(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6700003
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】真空ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
F04C 29/00 20060101AFI20200518BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20200518BHJP
F04C 25/02 20060101ALI20200518BHJP
F04C 18/18 20060101ALI20200518BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20200518BHJP
H02K 1/16 20060101ALI20200518BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20200518BHJP
H02K 16/02 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
F04C29/00 T
F04B39/00 106E
F04C25/02 K
F04C29/00 U
F04C29/00 B
F04C18/18 C
H02K1/02 B
H02K1/16
H02K7/14 B
H02K16/02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-147865(P2015-147865)
(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公開番号】特開2017-25867(P2017-25867A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100172041
【弁理士】
【氏名又は名称】小畑 統照
(72)【発明者】
【氏名】小島 善徳
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真也
(72)【発明者】
【氏名】茨田 敏光
(72)【発明者】
【氏名】曽布川 拓司
【審査官】
大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−270656(JP,A)
【文献】
特開2013−155649(JP,A)
【文献】
特開2015−50798(JP,A)
【文献】
米国特許第4578610(US,A)
【文献】
特開2006−187091(JP,A)
【文献】
特開2014−117030(JP,A)
【文献】
特開2014−42368(JP,A)
【文献】
特開2013−208013(JP,A)
【文献】
特開2012−50312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/00
F04B 39/00
F04C 18/18
F04C 25/02
H02K 1/02
H02K 1/16
H02K 7/14
H02K 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプロータを回転させて気体を真空引きする真空ポンプ装置であって、
前記ポンプロータに回転動力を出力するための主軸と、
前記主軸に取り付けられたモータロータと、
前記主軸の軸方向に前記モータロータと対向して配置されるモータステータと、
を備え、
前記モータステータは、アモルファス金属が前記主軸の軸方向に対して垂直な方向に積層されることにより形成されて前記モータロータと同心に配置されるステータコアと、前記ステータコアに巻回されるステータコイルと、を有し、
前記ステータコアの前記モータロータと対向する面には、軸心に垂直な直線を中心とする平行な幅の溝部が周方向に等間隔に形成されており、当該溝部に前記ステータコイルが配置され、
前記ステータコイルは、前記溝部の深さ以下の幅を有する帯状のコイル部材が巻回されて形成されており、
前記モータステータを支持するステータ支持部であって、前記モータロータが配置されるロータ室と前記モータステータが配置されるステータ室とを離隔する、ステータ支持部を更に備える、
真空ポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプ装置であって、
前記モータロータは、第1モータロータと第2モータロータとを有し、
