(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コイルに印加する前記印加部の交流電流の尖頭値は、Ip =(Hs ・L)/n(但し、n:前記コイルの巻き数)で表される尖頭値Ip 以下であることを特徴とする請求項1に記載の回転数検出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、空気圧縮側のタービンのアルミニウム製の回転翼に近接して配置したコイルに高周波電流を印加し、回転翼が近接することにより渦電流が発生してコイルに発生する起電力が変化することを利用して回転数の検出を行っている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の検出方式では、渦電流を発生させるためには回転翼とコイルとを1mm程度の間隔に近接させなければならない、回転翼とコイルとの間に金属等の導電性材料を配置できないなどの制約があるという問題がある。
【0007】
特許文献2では、磁気を利用して回転数を検出する。この方式では、回転軸の先端に、回転軸の軸方向に直交する方向に磁化された磁石を取り付けて、回転軸と一体に磁石を回転させ、この磁石から発生した回転磁界を、磁石に近接して配置したホール素子などの磁気センサにて検出する。ここで、回転する磁石は、圧縮空気の雰囲気に直接接触するため、200℃以上の高温にて減磁しない磁石である必要があり、また、毎分数十万回転の遠心力に耐える靭性が高い磁石である必要がある。このような磁石としては、焼結磁石ではなくFe−Cr−Co合金による熱間鍛造、圧延により靱性を持たせた磁石が用いられる。
【0008】
しかしながら、この種の磁石は磁力が小さいため、磁気センサとしてホール素子を用いる場合には、ホール素子を磁石に近接させて設ける構成が必須となる。そこで、タービンの筐体に穴を形成して、筐体内にホール素子を収納する構成としている。よって、磁気センサの耐熱性と気流への空気抵抗による損失、また、筐体内は圧力が高いため筐体に穴をあけることによる気密性の確保に課題がある。
【0009】
特許文献3には、筐体に穴を形成せずに、特許文献2と同様に回転軸に磁石を取り付け、磁気を利用して回転数を検出する方式が開示されている。この方式では、磁石に磁気センサを近接配置することができず、磁石から20〜40mm離れた位置に磁気センサを配置している。上述したFe−Cr−Co合金系の磁石を使用した場合、この配置位置での磁界の大きさは1〜4mT程度となり、毎分10万回転以上ではアルミニウム製の筐体に発生する渦電流により更に磁界が弱められて1mT以下となる。
【0010】
このため検出センサとしてホール素子を用いる場合、一般にホール素子の検出感度は1V/T程度であるので、ホール素子の出力電圧は1mV以下となる。ここで、ホール素子のオフセット電圧が数mV発生するため、雑音以下の出力となって感度不足となり、安定した検出を行えない。
【0011】
ホール素子の安定した磁界検出感度は10mT程度であるため感度不足となる。一方磁界検出に磁芯付きコイルを用いた場合、検出感度は十分確保できるが、検出出力(電圧)が磁石の回転数に比例した出力となり、高回転では十分な検出出力を得ることができるが、低回転では出力が雑音以下となり検出できなくなる課題がある。特に近年高精度な過給圧制御のために毎分1000〜350000回転までの検出が必要であり、検出すべき回転数の範囲が350倍に及ぶため、コイルによる検出方式では特に低回転領域で対応できなくなる課題がある。
【0012】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、筐体に穴を形成する必要がなく、簡単小型で低コストの構成であって、広い検出範囲内にわたって正確な回転数を検出することができる回転数検出装置及び回転数検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る回転数検出装置は、回転軸の回転数を非接触で検出する回転数検出装置において、前記回転軸に装着され、前記回転軸の軸方向と直交する方向に着磁されて少なくとも1つのN極及び1つのS極を有する磁石と、軟質磁性体からなる板状をなす磁芯を有し、前記磁芯の長手方向の中央部は両端部に比べて幅が狭く、前記中央部にコイルが巻かれて
おり、前記磁芯の長手方向が前記磁石の着磁方向に一致するセンサ本体と、前記コイルに交流電流を印加する印加部と、前記コイルの両端に発生する電圧の変動を検出する検出部とを備えており、前記磁芯の中央部が磁気飽和を始める印加磁界は、前記磁石から発生する前記センサ本体位置での磁界の最大値の1/10以上1/2以下になるようにしてあり、前記磁芯の中央部が磁気飽和を始める印加磁界Hs は、Hs =(d・t・Bs )/(μ
0 ・W・L)(但し、d:前記中央部の幅、t:前記磁芯の厚さ、Bs :前記磁芯の飽和磁束密度、μ
0 :真空の透磁率、W:前記両端部の幅、L:前記磁芯の長さ)で表されることを特徴とする。
【0014】
本発明の回転数検出装置にあっては、検出対象の回転軸の軸方向と直交する方向(径方向)に着磁されて少なくとも1つのN極と1つのS極とを有する磁石を、回転軸と一体で回転するように、回転軸に装着し、軟質磁性体からなる板状の磁芯の幅が狭い中央部にコイルが巻かれているセンサ本体を、長手方向が磁石の着磁方向(径方向)に一致するように配置する。磁芯の中央部が磁気飽和を始める印加磁界は、磁石から発生するセンサ本体位置での磁界の最大値の1/10以上1/2以下になるように、磁芯の形状、特性を設定しておく。コイルに交流電流を印加し、磁石が回転軸と一体で回転した際に、コイルの両端に発生する電圧の変動を検出する。回転軸及び磁石が1回転する際に、磁石から印加される磁界の大きさが前記磁気飽和を始める印加磁界より小さくて磁気飽和が起こらずに、コイルの起磁力による磁化反転によってコイルの両端に発生する電圧が大きくなる状態と、磁石から印加される磁界の大きさが前記磁気飽和を始める印加磁界より大きくなって、磁気飽和によってコイルの起磁力による磁化反転が起こらずにコイルの両端に発生する電圧が小さくなる状態との変動が2回だけ生じる。よって、コイルの両端に発生する電圧の変動の回数を計数することにより、回転軸の回転数を容易に検出できる。また、磁芯の中央部が磁気飽和を始める印加磁界Hsは、磁芯の形状、特性を用いて、Hs =(d・t・Bs )/(μ
