体が再生する回折画像のうち、観察角度φが第1値φ1より小さい場合に再生される画像と、観察角度φが第1値φ1と比較してより大きい第2値φ2を超える場合に再生される画像とは、観察角度φが第1値φ1乃至第2値φ2の範囲内にある場合に再生される画像と比較してより暗くなる。それ故、この設計を採用した表示体は、例えば、観察角度φを第1値φ1乃至第2値φ2の範囲内から第1値φ1未満又は第2値φ2超へ変化させた場合に、画像の明るさが低下する。
【0095】
例えば、観察角度φを第1値φ1と第2値φ2との中間とした場合には、表示体は図9に示す画像I3を表示する。観察角度φをこの状態から第1値φ1へ近づけると、表示体が表示する画像は、図9に示す画像I3から図10に示す画像I1aへと変化する。即ち、表示体が表示する画像は、明るさを変化させることなしに、物体SBが時計回りに回転する。観察角度φを更に小さくして第1値φ1未満とすると、表示体が表示する画像は、図10に示す画像I1aから図11に示す画像I1bへと変化する。即ち、表示体が表示する画像は、物体SBが時計回りに更に回転するとともに、明るさが低下する。
【0096】
また、観察角度φを、第1値φ1と第2値φ2との中間としている状態から第2値φ2へ近づけると、表示体が表示する画像は、図9に示す画像I3から図12に示す画像I2aへと変化する。即ち、表示体が表示する画像は、明るさを変化させることなしに、物体SBが反時計回りに回転する。観察角度φを更に大きくして第2値φ2超とすると、表示体が表示する画像は、図12に示す画像I2aから図13に示す画像I2bへと変化する。即ち、表示体が表示する画像は、物体SBが反時計回りに更に回転するとともに、明るさが低下する。
【0097】
画像が暗くなると、ゴースト像の明るさも低下し、ゴースト像が画像の鮮明さに及ぼす影響は小さくなる。また、画像が暗くなると、正像とゴースト像との重なり合いに起因したぼやけも知覚され難くなる。従って、この表示体は、観察者に不自然な印象を与えることなしに、比較的広い角度範囲内で動画を表示することが可能である。
【0098】
また、この表示体は、第1実施形態に係る表示体1と同様に、観察角度φの変化が小さくても、動画において物体SBは大きく回転し得る。従って、この表示体が表示する動画は、観察者へ強い印象を与え得る。例えば、観察者は、この動画はダイナミックに変化するという印象を受ける。
【0099】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る表示体は、以下に説明する構造を画素PXに採用したこと以外は、第2実施形態に係る表示体と同様である。
【0100】
第2実施形態では、第1サブ画素のうち第3観察角度範囲β3においてのみ表示に寄与するものと、第2サブ画素とを、法線方向から照明光で照射した場合に、同じ方向へ回折光を射出するように設計している。これに対し、第3実施形態では、第1サブ画素のうち第3観察角度範囲β3においてのみ表示に寄与するものと、第2サブ画素とは、法線方向から照明光で照射した場合に、異なる方向へ回折光を射出するように設計する。
【0101】
この設計を採用すると、観察角度φを第1観察角度範囲β1及び第2観察角度範囲β2内で変化させた場合の各々において、観察角度φをそれらの間の第3観察角度範囲β3内で変化させた場合と比較して、観察角度φの変化量に対する再生される回折画像の数の比がより小さくなる。
【0102】
観察角度φの変化量に対する再生される画像の数の比を大きくすると、観察角度φの変化に応じた画像の変化は滑らかになる。一方、この比を小さくすると、観察角度φの変化に応じた画像の変化の滑らかさは低下する。但し、動画の明るさは、この比が小さな第1観察角度範囲β1及び第2観察角度範囲β2では、この比が大きな第3観察角度範囲β3と比較してより暗い。それ故、この比が小さな第1観察角度範囲β1及び第2観察角度範囲β2では、観察角度の変化に応じた画像の変化の滑らかさが低いとしても、それが観察者に不自然な印象を与える可能性は小さい。
【0103】
また、動画を暗くした場合、正像とゴースト像との重なり合いに起因したぼやけは知覚され難くなる。従って、この点でも、この設計を採用した表示体は、観察者に不自然な印象を与えることなしに、比較的広い角度範囲内で動画を表示することが可能である。
