特許第6702238号(P6702238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702238
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/14 20060101AFI20200518BHJP
   C04B 7/02 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   C04B7/14
   C04B7/02
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-48773(P2017-48773)
(22)【出願日】2017年3月14日
(65)【公開番号】特開2018-150203(P2018-150203A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2018年12月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(72)【発明者】
【氏名】井戸 利博
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−025635(JP,A)
【文献】 特開2015−078112(JP,A)
【文献】 特開平09−259287(JP,A)
【文献】 特開2010−120787(JP,A)
【文献】 特表2013−510784(JP,A)
【文献】 特開2016−088768(JP,A)
【文献】 特開2014−189456(JP,A)
【文献】 社団法人セメント協会,セメントの常識,日本,社団法人セメント協会,1998年11月,第7頁、表3、図5、第13頁、表5
【文献】 中川裕太,高エーライト系混合セメントの流動性に及ぼす遊離石灰と混合材の影響,セメント・コンクリート論文集,社団法人セメント協会,2015年,69巻,第10−11頁
【文献】 市川牧彦,セメントの強さ、色に関連したクリンカー構成鉱物のキャラクターとプロセス条件,名古屋工業大学学術機関リポジトリ,1997年,45−47頁
【文献】 森 仁明,高炉セメントの水和熱、強度に及ぼすスラグ配合量、セメント粉末度、セッコウ添加量などの影響について,セメント技術年報,社団法人日本セメント技術協会,1960年 3月 1日,XIII(昭和34年),170−179頁
【文献】 安藤重裕、野村博史、関広真紀,流動層セメント焼成システムにて製造されたクリンカーの特徴,セメント・コンクリート論文集,日本,社団法人 セメント協会,2012年 2月25日,65巻,529−535頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02、40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーグ式で算出されるCSが50〜65質量%、Sが15〜25質量%、CAが9〜12質量%、及びCAFが8〜11質量%であり、CS中にM1相を36質量%以下含み、JCAS I−01に準拠して測定したフリーライムの含有量が0.8質量%以下であるセメントクリンカと、スラグ粉とを含み、前記スラグ粉の含有量が全質量を基準として5質量%以上49質量%以下である、水硬性組成物。
【請求項2】
全質量を基準としてSO量が1.0〜3.0質量%である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
ブレーン比表面積が3500cm/g以上である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
前記スラグ粉の含有量が全質量を基準として5質量%を超えて49質量%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期の強度発現性の伸び率の大きい、水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカ及びスラグ粉を含む高炉セメントは、普通ポルトランドセメントに比べて、3日材齢程度の初期の強度発現性は低いが、28日材齢以上の長期の強度発現性は、普通ポルトランドセメントと同等程度になることが知られている。スラグ粉を含む水硬性組成物を用いた硬化体の28日材齢以上の長期の強度発現性を改善するために、例えば、水硬性組成物中に含まれるスラグ粉又はセメントのブレーン比表面積を大きくする、スラグ粉の含有量を少なくするなどの物理的な方法が考えられる。
【0003】
