特許第6699085号(P6699085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6699085
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】Fc結合性タンパク質の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/18 20060101AFI20200518BHJP
   C07K 14/735 20060101ALN20200518BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20200518BHJP
【FI】
   C07K1/18ZNA
   !C07K14/735
   !C12N15/12
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-63068(P2015-63068)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-183113(P2016-183113A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山中 直紀
(72)【発明者】
【氏名】大江 正剛
(72)【発明者】
【氏名】西山 しずか
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−509030(JP,A)
【文献】 特開2012−250945(JP,A)
【文献】 特表2005−538176(JP,A)
【文献】 特表2008−542269(JP,A)
【文献】 特表2009−532474(JP,A)
【文献】 特開2015−035958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)陽イオン交換クロマトグラフィー用担体に、Fc結合性タンパク質を含む溶液を添加することで、前記担体にFc結合性タンパク質を吸着させる工程と、
(2)洗浄液を用いて、Fc結合性タンパク質を吸着した前記担体を洗浄する工程と、
(3)溶出液を用いて、前記担体に吸着したFc結合性タンパク質を溶出させる工程と、
を含むFc結合性タンパク質の精製方法であって、
前記(2)の工程が、50mmol/Lの塩化ナトリウムを含む第一の洗浄液を用いて洗浄した後、100mmol/Lの塩化ナトリウムを含む第二の洗浄液を用いて洗浄する工程であり、
前記(3)の工程が、300mmol/L以上400mmol/L以下の塩化ナトリウムを含む溶出液を用いてFc結合性タンパク質を溶出させる工程であり、
Fc結合性タンパク質が、
(i)配列番号に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも33番目のグリシンから208番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質、または
(ii)配列番号に記載のアミノ酸配列において以下の(a)〜(d)のいずれか1以上のアミノ酸置換が生じているアミノ酸配列のうち少なくとも33番目のグリシンから208番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含タンパク質である

(a)配列番号1の66番目に該当するロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(b)配列番号1の147番目に該当するグリシンがアスパラギン酸に置換
(c)配列番号1の158番目に該当するチロシンがヒスチジンに置換
(d)配列番号1の176番目に該当するバリンがフェニルアラニンに置換。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いてFc結合性タンパク質を精製する方法に関する。特に本発明は、ヒトFcγRIIIa由来のFc結合性タンパク質を、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いてを高回収率かつ高純度に精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Fcレセプターは、免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群の分子である。Fcレセプターはその結合する免疫グロブリンの種類によって分類されており、IgGのFc領域に結合するFcγレセプター、IgEのFc領域に結合するFcεレセプター、IgAのFc領域に結合するFcαレセプター等がある(非特許文献1)。また、各レセプターは、その構造の違いによりさらに細かく分類され、Fcγレセプターの場合、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIbの存在が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
