特許第6699142号(P6699142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6699142有機半導体層形成用溶液、有機半導体層、および有機薄膜トランジスタ
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  • 特許6699142-有機半導体層形成用溶液、有機半導体層、および有機薄膜トランジスタ 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6699142
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】有機半導体層形成用溶液、有機半導体層、および有機薄膜トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/40 20060101AFI20200518BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20200518BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20200518BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20200518BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   H01L29/28 310J
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 250H
   H01L29/28 220A
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 618A
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-231801(P2015-231801)
(22)【出願日】2015年11月27日
(65)【公開番号】特開2017-98488(P2017-98488A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真人
(72)【発明者】
【氏名】上田 さおり
(72)【発明者】
【氏名】宮下 真人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直基
【審査官】 脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−029019(JP,A)
【文献】 特開2009−267372(JP,A)
【文献】 特開2007−110105(JP,A)
【文献】 特表2016−513357(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/033073(WO,A1)
【文献】 特表2006−514710(JP,A)
【文献】 特表2014−505750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/00
H01L 27/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(ここで、置換基RおよびRは、同一でも異なっていてもよく、炭素数3〜10のアルキル基を示し、T〜Tは、各々同一でも異なっていてもよく、酸素原子または硫黄原子を示す。)
で示されるヘテロアセン誘導体、下記一般式(2c)または(2e)
【化2】
【化3】
(ここで、oは1以上の整数を示す。)
で示される半導体性高分子化合物の少なくともいずれか、および有機溶媒を含み、前記ヘテロアセン誘導体の溶解度パラメータと前記半導体性高分子化合物の溶解度パラメータの差が0.10より大きく0.60より小さいことを特徴とする有機半導体層形成用溶液。
【請求項2】
〜Tが硫黄原子であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体層形成用溶液。
【請求項3】
ヘテロアセン誘導体の溶解度パラメータと前記半導体性高分子化合物の溶解度パラメータの差が0.20〜0.55であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機半導体層形成用溶液。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載の有機半導体層形成用溶液により形成されることを特徴とする有機半導体層。
【請求項5】
請求項4に記載の有機半導体層を用いて得られる有機薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層形成用溶液、有機半導体層、および有機薄膜トランジスタに関するものであり、特に印刷法に適用可能な塗工性に優れた低分子有機半導体材料を含む有機半導体層形成用溶液、これを用いて形成した有機半導体層、及び有機薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コストおよびフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されている。この有機半導体デバイスは、有機半導体層、基板、絶縁層、電極等の数種類の材料から構成され、中でも電荷のキャリア移動を担う有機半導体層は該デバイスの中心的な役割を有している。そして、有機半導体デバイス性能は、この有機半導体層を構成する有機材料のキャリア移動度により左右されることから、高キャリア移動度を与える有機材料の出現が所望されている。
【0003】