しかしながら、スラグ粉やセメントのブレーン比表面積を大きくする場合は、粉砕にエネルギーを要するため、製造コストが高くなる、水硬性組成物の流動性が低下するなどの問題がある。また、スラグ粉の含有量を少なくすると、鉄鋼製造において副産物として生成されるスラグ粉の使用量が低下し、相対的にセメントの含有量が増加するため、製造コストの増加につながるとともに、COの発生量の低減につなげることができないなどの問題がある。
【0004】
水硬性組成物に含まれるセメントクリンカには、鉱物組成として、CS(エーライト)、CS(ビーライト)、CA(アルミネート)、及びCAF(フェライト)が含まれる。スラグ粉又はセメントのブレーン比表面積を大きくする、スラグ粉の使用量を少なくするなどの物理的手段の他に、硬化物の長期の強度発現性に影響を与える要因として、水硬性組成物を構成するセメントの鉱物組成に着目することが考えられる。
【0005】
例えば、特許文献1から4には、セメントクリンカの鉱物組成のうち、CS中のM1相の含有量に着目して、CS中のM1相の含有相が40質量%以上であるセメントクリンカを含み、セメント組成物中のLi含有量などの他の成分の含有量とも関連して、収縮低減性能や初期の強度発現性などに影響を及ぼすことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−231951号公報
【特許文献2】特開2014−189456号公報
【特許文献3】特開2013−147392号公報
【特許文献4】特開2012−025635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、スラグ粉やセメントのブレーン比表面積を大きくする、スラグ粉の使用量を少なくするなどの物理的手段の他に、セメントクリンカの鉱物組成に着目した。本発明は、長期の強度発現性に影響を与える要因として、鉱物組成のうち、CS中のM1相の含有量に着目し、CS中のM1相の含有量が40質量%以下の特定のセメントクリンカを含むことによって、所望の短期の強度発現性を有するとともに、長期の圧縮強さが大きく、かつ、長期の強度発現性の伸び率の大きい水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、セメントクリンカの鉱物組成の1つであるCSの含有量と、CSに含まれる結晶多形のうちM1相の含有量と、フリーライム(f−CaO)量が特定の量のセメントクリンカと、スラグ粉を50質量%未満とを含む水硬性組成物は、所望の短期の圧縮強さを有するとともに、長期の圧縮強さが大きく、かつ、長期の強度発現性の伸び率を大きくすることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0009】
〔1〕ボーグ式で算出されるCSが50質量%以上であり、CS中にM1相を40質量%以下含み、フリーライムの含有量が1.2質量%以下であるセメントクリンカと、スラグ粉とを含み、前記スラグ粉の含有量が全質量を基準として1質量%以上50質量%未満である、水硬性組成物。
〔2〕全質量を基準としてSO量が1.0〜3.0質量%である、前記〔1〕に記載の水硬性組成物。
〔3〕ブレーン比表面積が3500cm/g以上である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の水硬性組成物。
〔4〕前記セメントクリンカのボーグ式で算出されるCSが10〜25質量%、CAが8〜12質量%、及びCAFが8〜12質量%である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の水硬性組成物。
〔5〕前記スラグ粉の含有量が全質量を基準として5質量%を超えて49質量%以下である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の水硬性組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所望の短期の圧縮強さを有するとともに、長期の圧縮強さが大きく、かつ、長期の強度発現性の伸び率の大きい水硬性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適例により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の実施形態に係る水硬性組成物は、ボーグ式で算出されるCSが50質量%以上であり、CS中にM1相を40質量%以下含み、フリーライムの含有量が1.2質量%以下であるセメントクリンカと、スラグ粉とを含み、前記スラグ粉の含有量が全質量を基準として1質量%以上50質量%未満である。
【0012】
〔セメントクリンカ〕
セメントクリンカは、ボーグ式で算出されるCSが50質量%以上であり、CS中にM1相を40質量%以下含み、フリーライム(f−CaO)の含有量が1.2質量%以下である。