前記モータステータは、前記主軸の軸方向に前記第1モータロータと前記第2モータロータとに挟まれて配置され、
前記ステータコアには、前記第1モータロータと対向する面、及び、前記第2モータロータと対向する面に、前記溝部が形成されている、
真空ポンプ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空ポンプ装置であって、
前記ポンプロータとして、平行に配置されて同期回転する一対のポンプロータを有する、
真空ポンプ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の真空ポンプ装置であって、
前記一対のポンプロータが多段のロータを有する多段容積式である、
真空ポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空ポンプ装置は、例えば半導体製造装置が配置される真空チャンバ内のプロセスガスを排気するために使用されている。一般に、半導体製造工程では、真空チャンバ内が清浄雰囲気であることが要求される。このため、真空ポンプ装置として、ポンプ内部のガス流路に油を使用しないドライ真空ポンプが用いられている。このようなドライ真空ポンプとして、例えば2軸ルーツ型の多段容積式ドライ真空ポンプなどが知られている。
【0003】
2軸ルーツ型の多段容積式ドライ真空ポンプは、対向する一対のルーツ型の多段のロータをケーシング内に備え、これらのロータ間およびロータとケーシングとの隙間が微少になるようにクリアランスが設けられる。そして、この一対のロータが同期反転することにより、ロータとケーシングとの間に形成された空間にプロセスガスが閉じ込められて後段に移送される。多段容積式ドライ真空ポンプでは、この移送が連続して行われることによりプロセスガスの排気が行われる。
【0004】
真空ポンプには、真空ポンプのロータを回転駆動するモータが備えられる。一般に、真空ポンプでは、消費電力の削減が課題とされ、従来、例えばモータロータの発熱の低下を図ることにより、真空ポンプのエネルギ効率が低下するのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−61421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
真空ポンプ装置では、所望のポンプ性能が達成できるように、例えば真空チャンバ内で多量のプロセスガスが発生するような高負荷時を基準としてモータの出力が決められる。しかし、真空ポンプ装置は低負荷で駆動される場合も多く、こうした場合にはモータの効率が悪くなる場合があった。
【0007】
モータの効率を低下させる損失としては、機械的な損失を除くと、モータロータの回転に伴って生じる渦電流損失などの鉄損と、コイルに流れる電流からジュール熱として生じる銅損と、が挙げられる。低負荷時には、コイルに流れる電流は小さいので銅損は小さくなる。しかし、負荷の大きさにかかわらず、モータロータの回転数に依存して鉄損は大きくなる。モータロータ及びモータステータの構成は、モータの出力に関わり、大負荷時を基準として決められているので、特に低負荷高回転数でモータが駆動されるときには、鉄損の影響が大きくなってモータのエネルギ効率が悪くなる。
【0008】
また、従来、真空ポンプ装置のモータとして、キャンド構造等のモータが用いられている。しかし、キャンド構造等のモータを用いると、真空ポンプがオーバーハング(片持ち)構造になるため、高回転数化および小型化に不向きであった。さらに、一般に、真空ポンプ装置では、装置を容易に製造できることが望まれる。
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、エネルギ効率が高く容易に製造可能な真空ポンプ装置を提供することを目的の一つとする。また
、高回転数化および小型化が可能な真空ポンプ装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の真空ポンプ装置は、ポンプロータを回転させて気体を真空引きする真空ポンプである。真空ポンプ装置は、ポンプロータに回転動力を出力するための主軸と、主軸に取り付けられたモータロータと、主軸の軸方向にモータロータと対向して配置されるモータステータと、を備える。そして、モータステータは、アモルファス金属が主軸の軸方向に対して垂直な方向に積層されることにより形成されてモータロータと同心に配置されるステータコアと、ステータコアに巻回されるステータコイルと、を有する。さらに、ステータコアのモータロータと対向する面には、軸心に垂直な直線を中心とする平行な幅の溝部が周方向に等間隔に形成されており、この溝部にステータコイルが配置される。