0 ・W・L)(但し、d:磁芯の中央部の幅、t:磁芯の厚さ、Bs :磁芯の飽和磁束密度、μ
0 :真空の透磁率、W:磁芯の両端部の幅、L:磁芯の長さ)で表される。よって、磁芯の形状、特性を特定することにより、磁芯の中央部が磁気飽和を始める所望の印加磁界が求められる。
【0015】
本発明に係る回転数検出装置は、前記コイルに印加する前記印加部の交流電流の尖頭値は、Ip =(Hs ・L)/n(但し、n:前記コイルの巻き数)で表される尖頭値Ip 以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の回転数検出装置にあっては、コイルに印加する交流電流の尖頭値を、Ip =(Hs ・L)/n(但し、n:コイルの巻き数)以下とする。よって、磁石からの磁界が印加磁界Hs 以下では磁芯の中央部で磁化反転が起こり、磁石からの磁界が印加磁界Hs を越えると磁芯の中央部が磁気飽和するという事象を、磁石の回転中に確実に実現できる。
【0017】
本発明に係る回転数検出装置は、前記センサ本体は、前記回転軸を収納する非磁性の筐体の外部に設けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明の回転数検出装置にあっては、回転軸を収納する非磁性の筐体の外部にセンサ本体を設けている。よって、従来例のように筐体に穴を形成する必要がないので、気密性を維持できる。
【0019】
本発明に係る回転数検出装置は、前記磁石は、熱間鍛造または圧延によるFe−Cr−Co合金系磁石であることを特徴とする。
【0020】
本発明の回転数検出装置にあっては、回転軸に装着させる磁石として、熱間鍛造または圧延による靭性が高いFe−Cr−Co合金系磁石を使用する。よって、高温環境であっても減磁することがなく、また、多回転数による遠心力に耐えて破壊されることもない。
【0021】
本発明に係る回転数検出装置は、軟質磁性体からなるヨーク板を前記磁芯の両端部近傍に更に備えることを特徴とする。
【0022】
本発明の回転数検出装置にあっては、軟質磁性体からなるヨーク板を磁芯の両端部近傍に設けている。よって、磁石からの磁束がヨーク板にて集められて磁芯に到達するため、センサ本体の検出感度は向上し、回転軸に装着される磁石が小型であっても、低い回転数から高い回転数までの広い範囲にわたって、回転軸の回転数を精度良く検出できる。
【0023】
本発明に係る回転数検出装置は、回転軸の回転数を非接触で検出する回転数検出装置において、前記回転軸に装着され、前記回転軸の軸方向と直交する方向に着磁されて少なくとも1つのN極及び1つのS極を有する磁石と、軟質磁性体からなる板状をなす磁芯を有し、前記磁芯の長手方向の中央部は両端部に比べて幅が狭く、前記中央部にコイルが巻かれて
おり、前記磁芯の長手方向が前記磁石の着磁方向に一致するセンサ本体と、前記コイルのインダクタンス分を共振回路の構成要素とした自励発振回路と、前記自励発振回路の発振出力の変動、または、前記自励発振回路に流入する電源電流の変動を検出する検出部とを備えており、前記磁芯の中央部が磁気飽和を始める印加磁界は、前記磁石から発生する前記センサ本体位置での磁界の最大値の1/10以上1/2以下になるようにしてあり、前記磁芯の中央部が磁気飽和を始める印加磁界Hs は、Hs =(d・t・Bs )/(μ
0 ・W・L)(但し、d:前記中央部の幅、t:前記磁芯の厚さ、Bs :前記磁芯の飽和磁束密度、μ
0 :真空の透磁率、W:前記両端部の幅、L:前記磁芯の長さ)で表されることを特徴とする。
【0024】
本発明の回転数検出装置にあっては、検出対象の回転軸の軸方向と直交する方向(径方向)に着磁されて少なくとも1つのN極と1つのS極とを有する磁石を、回転軸と一体で回転するように、回転軸に装着し、軟質磁性体からなる板状の磁芯の幅が狭い中央部にコイルが巻かれているセンサ本体を、長手方向が磁石の着磁方向(径方向)に一致するように配置する。磁芯の中央部が磁気飽和を始める印加磁界は、磁石から発生するセンサ本体位置での磁界の最大値の1/10以上1/2以下になるように、磁芯の形状、特性を設定しておく。コイルのインダクタンス分を共振回路の構成要素とした自励発振回路をコイルに接続し、磁石が回転軸と一体で回転した際に、自励発振回路の発振出力の変動、または、自励発振回路に流入する電源電流の変動を検出する。回転軸及び磁石が1回転する際に、磁石から印加される磁界の大きさが前記磁気飽和を始める印加磁界より小さくて磁気飽和が起こらずに、自励発振回路の発振出力、または、自励発振回路に流入する電源電流が大きくなる状態と、磁石から印加される磁界の大きさが前記磁気飽和を始める印加磁界より大きくなって磁気飽和によって、自励発振回路の発振出力、または、自励発振回路に流入する電源電流が小さくなる状態との変動が2回だけ生じる。よって、このような発振出力または電源電流の変動の回数を計数することにより、回転軸の回転数を容易に検出できる。また、磁芯の中央部が磁気飽和を始める印加磁界Hsは、磁芯の形状、特性を用いて、Hs =(d・t・Bs )/(μ
0 ・W・L)(但し、d:磁芯の中央部の幅、t:磁芯の厚さ、Bs :磁芯の飽和磁束密度、μ
0 :真空の透磁率、W:磁芯の両端部の幅、L:磁芯の長さ)で表される。よって、磁芯の形状、特性を特定することにより、磁芯の中央部が磁気飽和を始める所望の印加磁界が求められる。
【0025】
本発明に係る回転数検出方法は、回転軸の回転数を非接触で検出する回転数検出方法において、前記回転軸の軸方向と直交する方向に着磁されて少なくとも1つのN極と1つのS極とを有する磁石を、前記回転軸に固着させ、軟質磁性体からなる板状をなす磁芯を有し、前記磁芯の長手方向の中央部は両端部に比べて幅が狭く、前記中央部にコイルが巻かれており、前記磁芯の中央部が磁気飽和を始める印加磁界Hs は、Hs =(d・t・Bs )/(μ
0 ・W・L)(但し、d:前記中央部の幅、t:前記磁芯の厚さ、Bs :前記磁芯の飽和磁束密度、μ
0 :真空の透磁率、W:前記両端部の幅、L:前記磁芯の長さ)で表されるセンサ本体を、前記印加磁界Hs は前記磁石から発生する前記センサ本体位置での磁界の最大値の1/10以上1/2以下になるように、長手方向が前記磁石の着磁方向に一致するように配置させ、Ip =(Hs ・L)/n(但し、n:前記コイルの巻き数)で表される尖頭値Ip 以下の尖頭値を有する交流電流を前記コイルに印加し、前記磁石が前記回転軸と一体で回転した際に、前記コイルの両端に発生する電圧の変動を検出し、前記電圧の変動の検出結果に基づいて、前記回転軸の回転数を検出することを特徴とする。