Fcγレセプターの中でも、FcγRIIIaはナチュラルキラー細胞(NK細胞)やマクロファージなどの細胞表面に存在しており、ヒト免疫機構の中でも重要なADCC(抗体依存性細胞傷害)活性に関与している重要なレセプターである。このFcγRIIIaとヒトIgGとの親和性は結合の強さを示す結合定数(KA)が10−1以下であることが報告されている(非特許文献2)。ヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列(配列番号1)はUniProt(Accession number:P08637)などの公的データベースに公表されている。また、ヒトFcγRIIIaの構造上の機能ドメイン、細胞膜を貫通するためのシグナルペプチド配列、細胞膜貫通領域の位置についても同様に公表されている。図1にヒトFcγRIIIaの構造略図を示す。なお、図1中の番号はアミノ酸番号を示しており、その番号は配列番号1に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号1中の1番目のメチオニン(Met)から16番目のアラニン(Ala)までがシグナル配列(S)、17番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までが細胞外領域(EC)、209番目のバリン(Val)から229番目のバリン(Val)までが細胞膜貫通領域(TM)および230番目のリジン(Lys)から254番目のリジン(Lys)までが細胞内領域(C)とされている。なおFcγRIIIaはIgG1からIgG4まであるヒトIgGサブクラスのうち、特にIgG1とIgG3に対し強く結合する一方、IgG2とIgG4に対する結合は弱いことが知られている。
【0004】
近年になり見出されたFcレセプターの予想外の免疫抑制的な生物学的特性により、自己免疫疾患または自己免疫症候群、移植物の拒絶および悪性リンパ増殖の領域において医薬として注目を浴びつつある(非特許文献3)。また、Fcレセプターの機能である抗体の吸着能は各種抗体精製用クロマトグラフィー担体の捕捉機能を担うタンパク質としても利用することができる。しかしながら、前記目的でFcレセプターを利用するには、Fcレセプターを高純度に精製することが重要である。
【0005】
Fc結合性タンパク質(Fcレセプター)の精製に関しては、疎水クロマトグラフィーを用いたFc結合性タンパク質の精製について検討を行なっており、疎水クロマトグラフィー用担体に吸着したFc結合性タンパク質を10%(w/v)のグリセロールを含む緩衝液で溶出させることでFc結合性タンパク質を高純度かつ高効率な精製を実現している(特許文献1)。また陽イオン交換クロマトグラフィーを用いたFc結合性タンパク質の精製において、前記クロマトグラフィー用担体にアプライするFc結合性タンパク質を含む溶液、および前記担体に吸着したFc結合性タンパク質の溶出液に尿素を添加することで、不純物の吸着を抑え、高純度かつ高効率な精製を実現している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−126827号公報
【特許文献2】特開2012−250945号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.V.Ravetch等,Annu.Rev.Immol/Lunol.,9,457,1991
【非特許文献2】J.Galon等,Eur.J.Immol/Lunol.,27,1928−1932,1997
【非特許文献3】Toshiyuki Takai,Jpn.J.Clin.Immol/Lunol.,28,318,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、Fc結合性タンパク質の精製に関しては、特許文献1および2の開示がある。しかしながら、さらなる精製純度および精製効率の向上が求められていた。また、これら特許文献で開示の方法で検討したFc結合性タンパク質はヒトFcγRI由来のタンパク質であるが、別のFc結合性タンパク質であるヒトFcγRIIIa由来のタンパク質に対して同様に検討したところ、高純度かつ高効率な精製を行なうことができなかった。
【0009】
そこで本発明の目的は、Fc結合性タンパク質(特にヒトFcγRIIIa由来のFc結合性タンパク質)を、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて高純度かつ高効率に精製する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために鋭意検討した結果、Fc結合性タンパク質を吸着した陽イオン交換クロマトグラフィー担体を洗浄する工程に用いる洗浄液、および前記担体からFc結合性タンパク質を溶出させる工程に用いる溶出液における最適な塩濃度を見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち本発明の第一の態様は、
(1)陽イオン交換クロマトグラフィー用担体に、Fc結合性タンパク質を含む溶液を添加することで、前記担体にFc結合性タンパク質を吸着させる工程と、
(2)洗浄液を用いて、Fc結合性タンパク質を吸着した前記担体を洗浄する工程と、
(3)溶出液を用いて、前記担体に吸着したFc結合性タンパク質を溶出させる工程と、
を含むFc結合性タンパク質の精製方法であって、
前記(2)の工程が、150mmol/L未満の塩化ナトリウムを含む第一の洗浄液を用いて洗浄した後、150mmol/L以下かつ前記第一の洗浄液よりも高濃度の塩化ナトリウムを含む第二の洗浄液を用いて洗浄する工程であり、
前記(3)の工程が、250mmol/L以上の塩化ナトリウムを含む溶出液を用いてFc結合性タンパク質を溶出させる工程である、前記精製方法である。
【0012】
また本発明の第二の態様は、Fc結合性タンパク質が、
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質、または
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したタンパク質である、
