(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すことがある)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下PASと略すことがある)樹脂は、耐熱性に優れつつ、かつ、機械的強度、耐薬品性、成形加工性、寸法安定性にも優れ、これら特性を利用して、電気・電子機器部品、自動車部品材料等として使用されている。
【0003】
そして、これら部品はその二次加工としてエポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの硬化性樹脂や金属等からなる部品材料と接着、接合する場合が多々見られる。しかし、ポリアリーレンスルフィド樹脂は他の樹脂との接着性、特にエポキシ樹脂やシリコーン樹脂との接着性や金属との接合性が比較的悪い。そのため、例えばエポキシ系接着剤やシリコーン樹脂によるポリアリーレンスルフィド同士の接合、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂による電気・電子部品の封止等の際に、ポリアリーレンスルフィド樹脂とエポキシ樹脂やシリコーン樹脂を含む硬化性樹脂組成物との接着性、あるいはポリアリーレンスルフィド樹脂と金属などの他の材料との接合性、の悪さが問題となっていた。
【0004】
そこで、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物との接着性(以下、エポキシ樹脂接着性ということがある)の低下を改善するために、ポリアリーレンスルフィド樹脂と充填剤を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に離型剤として酸化ポリエチレンワックスを添加して、成形品のエポキシ樹脂接着性と離形性と機械的特性のバランスを改良する方法も提案されている(特許文献1参照)。しかし、この場合もポリアリーレンスルフィド樹脂成形品のエポキシ樹脂接着性は低く、実用的に充分とは言い難いレベルのものであった。
【0005】
更に、成形離型性を高めることを目的として、ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物に非結晶性α−オレフィン共重合体と脂肪酸金属塩を配合する樹脂組成物も検討されている(特許文献2参照)。しかしながら、この場合にも充分なエポキシ樹脂接着性が得られているとは言えなかった。
【0006】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、酸価が65〜150mgKOH/gの範囲であり、かつカルボキシ基およびカルボン酸無水物基を有するオレフィンワックスとを含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形品が、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品に本来備わっている機械的特性を維持しつつ、さらにエポキシ樹脂接着性に優れることが知られている(特許文献3参照)。しかしながら、この場合にも充分なエポキシ樹脂との接着性が得られているとは言えず、さらなる改良の余地があった。
【0007】
一方、シリコーン樹脂を含む硬化性樹脂組成物との接着性(以下、シリコーン樹脂接着性ということがある)の低下を改善するために、ポリアリーレンスルフィド樹脂に、ジメチルポリシロキサン、脂肪酸エステルおよびシランカップリング剤を必須成分として配合し溶融混練することにより、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂成形品が、本来有する機械的特性を維持しつつ、さらにシリコーン接着性および離型性にも優れることが知られている(例えば、特許文献4参照)。しかし、該成形品においても、シリコーン樹脂接着性のさらなる改良が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明者らは、材料の種類を問わず、接着性ないし接合性を向上させるため、物理的な相互作用を利用する方法、すなわち、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の表面に活性エネルギー線を照射して、該表面を粗化することにより、接着ないし接合する材料との接触面積を大きくする方法を試みたものの、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品表面に活性エネルギー線を照射しても表面平滑性が高く、表面粗化が困難であることが明らかとなった。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、当該成形品表面に活性エネルギー線を照射した際に、表面粗化が可能なポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その成形品、およびそれらの製造方法、さらに、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形品に活性エネルギー線を照射して表面粗化する方法、ならびに、表面粗化して得られた成形品に、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂を含む硬化性樹脂組成物や金属などの他の材料が接着性良く接合されたポリアリーレンスルフィド樹脂複合成形品、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂にガラス繊維、金属酸化物および粘土鉱物を加えたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の表面に活性エネルギー線を照射することにより、表面粗化が可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、(1)ポリアリーレンスルフィド樹脂と、ガラス繊維と、金属酸化物と、層状かつ劈開性を有する粘土鉱物とを含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、ガラス繊維と、金属酸化物と、層状かつ劈開性を有する粘土鉱物の合計100質量部に対し、ガラス繊維10〜35質量部の範囲と、金属酸化物1〜30質量部の範囲と、および粘土鉱物1〜20質量部の範囲と、残部がポリアリーレンスルフィド樹脂であり、
前記ガラス繊維のモース硬度より前記金属酸化物のモース硬度が小さく、かつその差が1.5未満の範囲内であること、
