特許第6701613号(P6701613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6701613-光散乱型液晶デバイス 図000020
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6701613
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】光散乱型液晶デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1334 20060101AFI20200518BHJP
   C08F 20/28 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   G02F1/1334
   C08F20/28
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-571761(P2019-571761)
(86)(22)【出願日】2019年7月23日
(86)【国際出願番号】JP2019028791
【審査請求日】2019年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2018-139368(P2018-139368)
(32)【優先日】2018年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124143
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】中田 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】張 琴姫
(72)【発明者】
【氏名】丸山 和則
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−004986(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/199148(WO,A1)
【文献】 特開平6−102493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1334
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方に電極層を有する、少なくとも一方が透明な2枚の基板と、これらの基板間に支持された調光層とを有し、前記調光層が、液晶材料及び高分子物質を含有する光散乱型液晶デバイスであって、前記高分子物質はアクリル系重合性化合物及びメタクリル系重合性化合物の少なくとも一方を含む重合性化合物の硬化物であって、前記重合性化合物は2官能型重合性化合物及び単官能型重合性化合物を両方含有するものであり、前記単官能型重合性化合物として一般式(II−2)
【化1】
(式中、Yは水素原子、又はメチル基を表し、Xは分岐基を有していてもよい炭素原子数8〜30のアルキル基(該アルキル基中の非隣接の1つ又は2つ以上の−CH−はそれぞれ独立して酸素原子、−COO−、又は−OCO−で置き換えられていてもよい)を表す。)で表される化合物を用い、該基板上と調光層の間に反応性基を有する熱、又は電離放射線硬化性化合物を熱、又は電離放射線硬化することにより形成された薄膜層を有することを特徴とする、光散乱型液晶デバイス。
【請求項2】
前記薄膜の厚みが10〜1000nmであることを特徴とする、請求項1に記載の光散乱型液晶デバイス。
【請求項3】
前記反応性基が(P-1)〜(P−21)であることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか1項に記載の光散乱型液晶デバイス。
【化1】
【請求項4】
前記反応性基が(P-1)又は(P−2)を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光散乱型液晶デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光シャッターなどの調光ガラス、時計等セグメント表示用途に適する光散乱型液晶デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光散乱型液晶デバイスは、偏光板を必要としないため、従来の偏光板を用いた、TN、STN、IPS又はVAモードの液晶表示素子に比べ、明るい表示が実現できるメリットがあり、素子の構成も単純であることから、調光ガラス等の光シャッター用途、各種光学素子用途、時計等セグメント表示用途に応用されている。
斯かる光散乱型液晶デバイスは高分子により液晶分子の配向が乱された状態から、電圧の印加し液晶化合物を一方向に配向させる状態に変化させることにより、光の散乱及び透過を制御するモードである。散乱時には白濁し、透過時には透明になっている。
この光散乱型液晶デバイスには、いくつかの種類があり、例えば、ポリマー中に液晶物質の小滴を分散させたNCAPと呼ばれるタイプ(特許文献1参照)は大面積化には適しているものの駆動電圧が高かった。それを改善する手法としてPDLC、又はPNLCと呼ばれる、液晶材料を光重合性モノマーの混合物に紫外線を照射すことにより引き起こされる重合相分離を用いたタイプ(特許文献2)等が提案され、特に低電圧化が要求される光学素子、表示素子等に応用されてきた。
これらのデバイスは幅広い温度域で動作できることが求められ、低温時の表示特性や、熱サイクル試験での動作の保証が求められている。
しかしながら、しかしながら前記した高分子分散型液晶は液晶中の高分子成分と基板界面との密着性が弱いため、紫外線照射による重合相分離の重合による硬化収縮や、作製された光散乱型液晶デバイスを温度変化させた場合に起こる熱収縮による応力に耐えられず、ネットワーク構造が基板界面から剥がれて表示に亀裂のような構造が発生する現象がしばしば見られ、表示性能が大幅に低下してしまうものであった。
