(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関から排出される排気ガスには、有害物質である窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)が含まれており、内燃機関の排気管には、粒子状物質を低減する装置や、窒素酸化物を低減する装置が設けられている。この窒素酸化物を低減する装置として、排気管の中に尿素を噴射し、排気管内で尿素からアンモニアを生成させ、生成させたアンモニアと排気ガス中の窒素酸化物とを反応させ、窒素酸化物から酸素を取り除き窒素に戻すことにより、排気ガスから窒素酸化物を低減する尿素SCR触媒がある。また、尿素を供給するインフラの整備が十分でなくても使用可能な、ディーゼル燃料(HC)を還元剤として使用するHC-SCR触媒技術が注目されている。
【0003】
SCR触媒の担体として用いられるセラミックハニカム構造体の一例を
図1及び
図2に示す。セラミックハニカム構造体10は、排気ガスが流通する多数の流路3を形成する多孔質隔壁2と外周壁1とからなり、前記多孔質隔壁2には触媒物質(図示せず)が担持されている。
【0004】
排気ガス中の窒素酸化物を効率よく低減させるためには、SCR触媒の担体上に担持された触媒物質に排気ガスが十分に接触するように、単位体積当たりにできるだけ多くの触媒物質を担持させる必要がある。そのためには、従来から、薄壁及び高セル密度(例えば、隔壁厚さ0.05 mm、隔壁のピッチ0.85 mm)のセラミックハニカム構造体を担体としたSCR触媒が用いられている。しかしながら、このような薄壁及び高セル密度のハニカム構造体を用いると、排気ガスが流通するハニカム構造体流通孔方向の開口面積が小さくなり、ハニカム構造体入口の圧力損失が大きくなるという問題が生じる。
【0005】
このような圧力損失が増大するといった問題を解決するため、特開2005-052750号は、隔壁厚さが0.1〜0.35 mm、隔壁ピッチが1.0〜2.0 mm、隔壁の平均細孔径が15μm以上、気孔率が50〜80%であるセラミックハニカム構造体を開示している。特開2005-052750号は、触媒担体であるセラミックハニカム構造体を薄壁及び高セル密度とすることなく、ハニカム構造体の隔壁の気孔率と平均細孔径を最適することで、単位体積当たりに担持される触媒物質の量を増加させ、SCR触媒に代表されるNO
x浄化装置用セラミックハニカム触媒の浄化効率の向上及び小型化が可能だと記載している。
【0006】
特表2009-542570号は、気孔率が64%以上80%未満であり、メジアン細孔径(d50)が10μm以上45μm以下であり、熱膨張係数CTEが、3.0×10
-7/℃以上であり、かつ(i)10μm以上18μm未満のメジアン細孔径(d50)において、CTEが<6.0×10
-7/℃未満、(ii)18μm以上22μm未満のメジアン細孔径(d50)において、CTEが<9.0×10
-7/℃未満、(iii)2μm以上25μm以下のメジアン細孔径(d50)において、CTEが<10.0×10
-7/℃未満、(iv)25μm超29μm未満のメジアン細孔径(d50)において、CTEが<13.0×10
-7/℃未満、及び(v)29μm以上45μm以下のメジアン細孔径(d50)において、CTEが<17.0×10
-7/℃未満であるコーディエライトセラミック製品を開示しており、このセラミック製品は、高い気孔率を有するにもかかわらず破壊強度係数及び耐熱衝撃性が大きく改善され、有効量の触媒及び/又はNO
x吸着体がコーティングされている場合であっても、セラミックの細孔微細構造によって清浄時及びすす堆積時の低圧力降下が保証されるため、触媒付ウォールフローディーゼル粒子フィルタとしての使用に好適であると記載している。さらに、特表2009-542570号は、狭細孔径分布により、触媒のより一様な細孔壁表面上分布が得られるため、清浄時及びすす堆積時の低圧力降下が得られ、触媒とすす及び触媒と排気ガスの間の接触機会も増大し、より効率的な触媒使用が促進されると記載している。
【0007】
特表2011-516371号は、異方性微細構造を有する多結晶質セラミックからなる多孔質セラミック体であって、前記異方性微細構造は、配向された多結晶質多相網様体(reticular formations)からなり、異方性因子Af-pore longが、1.2<Af-pore-long<5である多孔質セラミック体を開示しており、狭い細孔径分布及び50%より大きい気孔率を有し、12〜25μmの範囲にある任意の中央細孔径を有するセラミック物品を提供できると記載している。このセラミック物品は、高強度、低熱膨張係数(CTE)及び高気孔率を示し、自動車用基体、ディーゼル又はガソリン微粒子フィルタなどの用途及び部分又は完全NOx添加の機能が組み込まれた触媒フィルタなどの機能性フィルタに使用できると記載している。
【0008】
国際公開第2011/102487号は、 (a)気孔率が55〜80%、(b)水銀圧入法により測定されたメジアン細孔径d50が5〜27μm、(c)表面に開口した細孔の開口面積率が20%以上、(d)表面に開口した細孔を円相当径で表した場合の面積基準でのメジアン開口径d50が10〜45μm、(e)表面に開口した細孔の円相当径が10μm以上40μm未満の細孔密度が350個/mm
2以上、(f)細孔分布を水銀圧入法により測定した時の細孔径に対する累積細孔容積を示す曲線の傾きの最大値が1.6以上、及び(g)前記メジアン細孔径d50とメジアン開口径d50との比D50/d50が0.65以下である隔壁からなるセラミックハニカム構造体を開示しており、このセラミックハニカム構造体からなるセラミックハニカムフィルタは、使用開始初期のPMが堆積する前の状態であっても、排出される粒子数量に大きく影響するナノ粒子を有効に捕集しPM粒子数基準での捕集率を改善するとともに、PMが捕集され蓄積した際の圧力損失特性の悪化程度が低減されると記載している。
【0009】
国際公開第2011/027837号は、隔壁の気孔率が40〜60%であり、前記隔壁表面に開口した細孔の開口面積率(隔壁表面の単位面積当たりに開口する細孔の総開口面積)が15%以上であり、前記隔壁表面に開口した細孔の開口径を、円相当径(細孔の開口面積と同等の面積を有する円の直径)で表した場合の、前記開口した細孔の面積基準でのメジアン開口径が10μm以上40μm未満であり、前記円相当径が10μm以上40μm未満の細孔密度が350個/mm
2以上であり、前記円相当径が10μm以上40μm未満の細孔の円形度の平均値が1〜2であることを特徴とするセラミックハニカム構造体を開示している。国際公開第2011/027837号に記載のセラミックハニカム構造体は、低い圧力損失を維持しつつ、再生後の捕集開始初期のPM捕集率が改善されるので、特に排ガス規制の強化に伴い問題視されるようになったナノサイズのPMを効率よく捕集することができると記載している。
