(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用されている半導体モジュールの中には、コンピューターのCPU、ペルチェ素子、LED、インバーター等の電源制御用パワー半導体など使用中に発熱をともなう発熱部品がある。
【0003】
これらの半導体モジュールを熱から保護し、正常に機能させるためには、半導体モジュールから発生した熱をヒートシンクへ伝導させて放熱させる方法がある。熱伝導性グリースは、これら半導体モジュールとヒートシンクを密着させるように両者の間に塗布され、半導体モジュールの熱をヒートシンクに効率よく伝導させるために用いられる。近年、これら半導体モジュールを用いる電子機器の性能向上や小型・高密度実装化が進んでおり、放熱対策に用いられる熱伝導性グリースにはより高い熱伝導性が求められる。
【0004】
熱伝導性グリースは、液状炭化水素やシリコーン油、フッ素油等の基油に、熱伝導率の高い無機粉末充填剤(酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物や、アルミニウムや銅等の金属粉末等)を多量に分散させたグリース状組成物である。
【0005】
熱伝導性グリースは、半導体モジュールに組み付けられる際には、まず半導体モジュールの発熱面又はその発熱面と接触するヒートシンクの面に対して50%程度の面積比でドット又はブロック等の所定パターン状に塗布される。パターン形成された熱伝導性グリースは、半導体モジュールとヒートシンクとを密着させることによって、半導体モジュールの表面のほぼ全面に広がる。
【0006】
例えば、特許文献1には、半導体モジュールと冷却体(ヒートシンク)との間に介在させる熱伝導性グリースを所定のパターンに塗布する塗布方法が開示されている。特許文献1によれば、所定のパターンで熱伝導性グリースを塗布した半導体モジュールであることにより、その半導体モジュールから冷却体(ヒートシンク)までの伝導率を向上させて、半導体モジュールの熱をヒートシンクに効率よく伝導させることができるとしている。
【0007】
ところで、近年、ユーザーによる熱伝導性グリース塗布の手間を省略するため、また塗布方法、条件に起因する熱伝導性能のばらつきを軽減するため、半導体モジュールの表面に予め熱伝導性グリースが塗布された半導体モジュール、いわゆる熱伝導性グリース付き半導体モジュールの状態で流通されることがある。
【0008】
熱伝導性グリース付き半導体モジュールでは、相変化型の熱伝導性グリースが用いられている。相変化型の熱伝導性グリースは、常温では固体であるが、溶媒中に溶解させて液状とすることができるものである。したがって、液状となった熱伝導性グリースを半導体モジュールの表面に塗布した後、溶媒を揮発させて熱伝導性グリースを再び固化することによって、熱伝導性グリース付き半導体モジュールを構成することができる。
【0009】
このように、熱伝導性グリース付き半導体モジュールに塗布された相変化型の熱伝導性グリースは、常温では固体であるため、半導体モジュールが流通等された場合であっても、その厚さや形状を安定して維持することができる。そして、ヒートシンクを半導体モジュールと接合させる際には、固化された熱伝導性グリースを液状にする(非特許文献1)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されることなく、本発明の目的において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0027】
≪1.熱伝導性グリース付き半導体モジュール≫
図1は、本実施の形態に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュール(以下、単に「半導体モジュール」ともいう)の構成の一例を示す図である。(a)は、半導体モジュールの側面方向の断面図であり、(b)は、半導体モジュールの上部からの平面図である(なお、保護カバー14を装着させる前の状態を示している)。
【0028】
図1に示すように、半導体モジュールは、半導体モジュール本体13と、区画シート11と、を備えている。
図1(a)、(b)に示すように、区画シート11は複数の貫通孔110を有しており、その貫通孔110のそれぞれに熱伝導性グリースGが注入され、保持される。
【0029】
図2は、熱伝導性グリースGを区画シート11の貫通孔110内に注入する前の状態の半導体モジュール1Pの側面方向の断面図である。半導体モジュール1、1Pにおいては、半導体モジュール本体13の表面に、接着層12を介して、区画シート11が接着されている。接着層12においても、区画シート11に設けられた複数の貫通孔110に対応するように、貫通孔120が設けられている。したがって、接着層12を介して半導体モジュール本体13に接着された区画シート11の各貫通孔110に熱伝導性グリースGが注入されると、接着層12に設けられた対応する貫通孔120内にも熱伝導性グリースGが注入されることになる。これにより、区画シート11の貫通孔110内において保持された熱伝導性グリースGが半導体モジュール本体に接触している状態となる。
【0030】