セメントクリンカは、鉱物組成として、3CaO・SiOからなるCS(エーライト相)、2CaO・SiOからなるCS(ビーライト相)、3CaO・AlからなるCA(アルミネート相)、4CaO・Al・FeからなるCAF(フェライト相)が含まれる。
【0013】
セメントクリンカに含まれる鉱物組成は、以下の式(1)から(4)に示されるボーグ式から算出することができる。
S=(4.07×CaO)−(7.60×SiO)−(6.72×Al)−(1.43×Fe+2.85×SO) (1)
S=(2.87×SiO)−(0.754×CS) (2)
A=(2.65×Al)−(1.69×Fe) (3)
AF=3.04×F (4)
【0014】
セメントクリンカに含まれる鉱物組成のうち、CSは、短期強度発現性に影響を与えることが知られており、セメントクリンカに含まれるCSが50質量%以上であると、所望の短期の圧縮強さを維持しつつ、長期の圧縮強さが大きく、長期の強度発現性の伸び率の高い水硬性組成物を得ることができる。セメントクリンカに含まれるCSが50質量%未満であると、所望の短期強度発現性を得ることができない。
本明細書において、長期の強度発現性の伸び率とは、長期の材齢の硬化物の圧縮強さを、短期の材齢の硬化物の圧縮強さで除した値をいう。例えば、28日材齢の硬化物の圧縮強さを3日材齢の硬化物の圧縮強さで除した値を3日から28日材齢の強度発現性の伸び率(「28dS/3dS」と表す。)という。また、7日材齢の硬化物の圧縮強さを3日材齢の硬化物の圧縮強さで除した値を3日から7日材齢の強度発現性の伸び率(「7dS/3dS」と表す。)という。
【0015】
前記セメントクリンカは、ボーグ式で算出される、CSが10〜25質量%、CAが8〜12質量%、及びCAFが8〜12質量%であることが好ましい。
前記セメントクリンカのCS、CS、CA、CAFの各鉱物組成が前記範囲であると、所望の短期の強度発現性を有するとともに、長期の圧縮強さが大きく、かつ、長期の強度発現性の伸び率の大きい水硬性組成物を提供することができる。
セメントクリンカは、ボーグ式で算出されるCSが50〜65質量%、CSが15〜25質量%、CAが9〜12質量%、CAFが8〜11質量%であることがより好ましく、ボーグ式で算出されるCSが52〜65質量%、CSが15〜20質量%、CAが9〜11質量%、CAFが8〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0016】
セメントクリンカのCSは、7種の結晶多形を含み、7種の結晶多形としては、三斜晶であるT1相、T2相、T3相、単斜晶であるM1相、M2相、M3相、菱面体晶であるR相が存在する。セメントクリンカ中のCS中のM1相(M1/CS)の含有量が40質量%を超えると(M1/CS>0.4)、スラグ粉を含む水硬性組成物の長期の圧縮強さが小さくなる傾向がある。長期の圧縮強さが大きい硬化物を得る観点から、スラグ粉を含む水硬性組成物に用いるセメントクリンカのCS中のM1相(M1/CS)の含有量は、40質量%以下(M1/CS≦0.4)好ましくは38質量%以下(M1/CS≦0.38)、より好ましくは36質量%以下(M1/CS≦0.36)である。所望の短期の強度発現性とともに、長期の強度発現性の伸び率を得るために、スラグ粉を含む水硬性組成物に用いるセメントクリンカのCS中のM1相(M1/CS)の含有量は、通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上である。
【0017】
セメントクリンカのCS中のM1相(M1/CS)の含有量は、セメントクリンカについてX線回折法によって測定を行い、得られたX線回折プロファイルをリートベルト法により解析することによって測定することができる。リートベルト法とは、粉末X線回折パターン全体を対象として結晶構造パラメータと格子定数を直接精密化する方法をいう。
【0018】
セメントクリンカは、フリーライム(f−CaO)の含有量が1.2質量%以下である。フリーライム(f−CaO)は、セメント原料を焼成した際に、二酸化ケイ素や酸化アルミニウムと反応せずにセメントクリンカ中に残った遊離酸化カルシウム(CaO)である。セメントクリンカに含まれるフリーライムが1.2質量%を超えると、長期の強度発現性の伸び率が低下する。セメントクリンカのフリーライム(f−CaO)の含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.9質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下であり、通常は、0.1質量%以上である。セメントクリンカ中のフリーライムの含有量は、JCAS I−01 遊離酸化カルシウムの定量方法により測定することができる。