【0010】
しかしながら、特開2005-052750号に記載のセラミックハニカム構造体や特表2009-542570号に記載のコーディエライトセラミック製品、特表2011-516371号に記載の多孔質セラミック体、国際公開第2011/102487号及び国際公開第2011/027837号に記載のセラミックハニカムフィルタに用いられるセラミックハニカム構造体を担体として用いたSCR触媒は、圧力損失特性び窒素酸化物の浄化効率はある程度向上しているものの、近年の浄化性能の高性能化・高効率化への要求に対して、十分に満足のいくような高い浄化効率は得られていない。さらに、高い浄化効率を得るために、隔壁に担持する触媒物質を増加させようとすると、排気ガスが流通する流路の開口面積が小さくなり、排気ガスが流通する抵抗が大きくる、すなわち圧力損失が大きくなるという問題が発生する。また、国際公開第2011/102487号に記載のセラミックハニカムフィルタに用いられるセラミックハニカム構造体を担体として用いたSCR触媒は、強度が不十分となる場合があった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[1]セラミックハニカム構造体
本発明のセラミックハニカム構造体は、多孔質の隔壁で仕切られた多数の流路を有し、前記隔壁は、(a)気孔率が55%以上及び65%未満、(b)基材分岐数が35000[/mm
3]以上である。ただし、前記基材分岐数は、前記隔壁のX線CT測定で得られた、前記隔壁を構成する基材の三次元構造に対して細線化処理を行い、得られたネットワーク構造における単位体積あたりの分岐点(3以上の枝の結合点及び幅の異なる枝の結合点)の数である。
【0021】
セラミックハニカム構造体がこのような構成を有することにより、圧力損失の増大を伴わずに触媒を効果的に担持させることができ、窒素酸化物の浄化効率に優れたSCR触媒を得ることができる。また、このような構成により、高強度のハニカム構造体が得られる。
【0022】
(a)隔壁の気孔率
隔壁の気孔率は55%以上及び65%未満である。前記気孔率が55%未満の場合、圧力損失が大きくなり、一方、前記気孔率が65%以上になると、強度が低下する。前記気孔率の下限は、好ましくは60%以上、さらに好ましくは61%である。また、前記気孔率の上限は好ましくは64%である。隔壁の気孔率は後述の水銀圧入法の測定で得られた全細孔容積と隔壁を構成するセラミックの真比重とから計算によって求めることができる。例えば、セラミックハニカム構造体の隔壁の材質がコーディエライトである場合は、コーディエライトの真比重2.52 g/cm
3を用いて計算する。
【0023】
(b)隔壁の基材構造
隔壁の基材分岐数は35000[/mm
3]以上である。隔壁の基材分岐数は、隔壁を構成する基材の三次元構造を表すパラメータの一つであり、
図3に示すように、三次元構造の骨格により構成されるネットワーク構造から求めた単位体積あたりの分岐点の数である。ここで、分岐点とは、前記ネットワーク構造(
図3において、三次元構造の中心部分に描かれた線であり、枝1と、結合点2(2a,2b)とからなる。)において3以上の枝の結合点2a及び幅の異なる枝の結合点2bである。隔壁の基材分岐数が35000[/mm
3]以上である場合、触媒物質を担持させようとした際に、分岐した基材表面に効率良く触媒が担持されるため、排気ガスと触媒物質との接触効率を高めることができ、かつ高強度が得られる。前記基材分岐数は好ましくは40000[/mm
3]以上であり、さらに好ましくは45000[/mm
3]である。前記分岐数は、60000[/mm
3]以下が好ましい。60000[/mm
3]を超えると、細孔が小さくなり、低い圧力損失を維持することが難しくなることもあるからである。同様の理由から、55000[/mm
3]以下がさらに好ましい。
【0024】
前記基材の三次元構造は、隔壁のX線CT測定により得ることができる。隔壁のX線CT測定で得られた基材の連続する断層画像(スライス像)をコンピュータ上で組み立てることによって、
図3に示すような基材の三次元構造が得られる。この隔壁を構成する基材のネットワーク構造とは、得られた三次元構造に対してソフト上で細線化処理を行うことで得られる骨格構造であり、本願ではこのネットワーク構造を基に基材分岐数を含めて以下のようにいくつかのパラメータを定義する。
【0025】
本願において、隣接する2つの分岐点間の基材を1つの部分基材と定義する。このとき、隣接する2つの分岐点間の距離を前記部分基材の長さ3、前記部分基材の軸に直交する断面における短径4と長径5との和を2で除した値、つまり短径4と長径5との平均値を
基材径とする。
【0026】
さらに、
図4に示すように、部分基材の基材径に対して基材容積をプロットすることにより、部分基材の基材径に対する基材容積の分布が求まる。この分布において、最小の基材径から特定の基材径までの基材容積の積算値を、前記特定の基材径における累積基材容積という。部分基材の基材径に対して累積基材容積をプロットすると、
図5に示すように、部分基材の基材径に対する累積基材容積の関係が求まる。
【0027】
本発明のセラミックハニカム構造体の隔壁は、累積基材容積が全基材容積の10%となる基材径d10、同じく全基材容積の50%となる基材径d50、及び同じく全基材容積の90%となる基材径d90が、式:
(d90-d10)/d50≦1.25
を満たすのが好ましい。ここで累積基材容積が全基材容積の10%となる基材径d10とは、部分基材の基材径に対する累積基材容積の関係を示すグラフ(
図5を参照)において、累積基材容積が全基材容積の10%となる値における基材径であり、グラフのプロット点を補間及びスムージング処理して求めることができる。d50及びd90についても同様である。(d90-d10)/d50は、基材径に対して累積基材容積の関係をプロットしたときの曲線の傾きを表すパラメータであり、この値が小さいほど傾きが大きく、基材容積の分布がシャープであることを意味する。(d90-d10)/d50が1.25超である場合、基材の一部に応力集中する箇所が増え、強度が低くなることもあるため好ましくない。(d90-d10)/d50の値は、1.2以下であるのがより好ましく、1.15以下であるのが最も好ましい。
【0028】
本発明のセラミックハニカム構造体の隔壁は、累積基材容積が全基材容積の50%となる基材径d50が10〜20μmであるのが好ましい。d50が10μm未満である場合、強度が低下することがあり、20μm超である場合、低い圧力損失を維持することが難しくなる場合がある。d50はさらに好ましくは12μm以上である。またd50はさらに好ましくは18μm以下であり、最も好ましくは16μm以下である。