このように、半導体モジュール本体13の表面に、接着層12を介して、複数の貫通孔110を有する区画シート11が設けられ、その区画シート11の各貫通孔110内に熱伝導性グリースGが注入され保持されることにより、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1が構成される。
【0031】
熱伝導性グリース付き半導体モジュール1は、区画シート11が接着した状態で流通に付される。したがって、注入された熱伝導性グリースGは、区画シート11の貫通孔110により保持された状態であるために、流通時における振動等によっても、半導体モジュール本体13の表面に対する塗布ずれやその表面からの流出の発生を有効に防ぐことができる。
【0032】
なお、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1は、ヒートシンク2と接合する際には、ユーザーの手等によって区画シート11が接着層12から剥離されて用いられる(
図4を参照)。
【0033】
以下、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1の各構成についてより詳細に説明する。
【0034】
<1−1.各構成について>
(半導体モジュール本体)
半導体モジュール本体13は、半導体モジュールの本体を構成するものである。例えば、コンピューターのCPU、ペルチェ素子、LED、インバーター等の電源制御用パワー半導体を挙げることができる。
【0035】
半導体モジュール本体13は、その表面に、後述する熱伝導性グリースGが塗布される。このように、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1では、熱伝導性グリースGを介在させ、半導体モジュール本体13と放熱部品であるヒートシンクとを接合させる。
【0036】
半導体モジュール本体13の形状は、特に限定されないが、区画シート11を接着させ熱伝導性グリースGを塗布し得る所定の面積の平面を有することが好ましい。
【0037】
(区画シート)
区画シート11は、複数の貫通孔110を有しており、半導体モジュール本体13の表面に接着される。区画シート11は、複数の貫通孔110内に熱伝導性グリースGを保持する。また、区画シート11は、接着層12を介して半導体モジュール本体13の表面に接着される。したがって、区画シート11は、半導体モジュール本体13に安定的に固定され、安定的に熱伝導性グリースGを保持することができる。
【0038】
熱伝導性グリース付き半導体モジュール1においては、区画シート11が半導体モジュール本体13に接着した状態で流通されるため、その区画シート11により熱伝導性グリースGが半導体モジュール本体13の表面の所定の箇所から移動等してしまうことを抑制することができる。
【0039】
なお、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1においては、使用に際して、すなわちヒートシンク2と接合するに際して、接着層12を介して接着されている区画シート11は、その接着層12からユーザーの手等によって剥離される。
【0040】
区画シート11は、上述したように、複数の貫通孔110が設けられている。この貫通孔110は、注入された熱伝導性グリースGを保持する役割を果たすとともに、半導体モジュール本体13の表面への熱伝導性グリースGの塗布パターンを規定する。
【0041】
具体的に、貫通孔110の形状としては、特に限定されず、円状、楕円状、角形状等どのような形であってもよい。その中でも、半導体モジュール本体13の表面において均一に熱伝導性グリースGを薄く広げることができる観点から円状であることが好ましく、例えば直径が1mm以上20mm以下の円状であることが好ましい。
【0042】
また、貫通孔110は、半導体モジュール本体13の表面に均一に熱伝導性グリースGを薄く広げるようにするため、区画シート11の全体にわたって略均等に配置されていることが好ましい。
【0043】
また、貫通孔110の深さ(区画シート11の厚さ)としては、注入した熱伝導性グリースGを安定的に保持することができれば特に限定されず、例えば、3mm以上10mm以下の深さとすることが好ましい。
【0044】
区画シート11の材質に特に制限はないが、熱伝導性グリースに浸透されることがなく、貫通孔の形成が容易であり、半導体モジュール本体13への貼り付け作業時に湾曲変形可能であることにより作業が容易であり、かつ半導体モジュール本体13からの剥離時に破断しない強度を持つ材質であることが好ましく、例えばゴム、エラストマー、或いはゲル等を選択することができる。
【0045】
区画シート11の厚さは、上述したように貫通孔110の深さに相当し、熱伝導性グリースGを安定的に保持できる厚さであるとともに、半導体モジュール本体13から(接着層12から)の剥離時に破断しない強度を持つような厚さとすることが好ましい。具体的には、上述のように、例えば3mm以上10mm以下の厚さとすることが好ましい。
【0046】
(接着層)
