【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明は、以下の実施例により何ら制限されるものではない。
〔実施例1:アクロモペプチダーゼ及びビーズを用いたDNA溶液の調製〕
I)菌液の調製
一般的に食品から検出されやすい10種類の細菌(それぞれEscherichia、Staphylococcus、Kocuria、Salmonella、Listeria、Bacillus、Pseudomonas、Clostridium、Lactobacillus、Leuconostocの各属のもの)について、以下の(1)〜(5)の手順に従って、細菌数が等量となるように混合し、細菌液を調製した。
(1)各細菌について、適切な液体培地及び温度条件で培養し、対数増殖期後期に培養液を採取した。
(2)(1)の培養液を適宜希釈し、適切な培地に塗抹した後、適切な条件で培養することにより、(1)の培養液中の菌数を計測した。
(3)(1)の培養液を10,000×gで20分間遠心した後、上清を除去し、細菌ペレットを得た。得られた細菌ペレットを−20℃で保管した。
(4)(2)の培養終了後、計測した菌数に基づき、各細菌の菌数が1×10
6/mlとなるよう、(3)の細菌ペレットを蒸留水で適宜希釈した。
(5)10種類の細菌について、(4)で希釈した菌液を等量ずつ混合し、細菌数等量混合細菌液とした。
【0035】
II)細菌DNAの抽出及び精製
上記Iで得られた細菌数等量混合細菌液について、以下の(i)〜(xi)の手順に従って、アクロモペプチダーゼ及びビーズによる前処理、及び、スピンカラムタイプのキットであるNucleoSpin Tissue(TaKaRa)を用いたDNA抽出を行った。
(i) 細菌数等量混合細菌液1mlをマイクロチューブに入れ、10,000×gで10分間遠心した後、上清を除去し、細菌のペレットを用意した。
(ii)アクロモペプチダーゼ(1,200U/mL)100μlを(i)で得られた細菌のペレットに添加し、攪拌した後、55℃で15分間インキュベートした。
(iii)(ii)の処理後の溶液に、Buffer T1 80μl, ProteinaseK溶液25μlを添加し、攪拌した後、56℃で1時間インキュベートして酵素処理済サンプルを得た。
(iv) 2.0mlサンプルチューブにφ0.5mmのジルコニアビーズ200mgを入れ、(iii)で得られたサンプルを加え、ビーズ式細胞破砕装置MicroSmash(登録商標)(トミー精工)で、4,500rpmの条件で30秒間ビーズ破砕処理を行った。ビーズの容積/ビーズ以外の内容液の容積の比率は、1/7であった。ビーズ処理時の密閉容器中の内容積に対する当該容器の内容液(ビーズを含む)の容積の割合は11容量%であった。
(v)(iv)の処理後のサンプルチューブに、RNaseA(20 mg/ml)溶液20μlを添加し、室温で5分インキュベートし、撹拌した。
(vi)(v)で得られた懸濁液にBufferB3 200μlを添加し、撹拌したのち、70℃で10分間インキュベートした。
(vii)(vi)で得たマイクロチューブを11,000×g、5分間遠心し、上清を回収し、ビーズを除去した。
(viii)(vii)で得た上清に100%エタノール210μlを添加し、混合した。
(ix) (viii)で得られた溶液をカラムに添加し、11,000×g、1分間遠心した。ろ液除去後、BufferBW 500μlをカラムに添加し、同一条件で遠心し、ろ液を除去した。BufferB5 600μlをカラムに添加し、同一条件で遠心し、ろ液を除去した。再度同一条件で遠心し、カラムのメンブレンを乾燥させた。
(x) (ix)で得たカラムをマイクロチューブにセットし、70℃に温めたBufferBE 100μlを添加し、室温で1分間インキュベートして抽出DNAを溶出させた後、11,000×gで1分間遠心して、溶出したDNAをマイクロチューブの底に集めた。
(xi) 上記(x)で抽出したDNAをDyeEx2.0 SpinKit(QIAGEN)を用いて精製し、DNA溶液を得た。
【0036】
〔比較例1:アクロモペプチダーゼ及びビーズを用いないDNA抽出〕
(ii)〜(iv)の処理の代わりに、BufferT1 180μl,ProteinaseK溶液25μlを細菌のペレットに添加し、攪拌した後、56℃で1時間インキュベートした。
その点以外は、実施例1と同様にして、DNA溶液を得た。
【0037】
実施例1及び比較例1で得たDNA溶液それぞれについて、以下の(a)〜(f)の方法による評価を実施した。
〔評価方法〕
(a:PCRによる目的領域の増幅)