【0019】
セメントクリンカ中のMgO含有量は0.5〜2.5質量%であることが好ましい。セメントクリンカ中に含まれるMgO含有量は、CS中のM3相の生成に寄与し、MgO含有量が高いとCS中のM1相の含有量が低くなる傾向がある。セメントクリンカ中のMgO含有量は、セメントクリンカの全体量(100質量%)に対して、より好ましくは1.0〜2.5質量%である。セメントクリンカ中のMgO含有量は、JIS R 5202 セメントの化学分析方法又はJIS R 5204 セメントの蛍光X線分析方法に準拠して測定することができる。
【0020】
セメントクリンカは、ボーグ式で算出されるCSの含有量50質量%以上であり、CS中のM1相の含有量が40質量%以下であり、フリーライムの含有量が1.2質量%以下のものであれば、JIS R5210「ポルトランドセメント」に規定された普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントの規格を満たすセメントに用いるセメントクリンカを用いることができる。
【0021】
〔スラグ粉〕
本開示の水硬性組成物は、スラグ粉を含み、スラグ粉の含有量が全質量を基準として1質量%以上50質量%未満である。水硬性組成物中のスラグ粉の含有量が50質量%以上であると、長期の強度発現性の伸び率は大きいものの、短期及び長期の硬化物の圧縮強さが小さくなる。水硬性組成物中のスラグ粉の含有量は、好ましくは5質量%を超えて49質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上49質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上49質量%以下であり、より更に好ましくは30質量%を超えて49質量%以下である。
スラグ粉はJIS R5211「高炉セメント」に規定される塩基度が1.6以上であることが好ましい。
【0022】
スラグ粉は、そのブレーン比表面積が、好ましくは3500〜5000cm/g、より好ましくは3600〜4900cm/g、さらに好ましくは3650〜4850cm/gである。スラグ粉のブレーン比表面積が3500〜5000cm/gであれば、スラグ粉を含む水硬性組成物のブレーン比表面積を3500cm/g以上にすることができ、長期の強度発現性の伸び率のよい水硬性組成物を得ることができる。スラグ粉のブレーン比表面積は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定することができる。
【0023】
〔SO量〕
水硬性組成物は、全質量を基準としてSO量が1.0〜3.0質量%であることが好ましい。水硬性組成物のSO量は、全質量を基準として、より好ましくは1.0〜2.5質量%であり、さらに好ましくは1.5〜2.5質量%であり、よりさらに好ましくは1.7〜2.2質量%である。水硬性組成物に適量のSO量が含有されると、水と混合する際にエトリンガイトの生成量を適切に制御することができ、強度発現性の低下を抑制することができる。水硬性組成物中のSO量が1.0〜3.0質量%であると、強度発現性の低下を抑制しつつ、流動性も確保することができる。水硬性組成物中のSO量は、JIS R 5202「セメントの化学分析方法」又はJIS R 5204 「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定することができる。
【0024】
水硬性組成物は、そのブレーン比表面積が、好ましくは3500cm/g以上であることが好ましい。水硬性組成物のブレーン比表面積は、より好ましくは3500〜4500cm/g、さらに好ましくは3500〜4000cm/gである。水硬性組成物のブレーン比表面積が3500cm/gであれば、長期の圧縮強さが大きく、長期の強度発現性の伸び率の大きい水硬性組成物を得ることができる。水硬性組成物のブレーン比表面積は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定することができる。
【0025】
〔水硬性組成物の製造〕
水硬性組成物の製造方法としては、例えば、目的とするセメントクリンカが得られる組成となるように、各原料を混合したセメント原料を焼成してセメントクリンカを製造する工程と、得られたセメントクリンカを目的とするSO量となるように石膏を加えて、セメントクリンカとスラグと石膏を粉砕する工程又は得られたセメントクリンカを目的とするSO量となるように石膏を加えて、セメントクリンカと石膏を粉砕してセメント組成物を製造し、スラグと目的とするSO量となるように石膏を加えたもの若しくはスラグのみを粉砕して所望のブレーン比表面積を有するスラグ粉を製造し、セメント組成物とスラグ粉を混合する工程により製造する方法等が挙げられる。水硬性組成物の製造方法において、セメントと混合する前に予め粒状のスラグを粉砕する工程を備えていてもよい。