接着層12は、半導体モジュール本体13と区画シート11との間に介在され、区画シート11を半導体モジュール本体13の表面に接着する。これにより、区画シート11が、半導体モジュール本体13に安定的に固定されるようになる。
【0047】
また、接着層12には、複数の貫通孔120が形成されている。この接着層12に形成されている貫通孔120は、区画シート11に設けられている貫通孔110に対応するものであり、区画シート11の貫通孔110内に熱伝導性グリースGを注入すると、その区画シート11の貫通孔110に対応するように形成された接着層12の貫通孔120を通って、熱伝導性グリースGが半導体モジュール本体13の表面に直接接触する状態となる。
【0048】
なお、接着層12の貫通孔120は、区画シート11の貫通孔110に対応して形成されていればよく、区画シート11の貫通孔110と同一の大きさであっても異なる大きさであってもよい。熱伝導性グリースGを所定のパターンで半導体モジュール本体13の表面に塗布するようにする観点では、それぞれの貫通孔は同一の大きさであることが好ましい。
【0049】
接着層12の接着強度、すなわち接着層12と区画シート11との接着強度は、特に限定されないが、0.5N/10mm以上であることが好ましく、1.0N/10mm以上であることがより好ましい。接着強度が好ましくは0.5N/10mm以上であることにより、安定的に区画シート11を接着固定することができ、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1を流通する際に剥がれてしまうことを防ぎ、区画シート11により保持している熱伝導性グリースGが流出してしまうことを抑制することができる。
【0050】
一方で、接着層12の接着強度は、5N/10mm以下であることが好ましく、3N/10mm以下であることがより好ましい。上述したように、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1の使用時には(ヒートシンク2と接合させるに際しては)、接着層12から区画シート11を剥離する。このとき、ユーザーの手等によって容易に剥離できることが好ましいが、その点、5N/10mm以下であることにより、道具等を使うことなく容易に剥離することができ操作性が向上する。
【0051】
接着層12を構成する接着性樹脂は、特に制限されず、セルロース系接着性樹脂、ビニルアルキルエーテル系接着性樹脂等の樹脂を挙げることができる。具体的には、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール等を例示することができる。その他の接着性樹脂としては、アクリル系接着性樹脂、シリコーン系接着性樹脂、ウレタン系接着性樹脂、ビニルピロリドン系粘着性樹脂、アクリルアミド系粘着性樹脂、ゴム系接着性樹脂などが挙げられる。
【0052】
(熱伝導性グリース)
熱伝導性グリース付き半導体モジュール1においては、区画シート11の複数の貫通孔110内に熱伝導性グリースGが保持されて構成される。熱伝導性グリースGは、半導体モジュール本体13と放熱部品であるヒートシンク2との間に介在して、半導体モジュール本体13からの熱をヒートシンク2に伝導させる。
【0053】
熱伝導性グリース付き半導体モジュール1では、半導体モジュール本体13の表面に接着層12を介して区画シート11が接着されており、その区画シート11に設けられた貫通孔110に熱伝導性グリースGが注入され、保持されることを特徴としている。
【0054】
このように、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1では、区画シート11を接着しており、その区画シート11の貫通孔110に熱伝導性グリースGが保持された状態で流通されるため、例えば、ちょう度の高い熱伝導性グリースGを使用した場合であっても、塗布箇所からのずれや流出を有効に抑制することができる。
【0055】
具体的に、熱伝導性グリースGのちょう度は、ヒートシンク2と半導体モジュール本体13との接合時における濡れ広がり性や塗布操作性の観点を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、100以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましく、250以上であることがさらに好ましく、300以上であることが最も好ましい。また、熱伝導性グリースGのちょう度は、400以下であることが好ましい。
【0056】
熱伝導性グリースGのちょう度は、後述する無機粉末充填剤や基油等の成分量を調整する又は、所定の増ちょう剤を含有させて調整することができる。
【0057】
(保護カバー)
必須の構成ではないが、区画シート11の裏面、すなわち半導体モジュール本体13との接着面とは反対側の面に、保護カバー14を装着させるようにしてもよい。上述したように、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1においては、区画シート11が接着層12を介して半導体モジュール本体13に接着され、その区画シート11の貫通孔110内に熱伝導性グリースGが保持された状態で、流通される。このとき、区画シート11の裏面に保護カバー14を装着させることで、貫通孔110内に保持された熱伝導性グリースGに異物等が混入することや、熱伝導性グリースGが半導体モジュール1の外に流出することを抑制することができる。