【0011】
かかる構成により、一般的な珪素鋼板よりも電気抵抗の小さいアモルファス金属が径方向に積層されてステータコアが形成されるので、鉄損を小さくすることができる。また、ステータコアには、ステータコアが配置される溝部が、軸心に垂直な直線を中心とする平行な幅で形成されている。このため、ワイヤカット放電加工等を用いて、ステータコアに溝部を容易に形成することができる。さらに、ステータコイルを配置したときの隙間を小さくすることができ、真空ポンプ装置のエネルギ効率を向上させることができる。したがって、かかる構成により、エネルギ効率が高く容易に製造可能な真空ポンプ装置を提供することができる。また、モータロータとモータステータとが回転軸方向に対向して設けられているので、真空ポンプ装置の高回転数化および小型化を図ることができる。
【0012】
また、モータロータは、第1モータロータと第2モータロータとを有し、モータステータは、主軸の軸方向に第1モータロータと第2モータロータとに挟まれて配置されてもよい。そして、ステータコアには、第1モータロータと対向する面、及び、第2モータロータと対向する面に、溝部が形成されていてもよい。
こうすれば、さらに真空ポンプ装置の高効率化と小型化とを図ることができる。
【0013】
また、ステータコイルは、帯状のコイル部材が巻回されて形成されていてもよい。
こうすれば、ステータコイルを溝部に配置したときの隙間を小さくして、真空ポンプ装置のエネルギ効率の向上を図ることができる。
【0014】
また、真空ポンプは、ポンプロータとして、平行に配置されて同期回転する一対のポンプロータを有してもよい。
さらに、真空ポンプは、一対のポンプロータが多段のロータを有する多段容積式であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の真空ポンプ装置の概略構成を示す断面図である。
【
図2】本実施形態の真空ポンプ装置の概略構成を示す他の断面図である。
【
図3】本実施形態のモータの概略構成を示す断面図である。
【
図4】本実施形態のモータに用いられるステータコアの概略構成を示す図である。
【
図5】本実施形態のステータコアを製造する過程の一例を示す図である。
【
図6】本実施形態のステータコアを製造する過程の一例を示す図である。
【
図7】本実施形態のステータコイルの一例を示す図である。
【
図8】一般的な真空ポンプ装置における吸気側圧力(Pa)に対する排気速度(L/M)及び消費電力(W)を示す図である。
【
図9】消費電力(W)に対する真空ポンプ装置の効率(排気速度性能)を示す図である。
【
図10】変形例のモータの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る真空ポンプ装置を図面に基づいて説明する。なお、図面では、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。本実施形態の真空ポンプ装置は、多段容積式ポンプとして構成され、例えば半導体、液晶、太陽光パネル、又は、LED等の製造設備の一つとして利用することができる。
【0017】
図1は、本実施形態の真空ポンプ装置の概略構成を示す断面図である。
図1は、真空ポンプ装置100が有する一対のポンプロータ310,410のうちの一方のポンプロータ310の回転中心軸線AR1を含む断面を示している。また、
図2は、本実施形態の真空ポンプ装置の概略構成を示す他の断面図である。
図2は、真空ポンプ装置100が有する一対のポンプロータ310,410の双方の回転中心軸線AR1,AR2を含む断面を示している。
【0018】
図1,2に示すように、真空ポンプ装置100は、モータ200と、モータ200によって回転駆動される一対のポンプ主軸300,400と、ポンプ主軸300,400と一体に回転する一対のポンプロータ310,410とを備えている(
図1では、一方のポンプ主軸300及びポンプロータ310のみが図示されている)。
【0019】
一対のポンプロータ310,410は、多段の圧縮段を構成する。一例として、ポンプロータ310は、ポンプ主軸300にそれぞれ間隔を空けて取り付けられた第1段〜第5段ポンプロータ311〜315を備えている。また、ポンプロータ410は、ポンプ主軸400にそれぞれ間隔を空けて取り付けられた第1段〜第5段ポンプロータ411〜415を備えている。
【0020】
第1段〜第5段ポンプロータ311〜315,411〜415は、上ケーシング320と下ケーシング330とによって形成される空間内に収容されている。上ケーシング320の上部には上閉止板322が取り付けられ、下ケーシング330の下部には下閉止板332が取り付けられる。