【0026】
(セメントクリンカ原料)
セメントクリンカの原料としては、Ca、Si、Al、Feなどのセメントクリンカを構成する元素を含む酸化物、炭酸化物などの化合物を用いることができる。天然原料としては、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄等が挙げられる。その他に、原料としては例えば、建設発生土等の廃棄物原料、高炉スラグ、フライアッシュ等が挙げられる。セメント原料の配合割合は、特に限定されることなく、目的とする鉱物組成が得られる組成となるように原料の配合を定めることができる。
【0027】
(焼成)
焼成は、通常、電気炉やロータリーキルン等を用いて行なうことができる。セメントクリンカを得るための焼成は、段階的な焼成を用いてよい。段階的な焼成としては、例えば、所定時間、特定の第1の温度で第1の焼成を行った後、所定の時間をかけて目的とする温度まで昇温(又は降温)し、所定時間、昇温(又は降温)した特定の第2の温度で第2の焼成を行ってもよい。例えば、セメント原料を30分間、1000℃で第1の焼成を行い、1450℃まで30分かけて昇温し、15分間、1450℃で第2の焼成を行ってセメントクリンカを得る方法が挙げられる。
【0028】
(石膏と混合)
得られたセメントクリンカは、目的とするSO量となる量の石膏を加え、目的とするブレーン比表面積を有するように、混合及び/又は粉砕し、セメント組成物を得ることができる。混合及び/又は粉砕は、ボールミル等の粉砕機を用いることができる。
【0029】
(スラグ粉と混合)
得られたセメント組成物は、スラグ粉と混合及び/又は粉砕し、目的とするブレーン比表面積を有する水硬性組成物を得ることができる。スラグ粉は、粒状のスラグを予め粉砕し、スラグ粉として、セメントと混合してもよい。混合及び/又は粉砕は、ボールミル等の粉砕機を用いることができる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例により、詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0031】
(実施例1〜4、参考例1
石灰石、珪石、石炭灰、粘土、建設発生土、汚泥、鉄源、高炉スラグ等の各原料を、JIS R5210の普通ポルトランドセメントの規格を満たし、かつ、CS中のM1相が表1に示す組成を有するように配合した。CS中のM1相の含有量(M1/CS)の調整は、酸化マグネシウム(MgO)の添加量によって行なった。配合した原料を電気炉に入れて、30分間、1000℃で第1の焼成を行った後、1000℃から1450℃まで30分かけて昇温させ、更に15分間、1450℃で焼成し、焼成後、急冷して、表1に示す鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカを得た。
得られた普通ポルトランドセメントクリンカに、石膏をSO量が表1に示す値となるように加えて、ボールミルでブレーン比表面積が3350±50cm/gとなるように混合し、セメント組成物を得た。石膏は、得られるセメント組成物中のSO量が2.0±0.1質量%となる量を添加した。
粒状のスラグを、ボールミルを用いてブレーン比表面積が4500±50cm/gとなるように予め粉砕し、スラグ粉を得た。
セメント組成物を60質量%と、スラグ粉を40質量%とを、混合して、ブレーン比表面積が表1に示す値である、水硬性組成物を得た。
【0032】
(比較例1〜3)
S中のM1相が表1に示す組成を有するセメントクリンカを製造し、実施例1と同様にセメント組成物を製造した。得られたセメント組成物にスラグ粉を混合せず、比較例1〜3の水硬性組成物とした。
【0033】
(比較例4〜5)
S中のM1相が40質量%を超える組成(具体的には、表1に示す組成)を有するセメントクリンカを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4〜5の水硬性組成物を得た。
【0034】
セメントクリンカの化学分析
JIS R5204の「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して、セメントクリンカ中のSiO、Al、Fe、CaO、MgOの含有量(質量%)を測定した。
【0035】
セメントクリンカ中のフリーライム(f−CaO)の含有量
