特許第6697968号(P6697968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6697968
(24)【登録日】2020年4月30日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】DNA抽出法及び細菌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6806 20180101AFI20200518BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20200518BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20200518BHJP
【FI】
   C12Q1/6806 ZZNA
   C12N15/10 100Z
   C12Q1/689 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-134350(P2016-134350)
(22)【出願日】2016年7月6日
(65)【公開番号】特開2018-146(P2018-146A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 真名美
(72)【発明者】
【氏名】宮武 聖子
(72)【発明者】
【氏名】野中 純子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由美
【審査官】 星 功介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−141292(JP,A)
【文献】 Journal of Microbiological Methods,2016, Vol.122,pp.64-72
【文献】 Microbiome,2014, Vol.2, No.6,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の細菌のDNAを抽出して、16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスに供するDNA溶液を調製するDNA抽出方法であって、
前記DNA溶液の調製に際し、前記試料に対して、以下の処理(A)、処理(C)及び処理(B)を、処理(A)からこの順に行う、DNA抽出法。
(A)アクロモペプチダーゼで処理することにより、試料中の細菌を溶菌する。
(B)ビーズで処理することにより、試料中の細菌を物理的に破砕する。
(C)試料をタンパク質分解酵素で処理する。
【請求項2】
前記処理(A)、処理(C)及び処理(B)後の試料を、スピンカラムを有するDNA抽出キットで処理して、該試料から前記DNA溶液を得る、請求項1に記載のDNA抽出法。
【請求項3】
前記ビーズが、ジルコニアビーズ及びガラスビーズから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のDNA抽出法。
【請求項4】
前記試料が食品であるか、又は食品工場の環境中から採取した拭き取り試料である、請求項1〜の何れか1項に記載のDNA抽出法。
【請求項5】
試料中の細菌を網羅的に検出する方法であって、
前記試料に対して、以下の処理(A)、処理(C)及び処理(B)を、処理(A)からこの順に行ってDNA溶液を調製し、該DNA溶液におけるDNAを鋳型として、16SrRNA遺伝子におけるユニバーサルプライマーを用いたPCR反応に供することにより、アンプリコンを得、得られたアンプリコンをマルチプレックスシーケンスに供する、細菌の検出方法。
(A)アクロモペプチダーゼで処理することにより、試料中の細菌を溶菌する。
(B)ビーズで処理することにより、試料中の細菌を物理的に破砕する。
(C)試料をタンパク質分解酵素で処理する。
【請求項6】
検出対象とする細菌に、Staphylococcus属、Kocuria属、Lactobacillus属及びLeuconostoc属の少なくとも一種の属の細菌が含まれる、請求項5に記載の細菌の検出方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスに供するDNAの抽出法及び、該抽出法で得られたDNAを用いた細菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遺伝子解析の手法を用いて食品等の試料から細菌を検出することが一般に行われている。この遺伝子解析に供するDNA溶液を調製するために、種々の方法が知られている。
例えば、特許文献1にはマルチプレックスPCRにより食品中の微生物を解析して検出するため、溶菌酵素及び/又は溶菌活性を持つバクテリオシンと界面活性剤とタンパク質変性剤とで処理することにより、検出対象微生物のDNAを抽出する方法が記載されている。