前記金属酸化物が銅およびクロムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むこと、
を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、(2)前記記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなるポリアリーレンスルフィド樹脂成形品に関する。
【0014】
また、本発明は、(3)ポリアリーレンスルフィド樹脂と、ガラス繊維と、金属酸化物と、層状かつ劈開性を有する粘土鉱物とをポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上の温度で溶融混練するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、ガラス繊維と、金属酸化物と、層状かつ劈開性を有する粘土鉱物の合計100質量部に対し、ガラス繊維10〜35質量部の範囲と、金属酸化物1〜30質量部の範囲と、および粘土鉱物1〜20質量部の範囲と、残部がポリアリーレンスルフィド樹脂であり、
前記ガラス繊維のモース硬度より前記金属酸化物のモース硬度が小さく、かつその差が1.5未満の範囲内であること、
前記金属酸化物が銅およびクロムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むこと、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に関する。
【0015】
また、本発明は、(4)前記(3)記載の製造方法で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法に関する。
【0016】
また、本発明は、(5)前記(2)記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の表面に、活性エネルギー線照射または電離放射線照射を行う、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の表面粗化方法に関する。
【0017】
また、本発明は、(6)前記(2)記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の表面に、活性エネルギー線照射または電離放射線照射を行う、表面粗化面の算術平均粗さ(Ra)が2.8〜5.0(μm)の範囲のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法に関する。
【0018】
また、本発明は、(7)前記(2)記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の表面に、活性エネルギー線照射または電離放射線照射を行うことにより得られた、表面粗化面の算術平均粗さ(Ra)が2.8〜5.0(μm)の範囲のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品に、硬化性樹脂組成物または金属を、接合時に少なくとも接触面が液体状態で接触させ、その後、前記硬化性樹脂組成物または金属を固体状態とするポリアリーレンスルフィド樹脂複合成形品の製造方法に関する。
【0019】
また、本発明は、(8)前記(2)記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品と、硬化性樹脂組成物の硬化物または金属が接合したポリアリーレンスルフィド樹脂複合成形品であって、
ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の、硬化性樹脂組成物の硬化物または金属と接触する面が、表面粗化面の算術平均粗さ(Ra)2.8〜5.0(μm)の範囲であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂複合成形品に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品表面に活性エネルギー線を照射した際に、表面粗化が可能なポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その成形品、およびそれらの製造方法、さらに、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形品に活性エネルギー線を照射して表面粗化する方法、ならびに、表面粗化して得られた成形品に、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂を含む硬化性樹脂組成物や金属などの他の材料が接着性良く接合されたポリアリーレンスルフィド樹脂複合成形品、およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を必須成分として含有する。本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0022】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0023】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001〜3モル%の範囲が好ましく、特に0.01〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0024】
ここで、前記一般式(2)で表される構造部位は、特に該式中のR
1及びR
2は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0025】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0026】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)〜(8)
【0027】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記一般式(5)〜(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂中に、上記一般式(5)〜(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0028】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0029】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0030】
