特許第6696435号(P6696435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6696435
(24)【登録日】2020年4月27日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】オレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/18 20060101AFI20200511BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20200511BHJP
   C07C 43/17 20060101ALI20200511BHJP
   C07C 17/00 20060101ALI20200511BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20200511BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200511BHJP
【FI】
   C07C41/18
   C07C21/18
   C07C43/17
   C07C17/00
   B01J31/22 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】12
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-566397(P2016-566397)
(86)(22)【出願日】2015年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2015085856
(87)【国際公開番号】WO2016104518
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年7月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-266096(P2014-266096)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼平 祐介
【審査官】 薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/003085(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/079126(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/033927(WO,A1)
【文献】 MACNAUGHTAN, M.L.,RUTHENIUM-CATALYZED METATHESIS WITH DIRECTLY FUNCTIONALIZED OLEFINS,[online], 2009,The University of Michigan
【文献】 CHATTERJEE, A.K., et al.,Journal of the American Chemical Society,2003年,Vol.125,pp.11360-11370
【文献】 SCHROCK, R.R.,Chemistry in New Zealand,2011年,pp.117-121
【文献】 SCHROCK, R.R., et al.,Angewandte Chemie International Edition,2003年,Vol.42,pp.4592-4633
【文献】 TRNKA, T.M., et al.,Olefin Metathesis with 1,1-Difluoroethylene,Angewandte Chemie International Edition,2001年,Vol.40, No.18,p.3441-3444
【文献】 TAKAHIRA, Y., et al.,Journal of the American Chemical Society,2015年,Vol.137,pp.7031-7034
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(11)で表される化合物、下記式(12)で表される化合物、下記式(13)で表される化合物、下記式(14)で表される化合物、及び下記式(15)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属触媒の存在下、下記式(21)で表されるオレフィン化合物と下記式(31)で表されるオレフィン化合物を反応させることにより、下記式(51)で表される化合物、下記式(52)で表される化合物、下記式(53)で表される化合物及び下記式(54)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のオレフィン化合物を製造する方法。
【化1】

ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
[L]はイミド配位子、および、酸素原子が二座配位した配位子を有する配位子である。Mはモリブデン又はタングステンである。
〜Aはそれぞれ独立して、下記官能基(i)、官能基(ii)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。A及びAは互いに結合して環を形成してもよい。A及びAは互いに結合して環を形成してもよい。A及びAは互いに結合して環を形成してもよい。ただし、A及びAの一方がハロゲン原子である場合、他方は官能基(i)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。A及びAの一方がハロゲン原子である場合、他方は官能基(i)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。A及びAの一方がハロゲン原子である場合、他方は官能基(i)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。
及びXはそれぞれ独立して、下記官能基(i)、官能基(ii)、官能基(v)、及び官能基(vi)からなる群から選ばれる官能基であり、互いに結合して環を形成してもよい。
官能基(i):水素原子。
官能基(ii):ハロゲン原子。
官能基(iii):炭素数1〜20の一価炭化水素基。
官能基(iv):ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基。
官能基(v):炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数5〜20のアリール基、炭素数5〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、及び炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基からなる群から選ばれる官能基。
官能基(vi):酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む前記官能基(v)。
【請求項2】
前記式(21)で表されるオレフィン化合物が、Xがフッ素原子であり、Xが水素原子、ハロゲン原子、フッ素原子を1以上含む炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記式(21)で表されるオレフィン化合物が、下記式で表わされるオレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種のオレフィン化合物である、請求項1または2に記載の製造方法。
【化2】

ただし、Rは炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基である。
【請求項4】
反応開始時における前記金属触媒が、下記式で表わされる化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【化3】

ただし上記式における[L]はイミド配位子、および、酸素原子が二座配位した配位子を有する配位子であり、Mはモリブデン又はタングステンである。
【請求項5】
前記式(31)で表されるオレフィン化合物が、エチレン、一置換オレフィン又は1,2−二置換オレフィンである、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記式(31)で表されるオレフィン化合物のAが水素原子であり、Aが水素原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基の組み合わせである、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記式(31)で表されるオレフィン化合物が、下記式で表わされるオレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種のオレフィン化合物である、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【化4】

ただし上記式におけるRは炭素数1〜12のアルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12のアルキル基である。またArは炭素数5〜12のアリール基である。
【請求項8】
前記式(31)で表わされるオレフィン化合物が、オレフィンの炭素原子の隣にヘテロ原子が存在するオレフィン化合物である、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ヘテロ原子が酸素原子又は窒素原子である請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記式(51)で表される化合物、前記式(52)で表される化合物、前記式(53)で表される化合物及び前記式(54)で表される化合物として、下記式で表されるオレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種のオレフィン化合物を製造することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【化5】

ただし上記式におけるRは炭素数1〜12のアルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12のアルキル基である。またArは炭素数5〜12のアリール基である。
【請求項11】
前記式(21)で表されるオレフィン化合物と前記式(31)で表されるオレフィン化合物を反応させる際の温度が0〜150℃である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
溶媒を用いない請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンメタセシスによりオレフィンを製造する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン中の水素原子の一部又は全てがフッ素原子で置換された化合物、すなわち含フッ素オレフィンには、産業上有用な化合物が知られている。例えば1,1,2−トリフルオロスチレン等の1,1,2−トリフルオロ−2−置換オレフィンは、有機合成素子や重合原料、高分子電解質の原料等として、また1,1−ジフルオロ−2,2−二置換オレフィンは酵素阻害剤等の医薬品、強誘電性材料等の原料として有用な化合物である。しかしながら、これらの化合物を簡便かつ効率的に製造する方法は確立されていない。例えば、非特許文献1には、1,1−ジフルオロ−2,2−二置換オレフィンを、カルボニル化合物のWittig反応(ジフルオロメチリデン化反応)で製造することが報告されている。しかしカルボニル化合物がケトンである場合には、Wittig試薬を過剰量(4〜5当量以上)用いても収率が低く、さらにはリン化合物として、発癌性のヘキサメチル亜リン酸トリアミドを用いる必要がある。
【0003】
そのため、工業的に入手容易なテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等の含フッ素オレフィンから別の含フッ素オレフィン(例えば1,1−ジフルオロ−2,2−二置換オレフィン等)が簡便かつ効率的に製造できれば、既存手法と比較して極めて有用な合成手法となり得る。
【0004】
一方、金属触媒による二重結合組み換え反応であるオレフィンメタセシス反応(以下、単に、「オレフィンメタセシス」ということもある。)は多彩な置換基を有するオレフィンの製造方法として広く利用されている。しかし、電子求引性置換基を有する電子不足オレフィンは反応性が低いため、オレフィンメタセシスに利用することは容易ではない。例えば非特許文献2では、種々の置換基を有するオレフィンの反応性が調べられており、電子不足オレフィンの反応性が低いと記載されている。実際、フッ素原子や塩素原子等、ハロゲン原子を有するオレフィンも電子不足オレフィンであるため、オレフィンメタセシスに用いた報告はほとんどない。例えば、非特許文献3において、ルテニウム錯体とフッ化ビニリデン(すなわち、1,1−ジフルオロエチレン)のオレフィンメタセシスが検討されたが、期待した生成物すなわちエチレン及びテトラフルオロエチレンは全く得られなかったと述べられている。このように、ハロゲン原子を有するオレフィンをオレフィンメタセシスに利用することは実用的ではない。中でも、テトラフルオロエチレンやヘキサフルオロプロピレンは、工業的に入手容易で事業化の観点から有用な化合物であるが、極めて電子不足なオレフィンであるだけでなく、その取扱いの難しさ等のため、オレフィンメタセシスに利用した報告はこれまでなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lim,M.H.et al.,Org.Lett.,2002,4,529−531.