【0029】
累積基材容積が全基材容積の10%となる基材径d10は8μm以上であるのが好ましい。d10が8μm未満である場合、小径の基材に応力集中が起きやすく、強度が低下することもある。d10はさらに好ましくは9μm以上である。
【0030】
累積基材容積が全基材容積の90%となる基材径d90は34μm以下であるのが好ましい。d90が34μm超である場合、細孔が小さくなりやすく、低い圧力損失を維持することが難しくなる場合ある。d90はさらに好ましくは29μm以下である。
【0031】
(c)累積細孔容積曲線の傾き
水銀圧入法の測定で得られた細孔径(対数値)に対する累積細孔容積の関係において、累積細孔容積曲線の傾きS
nの最大値は2.5以上であるのが好ましい。ここで累積細孔容積曲線とは、細孔径(μm)の対数値に対して累積細孔容積(cm
3/g)をプロットしたものであり、累積細孔容積曲線の傾きS
nは測定開始から、(n-1)番目の測定点における細孔径d
n-1(μm)及び累積細孔容積V
n-1(cm
3/g)と、(n)番目の測定点における細孔径d
n(μm)及び累積細孔容積V
n(cm
3/g)とから、式:S
n=-(V
n-V
n-1)/{log(d
n)-log(d
n-1)}により求められる値(n番目の測定点における累積細孔容積曲線の傾き)である。前記傾きS
nの最大値が2.5未満である場合、大細孔と小細孔とが多く混在し、小細孔には触媒物質が担持され難くなるので、隔壁表面に担持される触媒が多くなり、排気ガスが流通する流路の開口面積が小さくなり、排気ガスが流通する抵抗が大きくなって圧力損失が大きくなることもある。前記傾きS
nの最大値は、好ましくは3以上、さらに好ましくは3.5以上、より好ましくは4以上、最も好ましくは4.5以上である。
【0032】
隔壁の累積細孔容積は水銀圧入法で測定する。水銀圧入法の測定は、例えば、Micromeritics社製のオートポアIII 9410 を使用して行う。測定は、セラミックハニカム構造体から切り出した試験片を測定セル内に収納し、セル内を減圧した後、水銀を導入して加圧したときに、試験片内に存在する細孔中に押し込まれた水銀の体積を求めることによって行う。この時加圧力が大きくなればなるほど、より微細な細孔にまで水銀が浸入するので、加圧力と細孔中に押し込まれた水銀の体積との関係から、細孔径と累積細孔容積(最大の細孔径から特定の細孔径までの細孔容積を累積した値)の関係を求めることができる。ここで、水銀の浸入は細孔径の大きいものから小さいものへと順次行われる。
【0033】
前記傾きS
nの測定例を
図6及び
図7に示す。
図6は水銀圧入法で測定された細孔径と累積細孔容積との関係の一例であり、菱形で示した点は各測定点を示し、その点の横に記載された数値は測定順を示す。
図7は、
図6に示す累積細孔容積曲線のグラフから、各測定点における傾きS
nを求めてプロットした図である。例えば、
図7中の点aは、
図6に示す累積細孔容積曲線での測定開始から12番目と13番目の測定点における細孔径d
12とd
13及び累積細孔容積V
12とV
13から求めた傾きS
13=-[(V
13-V
12)/{log(d
13)-log(d
12)}]であり、点bは13番目と14番目の測定点における細孔径d
13とd
14及び累積細孔容積V
13とV
14から求めた傾きS
14=-[(V
14-V
13)/{log(d
14)-log(d
13)}]である。
【0034】
(d)熱膨張係数
セラミックハニカム構造体は、40〜800℃間の流路方向での熱膨張係数が13×10
-7/℃以下であるのが好ましい。このような熱膨張係数を有するセラミックハニカム構造体は、高い耐熱衝撃性を有するので、例えば、ディーゼル機関の排出ガス中に含まれる微粒子を除去するためのセラミックハニカムフィルタとして使用した場合であっても、十分に実用に耐えることができる。前記熱膨張係数は、好ましくは3×10
-7〜12×10
-7であり、さらに好ましくは、5×10
-7〜11×10
-7である。
【0035】
(e)隔壁構造
セラミックハニカム構造体は、平均隔壁厚さが5〜15 mil(0.127〜0.381 mm)、平均セル密度が150〜400 cpsi(23.3〜62.0セル/cm
2)であるのが好ましい。このような隔壁構造を有することで、触媒物質の担持量が増加し、排ガスと触媒物質との接触効率を改善することができるとともに、圧力損失特性が改良される。平均隔壁厚さが5 mil未満の場合、隔壁の強度が低下し、一方15 milを超える場合、低い圧力損失を維持することが難しくなる。平均セル密度が150c psi未満の場合、隔壁の強度が低下し、一方、300 cpsiを超える場合、低い圧力損失を維持することが難しくなる。好ましくは6〜12 mil(0.152〜0.305 mm)、200〜400 cpsi(31.0〜62.0セル/cm
2)である。セルの流路方向の断面形状は、四角形、六角形等の多角形、円、楕円等のいずれでもよく、流入側端面と流出側端面とで大きさが異なる非対称形状であっても良い。
【0036】
セラミックハニカム構造体は、本発明の目的であるSCR触媒の担体として用いる以外にも、酸化触媒等の排気ガス浄化用触媒の担体としても用いることができる。また、
図8示すように、公知の方法で所望の流路3の端部3a,3bを交互に目封止することにより、セラミックハニカムフィルタ20とすることもでき、セラミックハニカムフィルタに排気ガス浄化用の触媒を担持することもできる。本発明のセラミックハニカム構造体はディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の排出ガス中に含まれる有害物質を除去するために用いられる。
【0037】
(f)隔壁の材質
隔壁の材質としては、セラミックハニカム構造体の用途がディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関から排出される排気ガスを浄化するための担体やフィルタであることから、耐熱性に優れる材質であるコーディエライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などが好ましい。中でも、耐熱衝撃性に優れる低熱膨張のコーディエライトを主結晶とするものであるのが好ましい。主結晶相がコーディエライトである場合、スピネル、ムライト、サフィリン等の他の結晶相を含有しても良く、さらにガラス成分を含有しても良い。
【0038】
[2]セラミックハニカム構造体の製造方法
本発明のセラミックハニカム構造体を製造する方法は、セラミック原料と表面に無機粉体を有する中空の樹脂粒子からなる造孔材とを含む坏土を所定の成形体に押出成形し、前記成型体を乾燥及び焼成する工程を有し、