【0003】
また特許文献2には、TRFLP法とSSCP法とを組み合わせた微生物群集構造解析方法に供するDNAを、シリカ/ジルコニアビーズを用いて抽出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2005/064016号のパンフレット
【特許文献2】特開2006−94830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1に記載の技術は、マルチプレックスPCRによる特定微生物の検出方法であり、特許文献2に記載の技術は、TRFLP法とSSCP法とを組み合わせた微生物検出方法である。
これらに対し、近年、16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスにより試料中の細菌を検出することが行われている。16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスとは、特許文献1及び2に記載された細菌検出方法とは異なり、試料中から抽出されたDNAにおける16SrRNA遺伝子の特定領域を増幅させてなるアンプリコンを得、これをマルチプレックスシーケンスに供することにより試料中の細菌を網羅的に検出する方法である。このアンプリコンの生成には、16SrRNA遺伝子における多数菌種間で共通に保存された領域に結合するユニバーサルプライマーを用いる。このユニバーサルプライマーは通常、16SrRNA遺伝子における突然変異が起こりやすい可変領域を含む領域を増幅するために用いられる。マルチプレックスシーケンスは、サンプル由来のDNAにサンプルごとに識別可能な配列を加えることで、複数サンプルを同時にシーケンスすることを可能とした技術であり、一般に、いわゆる次世代シーケンサーにより行われる。
【0006】
16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスは、幅広い菌種に由来する多数の遺伝子配列を短時間で解析できるため、従来の検出方法に比べ、多数の菌種の検出を同時且つ短時間で行うことができる。
しかしながら、従来のDNA抽出方法を用いて試料から細菌DNAを抽出した場合、菌種によってDNAの抽出効率が異なることによって、抽出したDNAを16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスに供しても、実際の分布が反映される結果が得難い場合がある、という課題が存在した。
これに対し、上記の特許文献1及び2においては、16SrRNAアンプリコンのマルチプレックスシーケンスを用いる際のそのような課題は何ら記載も示唆もされておらず、ましてその課題を解決するためのDNA抽出方法は何ら記載も示唆もされていない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、試料中からDNA抽出するに当たり、従来であれば抽出されにくい細菌のDNA、特に16SrRNA遺伝子の抽出精度を高めることができ、16SrRNAアンプリコンのマルチプレックスシーケンスに供した場合に実際の細菌分布に近い検出結果を得やすい簡便なDNAの抽出方法、及びそれを用いた細菌検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、16SrRNAアンプリコンのマルチプレックスシーケンスによる細菌の検出感度と、DNA抽出方法との関係について鋭意検討した。その結果、特定酵素による処理とビーズ処理との組み合わせにより、検出されにくい細菌の検出感度を効果的に向上させることができることを見出した。
本発明は、上記知見に基づくものであり、試料中の細菌のDNAを抽出して、16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスに供するDNA溶液を調製するDNA抽出方法であって、
前記DNA溶液の調製に際し、前記試料に対して、以下の処理(A)及び処理(B)を行う、DNA抽出法を提供するものである。
(A)アクロモペプチダーゼで処理することにより、試料中の細菌を溶菌する。
(B)ビーズで処理することにより、試料中の細菌を物理的に破砕する。
【0009】
また本発明は、試料中の細菌を網羅的に検出する方法であって、
前記試料に対して、以下の処理(A)及び処理(B)を行ってDNA溶液を調製し、該DNA溶液から、16SrRNA遺伝子における可変領域の増幅物であるアンプリコンを得、得られたアンプリコンをマルチプレックスシーケンスに供する、細菌の検出方法を提供するものである。
(A)アクロモペプチダーゼで処理することにより、試料中の細菌を溶菌する。