このような密着性を改善する手段として特許文献3、及び特許文献4にはITO表面にシランカップリング処理を施すことが記載されているが、一般的にITOは親水化処理をしなければシランカップリング剤はITO表面に密着しない他、そもそも密着性に改善効果は十分とは言えなかった。
【0003】
また、光散乱型液晶デバイスの調光層界面の密着性を改善するには、一般的に該調光層中の高分子物質の極性を高める手段があるが、この場合、駆動電圧の上昇を招くものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−286162号公報
【特許文献2】US5304323号公報
【特許文献3】特開平3−4212号公報
【特許文献4】特開2016−69533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、密着性が飛躍的に改善された光散乱型液晶デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、光散乱型液晶デバイスにおいて、基板上と調光層との間に反応性基を有する熱、又は電離放射線硬化性化合物を熱、又は電離放射線硬化させて得られる薄膜層を形成させることにより調光層と基板界面との密着性が著しく改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、少なくとも一方に電極層を有する、少なくとも一方が透明な2枚の基板と、これらの基板間に支持された調光層とを有し、前記調光層が、液晶材料及び高分子物質を含有する光散乱型液晶デバイスであって、該基板上と調光層の間に反応性基を有する熱、又は電離放射線硬化性化合物を熱、又は電離放射線硬化することにより形成された薄膜層を有することを特徴とする、光散乱型液晶デバイスに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば密着性が飛躍的に改善された光散乱型液晶デバイスを出来る。従って、本発明の光散乱型液晶デバイスを用いると、基板との密着性に優れ、重合相分離時の硬化収縮や、熱履歴による熱収縮によりポリマーネットワークが基板から剥がれる事がないことに加え、熱サイクル試験においても優れた性能を発現する。
【0009】
更に、駆動電圧の上昇を招くことがなく、低駆動電圧を保持したまま密着性を改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の液晶表示素子の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の光散乱型液晶デバイスは、前記した通り、少なくとも一方に電極層を有する、少なくとも一方が透明な2枚の基板と、これらの基板間に支持された調光層を有し、かつ、該基板と調光層との間には、反応性基を有する熱、又は電離放射線硬化性化合物を熱、又は電離放射線硬化することにより形成された薄膜層(以下、「ポリマー層」ということもある。)を有するものである。
【0012】
ここで、前記調光層は、前記した通り、液晶材料と高分子物質とを含有するものであり、具体的には、少なくとも一方に電極層を有する、少なくとも一方が透明な2枚の基板(該基板の少なくとも一方、好ましくは両基板の表面、電極が存在する場合は更にその上に前記薄膜層を有する)の間に、液晶材料と重合性モノマーとを必須成分とする調光層用組成物を狭持し、この混合物の硬化性組成物の一部、又は全部を紫外線等により硬化させ、それに伴う重合相分離により、高分子の網目構造中に液晶層が狭持された構造を持つ。
【0013】
具体的な構成を図1に基づいて詳述する。図1における1は基板を示し、2つある該基板の内、少なくとも一方は透明である、2は電極層を示す。ここで、IPSやFFS駆動を行う場合は、一方の基板上のみに構成されている構造でも良い。3は、反応性基を有する熱、又は電離放射線硬化性化合物を熱、又は電離放射線硬化することにより形成された薄膜層を示し、4は高分子分散型の液晶層等の調光層を示す。この3のポリマー層が存在するため、4は高分子分散型の液晶層等の調光層に存在するポリマーネットワーク層の基材への密着性が向上する。
【0014】
基板は少なくとの一方が透明であれば良く、ガラス基板が好適に使用される。ガラス基板以外にもPET(ポリエチレンテレフタレート)、PES(芳香族ポリエーテルスルフォン)、PMMA(アクリル樹脂)、PC(ポリカーボネート)、脂環式ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン系樹脂、PAR(ポリアリレート)、PEEK(芳香族ポリエーテルケトン)等のプラスチック基板が使用できる。また、片側基板にシリコン基板等の不透明な基板を使用することもできる。
【0015】
上記基板上には一般的に電極層が設けられている。通常は2つの基板上に設けられているが、IPSやFFS駆動等いわゆる横電界駆動を行うときは片側基板上のみに電極を設けることもできる。電極としてはITO、IZO、ZnOやIGZO等の透明導電膜、透明アモルファス酸化物半導体薄膜が上げられる。必要に応じて、これらの膜にグロー放電プラズマやコロナ放電プラズマ等により表面改質を行っても良く、これらの電極層上に、ポリイミド等に代表される配向膜、光配向膜や、SiO、SiN膜等を形成しても良い。
【0016】
図1の3の薄膜層(ポリマー層)は1及び2の電極層付き基板と、4の高分子分散型の液晶層等の調光層に存在する網目構造を形成している高分子物質とを結びつける役割を果たす。3のポリマー層は前記した通り、熱、又は電離放射線硬化性化合物を熱、又は電離放射線重合して得られるものである。特に熱重合した薄膜は基板への密着性に優れるため、本ポリマー層と基材との密着性はより向上する。また、薄膜の厚みとしては、該高分子分散型液晶が電圧駆動を行うという観点から薄いほうが好ましく、10〜1000nmの厚みで形成されることが好ましく、20〜500nmの厚みで形成されることがより好ましく、30〜200nmの厚みで形成されることが更により好ましい。