前記坏土が、前記セラミック原料100質量%に対して4質量%以上8質量%未満の前記造孔材を含有し、
前記造孔材のメジアン径D50が25〜35μm、粒子径と累積体積(特定の粒径以下の粒子体積を累積した値)との関係を示す曲線において、全体積の10%に相当する累積体積での粒子径D10が14〜24μm、全体積の90%に相当する累積体積での粒子径D90が45〜60μm、及び粒度分布偏差SD[ただし、SD=log(D80)-log(D20)、D20は、粒子径と累積体積との関係を示す曲線において、全体積の20%に相当する累積体積での粒子径であり、D80は同じく全体積の80%に相当する累積体積での粒子径でありD20<D80である。]が0.4以下であり、前記造孔材の最大圧縮回復量Lmaxが3.0 mm以上であり、かつ圧縮応力2〜6 MPaの範囲における圧縮回復量Lが前記最大圧縮回復量Lmaxの80%以上である。なお圧縮回復量Lは、内径8 mm及び深さ100 mmの金属製筒内に入れた0.3 gの造孔材に外径8 mmのピストンで所定の圧縮応力をかけ、その状態から前記圧縮応力を除荷した時に前記ピストンが戻る量(mm)であり、最大圧縮回復量Lmaxは圧縮回復量Lの最大値である。
【0039】
前記セラミック原料及び前記無機粉体(前記造孔材の表面に含まれるもの)がコーディエライト化原料である場合、前記セラミック原料及び前記無機粉体は、それらの合計100質量%中、15〜25質量%のシリカ、27〜43質量%のタルク及び15〜30質量%のアルミナを含有する。前記シリカは、メジアン径D50が15〜30μm、10μm以下の粒子径を有する粒子の割合が3質量%以下、100μm以上の粒子径を有する粒子の割合が3質量%以下及び粒度分布偏差SDが0.4以下であるのが好ましく、前記タルクは、メジアン径D50が1〜10μm及び粒度分布偏差SDが0.6以下であるのが好ましく、前記アルミナは、メジアン径D50が1〜8μm及び粒子径と累積体積との関係を示す曲線において、全体積の90%に相当する累積体積での粒子径D90が5〜15μmであるのが好ましい。
【0040】
このような方法により、(a)気孔率が55%以上及び65%未満、及び(b)基材分岐数が35000[/mm
3]以上[ただし、前記基材分岐数は、前記隔壁のX線CT測定で得られた、前記隔壁を構成する基材の三次元構造に対して細線化処理を行い、得られたネットワーク構造における単位体積あたりの分岐点(3以上の枝の結合点及び幅の異なる枝の結合点)の数である。]である本発明のセラミックハニカム構造体を得ることができる。
【0041】
セラミックスに形成される細孔は、焼成過程でセラミック原料の溶融によって生じる細孔と、造孔材が焼失されて生じる細孔がある。従って、セラミック原料及び造孔材のメジアン径及び粒度分布を調節することにより、セラミックスが焼成された際に形成される細孔を制御し、その結果基材の三次元構造を制御することができる。
【0042】
前記造孔材として中空の樹脂粒子の表面に無機粉体を有し、最大圧縮回復量Lmaxが3.0 mm以上であり、かつ圧縮応力2〜6 MPaの範囲における圧縮回復量Lが前記最大圧縮回復量Lmaxの80%以上であるものを使用することにより、セラミック原料及び造孔材を含む成形体を焼成した時に、樹脂粒子が燃焼して空隙となるとともに、セラミック原料及び樹脂粒子表面の無機粉体が焼成して所望の細孔分布を有する細孔が形成される。このとき、前記樹脂粒子表面の無機粉体がその周囲のセラミック原料と共に焼成して、隔壁表面から内部にかけての細孔の連通性が改良されるとともに、基材の分岐数を多くすることができる。また、中実樹脂粒子に比べて燃焼による発熱量が少ない中空樹脂粒子を使用することにより成形体を焼成する過程での焼成割れが発生し難くなる。なお、圧縮回復量Lは、内径8 mm及び深さ100 mmの金属製筒内に入れた0.3 gの造孔材に外径8 mmのピストンで所定の圧縮応力をかけ、その状態から前記圧縮応力を除荷した時に前記ピストンが戻る量(mm)であり、最大圧縮回復量Lmaxは圧縮回復量Lの最大値である。
【0043】
このように、セラミック原料が焼成して生じる細孔と樹脂粒子表面の無機粉体、及び造孔材から形成される細孔とを連通性良く形成して、所定の基材分岐数とすることにより、分岐した基材表面に効率良く触媒が担持されるため、排気ガスと触媒物質との接触効率を高めることができ、触媒物質の担持量が増加し、かつ圧力損失特性及び強度特性が改良されたセラミックハニカム構造体を得ることができる。
【0044】
(1)造孔材
(a)構造
造孔材は、中空の樹脂粒子からなり、表面に無機粉体を含有するのが好ましい。前記無機粉体は、前記中空の樹脂粒子の表面に付着させるのが好ましい。
【0045】
前記造孔材の添加量は、セラミック原料100質量%に対して4質量%以上8質量%未満であるのが好ましい。前記造孔材の添加量がこの範囲を外れると、前記気孔率及び基材構造(基材分岐数)を有する隔壁が得られ難くなる。前記造孔材の添加量が4質量%未満である場合、気孔率55%以上の隔壁が得られ難くなり、触媒物質の担持量が減少するとともに、圧力損失特性が悪化する。造孔材の添加量が8質量%以上の場合、隔壁の気孔率が65%以上となる場合があり、強度が不十分となる場合が生じる。前記造孔材の添加量は、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上である。
【0046】
前記造孔材粒子(無機粉体を含む)のメジアン径D50は25〜35μmであるのが好ましい。メジアン径D50が25μm未満の場合、圧力損失特性が悪化する。前記メジアン径D50が35μmを超えると、形成される細孔が粗大になり、基材径が小さくなるので、強度が低下する。前記造孔材粒子のメジアン径D50は、好ましくは27〜33μmであり、さらに好ましくは28〜32μmである。
【0047】
前記造孔材粒子は、その粒子径と累積体積(特定の粒子径以下の粒子体積を累積した値)との関係を示す曲線において、全体積の10%に相当する累積体積での粒子径D10が14〜24μm、全体積の90%に相当する累積体積での粒子径D90が45〜60μm、及び粒度分布偏差SDが0.4以下であるのが好ましい。造孔材の粒子径は、例えば、日機装(株)製マイクロトラック粒度分布測定装置(MT3000)を用いて測定することができる。粒子径D10は15〜23μmであるのが好ましく、D90は47〜58μmであるのが好ましく、粒度分布偏差SDは0.35以下であるのが好ましく、0.3以下であるのがさらに好ましい。
【0048】
ここで、粒度分布偏差SDとは、SD=log(D80)-log(D20)で表される値であり、D20は、粒子径と累積体積との関係を示す曲線において、全体積の20%に相当する累積体積での粒子径であり、D80は同じく全体積の80%に相当する累積体積での粒子径である。D20<D80である。