(B)ビーズで処理することにより、試料中の細菌を物理的に破砕する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、16SrRNAアンプリコンのマルチプレックスシーケンスにより試料中の細菌を検出するに当たり、従来検出されにくかった細菌の検出感度を効果的に向上させることができ、且つ簡便なDNAの抽出方法、及びそれを用いた細菌検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1及び比較例1の評価に用いたV1及びV2領域を含む領域を増幅するためのプライマーの遺伝子配列である。
図2】実施例1及び比較例1の評価に用いたV3及びV4領域を含む領域を増幅するためのプライマーの遺伝子配列である。
図3】実施例1で抽出したDNAを用いた細菌検出試験の結果を示す表である。
図4】比較例1で抽出したDNAを用いた細菌検出試験の結果を示す表である。
図5】比較例1及び実施例1の検出試験の結果を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明のDNA抽出方法は、試料中の細菌のDNAを抽出して、16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスに供するDNA溶液を調製するDNA抽出方法である。
【0013】
試料としては、食品、食品工場の環境中より採取した拭き取り試料、ペットフード、家畜の飼料、医薬品、医薬部外品、土壌、上水、下水、土壌、体内臓器やそれらからの浸出物、血液、皮膚、糞便等を挙げることができる。中でも、食品、及び、食品工場の環境中より採取した拭き取り試料が好ましい。食品には、飲料も含まれる。また、食品には、それに含まれる細菌の種類が既知の食品(例えば発酵食品)だけでなく、含まれる細菌の種類が未知である食品(例えば発酵食品以外の食品)や細菌が含まれているか否か不明の食品も含まれる。本発明は、食品等の試料中における特定の細菌を検出するだけでなく、試料中にどのような細菌が含まれているかが未知である場合であっても、試料中の細菌を網羅的に検出することができる。このような本発明の細菌の検出方法は、例えば、食品中に混入した細菌の検出手段として有用である。上記の食品には、その原料及び製造過程における中間生成物も含まれる。
また試料が液状の場合は、そのまま下記の(A)の処理及び(B)の処理を施してもよいが、試料が粉状等の固形状である場合は、溶媒への分散や、溶媒を用いた抽出、及び、ろ過などを適宜組み合わせて試料を液状又はゲル状等としたものに対し、下記の(A)の処理及び(B)の処理を施すことが好ましい。この場合の溶媒としては、水や各種の緩衝液などが挙げられる。
【0014】
試料中の細菌の属や種に限定はなく、グラム陰性菌及びグラム陽性菌の何れであってもよく、その両方であってもよい。グラム陽性菌を含む試料、とりわけStaphylococcus属、Kocuria属、Lactobacillus属、Leuconostoc属の少なくとも一種を含む試料については、試料中の細菌を網羅的に検出するという本発明の効果が一層得られやすい。
【0015】
本発明のDNA抽出方法は、16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスに供するDNA溶液を調製するに当たり、以下の処理(A)及び処理(B)を行う。
(A)アクロモペプチダーゼで処理することにより、試料中の細菌を溶菌する。
(B)ビーズで処理することにより、試料中の細菌を物理的に破砕する。
【0016】
(A)アクロモペプチダーゼは細胞の細胞壁のペプチドグリカンを分解する作用を有する。アクロモペプチダーゼによる処理は、通常、容器内の試料にアクロモペプチダーゼを添加して行う。アクロモペプチダーゼの添加後に容器内の試料を適宜撹拌することが好ましい。この酵素による処理は、35℃以上55℃以下程度で行うことが好ましい。この酵素による処理時間は15分以上60分以下程度であることが好ましい。本発明のDNA抽出方法では、アクロモペプチダーゼに加えて他のペプチドグリカン分解酵素を用いてもよく用いなくてもよく、また用いる際には、アクロモペプチダーゼによる処理と同時であっても異なっていてもよいが、他のペプチドグリカン分解酵素を用いる場合には、ペプチドグリカン分解酵素のうちアクロモペプチダーゼの酵素量(U)が最も多いことが好ましい。
【0017】
(B)のビーズ処理は、試料とビーズとの混合物に物理的衝撃を与えて細胞破砕する処理である。物理的衝撃を与える方法としては、試料とビーズとの混合物入り密閉容器を振動させる方法や、試料とビーズとの混合物入りの容器を超音波処理する方法などが挙げられる。試料とビーズとの混合物入り密閉容器を振動させる方法としては、各種のビーズ式ホモジナイザーやビーズ式細胞破砕装置を用いる方法を挙げることができる。
