特許第6702182号(P6702182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許67021821,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸及び該酸二無水物の新規な製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702182
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸及び該酸二無水物の新規な製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/04 20060101AFI20200518BHJP
   C07C 51/353 20060101ALI20200518BHJP
   C07C 61/04 20060101ALI20200518BHJP
   C07C 57/155 20060101ALI20200518BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200518BHJP
【FI】
   C07D493/04 101A
   C07D493/04CSP
   C07C51/353
   C07C61/04
   C07C57/155
   !C07B61/00 300
【請求項の数】12
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2016-517921(P2016-517921)
(86)(22)【出願日】2015年5月7日
(86)【国際出願番号】JP2015063221
(87)【国際公開番号】WO2015170713
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2018年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-98037(P2014-98037)
(32)【優先日】2014年5月9日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】近藤 章一
(72)【発明者】
【氏名】岸川 遥
(72)【発明者】
【氏名】田所 真介
(72)【発明者】
【氏名】小沢 征巳
【審査官】 池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/092989(WO,A1)
【文献】 特開2008−117673(JP,A)
【文献】 特開2008−100949(JP,A)
【文献】 ITO,Y. et al.,Coerced photodimerization reaction in the solid state through amine salt formation,Tetrahedron,2003年,Vol.59, No.37,p.7323-7329
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/347
C07C 51/56
C07C 61/04
C07D 493/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)及び工程(b)によって式(2)で表される1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸を製造し、次いで、かかる式(2)で表される1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸を脱水縮合反応させることによる、式(3)で表される1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【化1】
(Rは、C〜Cアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を表す。)
工程(a):溶媒の存在下又は不存在下で、式(4C)又は式(4M)で表されるエチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物(5)とから構成される結晶(1)を製造する工程。
【化2】
(Rは上記と同じ意味を表す。)
工程(b):工程(a)で得られた結晶(1)に光を照射して環化反応を行う工程。
【化3】
(式中、Rは上記と同じ意味を表す。)
【請求項2】
含窒素有機化合物(5)が、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミンオキシド、アミド、イミド、又は含窒素複素環式化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
含窒素有機化合物(5)が、含窒素複素環式化合物である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
含窒素複素環式化合物が、ニコチンアミド又はピリジンである請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(b)において、波長が290nmから600nmである光を照射する請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(b)において、波長が300nmから580nmである光を照射する請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(b)において、光増感剤の存在下で光を照射する請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
式(4C)又は式(4M)において、Rはメチル基又はエチル基を表す請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
式(4C)で表される化合物を用いる請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
無水酢酸の存在下で脱水縮合反応を行う請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
Cu−Kα線による粉末X線回折において、回折角2θ=(12.58±0.2, 15.05±0.2, 16.08±0.2, 17.60±0.2, 19.20±0.2, 21.57±0.2, 23.02±0.2, 24.50±0.2, 26.45±0.2, 27.06±0.2, 28.10±0.2, 32.49±0.2, 35.90±0.2, 36.46±0.2及び38.43±0.2)にピークを有するピリジンとシトラコン酸から構成される結晶。
【請求項12】
Cu−Kα線による粉末X線回折において、回折角2θ=(12.58±0.2, 15.05±0.2, 16.08±0.2, 17.60±0.2, 18.34±0.2, 19.20±0.2, 21.57±0.2, 23.02±0.2, 24.50±0.2, 26.45±0.2, 27.06±0.2, 28.10±0.2, 30.39±0.2, 32.49±0.2, 34.71±0.2, 35.90±0.2, 36.46±0.2及び38.43±0.2)にピークを有する請求項11に記載の結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸及び該酸二無水物を、高選択的及び高収率で得るための新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物は、各種工業用途の原料として有用である。又、かかる1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物の原料になる1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸も有用な化合物である。
特に、式(12a)で表される1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物及び該酸二無水物の原料になる式(13a)で表される1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸は、液晶表示素子や半導体における保護材料、絶縁材料、カラーフィルター、液晶配向膜、光導波路用材料などとして広く使用されているポリイミドの主要な原料又は合成中間体である(特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0003】
【化1】
【0004】
式(12a)で表される1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物及び式(13a)で表される1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸の構造上の特徴としては、シクロブタン環上の二つのメチル基が1位及び3位に位置し、且つ該メチル基の相対配置がトランスであることが挙げられる。
【0005】
従来、1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物の製造方法としては、以下の製造方法が知られている。
非特許文献2によると、シトラコン酸無水物及び光増感剤としてのベンゾフェノンを1,4−ジオキサンに溶解させ、該溶液に光を照射して環化反応を行い、二つのメチル基がシクロブタン環上に置換しているジメチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物を合成している。さらに得られたジメチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物に対して加水分解反応を行い、次いでメチルエステル化反応を行うことで、ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸テトラメチルエステルを合成している。しかし、シクロブタン環上のメチル基の位置及び相対配置の決定には至っていない。
【0006】
非特許文献3及び非特許文献4によると、非特許文献2に記載の方法に従って、シトラコン酸無水物からジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物を合成した後、ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸テトラメチルエステルを合成している。さらにシクロブタン環上のメチル基の位置及び相対配置に起因する4種類のジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物のジアステレオマーが生成する可能性について記載されている。
【0007】
特許文献2によると、シトラコン酸無水物1000gを酢酸エチルに溶解させ、該溶液に光を照射して環化反応を行い、シトラコン酸無水物の二量体を収量695gにて合成している。しかし、かかるシトラコン酸無水物の二量体について、構造決定及びジアステレオマーの生成比については何ら記載されていない。
【0008】
特許文献3によると、エチルマレイン酸無水物を酢酸エチルに溶解させ、該溶液に光を照射して環化反応を行うことで、1,3−ジエチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸1,2:3,4−二無水物と、1,2−ジエチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸1,4:2,3−二無水物の混合物を得られることが報告されている。該混合物に対して、溶媒留去、ろ過、晶析等の精製操作を行っているが、それぞれの単離精製までには至っていない。又、収量とNMRによって算出した収率は中程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開(WO)2010/092989パンフレット
【特許文献2】日本特開平4-106127号公報
【特許文献3】日本特開2006-347931号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】新訂最新ポリイミド 基礎と応用(ISBN 978-4-86043-273-7),2010年,エヌ・ティー・エス出版,344-354頁
【非特許文献2】Chemische Berichte 1962年,95巻,1642-1647頁
【非特許文献3】Journal of Organic Chemistry 1968年,33巻,920-921頁
【非特許文献4】Chemische Berichte 1988年,121巻,295-297頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、シクロブタン環が構築される反応の際に該シクロブタン環上の置換基の位置及び相対配置を同時に制御できる1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸及び該酸二無水物の高選択的な製造法は知られていない。そのため、目的化合物を得るにあたり、精製操作が必要であった。具体的には、昇華による精製、大量の有機溶媒を使う晶析、懸濁洗浄、更にはろ過等による煩雑な精製操作を必要とするため、大量の廃液や廃棄物が生じ、グリーンケミストリーの観点から環境へ多大な負荷を与え、生産性が悪いことが課題であった。
【0012】
