特許第6696843号(P6696843)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6696843
(24)【登録日】2020年4月27日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】排水システムおよび排水方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 15/00 20060101AFI20200511BHJP
【FI】
   F04D15/00 D
   F04D15/00 J
   F04D15/00 L
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-125358(P2016-125358)
(22)【出願日】2016年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-227195(P2017-227195A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【弁護士】
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】菅原 弘策
(72)【発明者】
【氏名】菊田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】石渡 隆行
(72)【発明者】
【氏名】吉本 将人
(72)【発明者】
【氏名】浅野 竜太
(72)【発明者】
【氏名】宮内 輝幸
【審査官】 田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−129788(JP,A)
【文献】 特開2012−077684(JP,A)
【文献】 特開2012−052440(JP,A)
【文献】 特開平02−079101(JP,A)
【文献】 特開平08−177786(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0229345(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00−19/02、21/00−25/16、29/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポンプ設備を備える排水システムであって、前記複数のポンプ設備のそれぞれは、
出力軸を有する原動機と、
主軸を有するポンプと、
前記原動機の出力軸と前記ポンプの主軸とを直接または間接的に嵌合するか否かを切り替える嵌合手段と、を有し、
あるポンプ設備における前記嵌合手段の嵌合時間は、他のポンプ設備における前記嵌合手段の嵌合時間と異なり、
前記あるポンプ設備におけるポンプの容量および吸込開始水位は、前記他のポンプ設備におけるポンプの容量および吸込開始水位とそれぞれ等しい、排水システム。
【請求項2】
前記他のポンプ設備における前記嵌合手段の嵌合時間は調整可能である、請求項1に記載の排水システム。
【請求項3】
前記あるポンプ設備における前記嵌合手段の嵌合時間は、3秒以上である、請求項1または2記載の排水システム。
【請求項4】
複数のポンプ設備を備える排水システムにおける排水方法であって、
あるポンプ設備における原動機の出力軸とポンプの主軸とを所定の嵌合時間で直接または間接的に嵌合させるとともに、他のポンプ設備における原動機の出力軸とポンプの主軸とを前記所定の嵌合時間とは異なる嵌合時間で直接または間接的に嵌合させ、
前記あるポンプ設備におけるポンプの容量および吸込開始水位は、前記他のポンプ設備におけるポンプの容量および吸込開始水位とそれぞれ等しい排水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のポンプで排水を行う排水システムおよび排水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のポンプで排水を行うポンプ機場が知られている(例えば、特許文献1)。急激な水位上昇に備えて、複数のポンプを同時に運転させることができる。各ポンプの容量や吸込開始水位が同一であると、水位が短時間で低下し、また上昇するという過渡現象(いわゆるサージング)が発生する。そうすると、ポンプの負荷変動が頻発し、主軸の破損や劣化が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5475607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、サージングを抑制可能な排水システムおよび排水方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、複数のポンプ設備を備え、そのそれぞれは、出力軸を有する原動機と、主軸を有するポンプと、前記原動機の出力軸と前記ポンプの主軸とを直接または間接的に嵌合するか否かを切り替える嵌合手段と、を備え、あるポンプ設備における前記嵌合手段の嵌合時間は、他のポンプ設備における前記嵌合手段の嵌合時間と異なる、排水システムが提供される。