【0026】
本発明に係る回転数検出方法は、回転軸の回転数を非接触で検出する回転数検出方法において、前記回転軸の軸方向きと直交する方向に着磁されて少なくとも1つのN極と1つのS極とを有する磁石を、前記回転軸に固着させ、軟質磁性体からなる板状をなす磁芯を有し、前記磁芯の長手方向の中央部は両端部に比べて幅が狭く、前記中央部にコイルが巻かれており、前記磁芯の中央部が磁気飽和を始める印加磁界Hs は、Hs =(d・t・Bs )/(μ
0 ・W・L)(但し、d:前記中央部の幅、t:前記磁芯の厚さ、Bs :前記磁芯の飽和磁束密度、μ
0 :真空の透磁率、W:前記両端部の幅、L:前記磁芯の長さ)で表されるセンサ本体を、前記印加磁界Hs は前記磁石から発生する前記センサ本体位置での磁界の最大値の1/10以上1/2以下になるように、長手方向が前記磁石の着磁方向に一致するように配置させ、前記コイルのインダクタンス分を共振回路の構成要素とした自励発振回路を、前記コイルに接続させ、前記磁石が前記回転軸と一体で回転した際に、前記自励発振回路の発振出力の変動、または、前記自励発振回路に流入する電源電流の変動を検出し、前記発振出力の変動または前記電源電流の変動の検出結果に基づいて、前記回転軸の回転数を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、低い回転数から高い回転数までの広い範囲にわたって、回転軸の回転数を検出することができ、回転軸の停止状態からの検出が可能である。また、低磁界でも正確に回転数を検出できる構成であるため、使用する磁石及び検出器の小型・軽量化が可能であり、検出装置全体も小型・低価格化を実現できる。また、高精度な検出を行えるため、回転軸を収容する筐体外に検出器を設けることができ、筐体に穴をあける必要もなくなり、気密性を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0030】
図1は、本発明に係る回転数検出装置の構成を示す概略図である。
図1にあって、1は回転数を検出する対象としての円柱状の回転軸である。回転軸1は、非磁性の筐体2内に収納されている。回転軸1の先端部には、磁石3が装着されている。磁石3は、Fe−Cr−Co合金系磁石であり、回転軸1の軸方向に直交する方向、つまり径方向に着磁されており、1つのN極と1つのS極とを有している。
図1では、磁石3は1つのN極と1つのS極とを有しているが、N極とS極とは2つ以上あっても効果がある。但し、極数が多くなるほど磁束が遠くに及ばなくなるので検出器を磁石に近接配置する必要があること、極数が多くなるほど同一回転に対する磁束変化の周波数が高くなるので、筐体の外で検出する場合には渦電流による磁束の減衰が大きくなって検出できる回転数の上限が低下する虞があることから、1つのN極と1つのS極とを有しているのが好ましい。
【0031】
筐体2の外であって、磁石3から磁界検出が可能な範囲に離れた位置に、検出器4が設けられている。
図2は、検出器4の構成を示す模式図である。検出器4は、軟質磁性体からなる薄板矩形状の磁芯5と、磁芯5の中央部に巻かれたコイル6と、コイル6に交流電流を印加する交流電源7と、コイル6の両端に発生する電圧を検出する電圧検出部8と有する。なお、磁芯5とコイル6とでセンサ本体9を構成する。
【0032】
磁芯5の長手方向は、磁石3の着磁方向(径方向)に一致する。磁芯5の長手方向の中央部5aにおける幅は両端部5b,5bにおける幅よりも狭くなっており、この幅が狭い中央部5aに交流磁界を印加するためのコイル6が配置されている。磁芯5の中央部5aが磁気飽和を始める印加磁界が、磁石3から発生するセンサ本体9位置での磁界の最大値の1/10以上1/2以下になるように、磁芯5の形状及び特性、磁芯5の磁石3からの離隔距離を設定しておく。ここで、磁芯5の長手方向の中央部5aとは、幅が両端部5b,5bよりも狭くなっている部分を指している。
【0033】
以下、本発明における回転数の検出原理について説明する。
図3A,Bは、薄板矩形状の軟質磁性体を示す図であって、
図3Aが上面図であり、
図3Bが側面図である。
図3A,Bに示すような薄板矩形状の軟質磁性体50(長さ:L、幅:W、厚さ:t、W≫t)の長手方向に磁界を印加する。
図4は、磁界が印加された場合に磁束が軟質磁性体50に取り込まれる範囲を示す図である。軟質磁性体50の比透磁率μ
r が空気の比透磁率より十分大きい場合、軟質磁性体50近傍の磁束は軟質磁性体50に取り込まれ、軟質磁性体50の中央部で磁束密度は高くなる。
【0034】
ここで、軟質磁性体50の幅Wが厚さtより十分大きい場合(W≫t)、磁界解析により側面から侵入する磁束は小さいためほぼ無視できて、厚さ方向で磁束が集められる範囲はほぼ長さに等しいLの範囲となる(
図4参照)。
図5は、軟質磁性体50内の磁束密度分布を示す図である。印加磁界の大きさをHとした場合、軟質磁性体50の中央部の磁束密度Bは、真空の透磁率をμ
0 (=4π×10
-7)として、B≒(μ
0 ・L・H )/tと表すことができる。
【0035】
図6は、
図3A,Bに示した軟質磁性体50に対して長手方向の中央部を狭くした薄板矩形状の軟質磁性体51を示す図である。
図6に示すような中央部51aの幅をd(d<W)とした軟質磁性体51に対して、同様に長手方向に磁界Hを印加した場合、幅Wの両端部に発生していた磁束が幅dの中央部51aに集められるため、中央部51aの磁束密度はW/d倍に増加する。よって、
図6に示す軟質磁性体51での中央部51aの磁束密度Bは、B≒(μ
0 ・W・L・H )/(d・t)と表すことができる。なお、軟質磁性体からなる板状の磁芯の形状として、矩形板状を例としてあげているが、
図5の磁束密度分布を得る形状は
図6の矩形板状に限定されない。軟質磁性体の両端の幅広部が円形をしているダンベル形状でもよい。
【0036】
図6に示すような形状とした場合、軟質磁性体51の飽和磁束密度をBs とすると、中央部51aが磁気飽和を開始する印加磁界Hs は、μ
r ≫μ