【0018】
試料及びビーズ入り密閉容器を振動させる場合、その振動の形態としては、互いに直交する3方向である上下方向、前後方向、左右方向の何れの方向に振動させるものであってもよく、2方向の動きを組み合わせたものであってもよく、3方向の動きを組み合わせたものであってもよい。3方向の動きを組み合わせた振動の形態としては、例えば、容器を、上下に動かしながら水平面における軌道が8の字を描くように振動させる形態が挙げられる。8の字を描くようにとは、容器の何れか一か所の軌道が、上下方向からみたときに8の字であればよい。このように3方向の動きを組み合わせた形態の振動によれば、ビーズと細菌との接触が活発になり、細胞破砕をより一層効果的に行うことができるため好ましい。振動とは、一の位置から他の位置に移動し、前記一の位置に戻ることをいい、例えば容器支持体の旋回に伴う振動であれば、その支持体の1回の旋回に伴う動きをいう。
【0019】
試料及びビーズ入り密閉容器の振動が容器支持体の旋回に伴うものである場合、広範な細菌種を効果的に破砕する点からこの旋回の回転数は3,000rpm以上が好ましく、DNAの断片化を最小限とする点から、5,000rpm以下であることが好ましい。また、振動時間は広範な細菌種を効果的に破砕する点から30秒以上が好ましく、DNAの断片化を最小限とする点から60秒以下が好ましい。この振動時間は、振動を複数回に分けて行う場合は合計の振動時間である。
【0020】
ビーズ処理の際、ビーズの容積/ビーズ以外の内容液の容積の比率は、1/10以上1以下が好ましい。また密閉容器中の内容積に対する当該容器の内容液(ビーズを含む)の容積の割合は、概ね、5容量%以上40容量%以下が好ましく、10容量%以上20容量%以下がより好ましい。
【0021】
ビーズ処理の際における密閉容器中の内容液には外添による界面活性剤が含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。ここでいう外添による界面活性剤とは、処理対象の試料に由来せず、DNA抽出する過程で用いる試薬に含まれた界面活性剤をいう。界面活性剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)などが挙げられる。
【0022】
ビーズ処理に用いるビーズの材質としては、非金属であることが好ましく、ジルコニアビーズ、ガラスビーズが挙げられる。特に、グラム陽性菌等の細胞破砕効果に優れるため、ジルコニアビーズが好ましい。
【0023】
ビーズの粒径としては、φ(直径)0.1mm以上φ1mm以下、特にφ0.3mm以上φ0.8mm以下、とりわけφ0.5mm程度であることが、広範な細菌種を効果的に破砕する点から好ましい。
【0024】
(A)の処理と、(B)の処理とは、どちらを先に行ってもよく、また同時に行ってもよいが、特に、(A)の処理の後に、(B)の処理を行うことが、アクロモペプチダーゼ処理により柔軟化させた細胞壁をビーズ処理により効果的に破砕できる点から好ましい。
【0025】
本発明のDNA抽出方法は、前記試料をタンパク質分解酵素で処理する工程を含むことが好ましい。
これにより、DNA結合タンパク質を分解し、DNA抽出効率を高めることができる点や、試料中のDNAを分解するヌクレアーゼを失活させやすい点から好ましい。タンパク質分解酵素として、例えばプロテイナーゼKなどが挙げられる。(A)の処理の後に(B)の処理を行う場合は、タンパク質分解酵素は(A)の処理の後であって(B)の処理の前に添加することが、タンパク質分解酵素の作用によるアクロモペプチダーゼの失活を防止できる点や、試料中のDNAの分解防止の点から好ましい。
【0026】
また、後述するスピンカラムを用いたDNA抽出においては、(A)の処理及び(B)の処理の後に、RNA分解酵素を添加してサンプル中のRNAを分解すると、純度の高いDNAを精製することができるため好ましい。「RNA分解酵素」としては核酸中RNAを選択的に分解する作用を有する酵素を特に制限なく用いることができ、例えばRNaseAなどが挙げられる。
【0027】
本発明のDNA抽出方法においては、DNAの抽出は、前記処理(A)及び処理(B)後の試料を、スピンカラムを有するDNA抽出キットで処理することにより該試料から前記DNA溶液を得ることが、純度の高いDNA溶液が得られる点で好ましい。スピンカラムとは、例えば核酸吸着性の担体を有し、かつ遠心機により遠心操作が可能なカラムをいう。核酸吸着性の担体としては、シリカ等が挙げられる。核酸吸着性の担体は、通常カラムの底部に配置されている。担体の形状としては例えばメンブレン状が挙げられる。
【0028】