ポンプ設備における嵌合時間が異なるためにポンプの始動タイミングがずれ、サージングを抑制できる。
【0006】
前記他のポンプ設備における前記嵌合手段の嵌合時間は調整可能であるのが望ましい。
【0007】
前記あるポンプ設備における前記嵌合手段の嵌合時間は、3秒以上であるのが望ましい。
【0008】
前記あるポンプ設備におけるポンプの容量および吸込開始水位は、前記他のポンプ設備におけるポンプの容量および吸込開始水位とそれぞれ等しくてもよい。
【0009】
また、本発明の別の態様によれば、複数のポンプ設備を備える排水システムにおける排水方法であって、あるポンプ設備における原動機の出力軸とポンプの主軸とを所定の嵌合時間で直接または間接的に嵌合させるとともに、他のポンプ設備における原動機の出力軸とポンプの主軸とを前記所定の嵌合時間とは異なる嵌合時間で直接または間接的に嵌合させる、排水方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
ポンプ設備における嵌合時間が異なるためにポンプの始動タイミングがずれ、サージングを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る排水システムの概略構成を示すブロック図。
図2】ポンプ設備100aの詳細を示す構成図。
図3】排水システムにおけるポンプ3a,3bの動作を模式的に説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0013】
図1は、一実施形態に係る排水システムの概略構成を示すブロック図である。この排水システムは、例えば排水機場に設置されて吸込水槽50内の水を吐出水槽(不図示)に排出するものであり、複数のポンプ設備100a,100bを備えている。図1および以下では2つのポンプ設備100a,100bが設けられる例を説明するが、3つ以上のポンプ設備があってもよい。以下、特に断らない限りポンプ設備100a,100bの構成は同じなので、主にポンプ設備100aについて説明する。
【0014】
ポンプ設備100aは、原動機1a、クラッチ21a(嵌合手段)およびポンプ3aなどを備えている。
【0015】
原動機1aは、例えば一軸式ガスタービンやディーゼル機関であり、その出力軸11aを回転させる。
【0016】
クラッチ21aは、原動機1aとポンプ3aとの間に設けられ、原動機1aの動力(トルク)をポンプ3aに伝達するか否かを制御する。すなわち、クラッチ21aは、原動機1aの出力軸11aとポンプ3aの主軸31aとを直接または間接的に嵌合するか否かを切り替える。クラッチ21aが両軸を嵌合する(以下、「クラッチ21aがオンする」という)ことで動力が伝達され、両軸の嵌合を解除する(以下、「クラッチ21aがオフする」という)ことで動力が伝達されなくなる。
【0017】
ポンプ3aは、例えば立軸斜流ポンプであり、原動機1aの動力を受けて主軸31aに固定された羽根車(不図示)が回転することで排水が行われる。
【0018】
図2は、ポンプ設備100aの詳細を示す構成図であり、主な構成要素である原動機1a、クラッチ21aを内蔵した減速機2a、ポンプ3aおよび制御部4aなどを描いている。
【0019】
ポンプ3aは吸込水槽50上部のポンプ設置床51にポンプベース52を介して設置される。ポンプ3aは、主軸31aと、ケーシング32aと、羽根車33aとを有する。
【0020】
ケーシング32aは、吸込水槽50内に配置されて下端に吸込ベルマウス321aが接続されたポンプケーシング322aと、その上部に接続された吊り下げ管323aと、その上部に接続された屈曲吐出管324a、その先に吐出弁325aを介して接続された吐出管326aから構成される。吐出管326aの先端には逆流防止弁327aが設けられる。
【0021】
主軸31aは屈曲吐出管324aを貫通して吊り下げ管323aおよびポンプケーシング322a内に配置され、回転自在に支持される。主軸31aの下部には羽根車33aが取り付けられている。
【0022】
ポンプ3aの上方に、原動機1aと、減速機2aとが配置される。減速機2aは、例えば直交軸傘歯車減速機であり、クラッチ21aと、入力軸22aと、傘歯車23aとを有する。クラッチ21aは、減速機2aの入力軸22aと原動機1aの出力軸11aとの間に設けられ、両軸を嵌合するか否かを切り替える。傘歯車23aは入力軸22aおよびポンプ3aの主軸31aに接続される。クラッチ21aを介して原動機1aからの動力が入力軸22aに伝達されると傘歯車23aが回転し、これに伴ってポンプ3aの主軸31aが回転する。
【0023】
なお、クラッチ21aの嵌合時間を任意に調整できるのが望ましい。そのようなクラッチ21aの例として、油圧クラッチや固定速用の充排油型流体継手といった湿式クラッチが挙げられる。油圧クラッチの場合、クラッチ板への導油ラインに油圧を調整する調整弁を設け、調整ネジなどにより油圧を調整することで、嵌合時間を調整できる。また、充排油型流体継手の場合、導油ラインに油圧を調整する調整弁を設け、調整ネジなどにより油圧を調整することで、あるいは、同導油ラインにクラッチの嵌合用に設けられ充排油切替弁(電動弁)の開閉時間を調整することで、嵌合時間を調整できる。
【0024】