【非特許文献2】Chatterjee,A.K.et al.,J.Am.Chem.Soc.,2003,125,11360−11370.
【非特許文献3】Trnka,T.et al.,Angew.Chem.Int.Ed.,2001,40,3441−3444.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明では、オレフィンメタセシスによって、テトラフルオロエチレンやヘキサフルオロプロピレン等の工業的に容易に入手可能な含フッ素オレフィンから、簡便かつ効率的に1,1−ジフルオロ−2−置換オレフィン等別の含フッ素オレフィンを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研鑽を積んだ結果、モリブデン又はタングステン−炭素二重結合を有する金属触媒の存在下、テトラフルオロエチレン等の含フッ素オレフィンと有機基で置換されたオレフィンが温和な条件下で別の含フッ素オレフィンを与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の〔1〕〜〔13〕に関する。
〔1〕
下記式(11)で表される化合物、下記式(12)で表される化合物、下記式(13)で表される化合物、下記式(14)で表される化合物、及び下記式(15)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属触媒の存在下、下記式(21)で表されるオレフィン化合物と下記式(31)で表されるオレフィン化合物を反応させることにより、下記式(51)で表される化合物、下記式(52)で表される化合物、下記式(53)で表される化合物及び下記式(54)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のオレフィン化合物を製造する方法。
【0008】
【化1】
【0009】
ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
[L]は配位子である。Mはモリブデン又はタングステンである。
〜Aはそれぞれ独立して、下記官能基(i)、官能基(ii)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。A及びAは互いに結合して環を形成してもよい。A及びAは互いに結合して環を形成してもよい。A及びAは互いに結合して環を形成してもよい。ただし、A及びAの一方がハロゲン原子である場合、他方は官能基(i)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。A及びAの一方がハロゲン原子である場合、他方は官能基(i)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。A及びAの一方がハロゲン原子である場合、他方は官能基(i)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。
及びXはそれぞれ独立して、下記官能基(i)、官能基(ii)、官能基(v)、及び官能基(vi)からなる群から選ばれる官能基であり、互いに結合して環を形成してもよい。
官能基(i):水素原子。
官能基(ii):ハロゲン原子。
官能基(iii):炭素数1〜20の一価炭化水素基。
官能基(iv):ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基。
官能基(v):炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数5〜20のアリール基、炭素数5〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、及び炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基からなる群から選ばれる官能基。
官能基(vi):酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む前記官能基(v)。
[2]
前記式(21)で表されるオレフィン化合物が、Xがフッ素原子であり、Xが水素原子、ハロゲン原子、フッ素原子を1以上含む炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基である、前記[1]に記載の製造方法。
[3]
前記式(21)で表されるオレフィン化合物が、下記式で表わされるオレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種のオレフィン化合物である、前記[1]または[2]に記載の製造方法。
【0010】
【化2】
【0011】
ただし、Rは炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基である。
[4]
前記金属触媒が配位子[L]として、イミド配位子、および、酸素原子が二座配位した配位子を有する、前記[1]〜[3]のいずれか一に記載の製造方法。
[5]
反応開始時における前記金属触媒が、下記式で表わされる化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記[1]〜[4]のいずれか一に記載の製造方法。
【0012】
【化3】
【0013】
ただし上記式における[L]は配位子であり、Mはモリブデン又はタングステンである。
[6]
前記式(31)で表されるオレフィン化合物が、エチレン、一置換オレフィン又は1,2−二置換オレフィンである、前記[1]〜[5]のいずれか一に記載の製造方法。
[7]
前記式(31)で表されるオレフィン化合物のAが水素原子であり、Aが水素原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基の組み合わせである、前記[1]〜[6]のいずれか一に記載の製造方法。
[8]
前記式(31)で表されるオレフィン化合物が、下記式で表わされるオレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種のオレフィン化合物である、前記[1]〜[7]のいずれか一に記載の製造方法。
【0014】
【化4】
【0015】
ただし上記式におけるRは炭素数1〜12のアルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12のアルキル基である。またArは炭素数5〜12のアリール基である。
[9]
前記式(31)で表わされるオレフィン化合物が、オレフィンの炭素原子の隣にヘテロ原子が存在するオレフィン化合物である、前記[1]〜[8]のいずれか一に記載の製造方法。
[10]
前記ヘテロ原子が酸素原子又は窒素原子である前記[9]に記載の製造方法。
[11]
前記式(51)で表される化合物、前記式(52)で表される化合物、前記式(53)で表される化合物及び前記式(54)で表される化合物として、下記式で表されるオレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種のオレフィン化合物を製造することを特徴とする、前記[1]〜[10]のいずれか一に記載の製造方法。
【0016】
【化5】
【0017】
ただし上記式におけるRは炭素数1〜12のアルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12のアルキル基である。またArは炭素数5〜12のアリール基である。
[12]
前記式(21)で表されるオレフィン化合物と前記式(31)で表されるオレフィン化合物を反応させる際の温度が0〜150℃である、前記[1]〜[11]のいずれか一に記載の製造方法。
[13]
溶媒を用いない前記[1]〜[12]のいずれか一に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る含フッ素オレフィンの製造方法によれば、オレフィンメタセシスによってテトラフルオロエチレンやヘキサフルオロプロピレン等の工業的に入手容易な含フッ素オレフィンから簡便かつ効率的に1,1−ジフルオロ−2−置換オレフィン等別の含フッ素オレフィンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また、本発明は金属触媒によるオレフィンメタセシスに関するものであり、従来技術と共通する一般的特徴については記載を省略することがある。
