特許第6702039号(P6702039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6702039薄膜の製造方法、薄膜形成材料、光学薄膜、及び光学部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702039
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】薄膜の製造方法、薄膜形成材料、光学薄膜、及び光学部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/58 20060101AFI20200518BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20200518BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   C23C14/58 Z
   C23C14/08 K
   C23C14/24 E
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-133564(P2016-133564)
(22)【出願日】2016年7月5日
(65)【公開番号】特開2018-3118(P2018-3118A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100125793
【弁理士】
【氏名又は名称】川田 秀美
(72)【発明者】
【氏名】田中 元太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐文
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−089656(JP,A)
【文献】 特開平03−187955(JP,A)
【文献】 特開2004−182491(JP,A)
【文献】 特開2004−345223(JP,A)
【文献】 特開2014−035415(JP,A)
【文献】 特開2005−352303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜形成材料を物理蒸着法により被成膜物に堆積させて、蒸着膜を形成する工程と、
前記蒸着膜と、酸性物質とを接触させて、空隙を有する薄膜を得る工程とを含み、
前記薄膜形成材料として、酸化インジウムと、酸化ケイ素とを含み、酸化インジウムが酸化ケイ素1モルに対して0.05モル以上0.25モル以下である混合物を用い
前記蒸着膜は、酸化インジウム(I)(InO)と、酸化インジウム(III)(In)と、二酸化ケイ素(IV)(SiO)とを含み、
前記蒸着膜と、前記酸性物質とを接触させることで、前記蒸着膜を構成する酸化物のうち、少なくとも酸化インジウム(I)(InO)を溶出させて前記空隙を形成することを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記薄膜形成材料に含まれる前記酸化ケイ素が主成分として一酸化ケイ素を含む、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜形成材料に含まれる前記酸化インジウムが、酸化インジウム(III)(In)である、請求項1又は2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記薄膜の屈折率が1.38以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記薄膜の空隙率が8%以上70%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項6】
酸化インジウムと、酸化ケイ素とを含み、屈折率が1.38以下である光学薄膜と、被成膜物とを有し、
前記光学薄膜は、前記被成膜物の表面から前記光学薄膜の表面に続く多数の柱状構造を有し、前記柱状構造の柱と柱との間に空隙を有する、光学部材
【請求項7】
前記光学薄膜の空隙率、8%以上70%以下である、請求項6に記載の光学部材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の製造方法、薄膜形成材料、光学薄膜、及び光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
光学薄膜は、光の干渉現象を応用することで、古くから様々な光学機器に利用されている。潜水艦の潜望鏡、顕微鏡、双眼鏡などの光学機器の増透膜として利用が始まり、近年においては、天体望遠鏡、眼鏡レンズ、カメラレンズなどのへの光学薄膜の利用が進んでいる。このような光学機器に利用される光学薄膜は、特定の波長の光の反射を防止する反射防止膜、特定の波長のみを透過させるバンドパスフィルター、入射した光の一部を反射し一部を透過させるビームスプリッターなどの光学ピックアップ部品のような光を利用する機器にも使用されている。最近では、車載用の近赤外フィルターや近紫外フィルターなどの光学フィルターにも光学薄膜が利用されており、最新のエレクトロニクス分野においても不可欠の材料として、広範囲の分野で光学薄膜が使用されている。