【0104】
また、この表示体は、第1実施形態に係る表示体1と同様に、観察角度φの変化が小さくても、動画において物体SBは大きく回転し得る。従って、この表示体が表示する動画は、観察者へ強い印象を与え得る。例えば、観察者は、この動画はダイナミックに変化するという印象を受ける。
【0105】
<転写箔>
次に、本発明の一実施形態に係る転写箔について説明する。
図14は、本発明の一実施形態に係る転写箔を概略的に示す断面図である。
【0106】
図14に示す転写箔2は、支持体21と転写材層22と接着層23とを含んでいる。
支持体21は、転写材層22を剥離可能に支持している。
接着層23は、転写材層22を被覆している。
【0107】
転写材層22は、レリーフ構造形成層221と、反射層222と、剥離保護層223とを含んでいる。剥離保護層223、レリーフ構造形成層221、及び反射層222は、この順に、支持体21上に積層されている。
【0108】
転写材層22は、互いに隣接した転写部TP1及び非転写部TP2を含んでいる。
転写部TP1は、転写材層22のうち、物品へ転写される部分であって、第1乃至第3実施形態において説明した何れかの表示体を含んでいる。非転写部TP2は、転写材層22のうち、物品へ転写されずに残留する部分である。
【0109】
<粘着ラベル>
次に、本発明の一実施形態に係る粘着ラベルについて説明する。
図15は、本発明の一実施形態に係る粘着ラベルを概略的に示す断面図である。
【0110】
図15に示す粘着ラベル3は、基材31と表示体1と粘着層32とを含んでいる。なお、図15において、なお、参照符号4は、台紙を表している。
【0111】
基材31は、例えば、透明樹脂フィルムである。基材31は、その一方の主面に表示体1を支持している。ここで、表示体1は、第1乃至第3実施形態において説明した何れかの表示体である。
【0112】
粘着層32は、表示体1の一方の主面に設けられている。粘着層32は、表示体1を間に挟んで基材31と向き合っている。粘着層32は、粘着ラベル3の使用直前まで、台紙4によって保護される。
【0113】
<表示体付き物品>
次に、本発明の一実施形態に係る表示体付き物品について説明する。
図16は、本発明の一実施形態に係る表示体付き物品を概略的に示す平面図である。
【0114】
図16に示す表示体付き物品5は、印刷物である。表示体付き物品5としては、例えば、商品券、有価証券、紙幣、ID(identification)カード、及びパスポートが挙げられる。
【0115】
この表示体付き物品5は、表示体1と、これを支持した物品51とを含んでいる。
物品51は、紙などの印刷基材52と、これに設けられた印刷層53とを含んでいる。印刷基材52としては、例えば、紙基材、透明樹脂基材、又は不透明樹脂基材を用いることができる。
【0116】
表示体1は、第1乃至第3実施形態において説明した何れかの表示体である。表示体1は、例えば、この物品51の表面に貼り付けるか又はこの物品51内に埋め込まれることにより、物品51によって支持されている。一例によれば、表示体1は、粘着ラベル又は転写箔を用いて、物品51に貼り付けられる。
【0117】
物品51が透明である場合には、表示体1は物品51の中に埋め込まれていてもよい。このような構造は、例えば、複数の透明樹脂基材の間に表示体1を挟み込み、これら透明樹脂基材をラミネートすることにより得ることができる。
【0118】
また、印刷基材52として紙基材や不透明樹脂基材を用いた場合のように、物品51が不透明である場合には、上記の構造は、例えば、以下の方法により得ることができる。先ず、複数の紙基材又は不透明樹脂基材の間に表示体1を挟み込んで、これらを一体化する。次に、表示体1を視認可能となるように、それら基材の1以上の表示体1に対応する部分にウインドウを設ける。
【0119】