0 である場合に、Hs =(d・t・Bs )/(μ
0 ・W・L)と表すことができる。
【0037】
例えば、L=3mm、W=0.3mm、t=0.01mm、d=0.05mmであって、Bs =0.72Tとすると、中央部51aが磁気飽和を開始する印加磁界Hs はHs =320A/m程度の小さい磁界となる。
【0038】
このような軟質磁性体51を磁芯5として、磁芯5の中央部5a(軟質磁性体51の中央部51a)にコイル6を配置してセンサ本体9を構成する。
図7は、センサ本体9の構成を示す平面図である。外部から磁界が印加された状態で、コイル6に交流電流を印加する。
図8は、印加磁界に対するコイル6の起電力(またはインピーダンス)の変化を示すグラフである。
【0039】
磁芯5に外部から磁界が印加されていない場合、または、印加される磁界の大きさが磁気飽和を開始する磁界(前述した印加磁界Hs )より小さい場合、コイル6の起磁力によって、磁芯5の磁化が周期的に反転し、コイル6を鎖交する磁束の変化に伴う起電力がコイル6に発生する(
図8参照)。一方、磁芯5に磁界が印加されており、その磁界の大きさが磁気飽和を開始する磁界(前述した印加磁界Hs )より大きい場合、磁芯5の磁化は一方向を向いており、磁気飽和によってコイル6の起磁力による磁化の反転が起こらないため、コイル6に発生する起電力は小さくなる(
図8参照)。そして、磁芯5に印加する磁界の大きさが印加磁界Hs より小さい場合にはコイル6のインピーダンスが高く、磁芯5に印加する磁界の大きさが印加磁界Hs より大きい場合にはコイル6のインピーダンスが低いことを意味する。
【0040】
磁石3が1回転する間に、磁石3から磁芯5に印加される磁界は周期的に変化し、1回転する間に2回だけ、磁芯5に印加される磁界の大きさが印加磁界Hs より小さくて磁気飽和が起こらず、磁化の反転による起電力がコイル6に生じる。よって、コイル6の両端に発生する電圧の変動をモニタして、所定電圧より大きくなる回数を計数することにより、磁石3と一体で回転する回転軸1の回転数を検出することができる。なお、磁石3が1回転する間に2回だけ、磁芯5に印加される磁界の大きさが印加磁界Hs より大きくて磁気飽和が起こり、磁化の反転による起電力がコイル6に生じないため、コイル6の両端に発生する電圧の変動をモニタして、所定電圧より小さくなる回数を計数することにより、回転軸1の回転数を検出することも可能である。
【0041】
ここで、コイル6の起磁力及びコイル6に印加する電流の大きさについて検討する。
図8に示すように、磁芯5に印加される磁界の大きさが磁界Hs より大きいときには、磁芯5の狭い中央部5aは磁気飽和しているため、磁芯5に印加された起磁力(Hs ・L)はこの中央部5aに集中することとなる。このとき、コイル6から発生する起磁力がこのHs ・Lを超えると磁芯5の磁化が反転してしまって、コイル6の起電力及びインピーダンスが小さくならない。よって、コイル6に印加する起磁力はHs ・L以下でなければならない。したがって、コイル6の巻き数をnとすると、コイル6に印加する電流の尖頭値Ipは、Ip ≦(Hs ・L)/nを満たす必要がある。さらに、Ip に比較して印加電流が小さすぎるとノイズに埋もれてしまって明確な検出ができなくなるため、S/N確保の観点から印加電流はIp /20以上確保することが好ましい。
【0042】
例えば、磁芯5の形状及び飽和磁束密度が前述したような数値を有する場合、すなわち、磁気飽和を開始する印加磁界Hs が320A/mである場合であって、コイルの巻き数nが200回であるときには、コイル6に印加する電流の尖頭値Ip は4.8mA以下となる。
【0043】
磁石3から磁界検出が可能な範囲に離れた位置に、検出器4が設けられており、磁芯5の中央部5aに巻かれたコイル6に交流電流が印加される。印加される交流電流の周波数は、検出される回転軸1の最大回転数の周波数より1桁以上大きな周波数とする。磁石3が回転軸1と一体で回転する際に、コイル6の両端部に発生する電圧が電圧検出部8により検出される。
【0044】
前述したような原理により、磁石3が1回転する度に、2回の電圧の変動が検出される。そして、この電圧変動の回数を計数することにより、回転軸1の回転数が検出される。
【0045】
図9は、検出器4の回路構成の一例を示す図である。
図9にあって、
図2と同一部分には、同一番号を付している。交流電源7とコイル6との間には抵抗(抵抗値:1kΩ)11が設けられている。磁芯5の幅狭の中央部5aには200回だけコイル6が巻かれている。コイル6の巻き線抵抗値は25Ωである。交流電源7は、振幅0.5V、周波数250kHzの正弦波を出力する。
【0046】
図9に示すような構成を有する検出器4にヘルムホルツコイルで磁界を印加し、コイル6の両端部に発生する電圧を電圧検出部8にて検出した。
図10は、コイル6の両端に発生する電圧を示すグラフである。
図10にあって、横軸はヘルムホルツコイルで印加された磁界(印加磁界)[A/m]を表し、縦軸はコイル6の両端に発生する電圧(コイル電圧)[mV]を表している。
【0047】
図10に示すように、印加磁界が零のときにはコイル6に発生した電圧の振幅は45mV程度ある。しかし、印加磁界の大きさが240A/m以上では振幅はほぼ一定の15mV程度であって、印加磁界が零のときの1/3程度となっている。
図10の結果から、磁芯5が磁気飽和を始める磁界は約240A/mとなり、上述のように計算した印加磁界Hs =320A/mに概ね一致している。
【0048】
また、Hs 以上の磁界を印加した場合における出力電圧は、コイル6の巻き線抵抗分25Ωによって発生する電圧、即ち、発振電圧0.5V×25/(1000+25)=12.2mVにほぼ一致している。このことは、Hs 以上の磁界が印加された場合に、磁芯5を構成する磁性材料に磁化反転が起こらないため、インダクタンス分が消失し、コイル6のインピーダンスはほぼ巻き線抵抗分のみとなったことを意味している。
【0049】
このようにして、磁芯5に磁界を印加していないときと、Hs 以上の磁界を印加したときとで、コイル6の両端に発生する電圧が3倍程度変化するため、磁石3が1回転するときに2回、コイル6の両端に発生する電圧の変動を容易に検出することができ、回転軸1の回転数を容易に検出できる。
【0050】
図11は、検出器4の回路構成の他の例を示す図である。磁芯5、コイル6、交流電源7及び抵抗11の構成は、