【0003】
光学薄膜の反射防止効果を高めるためには、被成膜物の屈折率の平方根の数値と近い数値となる屈折率を有する光学薄膜を、被成膜物の最表面に形成することが効果的である。このような光学薄膜を形成するためには、薄膜内に屈折率1.0の空気を含有することが有用であり、ゾルゲル法を含む様々な方法で空気を含有させた光学薄膜が提案されている。
例えば、特許文献1には、ガラス基板側から順に、真空蒸着法にて成膜したシリカを主成分とする第1層と、真空蒸着法にて成膜した無機系酸化膜の第2層と、この第2層上に中空のシリカ微粒子とバインダを含有する溶液を塗布して焼成した第3層とを有する反射防止膜を備えた光学素子が記載されている。
また、特許文献2には、基材上に、無機材料からなる無機下地層と、SiO等の無機酸化物を含む表面改質層と、表面改質層上に積層されたアクリル樹脂等のバインダを含む密着層と、中空シリカ粒子がバインダにより結着された低屈折率層とを備えた反射防止膜が記載されている。
特許文献3には、フッ化マグネシウム(MgF)微粒子が分散したゾル液と、非晶質酸化ケイ素系バインダ溶液とを混合した混合液を、基材に塗布して熱処理し、基材とMgF微粒子間が非晶質酸化ケイ素系バインダにより結着されるとともに、MgF微粒子間に多数の空隙が形成された光学薄膜の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−018095号公報
【特許文献2】特開2015−222450号公報
【特許文献3】国際公開第2006/030848号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1〜3に記載されているように、微粒子とバインダとを含むゾルを結着させたゾルゲル法により最表層となる光学薄膜を形成した場合、ゾルゲル法による薄膜の形成は大気中で行なわれるため、最表層よりも下層を真空中で形成した場合に、ゾルゲル法を行なうために大気開放されると異物が吸着しやすく、異物の除去を行なうことが必要となる問題がある。また、特許文献1〜3に記載されているようにゾルゲル法により最表層となる光学薄膜を形成した場合、膜厚を精密に制御するためにはゾルの粘度の経時変化を厳密に管理することが必要であり、常時ゾルの粘度をモニターしながら薄膜を形成しなければならず、製造が煩雑となる場合がある。さらにゾルゲル法により最表層となる光学薄膜を形成する場合、ディップコーティング法によりゾルを被成膜物に塗布する場合は過剰量のゾルが必要となり、スピンコーティング法によりゾルを被成膜物に塗布する場合は曲面へ均一な膜厚で塗布し難いという問題もある。さらにゾルゲル法により光学薄膜を形成する場合、ゾルを塗布した後に熱処理する必要があり、耐熱性が低い材料、例えば耐熱性が低いプラスチック等から形成された被成膜物には光学薄膜を形成し難いという問題がある。
そこで、本発明の一実施形態は、煩雑な工程を経ることなく薄膜を形成することができ、耐久性に優れた低屈折率の光学薄膜の製造方法、薄膜形成材料、光学薄膜及び光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りであり、本発明は、以下の形態を包含する。
本発明の第一の実施形態は、薄膜形成材料を物理蒸着法により被成膜物に堆積させて、蒸着膜を形成する工程と、前記蒸着膜と、酸性物質とを接触させて、空隙を有する薄膜を得る工程とを含み、前記薄膜形成材料として、酸化インジウムと、酸化ケイ素とを含み、酸化インジウムが酸化ケイ素1モルに対して0.05モル以上0.25モル以下である混合物を用いることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0007】
本発明の第二の実施形態は、酸化インジウムと、酸化ケイ素とを含み、酸化インジウムが酸化ケイ素1モルに対して0.05モル以上0.25モル以下である混合物であることを特徴とする薄膜形成材料である。
【0008】
本発明の第三の実施形態は、酸化インジウムと、酸化ケイ素とを含み、屈折率が1.38以下であることを特徴とする光学薄膜である。
【0009】
本発明の第四の実施形態は、前記光学薄膜と、被成膜物とを有する光学部材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、耐久性に優れた低屈折率の光学薄膜の製造方法、薄膜形成材料、光学薄膜及び光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施例2の光学薄膜の表面のSEM写真である。
図2図2は、本発明の実施例2の光学薄膜の断面のSEM写真である。