有機半導体層を作製する方法としては、高温真空下、有機材料を気化させて実施する真空蒸着法、有機材料を適当な溶媒に溶解させその溶液を塗布する塗布法等の方法が一般的に知られている。塗布は高温高真空条件を用いることなく印刷技術を用いても実施することができるため、経済的に好ましいプロセスと考えられており、塗工性が高く、キャリア移動度に優れた塗布型有機半導体層が望まれている。
【0004】
塗布型有機半導体層として、ジチエノベンゾジチオフェン骨格を有する有機半導体材料を用いた有機半導体層が提案されており、ウェットプロセスで作製した有機薄膜トランジスタについて開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、塗布型有機半導体層に高いキャリア輸送性を付与するため、ジドデシルベンゾチエノベンゾチオフェンやビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンといった低分子有機半導体化合物とキャリア輸送性とを有する高分子化合物を組み合わせた有機半導体組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。ここでは低分子化合物の溶解度パラメータとキャリア輸送性とを有する高分子化合物の溶解度パラメータの差が0.6以上1.5以下の範囲とすることによって高いキャリア輸送性が得られるとしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された塗布型有機半導体層は、高移動度であるものの、より高い塗工性が求められている。また、特許文献2で使用されている低分子有機半導体化合物は、耐熱性が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−29019号公報
【特許文献2】特開2009−267372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、塗工性及び耐熱性に優れた有機半導体層形成用溶液、それを用いた有機半導体層および高い耐熱性及び移動度を有する有機薄膜トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討の結果、特定の有機半導体層形成用溶液が連続的な相分離構造を有する有機半導体層を形成することで、得られる有機薄膜トランジスタが優れた半導体・電気特性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記一般式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(ここで、置換基RおよびRは、同一でも異なっていてもよく、炭素数3〜10のアルキル基を示し、T〜Tは、各々同一でも異なっていてもよく、酸素原子または硫黄原子を示す。)
で示されるヘテロアセン誘導体、半導体性高分子化合物、および有機溶媒を含み、前記ヘテロアセン誘導体の溶解度パラメータと前記半導体性高分子化合物の溶解度パラメータの差が0.1以上、0.6より小さい有機半導体層形成用溶液、それを用いて形成した連続的な相分離構造を有する有機半導体層、並びに有機薄膜トランジスタに関するものである。
【0012】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
本発明の有機半導体層形成用溶液は、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体、半導体性高分子化合物、および有機溶媒を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の有機半導体層形成用溶液を構成するヘテロアセン誘導体は、一般式(1)で示される縮合環骨格を有する構造であることを特徴とする。
【0015】
一般式(1)中、RおよびRは、同一でも異なっていてもよく、炭素数3〜10のアルキル基を示し、高溶解性のため炭素数4〜8のアルキル基であることが好ましい。RおよびRが、炭素数3以上であることで、ヘテロアセン誘導体の有機溶媒に対する溶解性を向上させ安定的な有機半導体層形成用溶液とすることができ、かつ、炭素数10以下であることで、得られる有機薄膜トランジスタの半導体・電気特性を優れたものとすることができる。
【0016】
およびRの具体例としては、例えば、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基などを挙げることができ、高溶解性のため、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基であることが好ましい。
【0017】
一般式(1)中、T〜Tは各々同一でも異なっていてもよく、酸素原子又は硫黄原子を示す。T〜Tは、高移動度のため、すべて硫黄原子が好ましく、その場合一般式(1)は、ジチエノベンゾジチオフェン骨格を有する構造を示す。
【0018】
一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の具体例として、特に限定はなく、以下の化合物を挙げることができる。
【0019】
【化2】
【0020】
なお、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体としては、高溶解性及び高移動度のため、2,7−ジ(n−ブチル)ジチエノベンゾジチオフェン、2,7−ジ(n−ペンチル)ジチエノベンゾジチオフェン、2,7−ジ(n−ヘキシル)ジチエノベンゾジチオフェン、2,7−ジ(n−ヘプチル)ジチエノベンゾジチオフェン、2,7−ジ(n−オクチル)ジチエノベンゾジチオフェンが好ましい。
【0021】