【0058】
保護カバー14の材質は、特に限定されないが、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、PTFE等を挙げることができる。例えば、内部の熱伝導性グリースGの状態を観察し得るようにする観点から透明な樹脂であることが好ましい。
【0059】
また、保護カバー14の厚さは、特に限定はされず、例えば0.1mm以下程度の厚さとすることができる。
【0060】
<1−2.熱伝導性グリースについて>
ここで、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1を構成する熱伝導性グリースGについて具体的に説明する。熱伝導性グリースGは、無機粉末充填剤と、基油と、を含有するものであり、必要に応じて分散剤、増ちょう剤、基油拡散防止剤等の添加剤を含有する。
【0061】
(無機粉末充填剤)
無機粉末充填剤は、高い熱伝導性を付与する。無機粉末充填剤は、基油より高い熱伝導性を有するものであれば特に限定されないが、金属酸化物、無機窒化物、金属(合金を含む)、ケイ素化合物、カーボン材料などの粉末が好適に用いられる。
【0062】
無機粉末充填剤の含有割合としては、特に限定はされないが、熱伝導性グリース全量中70質量%以上が好ましい。70質量%以上であることにより熱伝導性を十分に高くすることができる。また、無機粉末充填剤の含有割合は、97質量%以下が好ましい。97質量%以下であることにより、熱伝導性グリースのちょう度の低下を防いで、半導体モジュール本体13の表面における濡れ広がり性を向上させることができる。
【0063】
(基油)
基油は、熱伝導性グリースのベースを構成する。基油としては、特に限定されず、例えば鉱油、合成炭化水素油などの炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル系基油、リン酸エステル、シリコーン油及びフッ素油などを用いることができる。
【0064】
具体的に、鉱油としては、鉱油系潤滑油留分を溶剤抽出、溶剤脱ロウ、水素化精製、水素化分解、ワックス異性化などの精製手法を適宜組み合わせて精製したもので、150ニュートラル油、500ニュートラル油、ブライトストック、高粘度指数基油などが挙げられる。合成炭化水素油としては、エチレンやプロピレン、ブテン、及びこれらの誘導体などを原料として製造されたアルファオレフィンを、単独又は2種以上混合して重合したものが挙げられる。具体的には、1−デセンや1−ドデセンのオリゴマーであるポリアルファオレフィン(PAO)や、1−ブテンやイソブチレンのオリゴマーであるポリブテン、エチレンやプロピレンとアルファオレフィンのコオリゴマー等が挙げられる。エステル系基油としては、ジエステルやポリオールエステルが挙げられる。ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。ポリオールエステルとしては、β位の炭素上に水素原子が存在していないネオペンチルポリオールのエステルで、具体的にはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスルトール等のカルボン酸エステルが挙げられる。
【0065】
(増ちょう剤)
増ちょう剤は、基油と共に熱伝導性グリースGのベースを構成するものであり、熱伝導性グリースの硬さを調整する。
【0066】
増ちょう剤としては、特に限定されず、例えば、ウレア化合物、ナトリウムテレフタラメート、ポリテトラフルオロエチレン、有機化ベントナイト、シリカゲル、石油ワックス、ポリエチレンワックス等を挙げることができる。
【0067】
(基油拡散防止剤)
熱伝導性グリースGには、グリースを構成する基油の拡散を防止する目的で基油拡散防止剤を含有させてもよい。
【0068】
熱伝導性グリース付き半導体モジュール1は、半導体モジュール本体13の表面に接着層12を介して区画シート11が設けられて構成されている。そして、その区画シート11の貫通孔110内に熱伝導性グリースGが注入され保持されている。このことから、熱伝導性グリースGが移動等することを防ぎながら流通することが可能となっている。
【0069】
ところが、半導体モジュール1の保管時や運搬時等において、熱伝導性グリースGを構成する基油成分が僅かながら分離して拡散することがある。半導体モジュール1において、熱伝導性グリースGから基油が拡散すると、その熱伝導性グリースGに接触している接着層12内に基油が浸透することがあり、接着層12の接着強度(半導体モジュール本体13との接着強度や区画シート11との接着強度)を弱めてしまうことがある。
【0070】
熱伝導性グリースGにおいて基油拡散防止剤を含有させることにより、基油の拡散を防止して、接着層1への浸透等を有効に防ぐことができ、接着強度の低下を抑制することができる。
【0071】
具体的に、基油拡散防止剤としては、例えば一方の末端にパーフルオロアルキル基を有し、他方の末端に水素基又はリン酸基を有するものが挙げられる。このような基油拡散防止剤としては、例えば、下記一般式(1)で表わされる構造をもつ化合物が挙げられる。
