(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6701933
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】フロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強部材及び補強方法
(51)【国際特許分類】
F16L 47/02 20060101AFI20200518BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
F16L47/02
B29C65/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-93452(P2016-93452)
(22)【出願日】2016年5月6日
(65)【公開番号】特開2017-201202(P2017-201202A)
(43)【公開日】2017年11月9日
【審査請求日】2019年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】村田 秀行
【審査官】
柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−266544(JP,A)
【文献】
米国特許第02307148(US,A)
【文献】
特開2002−156087(JP,A)
【文献】
特開平05−071688(JP,A)
【文献】
特開平04−064794(JP,A)
【文献】
特表2002−531790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 47/02
B29C 65/02
F16L 55/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体流通用のフロロカーボン系樹脂製の配管と、前記配管と同径部を有するフロロカーボン系樹脂製の管状部材とを、それらの各端部を溶融状態で当接させて接合した接合部の補強部材であって、
該補強部材が、前記接合部の外周部を被覆可能な、前記配管の外径と同じ内径を有する一対のフロロカーボン系樹脂製の半円弧状カバー部材からなり、
前記カバー部材の内周面の幅方向中央部に前記接合部を収容可能な溝部が形成されており、
前記カバー部材に排液孔が形成されている、フロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強部材。
【請求項2】
前記排液孔がネジ溝を有する、請求項1に記載のフロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強部材。
【請求項3】
液体流通用のフロロカーボン系樹脂製の配管と前記配管と同径部を有するフロロカーボン系樹脂製の管状部材とを、それらの各端部を溶融状態で当接させて溶着することにより接合し、
この接合部を、前記配管の外径と同じ内径を有し内周面の幅方向中央部に前記溶着による接合部を収容する溝部が形成されている一対のフロロカーボン系樹脂製の半円弧状カバー部材からなる補強部材により被覆し、
該一対のカバー部材と、前記フロロカーボン系樹脂製の配管との接触端部、及びフロロカーボン系樹脂製の管状部材との接触端部を溶接し、
前記カバー部材に排液孔が形成されている、フロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強方法。
【請求項4】
前記排液孔がネジ溝を有し、該カバー部材の溶接時に前記排液孔から、前記接合部より漏洩する液体を排出可能となっているとともに、該カバー部材の溶接後には該排液孔に止液部材を螺合する、請求項3に記載のフロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純水、超純水などの送水配管に用いられるPVDFなどのフロロカーボン系樹脂製配管と他の管状部材との接合部の補強部材及び補強方法に関し、特にフロロカーボン系樹脂製配管と他の管状部材とを溶着により接合した接合部を簡単に補強可能な補強部材及びこれを用いた補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体や液晶ディスプレイ製造分野において製品の微細化、高機能化、高性能化が進むにつれ、これらの洗浄等に用いる超純水の水質などは極めて高清浄なものが要求されるようになってきており、例えば、水中に存在が許される有機物(TOC:全有機炭素)の不純物の総量はppbのオーダーとなってきている。このため水中のTOC量を減らす試みとして、超純水を送給する管材も汎用の塩ビ(PVC:ポリ塩化ビニル)配管よりもTOCの溶出が少ないフロロカーボン系樹脂系のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)製の配管などが用いられるようになってきている。
【0003】
このような純水の供給装置において、例えばセントラル給水方式などの大規模給水装置では、純水製造装置で純水を製造し、これを各ユースポイントまで送給しているが、純水製造装置とユースポイントとはある程度離間しているので、当然に単一の配管では長さが足りない。このため所望の長さとなるように二本以上の配管を直列に接合した接合配管とせざるをえない。塩ビ管などの従来の樹脂製配管を接合する場合は接着剤などを用いていたが、有機物の溶出が少ないPVDFなどのフロロカーボン系樹脂製配管材は、接着剤による接着強度が十分に高くない、という問題点がある。そこで、フロロカーボン系樹脂製配管は熱溶着により接合している。熱溶着とは、接合する部分を接合部材の融点付近まで加温し、部材を溶融して接合する方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フロロカーボン系樹脂製配管を溶着により接合した場合には、接合にムラが生じやすく、このため接合部で水漏れが生じやすいという問題点があった。
【0005】