図9に示す回路と同様である。コイル6及び抵抗11に並列に、第2抵抗(抵抗値:R2 )12及び第3抵抗(抵抗値:R3 )13が設けられている。これらの3個の抵抗は、R1 /RL =R2 /R3 (但し、R1 は抵抗11の抵抗値、RL はコイル6の巻き線抵抗値)を満たすように抵抗値が設定されている。また、コイル6及び抵抗11の中間並びに第2抵抗12及び第3抵抗13の中間の電位差を検出する振幅検出部14が設けられている。
図11に示す回路は、磁芯5にHs 以上の磁界が印加された場合に出力されるコイル6の巻き線抵抗分の出力を相殺する構成である。
【0051】
図11に示すような構成を有する磁芯5にヘルムホルツコイルで磁界を印加して振幅検出部14からの出力電圧を検出した。
図12は、振幅検出部14からの出力電圧を示すグラフである。
図12にあって、横軸は印加磁界[A/m]を表し、縦軸は回路の出力電圧[V]を表している。
【0052】
図12に示すように、出力電圧は、印加磁界が零のときには0.2V程度であるが、印加磁界の大きさが240A/m以上のときにほぼ零となり、零磁界を明確に検出できることが判明した。
【0053】
本発明の他の実施の形態に関して説明する。他の実施の形態では、検出方法として発振回路を用いる。
図13は、他の実施の形態における検出器4の回路構成を示す図である。
図13にあってセンサ本体(磁芯5及びコイル6)の構成は、
図9及び
図11に示す回路と同様である。
【0054】
コイル6のインダクタンス分を共振回路の構成要素とした自励発振回路21が、コイル6に接続されている。そして、この回路は、自励発振回路21の発振出力の変動、または、抵抗22を介して電源23から自励発振回路21に流入する電源電流の変動を検出する構成である。挿入した抵抗22に発生する電圧の変化により、電源電流の変動を検出する。
【0055】
センサ本体9(磁芯5)へ磁界が印加されないときは、コイル6のインピーダンス中のインダクタンス分が大きいため発振状態を保っているが、検出器4(磁芯5)にHs 以上の磁界が印加されると、コイル6のインダクタンス分はほぼ消失してコイル6のインピーダンスは殆ど抵抗成分となるため発振が停止、もしくは発振振幅が大幅に低下する。
【0056】
よって、自励発振回路21の発振出力の変動は、印加される磁界の変化に対応する。また、自励発振回路21に流入する電源電流は発振出力の振幅の大きさで変化するため、電源23から自励発振回路21に流入する電源電流の変動も、印加される磁界の変化に対応する。従って、これらの発振出力または電源電流の変動を検出することにより、磁石3(回転軸1)の回転数を検出できる。具体的には、磁石3(回転軸1)が1回転する際に、発振出力または電源電流が2回だけ変動するので、その変動の回数を計数することにより、回転軸1の回転数を検出することが可能である。
【0057】
図13に示すような構成を有する検出器4に磁界を印加して自励発振回路21の発振出力を検出した。
図14は、検出した自励発振回路21の発振出力を示すグラフである。
図14にあって、横軸は印加された磁界(印加磁界)[A/m]を表し、縦軸は発振出力[V]を表している。
【0058】
図14に示すように、印加する磁界の大きさが400A/m以上であるときには、発振出力が急激に低下していることを確認できた。このように、コイル6を用いて自励発振回路21を構成した場合に、印加磁界が零のときに発振振幅が大きくなり、印加磁界が400A/m以上のときに発振出力が急激に低下する。よって、発生した磁界が検出器4付近で、前述したHs 以上の磁界、例えば800A/m程度以上となる磁石3の回転数を容易に検出することができる。この結果、磁石3と一体で回転する回転軸1の回転数を小型の構成にて検出可能となる。
【0059】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1は、コイル6の両端に発生する電圧の変動を検出し、電圧の変動の検出結果に基づいて、回転軸1の回転数を検出するようにした実施例である。
【0060】
図15A,Bは、実施例1における磁石3及びセンサ本体9の構成を示す図であって、
図15Aが平面図であり、
図15Bが側面図である。なお、
図15A,Bでは、回転軸1と、筐体2と、検出器4のセンサ本体9以外の要素との図示を省略している。
【0061】
回転軸1に装着されて回転軸1と一体で回転する磁石3は、内周面が円状であって外周面が6角形状であるナット形状をなしている。そして、磁石3は、回転軸1に過給機の圧縮機側の回転翼を取り付けるためのナット材として機能する。磁石3は、熱間鍛造または圧延によるFe−Cr−Co合金系材料からなる。より詳細には、磁石3は、Cr(30質量%)−Co(15質量%)−Mo(1質量%)−Fe(残部)合金からなる圧延磁石材料から、切削加工により厚さ6.5mm、最大直径16.2mmのナット状に切り出して構成される。なお、圧延方向は径方向に平行である。
【0062】
この磁石材料の圧延方向に平行に着磁磁界を印加し、径方向に平行に着磁した。磁石3は、円周方向に対して1つのN極と1つのS極とを有する。この磁石3を回転軸1に取り付けて回転できるようにした。
【0063】
このような磁石3から磁界検出が可能な範囲に離隔させて、磁芯5の長手方向が磁石3の着磁方向(径方向)に一致するようにセンサ本体9を配置した。
図16は、実施例1におけるセンサ本体9の形状を示す斜視図である。磁芯5はガラスエポキシ樹脂製の非磁性基板31に貼付されている。磁芯5は、長さ3mm、厚さ0.01mmの短冊状をなしており、長手方向の中央部5aにおける幅(0.05mm)は両端部5b,5bにおける幅(0.3mm)よりも狭くなっており、この幅が狭い中央部5aに交流磁界を印加するためのコイル6が配置されている。センサ本体9(磁芯5及びコイル6)は樹脂(図示せず)にてモールドされている。
【0064】
磁芯5の中央部5aが磁気飽和を始める印加磁界が、磁石3から発生するセンサ本体9位置での磁界の最大値の1/10以上1/2以下になるように、磁芯5の形状及び特性、磁芯5の磁石3からの離隔距離を設定した。具体的に、磁石3の中心からセンサ本体9の磁石3近位側の端面までの距離は25mmとした。磁石3の中心から25mm離れたN極位置での磁束密度は、磁束密度計で測定した結果、2.2mTであった。