前記のキットは、スピンカラムのほか、例えば、カオトロピックイオンを含む核酸吸着液、スピンカラムの核酸結合性担体に吸着されたDNAを溶出するための溶出液などを備えている。カオトロピックイオンの例としては、グアニジニウムイオン、ヨウ化物イオンなどが挙げられる。カオトロピックイオンはカオトロピック塩により供給され、このカオトロピック塩としては、例えば、塩酸グアニジン、チオシアン酸グアニジン、ヨウ化ナトリウム等が挙げられる。これに加えて、前記のキットは、SDS等の界面活性剤及びタンパク質分解酵素を含有し細胞を溶解させるための溶出バッファーや、担体に吸着されたDNA以外の成分を洗浄除去する洗浄液などを更に備えていてもよい。スピンカラムを有するDNA抽出キットのうち商業的に入手可能なものとしては、例えば、NucleoSpin(登録商標)Tissue(TaKaRa)、Quantum Prep プラスミド(BIO−RAD)が挙げられる。
【0029】
上記(B)の処理後の試料に(B)の処理で用いたビーズが混在している場合であって、当該(B)の処理後の試料を、スピンカラムに供する場合、このビーズが混在した試料のからビーズを除いたものをスピンカラムに供することが好ましい。(B)の処理の後に試料からビーズを除去する方法としては、例えば、ビーズが混在した試料に、必要に応じて遠心分離や溶媒による分離等を行う方法が挙げられる。遠心分離によりビーズを除去する場合、遠心分離の遠心力は10,000×g以上15,000×g以下であることが好ましい。スピンカラムを有する抽出キットでDNAを抽出する場合は、得られた上清液をスピンカラムに供すればよい。
【0030】
スピンカラムから溶出させたDNAは必要に応じて適宜精製し、濃度を測定することが好ましい。以上のようにして、16SrRNA遺伝子のアンプリコンのマルチプレックスシーケンスに供するDNA溶液が調製される。この溶液の溶媒は特に限定されず、公知のものが用いられる。
【0031】
(2:細菌検出)
16SrRNA遺伝子アンプリコンの作製は、上記で調製したDNA溶液を鋳型とし、ユニバーサルプライマーを用いたpolymerase chain reaction,PCR)により行うことが好ましい。16SrRNA遺伝子は、突然変異の起こりやすい可変領域V1〜V9が、その他の領域(多数の菌種間で高度に保存された保存領域)に挟まれている。ユニバーサルプライマーの設計は、例えば、このV1〜V9領域のうち何れか1以上を特異的に増幅させるように設計される。ユニバーサルプライマーは可変領域V1〜V9の何れか1つのみを増幅させるように設計されてもよいが、複数の可変領域をまたがって増幅させるように設計されたものである方が、細菌の検出効率が向上するため好ましい。ユニバーサルプライマーの例としては、図1及び図2に示すものが挙げられるが、それ以外に、上記可変領域を増幅させるための任意のプライマーを用いることが可能である。
【0032】
上記PCRで得られたアンプリコンは、マルチプレックスシーケンスに供される。マルチプレックスシーケンスは、上述した通り、複数種のサンプルそれぞれにおけるDNAにサンプル間で異なる識別用配列を付加することで、同時にシーケンスすることを可能とする技術である。識別用配列は、インデックス等と呼ばれ、この用途のための公知のキット等を用いて付加することができる。
マルチプレックスシーケンスは、通常、次世代シーケンサーを用いて行われる。次世代シーケンサーとは、サンガー法を利用した蛍光キャピラリーシーケンサーである「第1世代シーケンサー」と対比させて用いられている用語であり、次世代シーケンサーでは、ジデオキシヌクレオチドを用いてDNAポリメラーゼの伸長を止めるサンガー法を用いた第1世代シーケンサーと異なるシーケンシング原理が用いられている。このような原理としては例えば、合成シーケンシング法、パイロシーケンシング法、リガーゼ反応シーケンシング法などが挙げられる。次世代シーケンサーとしては、DNAポリメラーゼ又はDNAリガーゼによる逐次的DNA合成法を用いて、数千万から数億のDNA断片に対して数十〜数千bpのリード長の断片を網羅的に解析することによって並列的に塩基配列を決定するための装置が挙げられる。次世代シーケンサーの具体例としては、HiSeq(登録商標)2500 (illumina社)、MiSeq(登録商標) (illumina社)、5500xl SOLiDTM (Life Technologies社)、Ion ProtonTM (Life Technologies社)、Ion PGMTM (Life Technologies社)、GS FLX+ (Roche社)などが挙げられるが、本発明に用いることができる次世代シーケンサーはこれらに限定されず、今後開発されるものも含む。
【0033】
マルチプレックスシーケンスにおいて得られたシークエンスは、公知のデータベースを用いた解析にかけられ、細菌が特定される。例えば、一の種の細菌の検出率は、試料中から抽出されたDNAをシークエンスして得られた総リード数中、当該種の細菌として特定されたリード数として検出される。