本発明の目的は、各種工業用途の原料として有用であり、所望の立体構造として、シクロブタン環上の二つの置換基が1位及び3位に位置し、且つ該置換基の相対配置がトランスであることを同時に満たす1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸及び該酸二無水物を、高選択的及び高収率で得るための新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物から構成される結晶を生成させ、該結晶に光を照射して環化反応を行うことにより、所望の立体構造を有する1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸を高選択的及び高収率で得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものであり、下記の要旨を有する。
【0014】
〔1〕以下の工程(a)及び工程(b)を有する、式(2)で表される1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸の製造方法。
【0015】
【化2】
(Rは、C〜Cアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を表す。)
工程(a):溶媒の存在下又は不存在下で、式(4C)又は式(4M)で表されるエチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物(5)とから構成される結晶(1)を製造する工程。
【0016】
【化3】
(Rは上記と同じ意味を表す。)
工程(b):工程(a)で得られた結晶(1)に光を照射して環化反応を行う工程。
【0017】
〔2〕含窒素有機化合物(5)が、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミンオキシド、アミド、イミド又は含窒素複素環式化合物である上記〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕含窒素有機化合物(5)が、含窒素複素環式化合物である上記〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕含窒素複素環式化合物が、ニコチンアミド又はピリジンである上記〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕工程(b)において、波長が290nmから600nmである光を照射する上記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一つに記載の製造方法。
〔6〕工程(b)において、波長が300nmから580nmである光を照射する上記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一つに記載の製造方法。
〔7〕工程(b)において、光増感剤の存在下で光を照射する上記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一つに記載の製造方法。
〔8〕式(4C)又は式(4M)において、Rはメチル基又はエチル基を表す上記〔1〕乃至〔7〕のいずれか一つに記載の製造方法。
〔9〕式(4C)で表される化合物を用いる上記〔1〕乃至〔8〕のいずれか一つに記載の製造方法。
【0018】
〔10〕上記〔1〕に記載の製造方法で得られた式(2)で表される1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸を脱水縮合反応させることによる、式(3)で表される1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【0019】
【化4】
(Rは、C〜Cアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を表す。)
【0020】
【化5】
(式中、Rは上記と同じ意味を表す。)
【0021】
〔11〕無水酢酸の存在下で脱水縮合反応を行う上記〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕Cu−Kα線による粉末X線回折において、回折角2θ= (12.58±0.2, 15.05±0.2, 16.08±0.2, 17.60±0.2, 19.20±0.2, 21.57±0.2, 23.02±0.2, 24.50±0.2, 26.45±0.2, 27.06±0.2, 28.10±0.2, 32.49±0.2, 35.90±0.2, 36.46±0.2及び38.43±0.2)にピークを有するピリジンとシトラコン酸から構成される結晶。
〔13〕Cu−Kα線による粉末X線回折において、回折角2θ=(12.58±0.2, 15.05±0.2, 16.08±0.2, 17.60±0.2, 18.34±0.2, 19.20±0.2, 21.57±0.2, 23.02±0.2, 24.50±0.2, 26.45±0.2, 27.06±0.2, 28.10±0.2, 30.39±0.2, 32.49±0.2, 34.71±0.2, 35.90±0.2, 36.46±0.2及び38.43±0.2)にピークを有する上記〔12〕に記載の結晶。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物とから、結晶を製造し、続いて該結晶に光を照射して環化反応を行うことにより、所望の立体構造を有する1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸及び該酸二無水物を、高選択的及び高収率で製造できる。更に、本発明の製造方法は、1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸及び該酸二無水物を製造する際に副生成物が殆ど生じない為、所望の立体構造を有する化合物を得るために行う精製操作を著しく軽減できることから、環境負荷を配慮した工業的製造法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例で製造したピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)のFT−IRのチャート。
図2】実施例で製造したピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)の粉末X線回折のチャート。
【0024】
図3】実施例で製造した結晶(8)の単結晶X線構造解析結果により、ピリジニウムとシトラコン酸アニオンとのパッキング構造をシリンダーモデルにて単位格子とともに示した図。
図4】実施例で製造した結晶(8)の単結晶X線構造解析結果により、シトラコン酸アニオンどうしの配置のみをオルテップ図にて示した図。
図5】実施例で製造した化合物(13a)の単結晶X線構造解析結果より、化合物(13a)の分子構造をオルテップ図にて示した図。
図6】実施例で製造した化合物(12a)の単結晶X線構造解析結果より、化合物(12a)の分子構造をオルテップ図にて示した図。
図7】実施例9で用いたフローリアクターの概略図。
図8】実施例9で用いたフローリアクター中の二重管構造をもつT字型ミキサー(ミキサー2)の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において、下記の記号は、それぞれ下記の意味を表す。
「n−」はノルマルを表し、「s−」はセカンダリーを表し、「t−」はターシャリーを表し、「o−」はオルトを表し、「m−」はメタを表し、「p−」はパラを表す。又、「trans」、「cis」は、環状化合物の置換基の相対的な配置を表し、該当する置換基が環平面の反対側にあるものはトランス(trans)、同じ側にあるものはシス(cis)と表示する。又、(E)及び(Z)は、二重結合でつながれた分子の平面部分内で二重結合をつくる原子に結合した基のうち順位則上位のものが反対側に出ている場合は(E)として、同じ側に出ている場合は(Z)とする立体化学を表示する。
【0026】
「Me」の表記はメチル基を意味する。C〜Cアルキル基は、炭素原子数がa乃至b個よりなる直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素から水素1原子が失われて生ずる一価の基を表す。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、1,1−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基等が具体例として挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。尚、ハロの表記もこれらのハロゲン原子を表す。
【0027】
以下に、本発明における、1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸及び該酸二無水物の製造方法である、工程(a)から工程(c)について説明する。
【0028】
工程(a):エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物から構成される結晶の製造
本工程では、式(4C)又は式(4M)で表されるエチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物(5)から構成される結晶(1)を得る。式中、Rは、C〜Cアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を表すが、なかでも、Rは、メチル基、エチル基、又はフェニル基である場合が好ましく、メチル基、又はエチル基である場合がさらに好ましい。
【0029】
【化6】
【0030】
本明細書における、式(4C)又は式(4M)で表されるエチレンジカルボン酸誘導体及び含窒素有機化合物(5)から構成される結晶(1)は、室温で固体であり、特徴ある粉末X線回折ピークを有し、一定の化学量論比で2種類以上の化合物より構成される結晶である。かかる結晶(1)中では、構成要素である2種類以上の化合物が、分子又はイオンとして、三次元で周期的に配列した構造を有している。又、結晶(1)は、2種類以上の成分から構成されていることから、所謂多成分結晶ともいえる。ここで、室温とは、1℃から40℃である。
【0031】
一方、かかる結晶(1)において、結晶表面等で周期的な配列が崩壊している部分や、エチレンジカルボン酸誘導体及び含窒素有機化合物が分子又はイオンとして周期構造をとらないで集合している部分が存在する場合がある。但し、部分的に三次元の周期的な配列が欠損した構造を持っていながらも、上記の三次元で周期的に配列した構造を含む結晶は、光を照射して環化反応を行うことで、所望の立体構造を有する1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸を高選択的に製造できる場合は、本発明の結晶(1)に含まれる。
【0032】
本発明では、工程(a)におけるエチレンジカルボン酸誘導体及び含窒素有機化合物から構成される結晶(1)の構造が、続く工程(b)における1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、さらに工程(c)における1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物の立体選択性の決定要因となるため、結晶(1)中のエチレンジカルボン酸誘導体の分子の配向が重要である。本発明における好ましい結晶(1)は、次工程である工程(b)の光環化反応において、二つのメチル基が1位及び3位に位置し、且つ該メチル基の相対配置がトランスとなるシクロブタン環が構築されるように、二つのエチレンジカルボン酸誘導体が配向されている。
【0033】
本発明に用いるエチレンジカルボン酸誘導体のあるものは公知の化合物であり、一部は市販品として入手することができる。例えばシトラコン酸は東京化成工業社、Aldrich社等より入手できる。又、フェニルマレイン酸はヒドラス化学社より入手できる。又、メサコン酸は東京化成工業社、Aldrich社等より入手できる。
【0034】
又、本発明に用いるエチレンジカルボン酸誘導体の一部は、文献記載の公知の方法に準じて合成することができる。例えば、2−イソプロピルマレイン酸はSynthetic Communications,2013年,43(10)巻,1455-1459頁等を参照して合成することができ、フェニルフマル酸はJournal of the American Chemical Society,1954年,76巻,1872-1873頁等を参照して合成できる。
【0035】
本発明で用いる式(4C)で表されるエチレンジカルボン酸誘導体の具体例としては、例えば、シトラコン酸、2−エチルマレイン酸、2−イソプロピルマレイン酸、2−プロピルマレイン酸、2−n−ブチルマレイン酸、2−イソブチルマレイン酸、2−(t−ブチル)マレイン酸、2−フェニルマレイン酸、2−フルオロマレイン酸、2−クロロマレイン酸、2−ブロモマレイン酸、2−ヨードマレイン酸等が挙げられる。
なかでも、シトラコン酸、2−エチルマレイン酸、2−イソプロピルマレイン酸、又は2−フェニルマレイン酸が好ましく、シトラコン酸、又は2−エチルマレイン酸が特に好ましい。
【0036】
本発明で用いる式(4M)で表されるエチレンジカルボン酸誘導体の具体例としては、例えば、メサコン酸、2−エチルフマル酸、2−イソプロピルフマル酸、2−プロピルフマル酸、2−n−ブチルフマル酸、2−イソブチルフマル酸、2−(t−ブチル)フマル酸、2−フェニルフマル酸、2−フルオロフマル酸、2−クロロフマル酸、2−ブロモフマル酸、2−ヨードフマル酸等が挙げられる。
なかでも、メサコン酸、2−エチルフマル酸、2−フェニルフマル酸、又は2−フルオロフマル酸が好ましく、メサコン酸、又は2−エチルフマル酸が特に好ましい。