【0065】
センサ本体9の作製工程について説明する。Ni(80質量%)−Mo(4.5質量%)−Fe(残部)からなる厚さ0.01mmのパーマロイ圧延板をH
2 流気中で1100℃、3時間の熱処理を施した後に、熱処理板の加工歪を防止するため、厚さ0.3mmのガラスエポキシ基板に貼り付け、その後、塩化第2鉄溶液にてエッチングしてコア材53を作製した。
図17は、磁芯5となる作製したコア材53を示す平面図である。
【0066】
次に、コア材53の中央部に、直径0.017mmのマグネットワイアを200回巻き付けてコイル6を配置して、センサ本体9を作製した。コイル6の巻き線抵抗値(RL )は25Ωであった。
【0067】
なお、軟質磁性体からなる磁芯5(コア材53)の材料としてパーマロイを用いることとしたが、これは例示であり、軟質磁性体として、Co系アモルファス材、Fe系アモルファス材、Fe系微小結晶質材、Mn−Zn系ソフトフェライト材、珪素鋼板を用いてもよい。軟質磁性体からなる磁芯の飽和磁束密度は、各材料に応じた規格に則って、測定を行う。例えば、パーマロイの飽和磁束密度はJIS規格 JIS C2531(国際規格 IEC60404)に記載の500A/mの磁界を印加した時に発生する磁束密度を測定し、珪素鋼板の飽和磁束密度は、JIS C2552(無方向性)、C2553(方向性)で規定されている測定方法にて測定する。Co系アモルファス材、Fe系アモルファス材、Fe系微小結晶質材に関しては珪素鋼板に準じて測定する。Mn−Zn系ソフトフェライト材はJIS C2560で規定されている測定方法にて測定する。
【0068】
図18は、実施例1における検出器4の回路構成を示す図である。
図18にあって、
図11と同様の構成要素には同一符号を付している。振幅検出部14には、振幅検出部14の出力電圧を2値化処理する2値化処理部15が接続してある。
図18に示す回路は、振幅検出部14からの出力電圧(振幅出力)と、2値化処理部15からの2値化出力とが外部に取り出される構成である。なお、抵抗11,第2抵抗12及び第3抵抗13の抵抗値R1 ,R2 ,R3 はそれぞれ1kΩ,3.3kΩ,100Ωとした。
【0069】
このような構成をなす磁石3と検出器4とを用いて、回転数を検出する実験を行った。交流電源7はファンクションジェネレータを用いて、周波数250kHz、振幅0.5Vの正弦波電流をコイル6に印加した。そして、ナット形状の磁石3を回転軸1に取り付け、磁石3中心から磁芯5までの距離が25mmとなるように、また、磁芯5の長手方向が磁石3の磁化方向(径方向)に一致するようにセンサ本体9を配置した。また、磁石3とセンサ本体9との間には過給機の筐体2を想定した厚さ10mmのアルミ板を設置した。このような状態で、回転軸1を毎分1150回転で回転させて、その回転数を検出した。
【0070】
図19は、実施例1による実験で取り出された振幅出力と2値化出力とを示すグラフである。
図19にあって、横軸は時間を表し、縦軸は振幅出力及び2値化出力[V]を表している。
図19に示すように、振幅出力の実験結果から、磁石3が1回転する間(0.052秒)に2回のパルス出力が得られた。パルス間隔は0.026秒であって、パルスの位置は磁石3のN極とS極との中間の位置であり、センサ本体9の長手方向の磁界が零のときにパルスが出力されている。また、2値化出力の実験結果から、前記パルスの位置に合った矩形波パルスが得られている。このような結果により、磁石3から25mm離れた位置で回転軸1の回転数を正確に検出できることが確認された。
【0071】
(実施例1による別の実験)
磁石3の中心からセンサ本体9の磁石3近位側の端面までの距離を50mmとした以外は、上述した(実施例1)と同様の構成をなす磁石3及び検出器4を用いて、(実施例1)と同様の条件にて磁石3(回転軸1)の回転数を検出する別の実験を行った。
【0072】
磁石3の中心から50mm離れたN極位置での磁束密度は、磁束密度計で測定した結果、0.3mTであった。
図20は、実施例1による別の実験で取り出された振幅出力と2値化出力とを示すグラフである。上述した実施例1(磁石3の中心からセンサ本体9までの距離が25mm)の場合に比べて、この例では磁石3による磁芯5における磁束密度の大きさが1/7程度まで低下しているため、
図20に示すように出力波形にやや広がりは見られるが、振幅出力は
図19とほぼ同程度の特性を示している。
【0073】
上述した2つの実験による結果から、磁石3とセンサ本体9との離隔距離が25mm〜50mmの範囲内にあっては、磁界強度の変化によらずに、一定の検出出力(安定した回転数の検出結果)が正確に得られることを確認できた。
【0074】
(実施例1による更に別の実験)
大きな回転数を検出する実験を行った。磁石3を高速で回転させる代わりに、直径25mmのヘルムホルツコイルを用いて、周波数6kHz、振幅1600A/mの交番磁界を発生させ、この中にセンサ本体9を配置した。周波数6kHzは、磁石3(回転軸1)における毎分36万回転に相当する。交流電源7はファンクションジェネレータを用いて、周波数250kHz、振幅1Vの正弦波電流をコイル6に印加した。
【0075】
図21は、実施例1による更に別の実験での結果を示すグラフである。
図21にあって、横軸は時間を表し、縦軸はヘルムホルツコイルで発生した印加磁界[A/m]、取り出された振幅出力[V]とコイル電圧[mV]を表している。
【0076】
図21に示すように、交番磁界の周波数が6kHz(毎分36万回転の回転数に相当)である場合でもコイル6の両端に発生する電圧は零磁界に相当する振幅の増加が明確に表れ、振幅出力の応答速度は12kHzのパルス検出に必要である十分な応答性を示していることが確認できた。
【0077】
(実施例2)
実施例2は、コイル6のインダクタンス分を共振回路の構成要素とした自励発振回路21を利用して、回転軸1の回転数を検出するようにした実施例である。
【0078】
図13に示す自励発振回路21に実施例1のセンサ本体9を接続して発振出力を検出した。
図22は、実施例2にあって磁界を印加していないときの発振波形を示すグラフである。
図22にあって、横軸は時間[μs]を表し、縦軸は発振出力[V]を表している。
図22に示すように、やや高調波が多いが、約620kHzで振幅0.3Vの発振波形が得られている。
【0079】