以上の通り本発明では、本発明のDNA抽出方法で調製したDNA溶液を用いることにより、幅広い菌種のDNAを効率よく抽出でき、実際の細菌分布を反映した細菌検出が可能となる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明は、以下の実施例により何ら制限されるものではない。
〔実施例1:アクロモペプチダーゼ及びビーズを用いたDNA溶液の調製〕
I)菌液の調製
一般的に食品から検出されやすい10種類の細菌(それぞれEscherichia、Staphylococcus、Kocuria、Salmonella、Listeria、Bacillus、Pseudomonas、Clostridium、Lactobacillus、Leuconostocの各属のもの)について、以下の(1)〜(5)の手順に従って、細菌数が等量となるように混合し、細菌液を調製した。
(1)各細菌について、適切な液体培地及び温度条件で培養し、対数増殖期後期に培養液を採取した。
(2)(1)の培養液を適宜希釈し、適切な培地に塗抹した後、適切な条件で培養することにより、(1)の培養液中の菌数を計測した。
(3)(1)の培養液を10,000×gで20分間遠心した後、上清を除去し、細菌ペレットを得た。得られた細菌ペレットを−20℃で保管した。
(4)(2)の培養終了後、計測した菌数に基づき、各細菌の菌数が1×10/mlとなるよう、(3)の細菌ペレットを蒸留水で適宜希釈した。
(5)10種類の細菌について、(4)で希釈した菌液を等量ずつ混合し、細菌数等量混合細菌液とした。
【0035】
II)細菌DNAの抽出及び精製
上記Iで得られた細菌数等量混合細菌液について、以下の(i)〜(xi)の手順に従って、アクロモペプチダーゼ及びビーズによる前処理、及び、スピンカラムタイプのキットであるNucleoSpin Tissue(TaKaRa)を用いたDNA抽出を行った。
(i) 細菌数等量混合細菌液1mlをマイクロチューブに入れ、10,000×gで10分間遠心した後、上清を除去し、細菌のペレットを用意した。
(ii)アクロモペプチダーゼ(1,200U/mL)100μlを(i)で得られた細菌のペレットに添加し、攪拌した後、55℃で15分間インキュベートした。
(iii)(ii)の処理後の溶液に、Buffer T1 80μl, ProteinaseK溶液25μlを添加し、攪拌した後、56℃で1時間インキュベートして酵素処理済サンプルを得た。
(iv) 2.0mlサンプルチューブにφ0.5mmのジルコニアビーズ200mgを入れ、(iii)で得られたサンプルを加え、ビーズ式細胞破砕装置MicroSmash(登録商標)(トミー精工)で、4,500rpmの条件で30秒間ビーズ破砕処理を行った。ビーズの容積/ビーズ以外の内容液の容積の比率は、1/7であった。ビーズ処理時の密閉容器中の内容積に対する当該容器の内容液(ビーズを含む)の容積の割合は11容量%であった。
(v)(iv)の処理後のサンプルチューブに、RNaseA(20 mg/ml)溶液20μlを添加し、室温で5分インキュベートし、撹拌した。
(vi)(v)で得られた懸濁液にBufferB3 200μlを添加し、撹拌したのち、70℃で10分間インキュベートした。
(vii)(vi)で得たマイクロチューブを11,000×g、5分間遠心し、上清を回収し、ビーズを除去した。
(viii)(vii)で得た上清に100%エタノール210μlを添加し、混合した。
(ix) (viii)で得られた溶液をカラムに添加し、11,000×g、1分間遠心した。ろ液除去後、BufferBW 500μlをカラムに添加し、同一条件で遠心し、ろ液を除去した。BufferB5 600μlをカラムに添加し、同一条件で遠心し、ろ液を除去した。再度同一条件で遠心し、カラムのメンブレンを乾燥させた。
(x) (ix)で得たカラムをマイクロチューブにセットし、70℃に温めたBufferBE 100μlを添加し、室温で1分間インキュベートして抽出DNAを溶出させた後、11,000×gで1分間遠心して、溶出したDNAをマイクロチューブの底に集めた。
(xi) 上記(x)で抽出したDNAをDyeEx2.0 SpinKit(QIAGEN)を用いて精製し、DNA溶液を得た。
【0036】
〔比較例1:アクロモペプチダーゼ及びビーズを用いないDNA抽出〕
(ii)〜(iv)の処理の代わりに、BufferT1 180μl,ProteinaseK溶液25μlを細菌のペレットに添加し、攪拌した後、56℃で1時間インキュベートした。
その点以外は、実施例1と同様にして、DNA溶液を得た。
【0037】
実施例1及び比較例1で得たDNA溶液それぞれについて、以下の(a)〜(f)の方法による評価を実施した。
〔評価方法〕
(a:PCRによる目的領域の増幅)