セメントクリンカ中のフリーライム(f−CaO)の含有量は、JCAS I−01 遊離酸化カルシウムの定量方法により測定した。
【0036】
セメントクリンカの鉱物組成
JIS R5204の「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定したセメントクリンカ中のSiO、Al、Fe、CaOの含有量(質量%)の測定結果から、ボーグ式(1)〜(4)に基づき、CS、CS、CA、CAFの鉱物組成を算出した。
【0037】
セメントクリンカのCS中のM1相の含有量
・X線回折プロファイルの取得及びセメントクリンカの同定
粉末X線回析装置(パナリティカル社製、X’Part Powder)を用い、測定条件を、ステップサイズ:0.17°、スキャンスピード:0.1012°/s、電圧:45kV、電流:40mAとして、各実施例及び比較例のセメントクリンカのX線回折測定を行い、X線回折プロファイルを得た。
【0038】
得られたX線回析プロファイルについて、前記粉末X線回析装置に備えられた結晶構造解析用ソフトウエア(パナリティカル社製、X’Part High Score Plus version 2.1b)を用い、セメントクリンカの同定を行った。同定されたセメントクリンカに含まれる各鉱物は、CS−M1(M1相)、CS−M3(M3相)、CS−α’(α’相)、CS−β(β相)、CA−cubic(立方晶)、CA−ortho(斜方晶)、CAF、gypsum(石膏)、bassanite(半水石膏)、KNa(SO、Pottasiumsulfate(KSO)及びbeta−Arcanite(アルカナイト)であった。
【0039】
・リートベルト法による解析
次に、前記ソフトウエアに搭載されたリートベルト法による解析機能を用い、上記の通り同定されたセメントクリンカの質量%を定量した。ここでは、ICDS(社団法人化学情報協会の無機結晶構造データベース)から、セメントクリンカについての基本結晶構造データ(格子定数、スケールファクター等)は、上記ソフトウエアに初期値として入力されている。次に、セメントクリンカ全体の結晶構造パラメータの精密化に必要なパラメータとして格子定数、スケールファクター等を選択し、精密化操作を実行した。これにより、理論プロファイルが実測したX線回折プロファイルとフィッティングするように上記精密化に必要なパラメータが可変されることによって精密化操作が繰り返された後、最終的に精密化されたスケールファクターから、同定されたセメントクリンカに含まれる各鉱物の含有量(質量%)が得られた。リートベルト解析により得られたCS−M1相量及びCS−M3相量の和により、CS量(リートベルト定量値)を算出し、CS−M1相量より、CS中のM1相(M1/CS)を算出した。結果を表1に示す。
【0040】
ブレーン比表面積
JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して、セメント組成物、スラグ粉、水硬性組成物のブレーン比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
SO
JIS R5202「セメントの化学分析方法」に準拠して、セメント組成物中のSO量を測定した。水硬性組成物中のセメント組成物の含有量とセメント組成物中のSO量の積から水硬性組成物中のSO量を算出した。結果を表1に示す。
【0042】
モルタルの圧縮強さ
各実施例及び比較例の水硬性組成物は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」の「11 強さ試験」に準拠して、水/セメント比が50質量%となるように水を加えて各水硬性組成物を含むモルタルを調製し、40×40×160mmの金属型枠3個に打設し、湿気箱で20〜24時間経過後に脱型してモルタル供試体を作製した。各材齢について3個ずつ作製したモルタル供試体を20℃で水中養生し、JIS R5201「セメントの物理試験方法」の「11 強さ試験」に準拠して各材齢における圧縮強さを測定した。また、7日材齢の圧縮強度を3日材齢の圧縮強さで除した値を7日材齢の圧縮強さの伸び率(7dS/3dS)とし、28日材齢の圧縮強さを3日材齢の圧縮強さで除した値を28日材齢の圧縮強さの伸び率(28dS/3dS)として算出した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、実施例1から4及び参考例1の水硬性組成物を用いたモルタル圧縮強さは、3日材齢の圧縮強さが18.0N/mmを超えて大きくなり、28日材齢で圧縮強さが60N/mmを超えて大きくなり、3日材齢からの28日材齢の伸び率が2.7を超えて大きくなった。この結果から、実施例1から4及び参考例1の水硬性組成物は、所望の初期の圧縮強さが得られ、長期の圧縮強さが大きく、長期の強度発現性の伸び率の大きい硬化物が得られることが確認できた。