【0017】
ここで、前記薄膜層(例えば図1の3のポリマー層)を形成させる、反応性基を有する熱、又は電離放射線硬化性化合物は、例えば、下記式(P−1)〜(P−21)で表される反応性基を有する熱、又は電離放射線硬化性化合物を含有することが好ましい。
【0018】
【化1】
【0019】
前記式(P−1)〜(P−21)で表される反応性基を有する熱、又は電離放射線硬化性化合物としては、具体的には、(P−1)〜(P−3)で表される反応性基として有するアクリル系モノマー、(P−4)で表される反応性基として有するアリルエーテル系モノマー、例えば、ジアリルエーテル、ビスフェノールAジアリルエーテル、ビスフェノールAジアリルエーテル、ノボラック樹脂のポリアリルエーテル等、(P−7)〜(P−10)を反応性基として有するエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、(P−11)を反応性基として有する3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、(P−12)、(P−13)を反応性基として有するオキセタン系化合物、例えば、エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(OXA)や3−エチル−3−クロロメチルオキセタン(OXC)、(P−14)を反応性基として有するマレイミド系化合物、例えば、マレイミドエチルアセテートやポリアルキレンエーテルビスマレイミド、等が好ましいが、本発明では特に(P−1)又は(P−2)で表される反応性基を有するアクリル系モノマーが密着性の改善効果の点から好ましい。
【0020】
斯かるアクリル系モノマーとしては、具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等があげられ、またその他、多官能のウレタンオリゴマー、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート等が挙げられる。
【0021】
また、上記した反応性基を有する熱、又は電離放射線硬化性化合物のなかでも、密着性の改善効果や耐熱サイクル性に優れる点から応性基を3つ以上有する化合物を含有することがより好ましく、4つ以上有する化合物を含有することが更により好ましい。
【0022】
また、前記熱、又は電離放射線硬化性化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用した熱、又は電離放射線硬化性組成物として用いてもよい。更に、前記熱、又は電離放射線硬化性化合物は、分子構造内に水酸基等の親水性基を有することが密着性や耐熱サイクル性の改善効果が顕著なものとなる点から好ましく、特に4つ以上の反応性を持つ化合物を含む混合物であって、該混合物中、親水性基を有する化合物を40〜80質量%となる割合で含む混合物として用いることが特に好ましい。
【0023】
重合開始剤は必要に応じて添加してもよい。熱重合開始剤としては公知慣用のものが使用でき、例えば、メチルアセトアセテイトパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パ−オキシジカーボネイト、t−ブチルパーオキシベンゾエイト、メチルエチルケトンパーオキサイド、1,1−ビス(t−ヘキシルパ−オキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、p−ペンタハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネイト、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾニトリル化合物、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオン−アミヂン)ジハイドロクロライド等のアゾアミヂン化合物、2,2’アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物、2,2’アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等のアルキルアゾ化合物等を使用することができる。具体的には、和光純薬工業株式会社製の「V−40」、「VF−096」、日本油脂株式会社(現日油株式会社)の「パーへキシルD」、「パーへキシルI」等が挙げられる。
【0024】
光重合開始剤としては、例えばBASF社製の「イルガキュア651」、「イルガキュア184」、「ダロキュア1173」、「イルガキュア907」、「イルガキュア127」、「イルガキュア369」、「イルガキュア379」、「イルガキュア819」、「イルガキュア2959」、「イルガキュア1800」、「イルガキュア250」、「イルガキュア754」、「イルガキュア784」、「イルガキュアOXE01」、「イルガキュアOXE02」、「イルガキュアOXE04」、「ルシリンTPO」、「ダロキュア1173」、「ダロキュアMBF」やLAMBSON社製の「エサキュア1001M」、「エサキュアKIP150」、「スピードキュアBEM」、「スピードキュアBMS」、「スピードキュアMBP」、「スピードキュアPBZ」、「スピードキュアITX」、「スピードキュアDETX」、「スピードキュアEBD」、「スピードキュアMBB」、「スピードキュアBP」や日本化薬社製の「カヤキュアDMBI」、日本シイベルヘグナー社製(現DKSH社)の「TAZ−A」、ADEKA社製の「アデカオプトマーSP−152」、「アデカオプトマーSP−170」、「アデカオプトマーN−1414」、「アデカオプトマーN−1606」、「アデカオプトマーN−1717」、「アデカオプトマーN−1919」、UCC社製の「サイラキュアーUVI−6990」、「サイラキュアーUVI−6974」や「サイラキュアーUVI−6992」、旭電化工業社製の「アデカオプトマーSP−150、SP−152、SP−170、SP−172」やローディア製の「PHOTOINITIATOR2074」、BASF社製の「イルガキュア250」、GEシリコンズ社製の 「UV−9380C」、みどり化学社製の「DTS−102」等が挙げられる。