【0021】
上閉止板322には、ポンプロータ310,410へ処理ガスを吸気するための吸気口324が形成される。下閉止板332には、ポンプロータ310,410から処理ガスを排気するための排気口334が形成される。
【0022】
上ケーシング320及び下ケーシング330の反モータ200側(モータ200から遠い側、
図1及び
図2中、右側)には、反モータ200側へ突き出したポンプ主軸300,400を収容する排気側中間部材360が設けられている。また、排気側中間部材360の反モータ200側には、排気側カバー370が設けられている。排気側中間部材360及び排気側カバー370は、上ケーシング320及び下ケーシング330から反モータ200側へ突き出したポンプ主軸300,400を収容する。ポンプ主軸300,400は、上ケーシング320と下ケーシング330とによって形成される空間から反モータ200側へ突き出した部分において、軸受342,442によって軸支されている。軸受342,442は、排気側中間部材360及び排気側カバー370内に収容されている。また、排気側カバー370の内部には、一対のタイミングギア380,480が収容されている。タイミングギア380,480は、ポンプ主軸300,400と連結され、相互に噛み合うようになっている。
【0023】
排気側中間部材360は、ポンプ主軸300,400と対向する面に周方向に沿って溝が形成されており、排気側中間部材360とポンプ主軸300,400との間には、この溝を含む中間室362,462が設けられている。中間室362,462と排気口334
は、連通路364によって連通されている。
【0024】
上ケーシング320及び下ケーシング330のモータ200側(
図1及び
図2中、左側)には、モータ200側へ突き出したポンプ主軸300,400を収容する吸気側中間部材345が設けられている。吸気側中間部材345は、上ケーシング320及び下ケーシング330からモータ200側へ突き出したポンプ主軸300,400を収容する。ポンプ主軸300は、吸気側中間部材345に収容される軸受340によって軸支され、ポンプ主軸300の端部がモータ200に接続されている。また、ポンプ主軸400は、吸気側中間部材345に収容される軸受440によって軸支され、ポンプ主軸400の端部はサイドキャップ450内に収容されている。
【0025】
モータ200を駆動すると、ポンプ主軸300、ポンプロータ310、及び、タイミングギア380が回転駆動される。タイミングギア380,480が相互に噛み合うことによって、ポンプ主軸400及びポンプロータ410も回転駆動される。一対のポンプロータ310,410は、上ケーシング320及び下ケーシング330の内面との間、第1段〜第5段ポンプロータ311〜315,411〜415同士の間にわずかな隙間を保持して、非接触で逆方向に同期回転する。一対のポンプロータ310,410の回転につれて、吸気口324から導入された処理ガスは、第1段〜第5段ポンプロータ311〜315,411〜415により圧縮移送されて、排気口334から排出される。
【0026】
次に、モータ200の構成について説明する。
図3は、本実施形態のモータの概略構成を示す断面図である。モータ200は、真空ポンプ装置100(ポンプロータ310)の回転駆動源として使用される。モータ200は、モータフレーム250と、ポンプ主軸300に設けられたモータロータ220と、モータフレーム250に固定されたモータステータ230と、を備える。図示するように、モータ200は、モータロータ220とモータステータ230とがポンプ主軸300の回転中心軸線AR1方向に対向する、いわゆるアキシャルギャップ型のモータとして構成されている。
【0027】
モータロータ220は、ポンプ主軸300に直結され、永久磁石222を備えている。モータフレーム250は、フレーム本体252とステータ支持部254とを備える。フレーム本体252は、回転中心軸線AR1に沿って内部空間が形成された、有底円筒形状に形成されている。ステータ支持部254は、円盤形状に形成されており、フレーム本体252の内部に配置される。ステータ支持部254は、フレーム本体252の内部空間を、モータロータ220が配置されるロータ室と、モータステータ230が配置されるステータ室とに離隔する。
【0028】
モータステータ230は、ステータコア232にステータコイル236が装着された構成を有する。モータステータ230は、ステータコア232がステータ支持部254に取り付けられることによって、ステータ支持部254を介して、回転中心軸線AR1と同心にフレーム本体252に固定される。