上記(x)で得たDNA溶液2.5μl、12.5μlの2×KAPA Hifi HotStart Ready Mix(KAPA)、1μMの各プライマー5μlを混合し、PCR反応ミックスを調製した。98℃2分の変性反応を実施した後、98℃10秒のDNA変性反応、60℃15秒のアニーリング反応及び68℃1分のDNA伸長反応を含むサイクルを25サイクル繰り返した後、72℃5分で全てのDNA伸長反応を完了させ、16SrRNA遺伝子における特定領域の増幅物(アンプリコン)を含む反応溶液を得た。この方法により、プライマーとして、図1に記載のプライマーを用い、これよりV1領域及びV2領域の両方を含む領域を増幅させた反応溶液を得たほか、この反応溶液とは別に、図2に記載のプライマーを用い、V3領域及びV4領域の両方を含む領域を増幅させた反応溶液を得た。
【0038】
(b:精製)
上記(a)で得たDNA溶液をAgncourt AMPure XP(BECKMAN COULTER)を用いて精製した。
【0039】
(c:インデックスの付加)
上記(b)で得たDNA溶液5μl、25μlの2×KAPA Hifi HotStart Ready Mix(KAPA)、各5μlのNextra XT Index Primer1,2、10μlの蒸留水を混合し、PCR反応ミックスを調製した。95℃3分の変性ステップを実施した後、95℃30秒の変性反応、55℃30秒のアニーリング反応及び72℃30秒のDNA伸長反応を含むサイクルを8サイクル繰り返した後、72℃5分で全てのDNA伸長反応を完了させた。付加するインデックスは、実施例1と比較例1との間で異ならせただけでなく、V1及びV2領域含む領域を増幅させた反応溶液と、V3及びV4領域を含む領域を増幅させた反応溶液との間でも異ならせた。
【0040】
(d:精製)
上記(c)で得たインデックス付加後のDNAを、上記(b)に従って、精製し、精製後のDNA溶液を得た。
【0041】
(e:DNAのクオリティー確認及び希釈)
上記(d)で精製したDNAについて、MultiNA(島津製作所)で増幅領域の長さを測定した。更に(d)で得たDNA溶液において、Quantus(登録商標) Fluorometer(Promega)で二本鎖DNAの濃度を測定した。DNAの濃度が4nMとなるように10mM Tris−HCl(pH8.5)でDNAを希釈した。
【0042】
(f:NGS用サンプル調製及びNGS解析)
上記(e)で濃度を測定したDNA溶液から、Nextera(登録商標) XT DNA Library Preparation Kit(illumina)を用いてサンプルを調製した。得られたサンプルを、Miseq(illumina)に供し16Sメタゲノミクス解析を行った。データ解析には、Base Space(登録商標)を用いた。総リード数における特定属と判断されたリード数の割合を、その属の細菌の検出率とした。検出率は、V1及びV2領域を含む領域を増幅させたサンプルにおける検出率と、V3及びV4領域含む領域を増幅させたサンプルにおける検出率との平均値として求めた。
【0043】
〔評価結果〕
実施例1及び比較例1のDNA溶液それぞれについて16SrRNA遺伝子アンプリコンのマルチプレックスシーケンスに供した解析結果を図3図5に示す。図3及び図4は、遺伝子解析により同定された属のうち検出率0.1%以上の細菌を抜粋し、それらの検出率を記載した表である。図5は、実際に添加した10種の細菌について、実施例1及び比較例1の検出率を比較して示すグラフである。図4及び図5に示すように、比較例1のDNA溶液では、一部のグラム陽性菌(Staphylococcus、Kocuria、Lactobacillus、Leuconostoc)の検出率が2%以下であった。一方図3及び図5に示すように、実施例1のアクロモペプチダーゼ及びビーズによる処理を行うことで、Staphylococcusは2.5倍、Kocuriaは8.3倍、Lactobacillusは2.5倍、Leuconostocは1.6倍まで検出率が向上した。特定酵素による溶菌及びビーズによる物理的破砕処理を行うことにより、DNAを抽出しにくい細菌の抽出効率が上昇し、検出率が向上したと考えられる。
16SrRNAアンプリコンのマルチプレックスシーケンス解析においては、試料中に存在する未知の細菌を網羅的に検出することが求められる。本発明のDNA抽出法を用いることにより、実際に存在している細菌をより正確に検出することが可能になると考えられる。
なおPCR増幅領域の違い(V1−V2/V3−V4)は、解析結果に大きな影響を与えなかった。また図3及び図4には、実際に添加した菌と異なる菌名が検出されているが、PCR増幅領域の塩基配列が近いため、正しく分類ができなかったものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]