【0025】
またカチオン重合を行う場合は、例えばUVACURE1590(ダイセル・サイテック製)、CPI−110P(サンアプロ製)、などのスルホニウム塩やIRGACURE250(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、WPI−113(和光純薬製)、Rp−2074(ローディア・ジャパン製)等のヨードニウム塩が挙げられる。
【0026】
電子線硬化する場合は、重合開始剤はあってもなくてもよい。
【0027】
これら重合開始剤の使用量は重合性化合物対して0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部が特に好ましい。これらは、単独で使用することもできるし、2種類以上混合して使用することもできる。また必要に応じて増感剤等も用いてもよい。
【0028】
該化合物を基材に塗布する方法としては、アプリケーター法、バーコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、フレキソコーティング法、インクジェット法、ダイコーティング法、キャップコーティング法、ディップコーティング法、スリットコーティング法等、公知慣用の方法を行うことができる。塗布するために該化合物を有機溶剤等で希釈することもできる。用いる有機溶剤としては特に限定はないが、該化合物が良好な溶解性を示す有機溶剤が好ましく、100℃以下の温度で乾燥できる有機溶剤であることが好ましい。そのような溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、クメン、メシチレン等の芳香族系炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、アニソール等のエーテル系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、等のアミド系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン及びクロロベンゼン等が挙げられる。これらは、単独で使用することもできるし、2種類以上混合して使用することもできる。
【0029】
上記方法で製膜されたモノマーの薄膜は、熱、又は電離放射線重合により硬化させることができる。電離放射線で重合する場合は酸素阻害の影響を少なくするため窒素置換中、又は真空中で行うことが好ましい。また電子線で硬化させることもできる。また硬化方法としては、熱重合により形成された薄膜は基板との密着性に特に優れる。更に重合開始剤がない状態で重合された薄膜は、重合速度が遅いため硬化収縮が起こりにくく、且つ基板と高温下の状態でなじむ時間も長いため、基板への浸透等が進み、より密着性に優れる。これにより基材との密着性が高い薄膜が形成される。熱重合する温度は、使用される基材により異なるが、80〜350℃が好ましく、100〜300℃がより好ましく、200〜250℃であることが更に好ましい。
【0030】
加熱、又は電離放射線することにより、式(P−1)〜(P−21)で表される基は互いに反応し重合反応を起こすが、一部の基は未重合のまま残る。この未重合基が後述される図1の4の高分子分散型の液晶層等の調光層に存在するポリマーネットワーク層と結合することにより調光層と基板との密着性を確保することができる。そのため図1の3のポリマー層に用いられる化合物の反応性基は、図1の4の高分子分散型の液晶層等の調光層に存在するポリマーネットワーク層を形成する化合物に用いられる反応性基と反応する化合物が好ましく、特に紫外線により反応する基がより好ましい。
図1の3のポリマー層は、熱重合の場合には、より基板と密着するため、熱重合に耐えられる基板用であれば適用することができ、シランカップリング剤のように、特定の官能基を持つ基板でないと有用性を発揮できないということはなく、特に基板の種類は問わない。また電離放射線重合の場合も、電離放射線照射に耐えられれば良く、特定の官能基は必要ない。
図1の4の高分子分散型液晶層である調光層は、液晶組成物と該調光層中に網目構造を形成している高分子物質とを必須の構成要素とするものである。
【0031】
液晶組成物としては、1種、又は2種以上の一般式(I)
【0032】
【化2】
【0033】
(式中、Rは炭素原子数1から10までのアルキル基を表し、該アルキル基中の非隣接の1つ又は2つのCH基は酸素原子、−COO−、−OCO−で置き換えられていてもよく、また一つ以上のメチレン基は−CH=CH−、又は−CH≡CH−よって置き換えられていてもよく、好ましくは炭素原子数1から5までのアルキル基(該アルキル基中の一つ以上のメチレン基は−CH=CH−よって置き換えられていてもよい)であり、
は、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、CF基、OCF基、OCHF基、NCS基、又は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、該アルキル基中の非隣接の1つ又は2つのCH基は酸素原子、−COO−、−OCO−で置き換えられていてもよく、また一つ以上のメチレン基は−CH=CH−、又は−CH≡CH−によって置き換えられていてもよく、好ましくはフッ素原子、シアノ基、又は炭素原子数1〜5のアルキル基(該アルキル基中の非隣接の1つ又は2つのCH基は酸素原子で置き換えられていてもよい。)であり、