【0037】
含窒素有機化合物(5)としては、種々のものを使用できる。例えば、上記結晶(1)を生成させる際に、結晶構造中で酸性である式(4C)又は式(4M)で表されるエチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物(5)の間でプロトン移動することにより、形成されるイオン結合を通じて結晶が生成される例が挙げられる。このため、酸性であるエチレンジカルボン酸誘導体と中和反応できるような塩基性を有する、多くの含窒素有機化合物を使用できる。
【0038】
又、結晶(1)を生成させる際に、エチレンジカルボン酸誘導体と水素結合やファンデルワールス力等の分子間相互作用を形成できる置換基や部分骨格を有する、多くの含窒素有機化合物を使用できる。該置換基としては、アミノ基、アミド基、イミノ基、エーテル基、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基等が挙げられ、該部分骨格としては、ピロール系骨格、ピロリン系骨格、ピロリジン系骨格、インドール系骨格、インドリン系骨格、イソインドール系骨格、イミダゾリン系骨格、イミダゾリジン系骨格、ピリジン系骨格、ピベリジン系骨格、キノリン系骨格、アクリジン系骨格、トリアジン系骨格等が挙げられる。
【0039】
本発明では、次の工程(b)において、式(4C)又は式(4M)で表されるエチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物(5)から構成される結晶(1)中のエチレンジカルボン酸誘導体の二重結合に対して、光の照射による環化反応が行われるので、含窒素有機化合物としては、光環化反応の進行を阻害しないものが好ましい。このため、エチレンジカルボン酸誘導体と反応して副生成物を与えない化合物、目的化合物が生成する前に結晶(1)が壊れるような異性化反応等が進行しづらい構造を有する化合物、光照射に耐性のある構造を有する化合物等が好ましい。かかる含窒素有機化合物の好ましい例として、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミンオキシド、アミド、イミド、含窒素複素環式化合物等が挙げられる。
【0040】
上記脂肪族アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、s−ブチルアミン、t−ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、2−ペンタンアミン、t−ペンチルアミン、ヘキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、2−オクタンアミシ、2−エチルへキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、α−メチルベンジルアミン、メスカリン、ドーパミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N−メチルエチルアミン、N−エチルイソブチルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジベンジルアミン、N,N−ジメチルプロピルアミン、トリプロピルアミン、N−エチル−N−メチルブチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルベンジルアミン、トリベンジルアミン、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロへキシルアミン、ジシクロへキシルアミン、N,N−ジメチルシクロへキシルアミン、シクロヘキサン−1β,2β−ジアミン、(1R,2R)−1,2−シクロヘキサンジアミン、(1S,2S)−1,2−シクロヘキサンジアミン等が挙げられる。なかでも、メチルアミン、エチルアミン、シクロヘキサン−1β,2β−ジアミン、(1R,2R)−1,2−シクロヘキサンジアミン、又は(1S,2S)−1,2−シクロヘキサンジアミンが好ましい。
【0041】
上記芳香族アミンとしては、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、o−エチルアニリン、m−エチルアニリン、p−エチルアニリン、p−イソプロピルアニリン、p−t−ぺンチルアニリン、キシリジン、2,3−キシリジン、2,4−キシリジン、2,6−キシリジン、3,4−キシリジン、3,5−キシリジン、チミルアミン、2,4,5−トリメチルアニリン、2,4,6−トリメチルアニリン、ペンタメチルアニリン、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミン、1−アントリルアミン、2−アントリルアミン、9−アントリルアミン、N−ブチルアニリン、N−イソペンチルアニリン、N−ベンジルアニリン、N−ベンジル−N−エチルアニリン、N,N−ジフェニルベンジルアミン、N−メチル−o−トルイジン、N−メチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジブチルアニリン、N,N−ジペンチルアニリン、N,N−メチル−o−トルイジン、N,N−メチル−m−トルイジン、N,N−メチル−p−トルイジン、ジフェニルアミン、ジ−p−トリルアミン、N−メチルジフェニルアミン、N−エチルジフェニルアミン、トリフェニルアミン、N,N−ジベンジルアニリン、N−ベンジル−N−エチルアニリン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等が挙げられる。なかでも、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、o−エチルアニリン、m−エチルアニリン、又はp−エチルアニリンが好ましい。
【0042】
上記アミンオキシドとしては、トリメチルアミンオキシド、ピリジン1−オキシド、2,2’−ビピリジン1,1’−ジオキシド、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン1,1’−ジオキシド、3,3’−ジメチル−2,2’−ビピリジン1,1’−ジオキシド等が挙げられる。なかでも、トリメチルアミンオキシド、ピリジン1−オキシド、又は3,3’−ジメチル−2,2’−ビピリジン1,1’−ジオキシドが好ましい。
【0043】
上記アミドとしては、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルホルムアミド、アセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−クロロアセトアミド、N−ブロモアセトアミド、ジアセトアミド、トリアセトアミド、プロピオンアミド、ブチルアミド、イソブチルアミド、バレルアミド、イソバレルアミド、カプロンアミド、ヘプタンアミド、オクタンアミド、アクリルアミド、クロロアセトアミド、ジクロロアセトアミド、トリクロロアセトアミド、グリコールアミド、ラクトアミド、ピルビンアミド、シアノアセトアミド、フルミヌル酸、オキサミド、マロンアミド、コハク酸アミド、アジポアミド、L−マルアミド、(R,R)−タルタルアミド等が挙げられる。なかでも、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルホルムアミド、又はアセトアミドが好ましい。
上記イミドとしては、コハク酸イミド、N−ブロモスクシンイミド、N−クロロスクシンイミド等が挙げられる。なかでも、コハク酸イミドが好ましい。
【0044】
上記含窒素複素環式化合物としては、ピロール系化合物、ピロリン系化合物、ピロリジン系化合物、インドール系化合物、インドリン系化合物、イソインドール系化合物、カルバゾール系化合物、ジアゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリジン系化合物、ピリジン系化合物、ピリジンの置換誘導体、ピベリジン系化合物、キノリン系化合物、ヒドロキノリン系化合物、イソキノリン系化合物、アクリジン系化合物、フェナントリジン系化合物、ジアジン系化合物、スルファジアジン系化合物、ヒドロピリミジン系化合物、ピペラジン系化合物、ベンゾジアジン系化合物、トリアゾール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、プリン、ヒポキサンチン、キサンチン、テオプロミン、テオフィリン、カフェイン、尿酸、アデニン、グアニン、3−メチル尿酸、7−メチル尿酸等が挙げられる。
【0045】
上記ピロール系化合物としては、ピロール、メチルピロール、ジメチルピロール、3−エチル−4メチルピロール、エチルジメチルピロール、3−エチル−2,4,5−卜リメチルピロール、2,3,4,5−テトラメチルピロール、アセチルピロール等が挙げられる。上記ピロリン系化合物としては、ピロリン等が挙げられる。上記ピロリジン系化合物としては、ピロリジン等が挙げられる。上記インドール系化合物としては、インドール、インドレニン、メチルインドール、2,3−ジメチルインドール、2−フェニルインドール等が挙げられる。上記インドリン系化合物としては、インドリン、イサチン、O−メチルイサチン、N−メチルイサチン、2−クロロ−3−インドロン等が挙げられる。
【0046】
上記イソインドール系化合物としては、イソインドール、イソインドリン、フタルイミジン等が挙げられる。上記カルバゾール系化合物としては、カルバゾール、インジゴ、ロイコイインジゴ、インジルビン等が挙げられる。上記ジアゾール系化合物としては、ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、2−ピラゾリン、ピラゾリジン、ピラゾロン、3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン、2,3−ジメチル−1−フェニル−5−ピラゾロン、アミノピリン、インダゾール等が挙げられる。上記イミダゾリン系化合物としては、イミダゾリン、アマリン、ナファゾリン等が挙げられる。上記イミダゾリジン系化合物としては、エチレン尿素、ヒダントイン、1−メチルヒダントイン、5−メチルヒダントイン、ジフェニルヒダントイン、クレアチニン等が挙げられる。
【0047】
上記ピリジン系化合物としては、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2−エチルピリジン、3−エチルピリジン、4−エチルピリジン、2−プロピルピリジン、2,3−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、3,5−ジメチルピリジン、4−エチル−2−メチルピリジン、3−エチル−4−メチルピリジン、5−エチル−2−メチルピリジン、6−エチル−2−メチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、2,3,4−トリメチルピリジン、4−エチル−2,6−ジメチルピリジン、2−フェニルピリジン、3−フェニルピリジン、4−フェニルピリジン、2−ベンジルピリジン、3−ベンジルピリジン、4−ベンジルピリジン、2,2’−ビピリジル、3,3’−ビピリジル、4,4’−ビピリジル等が挙げられる。
【0048】
上記ピリジンの置換誘導体としては、2−クロロピリジン、3−クロロピリジン、4−クロロピリジン、2−ピリドン、3−ピリジノール、4−ピリドン、2−メトキシピリジン、3−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ピリジンカルバルデヒド、3−ピリジンカルバルデヒド、4−ピリジンカルバルデヒド、2−アセチルピリジン、3−アセチルピリジン、4−アセチルピリジン、2−エトキシピリジン1−オキシド、2−ピリジンカルボン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、ニコチンアミド、ニケトアミド、イソニコチン酸ヒドラジド、2−エチルイソニコチンチオアミド、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、3−ニトロピリジン、2−ピリジルアミン、3−ピリジルアミン、4−ピリジルアミン、N,N−ジメチル−4−ピリジルアミン等が挙げられる。
【0049】
上記ピベリジン系化合物としては、ピベリジン、2−メチルピベリジン、コイニン、3−メチルピベリジン、4−メチルピベリジン、N−メチルピベリジン、1−フェニルピベリジン、2,6−ジメチルピベリジン、N−ベンゾイルピベリジン、4−ピペリドン等が挙げられる。上記キノリン系化合物としては、キノリン、2−メチルキノリン、3−メチルキノリン、4−メチルキノリン、6−メチルキノリン、8−メチルキノリン、2,3−ジメチルキノリン、2,4−ジメチルキノリン、2,6−ジメチルキノリン、2−フェニルキノリン、6−フェニルキノリン、8−フェニルキノリン、2−クロロキノリン、2−キノロン、4−キノロン、5−キノリノール、6−キノリノール、7−キノリノール、8−キノリノール、α−ナフトキノリン、β−ナフトキノリン、2−メチル−4−キノリノール、4−メチル−2−キノリノール、6−メトキシキノリン、2,4−キノリンジオール、2−キノリンカルボン酸、3−キノリンカルボン酸、4−キノリンカルボン酸、5−キノリンカルボン酸、5−ニトロキノリン、6−ニトロキノリン、7−ニトロキノリン、8−ニトロキノリン、2−キノリルアミン、3−キノリルアミン、4−キノリルアミン、フラバニリン、2,2’−ビキノリル、3,3’−ビキノリル、5,5’−ビキノリル、6,6’−ビキノリル、2,3’−ビキノリル等が挙げられる。
【0050】