なお本明細書において、「式(X)で表される化合物」のことを、単に「化合物(X)」と称する場合がある。
また、本明細書において、1,1−ジフルオロ−2−置換オレフィン等とは、1,1−ジフルオロ−2−置換オレフィン、および、1,1−ジフルオロ−2,2−二置換オレフィンの双方を含む。1,1−ジフルオロ−2−置換オレフィンとは、二重結合の一方の炭素原子に2つのフッ素原子が結合し、他方の炭素原子に1つの水素原子と1つの有機基が結合したオレフィンを意味する。1,1−ジフルオロ−2,2−二置換オレフィンとは、二重結合の一方の炭素原子に2つのフッ素原子が結合し、他方の炭素原子に2つの同一又は異なる有機基が結合したオレフィンを意味する。
ペルハロゲン化アルキル基とは、アルキル基の水素原子が全てハロゲン原子で置換された基を意味する。ペルハロゲン化アルコキシ基とは、アルコキシ基の水素原子が全てハロゲン原子で置換された基を意味する。ペルハロゲン化アルコキシ基及びペルハロゲン化アリール基についても同様である。
また(ペル)ハロゲン化アルキル基とは、ハロゲン化アルキル基とペルハロゲン化アルキル基とを合わせた総称で用いる。すなわち該基は1個以上のハロゲン原子を有するアルキル基である。(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基、及び(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基についても同様である。
アリール基とは、芳香族化合物において芳香環を形成する炭素原子の内いずれか1つの炭素原子に結合した1つの水素原子を取り去った残基に相当する一価の基を意味し、炭素環化合物から誘導されるアリール基と、ヘテロ環化合物から誘導されるヘテロアリール基とを合わせた総称で用いる。
炭化水素基の炭素数とは、ある炭化水素基全体に含まれる炭素原子の総数を意味し、該基が置換基を有さない場合は炭化水素基骨格を形成する炭素原子の数を、該基が置換基を有する場合は炭化水素基骨格を形成する炭素原子の数に置換基中の炭素原子の数を加えた総数を表す。
【0020】
<反応機構>
本発明はオレフィンメタセシスによる含フッ素オレフィンの製造方法に関するものであり、例えば下記スキーム(a)に表すように、中間体(Metal−1)及び中間体(Metal−2)を反応機構の一部として含むことを特徴とする。
【0021】
【化6】
【0022】
上記スキーム(a)において、[L]は配位子であり、Mはモリブデン又はタングステンであり、複数のRはそれぞれ独立して有機基であり、複数のRはそれぞれ独立してフッ素原子または基中に少なくとも一つのフッ素原子を有する有機基である。
【0023】
またオレフィンメタセシスは反応が可逆である。すなわちスキーム(a)において逆向きの反応(逆向きの方向の矢印で表わされる反応)が存在する。しかしこの点についての詳細は説明を省略する。また生成するオレフィンについては幾何異性体が存在する可能性がある。しかしこの点の詳細については、個々の反応に強く依存するので、説明を省略する。
【0024】
本発明は、下記スキーム(b)に表すように、例えば化合物(11)の存在下、化合物(21)と化合物(31)を反応させることにより、化合物(51)、化合物(52)、化合物(53)及び化合物(54)からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を製造することを特徴とする。
なお、上記スキームにおいて、化合物(11)は、モリブデン−カルベン錯体、又はタングステン−カルベン錯体(以下、「金属−カルベン錯体」とも総称する。)の代表例として記載する。金属−カルベン錯体としては、化合物(12)、化合物(13)、化合物(14)、または化合物(15)であってもよく、以下金属−カルベン錯体については同様である。
【0025】
【化7】
【0026】
本明細書において、式中の記号は以下の意味を表す。
[L]は配位子である。
Mは、モリブデン又はタングステンである。
〜Aはそれぞれ独立して、下記官能基(i)、官能基(ii)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。A及びAは互いに結合して環を形成してもよい。A及びAは互いに結合して環を形成してもよい。A及びAは互いに結合して環を形成してもよい。ただし、A及びAの一方がハロゲン原子である場合、他方は官能基(i)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。A及びAの一方がハロゲン原子である場合、他方は官能基(i)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。A及びAの一方がハロゲン原子である場合、他方は官能基(i)、官能基(iii)、及び官能基(iv)からなる群から選ばれる官能基である。
及びXはそれぞれ独立して、下記官能基(i)、官能基(ii)、官能基(v)、及び官能基(vi)からなる群から選ばれる官能基であり、互いに結合して環を形成してもよい。
ただし官能基(i)〜官能基(vi)は、それぞれ下記を意味する。
官能基(i):水素原子。
官能基(ii):ハロゲン原子。
官能基(iii):炭素数1〜20の一価炭化水素基。
官能基(iv):ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基。
官能基(v):炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数5〜20のアリール基、炭素数5〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、及び炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基からなる群から選ばれる官能基。
官能基(vi):酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む前記官能基(v)。
【0027】
本発明のオレフィンメタセシスは一連のサイクル反応として表すことができる。このサイクル反応は、例えば下記スキーム(I)のように表わすことができる。下記スキーム(I)においてRは有機基を表し、例えばブチル基等のアルキル基が例示できる。下記スキーム(I)においては、上下2種類のサイクルが存在しうる。この2種類のサイクルは、系中に供給されるオレフィン化合物の組み合わせにより、片方のみのサイクルが回ることもあれば、競争的に2種類のサイクルが両方とも回ることもある。
【0028】
【化8】
【0029】
本発明においては、化合物(11)、化合物(12)、化合物(13)、化合物(14)、及び化合物(15)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、「金属触媒」とも記す。)の存在下に反応を行う。
金属触媒としては、入手容易性及び反応効率の観点から反応開始時には化合物(11)が好ましい。
【0030】
<化合物(11)>
化合物(11)等の金属触媒は本発明に係る製造方法において触媒としての役割を果たすが、試薬として投入するもの及び反応中で生成するもの(触媒活性種)の両方を意味する。ここで、化合物(11)は反応条件下、配位子のいくつかが解離することで触媒活性を示すようになるものと、配位子の解離なしで触媒活性を示すものが知られているが、本発明ではいずれでもよく限定されない。また一般に、オレフィンメタセシスは触媒へのオレフィンの配位と解離を繰り返しながら進行するため、反応中、触媒上にオレフィン以外の配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明確でない。したがって本明細書中、[L]は配位子の数や種類を特定するものではない。
金属触媒の配位子[L]としては、イミド配位子(R−N=M)を有することが好ましい。ただし、Rとしては、アルキル基、アリール基等が例示できる。またさらに金属触媒の配位子[L]としては酸素原子が二座配位した配位子が好ましい。ただし酸素原子が二座配位した配位子とは、酸素原子を2個以上有する配位子において該酸素原子のうちの2個で配位している配位子である場合、および、酸素原子を有する単座配位子が2個配位している場合(この場合に単座配位子は同一であっても異なっていてもよい)の双方の場合を含む。
【0031】
【化9】
【0032】