前記第一の態様に記載の精製方法である。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明において、陽イオン交換クロマトグラフィー用担体に添加する、Fc結合性タンパク質を含む溶液の一例として、Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドにより形質転換された宿主の培養液(後述する粗精製Fc結合性タンパク質溶液を含む)や、前記培養液(後述する粗精製Fc結合性タンパク質溶液を含む)を陽イオン交換クロマトグラフィー以外のクロマトグラフィーを用いて精製して得られた溶液があげられる。
【0015】
本発明において、Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドにより形質転換する宿主とは、COS細胞やCHO細胞に代表される動物細胞、バチルス属(ブレビバチルス属細菌やパエニバチルス属細菌のような広義のバチルス属細菌も含む)や大腸菌に代表される細菌、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属に代表される酵母、麹菌に代表される糸状菌が例示できるが、取扱いの簡便な大腸菌を宿主とするのが好ましい。なお宿主が大腸菌の場合は、特開2012−034591号公報および特開2013−085531号公報に開示した方法等により、形質転換体を培養することで前記タンパク質を発現させればよい。
【0016】
本発明において、前記宿主の形質転換体の培養液から、クロマトグラフィー用担体に添加するための粗精製Fc結合性タンパク質溶液を得るには、発現の形態によって適宜選択すればよい。例えば、発現したタンパク質が宿主細胞のペリプラズムに発現する場合は、培養液を遠心分離して得られる宿主細胞を適切な緩衝液で懸濁し細胞破砕(物理的破砕、薬剤による破砕など)後、遠心分離により破砕残渣を除去することで、発現したタンパク質を含む無細胞抽出液を得ればよく、発現したタンパク質が宿主細胞のペリプラズムから培養上清に漏出する場合は、培養液を遠心分離して得られる培養上清から発現したタンパク質を回収すればよい。なお薬剤により宿主細胞を破砕する際は、例えば、特開2013−252099号公報に開示した方法や、BugBuster Protein extraction kit(タカラバイオ社製)等の市販の抽出試薬を用いて破砕するとよい。
【0017】
本発明において、精製に用いる陽イオン交換クロマトグラフィー用担体は、カルボキシメチル基、スルホプロピル基、スルホン酸基といった陽イオン交換基を担体に導入したものであれば特に限定はなく、具体例として、TOYOPEARL CM−650、TOYOPEARL SP−650、TOYOPEARL GigaCap S−650(以上、東ソー社製)、CM Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社製)があげられる。なお、前記陽イオン交換クロマトグラフィー用担体を用いて、本発明の精製方法を実施する際は、前記担体へのFc結合性タンパク質を含む溶液(アプライ液)の添加量や、前記担体のタンパク吸着性能等によって決定した量の担体を、適切なオープンカラム等に充填して行なえばよい。また、前記陽イオン交換クロマトグラフィー用担体は、アプライ液を添加する前に、あらかじめ、塩を含む適切な緩衝液(Tris−HCl緩衝液、グリシン−NaOH緩衝液、リン酸塩緩衝液等)で平衡化するとよい。
【0018】
本発明の精製方法では、前述した緩衝液であらかじめ平衡化した陽イオン交換クロマトグラフィー用担体に、Fc結合性タンパク質を含む溶液(アプライ液)を添加して、前記担体にFc結合性タンパク質を吸着させた後、溶出工程前に洗浄液を用いて前記担体に吸着しないタンパク質を除去する。その際、前記除去操作を150mmol/L未満の塩化ナトリウムを含む第一の洗浄液を用いて除去した後、150mmol/L以下かつ前記第一の洗浄液よりも高濃度の塩化ナトリウムを含む第二の洗浄液を用いて除去することで行なう。具体的には、前記第一の洗浄液として平衡化した緩衝液に含まれる塩と同じイオン強度の塩化ナトリウムを含む緩衝液を、前記第二の洗浄液を前記第一の洗浄液以上かつ150mmol/L以下の濃度の塩化ナトリウムを含む緩衝液を、それぞれ用いる例があげられる。なお前記除去操作を行なう際に用いる、第一の洗浄液に含まれる塩化ナトリウム濃度を100mmol/L未満とし、第二の洗浄液に含まれる塩化ナトリウム濃度を100mmol/L以下かつ前記第一の洗浄液よりも高い濃度とすると、その後の溶出工程により回収されるFc結合性タンパク質の回収率や純度がさらに向上する点で好ましい。前記好ましい態様の一例として、陽イオン交換クロマトグラフィー用担体の平衡化に用いる緩衝液を40mmol/Lから60mmol/Lの範囲の塩化ナトリウムに相当するイオン強度を有した緩衝液とし、第一の洗浄液に含まれる塩化ナトリウム濃度を40mmol/Lから60mmol/Lの範囲とし、第二の洗浄液に含まれる塩化ナトリウム濃度を80mmol/Lから100mmol/Lの範囲とする例があげられる。
【0019】
一方、前記担体に吸着したFc結合性タンパク質を溶出させるための溶出液は、250mmol/L以上の塩化ナトリウムを含む緩衝液を用いればよい。なお、溶出液に含まれる塩化ナトリウムの濃度を300mmol/Lから400mmol/Lの範囲とするとより好ましい。
【0020】