本発明の有機半導体層形成用溶液は半導体性高分子化合物を含むものであり、本発明において、「半導体性」とはキャリア輸送性を示すことをいう。より具体的には、本発明の有機半導体層形成用溶液について、本発明にかかるヘテロアセン誘導体を含まない溶液(半導体性高分子化合物のみの溶液)とした場合に、該溶液により形成される有機半導体層、後述する基板、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、及び絶縁層を用いて有機薄膜トランジスタを作製するとき、該有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層が0.0001cm/V・sec〜0.05cm/V・secのキャリア移動度を有する半導体層であることをいう。
【0022】
本発明の有機半導体層形成用溶液は半導体性高分子化合物を含むことで、有機半導体層内の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の結晶化速度を調整することができ、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体のグレインサイズが大きくなると同時にグレイン間のキャリア移動を促進させることができるため、優れた半導体・電気物性を示すことが可能となる。
【0023】
本発明の有機半導体層形成用溶液は、ヘテロアセン誘導体、半導体性高分子化合物、および有機溶媒を含み、前記ヘテロアセン誘導体の溶解度パラメータと前記半導体性高分子化合物の溶解度パラメータの差が0.10以上、0.60より小さいことを特徴とする。この溶解度パラメータは、有機材料の相溶性の指標となるもので、一般に混合する化合物の溶解度パラメータ差が小さいほど、それぞれが相溶し易い傾向にある。相溶すると半導体層の連続性が絶たれ、移動度が低下する結果となる。本発明では、この溶解度パラメータの差を0.10以上、0.60より小さいという特定の範囲とすることによって、有機薄膜とした場合にヘテロアセン誘導体と半導体性高分子化合物とが適度に分離し、連続的な界面を形成し、その結果高いキャリア輸送性が得られるようになる。ヘテロアセン誘導体と半導体性高分子化合物の界面の密着性が高くなることから、この溶解度パラメータの差は0.20〜0.55の範囲にあることが好ましく、0.30〜0.55であることが更に好ましい。
【0024】
本発明において、溶解度パラメータは、ヒルデブラントによって導入された正則溶液論により定義された値であり、2成分系溶液の溶解度の目安となる値である。
【0025】
一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体及び半導体性高分子化合物の溶解度パラメータの算出方法については、例えば、特開2009−267372号公報に記載されている分子動力学計算の方法で求めることができる。
【0026】
このような分子動力学計算の条件として、力場は例えばGAFFを使用し、温度制御法は例えばノセ・フーバー法等、圧力制御法は例えばパリネロ・ラーマン法等を用いることができる。また、分子動力学計算は、例えば、グローマックス等を用いて行うことができる。
【0027】
なお、本発明において、半導体性高分子ではなく導電性高分子を用いる場合、電流が常にオンの状態となることから半導体としての特性が失われる。
【0028】
本発明の半導体性高分子化合物はより高いキャリア移動度を有する傾向にあることから、下記一般式(2)で示される化合物であることが好ましい。
【0029】
【化3】
【0030】
(ここで、置換基R〜Rは、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜10のアルキル基を示す。置換基Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基を示す。l、m、及びnは各々0又は1を示す。oは1以上の整数を示す。但し、m及びnは同時に0であることはない。)
一般式(2)中、置換基RおよびRは、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜10のアルキル基を示し、高溶解性のため、炭素数6〜8のアルキル基であることが好ましい。置換基Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示し、高い移動度を得るため、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。置換基Rは、水素、炭素数1〜10のアルキル基を示し、高溶解性のため、炭素数6〜8のアルキル基であることが好ましい。
【0031】
及びRの具体例として、例えば、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基などを挙げることができ、高溶解性のため、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基であることが好ましい。
【0032】
の具体例として、例えば、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基などを挙げることができ、高溶解性のため、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基であることが好ましい。
【0033】
の具体例として、例えば、水素、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基などを挙げることができ、高移動度のためには水素であることが好ましく、高溶解性のためには、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基であることが好ましい。
【0034】
一般式(2)中、l、m、及びnは各々0又は1を示し、l、m、及びnの組合せとしては、l=m=n=1、l=m=1及びn=0の組合わせ、l=n=1及びm=0の組合わせ、l=0及びm=n=1の組合わせであることが移動度の観点から好ましい。oは1以上の整数である。
【0035】