化合物(11)におけるA及びAはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基、または、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基であり、互いに結合して環を形成してもよい。ただし化合物(11)としては、A及びAの両方がハロゲン原子である場合は除く。
ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子が入手容易性の点から好ましい。
炭素数1〜20の一価炭化水素基としては炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のアリール基が好ましく、直鎖状、分岐状、又は環状でもよい。
ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基としては、好ましくは、当該原子を含む炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、当該原子を含む炭素数5〜20のアリール基、炭素数5〜20のアリールオキシ基が例示できる。該一価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、又は環状でもよい。これらの好ましい基は少なくとも一部の炭素原子にハロゲン原子が結合していてもよい。すなわち例えば(ペル)フルオロアルキル基、(ペル)フルオロアルコキシ基であってもよい。またこれらの好ましい基は、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。またこれらの好ましい基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む置換基を有していてもよい。該置換基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アミド基(カルボニルアミノ基)、カルバメート基(オキシカルボニルアミノ基)、ニトロ基、カルボキシル基、エステル基(アシルオキシ基またはアルコキシカルボニル基)、チオエーテル基、及びシリル基等が例示できる。これらの基は更にアルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。例えばアミノ基(−NH)はモノアルキルアミノ基(−NHR)、モノアリールアミノ基(−NHAr)、ジアルキルアミノ基(−NR)、またはジアリールアミノ基(−NAr)であってもよい。ただしRは炭素数1〜12のアルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12のアルキル基であり、Arは炭素数5〜12のアリール基である。
【0033】
これらのA及びAの組み合わせを有する化合物(11)としては、入手容易性の点で、下記式に示すものが好ましく例示できる。
【0034】
【化10】
【0035】
具体的には、化合物(11)を例えば、下記式(11−B)または式(11−C)で表すことができる。また化合物(11)としては、これらにさらに配位性溶媒(テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等)が配位していてもよい。
【0036】
【化11】
【0037】
式(11)における配位子[L]は式(11−B)において=NR、−R、−Rで表される。=NR、−R、−Rの位置に限定はなく、式(11−B)において互いに入れ替わっていてもよい。Mは、モリブデンまたはタングステンであり、Rとしては、アルキル基、アリール基等が例示できる。R、Rとしては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、スルホネート基、アミノ基(アルキルアミノ基、η−ピロリド、η−ピロリド等)等が例示できる。RとRは連結して二座配位子となっていてもよい。
【0038】
また式(11−C)は、式(11−B)で表わされる化合物の金属−炭素二重結合部分に、オレフィン(C(R)が環化付加([2+2] cycloaddition)して、メタラシクロブタン環を形成した化合物である。ただし4個のRは互いに同じでも異なっていてもよい一価の官能基であり、水素原子、ハロゲン原子、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基等が例示できる。式(11−C)で表わされる化合物は、式(11−B)で表わされる化合物と等価と考える。
【0039】
式(11−B)及び式(11−C)中、A及びAは式(11)におけるA及びAとそれぞれ同様である。
【0040】
上記触媒は一般的に「モリブデン−カルベン錯体」「タングステン−カルベン錯体」と称されるものであり、例えばGrela,K.(Ed)Olefin Metathesis:Theory and Practice,Wiley,2014.に記載されているモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を利用することができる。また、例えばAldrich社やStrem社、XiMo社から市販されているモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を利用することができる。
なお、上記モリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体は、単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。さらに必要に応じてシリカゲルやアルミナ、ポリマー等の担体に担持して用いてもよい。
【0041】
化合物(11−B)の具体例を下記に示す。なお、Meとはメチル基を、i−Prとはイソプロピル基を、t−Buとはターシャリーブチル基を、Phとはフェニル基を、それぞれ意味する。
【0042】
【化12】
【0043】
【化13】
【0044】
化合物(11−C)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0045】
【化14】
【0046】
<化合物(12)〜(15)>
化合物(12)〜(15)は、上記化合物(11)と同様に本発明に係る製造方法において触媒としての役割を果たすが、試薬として投入するもの及び反応中で生成するもの(触媒活性種)の両方を意味する。
【0047】
【化15】
【0048】
式(12)〜式(15)中、[L]、M、X、X及びA〜Aは、前記定義と同様である。
【0049】
<化合物(21)>
化合物(21)は本発明に係る製造方法における反応基質である。
【0050】
化合物(21)におけるX及びXは、前記定義と同様である。
すなわち化合物(21)とは、二重結合を構成する炭素原子の一方に2個のフッ素原子が結合した、[CF=C]という部分構造を有するオレフィン化合物である。
【0051】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が入手容易性の点から好ましい。
【0052】
炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、またはプロピル基が入手容易性の点から好ましい。アルキル基鎖は直鎖状でも分岐状でも環状でもよい。
【0053】
炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、またはプロポキシ基が入手容易性の点から好ましい。アルコキシ基鎖は直鎖状でも分岐状でも環状でもよい。
【0054】
炭素数5〜20のアリール基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、具体的にはフェニル基が入手容易性の点から好ましい。
【0055】
炭素数5〜20のアリールオキシ基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、具体的にはフェニルオキシ基が入手容易性の点から好ましい。
【0056】
炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、特に炭素数1〜8の(ペル)フルオロアルキル基が好ましい。具体的にはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、またはヘプタフルオロプロピル基が入手容易性の点から好ましい。アルキル基鎖は直鎖状でも分岐状でも環状でもよい。