【0049】
前記造孔材を構成する中空の樹脂粒子は、後述するように、樹脂粒子の内部に炭化水素等のガスを内包させた中空の樹脂粒子であるため、造孔材に圧力や剪断がかかった場合には変形し、場合によっては外殻を構成する樹脂が破壊されその形状を保てなくなる。坏土の押出成形は、例えば5 MPa以上の圧力で行うため、押出成型時に中空の樹脂粒子からなる造孔材は圧縮されて変形しその一部は破壊されると考えられる。加圧によって変形した造孔材は、押出成形後に圧力が解放され常圧に戻ったときにその形状も元に戻る(スプリングバック現象)ため造孔材としての機能を保つことができるが、破壊されてしまった造孔材は造孔材としての機能を果たさなくなる。従って、造孔材は、押出成型時の圧力(又はそれ以上の圧力)をかけたときに変形はするが破壊されず、圧力が解放されたときに元の形状に戻るような性質(圧縮回復性)を有する必要がある。
【0050】
造孔材の圧縮回復性は、以下に述べる圧縮回復性試験によって圧縮回復量Lを測定することによって評価する。圧縮回復性試験は、内径8 mm及び深さ100 mmの金属製筒内に0.3 gの造孔材を入れ、外径8 mmのピストン(質量96.45g)で所定の圧縮応力をかけ、その状態から前記圧縮応力を除荷した時に前記ピストンが戻る量(mm)を測定する試験であり、前記のピストンが戻る量(mm)を圧縮回復量Lとする。圧縮応力を変化させて圧縮回復量Lを測定したとき、
図9に示すように上に凸のグラフが得られ、測定した範囲における圧縮回復量Lの最大値が最大圧縮回復量Lmaxである。圧縮回復性の評価は、この(a)最大圧縮回復量Lmax、及び(b)圧縮応力が2〜6 MPaの範囲における圧縮回復量Lと最大圧縮回復量Lmaxとの比(L/Lmax)で評価する。
【0051】
造孔材は、前記最大圧縮回復量Lmaxが3.0 mm以上であり、かつ圧縮応力2〜6 MPaの範囲における圧縮回復量Lが最大圧縮回復量Lmaxの80%以上(L/Lmax≧80%)、すなわち圧縮応力2〜6 MPaの範囲における圧縮回復量Lの最小値が最大圧縮回復量Lmaxの80%以上であるのが好ましい。このような圧縮回復性を有する造孔材は、押出成型時の圧縮力によって破壊される粒子が少なく、造孔材としての機能を十分に保つことができる。
【0052】
前記造孔材粒子の真球度は、0.5以上であるのが好ましい。前記造孔材粒子の真球度が0.5未満である場合、隔壁の細孔が、破壊の起点となり易い鋭角部を有する細孔が多くなりハニカム構造体の強度が低下する場合があるので好ましくない。前記造孔材粒子の真球度は、好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは0.8以上である。なお、造孔材粒子の真球度は、造孔材粒子の投影面積を、造孔材粒子の重心を通り粒子外周の2点を結ぶ直線の最大値を直径とする円の面積で割った値であり、電子顕微鏡写真から画像解析装置で求めることができる。
【0053】
(b)樹脂粒子
中空の樹脂粒子としては発泡させた樹脂粒子が好ましく、特にバルーン状に発泡させた樹脂粒子が好ましい。造孔材粒子として用いる樹脂としては、(ポリ)メタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアクリルエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、メチルメタクリレート・アクリロニトリル共重合体等が好適である。中空の樹脂粒子は、外殻厚さが0.1〜3μmであるのが好ましく、炭化水素等のガスを内包させているのが好ましい。
【0054】
(c)無機粉体
前記無機粉体は、カオリン、シリカ、タルク、コーディエライト、アルミナ、水酸化アルミ、炭酸カルシウム、酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1種類であるのが好ましい。中でも、無機粉体としてはカオリン、シリカ、タルク、コーディエライト、アルミナ及び水酸化アルミが好ましく、タルクが最も好ましい。
【0055】
セラミック原料及び前記無機粉体が焼成された際に連通性良く細孔が形成されるために、前記無機粉体のメジアン径D50iは0.5〜15μmであるのが好ましく、0.6〜12μmであるのがより好ましく、0.6〜10μmであるのが最も好ましい。
【0056】
前記無機粉体のメジアン径D50iと前記造孔材のメジアン径D50との比D50i/D50は0.5以下であるのが好ましい。D50i/D50がこのような範囲であることにより、前記無機粉体を前記樹脂粒子の表面に良好に付着できる。D50i/D50が0.5を超えるような無機粉体を使用すると、前記無機粉体が前記樹脂粒子の表面に付着しにくくなるので、セラミック原料が焼成して生じる細孔と樹脂粒子から形成される細孔とを連通させる前記無機粉体の効果が減少し、所望の基材分岐数を得ることが難しくなる。D50i/D50は、好ましくは0.01〜0.45である。
【0057】
(2)セラミック原料
セラミック原料は、前記造孔材表面に含有する無機粉体を含めて、コーディエライト化原料となるように調製するのが好ましい。コーディエライト化原料は、主結晶がコーディエライト(主成分の化学組成が42〜56質量%のSiO
2、30〜45質量%のAl
2O
3及び12〜16質量%のMgO)となるように、シリカ源成分、アルミナ源成分及びマグネシア源成分を有する各原料粉末を配合したものである。前記セラミック原料及び前記無機粉体は、前記セラミック原料及び前記無機粉体の合計(コーディエライト化原料)100質量%に対して15〜25質量%のシリカ、27〜43質量%のタルク及び15〜30質量%のアルミナを含有するコーディエライト化原料であるのが好ましい。コーディエライトを主結晶とするセラミックスに形成される細孔は、焼成過程においてセラミック原料の溶融によって生じる細孔と、造孔材が焼失されて生じる細孔からなる。従って、前述の造孔材とともに、カオリン、シリカ、タルク、アルミナ等のセラミック原料の粒径及び粒度分布を調節することにより、コーディエライト質セラミックスが焼成された際に生じる細孔及び基材構造を制御することができる。中でもシリカ周囲の原料との拡散反応により細孔を形成することができるため、造孔材と共に、基材構造(細孔構造)に対する寄与が大きい。
【0058】
(a)シリカ