上記ヒドロキノリン系化合物としては、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、1−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、6−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、3,4−ジヒドロ−2−キノリノン、cis−デカヒドロキノリン等が挙げられる。上記イソキノリン系化合物としては、イソキノリン、1−メチルイソキノリン、1−イソキノリノン、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリノン、1−ベンジルイソキノリン等が挙げられる。上記アクリジン系化合物としては、アクリジン、2−メチルアクリジン、3−メチルアクリジン、9−メチルアクリジン、9−フェニルアクリジン、3−アミノ−9−(p−アミノフェニル)アクリジン、3,6−ジアミノ−10−メチルアクリジニウムクロリド、アクリダン、アクリドン、アクリール等が挙げられる。
【0051】
上記フェナントリジン系化合物としては、フェナントリジン、ベンゾ[f]キノリン、ベンゾ[g]キノリン、ベンゾ[h]キノリン、ベンゾ[g]イソキノリン、1,10−フェナントロリン、2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン等が挙げられる。上記ジアジン系化合物としては、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、テトラフェニルピラジン等が挙げられる。
【0052】
上記スルファジアジン系化合物としては、スルファジアジン、スルファジメトキシン、スルファフェナゾール、スルファメチゾール、スルファメトキシピリダジン、スルファイソオキサゾール、スルフイソミジン等が挙げられる。上記ヒドロピリミジン系化合物としては、ウラシル、チミン、プリミドン、2−チオウラシル、シトシン、バルビツル酸、5,5−ジエチルバルビツル酸、5,5−ジプロピルバルビツル酸、アロバルビタール、5−エチル−5−フェニルバルビツル酸、シクロバルビタール、へキソバルビタール、ジアルル酸、ジリツル酸、ウラミル、アモバルビタール、ビオルル酸、アロキサン、アロキサンチン、プルプル酸、ムレキシド、アマリン酸等が挙げられる。上記ピペラジン系化合物としては、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2,5−ピペラジンジオン等が挙げられる。上記ベンゾジアジン系化合物としては、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン等が挙げられる。上記トリアゾール系化合物としては、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール等が挙げられる。
【0053】
上記ベンゾトリアゾール系化合物としては、ベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール等が挙げられる。上記トリアジン系化合物としては、1,2,3−トリアジン、4−メチル−1,2,3−トリアジン、4,6−ジメチル−1,2,3−トリアジン、4,5,6−トリメチル−1,2,3−トリアジン、1,2,3−ベンゾトリアジン、4−メチル−1,2,3−ベンゾトリアジン、1,3,5−トリアジン、塩化シアヌル、シアヌル酸、シアヌル酸トリメチル、イソシアヌル酸メチル、イソシアヌル酸エチル、メラニン、アンメリン、アンメリド等が挙げられる。
【0054】
本発明で、好ましい含窒素複素環式化合物としては、ピリジン系化合物、ピリジンの置換誘導体が挙げられる。好ましいピリジン系化合物としては、ピリジン、2,3−ジメチルピリジン、3,5−ジメチルピリジンが挙げられ、より好ましいピリジン系化合物としては、ピリジンが挙げられる。好ましいピリジンの置換誘導体としては、ニコチン酸、イソニコチン酸、ニコチンアミド、ニケトアミドが挙げられ、より好ましいピリジンの置換誘導体としては、ニコチンアミドが挙げられる。
上記した含窒素有機化合物は単独で用いてもよく、これらのうちの2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本発明において、式(4C)又は式(4M)で表されるエチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物(5)から構成される結晶(1)は、両者を混合し十分に接触させることにより製造することができる。結晶(1)を製造する際の含窒素有機化合物の使用量は、エチレンジカルボン酸誘導体の1当量に対して、含窒素有機化合物は、0.1〜50当量が好ましく、0.2〜15当量がより好ましく、0.5〜3当量が特に好ましい。
【0056】
特に含窒素有機化合物が液体である場合は、エチレンジカルボン酸誘導体に対して、溶媒として使用することもでき、エチレンジカルボン酸誘導体が液体である場合は、含窒素有機化合物に対して、溶媒として使用することもできる。
【0057】
結晶(1)を製造する際の温度は特に限定されないが、−78℃から反応混合物の還流温度まで任意に設定できる。なかでも、−30〜70℃が好ましく、−20〜40℃がより好ましい。
結晶(1)を製造する際の圧力は、加圧、常圧、又は減圧のいずれでもよいが、0.5〜10atmが好ましく、0.9〜2atmがより好ましい。
【0058】
結晶(1)を製造する際の式(4C)又は式(4M)で表されるエチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物(5)とを混合する方法は、両者を直に混合する方法、溶媒を用いて混合する方法等が使用できる。
両者を直に混合する方法としては、捏和法、混合粉砕法等が使用できる。捏和法は、一方が固体であり、他方が液体の場合の混合に適用でき、少量の場合には乳鉢、大量の場合には捏和機、有機合成用の反応容器、撹拌機等を使用できる。
エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物のいずれも固体の場合、混合粉砕法が適用でき、少量の場合には乳鉢、大量の場合には粉砕機等を使用できる。捏和法又は混合粉砕法での混合の際、中和反応等による発熱を伴う場合があるので、乳鉢、反応容器等を冷却しながら実施することもできる。
【0059】
エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物とを溶媒を用いて混合する方法としては、溶媒を用いた温度制御法、溶媒蒸発法、溶媒留去法、貧溶媒添加法、溶液−溶液混合法、懸濁液−溶液混合法、懸濁液−懸濁液混合法等が使用できる。又、これらの混合の際、溶解や中和反応等による発熱を伴う場合があるので、反応容器等を冷却しながら実施することもできる。
【0060】
上記の溶媒を用いた温度制御法による結晶(1)の製造方法は、はじめに、エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物との反応混合物を溶媒に溶解させておき、高温と低温の溶解度の差を利用して結晶を得る方法である。
【0061】
上記の溶媒を用いた溶媒蒸発法又は溶媒留去法による結晶(1)の製造方法は、はじめに、エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物との反応混合物を溶媒に溶解させておき、溶媒を蒸発又は留去させる方法であり、ゆっくり蒸発させた場合、良好な結晶を得られることが多い。溶媒を留去する場合は、ロータリーエバポレーター等を使用できる。1種類の溶媒からは良好に結晶化できないときは混合溶媒を使用することもできる。
【0062】
溶媒を用いた貧溶媒添加法による結晶(1)の製造方法は、はじめに、エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物との反応混合物を溶媒に溶解させておき、貧溶媒を添加することで、結晶を得る方法である。用いる溶媒によって、エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物との反応混合物の一部が溶解せず、液体中に固体粒子が分散しているスラリーになることがある。
【0063】
溶媒を用いた溶液及び懸濁液による結晶(1)の製造方法について、以下に説明する。はじめに、エチレンジカルボン酸誘導体を溶媒に溶解させた溶液Aを調製する。同様に含窒素有機化合物の溶液Bを調製する。さらに、エチレンジカルボン酸誘導体を溶媒に懸濁させた懸濁液Aを調製し、同様に含窒素有機化合物の懸濁液Bを調製する。上記の溶液と懸濁液から、エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物の溶液又は懸濁液をそれぞれ選択して混合することで結晶を得る方法である。以下に記載するように、混合は液を同時に滴下する方法、順番に滴下する方法、又は順番を逆にして滴下する方法等がある。その際の用いる溶媒は、1種類のみならず、複数の溶媒を混合した溶媒も利用できる。
【0064】
エチレンジカルボン酸誘導体の溶液A及び懸濁液Aの濃度は、結晶(1)が生成する反応を阻害しない限り特に制限はないが、0.01〜100mol/Lが好ましく、0.05〜10mol/Lがより好ましく、0.2〜3mol/Lが特に好ましい。
含窒素有機化合物の溶液B及び懸濁液Bの濃度は、結晶(1)が生成する反応を阻害しない限り特に制限はないが、0.01〜100mol/Lが好ましく、0.05〜10mol/Lがより好ましく、0.2〜3mol/Lが特に好ましい。
【0065】
溶液−溶液混合法は、上記の溶液Aと溶液Bとを混合することで結晶(1)を得る方法である。その際の混合は、溶液Aと溶液Bとを同時に滴下する方法を同時滴下とし、溶液Aを溶液Bへ滴下する方法を順滴下とし、溶液Bを溶液Aへ滴下する方法を逆滴下とする。
懸濁液−溶液混合法は、上記の溶液Aと懸濁液Bとを混合するか、又は懸濁液Aと溶液Bとを混合することで結晶(1)を得る方法である。その際の混合は、同時滴下、順滴下又は逆滴下から選択できる。
懸濁液−懸濁液混合法は、上記の懸濁液Aと懸濁液Bとを混合することで結晶(1)を得る方法である。その際の混合は、同時滴下、順滴下又は逆滴下から選択できる。
【0066】
本発明では、上記の方法を任意の順番で組み合わせて実施することもできる。例えば、この貧溶媒添加法に、溶媒留去法や溶媒を用いた温度制御法を任意の順番で組み合わせて実施することもでき、結晶(1)を製造する条件を構築できる。
【0067】
溶媒を用いた結晶(1)の製造方法において、溶液又は懸濁液の撹拌効率は高い方が良い。その際に用いることができる撹拌装置について以下に説明するが、下記記載に限定されるものではない。装置としては捏和機、有機合成用の反応容器、撹拌機、超音波発生器、フローリアクターの混合器等が挙げられる。具体的には、マグネチックスターラーバーとマグネチックスターラーによる撹拌、撹拌翼による撹拌、不活性ガスのバブリングによる撹拌、遠心式撹拌体による撹拌、反応容器中に配置できるバッフル等が挙げられる。撹拌翼については、プロペラ翼、パドル翼、マックスブレンド翼(登録商標)、ディスクタービン翼、フルゾーン翼(登録商標)等が挙げられ、マックスブレンド翼(登録商標)、ディスクタービン翼、又はフルゾーン翼(登録商標)が好ましい。
【0068】
工程(a)にて製造される結晶(1)は、そのものの性状にもよるが、ろ過などにより単離することもできるし、単離せずに、続く工程(b)における光を照射する環化反応を連続して実施することもできる。本明細書では、後者を工程(a)及び工程(b)の連続化と呼ぶ。
【0069】
上記のエチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物とを溶媒を用いて混合する方法で使用する溶媒は、結晶(1)が生成する反応を阻害しないものであれば特に制限はない。かかる混合の際に用いる溶媒としては、例えば、トルエン、o−キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等のアミン系溶媒、ピリジン、ピコリン等のピリジン系溶媒、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸エチル等のエステル系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸エステル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、エチレングリコールジアセテート、酢酸、水等が挙げられる。
【0070】
なかでも、好ましい溶媒としては、トルエン、o−キシレン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、o−ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピリジン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルイソブチルケトン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、アセトニトリル、エチレングリコールジアセテート、又は酢酸が挙げられる。さらに好ましい溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、テトラヒドロフラン、ピリジン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、メタノール、エタノール、炭酸ジメチル、又は酢酸が挙げられる。これらの溶媒は単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0071】