物品51の印刷層53は、表示体1が表示する上記画像の元となる画像を用いて作成された印刷画像を表示するものであってもよい。この場合、この印刷画像と表示体1が表示する上記画像とは対応しているため、印刷画像及び表示体1の何れか一方が不正に交換されたか又は書き換えられたとしても、不正行為がなされたことを検知できる。一例によれば、動物又は人物等の同一の画像を、印刷画像及び表示体1が表示する元画像とする。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
撮影角度を変化させながら物体を撮影することにより得られる複数の画像が、観察角度を変化させることにより順次再生される複数の回折画像として記録された表示体であって、前記観察角度の変化の大きさに対して、複数の回折画像が順次再生されることによって表現される前記物体の回転の角度の大きさがより大きい表示体。
[2]
前記観察角度の変化の大きさに対する、前記物体の回転の角度の大きさの比が、1.4乃至1.6の範囲内にある項1に記載の表示体。
[3]
前記複数の回折画像のうち、前記観察角度が第1値より小さい場合に再生される画像と、前記観察角度が前記第1値と比較してより大きい第2値を超える場合に再生される画像とは、前記観察角度が前記第1値乃至前記第2値の範囲内にある場合に再生される画像と比較してより暗い項1又は2に記載の表示体。
[4]
前記観察角度を第1観察角度範囲内で変化させた場合、及び、前記観察角度を前記第1観察角度範囲の上限値よりも大きな下限値を有する第2観察角度範囲内で変化させた場合の各々において、前記観察角度を前記第1観察角度範囲の上限値よりも大きな下限値を有し且つ前記第2観察角度範囲の下限値よりも小さな上限値を有する第3観察角度範囲内で変化させた場合と比較して、前記観察角度の変化量に対する再生される画像の数の比がより小さい項1乃至3の何れか1項に記載の表示体。
[5]
表面にレリーフ構造を有するレリーフ構造形成層と、前記表面を被覆した反射層とを具備し、前記レリーフ構造は、前記レリーフ構造形成層と前記反射層との界面又は前記反射層の表面に、前記複数の回折画像を再生する回折格子を形成した項1乃至4の何れか1項に記載の表示体。
[6]
項1乃至5の何れか1項に記載の表示体を含んだ転写材層と、前記転写材層を剥離可能に支持した支持体とを具備した転写箔。
[7]
項1乃至5の何れか1項に記載の表示体と、前記表示体の一方の主面に設けられた粘着層とを具備した粘着ラベル。
[8]
項1乃至5の何れか1項に記載の表示体と、これを支持した物品とを備えた表示体付き物品。
[9]
項5に記載の表示体を製造するために使用するスタンパ。
[10]
撮影角度を変化させながら物体を撮影することにより得られる複数の画像データの各々と、前記撮影角度に0より大きく且つ1未満の係数を乗じることにより得られる観察角度とを関連付けることと、
前記観察角度と各々が関連付けられた前記複数の画像データから、描画パターンを生成することと、
前記描画パターンに従ってレジスト膜への電子線描画を行い、レジストパターンを得ることと
を含んだスタンパの製造方法。
【符号の説明】
【0120】
1…表示体、2…転写箔、3…粘着ラベル、4…台紙、5…表示体付き物品、11…レリーフ構造形成層、12…反射層、21…支持体、22…転写材層、23…接着層、31…基材、32…粘着層、51…物品、52…印刷基材、53…印刷層、221…レリーフ構造形成層、222…反射層、223…剥離保護層、CM…デジタルカメラ、DG…回折格子、PR…稜又は溝、PX…画素、RA…広範囲表示用の領域、RB…狭範囲表示用の領域、SB…物体、TP1…転写部、TP2…非転写部。
【要約】
【課題】観察角度を変化させることによって回折画像を順次再生して、物体の回転を表現する動画を表示する表示体について、その動画が観察者へ強い印象を与えることを可能とする技術を提供する。
【解決手段】本発明の表示体は、撮影角度を変化させながら物体SBを撮影することにより得られる複数の画像が、観察角度を変化させることにより順次再生される複数の回折画像として記録された表示体であって、前記観察角度の変化の大きさに対して、複数の回折画像が順次再生されることによって表現される前記物体SBの回転の角度の大きさがより大きい。
【選択図】図6
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