、及びZは、それぞれ独立して、単結合、−COO−、−OCO−、−CH−CH−、−CH=CH−、−CFO−、−OCF−、又は−C≡C−を表し、Zが複数個存在する場合は、同じであっても異なっていても良く、好ましくは、単結合、−COO−、−CFO−、又は−C≡C−であり(Zが複数個存在する場合は、同じであっても異なっていても良い)、
、A、及びAは、それぞれ独立して、1,4−フェニレン基、1,4−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキセニル基、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基、ピラジン−2,5−ジイル基、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、2,6−ナフチレン基を表し、該1,4−フェニレン基、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、2,6−ナフチレン基は非置換であるか又は置換基として1個又は2個以上のフッ素原子、塩素原子、CF基、OCF基又はCH基を有していても良く、Aが複数個存在する場合は、同じであっても異なっていても良く、好ましくは、1,4−フェニレン基、ピリミジン−2,5−ジイル基、1,4−シクロヘキシレン基、2,6−ナフチレン基(該1,4−フェニレン基、及び2,6−ナフチレン基は非置換であるか又は置換基として1個又は2個以上のフッ素原子、又はCH基を有していても良く、Aが複数個存在する場合は、同じであっても異なっていても良く)であり、
mは0、1又は2である。)
で表される液晶化合物の組成物であることが好ましく、ネマチック相を呈する液晶組成物であることが更に好ましい。
【0034】
本発明の光散乱型液晶デバイスは、光散乱型の液晶素子であるため、使用する液晶組成物のΔn(屈折率異方性)は高いほうが好ましい。そのためA、A、及びAの中の2つ以上が1,4−フェニレン基、ピリジン−2,5−ジイル基、2,6−ナフチレン基(1,4−フェニレン基、2,6−ナフチレン基は置換基として1個又は2個以上のフッ素原子、塩素原子、CF基、OCF基又はCH基を有していても良い)である化合物を液晶組成物中に50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、85質量%以上含有することが更により好ましい。また、同様の観点から、Z、及びZは単結合、−COO−、−OCO−、又は−C≡C−を表すことが好ましく、耐光性を重視するときはZ、及びZが単結合、−COO−、−OCO−である化合物を液晶組成物中に50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、85質量%以上含有することが更により好ましく、より高い散乱性を重視する場合は、Z、又はZが−C≡C−である化合物を40質量%以上含有することが好ましく、50質量%以上含有することがより好ましく、60質量%以上含有することが更により好ましい。更に高い散乱性を求める場合は、A、A、及びAが1,4−フェニレン基でZ、及びZが単結合で、且つRがシアノ基である化合物を5%以上含有することが好ましく、A、A、及びAの中の少なくとも一つの1,4−フェニレン基が少なくとも一つの置換基を有することがより好ましい。
【0035】
前記調光層中に網目構造を形成している高分子物質は、調光層用組成物中の重合性モノマーを重合することにより得られる。重合性モノマーは熱や紫外線により硬化する化合物が好ましく、紫外線硬化性の重合性モノマーであることが好ましい。紫外線硬化性重合性モノマーとしては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合があげられるが、ラジカル重合性の化合物が好ましく、中でもアクリル系、メタクリル系の重合性化合物がより好ましい。アクリル系、メタクリル系の重合性化合物としては、単官能型重合性化合物、多官能型重合性化合物が上げられるが、少なくとも1種類以上の多官能型重合性化合物で構成させることが好ましく、少なくとも1種類以上の2官能型重合性化合物で構成されることがより好ましい。更により好ましい構成は2官能型重合性化合物と単官能型重合性化合物を併用することである。
【0036】
2官能型重合性化合物としては、特に制限はないが、好ましくは一般式(II−1)
【0037】
【化3】
【0038】

(式中、Y、及びYは水素原子、又はメチル基を表し、Xは2価の有機基を表す)。該2価の有機基であるXは分子量150〜15000であることが好ましく、350〜10000であることが更に好ましく、さらに炭素原子、酸素原子、窒素原子、水素原子で構成される基であることが好ましく、ベンゼン環を含まないことが更により好ましい。
としては、特に密着性を最重視するのであれば、一般式(II−1−1)
【0039】
【化4】
【0040】
(式中、Eは炭素原子数1〜4までのアルキル基を表し、該アルキル基中の一つ以上の−CH−は酸素原子、−CO−、−COO−、−OCO−で置換されていても良く、qは1〜20を表し、Eは、下記(II−1−2)〜(II−1−5)
【0041】
【化5】
【0042】
を表し、Eは下記(II−1−6)又は(II−1−10)
【0043】
【化6】
【0044】
は水素原子、又はメチル基を表し、Yは2価の芳香族基、2価の脂環式炭化水素基または炭素原子数1〜14のアルキレン基を表し、該アルキレンは酸素原子、−CO−基で置換されていてもよく、Yは炭素原子数1〜14のアルキレン基を表し、該アルキレンは酸素原子、−CO−基で置換されていてもよく、r及びyは10〜300を表す)