図3図3は、実施例の空隙を有する薄膜の屈折率を1.38以下とするための酸性物質との接触時間と、薄膜形成材料のIn/SiOモル比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る光学薄膜の製造方法、薄膜形成材料、光学薄膜及び光学部材の一実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の一形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下の薄膜の製造方法、薄膜形成材料、光学薄膜及び光学部材に限定されない。なお、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
〔薄膜の製造方法〕
本発明の一実施形態は、薄膜形成材料を物理蒸着法により被成膜物に堆積させて、蒸着膜を形成する工程と、前記蒸着膜と、酸性物質とを接触させ、空隙を有する薄膜を得る工程とを含み、前記薄膜形成材料として、酸化インジウムと、酸化ケイ素とを含み、酸化インジウムが酸化ケイ素1モルに対して0.05モル以上0.25モル以下である混合物を用いる、薄膜の製造方法である。
【0014】
(薄膜形成材料)
本発明の一実施形態の製造方法に用いる薄膜形成材料は、酸化インジウムと酸化ケイ素とを含み、酸化インジウムが酸化ケイ素1モルに対して0.05モル以上0.25モル以下である混合物を用いる。
薄膜形成材料として、酸化インジウムと酸化ケイ素を含み、酸化インジウムが酸化ケイ素1モルに対して0.05モル以上0.25モル以下である混合物を用いることによって、物理蒸着法により、酸化インジウム(I)(InO)と酸化インジウム(III)(In)と二酸化ケイ素(IV)(SiO)とから構成された蒸着膜を形成することができる。酸化インジウム(I)は、酸性物質に対する溶解性が高いため、蒸着膜を酸性物質と接触させることによって、蒸着膜中に含まれる酸化インジウム(InO)を短時間で取り除くことができ、所望の屈折率を満たす空隙を有する薄膜を形成することができる。
薄膜形成材料として、混合物中の酸化ケイ素1モルに対する酸化インジウムのモル比が0.05未満であると、薄膜形成材料中の酸化インジウムが少なく、蒸着膜を形成した後に酸性物質に接触させても所望の屈折率を満たす空隙を有する薄膜を形成することが困難となる。
薄膜形成材料である混合物中の酸化ケイ素1モルに対する酸化インジウムのモル比が0.25を超えると、酸化インジウムの量が多すぎて、酸性物質と接触させた場合に空隙が多くなりすぎて薄膜が剥がれやすくなる場合があり、好ましくない。
薄膜形成材料として用いる混合物は、酸化インジウムが酸化ケイ素1モルに対してより好ましくは0.06以上0.25以下であり、さらに好ましくは0.08以上0.23以下であり、よりさらに好ましくは0.10以上0.22以下である。
【0015】
膜形成材料の原料に用いる酸化インジウムは、酸化インジウム(III)(In)であることが好ましい。
薄膜形成材料の原料に用いる酸化ケイ素は、主成分として一酸化ケイ素(SiO)を含むことが好ましい。ここで、酸化ケイ素中に「主成分として一酸化ケイ素を含む」とは、薄膜形成材料の原料に用いる酸化ケイ素100質量%中に一酸化ケイ素を少なくとも50質量%以上含むことをいう。薄膜形成材料の原料として用いられる酸化ケイ素(100質量%)中の一酸化ケイ素(SiO)の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは99質量%以上、最も好ましくは実質的に100質量%である。薄膜形成材料の原料として用いられる「酸化ケイ素中の一酸化ケイ素の含有量が実質的に100質量%」とは、酸化ケイ素中の一酸化ケイ素以外の物質の含有量が0.1質量%以下であることを意味する。
本発明の一実施形態の製造方法における物理的蒸着法は、電子ビーム蒸着法に限定される訳ではないが、例えば、電子ビーム蒸着法による場合、一酸化ケイ素(SiO)は、比較的低い温度で昇華するため、蒸着時に二酸化ケイ素(SiO)のように溶融することなく気体となり得るので、被成膜物に付着する固形異物(スプラッシュ)の量を低減することができる。また、一酸化ケイ素(SiO)は、同じ昇華性材料である酸化インジウム(III)(In)とともに昇華させることができるので、それらを同時に含む蒸着膜を形成することができる。
薄膜形成材料の原料に用いる酸化ケイ素には、固形異物を増大しない範囲で二酸化ケイ素(SiO)を含んでいてもよい。薄膜形成材料の原料に用いる酸化ケイ素中の二酸化ケイ素の含有量は、30質量%未満であることが好ましく、より好ましくは20質量%未満、更に好ましくは10質量%未満、特に好ましくは1質量%未満、最も好ましくは0.1質量%未満である。
【0016】