また、本発明で用いる一般式(2)で示される半導体性高分子化合物は、有機半導体層形成用溶液とする際により優れた塗工性を発現することから、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が5,000〜2,000,000の範囲にあることが好ましく、10,000〜1,500,000であることが更に好ましい。
【0036】
本発明で用いることが可能な一般式(2)で示される半導体性高分子化合物の具体的な例としては特に制限はないが、より優れた塗工性を示すことから、好ましい具体例として以下の化合物(2a)〜(2f)を挙げることができる。
【0037】
【化4】
【0038】
なお、本発明で用いる半導体性高分子化合物は、1種類の半導体性高分子化合物を単独で使用、または2種類以上の半導体性高分子化合物の混合物として使用することが可能である。更に、異なる分子量の半導体性高分子化合物を混合して使用することも可能である。そして、上記で挙げた高分子化合物の2種類以上の共重合体であってもかまわない。
【0039】
本発明の有機半導体層形成用溶液の構成成分として用いる有機溶媒としては、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体、および一般式(2)で示される半導体性高分子化合物を溶解することが可能な有機溶媒であれば如何なる有機溶媒を使用してもよく、有機半導体層を形成する際、有機溶媒の乾燥速度をより適したものとすることができ、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体と半導体性高分子化合物の連続的な相分離構造を形成するのにより好適なものとなることから、常圧での沸点が140℃以上である有機溶媒が好ましい。
【0040】
本発明で用いることが可能な有機溶媒として、特に制限はなく、例えば、テトラリン、メシチレン、トルエン、o−キシレン、イソプロピルベンゼン、ペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、アニソール、2−メチルアニソール、3−メチルアニソール、2,3−ジメチルアニソール、3,4−ジメチルアニソール、2,6−ジメチルアニソール、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、1,2−メチレンジオキシベンゼン、1,2−エチレンジオキシベンゼン、酢酸フェニル、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン、シクロヘキサノン、デカン、ドデカン、デカリン、シクロヘキサノールアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,4−ブタンジオールジアセテート、1,3−ブチレングリコールジアセテート、1,3−ブチレングリコールジアセテート、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリアセチレンなどを挙げられることができ、その中でも適度な乾燥速度を持つことから、好ましくはテトラリン、メシチレン、o−キシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、アニソール、2−メチルアニソール、3−メチルアニソール、2,3−ジメチルアニソール、3,4−ジメチルアニソール、2,6−ジメチルアニソール、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、1,2−メチレンジオキシベンゼン、1,2−エチレンジオキシベンゼン、酢酸フェニル、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン、シクロヘキサノンであり、さらに好ましくは、テトラリン、メシチレン、アニソール、2−メチルアニソール、3−メチルアニソール、2,3−ジメチルアニソール、3,4−ジメチルアニソール、2,6−ジメチルアニソールである。
【0041】
なお、本発明で用いる有機溶媒は、1種類の有機溶媒を単独で使用、または沸点、極性、溶解度パラメーターなど性質の異なる有機溶媒を2種類以上混合して使用することが可能である。
【0042】
本発明の有機半導体層形成用溶液は、上記一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体、半導体性高分子化合物、および有機溶媒を混合、溶解することで調製する。
【0043】
有機半導体層形成用溶液を調製する方法については特に制限はなく、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体と半導体性高分子化合物を有機溶媒に溶解することが可能な方法であれば、如何なる方法を用いてもよい。例えば、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体と半導体性高分子化合物の混合物を同時に有機溶媒に溶解して有機半導体層形成用溶液を調製する方法、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の有機溶媒溶液に半導体性高分子化合物を溶解して有機半導体層形成用溶液を調製する方法、半導体性高分子化合物の有機溶媒溶液に一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を溶解する方法などを挙げることができる。
【0044】
一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体と半導体性高分子化合物を有機溶媒に混合溶解する際の温度としては、溶解を促進させる目的のため、0〜100℃の温度範囲で行うことが好ましく、10〜80℃の温度範囲で行うことが更に好ましい。
【0045】
また、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体と半導体性高分子化合物を有機溶媒に溶解混合する時間は、均一溶液を得るため、1分〜2日間で溶解することが好ましい。