であることが好ましく、
駆動電圧を重視するのであれば、Xは一般式(II−1−7)〜(II−1−9)
【0045】
【化7】
【0046】
(式中、Yは水素原子、又はメチル基を表し、s、及びtは2〜15の整数を表し、uは6〜40までの整数を表し、式(II−1−9)中の1つ以上のCH基は、酸素原子が相互に直接結合しないものとして、酸素原子、−CO−、−NH−、−COO−、−OCO−で置き換えられていてもよく、CH基中の1つ、又は2つの水素原子は、メチル基、エチル基で置き換えられていても良い)で表わされる化合物であることが好ましい。
単官能化合物としても、特に制限はないが、好ましくは一般式(II−2)
【0047】
【化8】
【0048】
(式中、Yは水素原子、又はメチル基を表し、Xは1価の有機基を表す)。該1価の有機基であるXは分子量120〜1000であることが好ましく、150〜500であることがより好ましく、さらに炭素原子、酸素原子、水素原子で構成される基であることが好ましく、ベンゼン環を含まないことが更により好ましい。さらに好ましいXとしては、分岐基を有していてもよい炭素原子数8〜30のアルキル基が好ましく(該アルキル基中の非隣接の1つ又は2つ以上の−CH−はそれぞれ独立して酸素原子、−COO−、又は−OCO−で置き換えられていてもよい)、分岐基を有していてもよい炭素原子数10〜25のアルキル基がより好ましく(該アルキル基中の非隣接の1つ又は2つ以上の−CH−はそれぞれ独立して酸素原子、−COO−、又は−OCO−で置き換えられていてもよい)、分岐基を有する炭素原子数16〜24のアルキル基であることが更により好ましい。
【0049】
前記調光層中に網目構造を形成している高分子物質を紫外線重合により形成する際、光重合開始剤を用いることが好ましい。光重合開始剤としては、特に制限はないが、好ましくはアルキルフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、オキシムエステル系等の分子内開裂型の開始剤が好ましく、具体的にはジフェニル−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシド、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)、ベンゾフェノン、メチルベンゾイルフォーメート、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン、2,4,6トリメチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2−エトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−(1−メチルエトキシ)−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−イソブトキシ−2−フェニルアセトフェノン。
【0050】
特にこの中でも、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンがより好ましい。
2枚の基板間には、周知の液晶デバイスと同様、間隔保持用のスペーサーを介在させることができる。基板間の厚み、すなわち調光層の厚みは、2〜50μmが好ましく、5〜40μmがより好ましい。特に、本発明は基板間の厚みが厚い場合により効果が現れるため、調光層の厚みは10〜30μmが更により好ましく、14〜25μmが最も好ましい。
【0051】
その他、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、非反応性のオリゴマーや無機充填剤、有機充填剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、シランカップリング剤等を適宜添加しても良い。
【0052】
次に、本発明の光散乱型液晶デバイスの作製方法について説明する。本発明の光散乱型液晶デバイスは、電極を有する2枚の基板であって、少なくとも一方が透明電極を有する透明基板である2枚の基板間に、調光層用組成物を狭持した後、熱、又は活性エネルギー線を照射することによって重合性モノマーを重合させ、液晶組成物との相分離を誘発させることにより、液晶組成物と網目状の高分子物質を必須の構成要素とする調光層が形成されることによって得ることができる。
【0053】
2枚の基板はガラス、プラスチックの如き柔軟性をもつ透明な材料を用いることができ、一方はシリコン等の不透明な材料でも良い。透明電極層を有する透明基板は、例えば、ガラス板等の透明基板上にインジウムチンオキシド(ITO)をスパッタリングすることにより得ることができる。また、低波長分散の透明性基板を用いることにより本発明のデバイスの光散乱能が高まり反射率やコントラストが向上してより好ましい。低波長分散の透明性基板としては、ホウケイ酸硝子や、ポリエチレンテレフタレートまたはポリカーボネート等のプラスチック透明フィルム、1/4λの光干渉条件を使用した誘電体多層膜をコートした透明性基板が挙げられる。
【0054】
また、該基板上には、必要に応じて、高分子膜や、配向膜、SiO2膜、SiNx膜、やカラーフィルターを配置することもできる。配向膜としては、例えば、ポリイミド配向膜、光配向膜等が使用できる。配向膜の形成方法としては、例えばポリイミド配向膜の場合、ポリイミド樹脂組成物を該透明基板上に塗布し、180℃以上の温度で熱硬化させ、更に綿布やレーヨン布でラビング処理することで得ることができる。また、ラビング処理を施していないポリイミド膜等の高分子膜も用いることもできる。
【0055】