工程(a)にて製造される結晶(1)の代表的な例として、後記する実施例1で得られる、ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)について、Cu−Kα放射線を使用する粉末X線回折においてピーク値を示す回折角2θの値(単にピーク値ともいう。)を〔表1〕に示す。
〔表1〕
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2θ= 12.58, 15.05, 16.08, 17.60, 18.34, 19.20, 21.57, 23.02, 24.50, 26.45, 27.06, 28.10, 30.39, 32.49, 34.71, 35.90, 36.46, 38.43
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0072】
〔表1〕に記載した結晶(8)のピーク値は、以下の実施例1に記載の方法に準じて得られた3つのロットの結晶(8)のピーク値の平均値である。
なお、粉末X線回折のいずれのピークも通常±0.2の誤差を有する。この誤差値を考慮した結晶(8)のピーク値を〔表2〕に示す。
〔表2〕
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2θ= 12.58±0.2, 15.05±0.2, 16.08±0.2, 17.60±0.2, 18.34±0.2, 19.20±0.2, 21.57±0.2, 23.02±0.2, 24.50±0.2, 26.45±0.2, 27.06±0.2, 28.10±0.2, 30.39±0.2, 32.49±0.2, 34.71±0.2, 35.90±0.2, 36.46±0.2, 38.43±0.2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0073】
次に、結晶(8)の粉末X線回折ピークのうち、特に特徴的なピーク値を〔表3〕に示す。
〔表3〕
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2θ= 12.58, 15.05, 16.08, 17.60, 19.20, 21.57, 23.02, 24.50, 26.45, 27.06, 28.10, 32.49, 35.90, 36.46, 38.43
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
誤差値を考慮した結晶(8)の特徴的なピーク値を〔表4〕に示す。
〔表4〕
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2θ= 12.58±0.2, 15.05±0.2, 16.08±0.2, 17.60±0.2, 19.20±0.2, 21.57±0.2, 23.02±0.2, 24.50±0.2, 26.45±0.2, 27.06±0.2, 28.10±0.2, 32.49±0.2, 35.90±0.2, 36.46±0.2, 38.43±0.2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0074】
工程(b):エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物から構成される結晶(1)に光を照射して環化反応を行う1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸の製造
【0075】
【化7】
【0076】
本工程(b)では、エチレンジカルボン酸誘導体と含窒素有機化合物とからなる結晶(1)に光を照射し、結晶中のエチレンジカルボン酸誘導体の二重結合に対して環化反応を行うことにより、式(2)で表される1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸を製造する。式中のRは上記したとおりである。
本発明における光を照射する環化反応は、結晶中、即ち固相中での反応であり、出発原料は固体状態であるため、原子や分子の移動が著しく制限された環境で起こることが特徴である。
【0077】
本発明における結晶(1)に光を照射する環化反応の光源の波長としては、好ましくは280〜600nmであり、より好ましくは290〜600nmであり、更により好ましくは300〜580nmである。
光源としては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、気体レーザー光、液体レーザー光、固体レーザー光、太陽光、発光ダイオード等が挙げられる。なかでも、高圧水銀ランプ、又は発光ダイオードが好ましく、高圧水銀ランプが特に好ましい。
【0078】
光源は、冷却するためにジャケットに収容することが好ましく、その際のジャケットの材質しては、石英ガラス、パイレックス(登録商標)、ハリオガラス、モリブデンガラス、ソーダガラス、鉛ガラス、タングステンガラス、VYCOR(登録商標)、合成石英ガラス(SUPRA SIL)等が挙げられる。好ましいジャケットの材質としては、石英ガラス、パイレックス、ハリオガラス、モリブデンガラス等であり、より好ましいジャケットの材質としては、パイレックスである。
【0079】
本発明における、結晶(1)に光を照射する環化反応における光源の照射方法としては、例えば、光源を反応器の内側に設置する内部照射や、反応器の外側に設置する外部照射等が使用できる。
具体的な光源の照射方法としては、結晶(1)に直接、光照射する方法や、結晶(1)を溶媒中に分散させたスラリーに光を照射する方法などがある。スラリーに光を照射する場合は、光源を反応容器の内部に設置する内部照射と、反応容器の外側に設置する外部照射のいずれも使用できる。
【0080】
結晶(1)に光を照射する環化反応における雰囲気は、大気、通常の空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。なかでも、大気、空気、窒素又はアルゴンが好ましく、大気又は窒素が特に好ましい。
結晶(1)に光を照射し環化反応を実施する際の反応温度は、特に限定されるものではないが、−78℃から反応混合物の還流温度までを設定することができる。なかでも、−40〜90℃が好ましく、−20〜50℃がより好ましい。
結晶(1)に光を照射し環化反応を実施する際の反応装置は、特に限定されるものではないが、形状からは、槽型や管型等を使用でき、操作方法からは、回分式、連続式、半回分式等が使用できる。例えば、回分反応器、連続槽型反応器、ピストン流れ反応器、フローリアクター等が挙げられる。
工程(b)において、結晶(1)を溶媒中に分散させたスラリーに光を照射する際、該スラリーの撹拌効率は高い方が好ましい。その際に用いることができる撹拌装置について以下に説明するが、下記に限定されるものではない。装置としては有機合成用の反応容器、撹拌機、超音波発生器、フローリアクターの混合器等が挙げられる。具体的には、マグネチックスターラーバーとマグネチックスターラーによる撹拌、撹拌翼による撹拌、不活性ガスのバブリングによる撹拌、遠心式撹拌体による撹拌、反応容器中に配置できるバッフル等が挙げられる。撹拌翼については、プロペラ翼、パドル翼、マックスブレンド翼(登録商標)、ディスクタービン翼、フルゾーン翼(登録商標)等が挙げられ、スラリーに対して撹拌効率の良い撹拌翼が好ましく、マックスブレンド翼(登録商標)、ディスクタービン翼、又はフルゾーン翼(登録商標)がより好ましい。
【0081】
本発明における結晶(1)に光を照射する環化反応は、光増感剤の存在下で行うこともできる。光増感剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、アセトン、ブタン−2,3−ジオン、ジュレン、ベンゾニトリル、ブチロフェノン、プロピオフェノン、アセトフェノン、キサントン、4−メトキシアセトフェノン、4’−アセチルアセトフェノン、アントロン、ベンズアルデヒド、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ベンゾフェノン、フルオレン、トリフェニレン、ビフェニル、チオキサントン、アントラキノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、フェナントレン、ナフタレン、4−フェニルアセトフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、2−ヨードナフタレン、1,2−ジデヒドロアセナフチレン、2−ナフトニトリル、1−ヨードナフタレン、1−ナフトニトリル、クリセン、コロネン、ベンジル、フルオランテン、ピレン、1,2−ベンゾアントラセン、アクリジン、アントラセン、ペリレン、テトラセン、2−メトキシナフタレン、2−アセチルナフタレン、1,4’−ジシアノナフタレン、9−シアノアントラセン、9,10−ジシアノアントラセン、9,10−ジブロモアントラセン、2,6,9,10−テトラシアノアントラセン等が挙げられる。
【0082】
なかでも、好ましい光増感剤は、ベンゼン、トルエン、アセトン、ブタン−2,3−ジオン、ベンゾニトリル、ブチロフェノン、プロピオフェノン、アセトフェノン、キサントン、4−メトキシアセトフェノン、4’−アセチルアセトフェノン、アントロン、ベンズアルデヒド、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ベンゾフェノン、フルオレン、トリフェニレン、ビフェニル、チオキサントン、アントラキノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、フェナントレン、ナフタレン、4−フェニルアセトフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、1,2−ジデヒドロアセナフチレン、ベンジル、ピレン、アクリジン、アントラセン、ペリレン、2−アセチルナフタレン又は9,10−ジブロモアントラセンである。
【0083】
本発明における結晶(1)に光を照射する環化反応において、結晶(1)をスラリーとして調製するための溶媒としては、例えば、トルエン、o−キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、2−メチルペンタン、オクタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等のアミン系溶媒、ピリジン、ピコリン等のピリジン系溶媒、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸エチル等のエステル系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸エステル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、エチレングリコールジアセテート、酢酸、無水酢酸、水等が挙げられる。
【0084】
なかでも、結晶(1)をスラリーとして調製するために使用する好ましい溶媒は、トルエン、o−キシレン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、o−ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ピリジン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、メチルイソブチルケトン、又は炭酸ジメチルである。これらの溶媒は単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0085】
本発明において、結晶(1)をスラリーとして、光を照射して環化反応する利点は、溶液中で分散した結晶に対して光を効率よく照射できる点や、光反応実施中の反応温度の制御が容易にできる点などが挙げられる。この場合、結晶(1)のスラリーを調製する際の濃度としては、0.001〜100mol/Lが好ましく、0.01〜10mol/Lがより好ましく、0.05〜3mol/Lが特に好ましい。
【0086】
工程(c):1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物の製造
【0087】
【化8】
【0088】
工程(c)では、式(2)で表される1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸を出発原料にして、脱水縮合反応により、式(3)で表される1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物を製造する。式中のRは上記したとおりである。
【0089】
かかる工程(c)の反応は、既知の方法、例えば、Synthetic Communications,1989年,19(3-4)巻,679-688頁、Synthetic Communications,1987年,17(3)巻,355-368頁、Synthetic Communications,2003年,33(8)巻,1275-1283頁等に記載の方法に準じて実施することができる。
本発明における工程(c)の脱水縮合反応に用いる縮合剤としては、例えば、無水酢酸、塩化チオニル、塩化アセチル等が挙げられる。又、縮合剤は溶媒として用いることもできる。
工程(c)の脱水縮合反応の際に用いる溶媒としては、反応の進行を阻害しないものであれば特に制限はなく、例えば、トルエン、酢酸エチル、無水酢酸、塩化チオニル、塩化アセチル、ピリジン等が挙げられる。これらの溶媒は単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。又、無溶媒でも、該脱水縮合反応は実施できる。