(溶融粘度)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が2〜1000〔Pa・s〕の範囲であることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから10〜500〔Pa・s〕の範囲がより好ましく、特に60〜200〔Pa・s〕の範囲であることが特に好ましい。但し、本発明において、溶融粘度(V6)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT−500Dを用い、300℃、荷重:1.96×10
6Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に溶融粘度を測定した値とする。
【0031】
(非ニュートン指数)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の非ニュートン指数は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、0.90〜2.00の範囲であることが好ましい。リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が0.90〜1.50の範囲であることが好ましく、さらに0.95〜1.20の範囲であることがより好ましい。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式(9)を用いて算出した値である。
【0032】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
−1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]N値は1に近いほどPPSは線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0033】
(製造方法)
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p−クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲にコントロールすることによりポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法(特開平07−228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01〜0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0034】
重合工程により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともポリアリーレンスルフィドに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィドや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、等が挙げられる。
【0035】
尚、上記(1)〜(5)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0036】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のポリアリーレンスルフィド樹脂の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、ガラス繊維と、金属酸化物と、層状かつ劈開性を有する粘土鉱物の各必須成分の合計100質量部に対し、ガラス繊維と、金属酸化物と、層状かつ劈開性を有する粘土鉱物の合計した質量部を除いた範囲(残部)であるが、このうち、15〜88質量部であることが好ましく、45〜70質量部の範囲であることがさらに好ましい。
【0037】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ガラス繊維を必須成分として含有する。
【0038】
本発明で用いるガラス繊維は、平均直径が20μm以下のものが好ましく、さらに1〜15μmのものが、物性バランス(強度、剛性、耐熱剛性、衝撃強度)をより一層高める点、並びに成形反りをより一層低減させる点で好ましい。また、通常断面形状が円形のガラス繊維が一般的に用いられることが多いが、本発明では、特に限定はなく、例えば断面形状がまゆ形、楕円形、矩形の形状においても同様に使用できる。
【0039】
ガラス繊維の長さは特定されるものでなく、長繊維タイプ(ロービング)や短繊維タイプ(チョップドストランド)等から選択して用いることができる。この場合の集束本数は、100〜5000本程度であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物混練後の熱可塑性樹脂組成物中のガラス繊維の長さが平均0.1mm以上で得られるならば、いわゆるミルドファイバー、ガラスパウダーと称せられるストランドの粉砕品でもよく、また、連続単繊維系のスライバーのものでもよい。原料ガラスの組成は、無アルカリのものも好ましく、例えば、Eガラス、Cガラス、Sガラス等が挙げられるが、本発明では、Eガラスが好ましく用いられる。
【0040】
ガラス繊維は、例えば、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等で表面処理されていることが好ましく、その付着量は、通常、ガラス繊維質量の0.01〜1質量%である。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウンム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。
【0041】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のガラス繊維の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、ガラス繊維と、金属酸化物と、層状かつ劈開性を有する粘土鉱物の各必須成分の合計100質量部に対し、10〜35質量部の範囲であり、好ましくは12〜30質量部の範囲である。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物では、通常、ポリアリーレンスルフィド樹脂とガラス繊維で、全成分の60質量%以上を占めるものであることが好ましい。