【0029】
図4は、本実施形態のモータに用いられるステータコアの概略構成を示す図である。図示するように、ステータコア232は、全体として空芯の円柱状に形成されており、モータロータ220と対向する面232aには、回転中心軸線AR1方向に凹となる複数(例えば6個、12個など)の溝部234が形成されている。複数の溝部234に挟まれた凸部(コア部)233は回転中心軸線AR1方向に突出し、このコア部233にステータコイル236が巻回される。コア部233に巻回されたステータコイル236は、溝部234に配置されることになる。
【0030】
図5及び
図6は、本実施形態のステータコアを製造する過程の一例を示す図である。本
実施形態のステータコア232は、アモルファス(非晶質)金属によって形成される。アモルファス金属としては、一例として、鉄、ニッケル、コバルトなどの強磁性金属を主成分としたものを用いることができる。一般に、アモルファス金属は、急冷によって非晶質体を形成させて薄い箔状に成形される。この箔状のアモルファス金属を利用して、帯状のアモルファス金属500を用意する。帯状のアモルファス金属500は、その断面が幅Wsと厚みTsとを有し、幅Wsの方が厚みTsよりも大きい。ここで、帯状のアモルファス金属500は、ステータコア232の厚さHsと等しい幅Wsであることが好ましい(
図4及び
図5参照)。なお、ステータコア232の厚さHsは、ステータコア232の剛性、及び、モータ200の定格出力に基づくコア部233(溝部234)の大きさ等に基づいて決められればよい。
【0031】
そして、
図5に示すように、帯状のアモルファス金属500を円柱体などの巻枠510に渦巻き状に巻回し、空芯円柱状のアモルファス金属体520を製造する。そして、帯状のアモルファス金属500を巻回することによってアモルファス金属体520の外径が所望の大きさ(ステータコア233の外径)に至ったら、アモルファス金属体520を巻枠510から外す。ここで、アモルファス金属体520は、帯状のアモルファス金属500を巻枠510に巻回しながら、加熱及び冷却、もしくは、接着等を用いることによって、形状が固定されてもよい。また、所望の外径に至った後に、アモルファス金属体520の外縁に被膜を施すこと等によって形状が固定されてもよい。こうして形成されたアモルファス金属体520では、アモルファス金属が径方向(回転中心軸線AR1に垂直な直線AC方向、
図4、
図6参照)に積層される。
【0032】
そして、アモルファス金属体520の端面の一部を切除することによって溝部234を形成し、ステータコア232を製造する。ここで、アモルファス金属体520の切断は、
図6に示すように、回転中心軸線AR1に垂直な直線ACを中心とする平行な幅の溝部234が形成されるように行われる。つまり、ステータコア232の溝部234は、外周側の幅W1と内周側の幅W2とが等しくなるように形成される(W1=W2)。
【0033】
このように溝部234を形成することによって、例えば円弧状に切除して溝部を形成する場合に比して、ステータコア232を容易に製造することができる。例えば、溝部234の形成は、ワイヤカット放電加工などを用いることができる。また、ステータコア232の180度離れた位置に溝部234が形成される場合には、互いの溝部234の壁面が同一平面状に形成されるので、180度離れた位置の溝部234を同時加工、又は、連続加工によって、形成することもできる。また、溝部234の外周側の幅W1と内周側の幅W2とが等しいので、コア部233にステータコイル236を巻回したときにステータコイル236を隙間なく配置することができ、モータ200の高性能化および小型化を図ることができる。
【0034】
図7は、本実施形態のステータコイルの一例を示す図である。図示するように、本実施形態のステータコイル236は、コア部233の高さ(溝部234の深さ)Hcと等しい幅Wcの帯状のコイル部材がステータコア232のコア部233に渦巻き状に巻回されることによって形成されている。帯状のコイル部材は、その断面が幅Wcと厚みTcとを有し、幅Wcの方が厚みTcよりも大きい。ただし、ステータコイル236を形成するコイル部材の幅Wcは、コア部233の高さHcよりも小さくてもよい。この帯状のコイル部材は、その幅方向が回転中心軸線AR1に沿うように、コア部233に巻回される。なお、ステータコイル236の内周側の端部は、引出し用のコイル部材327がはんだ付け等で接続されてもよい。このようにコア部233に帯状のコイル部材が巻回されてステータコイル236が形成されることにより、線状のコイル部材を巻回する場合に比べて、ステータコア232の溝部234にステータコイル236を隙間なく配置することができる。これにより、モータ200の高性能化および小型化を図ることができる。