本発明においてFc結合性タンパク質とは、ヒトFcγRIの細胞外領域(具体的には天然型ヒトFcγRIの場合、配列番号5に記載のアミノ酸配列のうち16番目のグルタミンから292番目のヒスチジンまでの領域)を構成するタンパク質、またはヒトFcγRIIIaの細胞外領域(具体的には天然型ヒトFcγRIIIaの場合、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから208番目のグルタミンまでの領域)(図1)を構成するタンパク質があげられる。なお必ずしもヒトFcγRI細胞外領域またはヒトFcγRIIIa細胞外領域の全領域でなくてもよく、ヒトFcγRI細胞外領域またはヒトFcγRIIIa細胞外領域を構成するタンパク質(ポリペプチド)のうち、少なくとも抗体(免疫グロブリン)のFc領域に結合する本来の機能を発現し得る領域のポリペプチドを含んでいればよい。本明細書におけるヒトFc結合性タンパク質の一例として、
(i)配列番号5に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質や、
(ii)配列番号5に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したタンパク質や、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質や、
(iv)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したタンパク質、
があげられる。中でも前記(iii)および(iv)、すなわちヒトFcγRIIIa細胞外領域を構成するタンパク質のうち、少なくとも抗体のFc領域に結合する本来の機能を発現し得る領域のポリペプチドを含んだタンパク質、または当該タンパク質を構成するアミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したタンパク質に対して、本発明を適用させると好ましい。
【0021】
前記(ii)の具体例としては、特開2011−206046号公報や特開2014−027916号公報に開示のFc結合性タンパク質があげられる。
【0022】
また前記(iv)の具体例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(1)から(40)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質(特願2014−166883号)があげられる。
(1)配列番号1の18番目のメチオニンがアルギニンに置換
(2)配列番号1の27番目のバリンがグルタミン酸に置換
(3)配列番号1の29番目のフェニルアラニンがロイシンまたはセリンに置換
(4)配列番号1の30番目のロイシンがグルタミンに置換
(5)配列番号1の35番目のチロシンがアスパラギン酸、グリシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、セリン、スレオニン、ヒスチジンのいずれかに置換
(6)配列番号1の46番目のリジンがイソロイシンまたはスレオニンに置換
(7)配列番号1の48番目のグルタミンがヒスチジンまたはロイシンに置換
(8)配列番号1の50番目のアラニンがヒスチジンに置換
(9)配列番号1の51番目のチロシンがアスパラギン酸またはヒスチジンに置換
(10)配列番号1の54番目のグルタミン酸がアスパラギン酸またはグリシンに置換
(11)配列番号1の56番目のアスパラギンがスレオニンに置換
(12)配列番号1の59番目のグルタミンがアルギニンに置換
(13)配列番号1の61番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(14)配列番号1の64番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(15)配列番号1の65番目のセリンがアルギニンに置換
(16)配列番号1の71番目のアラニンがアスパラギン酸に置換
(17)配列番号1の75番目のフェニルアラニンがロイシン、セリン、チロシンのいずれかに置換
(18)配列番号1の77番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換
(19)配列番号1の78番目のアラニンがセリンに置換
(20)配列番号1の82番目のアスパラギン酸がグルタミン酸またはバリンに置換
(21)配列番号1の90番目のグルタミンがアルギニンに置換
(22)配列番号1の92番目のアスパラギンがセリンに置換
(23)配列番号1の93番目のロイシンがアルギニンまたはメチオニンに置換
(24)配列番号1の95番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(25)配列番号1の110番目のロイシンがグルタミンに置換
(26)配列番号1の115番目のアルギニンがグルタミンに置換
(27)配列番号1の116番目のトリプトファンがロイシンに置換
(28)配列番号1の118番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(29)配列番号1の119番目のリジンがグルタミン酸に置換
(30)配列番号1の120番目のグルタミン酸がバリンに置換
(31)配列番号1の121番目のグルタミン酸がアスパラギン酸またはグリシンに置換
(32)配列番号1の151番目のフェニルアラニンがセリンまたはチロシンに置換
(33)配列番号1の155番目のセリンがスレオニンに置換
(34)配列番号1の163番目のスレオニンがセリンに置換
(35)配列番号1の167番目のセリンがグリシンに置換
(36)配列番号1の169番目のセリンがグリシンに置換
(37)配列番号1の171番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(38)配列番号1の180番目のアスパラギンがリジン、セリン、イソロイシンのいずれかに置換