【0057】
炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基としては、炭素数1〜8の当該基が好ましく、特に炭素数1〜8の(ペル)フルオロアルコキシ基が好ましい。具体的にはトリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロプロポキシ基、ペルフルオロ(メトキシメトキシ)基、またはペルフルオロ(プロポキシプロポキシ)基が好ましく、特にトリフルオロメトキシ基またはペルフルオロ(プロポキシプロポキシ)基が入手容易性の点から好ましい。アルコキシ基鎖は直鎖状でも分岐状でも環状でもよい。
【0058】
炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、特に炭素数5〜12の(ペル)フルオロアリール基が好ましい。具体的にはモノフルオロフェニル基、又はペンタフルオロフェニル基が好ましく、特にペンタフルオロフェニル基が入手容易性の点から好ましい。
【0059】
炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基としては、炭素数5〜12の当該基が好ましく、特に炭素数5〜12の(ペル)フルオロアリールオキシ基が好ましい。具体的にはモノフルオロフェニルオキシ基またはペンタフルオロフェニルオキシ基が好ましく、特にペンタフルオロフェニルオキシ基が入手容易性の点から好ましい。
【0060】
前記アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、(ペル)ハロゲン化アルキル基、(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基、または(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基は、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む置換基を有していてもよい。該置換基としては、ニトリル基、カルボキシル基、エステル基(アシルオキシ基またはアルコキシカルボニル基)が例示できる。なお該置換基を有する場合であっても、アルキル基、アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アルキル基及び(ペル)ハロゲン化アルコキシ基全体の炭素数は1〜12であり、アリール基、アリールオキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基及び(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基全体の炭素数は5〜20である。
【0061】
また前記アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、(ペル)ハロゲン化アルキル基、(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、(ペル)ハロゲン化アリール基、または(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基は、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。すなわち、官能基(vi)としては、酸素原子を1以上含む官能基(v)が好ましく、酸素原子はエーテル性酸素原子であることがより好ましい。つまり官能基(vi)としては下記官能基(vii)であることが好ましい。
官能基(vii):炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する官能基(v)。
【0062】
とXの好ましい組合せとしては、Xが官能基(i)、官能基(ii)、官能基(v)、または官能基(vii)であり、Xが官能基(ii)、官能基(v)、または官能基(vii)である。
より好ましい組み合わせは、Xが水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基、又は炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基であり;Xがハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数5〜20のアリール基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数5〜20のアリール基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリール基、炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基、又は炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数5〜20の(ペル)ハロゲン化アリールオキシ基である。
さらに好ましい組み合わせは、Xがフッ素原子であり、Xが水素原子、ハロゲン原子、フッ素原子を1以上含む炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基、または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルコキシ基である。当該組み合わせであれば得られるオレフィン化合物の有用性が高く好ましい。
【0063】
化合物(21)として好ましくは、下記に示すオレフィン化合物が挙げられる。
【0064】
【化16】
【0065】
上記式におけるRは炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12の(ペル)ハロゲン化アルキル基である。
【0066】
化合物(21)としてより好ましくは、下記に示すオレフィン化合物である。
【0067】
【化17】
【0068】
<化合物(31)>
化合物(31)は本発明に係る製造方法における反応基質である。
【0069】
化合物(31)におけるA〜Aは、前記定義と同様である。すなわちA〜Aはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基である。
及びAは互いに結合して環を形成してもよい。A及びAは互いに結合して環を形成してもよい。環としては、炭素原子のみからなる、または、炭素原子とヘテロ原子とからなる環が好ましい。環の大きさは3員環〜10員環が例示できる。環の部分構造としては、下式の構造が例示できる。
【0070】
【化18】
【0071】
ただし化合物(31)としては、A及びAの両方がハロゲン原子である場合及び/又はA及びAの両方がハロゲン原子である場合は除く。すなわち化合物(31)はオレフィン化合物であるが、1,1−ジハロゲノオレフィンは含まれない。
生成物の有用性の観点から、化合物(21)のXおよびXがフッ素原子を含む基である場合の化合物(31)は、フッ素原子を含む化合物であっても含まない化合物であってもよい。化合物(21)のXおよびXが、フッ素原子を含まない基である場合、化合物(31)はフッ素原子を含む化合物、A、A、A、およびAから選ばれる少なくとも1つの基は、フッ素原子、または、フッ素原子を含む基が好ましい。該好ましい基を選択して本発明の反応を行った場合、生成する化合物(51)〜化合物(54)から選ばれる少なくとも1種の化合物は、有用な含フッ素オレフィンになる。
【0072】
ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子が入手容易性の点から好ましい。
【0073】
炭素数1〜20の一価炭化水素基としては炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数5〜20のアリール基、または炭素数5〜20のアリールオキシ基が好ましく、特にメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、(2−エチル)ヘキシルオキシ基、またはドデシルオキシ基が入手容易性の点から好ましい。また、炭化水素基骨格としては直鎖状、分岐状、又は環状でもよい。
【0074】
ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基としては、好ましくは、当該原子を含む炭素数1〜20のアルキル基、当該原子を含む炭素数1〜20のアルコキシ基、当該原子を含む炭素数5〜20のアリール基、当該原子を含む炭素数5〜20のアリールオキシ基が例示できる。これらの好ましい基は少なくとも一部の炭素原子にハロゲン原子が結合していてもよい。すなわち例えば(ペル)フルオロアルキル基、(ペル)フルオロアルコキシ基であってもよい。またこれらの好ましい基は、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。またこれらの好ましい基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、またはケイ素原子を有する置換基を有していてもよい。該置換基としては、アミノ基、ニトリル基、カルボキシル基、エステル基(アシルオキシ基またはアルコキシカルボニル基)、チオアルキル基、及びシリル基が例示できる。
【0075】
中でも、A〜Aはそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、(2−エチル)ヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、アセチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基、ペルフルオロヘキシル基、ペルフルオロオクチル基であることが入手容易性の点から好ましい。なお化合物(31)のうち、ビニル位にヘテロ原子を有する化合物(オレフィンの炭素原子の隣に炭素原子または水素原子以外の原子が存在する化合物)は反応中に生じる中間体を安定化する効果があり、オレフィンメタセシスが進行しやすいと考えられる。このため化合物(31)としては、ビニル位にヘテロ原子を有する化合物が好ましい。前記オレフィンの炭素原子の隣に存在することが好ましいヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、ハロゲン原子、リン原子又はケイ素原子が好ましく、酸素原子、窒素原子、又はハロゲン原子がより好ましく、酸素原子又は窒素原子が特に好ましい。
【0076】
化合物(31)としては、末端及び内部オレフィンのどちらも利用することができる。二重結合上の置換基の数に特に限定はないが、エチレン、一置換オレフィン、1,2−二置換オレフィンが高い反応性を有する点で好ましい。また二重結合上の幾何異性も特に限定はない。
【0077】
及びAの好ましい組合せとしては、Aが水素原子;Aが水素原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基が挙げられる。
及びAの好ましい組合せとしては、Aが水素原子;Aが水素原子、炭素数1〜20の一価炭化水素基、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、及びケイ素原子からなる群から選ばれる原子を1以上含む炭素数1〜20の一価炭化水素基が挙げられる。
【0078】
化合物(31)の具体例としては、より好ましくは、下記に示すオレフィン化合物が挙げられる。
【0079】
【化19】
【0080】
上記式におけるRは炭素数1〜12のアルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12のアルキル基である。同一分子内にRが複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよい。またArは炭素数5〜12のアリール基である。同一分子内にArが複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよい。
これらのうち化合物(31)として、特に好ましい具体例としては、下記に示すオレフィン化合物が挙げられる。
【0081】
【化20】
【0082】
<化合物(51)〜(54)>
化合物(51)〜(54)は本発明に係る製造方法において反応生成物である。上記触媒化合物(11)〜(15)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の存在下、上記基質化合物(21)と基質化合物(31)とをオレンフィンメタセシス反応させることにより、化合物(51)〜(54)からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が得られる。
【0083】
【化21】
【0084】
式(51)〜式(54)中、X、X及びA〜Aは、前記定義と同様である。
【0085】
本発明のオレフィンメタセシスにより得られる、含フッ素化合物(51)〜化合物(54)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。なお波線はE/Zの異性体のうち、いずれか一方または両方の混合物であることを意味する。
【0086】
【化22】
【0087】
上記式におけるRは炭素数1〜12のアルキル基または炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜12のアルキル基である。またArは炭素数5〜12のアリール基である。
これらのうち化合物(51)〜化合物(54)として、特に好ましい具体例としては、下記に示す化合物が挙げられる。
【0088】
【化23】
【0089】
<製造方法>
本発明はオレフィンメタセシスによる含フッ素オレフィンの製造方法に関するものであり、典型的には、異なる2種類のオレフィンと、モリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体とを接触させることによってオレフィンメタセシスを行い、原料とは異なるオレフィンを得るものである。
【0090】
原料となるオレフィンのうち、二重結合を構成する炭素原子の一方に2個フッ素原子が結合しているオレフィンではないオレフィン(上述の化合物(31))としては、末端及び内部オレフィンのどちらも利用することができる。二重結合上の置換基の数に特に限定はないが、エチレン、一置換オレフィン、1,2−二置換オレフィンが高い反応性を有する点で好ましい。また二重結合上の幾何異性も特に限定はない。目的物収率向上の点で、原料となるオレフィンは脱気及び脱水されたものを用いることが好ましい。脱気操作について、特に制限はないが、凍結脱気等を行うことがある。脱水操作について、特に制限はないが、通常モレキュラーシーブ等と接触させる。原料となるオレフィンについて、前記脱気及び脱水操作は通常モリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体と接触させる前に行う。
また原料となるオレフィンは微量の不純物(例えば過酸化物等)を含むことがあるので、目的物収率向上の点で精製してもよい。精製方法については特に制限はない。例えば文献(Armarego,W.L.F.et al.,Purification of Laboratory Chemicals(Sixth Edition),2009,Elsevier)記載の方法に従って行うことができる。
原料となる含フッ素オレフィンのうち、二重結合を構成する炭素原子にフッ素原子が結合しているオレフィン(上述の化合物(21))としては、末端オレフィンを用いる。すなわちテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、1,1−ジフルオロ−2−置換オレフィン、1,1,2−トリフルオロ−2−置換オレフィン、1,1−ジフルオロ−2,2−二置換オレフィン等が好適に例示できる。目的物収率向上の点で、原料となる含フッ素オレフィンは脱気及び脱水されたものを用いることが好ましい。脱気操作について、特に制限はないが、凍結脱気等を行うことがある。脱水操作について、特に制限はないが、通常モレキュラーシーブ等と接触させる。原料となる含フッ素オレフィンについて、前記脱気及び脱水操作は通常モリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体と接触させる前に行う。
また原料となる含フッ素オレフィンは微量の不純物(例えばフッ化水素等)を含むことがあるので、目的物収率向上の点で精製してもよい。精製方法については特に制限はない。例えば文献(Armarego,W.L.F.et al.,Purification of Laboratory Chemicals(Sixth Edition),2009,Elsevier)記載の方法に従って行うことができる。