そこで、配管の端部を加工して接合部に継手部材を取り付けることが考えられるが、継手部材は配管の両端にネジ山を形成して一方の配管に金属製の継手部材を装着するとともに他方の配管等を継手部材にねじ込むのが一般的であり、熱溶着により接合した後に配管に取り付けるものではない。このため配管同士を溶着することなく継手のみで接続することになるので、継手部材から水漏れを生じやすい、という問題点がある。また、長期的には金属製の継手部材に起因する微量の金属イオンの影響も懸念される。さらに、すべての配管を複雑な構造の継手で接続することは、装置コストの上昇をきたすため、望ましくない。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、液体流通用のフロロカーボン系樹脂製配管と他の管状部材とを溶着により接合した接合部を簡単に補強可能な補強部材及びこれを用いた補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に鑑み、第一に本発明は液体流通用のフロロカーボン系樹脂製の配管と、前記配管と同径部を有するフロロカーボン系樹脂製の管状部材とを、それらの各端部を溶融状態で当接させて接合した接合部の補強部材であって、該補強部材が、前記接合部の外周部を被覆可能な、前記配管の外径と同じ内径を有する一対のフロロカーボン系樹脂製の半円弧状カバー部材からなる、フロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強部材を提供する(発明1)。
【0008】
上記発明(発明1)によれば、まず溶着により接合したフロロカーボン系樹脂製の配管とフロロカーボン系樹脂製の管状部材との環状の接合部を一対のフロロカーボン系樹脂製の半円弧状カバー部材で被覆し、この一対のカバー部材と配管との接触端部及び管状部材との接触端部を溶接することにより、環状の接合部を一対のカバー部材からなる補強部材により密封することで接合部からの液漏れを防止することができる。
【0009】
上記発明(発明1)においては、前記カバー部材の内周面の幅方向中央部に前記接合部を収容可能な溝部が形成されていることが好ましい(発明2)。
【0010】
上記発明(発明2)によれば、前記溝部に接合部が収容されるように環状の接合部に沿って一対のフロロカーボン系樹脂製のカバー部材で被覆することにより、カバー部材を配管又は管状部材と空隙がなく密着させることができるので、接合部からの水漏れを好適に防止することができる。
【0011】
上記発明(発明2)においては、前記カバー部材に排液孔が形成されていることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明3)によれば、液体流通用のフロロカーボン系樹脂製の配管に通液し接合部から液漏れが生じている状態において、該接合部を一対のカバー部材で被覆すると、漏洩液が溝部を伝わり排液孔から排出され、カバー部材の外面が濡れることがないので、通液しながら一対のカバー部材を溶接することができる。
【0013】
上記発明(発明3)においては、前記排液孔がネジ溝を有するのが好ましい(発明4)。
【0014】
上記発明(発明4)によれば、液体流通用のフロロカーボン系樹脂製の配管に通液し接合部から液漏れが生じている状態において、該接合部に一対のカバー部材の溶接を完了したら、排液孔のネジ溝にネジ山を備えた止液部材を螺合することにより排液孔からの漏洩液の排出を停止することができる。
【0015】
第二に本発明は液体流通用のフロロカーボン系樹脂製の配管と前記配管と同径部を有するフロロカーボン系樹脂製の管状部材とを、それらの各端部を溶融状態で当接させて溶着することにより接合し、この接合部を、前記配管の外径と同じ内径を有し内周面の幅方向中央部に前記溶着による接合部を収容する溝部が形成されている一対のフロロカーボン系樹脂製の半円弧状カバー部材からなる補強部材により被覆し、該一対のカバー部材と、前記フロロカーボン系樹脂製の配管との接触端部、及びフロロカーボン系樹脂製の管状部材との接触端部を溶接する、フロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強方法を提供する(発明5)。
【0016】
上記発明(発明5)によれば、溶着により接合したフロロカーボン系樹脂製の配管とフロロカーボン系樹脂製の管状部材との環状の接合部を一対の半円弧状カバー部材からなる補強部材で被覆し、この一対のカバー部材と配管及び管状部材との接触端部を溶接するだけで、簡易に補強部材を取り付けることができ、かつ接合部からの液漏れを防止することができる。
【0017】
上記発明(発明5)においては、前記カバー部材にネジ溝を有する排液孔が形成されており、該カバー部材の溶接時に前記排液孔から、前記接合部より漏洩する液体を排出可能となっているとともに、該カバー部材の溶接後には該排液孔に止液部材を螺合するのが好ましい(発明6)。
【0018】
かかる発明(発明6)によれば、フロロカーボン系樹脂製の配管に通水しながら一対のカバー部材を接合部と溶接し、かつ溶着後は止液部材を螺合することで簡単に排液孔からの漏洩液の排出を停止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強部材によれば、溶着により接合したフロロカーボン系樹脂製の配管とフロロカーボン系樹脂製の管状部材との環状の接合部に沿って一対のフロロカーボン系樹脂製の半円弧状カバー部材からなる補強部材を当接させ、配管及び管状部材との接触端部を溶接するだけで、接合部からの液漏れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態によるフロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強部材を示す正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるフロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強方法の初期状態を示す概略図である。