薄膜形成材料は、酸化インジウム(III)(In)と、酸化ケイ素(SiO、SiO)とを、酸化インジウムが酸化ケイ素1モルに対して0.05モル以上0.25モル以下となるように混合して原料混合物とし、この原料混合物をプレス成形して成形物とした後、焼成して、焼結した混合物(焼結体)を薄膜形成材料として用いることが好ましい。薄膜形成材料として焼結した混合物(焼結体)を用いることにより、物理蒸着法によって、薄膜形成材料が略均一に気化し、酸化インジウム(III)(In)と、その酸化インジウム(III)(In)の熱分解により生じた酸化インジウム(I)(InO)と、二酸化ケイ素(SiO)が略均一に混合した蒸着膜を被成膜物の表面に略均等に堆積させることができる。
原料混合物をプレス成形した成形物は、不活性ガス雰囲気中で焼成することが好ましい。不活性ガス雰囲気とは、アルゴン、ヘリウム、窒素等を雰囲気中の主成分とする雰囲気を意味する。不活性ガス雰囲気は、必然的に不純物として酸素を含むことがあるが、本明細書において、雰囲気中に含まれる酸素の濃度が15体積%以下であれば不活性ガス雰囲気とする。不活性ガス雰囲気中の酸素の濃度は、好ましくは10体積%以下、より好ましくは5体積%以下、更に好ましくは1体積%以下である。原料混合物をプレス成形した固形物は、不活性ガス雰囲気中で焼成することにより、薄膜形成材料中に不純物を可能な限り含まないようにすることができる。
【0017】
原料混合物を焼成して焼結体とする温度は、好ましくは500℃以上900℃以下であり、より好ましくは600℃以上880℃以下であり、さらに好ましくは700℃以上850℃以下である。原料混合物を焼成する温度が上限値以下であると、酸化インジウムが熱還元により金属インジウムとなることがない。この金属インジウムは上限値を超えた温度では液体であり、その表面張力により凝集してしまう。上限値以下とすることにより、このような凝集を避けることができるので、混合物に含まれる材料の均一性が損なわれる虞がない。さらに、このように均一性が損なわれなければ、物理蒸着法によって薄膜形成材料を気化させる際にも、気化された材料の均一性が損なわれず、酸化インジウム(I)(InO)と酸化インジウム(III)(In)と二酸化ケイ素(SiO)が略均一に混合した蒸着膜を被成膜物の表面に堆積させることができる。
【0018】
(蒸着膜を形成する工程)
本発明の一実施形態の製造方法は、薄膜形成材料を物理蒸着法により被成膜物に堆積させて蒸着膜を形成する。
物理蒸着法としては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビーム蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等が挙げられる。中でも、物理蒸着法は、抵抗加熱蒸着法又は電子ビーム蒸着法、を用いることが好ましく、電子ビーム蒸着法を用いることがより好ましい。抵抗加熱蒸着法又は電子ビーム蒸着法は、大面積又は曲率半径の小さい曲面にも均一に蒸着膜を形成することができる。さらに電子ビーム蒸着法は、薄膜形成材料に電子ビームを直接照射して加熱するため熱効率がよく、高融点で熱伝導低い酸化物等の薄膜形成材料であっても効率良く気化させて、比較的短い時間で被成膜物に、薄膜形成材料の組成に基づく安定した組成を有する蒸着膜を形成することができる。
イオンアシストのためイオン源を備えたイオンアシストビーム蒸着法を用いてもよい。
【0019】
蒸着膜形成時の雰囲気圧力は、使用する物理蒸着法の種類によって異なる。物理蒸着法として、電子ビーム蒸着法を使用する場合には、被成膜物に蒸着膜を形成する際の雰囲気圧力は、1.0×10−4Pa以上5.0×10−2Pa以下であることが好ましい。被成膜物に蒸着膜を形成する際の雰囲気圧力は、例えば、蒸着装置内に酸素を導入することによって制御することができる。
また、蒸着膜形成時の被成膜物の温度は、好ましくは50℃以上150℃以下であり、より好ましくは80℃以上120℃以下である。蒸着膜形成時の被成膜物の温度が上記範囲内であれば、耐熱性の低いプラスチック等の材料から形成された被成膜物に悪影響を及ぼしにくい。
【0020】
本発明の一実施形態の製造方法において、被成膜物は、ガラスや光学ガラスから形成されたものであってもよく、プラスチックから形成されたものであってもよい。プラスチックとしては、ポリエステル系、アクリル系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリオレフィン系の樹脂が挙げられる。被成膜物の形態は、例えば平板状又は曲面を有するレンズ状の基板であってもよく、柔軟性を有するシートであってもよい。本発明の一実施形態の製造方法は、比較的低温でも蒸着膜の形成が可能であるので、耐熱性の低い材料から形成された被成膜物に対しても屈折率が低い光学薄膜を形成することができる。
【0021】
(酸性物質と接触させる工程)
本発明の一実施形態の製造方法は、前記蒸着膜と、酸性物質とを接触させ、空隙を有する薄膜を得る工程を含む。