次に、このセンサ本体9をヘルムホルツコイルに挿入して、振幅800A/m、周波数50Hzの交番磁界を印加した。
図23は、実施例2にあって磁界を印加しているときの発振波形を示すグラフである。
図23にあって、横軸は時間[ms]を表し、縦軸は印加磁界[A/m]及び発振出力[V]を表している。
図23に示すように、印加磁界が零付近で発振出力は大きくなり、印加磁界が大きくなるところでは発振が停止していることを確認できた。
【0080】
そこで、
図13に示す回路を用いて、実際に磁石3を回転軸1に取り付けて回転数を検出する実験を行った。なお、使用した磁石3及びセンサ本体9は、実施例1でのものと同一である。また、実施例1と同様に、磁石3及びセンサ本体9間に、厚さ10mmのアルミ板を設けて、両者の距離は25mmとした。また、実施例1と同様に、回転軸1を毎分1150回転で回転させた。
【0081】
図24は、実施例2による実験で取り出された発振出力と電流変動出力とを示すグラフである。
図24にあって、横軸は時間を表し、縦軸は発振出力[V]及び電流変動出力[V]を表している。
図24に示すように、磁石3のN,S極間の零磁界付近で発振し、自励発振回路21の駆動電流に依存した出力では磁石3の1回転で2回の明確なパルス状の出力(周期0.026秒)を確認できた。したがって、実施例2にあっても、このパルス数を計数することにより、回転軸1(磁石3)の回転数を容易に検出することができる。
【0082】
(実施例3)
実施例3は、前述した実施例1,2に比べて小型の磁石3を使用する実施例である。
【0083】
図25A,Bは、実施例3における磁石3の構成を示しており、
図25Aが平面図であり、
図25Bが側面図である。実施例3における磁石3は、
図15A,Bに示す実施例1,2における磁石3と同様に、過給機の圧縮機側の回転翼を回転軸1に取り付けるためのナット材として機能し、Fe−Cr−Co合金系材料からなる。実施例3における磁石3は、実施例1,2における磁石3と同様に、内周面が円状であって外周面が6角形状であるナット形状をなしているが、そのサイズは実施例1,2における磁石3に比べて小さい。具体的に、実施例1,2における磁石3の最大直径、体積が16.2mm、988mm
3 であるのに比較して、実施例3における磁石3の最大直径、体積は13.9mm、484mm
3 である。
【0084】
実施例3では、磁石3の体積が実施例1,2の場合の半分程度しかないため、発生する磁束密度分布が小さくなる。具体的には、実施例1,2の磁石3の中心から25mm離れたN極位置での磁束密度が2.7mTであるのに対して、実施例3の磁石3の中心から22mm離れたN極位置での磁束密度は1.8mTとなり、67%に低下する。
【0085】
そして、アルミニウム筐体の外側に検出器を設けて回転数を検出する場合には、磁石3の回転数が増加するにしたがって渦電流の影響が大きくなるので、渦電流によって磁束密度は低減して、検出系(センサ本体9)に印加される磁束密度も小さくなる。
図15A,Bに示す実施例1,2における磁石3と、
図25A,Bに示す実施例3における磁石3とについて、渦電流の影響を求めた。即ち、円筒状のアルミニウム筐体(厚さ:1mm、外径:42mm)の中心にナット状のこれらの磁石3を夫々配置し、磁石3を種々の回転数で回転させて磁石3中心から径方向22mmの位置での磁束密度を計算した。その結果を
図26A,Bに示す。
【0086】
図26A,Bは、実施例1,2の磁石3及び実施例3の磁石3による磁束密度の回転依存性を示すグラフであり、
図26Aは実施例1,2の磁石3の特性を示し、
図26Bは実施例3の磁石3の特性を示している。
図26A,Bにあって、横軸は磁石3の回転数[krpm]を表し、縦軸は径方向22mmの位置での磁束密度[mT]を表している。
【0087】
実施例1,2の磁石3によれば、回転数が10krpmの場合に磁束密度は2.4mT程度あるため、
図19で示したような出力が得られる。また、回転数が360krpmの場合には、磁束密度がアルミニウム筐体に発生する渦電流により弱められて、磁束密度は0.4mT程度となるが、
図20の実験結果から磁束密度が0.3mT程度であれば十分に回転数の検出が可能であるため、この360krpm時の磁束密度0.4mTは回転数検出に十分な値である。以上のことから、実施例1,2の磁石3を用いる場合には、
図16に示すような検出系(センサ本体9)によって、アルミニウム筐体が1mm程度の厚さであれば、高速である360krpmまで回転数を正確に検出できる。
【0088】
これに対して、実施例3の磁石3によれば、以下のように、高速回転時の回転数の検出が困難になることがある。即ち、回転数が10krpmの場合に磁束密度は1.35mT程度あるため、回転数の検出は可能であるが、回転数が360krpmの場合には、磁束密度が0.2mT程度しかないため、実施例1,2で用いた
図16に示すような検出系(センサ本体9)の構成では十分な検出パルスの大きさが得られず、安定した回転数検出が困難となる。
【0089】
そこで、実施例3では、小型の磁石3を用いても高い回転数を正確に検出できるように検出系の構成を工夫している。
図27A−Cは、実施例3における検出系の構成を示しており、
図27Aが平面図であり、
図27Bが側面図であり、
図27Cが斜視図である。
【0090】
実施例3の検出系は、前述した
図16に示すセンサ本体9に加えて、2枚のヨーク板10,10を備えている。ヨーク板10,10は、2mm角または3mm角で厚さが0.1mmである軟質磁性体からなり、磁芯5と同じ材料(Ni(80質量%)−Mo(4.5質量%)−Fe(残部))で形成されている。ヨーク板10,10は、磁芯5の両端部5b,5bの近傍、具体的には、両端部5b,5bの上方に所定距離だけ離隔して設けられている。
【0091】
このような検出系では、既存の樹脂モールドされた
図16に示すセンサ本体9に対して簡単に追加してヨーク板10,10を配置できるため、検出感度に合わせて複数種類の検出系を準備しておく必要がないため、製作コストを削減できる長所がある。
【0092】
図16に示すようなヨーク板を設けない検出系、
図27A−Cに示すような2mm角のヨーク板10,10を設けた検出系、及び、
図27A−Cに示すような3mm角のヨーク板10,10を設けた検出系に対して、