【
図5】補強部材の取り付け状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のフロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強部材の一実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
本実施形態において、補強対象となる液体流通用のフロロカーボン系樹脂製の配管は、配管からの有機物の溶出を忌避したい超純水の送給用の配管である。このフロロカーボン系樹脂としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシビニルエーテル(PPFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ビニルフルオライド(PVF)などを用いることができる。これらのうち、純水や超純水の送給用としてはPVDFが一般的である。
【0023】
また、接続される上記配管と同径部を有する管状部材とは、例えば、同径の配管や同径の管状部を有するフランジ部材などである。この管状部材は配管と熱溶着することから、前述したフロロカーボン系樹脂製配管と同じ材質のものを用いる。
【0024】
図1〜
図3は本発明の一実施形態によるフロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強部材を示しており、この補強部材は同一形状の一対のフロロカーボン系樹脂製の半円弧状のカバー部材1A及び1Bを組み合わせてなる。そして、カバー部材1A及び1Bを組み合わせて形成される円の内径(D)は、補強対象となる配管の外径と同じくなるように設定されている。このカバー部材1A及び1Bの幅方向中央部には
図2に示すように溝部2が内周面に沿って形成されている。また、
図3に示すようにカバー部材1A,1Bの円弧の頂部には、厚さ方向に貫通して排液孔としての排水孔3が形成されており、この排水孔3には外側から内側に向けてネジ溝3Aが形成されている。
【0025】
このカバー部材1A及び1Bを構成するフロロカーボン系樹脂としては、前述したフロロカーボン系樹脂製配管と同じもの用いることができる。ただし、カバー部材1A及び1Bは、フロロカーボン系樹脂製配管と同じ素材を用いる。例えば、超純水送給用のフロロカーボン系樹脂製の配管がPVDFの場合にはカバー部材1A及び1BもPVDF製とすればよい。
【0026】
次に上述したような構成を有するカバー部材1A及び1Bからなる補強部材を用いた本実施形態のフロロカーボン系樹脂製配管の接合部の補強方法について
図4〜
図6に基づいて説明する。
【0027】
まず、
図4に示すようにフロロカーボン系樹脂製の配管11Aとこの配管11Aと同径の管状部を有するフロロカーボン系樹脂製の管状部材としてのフランジ部材11Bとを、それらの各端部を溶融状態で当接させて溶着する。このとき配管11Aとフランジ部材11Bとの接合部には溶着ビード(溶融した樹脂による盛り上がり部)12ができる。
【0028】
この状態で配管11Aに通水を開始すると、溶着ムラにより溶着ビード12から水漏れが生じる場合がある。そこで、
図5に示すようにカバー部材1Aを上側からカバー部材1Bを下側から、それぞれ溶着ビード12を被覆するように装着する。このとき溶着ビード12がカバー部材1A,1Bの内周面の幅方向中央部に形成した溝部2に収容されるように被覆することでカバー部材1A,1Bと配管11A及びフランジ部材11Bとの間の空隙がなくなるので、溶着ビード12から水が漏洩したとしても溝部2を通って排水孔3から排出されることにより、カバー部材1A,1Bの外面が濡れるのが防止される。
【0029】
このようにして溶着ビード12をカバー部材1A,1Bで被覆したら、
図6に示すようにカバー部材1A,1Bと配管11Aとの接触端部及びフランジ部材11Bとの接触端部に溶融したフロロカーボン系樹脂を吹き付けて溶接部13A,13Bを形成するとともに、カバー部材1A,1Bの当接部を溶接して溶接部13Cを形成することでカバー部材1A,1Bを固定する。このとき前述したように溶着ビード12からの水漏れによりカバー部材1A,1Bの外面が濡れるのが防止されているので、通水中に水漏れが生じている状態であってもフロロカーボン系樹脂による溶接が可能となっている。
【0030】
そして、カバー部材1A,1Bを取り付けたら止液部材たる止水プラグ14をネジ溝3Aに螺合して排水孔3を閉鎖することにより溶着ビード12からの水漏れを防止することができる。このように本実施形態においては、カバー部材1A,1Bの内周面の幅方向中央部に溝部2を形成するとともに排水孔3を形成しているので、接合された配管11A及びフランジ部材11Bに通水し、溶着ビード12から漏水が生じている状態であってもカバー部材1A,1Bを溶接により取り付けることができる。さらに配管11A、フランジ部材11B、カバー部材1A,1B及び溶接材料を全てフロロカーボン系樹脂としているので、配管11A及びフランジ部材11Bに超純水などを通水してもその水質が悪化することがない。
【0031】
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変形実施が可能である。例えば、上記実施形態においては、配管11A及びフランジ部材11Bを接合した場合を例示したが、配管11A同士の接合部にも同様に適用可能である。また、超純水の送給用の配管に限らず他の液体の供給配管にも適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1A,1B カバー部材(補強部材)
2 溝部
3 排液孔(排水孔)
3A ネジ溝
11A フロロカーボン系樹脂製の配管
11B フランジ部材(フロロカーボン系樹脂製の管状部材)
12 溶着ビード(接合部)
13A,13B 溶接部(接触端部)
13C 溶接部(カバー部材1A,1Bの当接部)
14 止水プラグ(止液部材)