上記(x)で得たDNA溶液2.5μl、12.5μlの2×KAPA Hifi HotStart Ready Mix(KAPA)、1μMの各プライマー5μlを混合し、PCR反応ミックスを調製した。98℃2分の変性反応を実施した後、98℃10秒のDNA変性反応、60℃15秒のアニーリング反応及び68℃1分のDNA伸長反応を含むサイクルを25サイクル繰り返した後、72℃5分で全てのDNA伸長反応を完了させ、16SrRNA遺伝子における特定領域の増幅物(アンプリコン)を含む反応溶液を得た。この方法により、プライマーとして、
図1に記載のプライマーを用い、これよりV1領域及びV2領域の両方を含む領域を増幅させた反応溶液を得たほか、この反応溶液とは別に、
図2に記載のプライマーを用い、V3領域及びV4領域の両方を含む領域を増幅させた反応溶液を得た。
【0038】
(b:精製)
上記(a)で得たDNA溶液をAgncourt AMPure XP(BECKMAN COULTER)を用いて精製した。
【0039】
(c:インデックスの付加)
上記(b)で得たDNA溶液5μl、25μlの2×KAPA Hifi HotStart Ready Mix(KAPA)、各5μlのNextra XT Index Primer1,2、10μlの蒸留水を混合し、PCR反応ミックスを調製した。95℃3分の変性ステップを実施した後、95℃30秒の変性反応、55℃30秒のアニーリング反応及び72℃30秒のDNA伸長反応を含むサイクルを8サイクル繰り返した後、72℃5分で全てのDNA伸長反応を完了させた。付加するインデックスは、実施例1と比較例1との間で異ならせただけでなく、V1及びV2領域含む領域を増幅させた反応溶液と、V3及びV4領域を含む領域を増幅させた反応溶液との間でも異ならせた。
【0040】
(d:精製)
上記(c)で得たインデックス付加後のDNAを、上記(b)に従って、精製し、精製後のDNA溶液を得た。
【0041】
(e:DNAのクオリティー確認及び希釈)
上記(d)で精製したDNAについて、MultiNA(島津製作所)で増幅領域の長さを測定した。更に(d)で得たDNA溶液において、Quantus(登録商標) Fluorometer(Promega)で二本鎖DNAの濃度を測定した。DNAの濃度が4nMとなるように10mM Tris−HCl(pH8.5)でDNAを希釈した。
【0042】
(f:NGS用サンプル調製及びNGS解析)
上記(e)で濃度を測定したDNA溶液から、Nextera(登録商標) XT DNA Library Preparation Kit(illumina)を用いてサンプルを調製した。得られたサンプルを、Miseq(illumina)に供し16Sメタゲノミクス解析を行った。データ解析には、Base Space(登録商標)を用いた。総リード数における特定属と判断されたリード数の割合を、その属の細菌の検出率とした。検出率は、V1及びV2領域を含む領域を増幅させたサンプルにおける検出率と、V3及びV4領域含む領域を増幅させたサンプルにおける検出率との平均値として求めた。
【0043】
〔評価結果〕
実施例1及び比較例1のDNA溶液それぞれについて16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスに供した解析結果を
図3〜
図5に示す。
図3及び
図4は、遺伝子解析により同定された属のうち検出率0.1%以上の細菌を抜粋し、それらの検出率を記載した表である。
図5は、実際に添加した10種の細菌について、実施例1及び比較例1の検出率を比較して示すグラフである。
図4及び
図5に示すように、比較例1のDNA溶液では、一部のグラム陽性菌(Staphylococcus、Kocuria、Lactobacillus、Leuconostoc)の検出率が2%以下であった。一方
図3及び
図5に示すように、実施例1のアクロモペプチダーゼ及びビーズによる処理を行うことで、Staphylococcusは2.5倍、Kocuriaは8.3倍、Lactobacillusは2.5倍、Leuconostocは1.6倍まで検出率が向上した。特定酵素による溶菌及びビーズによる物理的破砕処理を行うことにより、DNAを抽出しにくい細菌の抽出効率が上昇し、検出率が向上したと考えられる。
16SrRNAアンプリコンのマルチプレックスシーケンス解析においては、試料中に存在する未知の細菌を網羅的に検出することが求められる。本発明のDNA抽出法を用いることにより、実際に存在している細菌をより正確に検出することが可能になると考えられる。
なおPCR増幅領域の違い(V1−V2/V3−V4)は、解析結果に大きな影響を与えなかった。また
図3及び
図4には、実際に添加した菌と異なる菌名が検出されているが、PCR増幅領域の塩基配列が近いため、正しく分類ができなかったものと考えられる。