薄膜形成材料として、酸化インジウムと酸化ケイ素を含み、酸化インジウムが酸化ケイ素1モルに対して0.05モル以上0.25モル以下である混合物を用いて、物理蒸着法によって、被成膜物に形成された蒸着膜は、酸化インジウム(I)(InO)と酸化インジウム(III)(In)と二酸化ケイ素(IV)(SiO)を含む。これらの蒸着膜を構成する酸化物のうち、酸化インジウム(I)(InO)は、酸性物質に対する溶解性が高いため、蒸着膜を酸性物質と接触させることによって、酸化インジウム(I)を蒸着膜から溶出させて、所望の屈折率を満たす空隙を有する薄膜を形成することができる。また、蒸着膜を構成する酸化物のうち、酸化インジウム(III)(In)も、酸性物質との接触時間によって薄膜から溶出し、酸化インジウム(III)(In)に取り囲まれた二酸化ケイ素(IV)(SiO)の一部も、酸化インジウム(III)(In)が薄膜から溶出する際に同時に薄膜から外れる場合がある。空隙を有する薄膜を構成する物質は、主に二酸化ケイ素(IV)(SiO)であり、溶出しない酸化インジウム(III)(In)も含まれる。
本発明の一実施形態の製造方法において、本発明の一実施形態の薄膜形成材料を用いることによって、酸性物質に対する溶解性が高い酸化インジウム(I)(InO)と、酸化インジウム(III)(In)と、二酸化ケイ素(IV)(SiO)とを含む蒸着膜を形成することができ、その後に蒸着膜を酸性物質と接触させることによって、薄膜の耐久性を損なうことなく、溶解性の高い酸化インジウム(I)(InO)を先に溶出させて、薄膜の空隙率を高めることができ、空隙率を高めることによって、薄膜の屈折率を低くすることができ、屈折率が低い薄膜を形成することができる。
酸化インジウム(I)(InO)は、体色が黒色であり、薄膜に酸化インジウム(I)(InO)が残存していると、可視光を吸収する。例えば分光光度計で薄膜の吸収率{100-(透過率+反射率)}を測定することによって、薄膜が可視光を吸収した場合には薄膜の吸収率が上昇し、吸収率が上昇している場合には、薄膜中に酸化インジウム(I)(InO)が残存していることを確認することができる。
本発明の一実施形態の製造方法によって得られる薄膜は、前記蒸着膜を酸性物質と接触させることによって、溶出しやすい酸化インジウム(I)(InO)を蒸着膜内から溶出させることができ、酸化インジウム(I)(InO)の溶出によって空隙率が高く、屈折率を低くすることができる。
【0022】
(酸性物質)
酸性物質としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。酸性物質は、蒸着膜中の酸化インジウム(I)(InO)、酸化インジウム(III)(In)の溶解度が大きく、電離度が高い塩酸であることが好ましい。
【0023】
蒸着膜と酸性物質とを接触させる温度は、温度が高いほど蒸着膜中の酸化インジウム(I)(InO)及び/又は酸化インジウム(III)(In)の溶出を促進させることができ、接触時間を短縮できることができるので、製造上好ましい。
一方、蒸着膜と酸性物質とを接触させる温度が高すぎると、酸性物質による腐食に耐えるために、耐熱耐食性の容器や、安全性を確保するための設備が必要となり、製造コストが高くなる虞がある。
蒸着膜と酸性物質とを接触させる温度は、好ましくは10℃以上100℃以下であり、より好ましくは20℃以上90℃以下、さらに好ましくは30℃以上85℃以下、よりさらに好ましくは40℃以上80℃以下、特に好ましくは45℃以上75℃以下である。
【0024】
蒸着膜と酸性物質とを接触させる時間は、接触温度や酸性物質の濃度によって異なり、所望の屈折率を満たす空隙率を有する薄膜が得られる時間であればよい。蒸着膜と酸性物質とを接触させる時間は、製造効率を向上し、薄膜及び被成膜物の耐久性を維持するために、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上であり、好ましくは36時間以下、より好ましくは25時間以下である。
【0025】
蒸着膜と酸性物質とを接触させる方法は、一般的には酸性溶液中に蒸着膜を形成した被成膜物を浸漬させる方法や、被成膜物に形成された蒸着膜のみを酸性溶液中に浸漬させる方法や、蒸着膜に酸性溶液を吹き付ける方法等が挙げられる。蒸着膜を酸性物質に浸漬させる方法では、所定時間経過後に蒸着膜中の酸化インジウム(I)(InO)が溶出し、さらに酸性物質の濃度及び酸性物質との接触時間によっては酸化インジウム(III)(In)も溶出する。蒸着膜に酸性溶液を吹き付ける方法では、所定時間経過後に蒸着膜を水に浸漬することによって酸化インジウム(I)(InO)が溶出し、さらに酸性物質の濃度及び酸性物質と蒸着膜の接触時間によっては酸化インジウム(III)(In)が水に溶出する。蒸着膜中の酸化インジウム(I)(InO)が溶出し、場合によっては酸化インジウム(III)(In)が溶出することによって、空隙を有する薄膜が得られる。
【0026】
〔空隙を有する薄膜:光学薄膜〕
本発明の一実施形態の方法によって製造された空隙を有する薄膜は、酸化インジウム(III)(In)と、酸化ケイ素(IV)(SiO)とを含み、屈折率が1.38以下の光学薄膜である。