一方、スラグ粉を含んでいない比較例1から3の水硬性組成物を用いたモルタル圧縮強さは、3日材齢から28日材齢の伸び率が2.0以下と小さくなった。
また、CS中のM1相の含有量が40質量%を超える(M1/CS>0.4)普通ポルトランドセメントクリンカを用いた比較例4及び5の水硬性組成物は、28日材齢のモルタル圧縮強さが60N/mm未満と小さくなった。
【0045】
(実施例5〜、参考例2〜3、及び比較例6)
フリーライム(f−CaO)が表2に示す含有量となるように調整した。フリーライム(f−CaO)の含有量は、焼成時間の調整によって行なった。フリーライムの含有量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表2に示す鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカを得て、この普通ポルトランドセメントクリンカを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水硬性組成物を得た。実施例1と同様にして、普通ポルトランドセメントクリンカ、セメント組成物、スラグ粉、水硬性組成物の鉱物組成、化学成分、物性値を測定し、水硬性組成物を用いたモルタルの圧縮強さを測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、実施例5〜及び参考例2〜3の水硬性組成物を用いたモルタル圧縮強さは、所望の初期の圧縮強さが得られ、28日材齢で圧縮強さが60N/mmを超えて大きくなり、3日材齢からの28日材齢の伸び率が2.8を超えて大きくなった。この結果から、実施例5〜及び参考例2〜3の水硬性組成物は、長期の強度発現性の伸び率の大きいことが確認できた。
一方、フリーライム(f−CaO)の含有量が1.2質量%を超えて大きい普通ポルトランドセメントクリンカを含む比較例6の水硬性組成物は、28日材齢のモルタル圧縮強さが60N/mm未満と小さくなった。
【0048】
(実施例7〜11
ブレーン比表面積が表3に示す値となるように、表3に示す普通ポルトランドセメントクリンカを用いたセメント組成物と、表3に示すブレーン比表面積を有するスラグ粉とを、混合したこと以外は、実施例1と同様にして、水硬性組成物を得た。実施例1と同様にして、普通ポルトランドセメントクリンカ、セメント組成物、スラグ粉、水硬性組成物の鉱物組成、化学成分、物性値を測定し、水硬性組成物を用いたモルタルの圧縮強さを測定した。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示すように、実施例7〜11の水硬性組成物を用いたモルタル圧縮強さは、所望の初期の圧縮強さが得られ、3日材齢からの28日材齢の伸び率が2.8を超えて大きくなった。実施例に示すように、水硬性組成物のブレーン比表面積が3500cm/g未満であると、3日材齢から28日材齢の伸び率は2.8を超えて大きいものの、28日材齢が60N/mm未満と小さくなった。
【0051】
(実施例12〜14、及び比較例7)
表4に示す普通ポルトランドセメントクリンカを用いたセメント組成物と、表4に示すスラグ粉とを、セメント組成物とスラグ粉の配合比率が表4に示す値となるように、混合したこと以外は、実施例1と同様にして、水硬性組成物を得た。実施例1と同様にして、普通ポルトランドセメントクリンカ、セメント組成物、スラグ粉、水硬性組成物の鉱物組成、化学成分、物性値を測定し、水硬性組成物を用いたモルタルの圧縮強さを測定した。結果を表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
表4に示すように、実施例12〜14の水硬性組成物を用いたモルタル圧縮強さは、所望の初期の圧縮強さが得られ、3日材齢からの28日材齢の伸び率が2.8を超えて大きくなった。比較例7に示すように、水硬性組成物中のスラグ粉の含有量が50質量%を超えて大きくなると、3日材齢から28日材齢の伸び率は2.8を超えて大きいものの、28日材齢の圧縮強度が60N/mm未満と小さくなった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、スラグ粉やセメントのブレーン比表面積を大きくする、スラグ粉の使用量を少なくするなどの物理的手段を用いることなく、物理的手段を用いることによる製造コスト増加やCO発生量の増加を抑制し、CS中のM1相の低い特定のセメントクリンカを含むことによって、長期の強度発現性の伸び率の大きい、特定量のスラグ粉を含む水硬性組成物を提供することができる。