【0046】
一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体と半導体性高分子化合物の混合組成比は、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体と半導体性高分子化合物との合計100質量部に対して、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の含有割合が、5〜70質量部の範囲であることが好ましく、10〜49質量部の範囲であることが更に好ましい。
【0047】
本発明の有機半導体層形成用溶液における一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の濃度が0.01〜20.0重量%の範囲であると、取り扱いがより容易になり、有機半導体層を形成する際の効率により優れるものとなる。また、有機半導体層形成用溶液の粘度が0.3〜100mPa・sの範囲であると、より好適な塗工性を発現するものとなる。
【0048】
本発明の有機半導体層形成用溶液を用いて有機半導体層を形成する際の塗布方法としては、有機半導体層を形成可能な方法であれば特に制限はなく、例えば、スピンコート、ドロップキャスト、ディップコート、キャストコート等の簡易塗工法;ディスペンサー、インクジェット、スリットコート、ブレードコート、フレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷等の印刷法を挙げることができ、中でも容易に効率よく有機半導体層とすることが可能となることから、スピンコート、インクジェットであることがさらに好ましい。
【0049】
本発明の有機半導体層形成用溶液を塗布後、有機溶媒を乾燥除去することにより有機半導体層を形成することが可能である。
【0050】
塗布した有機半導体層から有機溶媒を乾燥除去する際、乾燥する条件に特に制限はなく、例えば、常圧下、又は減圧下で有機溶媒の乾燥除去を行うことが可能である。
【0051】
塗布した有機半導体層から有機溶媒を乾燥除去する温度に特に制限はないが、効率よく塗布した有機半導体層から有機溶媒を乾燥除去することができ、有機半導体層を形成することが可能であるため、10〜150℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0052】
塗布した有機半導体層から有機溶媒を乾燥除去する際、除去する有機溶媒の気化速度を調節することで、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の結晶成長を制御することが可能である。
【0053】
本発明の有機半導体層形成用溶液により形成される有機半導体層の膜厚に制限はなく、良好なキャリア移動が得られることから、1nm〜1μmの範囲であることが好ましく、膜厚の制御のし易さのため10nm〜300nmの範囲であることが更に好ましい。
【0054】
また、得られる有機半導体層は、有機半導体層を形成後、40〜150℃でアニール処理を行ってもよい。
【0055】
本発明で得られる有機半導体層は、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体と半導体性高分子化合物が連続的な相分離構造を有することを特徴とする。
【0056】
本発明で示す有機半導体膜の連続的な相分離構造とは、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体から形成される層と半導体性高分子化合物から形成される層が欠陥のない界面により分離されていることを示す。なお、本発明では、有機半導体層形成用溶液が塗工性に優れることにより欠陥のない界面が形成されるものであるところ、塗工性に劣る場合には、界面の所々に欠陥が生じ、連続的な相分離構造が得られない(不連続な相分離構造となる)ものである。
【0057】
連続的な界面の構造は、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体および半導体性高分子化合物の成分を有機半導体層の縦方向に分析することで確認することが可能である。
【0058】
有機半導体層の縦方向に分析する方法として、例えば、ESCA(X線光電子分光分析装置)を用いた深さ方向の分析(アルゴンイオン銃を用いたエッチングにより深さ方向の分析を行う)が挙げられ、当該方法により、有機半導体層の有機半導体と半導体性高分子化合物との成分比を解析することが可能である。
【0059】
本発明で得られる有機半導体層の構成としては本発明にかかる有機半導体層が得られる限り特に制限はなく、例えば、以下の(a)〜(d)が挙げられる。(a)上層に一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体からなる層が形成され、下層に半導体性高分子化合物からなる層が形成される層の構成。(b)上層に半導体性高分子化合物からなる層が形成され、下層に一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体からなる層が形成された層の構成。(c)上層に一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体層からなる層が形成され、中間層に高分子化合物からなる層を有し、再度、下層に一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体からなる層が形成される層の構成。(d)上層に半導体性高分子化合物からなる層が形成され、中間層に一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体からなる層を有し、再度、下層に半導体性高分子化合物からなる層が形成される層の構成。
【0060】