【0091】
原料となるオレフィン(以下、前記2種類のオレフィンを総称していう)は、反応容器にあらかじめ混合してから投入しても、別々に投入しても構わない。第一のオレフィンをモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体と接触させて得られた混合物に、第二のオレフィンを接触させる場合もある。
原料となる両オレフィンのモル比に特に限定はないが、通常基準となるオレフィン1モルに対して、もう一方のオレフィンを0.01〜100モル程度用い、好ましくは0.1〜10モル程度用いる。
【0092】
モリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体(上記化合物(11)、化合物(12)、化合物(13)、化合物(14)及び化合物(15))は試薬として投入しても、系内で発生させてもよい。
試薬として投入する場合、市販のモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体をそのまま用いてもよく、あるいは市販試薬から公知の方法で合成した市販されていないモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を用いてもよい。
系内で発生させる場合、公知の方法で前駆体となるモリブデン錯体又はタングステン錯体から調製したモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を本発明に用いることができる。
【0093】
用いるモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体の量としては、特に制限はないが、原料となるオレフィンの内、基準となるオレフィン1モルに対して、通常0.0001〜1モル程度用い、好ましくは0.001〜0.2モル程度用いる。
【0094】
用いるモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体は、通常固体のまま反応容器に投入するが、溶媒に溶解又は懸濁させて投入してもよい。この時用いる溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない範囲で特に制限はなく、有機溶媒、含フッ素有機溶媒、イオン液体、水等を単独又は混合して用いることができる。なお、これらの溶媒分子中、一部又はすべての水素原子が重水素原子で置換されていてもよい。
また化合物(21)及び/又は化合物(31)が液体である場合(加熱して液化する場合も含む)は、溶媒を用いないことが好ましい。この場合化合物(21)及び/又は化合物(31)に金属触媒が溶解することが好ましい。
【0095】
有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o−,m−,p−キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒等を使用することができる。含フッ素有機溶媒としては、例えば、ヘキサフルオロベンゼン、m−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α−トリフルオロメチルベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン等を使用することができる。イオン液体としては、例えば、各種ピリジニウム塩、各種イミダゾリウム塩等を用いることができる。上記溶媒の中でも、モリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体の溶解性等の点で、ベンゼン、トルエン、o−,m−,p−キシレン、メシチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、ジオキサン、THF、ヘキサフルオロベンゼン、m−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α−トリフルオロメチルベンゼン等、及びこれらの混合物が好ましい。
なお、目的物収率向上の点で、前記溶媒は脱気及び脱水されたものを用いることが好ましい。脱気操作について、特に制限はないが、凍結脱気等を行うことがある。脱水操作について、特に制限はないが、通常モレキュラーシーブ等と接触させる。前記脱気及び脱水操作は通常モリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体と接触させる前に行う。
【0096】
オレフィンとモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を接触させる雰囲気としては、特に限定はないが、触媒の長寿命化の点で、不活性気体雰囲気下が好ましく、中でも窒素又はアルゴン雰囲気下が好ましい。ただし、例えばエチレンやテトラフルオロエチレン等、反応条件において気体となるオレフィンを原料として用いる場合、これらの気体雰囲気下で行うことができる。
オレフィンとモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を接触させる相としては、特に制限はないが、反応速度の点で、通常は液相が用いられる。原料となるオレフィンが反応条件下で気体の場合、液相で実施するのが難しいため、気−液二相で実施することもできる。なお、液相で実施する場合には溶媒を用いることができる。このとき用いる溶媒としては、上記、モリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体の溶解又は懸濁に用いた溶媒と同様のものを利用することができる。なお、原料となるオレフィンのうち少なくとも一方が反応条件下で液体の場合、無溶媒で実施できることがある。
【0097】
オレフィンとモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を接触させる容器としては、反応に悪影響を与えない範囲で特に制限はなく、例えば金属製容器又はガラス製容器等を用いることができる。なお、本発明にかかるオレフィンメタセシスは反応条件下、気体状態のオレフィンを扱うことがあるので、気密が可能な耐圧容器が好ましい。
【0098】
オレフィンとモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を接触させる温度としては、特に制限はないが、通常−100〜200℃の範囲で実施することができ、反応速度の点で、0〜150℃が好ましい。なお、低温では反応が開始せず、高温では錯体の速やかな分解が生じることがあるので適宜温度の下限と上限を設定する必要がある。通常、用いる溶媒の沸点以下の温度で実施される。
オレフィンとモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を接触させる時間としては、特に制限はないが、通常1分〜48時間の範囲で実施される。
オレフィンとモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を接触させる圧力としては、特に制限はないが、加圧下でも、常圧下でもよいし、減圧下でもよい。通常0.001〜10MPa程度、好ましくは0.01〜1MPa程度である。
【0099】
オレフィンとモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を接触させる際に、反応に悪影響を及ぼさない範囲で無機塩や有機化合物、金属錯体等を共存させてもよい。また、反応に悪影響を及ぼさない範囲で、オレフィンとモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体の混合物を攪拌してもよい。このとき、攪拌の方法としては、メカニカルスターラーやマグネティックスターラー等を用いることができる。
【0100】
オレフィンとモリブデン−カルベン錯体又はタングステン−カルベン錯体を接触させた後、目的物は通常複数のオレフィンの混合物として得られるため、公知の方法で単離してもよい。単離方法としては、例えば蒸留、カラムクロマトグラフィー、リサイクル分取HPLC等が挙げられ、必要に応じてこれらを単独又は複数組み合わせて用いることができる。
【0101】