シリカは、他の原料に比べて高温まで安定に存在し、1300℃以上で溶融拡散し、細孔を形成することが知られている。このため、コーディエライト化原料が15〜25質量%のシリカを含有すると、所望の量の細孔が得られる。25質量%を超えてシリカを含有させると、主結晶をコーディエライトに維持するために、他のシリカ源成分であるカオリン及び/又はタルクを低減させなければならず、その結果、カオリンによって得られる低熱膨張化の効果(押出し成形時にカオリンが配向されることで得られる効果)が低減し耐熱衝撃性が低下する。一方、15質量%未満の場合、所望の気孔率が得られないこともあり、圧力損失特性が悪化する。なお、無機粉体としてシリカを含有させた造孔材を用する場合、前記造孔材中のシリカ配合量を勘案して、コーディエライト化原料に含まれるシリカの配合量を適宜変更する。
【0059】
シリカは、メジアン径D50が15〜30μm、10μm以下の粒子径を有する粒子の割合が3質量%以下、100μm以上の粒子径を有する粒子の割合が3質量%以下、及び粒度分布偏差SDが0.4以下のものを使用するのが好ましい。このような粒径及び粒径分布を有するシリカ粒子を前記造孔材と組合せて使用することにより、基材分岐数を多くすることができる。
【0060】
シリカのメジアン径D50が15μm未満の場合、基材径が大きくなって、圧力損失を上昇させる原因となることもある。一方、30μmを超える場合、基材径が小さくなって、強度が低下することもある。シリカのメジアン径D50は、好ましくは17〜28μmであり、さらに好ましくは19〜26μmである。
【0061】
10μm以下の粒子径を有するシリカ粒子の割合が3質量%を超える場合、基材径が大きくなって圧力損失を上昇させる原因となることもある粒子径10μm以下のシリカ粒子の割合は、好ましくは2質量%以下である。粒子径100μm以上の粒子径を有する粒子の割合が3質量%を超える場合、基材径が小さくなって、強度が低下することもある。粒子径100μm以上のシリカ粒子の割合は、好ましくは2質量%以下である。シリカの粒度分布偏差SDは、好ましくは0.35以下であり、さらに好ましくは0.3以下である。
【0062】
前記シリカ粒子の真球度は、0.5以上であるのが好ましい。シリカ粒子の真球度が、0.5未満である場合、隔壁の細孔が、破壊の起点となり易い鋭角部を有する細孔が多くなりハニカム構造体の強度が低下する場合があるので好ましくない。シリカ粒子の真球度は、好ましくは0.6以上であり、さらに好ましくは0.7以上である。シリカ粒子の真球度は、シリカ粒子の投影面積を、シリカ粒子の重心を通り粒子外周の2点を結ぶ直線の最大値を直径とする円の面積で割った値であり、電子顕微鏡写真から画像解析装置で求めることができる。
【0063】
前記シリカ粒子は結晶質のもの、又は非晶質のものを用いることができるが、粒度分布を調整する観点から非晶質のものが好ましい。非晶質シリカは高純度の天然珪石を高温溶融して製造したインゴットを粉砕して得ることができる。シリカ粒子は不純物としてNa
2O、K
2O、CaOを含有しても良いが、熱膨張係数が大きくなるのを防止するため、前記不純物の含有量は合計で0.1%以下であるのが好ましい。
【0064】
真球度の高いシリカ粒子は、高純度の天然珪石を微粉砕し高温火炎の中に溶射することにより得られる。高温火炎の中への溶射によりシリカ粒子の溶融と球状化とを同時に行い、真球度の高い非晶質シリカを得ることができる。さらに、この球状シリカ粒子の粒度を分級等の方法により調整するのが好ましい。
【0065】
(b) カオリン
コーディエライト化原料に用いるシリカ原料としては、前記シリカ粉末に加えて、カオリン粉末を配合することができる。カオリン粉末は1〜15質量%含有するのが好ましい。カオリン粉末をが15質量%を超えて含有すると、主結晶をコーディエライトに維持するために、他のシリカ源成分であるシリカ及び/又はタルクを低減させなければならず、その結果、所望の基材構造が得られないこともある。1質量%未満の場合は、セラミックハニカム構造体の熱膨張係数が大きくなる。カオリン粉末の含有量は、さらに好ましくは4〜8質量%である。
【0066】
カオリン粒子は、そのc軸が押出し成形されるハニカム構造体の長手方向と直交するように配向すれば、コーディエライト結晶のc軸がハニカム構造体の長手方向と平行となり、ハニカム構造体の熱膨張係数を小さくすることができる。カオリン粒子の配向には、その形状が大きく影響する。カオリン粒子の形状を定量的に示す指数である、カオリン粒子のへき開指数は0.80以上であるのが好ましく、0.85以上であるのがさらに好ましい。カオリン粒子のへき開指数は、プレス成形したカオリン粒子をX線回折測定し、得られた(200)面、(020)面及び(002)面の各ピーク強度I
(200)、I
(020)及びI
(002)から、次式:
へき開指数 = I
(002)/[I
(200)+I
(020)+I
(002)]
により求めることができる。へき開係数が大きいほどカオリン粒子の配向が良好であると言える。
【0067】
(c)タルク
コーディエライト化原料は、メジアン径D50が1〜10μm、及び粒度分布偏差SDが0.6以下のタルクを、コーディエライト化原料100質量%に対して27〜43質量%含有するのが好ましい。タルクはMgOとSiO
2から成る化合物であり、焼成過程において周囲に存在するAl
2O
3成分と反応して溶融し細孔を形成する。従って、Al
2O
3源原料と共に、粒子径の小さいタルクを配合することで、基材分岐数を増やすことができるため、隔壁内の細孔の連通性を向上させることができる。タルクのメジアン径D50が1μm未満の場合、細孔の連通性が低くなり圧力損失特性が低下する。一方、タルクのメジアン径D50が10μmを超える場合、粗大細孔が多くなる。タルクのメジアン径D50は、好ましくは2〜9μmであり、さらに好ましくは3〜8μmである。タルク粒子の粒度分布偏差SDは、好ましくは0.55以下であり、さらに好ましくは0.5以下である。
【0068】
タルクは結晶相の主成分がコーディエライトであるセラミックハニカム構造体の熱膨張係数を低減する観点から、板状粒子であるのが好ましい。タルク粒子の平板度を示す形態係数は、0.5以上であるのが好ましく、0.6以上であるのがより好ましく、0.7以上であるのが最も好ましい。前記形態係数は、米国特許第5,141,686号に記載されているように、板状のタルク粒子をX線回折測定し、得られた(004)面の回折強度Ix、及び(020)面の回折強度Iyから次式:
形態係数 = Ix/(Ix+2Iy)
により求めることができる。形態係数が大きいほどタルク粒子の平板度が高い。
【0069】
タルクは、不純物としてFe
2O
3、CaO、Na
2O、K
2O等を含有しても良い。Fe
2O
3の含有率は、所望の粒度分布を得るために、マグネシア源原料中、0.5〜2.5質量%であるのが好ましく、Na
2O、K
2O及びCaOの含有率は、熱膨張係数を低くするという観点から、合計で0.5質量%以下であるのが好ましい。
【0070】