R−(C
nH
2nO)
m−X ・・・(1)
【0072】
上記式(1)中、Rは炭素数1以上6以下の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であり、nは1以上10以下の整数であり、mは2以上100以下の整数である。Xは、水素基又はリン酸基である。
【0073】
基油拡散防止剤の含有量は、熱伝導性グリース全量中0.001質量%以上1質量%以下の割合であることが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下の割合であることがより好ましく、0.1質量%以上0.2質量%以下の割合であることが特に好ましい。基油拡散防止剤の含有量が0.001質量%以上であることにより、基油の拡散がより効果的に抑制されるため好ましい。一方で、一方、基油拡散防止剤の含有量が1質量%を超えても、基油拡散防止剤の特性は大きく変化しない。基油拡散防止剤の含有量が1質量%以下にすることによりコストを軽減することができるため好ましい。
【0074】
(酸化防止剤)
熱伝導性グリースGには、さらに酸化防止剤を含有させることができる。酸化防止剤は、主に、熱伝導性グリースに含有される基油の酸化を防止し、熱伝導性グリースの安定性を高め、長期に亘り熱伝導性グリースを使用することが可能となる。
【0075】
酸化防止剤としては、特に限定されず、公知の酸化防止剤を用いることができる。例えば、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、イオウ系、リン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、HALS等の化合物が挙げられる。その中でも、ヒンダードアミン系の酸化防止剤は、特に効果が高いため好ましい。これらの酸化防止剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
熱伝導性グリースGには、さらに分散剤を含有させることができる。分散剤は、グリースに含有される無機粉末充填剤の表面に吸着し、無機粉末充填剤と基油との親和性を向上させることができる。すなわち、分散剤は、無機粉末充填剤の表面改質剤として機能し、無機粉末充填剤と基油との親和性を向上させることによって、熱伝導性グリースのちょう度を向上させることができる。
【0077】
分散剤は、例えば、ポリグリセリンモノアルキルエーテル化合物、高級脂肪酸エステルのようなカルボン酸構造を有する化合物、ポリカルボン酸系化合物等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に、ポリグリセリンモノアルキルエーテル化合物、カルボン酸構造を有する化合物、ポリカルボン酸系化合物を併用することが好ましい。
【0078】
(その他の成分)
熱伝導性グリースにおいては、必要に応じて、上記の各成分以外の成分(その他の成分)を含有することができる。その他の成分としては、二次酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤、増粘剤等を挙げることができる。
【0079】
上述したような構成を有する熱伝導性グリースGは、公知の一般的な製造方法に従い、各成分を混合することにより製造することができる。例えば、各成分を、プラネタリーミキサー、自転公転ミキサーなどにより混練を行い、グリース状にした後、さらに三本ロールにて均一に混練することにより製造することができる。
【0080】
<2.熱伝導性グリース付き半導体モジュールの製造方法>
図3は、本実施の形態に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュール1の製造方法の流れの一例を示す模式図である。
【0081】
具体的には、まず、シートに複数の貫通孔を形成して区画シート11を作製する(
図3(a))。このシートは、上述した通りゴム、エラストマー、ゲル等からなるシートを採用することができる。シートに複数の貫通孔110を形成する方法は、従来公知の方法を用いることができる。
【0082】
次に、区画シート11の一方の表面に接着層12を積層する(
図3(b))。接着層12を積層する方法は、区画シート11に粘着性樹脂からなる粘着シートを張りつける方法や粘着性樹脂溶液を塗布し揮発成分を乾燥させる方法等を挙げることができる。この接着層12は、区画シート11の有する貫通孔110に対応して貫通孔120が形成される。
【0083】
次に、半導体モジュール本体13の表面に、接着層12を積層させた区画シート11を積層して接着させる(
図3(c))。
【0084】
次に、区画シート11における複数の貫通孔110内に熱伝導性グリースGを注入する(
図3(d))。熱伝導性グリースGを複数の貫通孔内に注入する方法は、例えば、そのグリースのちょう度に対応したグリスガンを用いる方法を挙げることができる。接着層12は貫通孔120が形成されているため熱伝導性グリースが半導体モジュール本体13の表面に直接塗布されることとなる。