【0042】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、金属酸化物を必須成分として含有する。金属原子としては銅およびクロムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、銅及びクロムを含むことがより好ましい。本発明で用いることができる金属酸化物の具体的な例としては、CuFe
0.5B
0.5O
2.5、CuAl
0.5B
0.5O
2.5、CuGa
0.5B
0.5O
2.5、CuB
2O
4、CuB
0.7O
2、CuMo
0.7O
3、CuMo
0.5O
2.5、CuMoO
4、CuWO
4、CuSeO
4、CuCr
2O
4が挙げられる。
【0043】
金属酸化物の数平均粒子径は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、成形品表面の粗化が進むことから、金属酸化物の粒子径は大きいほうが好ましい傾向にあるが、0.01〜50μmであることが好ましく、0.05〜30μmであることがより好ましい。あまり柔らかすぎると溶融混練時にガラス繊維と接触して破壊され、上記の粒子径を保持できないため、ガラス繊維のモース硬度に対して1.5未満の範囲内でより小さいモース硬度を有することが好ましい。なお、ガラス繊維としては、モース硬度が好ましくは5.5以上の範囲であるもの、より好ましくは5.5〜8の範囲であるもの、さらに好ましくは5.5〜7.5の範囲であるものと、金属酸化物として、モース硬度が好ましくは4.0〜6.5の範囲のもの、より好ましくは4.0〜6.0の範囲のものの中から、適宜、ガラス繊維のモース硬度に対して1.5未満の範囲内でより小さいモース硬度を有する金属酸化物を組み合わせて用いることが好ましい。
【0044】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物における、前記金属酸化物の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、ガラス繊維と、金属酸化物と、層状かつ劈開性を有する粘土鉱物の各必須成分の合計100質量部に対し、1〜30質量部の範囲であることが好ましく、2〜25質量部の範囲であることがより好ましく、さらに3〜18質量部の範囲であることがさらに好ましい。また、後述する粘土鉱物と組み合わせることにより、少ない含有量でも表面粗化が進むため好ましい。
【0045】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必須成分として層状かつ劈開性を有する粘土鉱物を含有する。本発明では、前記粘土鉱物を配合することにより、金属酸化物の含有量を減らしても適切な表面粗化が可能になるため好ましい。
【0046】
前記粘土鉱物としては、たとえば、タルクや、ハイドロタルサイト、スメクタイト、マイカ、ディク石、ナクル石、ハロイ石、アンチゴライト、単斜クリソタイル石、斜方クリソタイル石、パラクリソタイル石、リザード石、アメス石、ケリー石、ベルチェリン、グリーナ石およびヌポア石などのカオリナイト等が挙げられ、このうちタルクや、ハイドロタルサイト、スメクタイトが好ましく、タルク、ハイドロタルサイトがより好ましい。
【0047】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物における、前記粘土鉱物の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、ガラス繊維と、金属酸化物と、層状かつ劈開性を有する粘土鉱物の各必須成分の合計100質量部に対し、1〜20質量部の範囲であることが好ましく、2〜15質量部の範囲であることがより好ましく、2〜10質量部の範囲であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明で用いる粘土鉱物は、モース硬度が前記金属酸化物より小さいことが好ましく、具体的には、2.5以下の範囲が好ましく、さらには2以下の範囲であることがより好ましい。当該範囲のモース硬度を有する粘土鉱物を用いることによって、溶融混練時における金属酸化物の破壊を抑制する観点から好ましい。確定した理論ではないが、当該効果は緩衝材的な役割を果たすことによるものと考えている。
【0049】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、前記必須成分以外の充填剤(以下、単に充填剤という)を任意成分として含有することができる。これら充填剤としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0050】
本発明において充填剤は必須成分ではなく、添加する場合、その含有量は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではない。充填剤の含有量としては例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜5質量%の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、樹脂組成物に良好な機械強度と成形性を付与できるため好ましい。
【0051】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として含有することができる。シランカップリング剤としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基または水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本発明においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、添加する場合、その含有量は、本発明の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜5質量%の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な耐コロナ性と成形性、特に離形性を有し、かつ成形品がエポキシ樹脂と優れた接着性を呈しつつ、さらに機械的強度が向上するため好ましい。
【0052】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必要に応じて、熱可塑性エラストマーを任意成分として含有することができる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマーまたはシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その含有量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜5質量%の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0053】