【0090】
工程(c)の脱水縮合反応の反応温度は、−60℃から反応混合物の還流温度までの任意の温度を設定することができる。なかでも、好ましくは−20〜230℃であり、より好ましくは、0〜150℃である。
工程(c)の無溶媒で行う脱水縮合反応の反応温度は、100℃から出発原料の熱分解温度までの任意の温度を設定することができる。好ましい反応温度は100〜230℃である。
【実施例】
【0091】
以下に、本発明の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例で用いた分析装置、光反応用の光源は以下のとおりである。
NMR:
ECX 300 (JEOL 社製):1H-NMR、13C-NMR
ケミカルシフト値は、内部標準物質としてMe4Si(テトラメチルシラン)を用いて重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)溶媒にて測定した。
JNM-ECA 500 (JEOL 社製):定量1H-NMR(13Cデカップリング1H測定)
標準物質としてマレイン酸を用いて重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)溶媒にて測定した。
AVANCE III 500 (Bruker 社製):固相13C-NMR
標準物質としてアダマンタンを用いて測定した。
【0092】
ガスクロマトグラフ(GC):
GC: 6890 series GC (Hewlett Packard 社製)
ガスクロマトグラフ−高分解能質量分析(GC−HRMS):
GC: 7890A (Agilent 社製), MS: GCT Premier (Waters 社製)
【0093】
単結晶X線構造解析:
SMART APEX II ULTRA (Bruker 社製)
粉末X線回折:
MiniFlex600 (Rigaku 社製)
赤外吸収(IR):
FT-IR ALPHA (Bruker Optics 社製)
【0094】
光源:100W高圧水銀ランプとしては、セン特殊光源社製の電源:HB100P−1(5/6)、光源:HL100CH−4を使用し、400W高圧水銀ランプとしては、セン特殊光源社製の電源:HB400P−1、光源:HL400B(L/H/S)−8を使用し、450W高圧水銀ランプとしては、ウシオ電機社製のUM−452を使用した。キセノンランプとしては、ウシオ電機社製のUV−XEFL(主波長ピーク290nm、4.5W〔1.5W/cmの長さ3cm分を使用〕)、及びUV−XEFL(主波長ピーク320nm、4.5W〔1.5W/cmの長さ3cm分を使用〕)を使用した。
【0095】
超音波洗浄機:
US-18KS(エスエヌディ社製)
カールフィッシャー水分計:
MKC-510 (京都電子工業社製)
液体クロマトグラフ(HPLC):
HPLC: Prominence (島津製作所社製)
【0096】
実施例1−1:ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)の製造(その1)
【0097】
【化9】
【0098】
シトラコン酸(3.11g,23.90mmol)及びピリジン(1.89g,23.89mmol)を順次、乳鉢に添加し、生成する固体を乳棒で5分間すりつぶしながら十分に混合し、ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)を白色固体(4.79g)として得た(収率96%)。
【0099】
ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)について、以下の分析を行った。
固相13C-NMR:
4mm CP/MAS probe, 13C,CP/TOSS法, 接触時間4ms, 回転数8kHz,
外部基準試料 adamantane (29.472 ppm)
δ172.4, 168.4, 144.4, 144.4, 142.5, 140.1, 134.2, 129.8, 127.9, 25.8 ppm
FT-IR:
図1は結晶(8)のFT-IRのチャートである。
粉末X線回折:
<粉末X線回折の分析条件>
X線:Cu−Kα
電圧:40kV
電流:15mA
ステップ幅:0.020deg
スキャン範囲:2θ=3〜40deg
図2は結晶(8)の粉末X線回折のチャートである。かかる粉末X線回折のチャートから読みとれる粉末X線回折のピーク値は以下のとおりである。
2θ= 12.56, 15.03, 16.06, 17.58, 18.29, 19.21, 21.55, 22.99, 24.50, 26.43, 27.04, 28.08, 30.33, 32.48, 34.69, 35.87, 36.44, 38.43
【0100】
実施例1−2:結晶(8)の製造(その2)
シトラコン酸(130.1mg,1.00mmol)、ピリジン(80.6μL,1.00mmol)及びメタノール(2mL)を順次、ねじ口瓶(マルエム社製のスクリュー管)に添加し、該反応混合物を混合して溶解させた。次に、該反応混合物の入ったねじ口瓶の口をガーゼで覆って、稼働させたドラフトチャンバー内に64時間、20℃から25℃にて静置させ、メタノールを蒸発させることで、ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)を白色固体(197.2mg)として得た(収率94%)。
【0101】
ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)について、以下の分析を行った。
粉末X線回折:
<粉末X線回折の分析条件>は、実施例1−1に記載の条件と同様である。結晶(8)の粉末X線回折のピーク値を以下に示す。
2θ= 12.56, 15.04, 16.08, 17.58, 18.33, 19.14, 21.55, 23.01, 24.43, 26.42, 27.03, 28.07, 30.40, 32.48, 34.70, 35.88, 36.44, 38.42
【0102】
単結晶X線構造解析:
Bruker 社製の単結晶X線回折計SMART APEX II ULTRAを使用して、Cu-Kα線(波長:1.54178 Å)で、-50℃に冷却して測定した。X線回折データの積分処理はSAINT ソフトウェアを使用し、空間群決定及び結晶構造解析はSHELXTL-97 プログラムを用いて、上記白色固体である結晶(8)の単結晶X線構造解析を行った。表5に、結晶(8)の結晶データ及び構造精密化を示す。
<単結晶X線構造解析の分析条件>
X線:Cu−Kα
電圧:50kV
電流:24mA
測定温度:−50℃
【0103】
<結晶(8)の結晶データ及び構造精密化>
【0104】
結晶(8)の単結晶X線構造解析結果を基に、図3には、シトラコン酸のアニオンとピリジニウムとのパッキング構造をシリンダーモデルで単位格子とともに示した。
図3において、炭素原子は黒色、水素原子は白色、窒素原子及び酸素原子は図中に元素記号で表し、図中の2本の点線は、最も近接する二重結合どうしを示す。
更に、結晶(8)の単結晶X線構造解析結果を基に、図4には、結晶(8)中のシトラコン酸のアニオンどうしの配置のみをオルテップ図として示した。
【0105】
上記の単結晶X線構造解析の結果より、結晶(8)は、モル比が1:1のシトラコン酸のアニオンとピリジニウムとの2種類のみの構成要素から成る結晶であった。
更に、図4の結果より、結晶(8)の結晶構造においては、最も近接する二重結合は相互に平行に位置しており、下記の式(8A)で示す平行な二重結合間の距離L1は、4.12Åであった。
【0106】
【化10】
【0107】
実施例1−3:結晶(8)の製造(その3)
反応容器にヘプタン(28mL)及びピリジン(1.87mL,23.25mmol)を添加し、得られる溶液を20℃から25℃に保った。次に、該溶液に酢酸エチル(28mL)に溶解させたシトラコン酸(2.75g,21.14mmol)を10分かけて滴下し、20℃から25℃にて20分撹拌し、ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)のスラリーを調製した。撹拌を停止させた後、ろ過した固体を、ヘプタン(15mL)と酢酸エチル(15mL)との混合溶媒で洗浄し、続いて、ヘキサン(30mL)で洗浄し、真空乾燥した。これにより、ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)を白色固体(4.14g)として得た(収率94%)。
【0108】
ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)について、以下の分析を行った。
粉末X線回折:
<粉末X線回折の分析条件>は、実施例1−1に記載の条件と同様である。結晶(8)の粉末X線回折のピーク値を以下に示す。
2θ= 12.61, 15.08, 16.11, 17.64, 18.39, 19.26, 21.61, 23.05, 24.57, 26.51, 27.12, 28.15, 30.43, 32.53, 34.74, 35.94, 36.50, 38.44
【0109】
上記の粉末X線回折の結果より、実施例1−1〜1−3で得られた結晶は同一のものとみなせる。また、上記の式(8)は、ピリジンとシトラコン酸から構成されるところのピリジン・シトラコン酸(1:1)の結晶を表す。
【0110】
実施例2−1:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造(その1)
【0111】
【化11】
ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)(100.0mg,0.478mmol)をガラス製シャーレに広げて載せ、シャーレの蓋をした。該シャーレを25℃に設定したクールプレートの上に置いて、100Wの高圧水銀ランプで50時間、光を照射して環化反応を行った。シャーレと光源との距離は1cmとした。反応を停止させた後、淡黄色固体(80.2mg)として反応混合物を回収した。該反応混合物の分析により、目的化合物(13a)の収率は83%、転化率は94%、選択性は>99%であった。収率は標準品にマレイン酸を用いた定量1H-NMRにて決定した。又、転化率及び選択性は、GC分析における目的化合物、不要なジアステレオマー、原料に由来するピークの相対面積比から算出した。
【0112】
上記環化反応における転化率及び選択性を求めるためのGCサンプルの調製についての概要を(式A)に示す。
【0113】
【化12】
【0114】
転化率及び選択性を求めるため、結晶(8)を用いる光環化反応後に反応混合物の一部を採取し、後記するGCサンプル調製法Bを行い、目的化合物(13a)及び該ジアステレオマーから、化合物(14a)及び該ジアステレオマーへと誘導した後、GC分析及びGC−HRMS分析を行った。
次に目的化合物(13a)のジアステレオマーに相当する副生成物をGC分析で追跡するため、結晶(8)を用いる光環化反応とは異なる方法で、シトラコン酸無水物(11)を出発物質にした溶液中の光環化反応を工程(z)として行うことで、化合物(12a)及び該ジアステレオマーを合成した。後記するGCサンプル調製法Aを行い、化合物(12a)及び該ジアステレオマーに対して、加水分解反応、続いてメチルエステル化反応を行うことで、目的化合物(13a)及び該ジアステレオマーを経由して、化合物(14a)及び該ジアステレオマーへと誘導した後、GC分析及びGC−HRMS分析を行った。なお、シトラコン酸無水物の溶液中での光を照射する環化反応についての詳細は、参考例にて後記する。
【0115】
GC分析条件及びGC−HRMS分析条件を記載する。
<GC分析条件>
カラム:TC−5(0.53mm×30m、膜厚1.5μm)
キャリアガス:ヘリウム
流量:3.3mL/min(定流量)
スプリット比:1/10、試料注入量:3μL
カラム温度:80℃(2分保持),昇温速度:10℃/分,250℃(11分保持)
注入口温度:280℃
検出器温度:280℃
【0116】
<GC−HRMS分析条件>
カラム:DB−5(0.25mm×30m、膜厚0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム
流量:1mL/min(定流量)
スプリット比:1/50、試料注入量:0.2μL
カラム温度:80℃(3分保持),昇温速度:25℃/分,250℃(7.2分保持)
注入口温度:280℃
イオン化法:EI,CI+
【0117】
GCサンプル調製法、及び分析結果を記載する。
<GCサンプル調製法A>
該調製法は(式A)に記載した調製工程I、続く調製工程IIである。光を照射する環化反応後、溶媒留去した反応混合物(20mg)をねじ口瓶に採取して、メタノール(3mL)及び0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(2mL)を添加した後、該溶液を20℃から25℃にて20分間、撹拌した。この反応混合物(1mL)をスクリュー管に一部抜き取り、トルエン(0.2mL)を添加した後、ヘキサン溶液のトリメチルシリルジアゾメタン(0.2mL,約0.6mol/L,東京化成工業社製の市販品)を添加して、20℃から25℃にて20分間、撹拌した。この反応混合物の有機層(0.4mL)を一部抜き取り、メタノール(1mL)で希釈した溶液をGC分析サンプルとした。
【0118】
(式A)に示すように、化合物(12a)はGCサンプル調製法Aにて化合物(14a)に誘導される。その分析結果を記載する。
GC分析: 保持時間=18.62分
GC-HRMS分析: m/z calcd for C16H25O8 [M+C2H5]+:345.1549, found 345.1577