(39)配列番号1の185番目のスレオニンがセリンに置換
(40)配列番号1の192番目のグルタミンがリジンに置換
また前記(iv)の別の具体例としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(41)から(111)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質があげられ、さらに具体的な例として配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含むFc結合性タンパク質があげられる(特願2015−047462号)。
(41)配列番号2の45番目のフェニルアラニンがイソロイシンまたはロイシンに置換
(42)配列番号2の55番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(43)配列番号2の64番目のグルタミンがアルギニンに置換
(44)配列番号2の67番目のチロシンがセリンに置換
(45)配列番号2の77番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(46)配列番号2の93番目のアスパラギン酸がグリシンに置換
(47)配列番号2の98番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(48)配列番号2の106番目のグルタミンがアルギニンに置換
(49)配列番号2の128番目のグルタミンがロイシンに置換
(50)配列番号2の133番目のバリンがグルタミン酸に置換
(51)配列番号2の135番目のリジンがアスパラギンまたはグルタミン酸に置換
(52)配列番号2の156番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(53)配列番号2の158番目のロイシンがグルタミンに置換
(54)配列番号2の187番目のフェニルアラニンがセリンに置換
(55)配列番号2の191番目のロイシンがアルギニンに置換
(56)配列番号2の196番目のアスパラギンがセリンに置換
(57)配列番号2の204番目のイソロイシンがバリンに置換
(58)配列番号2の34番目のメチオニンがイソロイシン、リジン、スレオニンのいずれかに置換
(59)配列番号2の37番目のグルタミン酸がグリシンまたはリジンに置換
(60)配列番号2の39番目のロイシンがメチオニンまたはアルギニンに置換
(61)配列番号2の49番目のグルタミンがプロリンに置換
(62)配列番号2の62番目のリジンがイソロイシンまたはグルタミン酸に置換
(63)配列番号2の64番目のグルタミンがトリプトファンに置換
(64)配列番号2の67番目のチロシンがヒスチジンまたはアスパラギンに置換
(65)配列番号2の70番目のグルタミン酸がグリシンまたはアスパラギン酸に置換
(66)配列番号2の72番目のアスパラギンがセリンまたはイソロイシンに置換
(67)配列番号2の77番目のフェニルアラニンがロイシンに置換
(68)配列番号2の80番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(69)配列番号2の81番目のセリンがアルギニンに置換
(70)配列番号2の83番目のイソロイシンがロイシンに置換
(71)配列番号2の84番目のセリンがプロリンに置換
(72)配列番号2の85番目のセリンがアスパラギンに置換
(73)配列番号2の87番目のアラニンがスレオニンに置換
(74)配列番号2の90番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(75)配列番号2の91番目のフェニルアラニンがアルギニンに置換
(76)配列番号2の93番目のアスパラギン酸がバリンまたはグルタミン酸に置換
(77)配列番号2の94番目のアラニンがグルタミン酸に置換
(78)配列番号2の97番目のバリンがメチオニンとグルタミン酸に置換
(79)配列番号2の98番目のアスパラギン酸がアラニンに置換
(80)配列番号2の102番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(81)配列番号2の106番目のグルタミンがロイシンに置換
(82)配列番号2の109番目のロイシンがグルタミンに置換
(83)配列番号2の117番目のグルタミンがロイシンに置換
(84)配列番号2の119番目のグルタミン酸がバリンに置換
(85)配列番号2の121番目のヒスチジンがアルギニンに置換
(86)配列番号2の130番目のプロリンがロイシンに置換
(87)配列番号2の135番目のリジンがチロシンに置換
(88)配列番号2の136番目のグルタミン酸がバリンに置換
(89)配列番号2の141番目のヒスチジンがグルタミンに置換
(90)配列番号2の146番目のセリンがスレオニンに置換
(91)配列番号2の154番目のリジンがアルギニンに置換
(92)配列番号2の159番目のグルタミンがヒスチジンに置換
(93)配列番号2の163番目のグリシンがバリンに置換
(94)配列番号2の165番目のリジンがメチオニンに置換
(95)配列番号2の167番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(96)配列番号2の169番目のヒスチジンがチロシンに置換
(97)配列番号2の174番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(98)配列番号2の177番目のリジンがアルギニンに置換