前記ポリオレフィン系エラストマーは、例えば、α−オレフィンの単独重合または異なるα−オレフィン同士の共重合により、さらに、官能基を付与する場合には、α−オレフィンと官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得ることができる。α−オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン及びブテン−1等の炭素原子数2〜8の範囲のものが挙げられる。また、官能基としては、カルボキシ基、式−(CO)O(CO)−で表される酸無水物基、それらのエステル、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、またはオキサゾリン基などが挙げられる。
【0054】
このような官能基を有するビニル重合性化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル等のα,β−不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその他の炭素原子数4〜10のα,β−不飽和ジカルボン酸及びその誘導体(モノ若しくはジエステル、及びその酸無水物等)、並びにグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、上述したエポキシ基、カルボキシ基、及び、該酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するエチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−ブテン共重合体が、機械的強度、特に靭性及び耐衝撃性の向上の点から好ましい。
【0055】
更に、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂などを任意成分として含有することができる。また、これらの樹脂の含有量は、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に0.01〜20質量%の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0056】
また本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、およびカップリング剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として含有してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に、好ましくは0.01〜20質量%の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0057】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、前記ガラス繊維と、前記金属酸化物と、前記粘土鉱物の各必須成分と、必要に応じて、充填剤などの任意成分を必須成分として、ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上で溶融混練する。
【0058】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の好ましい製造方法は、上述した含有量となるよう、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、前記ガラス繊維、前記金属酸化物および前記粘土鉱物の各必須成分と、必要に応じて、充填剤などの任意成分を、粉末、ペレット、細片など様々な形態でリボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンダーなどに投入してドライブレンドした後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーダーなどの公知の溶融混練機に投入し、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃となる温度範囲、さらに好ましくは融点+20〜融点+50℃となる温度範囲で溶融混練する工程を経て製造することができる。溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。
【0059】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5〜500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50〜500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、前記成分のうち、充填剤や添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが、形状保持と分散性が良好となる観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1〜0.9の範囲であることが好ましい。中でも0.3〜0.7の範囲であることが特に好ましい。
【0060】
このように溶融混練して得られる本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必須成分であるポリアリーレンスルフィド樹脂、前記ガラス繊維、前記金属酸化物および前記粘土鉱物と、必要に応じて加える任意成分およびそれらの由来成分を含む溶融混合物であり、該溶融混練後に、公知の方法でペレット、チップ、顆粒、粉末等の形態に加工してから、必要に応じて100〜150℃の温度で予備乾燥を施して、各種成形に供することが好ましい。
【0061】
上記製造方法により製造される本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂をマトリックスとし、当該マトリックス中に、必須成分である前記ガラス繊維、前記金属酸化物および前記粘土鉱物それに由来する成分、必要に応じて添加する任意成分とが分散したモルフォロジーを形成する。その結果、活性エネルギー線照射による当該ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の表面粗化が進むため好ましい。