【0085】
次に、区画シート11におけるモジュール本体との接着面とは反対側の面に保護カバーを装着する(
図3(e))。
【0086】
上記の工程を経ることにより、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1を製造することができる(
図3(f))。
【0087】
なお、熱伝導性グリース付き半導体モジュールの製造方法としては、この製造方法に特に限定されるものではない。
【0088】
<3.熱伝導性グリース付き半導体モジュールの使用方法>
図4は、本実施の形態に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールの使用方法、すなわち放熱部品であるヒートシンクと接合するときの操作を説明するための図である。
【0089】
まず、熱伝導性グリース付き半導体モジュール1において、区画シート11を接着層12から剥離する(
図4(a))。剥離は、例えばユーザーの手等によって行うことができる。これにより、区画シート11により保持されていた熱伝導性グリースGが露出した半導体モジュール1Aとなる(
図4(b))。
【0090】
次に、熱伝導性グリースGが露出した側の表面とヒートシンク2を接近させて(
図4(c))、半導体モジュール本体13とヒートシンク2とを接合させる。このようにしてヒートシンク2を接合させることにより、ヒートシンク2との接合圧力によって、半導体モジュール本体13の表面に熱伝導性グリースGが薄く広がるようなる。これにより、熱伝導性グリースGを介して半導体モジュール本体13の熱がヒートシンク2に効率よく伝導され、半導体モジュール1Aを放熱させることができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0092】
[実施例1]
熱伝導性グリース付き半導体モジュールを、以下の手順で作製した(
図3参照)。
【0093】
まず、厚さ5mmのシート(シリコーンゴム)に、直径12mmの円形の貫通孔110を所定の配置で形成して区画シートを作製した(
図3(a))。
【0094】
次に、作製した区画シートの一方の表面に粘着性樹脂溶液を塗布し、室温にて乾燥して揮発成分を脱離させて粘着層を形成した(
図3(b))。粘着性樹脂溶液は、酢酸エチル100部(質量部、以下同じ)に対し、n−ブチルアクリレート(45部)と酢酸ビニル(10部)の加熱重合物、エチルセルロース(45部)、及び粘着付与剤(荒川化学工業株式会社製、商品名:ペンセルD−135)(25部)を含有するものを用いた。
【0095】
次に、接着層を積層させた区画シートを、接着層を積層させた側の面から半導体モジュール本体の表面に接着させて、区画シート付き半導体モジュールを得た(
図3(c))。
【0096】
一方、下記に示す各成分を混合させて熱伝導性グリースを作製した。なお、ちょう度が250となるように調整した。
(A)無機粉末充填剤 90.1質量%
(B)エステル系基油 9.3質量%
(C)分散剤(高級脂肪酸エステル) 0.2質量%
(D)増ちょう剤(有機処理ベントナイト) 0.3質量%
(E)基油拡散防止剤(リン酸基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物) 0.1質量%
【0097】
なお、無機粉末充填剤(A)は、平均粒径5μmと2μmと0.6μmの酸化亜鉛粉末を質量比4:3:3で含有した。
【0098】
そして、作製した熱伝導性グリースを、No.3ちょう度(ちょう度範囲220〜250)対応のグリスガンを用いて、区画シート付き半導体モジュールにおける区画シートの各貫通孔内に注入した(
図3(d))。
【0099】
熱伝導性グリースを注入したのち、区画シートの半導体モジュール本体との接着面とは反対側の面に厚さ0.1mmの透明ポリエチレンフィルムからなる保護カバーを、セメダイン製難接着物専用接着剤セメダインPPXを介して装着した(
図3(e))これにより、実施例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールを得た。
【0100】
(半導体モジュール運搬試験)
以上の手順にて作製した実施例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールを5個用意して運搬を行い、運搬後の熱伝導性グリース付き半導体モジュールについて区画シートを剥離し、半導体モジュール本体の表面を目視観察した。熱伝導性グリースの塗布パターンが維持されており、個々の熱伝導性グリース同士がいずれも連結しておらず、運搬時における熱伝導性グリースの塗布箇所からのずれや流出を効果的に抑制することができることが確認された。
【0101】
(高温放置試験)
実施例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュール5個を、大気中85℃に1000時間放置する高温放置試験にて基油の拡散を評価した。高温放置試験を終えた熱伝導性グリース付き半導体モジュールを目視観察したところ、接着層へ熱伝導性グリースの成分は浸透しておらず、区画シート11が剥離していなかった。
【0102】