被成膜物を構成するガラス又は光学ガラスの屈折率は1.43〜1.69程度であり、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル樹脂等のプラスチックの屈折率は1.59〜1.70程度である。また、従来、低屈折材料として知られているフッ化マグネシウム(MgF)の屈折率は1.38である。
本発明の一実施形態の光学薄膜は、屈折率が1.38以下であり、従来の低屈折材料として知られているフッ化マグネシウム(MgF)の屈折率以下なので、被成膜物である光学ガラス又はプラスチックの屈折率の平方根(約1.20〜1.30)に近い値となり、反射防止効果を高めることができる。
本発明の一実施形態の光学薄膜の屈折率は、後述する実施例に基づき、光学薄膜について、分光光度計で反射スペクトルを測定し、入射光強度を100としたときの反射光強度の極小値を反射率として測定し、この測定した反射率からフレネル係数を用いて算出することができる。
【0027】
本発明の一実施形態の方法によって製造された空隙を有する薄膜は、空隙率が8%以上70%以下である光学薄膜であることが好ましい。
光学薄膜の空隙率が8%以上70%以下であることによって、薄膜の耐久性を維持しつつ、薄膜の屈折率を低くすることができる。
本発明の一実施形態の方法によって製造された空隙を有する薄膜は、空隙率が、より好ましくは10%以上68%以下であり、さらに好ましくは15%以上67%以下である。光学薄膜の空隙率(全気孔率Vp)は、後述する実施例に基づき、Lorenz-Lorenz式を用いて求めることができる。
【0028】
〔光学部材〕
本発明の一実施形態の光学薄膜と、被成膜物とを備えた光学部材は、天体望遠鏡、眼鏡レンズ、カメラ、バンドパスフィルター、ビームスプリッター等の光学ピックアップ部品を備えたディスクドライブ装置、高精細の液晶パネルを備えた表示装置等の光学部材として利用することができる。また、光学薄膜を発光装置の外部への光の取り出し部分に適用することで、発光装置から外部へ光の射出を促進させ、光の取り出し効率の向上や発熱の軽減を期待することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0030】
(実施例1)
(薄膜形成材料の製造)
酸化インジウム(III)粉末(In)(純度:99.99質量%)140gと、一酸化ケイ素粉末(SiO)(純度:99.9質量%)100gとを1Lのナイロンポットに投入し、これらの粉末とともに直径20mm(φ20)のナイロンボールを投入し、凝集物をほぐしながら30分混合し、原料混合物を得た。酸化ケイ素1モルに対する酸化インジウムのモル比(In/SiOモル比)は、0.22であった。原料混合物をポットから取り出し、プレス成形し成形体とした。この成形体を不活性雰囲気(アルゴン(Ar):99.99体積%)中で、800℃で2時間焼成し、薄膜形成材料(焼結体)1を得た。
【0031】
(蒸着膜の製造)
被成膜物として、両面研磨ガラス(ショット(SHOTT AG)社製、BK-7)を用いた。蒸着装置内に、被成膜物と、前記薄膜形成材料1を配置し、蒸着装置内の圧力を1.0×10−4Paまで減圧した状態で、薄膜形成材料1に電子ビーム(日本電子株式会社製、JEBG-102UH0)を照射し、被成膜物の片面に酸化インジウム(I)(InO)と酸化インジウム(III)(In)と二酸化ケイ素(SiO)とを含む蒸着膜を形成した。成膜時の被成膜物の温度を100℃とし、成膜時の蒸着装置内の制御圧力を酸素導入により2.0×10−2Paとした。
【0032】
(空隙を有する薄膜の製造)
酸性溶液として50℃に加熱した18質量%の濃度の塩酸溶液を用い、この塩酸溶液に蒸着膜が形成された被成膜物を浸漬し、蒸着膜から主に酸化インジウム(I)(InO)を溶出させて、空隙を有する薄膜を製造した。蒸着膜と酸性溶液との接触時間(浸漬時間)を1分間とし、得られた空隙を有する薄膜の屈折率を後述する方法によって測定した。酸性溶液との接触時間(浸漬時間)が1分間で、屈折率が1.18の空隙を有する薄膜が得られた。
また、前述の方法によって形成された蒸着膜を、50℃の酸性溶液と、75℃の酸性溶液のそれぞれに接触(浸漬)させ、それぞれの温度の酸性溶液で薄膜の屈折率が1.38以下となる、酸性溶液との接触(浸漬)時間を測定した。
【0033】
(実施例2)
In粉末120g、SiO粉末100g(In/SiOモル比が0.19)を混合し、実施例1と同様にして薄膜形成材料2を得た。この薄膜形成材料2を用いたこと以外は実施例1と同様にして空隙を有する薄膜を製造した。蒸着膜と酸性溶液との接触時間(浸漬時間)を1分間とし、得られた空隙を有する薄膜の屈折率を後述する方法によって測定した。酸性溶液との接触時間(浸漬時間)が1分間で、屈折率が1.29の空隙を有する薄膜が得られた。蒸着膜を50℃の酸性溶液に1分間接触(浸漬)させて得られた実施例2の薄膜の表面のSEM写真を図1に示し、薄膜の断面のSEM写真を図2に示す。