【0062】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、例えば、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形法により、溶融成形することで成形品を製造することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。溶融成形における各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。溶融成形は、例えば、成形機内で、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20〜融点+50℃の温度範囲で前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口より樹脂を吐出し、例えば金型内等に注入して成形すればよい。金型内に注入して成形する際には、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)〜300℃、好ましくは120〜180℃に設定すればよい。
【0063】
上記のようにして得られた本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品は、活性エネルギー線による処理で、その表面を、例えば、算術平均粗さ(Ra)が2.8〜5.0(μm)の範囲、より好ましくは3.0〜4.0(μm)の範囲まで粗化することができる。
【0064】
成形品表面の粗化は、原子、電子、活性エネルギー線などの物理的作用により非接触でポリアリーレンスルフィド樹脂成形品表面を粗化処理できる方法であれば、公知の方法を使用して処理することができ、例えば、紫外線、赤外〜遠赤外線、レーザー光線、マイクロ波、コロナ放電やアーク放電、プラズマ処理等の活性エネルギー線照射による処理が挙げられる。活性エネルギー線の照射出力は本発明の効果を損ねなければ特に限定されず、適宜実施される予備実験等により調整すればよいが、たとえば1〜20Wの範囲であることが好ましく、さらに5〜12Wの範囲であることがより好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の表面粗化すべき面積は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、最終的に得られる複合成形品におけるポリアリーレンスルフィド樹脂成形品とそれ以外の他の材料との接触面積に対して、面積比で1%以上であることが好ましいが、より優れた接着強度が付与できることから10%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、95%であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0065】
このように、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品は、活性エネルギー線照射による非接触式の表面粗化処理(エッチング処理)で、その表面を好適に粗化することができる。その結果、物理的作用による接合方法により複合成形品を製造することが可能となるため、接合時に少なくとも接触面が液体状態であり、その後、固体状態となる材料であれば、その種類を問わず、いずれのものであっても優れた接着性を発揮することができる。このような材料としては、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂を含む硬化性樹脂組成物や、金属などの他の材料が挙げられるがこれに限られるものではない。
【0066】
したがって、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂複合成形品は、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品に、活性エネルギー線照射による処理で、その表面を粗化した後、少なくとも該成形品表面との接触面が液体状態である材料、例えばエポキシ樹脂やシリコーン樹脂を含む硬化性樹脂組成物や、金属などの他の材料を接触させてから硬化ないし固化することによって製造することができる。
【0067】
ここで言うエポキシ樹脂やシリコーン樹脂等を含む硬化性樹脂組成物は、硬化剤や硬化触媒を含むものであることが好ましい。エポキシ樹脂としては、分子内にエポキシ基を2個以上含む高分子化合物であれば特に制限はされないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、またはテトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂などに代表されるビスフェノール型エポキシ樹脂や、ビフェニル型エポキシ樹脂またはテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂などに代表されるビフェニル型エポキシ樹脂や、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等に代表されるノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、硬化剤を含む硬化性樹脂組成物として使用され、熱エネルギーや光エネルギー等を与えることにより硬化反応させ使用されることが好ましい。その際、エポキシ樹脂と硬化剤との使用割合は、本発明の効果を損なわない範囲において公知の割合であれば特に限定されるものではないが、硬化性に優れ、硬化物の耐熱性や耐薬品性に優れる硬化物が得られることから、エポキシ樹脂成分中のエポキシ基の合計1当量に対して、硬化剤中の活性基が0.7〜1.5当量になる量が好ましい。また、硬化剤としては一般にエポキシ樹脂の硬化剤として用いられるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アミン型硬化剤、フェノール樹脂型硬化剤、酸無水物型硬化剤、潜在性硬化剤等が挙げられる。
【0068】
一方、シリコーン樹脂としては、直鎖構造を有するポリオルガノシロキサンの他、必要に応じて、3官能性シロキサン単位、4官能性シロキサン単位等を含む三次元網目構造を有するポリオルガノシロキサンを併用するものであってもよい。ポリオルガノシロキサンは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、例えば以下に示す一般式(10)で表される化合物や、その混合物が挙げられる。
【0069】
【化5】