コーディエライト化原料に配合するタルクの添加量は、主結晶がコーディエライトとなるように27〜43質量%であるのが好ましい。無機粉体としてタルクを用いた中空樹脂粒子からなる造孔材を使用する場合、前記造孔材に含まれるタルク分を勘案して、コーディエライト化原料に添加するタルクの配合量を適宜調節する。
【0071】
(d)アルミナ
コーディエライト化原料は、コーディエライト化原料100質量%に対して15〜30質量%のアルミナを含有するのが好ましい。前記アルミナのメジアン径D50は1〜8μmであるのが好ましく、粒子径と累積体積との関係を示す曲線において、全体積の90%に相当する累積体積での粒子径D90が5〜15μmであるのが好ましい。アルミナのメジアン径D50は、好ましくは2〜7μmであり、さらに好ましくは3〜6μmである。アルミナ原料としては、アルミナに加えて水酸化アルミニウムを使用するのが好ましい。アルミナ及び水酸化アルミニウム中の不純物であるNa
2O、K
2O及びCaOの含有量の合計は、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。
【0072】
(3)製造方法
コーディエライト質セラミックハニカム構造体は、セラミック原料及び造孔材に、バインダー、必要に応じて分散剤、界面活性剤等の添加剤を加えて乾式で混合した後、水を加えて混練し、得られた可塑性の坏土を、公知のハニカム構造体成形用の金型から公知の押出成形法により押出してハニカム構造の成形体を形成し、この成形体を乾燥した後、必要に応じて端面及び外周等の加工を施し、焼成することによって製造する。
【0073】
焼成は、連続炉又はバッチ炉を用いて、昇温及び冷却の速度を調整しながら行う。1350〜1450℃で1〜50時間保持し、コーディエライト主結晶が十分生成した後、室温まで冷却する。前記昇温速度は、特に外径150 mm以上、及び全長150 mm以上の大型のコーディエライト質セラミックハニカム構造体を製造する場合、焼成過程で成形体に亀裂が発生しないよう、バインダーが分解する温度範囲(例えば150〜350℃)では0.2〜10℃/hr、コーディエライト化反応が進行する温度域(例えば1150〜1400℃)では5〜20℃/hrであるのが好ましい。冷却は、特に1400〜1300℃の範囲では20〜40℃/hの速度で行うのが好ましい。
【0074】
得られたセラミックハニカム構造体は、本発明の目的であるSCR触媒の担体として用いる以外にも、
図8示すように、公知の方法で所望の流路3の端部3a,3bを交互に目封止することによりセラミックハニカムフィルタ20とすることもでき、この目封止部は、セラミックハニカム構造体を焼成する前又は焼成した後のいずれに形成してもよい。
【実施例】
【0075】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0076】
実施例1〜2及び比較例1〜2
それぞれ表1〜表6に示す特性(粒径、粒度分布等)を有するシリカ粉末、タルク粉末、アルミナ粉末、水酸化アルミニウム
粉末及びカオリン
粉末を、セラミックス原料の合計量(造孔材の表面にコートされた無機粉体を含む)が100質量部となるように表7に示す添加量で配合して、焼成後の化学組成がコーディエライトとなるコーディエライト化原料粉末を得た。
【0077】
このコーディエライト化原料粉末に対し、表6に示す粒子形状の造孔材を表7に示す量で添加し、メチルセルロースを添加し、混合した後、水を加えて混練し、可塑性のコーディエライト化原料からなるセラミック坏土を作製した。造孔材Aはブタンガスを内包気体とする中空の樹脂粒子の表面にタルクをコートしたものであり、造孔材Bはブタンガスを内包気体とする中空の樹脂粒子のみのものである。なお造孔材粒子の真球度は、電子顕微鏡により撮影した粒子の画像から画像解析装置で求めた、投影面積A1、及び重心を通り粒子外周の2点を結ぶ直線の最大値を直径とする円の面積A2から、式:A1/A2で算出した値であり、20個の粒子についての平均値で表した。
【0078】
表1
【0079】
表1(続き)
【0080】
表2
【0081】
表2(続き)
【0082】
表3
【0083】
表4
【0084】
表5
【0085】
表6
【0086】
表6(続き)
注:圧縮回復量Lと最大圧縮回復量Lmaxとの比
【0087】
表6(続き)
【0088】
シリカ粉末、タルク粉末、アルミナ粉末、水酸化アルミニウム粉末、カオリン粉末、造孔材の粒度分布(メジアン径D50、粒子径10μm以下の割合、100μm以上の割合、D90及びD10等)は日機装(株)製マイクロトラック粒度分布測定装置(MT3000)を用いて測定した。
【0089】
表7
【0090】
表7(続き)
注(1) 1.5質量部の樹脂+6.0質量部の被覆タルクを含む
注(2) 2.5質量部の樹脂+10.1質量部の被覆タルクを含む
【0091】
得られた坏土を押出してハニカム構造の成形体を作製し、乾燥後、周縁部を除去加工し、焼成炉にて209時間のスケジュール(室温〜150℃は10℃/h、150〜350℃は2℃/hr、350〜1150℃は20℃/h及び1150〜1410℃は15℃/hrの平均速度で昇温、最高温度1410℃で24hr保持、並びに1400〜1300℃は30℃/hr、及び1300〜100℃は80℃/hrの平均速度で冷却)で焼成した。焼成したセラミックハニカム体の外周に、非晶質シリカとコロイダルシリカとからなる外皮材をコーティングして乾燥させ、外径266.7 mm及び全長304.8 mm、表8に示す隔壁厚さ及びセル密度を有する実施例1〜2及び比較例1〜2のコーディエライト質セラミックハニカム構造体を2個ずつ作製した。実施例1及び実施例2は、同じ配合組成の坏土を異なる金型を用いて、異なる隔壁厚さ及びセル密度のセラミックハニカム構造体が得られるよう押出成形した例である。
【0092】
得られた実施例及び比較例のコーディエライト質セラミックハニカム構造体の1個を用いて、下記の方法で水銀圧入法による細孔分布の測定、X線CTによる基材構造の測定、A軸圧縮強度及び熱膨張係数の測定を行った。これらの結果を表8に示す。なお実施例2は、実施例1と同じ配合組成の坏土を用いて成形し、同じ焼成条件で焼成したため、基材構造は実施例1と同等と考えられる。従って、基材構造の測定(X線CTによる基材分岐数、d10、d50、d90及びd90-d10)/d50の測定)は省略した。
【0093】
(a) 水銀圧入法による細孔分布の測定
全細孔容積、気孔率及び累積細孔容積曲線の傾きSnは水銀圧入法の測定結果から求めた。水銀圧入法による測定は、コーディエライト質セラミックハニカム構造体から切り出した試験片(10 mm×10 mm×10 mm)を、Micromeritics社製オートポアIIIの測定セル内に収納し、セル内を減圧した後、水銀を導入して加圧し、加圧時の圧力と試験片内に存在する細孔中に押し込まれた水銀の体積との関係を求めることにより行った。前記圧力を細孔径に換算し、細孔径の大きい側から小さい側に向かって積算した累積細孔容積(水銀の体積に相当)を細孔径に対してプロットし、細孔径と累積細孔容積との関係を示すグラフを得た。水銀を導入する圧力は0.5 psi(0.35×10