カラーフィルターは、例えば、顔料分散法、印刷法、電着法、又は、染色法等によって作成することができる。顔料分散法によるカラーフィルターの作成方法を一例に説明すると、カラーフィルター用の硬化性着色組成物を、該透明基板上に塗布し、パターニング処理を施し、そして加熱又は光照射により硬化させる。この工程を、赤、緑、青の3色についてそれぞれ行うことで、カラーフィルター用の画素部を作成することができる。その他、該基板上に、TFT、薄膜ダイオード、金属絶縁体金属比抵抗素子等の能動素子を設けた画素電極を設置してもよい。
【0056】
さらに、該基板上には本発明の熱硬化した薄膜が形成される。熱重合温度は前述の通りであるが、これはLCD製造ラインのポリイミド焼成条件をそのまま適用することが可能である。
【0057】
前記基板を、熱硬化した薄膜が内側となるように対向させる。その際、スペーサーを介して、基板の間隔を調整してもよい。このときは、得られる調光層の厚さが1から100μmとなるように調整するのが好ましい。中でも2から50μmが好ましく、2から30μmがより好ましく、5から25μmが更に好ましく、10から20μmが最も好ましい。スペーサーとしては、例えば、ガラス粒子、プラスチック粒子、アルミナ粒子、フォトレジスト材料等が挙げられる。その後、エポキシ系熱硬化性組成物等のシール剤を、液晶注入口を設けた形で該基板にスクリーン印刷し、該基板同士を貼り合わせ、加熱しシール剤を熱硬化させる。
【0058】
2枚の基板間に調光層形成材料を狭持させるに方法は、通常の真空注入法でも良いが、ODF法等滴下又は塗布で行うことも好ましい。真空注入や、滴下又は塗布工程から調光層中に網目構造を形成させるために紫外線重合を行うまでの間、調光層形成材料は均一なアイソトロピック状態であることが好ましい。
紫外線重合のためのランプとしては、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ等を用いることができる。また、照射する紫外線の波長としては、調光層形成材料に含有されている光重合開始剤の吸収波長領域であり、且つ含有されている液晶組成物の吸収波長域でない波長領域の紫外線を照射することが好ましく、具体的には、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプを使用して330nm以下の紫外線をカットして使用することが好ましい。また、単一波長を照射できるUV−LEDランプを用いることも好ましい。
【0059】
また、紫外線照射の時の温度は、調光層の特性を決める重要な要素となるが、高分子分散型液晶組成物のアイソトロピック−ネマティック転移点よりわずかに高い温度が好ましく、具体的には転移点+0.1から3.0℃が好ましい。
この紫外線重合時に、図1の3のポリマー層に残存している反応性基と、調光層形成材料に含有される網目構造を形成する重合性化合物とが反応し、強固な密着性を得ることができる。
【0060】
また、紫外線照射の時の温度は、調光層の特性を決める重要な要素となるが、光散乱型液晶デバイス用組成物のアイソトロピック−ネマティック転移点よりわずかに高い温度が好ましく、具体的には転移点+0.1から10℃が好ましく、転移点+0.1℃から3℃がより好ましい。
【0061】
上述の手法、又はそれ以外の手法で作製された、光散乱型液晶デバイス内の調光層は、液晶組成物が前記高分子物質でカプセル状に閉じ込められた構造、液晶組成物の連続相中に透明性高分子物質の3次元ネットワーク構造が形成された構造、又は両者が混在した構造等を有しているが、液晶組成物の連続相中に透明性高分子物質の3次元ネットワーク構造が形成された構造であることが好ましく、紫外線照射によって、液晶組成物の連続相中に高分子物質の3次元ネットワーク構造が形成された構造がより好ましい。
【0062】
ネットワーク構造の平均空隙間隔は光散乱型液晶デバイスの特性に大きく影響し、平均空隙間隔としては、0.2から2μmが好ましく、0.2から1μmがより好ましく、0.3から0.7μmが最も好ましい。
【0063】
本発明の光散乱型液晶デバイスは低温における駆動電圧が小さいことを特徴とするが、セル厚5μmにおけるV90が、7.5V以下であることが好ましく、6.5V以下であることがより好ましい。
【0064】
また、本発明の光散乱型液晶デバイスの裏面側に光吸収層や、拡散反射板等を配置することもでき、反射率とコントラストの高い反射型光散乱型液晶デバイスが得られる。また、シアン・マゼンタ・イエロー等の光吸収波長の異なる光吸収層を各色別に分割した画素電極の位置に一致するように配置すると、カラー表示が可能である。鏡面反射、拡散反射、再帰性反射、ホログラム反射等の機能を付加することもできる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は「質量%」を意味する。
【0066】
(実施例1〜16、比較例1〜2)
ITO付ガラス基板に表1に示す各種アクリルモノマーの3質量%イソプロピルアルコール溶液を1000rpmの回転数で15秒間スピンコートした後、該基板を230℃で30分間加熱し、溶剤を除去すると共に、アクリルモノマーを熱硬化した。硬化した膜の厚みを触針式プロファイリングシステムDektak(ブルカー社製)で測定したところ50〜200nmであった。該薄膜形成基板上に表2に示す調光層中に網目構造を形成している高分子物質形成材料であるアクリルモノマー組成物を2000rpmの回転数で20sec間スピンコートした後、窒素パージ中で超高圧水銀ランプを用いて50mW/cm2の紫外線を30秒間照射して、該薄膜形成基板上に高分子膜層を形成した。この高分子膜層に対して碁盤目試験(JIS K5400)を行った結果を、表3に示す。なお、碁盤目試験は100マス中に残ったマス数を記載した。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
(比較例3〜4)