本反応で得られた目的物は通常の有機化合物と同様の公知の方法で同定することができる。例えば、H−、19F−、13C−NMRやGC−MS等が挙げられ、必要に応じてこれらを単独又は複数組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0102】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<市販試薬>
本実施例において、触媒は、特に記載しない場合においては、市販品をそのまま反応に用いた。溶媒(ベンゼン−d及びo−ジクロロベンゼン−d)及び内部標準物質(p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)は、市販品をあらかじめ凍結脱気したあと、モレキュラーシーブ4Aで乾燥してから反応に用いた。
<評価方法>
本実施例において、合成した化合物の構造は日本電子株式会社製の核磁気共鳴装置(JNM−AL300)によりH−NMR、19F−NMR測定を行うことで同定した。
【0103】
<実施例1>
市販モリブデン触媒Aを用いたブチルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンのメタセシス
窒素雰囲気下、市販モリブデン触媒A(2mol%、0.0012mmol)、ブチルビニルエーテル(0.06mmol、あらかじめ凍結脱気して水酸化カリウムで乾燥したもの)、及びp−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(内部標準物質、0.02mmol)を溶かしたベンゼン−d(0.6mL)を耐圧NMR測定管に量り入れた。その後、NMR測定管の気相部をテトラフルオロエチレン(1.0atm、2.7mL、0.12mmol)で置換した。
NMR測定管を60℃で加熱し、その温度で1時間反応させた。反応終了後、内容液のNMR及びGC−MSを測定して、フッ化ビニリデン及びブチル(2,2−ジフルオロビニル)エーテルの生成を確認した。
これら一連の反応を以下に示す。
19F−NMRスペクトル(内部標準物質p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)から算出した触媒回転数(1時間あたりの触媒回転頻度)は0.5であった。
【0104】
【化24】
【0105】
<参考例1>
市販モリブデン触媒Bを用いたドデシルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンのメタセシス
窒素雰囲気下、市販モリブデン触媒B(2mol%、0.0012mmol)、ドデシルビニルエーテル(0.06mmol、あらかじめ凍結脱気して水酸化カリウムで乾燥したもの)、p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(内部標準物質、0.01mmol)を溶かしたベンゼン−d(0.3mL)、及びo−ジクロロベンゼン−d(0.3mL)を耐圧NMR測定管に量り入れた。その後、NMR測定管の気相部をテトラフルオロエチレン(1.0atm、2.7mL、0.12mmol)で置換した。
NMR測定管を60℃で加熱し、その温度で1時間保持した。1時間後では原料回収のみで所期の生成物は得られなかった。さらに120℃で1時間、180℃で1時間保持したが所期の生成物は得られなかった。
【0106】
【化25】
【0107】
<参考例2>
市販モリブデン触媒Cを用いたドデシルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンのメタセシス
窒素雰囲気下、市販モリブデン触媒C(2mol%、0.0012mmol)、ドデシルビニルエーテル(0.06mmol、あらかじめ凍結脱気して水酸化カリウムで乾燥したもの)、p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(内部標準物質、0.01mmol)を溶かしたベンゼン−d(0.3mL)、及びo−ジクロロベンゼン−d(0.3mL)を耐圧NMR測定管に量り入れた。その後、NMR測定管の気相部をテトラフルオロエチレン(1.0atm、2.7mL、0.12mmol)で置換した。
NMR測定管を60℃で加熱し、その温度で1時間保持した。1時間後では原料回収のみで所期の生成物は得られなかった。さらに120℃で1時間、180℃で1時間保持したが所期の生成物は得られなかった。
【0108】
【化26】
【0109】
<参考例3>
市販ルテニウム触媒Dを用いたブチルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンのメタセシス
窒素雰囲気下、市販ルテニウム触媒D(2mol%、0.0012mmol)、ブチルビニルエーテル(0.06mmol、あらかじめ凍結脱気して水酸化カリウムで乾燥したもの)、及びp−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(内部標準物質、0.02mmol)を溶かしたベンゼン−d(0.6mL)を耐圧NMR測定管に量り入れた。その後、NMR測定管の気相部をテトラフルオロエチレン(1.0atm、2.7mL、0.12mmol)で置換した。
NMR測定管を60℃で加熱し、その温度で1時間反応させた。反応終了後、内容液のNMR及びGC−MSを測定して、フッ化ビニリデン及びブチル(2,2−ジフルオロビニル)エーテルの生成を確認した。
これら一連の反応を以下に示す。
19F−NMRスペクトル(内部標準物質p−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)から算出した触媒回転数(1時間あたりの触媒回転頻度)は0.7であった。
【0110】
【化27】
【0111】
参考試験例2>
タングステン触媒を用いたブチルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンのメタセシス
実施例1の市販モリブデン触媒Aを、下式で示される公知のタングステン触媒に変更して、同様に反応を行い、実施例1と同じ反応生成物を得る。
【0112】
【化28】
【0113】
<実施例3〜5>
市販モリブデン触媒Aを用いたブチルビニルエーテルとオレフィン化合物(21)のメタセシス
実施例1のテトラフルオロエチレンを、下表に示す化合物(21)にそれぞれ変更して反応を実施する。生成物として表中に示す化合物(51)〜化合物(54)が生成する。
【0114】
【表1】
【0115】
参考試験例6〜8>
タングステン触媒を用いたブチルビニルエーテルとオレフィン化合物(21)のメタセシス
参考試験例2のテトラフルオロエチレンを、下表に示す化合物(21)にそれぞれ変更して反応を実施する。生成物として表中に示す化合物(51)〜化合物(54)が生成する。
【0116】
【表2】
【0117】
<実施例9、10>
市販モリブデン触媒Aを用いた化合物(31)とテトラフルオロエチレンのメタセシス
実施例1のブチルビニルエーテルを、下表に示す化合物(31)にそれぞれ変更して反応を実施する。生成物として表中に示す化合物(51)〜化合物(54)が生成する。
【0118】
【表3】
【0119】
<実施例11>
市販モリブデン触媒Aによるブチルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンのメタセシス
窒素雰囲気下、市販モリブデン触媒A(1mol%)、ブチルビニルエーテル(1mol、あらかじめ凍結脱気して水酸化カリウムで乾燥したもの)を耐圧反応容器に量り入れる。その後、前述の反応容器の気相部をテトラフルオロエチレンで置換する。
NMR測定管を60℃で加熱し、その温度で1時間反応させる。反応終了後、内容液のNMR及びGC−MSを測定して、フッ化ビニリデン及びブチル(2,2−ジフルオロビニル)エーテルの生成を確認する。
これら一連の反応を以下に示す。
【0120】
【化29】
【0121】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2014年12月26日出願の日本特許出願(特願2014−266096)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、オレフィンメタセシスによってテトラフルオロエチレン等の工業的に入手容易な含フッ素オレフィンから簡便かつ効率的に1,1−ジフルオロ−2−置換オレフィン等別の含フッ素オレフィンを製造することができる。