また、前述の方法によって形成された蒸着膜を、50℃の酸性溶液と、75℃の酸性溶液のそれぞれに接触(浸漬)させ、それぞれの温度の酸性溶液で薄膜の屈折率が1.38以下となる、酸性溶液との接触(浸漬)時間を測定した。
【0034】
(実施例3)
In粉末80g、SiO粉末100g(In/SiOモル比が0.13)を混合し、実施例1と同様にして薄膜形成材料3を得た。この薄膜形成材料3を用いたこと以外は実施例1と同様にして空隙を有する薄膜を製造した。蒸着膜と酸性溶液との接触時間(浸漬時間)を1分間とし、得られた空隙を有する薄膜の屈折率を後述する方法によって測定した。酸性溶液との接触時間(浸漬時間)が1分間で、屈折率が1.35の空隙を有する薄膜が得られた。
また、前述の方法によって形成された蒸着膜を、50℃の酸性溶液と、75℃の酸性溶液のそれぞれに接触(浸漬)させ、それぞれの温度の酸性溶液で薄膜の屈折率が1.38以下となる、酸性溶液との接触(浸漬)時間を測定した。
【0035】
(実施例4)
In粉末60g、SiO粉末100g(In/SiOモル比が0.10)を混合し、実施例1と同様にして薄膜形成材料4を得た。この薄膜形成材料4を用いたこと以外は実施例1と同様にして空隙を有する薄膜を製造した。蒸着膜と酸性溶液との接触時間(浸漬時間)を1分間とし、得られた空隙を有する薄膜の屈折率を後述する方法によって測定した。酸性溶液との接触時間(浸漬時間)が1分間で、屈折率が1.45の空隙を有する薄膜が得られた。
また、前述の方法によって形成された蒸着膜を、50℃の酸性溶液に接触(浸漬)させ、薄膜の屈折率が1.38以下となる、酸性溶液との接触(浸漬)時間を測定した。
【0036】
(実施例5)
In粉末40g、SiO粉末100g(In/SiOモル比が0.06)を混合し、実施例1と同様にして薄膜形成材料5を得た。この薄膜形成材料5を用いたこと以外は実施例1と同様にして空隙を有する薄膜を製造した。蒸着膜と酸性溶液との接触時間(浸漬時間)を1分間とし、得られた空隙を有する薄膜の屈折率を後述する方法によって測定した。酸性溶液との接触時間(浸漬時間)が1分間で、屈折率が1.47の空隙を有する薄膜が得られた。
また、前述の方法によって形成された蒸着膜を、50℃の酸性溶液に接触(浸漬)させ、薄膜の屈折率が1.38以下となる、酸性溶液との接触(浸漬)時間を測定した。
【0037】
(実施例6)
酸性溶液の温度を75℃にし、それ以外は実施例4と同様にして、空隙を有する薄膜を製造した。蒸着膜と酸性溶液との接触時間(浸漬時間)を1分間とし、得られた空隙を有する薄膜の屈折率を後述する方法によって測定した。75℃の酸性溶液との接触時間(浸漬時間)が1分間で、屈折率が1.45の空隙を有する薄膜が得られた。
また、前述の方法によって形成された蒸着膜を、75℃の酸性溶液に接触(浸漬)させ、薄膜の屈折率が1.38以下となる接触(浸漬)時間を測定した。
【0038】
(実施例7)
酸性溶液の温度を75℃にし、それ以外は実施例5と同様にして、空隙を有する薄膜を製造した。蒸着膜と酸性溶液との接触時間(浸漬時間)を1分間とし、得られた空隙を有する薄膜の屈折率を後述する方法によって測定した。75℃の酸性溶液との接触時間(浸漬時間)が1分間で、屈折率が1.47の空隙を有する薄膜が得られた。
また、前述の方法によって形成された蒸着膜を、75℃の酸性溶液に接触(浸漬)させ、薄膜の屈折率が1.38以下となる接触(浸漬)時間を測定した。
【0039】
(比較例1)
In粉末190g、SiO粉末100g(In/SiOモル比が0.03)を混合し、実施例1と同様にして焼結した薄膜形成材料8を得た。この薄膜形成材料8を用いたこと以外は実施例1と同様にして空隙を有する薄膜を製造した。蒸着膜と酸性溶液との接触時間(浸漬時間)を1分間とすると、蒸着膜が被成膜物から剥がれ、空隙を有する薄膜が形成できなかった。
【0040】
<空隙を有する薄膜(光学薄膜)の評価>
以下のように実施例及び比較例の空隙を有する薄膜(光学薄膜)の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0041】
(屈折率)
分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ、製品名:U−4100、入射角5°)を用いて、実施例の空隙を有する薄膜(光学薄膜)の反射スペクトルを測定した。入射光強度を100としたときの反射光強度の極小値を反射率として測定し、この測定した反射率からフレネル係数を用いて屈折率を算出した。
実施例において、薄膜を形成する被成膜物として両面研磨ガラスを用いていることから、測定から得られた反射率R’は、裏面反射を含む多重繰り返し反射を含んでいる。測定された反射率R’は、多重繰り返し反射を含んでいることから、薄膜の反射率Rは、以下の式(1)で表すことができる。
【0042】
【数1】
【0043】