【0035】
図8は、一般的な真空ポンプ装置における吸気側圧力(Pa)に対する排気速度(L/M)及び消費電力(W)を示す図である。一般的に、真空ポンプ装置では、吸気側圧力が大きいときには気体を圧縮するポンプロータの負荷が大きくなり、消費電力が大きくなると共に排気速度が低下する。そして、真空ポンプ装置では、高負荷時にも所望の排気性能を実現できるように、高負荷時を基準として装置の構成が決定される。しかし、真空ポンプ装置は、半導体の製造工程に設けられる場合等には、常に高負荷の環境で駆動されるのではなく、低負荷の環境で駆動される場合も多い。つまり、真空ポンプ装置は、消費電力の小さい環境で運転される場合も多い。
【0036】
図9は、消費電力(W)に対する真空ポンプ装置の効率(排気速度性能)を示す図である。
図9中実線は本実施形態の真空ポンプ装置を示し、破線はステータコアが一般的な珪素鋼板で形成された比較例の真空ポンプ装置を示している。本実施形態の真空ポンプ装置100では、一般的な珪素鋼板よりも電気抵抗の小さいアモルファス金属でステータコア232を形成しているので、モータ200の鉄損を小さくすることができる。このため、
図9に示すように、本実施形態の真空ポンプ装置100では、比較例と比べて、特に消費電力が小さいときの効率を高くすることができる。このため、真空ポンプ装置が低負荷で運転されるときのエネルギ効率を向上することができ、効率の高い真空ポンプ装置を実現することができる。
【0037】
以上説明した本実施形態の真空ポンプ装置100では、アモルファス金属が径方向に積層されてアモルファス金属体520が形成される。そして、アモルファス金属体522に溝部234が形成されることによってステータコア232が形成される。これにより、ステータコア232のコア部233は、アモルファス金属が径方向に積層されて形成されるので、モータ200の鉄損をより小さくすることができる。また、ステータコア232の溝部234を、回転中心軸線AR1に垂直な直線ACを中心とする平行な幅に形成することにより、溝部234を容易に形成することができると共にステータコイル236を溝部234に隙間なく配置することができる。さらに、本実施形態の真空ポンプ装置100では、モータロータ220とモータステータ230とが回転中心軸線AR1に対向して設けられているので、真空ポンプ装置100の高回転数化および小型化を図ることができる。
【0038】
(変形例)
上記した実施形態では、モータ200は、一組のモータロータ220,モータステータ230を有するものとした。しかし、モータ200は、モータロータ220及びモータステータ230の少なくとも一方を2つ以上有してもよい。
図10は、変形例のモータの概略構成を示す断面図である。変形例のモータ200Aでは、ポンプ主軸300がステータ支持部253及びモータステータ230Aを貫通して設けられ、ポンプ主軸300に対して、2つのモータロータ220A,220Bがモータステータ230Aを挟むように取り付けられている。そして、モータステータ230Aのステータコア232Aには、回転中心軸線AR1方向の両方の端面に溝部が形成されてステータコイル236が設けられている。こうした構成により、モータ200の高性能化を図ったり、モータ200の径方向の小型化を図ったりすることができる。また、2つのモータロータ220A,220Bによってモータステータ230を挟むことにより、モータ200の駆動時にポンプ主軸300が回転中心軸線AR1の一方向に付勢されるのを抑制することができ、モータロータ220及びポンプ主軸300を安定して回転させることができる。なお、モータ200は、モータステータ230がモータロータ220に挟まれるものに代えて、又は加えて、モータロータ220がモータステータ230に挟まれるように構成されてもよい。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、
その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、実施形態および変形例の任意の組み合わせが可能であり、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0040】
100 真空ポンプ装置
200 モータ
220 モータロータ
230 モータステータ
232 ステータコア
233 コア部
234 溝部
236 ステータコイル
300,400 ポンプ主軸
310,410 ポンプロータ