(99)配列番号2の185番目のセリンがグリシンに置換
(100)配列番号2の194番目のセリンがアルギニンに置換
(101)配列番号2の196番目のアスパラギンがリジンに置換
(102)配列番号2の201番目のスレオニンがアラニンに置換
(103)配列番号2の203番目のアスパラギンがイソロイシンまたはリジンに置換
(104)配列番号2の207番目のスレオニンがアラニンに置換
(105)配列番号2の94番目のアラニンがセリンに置換
(106)配列番号2の98番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(107)配列番号2の117番目のグルタミンがアルギニンに置換
(108)配列番号2の156番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(109)配列番号2の174番目のチロシンがヒスチジンに置換
(110)配列番号2の181番目のリジンがグルタミン酸に置換
(111)配列番号2の203番目のアスパラギンがアスパラギン酸またはチロシンに置換
また前記(iv)のさらに別の具体例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(112)から(115)に示す天然に生じるアミノ酸置換のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質があげられる。
(112)配列番号1の66番目のロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(113)配列番号1の147番目のグリシンがアスパラギン酸に置換
(114)配列番号1の158番目のチロシンがヒスチジンに置換
(115)配列番号1の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換
本発明の精製方法において、カラムから溶出した画分に含まれるFc結合性タンパク質を定量するには、従来から知られている安定かつ効率的に定量できる方法の中から適宜選択すればよいが、ELISA法(酵素結合免疫吸着法)による分析方法が好ましい。
【0023】
本発明の精製方法により得られたFc結合性タンパク質は、医薬品、臨床検査薬、バイオセンサー、またはアフィニティーリガンド(分離剤)など様々な用途に用いることができる。使用の際の形態や純度はその用途により異なり、本発明の精製方法により得られたFc結合性タンパク質をそのまま用いてもよいし、さらに高度に精製したものを用いてもよいし、またその中間の純度の精製度合いのものを用いてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、(1)陽イオン交換クロマトグラフィー用担体に、Fc結合性タンパク質を含む溶液を添加することで、前記担体にFc結合性タンパク質を吸着させる工程と、(2)洗浄液を用いて、Fc結合性タンパク質を吸着した前記担体を洗浄する工程と、(3)溶出液を用いて、前記担体に吸着したFc結合性タンパク質を溶出させる工程と、を含むFc結合性タンパク質の精製方法において、前記(2)の工程を、150mmol/L未満の塩化ナトリウムを含む第一の洗浄液を用いて洗浄した後、150mmol/L以下かつ前記第一の洗浄液よりも高濃度の塩化ナトリウムを含む第二の洗浄液を用いて洗浄する工程とし、前記(3)の工程を、250mmol/L以上の塩化ナトリウムを含む溶出液を用いてFc結合性タンパク質を溶出させる工程とすることを特徴としている。本発明により、一段階のカラムクロマトグラフィー操作によって、Fc結合性タンパク質(特にヒトFcγRIIIa由来のFc結合性タンパク質)を高回収率かつ高純度に精製することができる。
【0025】
また、本発明の精製方法は前記担体に導入するFc結合性タンパク質を含む溶液の量(アプライ量)に係わらず適用可能な方法であるため、Fc結合性タンパク質の分析目的に適用できることはもちろん、工業的なFc結合性タンパク質生産の一工程にも適用することができる。
【0026】
本発明の精製方法で得られたFc結合性タンパク質は、そのまま、またはさらなる精製により、医薬品、臨床検査薬、バイオセンサー、またはアフィニティーリガンド(分離剤)など様々な用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ヒトFcγRIIIaの構造を示す図。
図2】実施例2において、溶出工程で得られる画分の純度を確認した結果(サイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラム)。
図3】比較例1において、溶出工程で得られる画分の純度を確認した結果(サイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラム)。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は前記例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1 Fc結合性タンパク質の調製
以降の実施例で用いるFc結合性タンパク質を含む溶液を、以下の方法で調製した。
(1)配列番号3に記載の配列からなるFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号4)を含む発現ベクターpTrcFcR9T8−R1を、特開2014−223064号公報で開示の方法にて作成し、当該発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換した。なお配列番号3に記載の配列からなるFc結合性タンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において以下の(I)から(IV)のアミノ酸置換が生じたFc結合性タンパク質である(特願2015−047462号)。