前記式(1)中において、Rは基板(被成膜物)の反射率である。実際に測定された薄膜の反射率R’から式(1)に基づき、薄膜の反射率Rを算出した。薄膜の反射率Rは、裏面からの反射を考慮しない反射率である。
薄膜の反射率Rは、フレネル係数を用いると、基板(被成膜物)の屈折率nと薄膜の屈折率nを以下の式(2)を用いて表すことができる。
【0044】
【数2】
【0045】
ここで、大気の屈折率を1と近似し、基板の屈折率nの平方根よりも薄膜の屈折率nが大きい場合には、以下の式(3)で薄膜の屈折率nを表すことができる。
【0046】
【数3】
【0047】
また、基板の屈折率nの平方根よりも薄膜の屈折率nが小さい場合には、以下の式(4)で薄膜の屈折率nを表すことができる。
【0048】
【数4】
【0049】
前記式(1)ないし(4)に基づき、空隙を有する薄膜(光学薄膜)の屈折率nを算出した。なお、光学薄膜の屈折率nに関して、「小檜山光信著、「光学薄膜の基礎理論−フレネル係数、特性マトリクス−」、株式会社オプトロニクス社出版、平成23年2月25日、増補改訂版第1刷」を参照にした。
【0050】
(空隙率(%))
実施例の空隙を有する薄膜(光学薄膜)の空隙率(全気孔率Vp)は、下記式(5)に示すLorenz-Lorenz式を用いて求めた。下記式(5)において、nは薄膜の観測された屈折率であり、nは薄膜の骨格の屈折率である。薄膜の屈折率nは、前記式(1)から(4)に基づき求めた空隙を有する薄膜(光学薄膜)の屈折率である。薄膜の骨格の屈折率nは、薄膜形成材料の組成と酸性物質との接触時間1分後の屈折率を用いて求めた。
【0051】
【数5】
【0052】
(耐久性)
実施例の空隙を有する薄膜(光学薄膜)の上にシルボン紙を重ね、シルボン紙の上から鉛筆硬度試験器(JIS K5600 引っかき硬度(鉛筆法)を準拠した。)を用いて、500g/cmの荷重をかけながら、乾式で20往復した。シルボン紙を外し、空隙を有する薄膜(光学薄膜)の表面を目視で確認し、傷又は反射光の色変化が確認できたものをB(Bad)とし、薄膜の表面に変化がないものをG(good)として評価した。
【0053】
(酸性物質の接触時間とIn/SiOモル比との関係)
実施例の空隙を有する薄膜の屈折率を1.38以下とするための酸性物質との接触時間と、In/SiOモル比との関係を図3に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、実施例1から7の薄膜は、屈折率を1.38以下とすることができた。酸性物質との接触時間が1分以内では、薄膜の屈折率を1.38以下にすることができない場合であっても、酸性物質との接触時間を長くすることによって薄膜の屈折率を1.38以下とすることができた。実施例1から7の薄膜は、分光光度計で透過率と反射率から吸収率を測定したところ、吸収率の増大が確認できず、薄膜中に体色が黒色である酸化インジウム(I)(InO)は存在せず、酸性物質との接触によって薄膜中の酸化インジウム(I)(InO)が全て溶出していることが確認できた。
比較例1に示すように、In/SiOモル比が0.25モルを超える薄膜形成材料を用いて形成した蒸着膜は、酸性物質との接触によって蒸着膜が剥がれ、被成膜物の所望とする部分に空隙を有する薄膜を形成することができなかった。
【0056】
図1に示すように、実施例2の薄膜の表面のSEM写真から、薄膜には細かい溝状の空隙が形成されていることが確認できた。
図2に示すように、実施例2の薄膜の断面のSEM写真から、薄膜には基板の表面から薄膜の表面まで続く不定形な柱状の構造が多数形成されており、柱と柱の間には空隙が確認された。図2のSEM写真に示されている柱状の構造は、二酸化ケイ素(SiO)及び一部が酸化インジウム(III)(In)から形成されていると推測された。
【0057】
図3に示すように、薄膜形成材料のIn/SiOモル比が0.05を下回ると、蒸着膜と酸性物質とを接触させる温度が75℃であっても、屈性率が1.38以下の薄膜を有するために、蒸着膜と酸性物質を接触させる時間が25時間を超えると予測されるため、製造時間が長くなり、生産性が低下した。一方、表1の比較例1に示すように、薄膜形成材料のIn/SiOモル比が0.25を超えて0.30であると、蒸着膜と酸性物質との接触時間が1分間以内であっても、薄膜が剥がれ、耐久性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の一実施形態における薄膜の製造方法によれば、耐久性に優れた屈折率が低い光学薄膜を比較的に容易に製造することができ、カメラレンズのみならず、高精細の液晶パネル等にも利用できる光学薄膜を提供することができる。本発明の一実施形態における光学薄膜は、天体望遠鏡、眼鏡レンズ、カメラ、バンドパスフィルター、ビームスプリッター等の光学ピックアップ部品を備えたディスクドライブ装置、高精細の液晶パネルを備えた表示装置等の光学部材として利用することができる。
図1
図2
図3