化合物(12a)のジアステレオマーは、化合物(12b)、化合物(12c)又は化合物(12d)の一つであり、GCサンプル調製法Aにて化合物(14b)、化合物(14c)又は化合物(14d)の一つに誘導される。その分析結果を記載する。
GC分析: 保持時間=18.97分
GC-HRMS分析: m/z calcd for C16H25O8 [M+C2H5]+:345.1549, found 345.1561
GC−HRMSによる質量数の結果より、化合物(14a)と同一の分子量であるが、GCの保持時間が異なる該ジアステレオマーを確認できた。
【0119】
<GCサンプル調製法B>
該調製法は(式A)に記載した調製工程IIである。光を照射する環化反応を行った後、ろ過操作等で取り出した反応混合物(25mg)を採取して、メタノール(0.5mL)及びトルエン(0.5mL)を添加して溶液を調製した。次に、その溶液にヘキサン溶液のトリメチルシリルジアゾメタン(0.8mL,約0.6mol/L,東京化成工業社製の市販品)を添加して、20℃から25℃にて20分撹拌した。この反応混合物(0.12mL)を一部抜き取り、メタノール(1.5mL)で希釈した溶液をGC分析サンプルとした。
【0120】
化合物(13a)はGCサンプル調製法Bにて化合物(14a)に誘導される。その分析結果を記載する。
GC分析: 保持時間=18.62分
GC-HRMS分析: m/z calcd for C16H25O8 [M+C2H5]+:345.1549, found 345.1542
【0121】
未反応のシトラコン酸はGCサンプル調製法Bにて、(Z)−2−メチル−2−ブテン二酸ジメチルに誘導される。その分析結果を記載する。
GC分析: 保持時間=9.68分
GC-HRMS分析: m/z calcd for C9H15O4 [M+C2H5]+:187.0970, found 187.0972
転化率は、GC分析結果を基にした、(Z)−2−メチル−2−ブテン二酸ジメチル、化合物(14a)及び該ジアステレオマーの相対面積比より算出した。
選択性は、GC分析結果を基にした、化合物(14a)及び該ジアステレオマーの相対面積比より算出した。
【0122】
実施例2−2:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造(その2)
ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)(5.00g,23.90mmol)及び溶媒としてヘキサン(100mL)をマグネチックスターラーで撹拌できる光化学反応実験装置(セン特殊光源社製)に添加し、光源を内部の中央に設置した。反応温度を20℃から25℃にしてスラリーを撹拌し、100Wの高圧水銀ランプで20時間、光を照射する環化反応を行った。反応を停止させた後、ろ過して、白色固体の反応混合物(4.33g)を回収した。該反応混合物の分析により、目的化合物(13a)の収率は94%、転化率は95%、選択性は>99%であった。収率は、標準品にマレイン酸を用いた定量1H-NMRにて決定した。転化率及び選択性は、実施例2−1に記載の方法に準じて分析し、GC分析の各種ピークの相対面積比から算出した。
【0123】
実施例2−3:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造(その3)
ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)(25.00g,119.50mmol)、ヘプタン(200mL)及び酢酸n−ブチル(200mL)をマグネチックスターラーで撹拌できる光化学反応実験装置(セン特殊光源社製)に添加し、光源を内部の中央に設置した。反応温度を20℃から25℃にしてスラリーを撹拌し、400Wの高圧水銀ランプで12時間、光を照射する環化反応を行った。反応を停止させた後、ろ過して、白色固体の反応混合物(19.64g)を回収した。該反応混合物の分析により、目的化合物(13a)の収率は93%、転化率は95%、選択性は>99%であった。収率は該反応混合物の収量と1H-NMRにて算出した。転化率及び選択性は、実施例2−1に記載の方法に準じて分析し、GC分析の各種ピークの相対面積比から算出した。
【0124】
上記の光反応後に得られた白色固体の反応混合物の単離精製を行った。精製については、該反応混合物から10.00gを抜き出して、メタノール(70mL)に溶解させて、ろ過した後、溶媒を留去した。次に、酢酸(45mL)に溶解させた後、該溶液を60℃にて2時間30分撹拌した後、20℃から25℃へ冷却し、ろ過した。その後、得られた固体に含まれる溶媒を留去し、真空ポンプを用いて真空乾燥して、目的化合物(6.12g)を白色固体で得た。1H-NMRにより算出した収率は83%であった。
この得られた目的化合物の一部を採取し、70℃に加熱したアセトニトリルに飽和溶解させた溶液を調製した。次に、該溶液を20℃から25℃に冷却し、静置して再結晶化し、得られた単結晶の単結晶X線構造解析を行った。
【0125】
化合物(13a)の分析
1H NMR(DMSO-d6):
δ12.46(br), 3.30(s,2H), 1.42(s,6H) ppm
13C-NMR (DMSO-d6):
δ175.9, 175.9, 171.5, 171.5, 51.7, 51.7, 44.2, 44.2, 20.7, 20.7 ppm
単結晶X線構造解析:
化合物(13a)の単結晶X線構造解析結果を基に、図5には、化合物(13a)の分子構造をオルテップ図で示した。
【0126】
実施例2−4:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造(その4)
マグネチックスターラーで撹拌できる光化学反応実験装置(セン特殊光源社製)に、酢酸エチル(110mL)及びピリジン(7.49mL,93.01mmol)を添加し、5℃に冷却した。次に、酢酸エチル(110mL)に溶解させたシトラコン酸(11.00g,84.55mmol)を、該反応混合物に30分かけて滴下した。その後、該反応混合物を5℃にて20分撹拌して、ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)のスラリーを調製した。該反応容器に100Wの高圧水銀ランプを挿入し、5℃にて、撹拌しながら22時間、光を照射する環化反応を行った。その後、桐山漏斗にて固体をろ取し、酢酸エチル(30mL)にて洗浄し、真空乾燥して、白色固体の反応混合物(12.82g)を得た。該反応混合物の分析により、目的化合物(13a)の収率は93%、転化率は95%、選択性は>99%であった。収率は該反応混合物の収量と1H-NMRにて算出した。転化率及び選択性は、実施例2−1に記載の方法に準じて分析して、GC分析の各種ピークの相対面積比から算出した。
【0127】
実施例3−1:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造
ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)(200.0mg,0.956mmol)及び溶媒として酢酸エチル(4mL)を、ねじ口瓶(マルエム社製のスクリュー管)に添加してスラリーを調製した。その後、マグネチックスターラーで撹拌できるようにして、光源をねじ口瓶の外部に設置した。ねじ口瓶と光源との距離は4.5cmとした。100Wの高圧水銀ランプで20時間、光を照射する環化反応を、20℃から25℃にて行った。反応を停止させた後、ろ過して、白色固体の反応混合物(116.0mg)を得た。該反応混合物の分析により、目的化合物(13a)の収率は69%、転化率は97%、選択性は>99%であった。収率は該反応混合物の収量と1H-NMRにて算出した。転化率及び選択性は、実施例2−1に記載の方法に準じて分析して、GC分析の各種ピークの相対面積比から算出した。
【0128】
溶媒の酢酸エチルを、表6に記載の溶媒に変更した以外は、実施例3−1に記載の反応と同様の条件で反応を実施した。使用した溶媒、転化率、選択性、収率及び回収時の外観についての実験結果を、実施例3−2〜3−8として、表6に示す。
表6において、AcOn-Buは酢酸n−ブチルを表し、hexane/AcOn-Bu(v/v=1/1)は、ヘキサン(2mL)と酢酸n−ブチル(2mL)の混合溶媒を表し、heptane/AcOn-Bu(v/v=1/1)は、ヘプタン(2mL)と酢酸n−ブチル(2mL)の混合溶媒を表す。
【0129】
〔表6〕
――――――――――――――――――――――――――――――――――
溶媒 転化率 選択性 収率
実施例 (%) (%) (%) 外観
――――――――――――――――――――――――――――――――――
3−2 toluene 83 >99 72 yellow solid
3−3 hexane 84 >99 82 white solid
3−4 heptane 88 >99 87 white solid
3−5 diethyl ether 98 >99 84 white solid
3−6 AcOn-Bu 95 >99 79 white solid
3−7 hexane/AcOn-Bu(v/v=1/1) 91 >99 83 white solid
3−8 heptane/AcOn-Bu(v/v=1/1) 91 >99 83 white solid
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0130】
実施例4:(3aR,3bR,6aS,6bS)−3a,6a−ジメチルシクロブタ[1,2−c:3,4−c’]ジフラン−1,3,4,6(3aH,3bH,6aH,6bH)−テトラオン(12a)の製造
【0131】
【化13】
【0132】
[工程(a)及び工程(b)の連続化]
工程(a)として、ピリジン(60mL)、次いでシトラコン酸(15.55g,119.52mmol)の順番で、マグネチックスターラーで撹拌できる光化学反応実験装置(セン特殊光源社製)に添加し、20℃から25℃にて10分間撹拌した。攪拌終了後、溶媒としてヘプタン(175mL)及び酢酸n−ブチル(175mL)を添加し、30分間撹拌し、ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)のスラリーを調製した。次に、光源を該反応容器の内部の中央に設置し、工程(b)として、工程(a)で得られた結晶(8)のスラリーを、20℃から25℃にて、400Wの高圧水銀ランプで8時間光を照射しつつ攪拌した。光の照射を止めることにより反応を停止した後、得られたスラリーをろ過して、白色固体の反応混合物を得た。該反応混合物の分析により、目的化合物(13a)の転化率は97%、選択性は>99%であった。転化率及び選択性は、実施例2−1に記載の方法に準じて分析して、GC分析の各種ピークの相対面積比から算出した。
光反応後に得られた粗物の化合物(13a)の精製を行うため、該反応混合物をテトラヒドロフラン(250mL)に溶解させ、ろ過した後、溶媒を留去した。次に、酢酸(40mL)及び酢酸n−ブチル(40mL)の混合溶媒を用いて懸濁洗浄を行い、再びろ過した。その後、真空ポンプを用いて真空乾燥して、精製した化合物(13a)を得た。
【0133】
[工程(c)]
上記の精製後の化合物(13a)、トルエン(60mL)及び無水酢酸(31.8mL,336.4mmol)を反応容器に添加し、100℃にて3時間撹拌した。攪拌終了後、反応容器を20℃から25℃に冷却することにより、反応を停止した。得られた反応混合物をろ過した後、得られた固体をエーテル溶媒を用いて洗浄し、真空ポンプを用いて真空乾燥して、目的化合物(12a)(11.36g)を白色固体で得た。1H-NMRにより算出した、出発原料のシトラコン酸からの通算収率は85%であった。この得られた目的化合物の一部を採取して、単結晶X線構造解析を行った。
【0134】
化合物(12a)の分析結果は以下のとおりである。
1H NMR(DMSO-d6):
δ3.88(s,2H), 1.38(s,6H) ppm
13C-NMR (DMSO-d6):
δ173.5, 173.5, 168.1, 168.1, 49.0, 49.0, 44.1, 44.1, 15.7, 15.7 ppm
単結晶X線構造解析:
化合物(12a)の単結晶X線構造解析結果を基に、図6には、化合物(12a)の分子構造をオルテップ図で示した。
【0135】
実施例5:光増感剤を用いた(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造
【0136】
【化14】
【0137】
光増感剤としてベンゾフェノン(21.78mg,0.12mmol)及び溶媒としてヘプタン(10mL)をねじ口瓶(マルエム社製のスクリュー管)に添加した。ベンゾフェノンの溶解を確認した後、ねじ口瓶にピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)(500.0mg,2.39mmol)を添加してスラリーを調製した。調製終了後、マグネチックスターラーで撹拌できるようにして、光源をねじ口瓶の外部に設置した。ねじ口瓶と光源との距離は4.5cmとした。100Wの高圧水銀ランプで5時間30分、光を照射する環化反応を20℃から25℃にて行った。光の照射を止めることにより反応を停止させた後、得られたスラリーをろ過して、白色固体の反応混合物(471.9mg)を得た。該反応混合物の分析により、目的化合物(13a)の転化率は34%、選択性は>99%であった。転化率及び選択性は、実施例2−1に記載の方法に準じて分析して、GC分析の各種ピークの相対面積比から算出した。
【0138】
実施例6:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造
【0139】
【化15】
【0140】
工程(a)