本発明の有機半導体層形成用溶液より形成される有機半導体層は、有機半導体デバイス、特に有機薄膜トランジスタの有機半導体層として使用することが可能である。
【0061】
有機薄膜トランジスタは、基板上に、ソース電極およびドレイン電極を付設した有機半導体層とゲート電極とを絶縁層を介し積層することにより得ることができ、該有機半導体層に本発明の有機半導体層形成用溶液により形成した有機半導体層を用いることにより、優れた半導体・電気特性を発現する有機薄膜トランジスタとすることが可能である。
【0062】
図1に一般的な有機薄膜トランジスタの断面形状による構造を示す。ここで、(A)は、ボトムゲート−トップコンタクト型、(B)は、ボトムゲート−ボトムコンタクト型、(C)は、トップゲート−トップコンタクト型、(D)は、トップゲート−ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタであり、1は有機半導体層、2は基板、3はゲート電極、4はゲート絶縁層、5はソース電極、6はドレイン電極を示し、本発明の有機半導体層形成用溶液より形成される有機半導体層は、いずれの有機薄膜トランジスタにも適用することが可能である。
【0063】
基板の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、フッ素化環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリ(ジイソプロピルマレエート)、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、セルローストリアセテート等のプラスチック基板;ガラス、石英、酸化アルミニウム、シリコン、ハイドープシリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属基板等を挙げることができる。なお、ハイドープシリコンを基板に用いた場合、その基板はゲート電極を兼ねることができる。
【0064】
ゲート電極の具体例としては、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、ハイドープシリコン、スズ酸化物、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、酸化モリブデン、クロム、チタン、タンタル、グラフェン、カーボンナノチューブ等の無機材料;ドープされた導電性高分子(例えば、PEDOT−PSS)等の有機材料等を挙げることができる。
【0065】
ゲート絶縁層の具体例としては、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマス等の無機材料基板;ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、環状ポリオレフィン、フッ素化環状ポリオレフィン等のプラスチック材料等を挙げることができる。また、これらのゲート絶縁層の表面は、例えば、オクタデシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、β−フェネチルトリクロロシラン、β−フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のシラン類;ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン類で修飾処理したものであっても使用することができる。
【0066】
一般的にゲート絶縁層の表面処理を行うことにより、有機半導体層を構成する材料の結晶粒径の増大および分子配向の向上が起こるため、キャリア移動度および電流オン・オフ比の向上、並びに閾値電圧の低下という好ましい結果が得られる。
【0067】
ソース電極およびドレイン電極の材料としては、ゲート電極と同様の材料を用いることができ、ゲート電極の材料と同じであっても異なっていてもよく、異種材料を積層してもよい。また、キャリアの注入効率を上げるために、これらの電極材料に表面処理を実施することもできる。例えば、ベンゼンチオール、ペンタフルオロベンゼンチオールを挙げることができる。
【0068】
本発明の有機半導体層形成用溶液を用いて得られる有機薄膜トランジスタは、速い動作性のため、キャリア移動度が、0.90cm/V・s以上であることが好ましい。
【0069】
本発明の有機半導体層形成用溶液を用いて得られる有機薄膜トランジスタは、高いスイッチ特性のため、電流オン・オフ比が、1.0×10以上であることが好ましい。
【0070】
本発明の有機半導体層形成用溶液およびそれより形成される有機半導体層は、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、ICタグ(RFIDタグ)、メモリー、センサー用等の有機薄膜トランジスタの有機半導体層用途;有機ELディスプレイ材料;有機半導体レーザー材料;有機薄膜太陽電池材料;フォトニック結晶材料等の電子材料に利用することができ、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体が結晶性の薄膜となるため、有機薄膜トランジスタの有機半導体層用途として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0071】
本発明の有機半導体層形成用溶液を用いることで、高い移動度、高い塗工性、及び高い耐熱性を発現する有機薄膜トランジスタを提供することが可能となる。
【実施例】
【0072】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0073】
実施例中、連続的な相分離構造の有無は、アルゴンイオン銃によるエッチングとESCA(X線光電子分光法)(アルバック・ファイ社製PHI5000 VersaProbeII)により有機半導体層の深さ方向の組成を求める分析により判断した。半導体・電気物性については、半導体パラメータアナライザー(ケースレー社製4200SCS)を用い、実施例に記載のドレイン電圧(Vd)、ゲート電圧(Vg)にて測定を行った。