-3 kg/mm
2)とし、圧力から細孔径を算出する際の常数は、接触角=130°及び表面張力=484 dyne/cmの値を使用した。
【0094】
得られた水銀圧入法の測定結果から、全細孔容積及び気孔率及び細孔径(対数値)に対する累積細孔容積を表す曲線の傾きS
nの最大値を算出した。気孔率は、全細孔容積の測定値から、コーディエライトの真比重を2.52 g/cm
3として計算によって求めた。結果を表8に示す。
【0095】
累積細孔容積曲線の傾きS
nは、細孔径に対する累積細孔容積を示す曲線から求めた。ここで、傾きS
n[(n)番目の測定点における累積細孔容積曲線の傾き]は、測定開始から、(n-1)番目の測定点における細孔径d
n-1(μm)及び累積細孔容積V
n-1(cm
3/g)と、(n)番目の測定点における細孔径d
n(μm)及び累積細孔容積V
n(cm
3/g)とから、式:S
n=-(V
n-V
n-1)/{log(d
n)-log(d
n-1)}により求めることができる。各測定点におけるS
nの値から、その最大値を求めた。
図6及び
図7は、実施例2のセラミックハニカム構造体の測定例である。
【0096】
(b) X線CT測定
X線CTの測定は、ハニカム構造体の隔壁から切り出した試験片(1.0 mm×2.0 mm×隔壁厚み)を用いて、以下の条件で行った。
<測定条件>
使用装置:三次元計測X線CT装置 Xradia社 MicroXCT‐200
管電圧:30 kV
管電流:133 μA
画素数:1024×1024 pixel
解像度:2.0μm/pixel
解析領域:0.52 mm×0.8 mm×隔壁厚み
【0097】
得られた連続する断層画像(スライス像)から、定量解析ソフトTRI/3D-BON(ラトックシステムエンジニアリング製)を用いて得られた基材の三次元構造のデータに、メディアンフィルターを適用したノイズ除去を行った後、2階調化処理を行い基材部分と空隙部分とを識別し基材の三次元構造を得た。さらに識別された基材部分について、ソフト上で細線化処理を行い、基材のネットワーク構造(
図3において、三次元構造の中心部分に描かれた線であり、枝1と、結合点2とからなる。)を求めた。解析は、得られた3次元構造の内、前記解析領域で指定した範囲について行った。基材のネットワーク構造において、3以上の枝の結合点2a及び幅の異なる枝の結合点2bを基材の分岐点とし、基材の単位体積(1 mm
3)あたりの分岐点の数(基材分岐数)を求めた。結果を表8に示す。
【0098】
さらに隣接する2つの分岐点間の基材を1つの部分基材として、解析領域内の全ての分岐点について部分基材を求め、各部分基材について部分基材の長さ(隣接する2つの分岐点間の距離)、基材径(部分基材の軸に直交する断面における短径と長径との和を2で除した値)及び
基材容積を求めた。
【0099】
得られた全ての部分基材についての基材径及び基材容積から、基材径2μmごとの基材容積の積算値をプロットすることにより、部分基材の基材径に対する基材容積の分布を求めた。結果を
図10に示す。さらに、得られた基材容積の分布において、最小の基材径(0μm)から特定の基材径までの基材容積の積算値を、前記特定の基材径における累積基材容積として、基材径と累積基材容積との関係を求めた。結果を
図11に示す。
【0100】
基材径と累積基材容積との関係から、累積基材容積が全基材容積の10%となる基材径d10、同じく全基材容積の50%となる基材径d50及び同じく全基材容積の90%となる基材径d90を求め、式:(d90-d10)/d50の値を算出した。結果を表8に示す。
【0101】
(c) 熱膨張係数
熱膨張係数は、断面形状4.5 mm×4.5 mm×全長50 mmの寸法の試験片を、全長の方向が流路方向にほぼ一致するように切り出し、熱機械分析装置(TMA、リガク社製ThermoPlus、圧縮荷重方式/示差膨張方式)を用いて、一定荷重20 gをかけながら、昇温速度10℃/min.で室温から800℃まで加熱したときの全長方向の長さの増加量を測定して、40〜800℃間の平均熱膨張係数として求めた。結果を表8に示す。
【0102】
表8
【0103】
表8(続き)
【0104】
(d) A軸圧縮強度
A軸圧縮強度は、社団法人自動車技術会が定める規格M505-87「自動車排気ガス浄化触媒用セラミックモノリス担体の試験方法」に従って測定し、以下に記載の基準で評価した。結果を表9に示す。
【0105】
実施例1〜2及び比較例1〜2で作製したもう一つのコーディエライト質セラミックハニカム構造体に、活性金属として白金触媒を担持してSCR触媒を作製し、以下に述べる方法で、初期圧力損失及びNOx浄化率を測定した。結果を表9に示す。
【0106】
(e) 初期圧力損失
初期圧力損失は、圧力損失テストスタンドに固定したコーディエライト質セラミックハニカム構造体に、空気を流量10 Nm
3/minで送り込み、流入側と流出側との差圧(圧力損失)で表した。圧力損失が、
1.0 kPaを越える場合を(×)、
0.8 kPaを超え1.0 kPa以下の場合を(△)、
0.6 kPaを超え0.8 kPa以下の場合を(○)、及び
0.6 kPa以下の場合を(◎)
として初期圧力損失を評価した。
【0107】
(f) NOx浄化率
セラミックハニカム構造体に、活性金属として白金を担持してSCR触媒を作製し、このSCR触媒にNOxを400 ppm含む排気ガスを300℃で導入し、SCR触媒出口での排気ガス中NOx量を、排気ガス中のNOx量と同量の尿素(N換算)を添加することにより測定してNOx浄化率を測定した。NOx浄化率が
80%以上の場合を(○)、
70%以上80%未満の場合を(△)、及び
70%未満の場合を(×)
としてNOx浄化率を評価した。
【0108】
表9
【0109】
表9より、実施例1〜2の本発明のコーディエライト質セラミックハニカム構造体は、高い強度を有し、初期圧力損失が低く、かつNOx浄化率に優れていることがわかる。
【0110】
これに対して、比較例1のコーディエライト質セラミックハニカム構造体は、実施例1及び2に比べて造孔材Aの使用量が多かったため、気孔率が高く強度が低かった。
【0111】
比較例2のコーディエライト質セラミックハニカム構造体は、実施例1及び2に比べて、無機粉体がコートされておらず、かつメジアン径が比較的大きい中空樹脂を造孔材として使用し、さらに粒径の大きなシリカ、タルク及びアルミナを使用しているため、基材分岐数が小さく、NOx浄化率が著しく低かった。