更に、90度剥離試験(試験方法はJIS Z 0237:2009に準拠する)で測定した密着強度は、試験した5個のサンプルについて0.5N/10mmから1.5N/10mmの範囲内であり、区画シートは、半導体モジュール本体の表面との密着性を維持していた。
【0103】
(熱伝導性グリースの厚さ測定試験)
半導体モジュール本体に熱伝導性グリースを介してヒートシンクを接合させ、規定のトルクでネジ止めしたときの室温での熱伝導性グリースの厚さを測定した。
【0104】
まず、半導体モジュール本体とヒートシンクとの合計高さH1を測定した。そして、実施例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールを5個用意し、区画シートを剥離して、ヒートシンクを接合し、この状態のヒートシンクと半導体モジュール本体を合わせた全体の高さH2を測定した。
【0105】
H2から測定値H1を差し引くことで熱伝導性グリースの厚さを算出したところ19μm〜28μmの範囲内であった。
【0106】
[実施例2]
作製する熱伝導性グリースを、実施例に記載のものから(E)成分である基油拡散防止剤を除いた、(A)〜(D)成分を含有し、ちょう度を250に調整したものにしたこと以外は、実施例1と同様の手順により実施例2の熱伝導性グリース付き半導体モジュールを作製した。
【0107】
(半導体モジュール運搬試験)
上記の実施例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールと同様に実施例2に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールについて半導体モジュール運搬試験を行った。
【0108】
試験後の半導体モジュールについて目視観察したところ、熱伝導性グリースの塗布パターンが維持されており、個々の熱伝導性グリース同士がいずれも連結しておらず、流通時における熱伝導性グリースの塗布箇所からのずれや流出を効果的に抑制することができることが確認された。
【0109】
(高温放置試験)
上記の実施例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールと同様に実施例2に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールについて高温放置試験を行った。
【0110】
試験後の半導体モジュールについて目視観察したところ、接着層へ熱伝導性グリースの成分が浸透しており、区画シートが剥離していることが確認された。これは、熱伝導性グリースに含まれる基油成分が分離して流出したことにより、接着層内に基油が浸透したためと考えられる。この評価結果から、熱伝導性グリースが基油拡散防止剤を含む実施例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールは、基油の拡散を有効に防ぐことができることが確認された。
【0111】
(熱伝導性グリースの厚さ測定試験)
上記の実施例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールと同様に実施例2に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールについて熱伝導性グリースの厚さ測定試験を行った。
【0112】
H2から測定値H1を差し引くことで熱伝導性グリースの厚さを算出したところ45μm〜68μmの範囲内であった。これは、熱伝導性グリースに含まれる基油成分が分離して流出したことにより、熱伝導性グリースが固くなり、広がり性が低下したためと考えられる。この評価結果から、熱伝導性グリースが基油拡散防止剤を含む実施例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールは、基油の拡散を有効に防ぐことができることが確認された。
【0113】
[比較例]
区画シートを積層せずに、グリスガンを用いて半導体モジュールの表面に所定のパターンで熱伝導性グリースを塗布して比較例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールを得た。
【0114】
(半導体モジュール運搬試験)
上記の実施例1に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールと同様に比較例に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールについて半導体モジュール運搬試験を行った。
【0115】
試験後の半導体モジュールについて目視観察したところ、熱伝導性グリースの層の塗布パターンが著しく変形し、個々の熱伝導性グリースが連結していることが確認された。これは、区画シートの貫通孔内に熱伝導性グリースを保持させていなかったため運搬時における熱伝導性グリースの塗布箇所からのずれや流出を抑制できなかったためと考えられる。この試験結果から、実施例1、2に係る熱伝導性グリース付き半導体モジュールは、運搬時における熱伝導性グリースの塗布箇所からのずれや流出を効果的に抑制することができることが確認された。