ここで、上記式(10)において、R
1からR
6は独立して、有機官能基、水酸基、水素原子から選択される。またM、D、TおよびQは0以上1未満であり、M+D+T+Q=1を満足する数である。
一般式(10)に示す通り、ポリオルガノシロキサンを構成する主な単位は、1官能型[R
1R
2R
3SiO
1/2](トリオルガノシルヘミオキサン)、2官能型[R
4R
5SiO
2/2](ジオルガノシロキサン)、3官能型[R
6SiO
3/2](オルガノシルセスキオキサン)、4官能型[SiO
4/2](シリケート)であり、これら4種の単位の構成比率を変えることにより、ポリオルガノシロキサンの性状の違いが出てくるため、所望の特性が得られるように適宜選択すればよい。シリコーン樹脂は、公知の硬化触媒の存在下で、熱エネルギーや光エネルギー等を与えることにより硬化させることができる。
【0070】
一方、金属材料としては、銅、ニッケル、金、銀、パラジウム、アルミニウムが挙げられ、このうち一種または二種以上が混合されているものであってもよい。このうち、銅がより好ましい。これらの金属材料は、製造工程において固体状態である場合は、表面を前記活性エネルギー線照射による処理で溶融状態にしておき、該表面をポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の表面粗化処理面と接合してから、冷却し固化させ接着させる方法や、溶融して液体状態である場合、表面粗化したポリアリーレンスルフィド樹脂成形品表面に塗布する、などの方法が挙げられる。
【0071】
当該複合体の主な用途例として箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、電子回路、LSI、IC、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モータ、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ICレギュレータ、ライトディヤ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例】
【0072】
<実施例1〜10及び比較例1〜6>
表1〜4に記載する組成成分および配合量(全て質量部)に従い、各材料をタンブラーで均一に混合した。その後、東芝機械株式会社製ベント付き2軸押出機「TEM−35B」に前記配合材料を投入し、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.1(kg/hr・rpm)、設定樹脂温度330℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。
【0073】
次に、得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した住友−ネスタール社製射出成形機(SG75−HIPRO・MIII)に供給し、金型温度130℃に温調したASTM1号ダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、ASTM1号ダンベル片を得た。
【0074】
得られたASTM1号ダンベル片に、活性エネルギー線照射(スポット径70μm、移動速度4m/s、出力7W)により、縦10mm×横5mの表面の粗化を行った。
この試験片を用いて以下の各種評価試験を行った。試験及び評価の結果は、表1〜4に示す。
【0075】
[レーザー照射面の粗度の測定方法]
JIS B 0601:2013に準拠して算術平均粗さRaを測定した。すなわち、ASTM1号ダンベル片の表面粗化した面を、表面粗さ測定器(株式会社ミツトヨ製、輪郭形状測定器サーフテストSV−3000CNC)を用いて測定した。測定は粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にx軸を、縦倍率の方向にy軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表した際に次式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものとする。
【0076】
【数2】
ここで、L=300μmとし、ダンベル片1体につき、100点の測定を、ダンベル片3体について行った。各測定結果を平均して、算術平均粗さ(Ra)を求めた。
【0077】
【表1】
【0078】
PPS樹脂に活性エネルギー線を吸収するためのカーボンブラックを配合した比較例1は、照射跡に表面平滑性が良好なPPSスキン層が形成された。
【0079】
【表2】
【0080】
比較例2は、金属酸化物を含まず、活性エネルギー線の吸収が不十分であったことから、十分な表面粗化(エッチング)効果が得られなかった。
【0081】
【表3】
【0082】
比較例3は、ガラス繊維が少ないため、表面の凹凸が小さく、表面平滑性が良好なものとなった。一方、比較例4はガラス繊維が多く、活性エネルギー線が反射したため、十分な表面粗化(エッチング)効果が得られなかった。
【0083】
【表4】
【0084】
比較例5、6は、活性エネルギー線の吸収が不十分で、十分な表面粗化(エッチング)効果が得られなかった。
【0085】
表1〜表4中の数値は質量部を表し、各材料は下記のものである。
PPS(A−1) リニア型PPS DIC株式会社製「MA−520」(ピーク分子量35000、溶融粘度(V6)160Pa・s)
GF(B−1) ガラス繊維 日本電気硝子株式会社製「T−717H」(平均繊維長200μm、平均直径10μmのチョップドストランド、モース硬度6.5)
金属酸化物(C−1) CuCr
2O
4(モース硬度5.5〜6.0)
金属酸化物(c−2) Cu
3(PO
4)
2Cu(OH)
2(モース硬度4.0〜5.0)
金属酸化物(c−3) Bi
2O
3(98〜99質量%)およびNd
2O
3(0.3〜1.0質量%)の混合物(モース硬度:4.0〜5.0)
粘土鉱物(D−1) タルク 松村産業株式会社製「HF5000PJ」(アスペクト比<20、D
50/20(μm)、モース硬度1.0)
粘土鉱物(D−2) ハイドロタルサイト 協和化学工業株式会社製「DHT−4A」(アスペクト比2.6、D
50/0.4(μm)、モース硬度1.0)
添加剤(E−1) アミノ基含有アルコキシシラン
添加剤(E−2) エポキシ基含有アルコキシシラン
添加剤(e−3) カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粒状品」平均粒子径35nm)
なお、モース硬度は、一般的に鉱物の硬さの指標として用いられる10段階モース硬度を用いた。