制御部4aはクラッチ21aを制御する。すなわち、制御部4aには、水位センサによって検出された吸込水槽50の水位が入力される。そして、制御部4aは吸込水槽50の水位などに応じてクラッチ21aのオン・オフを制御し、原動機1aの出力軸11aと減速機2aの入力軸22aとの脱嵌を切り替える。また、制御部4aはクラッチ21aの嵌合時間も制御する。
【0025】
このような構成のポンプ設備100aにおいて、原動機1aが起動し、その動力が減速機2aを介してポンプ3aの主軸31aに伝達されると、羽根車33aが回転する。これにより、吸込ベルマウス321aの下端開口から吸い込まれた水はケーシング32aを通って吐出水槽60に吐き出される。より具体的には、ポンプ設備100aは次のように動作する。
【0026】
吸込水槽50内の水位が羽根車33aより下方(吸込開始水位LWL未満)に位置し、かつ、クラッチ21aがオフした状態で、原動機1aが運転する。吸込水槽50内の水位が上昇して羽根車33aより上方の吸込開始水位LWLに達したことが検出されると、制御部4aはクラッチ21aをオンし、任意に調整した嵌合時間で原動機1aの出力軸11aと減速機2aの入力軸22aとを嵌合させる。これにより、ポンプ3aの運転、より詳しくは羽根車33aの回転が開始し、吸込水槽50から吐出水槽60に排水される。
【0027】
このように吸込水槽50内の水位が羽根車33aより下方にある状態で原動機1aを予め運転させておくことで、始動遅れを防止できる信頼性の高いポンプ設備100aとすることができる。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係る排水システムでは、吸込水槽50に複数のポンプ設備100a,100bが設けられる。そして、吸込水槽50の水位が急増することに備え、複数のポンプ設備100a,100bにおけるクラッチ21a,21bがそれぞれオンしてポンプ3a,3bを運転させることが可能である。
【0029】
各ポンプ3a,3bの容量や吸込開始水位LWLが同一である場合、各ポンプ設備100a,100bにおける制御部4a,4bが同時にクラッチ21a,21bをオンする。仮に各クラッチ21a,21bの嵌合時間も同一であると、ポンプ3a,3bが同時に排水を開始し、吸込水槽50内の水位は低下する。すると、各制御部4a,4bは同時にクラッチ21a,21bをオフする。その結果、水位が再び上昇し、各制御部4a,4bが同時にクラッチ21a,21bをオンする。このように、水位の上昇および下降が繰り返される過渡現象(いわゆるサージング)が起こることがある。サージングが発生すると、原動機1a,1b、減速機2a,2b、ポンプ3a,3bの負荷変動が起こり、各軸の破損や劣化が懸念される。
【0030】
そこで、本実施形態では、次のように各ポンプ設備100a,100bにおけるクラッチ21a,21bの嵌合時間が異なるようにする。ここで、嵌合時間とは、嵌合動作を開始してから完了するまでの時間、言い換えると、嵌合動作を開始してから排水が開始するまでの時間である。
【0031】
図3は、排水システムにおけるポンプ3a,3bの動作を模式的に説明する図である。吸込水槽50の水位が吸込開始水位LWLに達すると、各制御部4a,4bは同時にクラッチ21a,21bをオンする(時刻t1)。より詳しくは、クラッチ21a,21bの嵌合を開始させる。ここで、1台目のポンプ設備100aにおけるクラッチ21aの嵌合時間をT1とし、2台目のポンプ設備100bにおけるクラッチ21bの嵌合時間をT2(>T1)とする。
【0032】
そうすると、時刻t1から時間T1が経過した時刻t2においてクラッチ21aの嵌合が完了し、ポンプ3aによる排水が開始する。その後、時刻t1から時間T2が経過した時刻t3においてクラッチ21bの嵌合が完了し、ポンプ3bによる排水が開始する。
このように嵌合時間に差を設けることで、排水が開始されるタイミングがずれ、サージングを抑制できる。
【0033】
1台目のクラッチ21aは、短時間での急接合ではなく、緩嵌合とするのが望ましく、例えばクラッチ21aの嵌合時間T1は3秒あるいはそれ以上とする。これにより、ポンプ3aの負荷変動が抑えられ、主軸31aの劣化損傷を防げる。
【0034】
また、2台目のクラッチ21bの嵌合時間T2は、1台目のクラッチ21aの嵌合時間T1より長ければよく、例えば数十秒程度とする。嵌合時間T2は状況によって適切に可変設定されるのが望ましい。
【0035】
このように、本実施形態ではポンプ設備100a,100bにおけるクラッチ21a,21bの嵌合時間が互いに異なるようにする。そのため、ポンプ3a,3bの始動タイミングがずれ、サージングを抑制できる。
【0036】
なお、排水システムが3以上のポンプ設備を備えていてもよい。その場合、全てのポンプ設備におけるクラッチの嵌合時間が互いに異なっていてもよいし、少なくとも2つのクラッチの嵌合時間が異なっていてもよい。
【0037】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【符号の説明】
【0038】
1a,1b 原動機
11a 出力軸
2a 減速機
21a,21b クラッチ
3a,3b ポンプ
31a 主軸
4a 制御部
100a,100b ポンプ設備
図1
図2
図3