(I)配列番号2の45番目のフェニルアラニンがイソロイシンに置換
(II)配列番号2の64番目のグルタミンがアルギニンに置換
(III)配列番号2の133番目のバリンがグルタミン酸に置換
(IV)配列番号2の187番目のフェニルアラニンがセリンに置換
(2)得られた組換え大腸菌を、特開2012−034591号公報および特開2013−085531号公報で開示の方法に基づき、培養することで、Fc結合性タンパク質を発現させた。
(3)組換え大腸菌の培養液より菌体を回収後、抽出液(1mmol/LのEDTA、40mmol/Lの塩化ナトリウム、2mmol/Lの硫酸マグネシウム、250Unit/LのBenzonase(メルク社製)、0.0005(w/v)%のリゾチーム、0.5(w/v)%のTriton X−100(商品名)、および0.001(w/v)%のデオキシコール酸ナトリウムを含む20mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.0))を用いて、菌体内に発現した前記タンパク質を抽出した。
(4)(3)で得られた菌体抽出液から遠心分離により上清を回収し、Fc結合性タンパク質抽出液を得た。
(5)(4)で得られた抽出液を陽イオン交換クロマトグラフィー用担体に添加するため、イオン強度(電気伝導度)が50mmol/Lの塩化ナトリウム濃度に相当するイオン強度となるよう調整した。
【0030】
実施例2 Fc結合性タンパク質の精製
(1)実施例1の(5)で得られたFc結合性タンパク質抽出液を、50mmol/Lの塩化ナトリウムを添加した20mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.0)であらかじめ平衡化させた陽イオン交換クロマトグラフィー用担体TOYOPEARL CM−650M(東ソー社製)にアプライすることで、Fc結合性タンパク質を前記担体に吸着させた。
(2)Fc結合性タンパク質を吸着した前記担体を、50mmol/Lの塩化ナトリウムを添加した20mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.0)で洗浄することで、夾雑不純物を除去した(第一の洗浄工程)。
(3)さらに100mmol/Lの塩化ナトリウムを添加した20mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.0)で洗浄することで、夾雑不純物を除去した(第二の洗浄工程)。
(4)350mmol/Lの塩化ナトリウムを添加した20mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.0)をFc結合性タンパク質を吸着した前記担体にアプライすることで、前記Fc結合性タンパク質を溶出させた(溶出工程)。
(5)第二の洗浄工程で得られた画分、および溶出工程で得られた画分に含まれるFc結合性タンパク質の量を特開2014−223064号公報で開示のELISA法を用いて得た後、各画分に含まれるFc結合性タンパク質の量を添加したFc結合性タンパク質の量で除することで、Fc結合性タンパク質の回収率を算出した。またFc結合性タンパク質の純度はサイズ排除クロマトグラフィー(TSKGel G3000SWXL、東ソー社製)分析により算出した。
【0031】
実施例3から5ならびに比較例1から4
実施例2(2)に記載の第一の洗浄工程、実施例2(3)に記載の第二の洗浄工程、および実施例2(4)に記載の溶出工程、で用いた20mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.0)中に含まれる塩化ナトリウムの濃度をそれぞれ表1に示す濃度とした他は、実施例2と同様な方法でFc結合性タンパク質の精製を行なった。なお比較例1および2は、第二の洗浄工程をスキップしている。
【0032】
【表1】
実施例2から5ならびに比較例1から4の結果を表2にまとめて示す。第二の洗浄工程で用いる洗浄液に含まれる塩化ナトリウム濃度を150mmol/L以下かつ第一の洗浄工程で用いる洗浄液に含まれる塩化ナトリウム濃度(50mmol/L)以上とし、溶出工程で用いる洗浄液に含まれる塩化ナトリウム濃度を250mmol/L以上とすることで、溶出工程で得られる画分におけるFc結合性タンパク質の回収率が65%以上かつ純度も85%以上となり、Fc結合性タンパク質を高回収率かつ高純度に精製できることがわかる(実施例2から5)。なお実施例2において、溶出工程で得られる画分の純度を確認した結果(クロマトグラム)を図2に示す。
【0033】
一方、第二の洗浄工程をスキップすると、溶出工程で得られる画分におけるFc結合性タンパク質の純度(比較例1)または回収率(比較例2)が低下することがわかる。また第二の洗浄工程を行なっても、第二の洗浄工程で用いる洗浄液に含まれる塩化ナトリウム濃度が200mmol/L以上とすると、第二の洗浄工程で得られる画分にFc結合性タンパク質が溶出するため、溶出工程で得られる画分におけるFc結合性タンパク質の回収率(比較例3および4)が大きく低下することがわかる。なお比較例1において、溶出工程で得られる画分の純度を確認した結果(クロマトグラム)を図3に示す。
【0034】
【表2】
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]