1質量%のシランカップリング剤KBM−503(信越化学工業社製)、5質量%のフタル酸塩PH4.01標準液、94質量%のイソプロピルアルコールを混合し、15分間攪拌した溶液を、ITO基板上に1000rpmの回転数で15秒間スピンコートした後、該基板を110℃で10分間加熱乾燥しシランカップリング剤塗布基板を得た。該シランカップリング剤塗布基板上に実施例1〜16と同様にしてアクリルモノマー組成物を塗布・紫外線硬化をして、シランカップリング剤塗布基板上高分子膜層を形成した。この高分子膜層に対して碁盤目試験(JIS K5400)を行った結果を、表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
実施例1〜16と比較例を比較すると、熱重合ポリマー膜を形成したものの方が密着性は向上していることがわかる。
(実施例20〜35、比較例10〜11)
ITO付ガラス基板に表1に示す各種アクリルモノマーの3質量%イソプロピルアルコール溶液を1000rpmの回転数で15秒間スピンコートした後、該基板を230℃で30分間加熱し、溶剤を除去すると共に、アクリルモノマーを熱硬化した。硬化した膜の厚みを触針式プロファイリングシステムDektak(ブルカー社製)で測定したところ50〜200nmであった。該硬化膜が形成された基板上に武蔵エンジニアリング(株)製のシールデイスペンサーを用いて10μmのスペーサーを混合した三井化学(株)製ストラクトボンドXN−21−Sを該硬化膜が形成された面側に塗布した。塗布後90℃で30分シール剤を乾燥し、基板を張り合わせた。基板を張り合わせ後、150℃で90分間の加熱を行い、ガラスセルを作成した。
液晶組成物として(LA)を75質量%、アクリルモノマー組成物(MA)を25質量%含有する調光性形成材料を該ガラスセル内に真空注入し、調光層形成材料の転移点+1〜5℃の温度域で40mW/cm2の紫外線を60秒間照射して調光層として活用できる光散乱型液晶デバイスを得た。同様の方法で表5に示す光散乱型液晶デバイスを得た。
該光散乱型液晶デバイスをLCD評価装置(LCD−5200:大塚電子社製)にて、電圧−透過率特性を測定した。評価特性の定義は以下の通りである。
T0:電圧無印加時のデバイスの光透過率とする。
T100:印加電圧の増大に伴って光透過率が変化しなくなったときの光透過率とする。
V90:電圧無印加時のデバイスの光透過率(T0)を0%とし、 印加電圧の増大に伴って光透過率が変化しなくなったときの透過率(T100) を100%とする時、光透過率90%と成る印加電圧(V)をV90とする。
さらに、該光散乱型液晶デバイス−20℃〜60℃の熱サイクル試験に10サイクル投入し、試験後のパネル内のクラックの有無を観察した。クラックの発生の有無は10サンプル中に発生したサンプル数で示す。結果を表5に示す。
【0073】
【化9】
【0074】
【表5】
【0075】
(比較例12〜13)
1%のシランカップリング剤KBM−503(信越化学工業社製)、5%のフタル酸塩PH4.01標準液、94%のイソプロピルアルコールを混合し、15分間攪拌した溶液を、ITO基板上に1000rpmの回転数で15秒間スピンコートした後、該基板を110℃で10分間加熱乾燥した。該シランカップリング剤が塗布された基板をもちいて、実施例20〜35の同様の工程でガラスセルを作製した後、光散乱型液晶デバイスを得た。得られた光散乱型液晶デバイスの電圧−透過率特性を測定した後、−20℃〜60℃の熱サイクル試験に10サイクル投入し、試験後のパネル内のクラックの有無を観察した。結果を表6に示す。
【0076】
【表6】
【0077】
実施例20〜35と比較例10〜13の比較より、当該発明の光散乱型液晶デバイスの方が熱サイクル試験によるクラック発生が少ないことがわかる。
(実施例40〜42)
ITO付ガラス基板に表1に示す各種アクリルモノマーから1種類と重合開始剤としてイルガキュア907(Basf社製)を質量比97対3の割合で混合し、得られた混合物の3質量%イソプロピルアルコール溶液を1000rpmの回転数で15秒間スピンコートした後、該基板を100℃で5分間加熱し、溶剤を除去した。これを窒素置換中でUVAの光強度が40mW/cmの紫外線を15sec間照射し薄膜を硬化した。得られた膜の厚みを触針式プロファイリングシステムDektak(ブルカー社製)で測定したところ50〜200nmであった。該硬化膜が形成された基板上に武蔵エンジニアリング(株)製のシールデイスペンサーを用いて10μmのスペーサーを混合した三井化学(株)製ストラクトボンドXN−21−Sを該硬化膜が形成された面側に塗布した。塗布後90℃で30分シール剤を乾燥し、基板を張り合わせた。基板を張り合わせ後、150℃で90分間の加熱を行い、ガラスセルを作成した。
液晶組成物として(LA)を75質量%、アクリルモノマー組成物(MA)を25質量%含有する調光性形成材料を該ガラスセル内に真空注入し、調光層形成材料の転移点+1〜5℃の温度域で40mW/cm2の紫外線を60秒間照射して調光層として活用できる光散乱型液晶デバイスを得た。同様の方法で表7に示す光散乱型液晶デバイスを得た。
【0078】
【表7】
【符号の説明】
【0079】
1・・基板
2・・電極層
3・・薄膜層(ポリマー層)
4・・調光層
【要約】
本発明は、光シャッターなどの調光ガラス、時計等セグメント表示用途に適する光散乱型液晶デバイスに関する。本発明の光散乱型液晶デバイスは、少なくとも一方に電極層2を有する、少なくとも一方が透明な2枚の基板1と、これらの基板間に支持された調光層4とを有し、前記調光層4が、液晶材料及び高分子物質を含有する光散乱型液晶デバイスであって、該基板上と調光層の間に反応性基を有する熱硬化性化合物を熱硬化することにより形成された薄膜層3を有することを特徴とする、光散乱型液晶デバイスである。本発明により、密着性が飛躍的に改善された光散乱型液晶デバイスを提供できる。
図1