【0074】
実施例1
(有機半導体層形成用溶液の調製)
空気下、10mlサンプル管に、テトラリン(沸点207℃)1.5g、2,7−ジ(n−ヘキシル)ジチエノベンゾジチオフェン(溶解度パラメータ=25.17)12mg、および半導体性高分子化合物として上記化合物(2c)(溶解度パラメータ=24.62、ヘテロアセン誘導体の溶解度パラメータとポリマーバインダーの溶解度パラメータの差が0.55、正孔のキャリア移動度0.002cm/V・s、p型、Mw30,000)10mgを加え、50℃に加熱して溶解させることで、有機半導体層形成用溶液の調製を行った。
(有機半導体層の作製)
空気下、直径2インチのヒ素でn型にハイドープしたシリコン基板(ミヨシ製、抵抗値;0.001〜0.004Ω、表面に200nmのシリコン酸化膜付き)上に、上述の方法で調製した有機半導体層形成用溶液0.5mlを滴下してスピンコート(300rpm×3秒、2000rpm×100秒)を行い、膜厚40nmの有機半導体層を作製した。
【0075】
該有機半導体層のESCAにより、2,7−ジ(n−ヘキシル)ジチエノベンゾジチオフェンと半導体性高分子化合物(2c)の連続的な相分離構造を有することを確認した。
(有機薄膜トランジスタの作製)
上述の方法で作製した有機半導体層に、チャネル長20μm、チャネル幅1000μmのシャドウマスクを置き、金を真空蒸着することで電極を形成し、ボトムゲート−トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタを作製した(ゲート電極はシリコン、ゲート絶縁層は酸化シリコン、ソース電極は金、ドレイン電極は金)。
(半導体・電気物性の測定)
作製した有機薄膜トランジスタの電気物性をドレイン電圧(Vd=−50V)で、ゲート電圧(Vg)を+10〜−60Vまで1V刻みで走査し、伝達特性の評価を行った。正孔のキャリア移動度は1.11cm/V・s(p型)、電流オン・オフ比は5.0×10であった。150℃で15分間アニール処理した後の正孔のキャリア移動度は1.05cm/V・s、電流オン・オフ比は4.5×10であり、アニール処理後も優れた半導体・電気特性を有することが確認された。
【0076】
実施例2
(有機半導体層形成用溶液の調製)
上記化合物(2c)の代わりに上記化合物(2e)(溶解度パラメータ=24.77、ヘテロアセン誘導体の溶解度パラメータとポリマーバインダーの溶解度パラメータの差が、正孔のキャリア移動度0.004cm/V・s、p型、Mw20,000)を用いた以外は実施例1と同様の方法により有機半導体層形成用溶液の調製を行った。
(有機半導体層の作製)
実施例1と同様の方法により有機半導体層を作製し、該有機半導体層が2,7−ジ(n−ヘキシル)ジチエノベンゾジチオフェンと半導体性高分子化合物(2e)の連続的な相分離構造を有することをESCAにて確認した。
(半導体・電気物性の測定)
実施例1と同様の方法で有機薄膜トランジスタを作製し、電気物性評価をおこなったところ、その伝達特性から正孔のキャリア移動度は1.04cm/V・s(p型)、電流オン・オフ比は2.0×10であった。150℃で15分間アニール処理した後の正孔のキャリア移動度は0.98cm/V・s、電流オン・オフ比は1.8×10であり、アニール処理後も優れた半導体・電気特性を有することが確認された。
【0077】
比較例1
(有機半導体層形成用溶液の調製)
化合物(2c)の代わりにポリ(9,9−ジペンチルフルオレン)(溶解度パラメータ=23.87、ヘテロアセン誘導体の溶解度パラメータとポリマーバインダーの溶解度パラメータの差が1.30、正孔のキャリア移動度0.005cm/V・s、p型、Mw10,000)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により有機半導体層形成用溶液の調製を行った。
(有機半導体層の作製)
実施例1と同様の方法により有機半導体層を作製したが、該有機半導体層は2,7−ジ(n−ヘキシル)ジチエノベンゾジチオフェンと半導体性高分子化合物の不連続的な相分離構造を有していた。
(半導体・電気物性の測定)
実施例1と同様の方法で有機薄膜トランジスタを作製し、電気物性評価をおこなったところ、その伝達特性から正孔のキャリア移動度は0.026cm/V・s(p型)、電流オン・オフ比は1.1×10であり、ヘテロアセン誘導体の溶解度パラメータと半導体性高分子化合物の溶解度パラメータの差が0.10以上、0.60より小さい場合に比べ、半導体・電気特性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の有機半導体層形成用溶液を用いることで、塗工性を向上させるとともに、優れた半導体・電気物性を有する有機薄膜トランジスタを作製することができるため、半導体デバイス材料としての適用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1】;有機薄膜トランジスタの断面形状による構造を示す図である。
【符号の説明】
【0080】
(A):ボトムゲート−トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(B):ボトムゲート−ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(C):トップゲート−トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(D):トップゲート−ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ
1:有機半導体層
2:基板
3:ゲート電極
4:ゲート絶縁層
5:ソース電極
6:ドレイン電極
図1