メサコン酸(6M)(130.1mg,1.00mmol)、メタノール(2mL)及びニコチンアミド(9)(122.1mg,1.00mmol)を順次、ねじ口瓶(マルエム社製のスクリュー管)に添加し、該反応混合物を混合して溶解させた。次に、該反応混合物の入ったねじ口瓶の口をガーゼで覆って、稼働させたドラフトチャンバー内に64時間、20℃から25℃にて静置させ、メタノールを蒸発させることで、ニコチンアミドとメサコン酸から構成される結晶(10)を白色固体として得た。上記の式(10)は、ニコチンアミドとメサコン酸から構成されるところのニコチンアミド・メサコン酸の結晶を表す。
【0141】
工程(b)
ニコチンアミドとメサコン酸から構成される結晶(10)(100.0mg,0.396mmol)をガラス製シャーレに広げて載せた。シャーレの蓋をして、25℃に設定したクールプレートの上に置き、シャーレと光源との距離を3cmに設定した後、100Wの高圧水銀ランプで20時間光を照射した。光の照射を止めることで反応を停止させた後、白色固体として反応混合物を回収した。該反応混合物の分析により、目的化合物(13a)の転化率は23%、選択性は>99%であった。転化率及び選択性は、実施例2−1に記載の方法に準じて分析して、GC分析の各種ピークの相対面積比から算出した。原料にメサコン酸を用いており、GCサンプル調製では、未反応のメサコン酸は(E)−2−メチル−2−ブテン二酸ジメチルに誘導される。よって、(E)−2−メチル−2−ブテン二酸ジメチルのピークを原料由来のピークとして扱った。
【0142】
実施例7−1:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造(その1)
【化16】
【0143】
[工程(a)及び工程(b)の連続化]
撹拌装置としてマグネチックスターラーを用いる光化学反応実験装置(セン特殊光源社製)を使用した。該装置の反応容器に、炭酸ジメチル(110mL)、次いでピリジン(7.49mL,93.01mmol)の順番で添加し、10℃に冷却した。冷却終了後、該反応溶液に、炭酸ジメチル(110mL)に溶解させたシトラコン酸(11.00g,84.55mmol)を、30分かけて滴下した。滴下終了後、該反応混合物を10℃にて20分撹拌した。撹拌終了後、ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)のスラリーを得た。得られた結晶(8)は単離・精製を行わずに、そのまま次工程に使用した。該スラリーを10℃にて撹拌し、100Wの高圧水銀ランプで17時間、光を照射した。反応終了後、反応混合物中の固体を漏斗にてろ別した後、炭酸ジメチル(30mL)にて洗浄した。得られた固体を真空乾燥することにより、目的物14.23gを白色固体として得た。該白色固体の分析により、目的化合物(13a)の収率は88%、転化率は94%、選択性は>99%であった。収率は該反応混合物の収量と1H-NMR分析により算出した。転化率及び選択性は、実施例2−1に記載の方法に準じて、GC分析の各種ピークの相対面積比から算出した。
【0144】
実施例7−2:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造(その2)
[工程(a)及び工程(b)の連続化]
撹拌装置としてマグネチックスターラーを用いる光化学反応実験装置(セン特殊光源社製)を使用した。該装置の反応容器に、酢酸エチル(110mL)及びピリジン(14.98mL,186.02mmol)を添加し、5℃に冷却した。冷却終了後、該反応溶液に酢酸エチル(110mL)に溶解させたシトラコン酸(22.00g,169.10mmol)を、30分かけて滴下した。滴下終了後、該反応混合物を5℃にて20分撹拌した。撹拌終了後、ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)のスラリーを得た。得られた結晶(8)は単離・精製を行わずに、そのまま次工程に使用した。該スラリーを5℃にて撹拌し、100Wの高圧水銀ランプで33時間光を照射した。光照射後の反応混合物中の水分量は、カールフィッシャー水分計(MKC−510、京都電子工業社製)にて測定した結果、1570ppmであった。反応終了後、反応混合物中の固体を漏斗にてろ別した後、酢酸エチル(40mL)にて洗浄した。得られた固体を真空乾燥することにより、目的物26.03gを白色固体として得た。該白色固体の分析により、目的化合物(13a)の収率は93%、転化率は94%、選択性は>99%であった。収率は該反応混合物の収量と1H-NMR分析により算出した。転化率及び選択性は、実施例2−1に記載の方法に準じて分析して、GC分析の各種ピークの相対面積比から算出した。
【0145】
実施例8−1:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造(その1)
【0146】
ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)(100.0mg,0.478mmol)及び酢酸エチル(2mL)を、ねじ口瓶(マルエム社製のスクリュー管)に添加して、スラリーを調製した。調製終了後、該スラリーの入ったねじ口瓶を、光源との距離が5cmとなる様に設置した。設置終了後、光源としてキセノンランプ(主波長ピーク290nm、4.5W)を使用し、スラリーの温度が20℃から25℃を保つ様に、光を2時間照射した。なお、撹拌にはマグネチックスターラーを使用した。撹拌終了後の該スラリーのHPLC分析により、目的化合物(13a)の転化率は3%であった。
【0147】
<HPLC分析条件>
検出器:示差屈折率検出器
カラム:Develosil C30-UG5(内径4.6mm,長さ150mm,粒子径5μm)
溶離液:重量濃度0.2%トリフルオロ酢酸水溶液:アセトニトリル=95:5(体積比)
流速: 1.5mL/分、
カラム温度: 35℃
保持時間:3.06分〔目的生成物(13a)〕,3.39分〔シトラコン酸(6C)〕
【0148】
実施例8−2:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造(その2)
【0149】
ピリジンとシトラコン酸から構成される結晶(8)(300.0mg,1.434mmol)及び酢酸エチル(6mL)をねじ口瓶(マルエム社製のスクリュー管)に添加して、スラリーを調製した。調製終了後、該スラリーの入ったねじ口瓶を、光源との距離が5cmとなる様に設置した。設置終了後、光源としてキセノンランプ(主波長ピーク320nm、4.5W)を使用し、スラリーの温度が20℃から25℃を保つ様に、光を77時間照射した。なお、撹拌にはマグネチックスターラーを使用した。撹拌終了後の該スラリーのHPLC分析により(分析条件は実施例8−1と同様である。)、目的化合物(13a)の転化率は74%であった。
【0150】
実施例9:(1R,2R,3S,4S)−1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸(13a)の製造
【化17】
【0151】
工程(a)及び工程(b)を、フローリアクターを用いて行った。フローリアクターの概略図を図7に示し、フローリアクター中の二重管構造をもつT字型ミキサー(ミキサー2)の断面図を図8に示した。フローリアクターには、内径2mm、外径3mm、及び長さ10mのFEPチューブ(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体から成るフッ素樹脂製のチューブ)を光源のランプジャケットに巻き付けた装置を使用し、該装置を超音波洗浄機に設置した。
【0152】
工程(a):
濃度が0.34mol/Lのシトラコン酸(437.9mg,3.366mmol)の酢酸エチル溶液を調製した。また、濃度が0.34mol/Lのピリジン(266.3mg,3.366mmol)の酢酸エチル溶液を調製した。シトラコン酸の酢酸エチル溶液及びピリジンの酢酸エチル溶液を、各々シリンジポンプを用いて0.9mL/minで送液し、ミキサー1(図7中の21)にて混合した。その後、ミキサー2(図7中の32)にて窒素ガスと混合し、結晶(8)のスラリーと窒素ガスによるスラグ流(スラリーと窒素ガスとが交互に並んだ流れ)を形成させた。なお、ミキサー2は管の閉塞を回避するため、図8に示す二重管構造を有し、50℃にした恒温槽に設置した。
工程(b):
450Wの高圧水銀ランプによる光照射下、更に超音波の照射下で環化反応を行った。スラグ流が、光と超音波の照射部分を11分で通過するようにマスフローコントローラーで調整し、反応を行った。回収した流出液のHPLC分析により、目的化合物(13a)の転化率は34%であった。
【0153】
参考例1
前記の非特許文献2に準じて、シトラコン酸無水物(11)の溶液中での光を照射する環化反応を行った。
【0154】
【化18】
【0155】
シトラコン酸無水物(11)(1.38g,12.31mmol)、溶媒として1,4−ジオキサン(10mL)及び光増感剤としてベンゾフェノン(93.0mg,0.51mmol)をねじ口瓶(マルエム社製のスクリュー管)に添加し、マグネチックスターラーで撹拌できるようにして、光源をねじ口瓶の外部に設置した。ねじ口瓶と光源との距離は4.5cmとした。100Wの高圧水銀ランプで18時間、光を照射する環化反応を、20℃から25℃にて行った。反応を停止させた後、反応混合物の分析により、目的化合物(12a)の転化率は68%、選択性は50%であった。転化率及び選択性はGC分析における各種ピークの相対面積比から算出した。原料にシトラコン酸無水物を用いており、GC分析では、シトラコン酸無水物のピークは原料のピークとして扱った。
GC分析及びGC−HRMS分析用のサンプルの調製方法と分析結果について、以下に記載する。懸濁した反応混合物より、懸濁液(100μL)をサンプリングし、ジメチルスルホキシド(1.5mL)で希釈して分析サンプルとした。
【0156】
目的化合物(12a)の分析結果は、以下のとおりである。
GC分析: 保持時間=15.60分
GC-HRMS分析: m/z calcd for C10H9O6 [M+H]+:225.0399, found 225.0386
目的化合物(12a)のジアステレオマーの分析結果は、以下のとおりである。
GC分析: 保持時間=15.81分
GC-HRMS分析: m/z calcd for C10H9O6 [M+H]+:225.0399, found 225.0403
GC−HRMSによる質量数の結果より、化合物(12a)と同一の分子量であるが、GCの保持時間が異なる該ジアステレオマーを確認できた。しかしながら、化合物(12a)のジアステレオマーの立体構造の決定はできなかった。目的化合物(12a)のジアステレオマーは、化合物(12b)、化合物(12c)又は化合物(12d)のうちの一つであると推定した。
【0157】
参考例2
前記の特許文献2に記載の方法に準じて、シトラコン酸無水物(11)の溶液中での光を照射する環化反応を行った。
【0158】
【化19】
【0159】
シトラコン酸無水物(11)(1.42g,12.67mmol)及び溶媒として酢酸エチル(10mL)をねじ口瓶(マルエム社製のスクリュー管)に添加し、マグネチックスターラーで撹拌できるようにして、光源をねじ口瓶の外部に設置した。光増感剤の添加は行わず、ねじ口瓶と光源との距離は4.5cmとした。100Wの高圧水銀ランプで60時間、光を照射する環化反応を、20℃から25℃にて行った。反応を停止させた後、反応混合物の溶媒を留去して、真空ポンプを用いて真空乾燥して、白色固体の反応混合物(1.36g)を得た。該反応混合物の分析により、目的化合物(12a)の転化率は88%、選択性は41%であった。GCサンプルの調製法は、前記のGCサンプル調製法Aを使用した。転化率及び選択性は、実施例2−1に記載の方法に準じて分析して、GC分析の各種ピークの相対面積比から算出した。
【0160】
前記の特許文献2及び非特許文献2では、光を照射する環化反応の直後、即ち、精製操作を行う前の目的化合物と不要なジアステレオマーとの選択性についての記載がなかった。上記の参考例の結果より、目的化合物である1,3−ジメチルシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物に対して、不要なジアステレオマーが1倍から1.4倍程度で生成していることが確認された。よって、従来の製造法では、この低い選択性のため、煩雑な精製操作が必要となり、生産効率の面で悪影響を及ぼしていたと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明により得られるシクロブタン環上の二つの置換基が1位及び3位に位置し、且つ該置換基の相対配置がトランスであることを満たす1,3−ジ置換シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸及び該酸二無水物は、ポリイミドなど各種工業用の原料や合成中間体として広範な分野で使用され、有用な化合物である。
なお、2014年5月9日に出願された日本特許出願2014−098037号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0162】
11:化合物(6C)の酢酸エチル溶液が入っているシリンジポンプ
12:化合物(7)の酢酸エチル溶液が入っているシリンジポンプ
21:T字型ミキサー(ミキサー1) 31:恒温槽
32:二重管構造をもつT字型ミキサー(ミキサー2)
33:マスフローコントローラー 34:窒素ガスボンベ
41:超音波洗浄機 42:ランプジャケット 43:光源
44:目的生成物を回収する容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8