図18に示した回路構成を用いて、磁界検出特性を求めた。その結果を
図28に示す。
図28にあって、横軸はセンサ本体9長手方向の印加磁界[A/m]を表し、縦軸はコイル6両端の振幅出力[V]を表しており、aはヨーク板を設けない検出系、bは2mm角のヨーク板を設けた検出系、cは3mm角のヨーク板を設けた検出系による特性を夫々示している。
【0093】
ヨーク板がない場合の磁界検出特性(
図28のa)にあって、160A/m以下の印加磁界では磁芯5の中央部5aが十分に磁気飽和していないためコイル6両端の電圧振幅は大きいが、印加磁界が160A/mを超えたときには磁芯5の中央部5aが磁気飽和するためコイル6両端の電圧振幅は小さな一定値の値を示している。この検出系では零磁界のときの電圧と磁気飽和して小さくなったときの電圧との2値を得るためには、240A/m以上の印加磁界が必要である。
【0094】
実施例1,2のようにサイズが大きい磁石3を使用する場合には、この程度の印加磁界が存在するため、回転数に応じた正確な出力を得ることができる。しかしながら、実施例3のようにサイズが小さい磁石3を使用する場合には、印加磁界が160A/m程度しかないため、ヨーク板がない検出系を用いたときに、コイル6両端の電圧が十分に小さくならず、明確な零磁界に対応したパルス出力電圧が得られない可能性がある。
【0095】
ヨーク板10,10を設けた場合の磁界検出特性(
図28のb,c)にあっては、コイル6両端の電圧が大きくなる印加磁界の幅が小さくなっている。具体的に、振幅出力の閾値を0.02Vとした場合に、この印加磁界の幅は、ヨーク板がない場合が304A/mであるのに対して、2mm角のヨーク板10,10を設けた場合は240A/mと小さくなり、3mm角のヨーク板10,10を設けた場合は更に192A/mまで小さくなっている。この印加磁界の幅の逆数を検出感度と考えると、ヨーク板がない場合と比較して、検出感度が、2mm角のヨーク板10,10を設けた場合には27%、3mm角のヨーク板10,10を設けた場合には58%向上している。
【0096】
そして、3mm角のヨーク板10,10を設けた検出系では、印加磁界が240A/mである場合にコイル6両端の出力電圧は十分小さくなっているため、零磁界時の出力電圧と明確に区別することができる。この結果、低い印加磁界であっても、回転数に対応した正確な検出出力電圧を得ることができ、360krpm程度の高い回転数まで正確に検出可能である。
【0097】
よって、実施例3のように小型の磁石3を用いた場合で、回転数が高くなって印加磁界が小さくなっても、検出系にヨーク板10,10を有する構成とすることにより、正確に回転数を検出することができる。
【0098】
以下、実施例3の検出系に設けるヨーク板10の幅と検出感度との関係について説明する。長さ3mm、厚さ0.1mmのヨーク板10に関して、
図29Aの平面図、
図29Bの側面図に示すように、その幅W(mm)を0.5mmから3mmまで0.5mmずつ変化させて(W=0.5,1.0,1.5,2.0,2.5,3.0)、
図18に示した回路構成を用いて、磁界検出特性を求めた。その結果を
図30に示す。なお、センサ本体9の構成は、
図27A−Cに示した検出系と同様に
図16に示したものと同じである。
【0099】
図30にあって、横軸はセンサ本体9長手方向の印加磁界[A/m]を表し、縦軸はコイル6両端の振幅出力[V]を表しており、aはヨーク板10の幅Wが0.5mmである場合の特性を示し、bはヨーク板10の幅Wが1.0mm〜3.0mm(即ち、1.0mm,1.5mm,2.0mm,2.5mm,3.0mm)である場合の特性を示している。なお、幅Wが1.0mm,1.5mm,2.0mm,2.5mm,3.0mmである場合の特性はほぼ同じであったので、
図30では、その代表例を一つだけbとして示している。
【0100】
ヨーク板10の幅Wを変化させた場合、1.0mm〜3.0mmの間ではコイル6両端の電圧が大きくなる印加磁界の幅はほとんど変化しない(具体的に、振幅出力の閾値を0.02Vとした場合の幅は192A/m)が、幅Wを0.5mmまで狭くした場合には、コイル6両端の電圧が大きくなる印加磁界の幅が大きくなり(具体的に、振幅出力の閾値を0.02Vとした場合の幅は240A/m)、感度低下が発生している。よって、ヨーク板10の幅Wは、磁芯5の幅(0.3mm)の3倍以上程度であることが好ましい。
【0101】
次に、実施例3の検出系に設けるヨーク板10,10の間隔と検出感度との関係について説明する。3mm角、厚さ0.1mmのヨーク板10,10に関して、
図31Aの平面図、
図31Bの側面図に示すように、その配置間隔Dを1.5mmから3.5mmまで種々変化させて(D=1.5,1.7,2.0,2.2,2.5,3.0,3.5)、
図18に示した回路構成を用いて、磁界検出特性を求めた。その結果を
図32に示す。なお、センサ本体9の構成は、
図27A−Cに示した検出系と同様に
図16に示したものと同じである。D=2.0である場合は、前述した
図27A−Cのような構成となり、センサ本体9(磁芯5)の長さが3.0mmであるので、D=3.0である場合には、磁芯5の両端とヨーク板10,10の内側端とが同じ位置となり、D=3.5である場合には、磁芯5の両端の直上にヨーク板10,10が存在しない位置関係となる。
【0102】
図32にあって、横軸はセンサ本体9長手方向の印加磁界[A/m]を表し、縦軸はコイル6両端の振幅出力[V]を表しており、aは間隔Dが1.5mm〜3.0mm(即ち、1.5mm,1.7mm,2.0mm,2.2mm,2.5mm,3.0mm)である場合の特性を示し、bは間隔Dが3.5mmである場合の特性を示している。なお、間隔Dが1.5mm,1.7mm,2.0mm,2.2mm,2.5mm,3.0mmである場合の特性はほぼ同じであったので、
図32では、その代表例を一つだけaとして示している。
【0103】
ヨーク板10,10の間隔Dを変化させた場合、1.5mm〜3.0mmの間ではコイル6両端の電圧が大きくなる印加磁界の幅はほとんど変化しない(具体的に、振幅出力の閾値を0.02Vとした場合の幅は192A/m)が、間隔Dを3.5mmまで大きくした場合には、コイル6両端の電圧が大きくなる印加磁界の幅が大きくなり(具体的に、振幅出力の閾値を0.02Vとした場合の幅は232A/m)、感度低下が発生している。よって、ヨーク板10,10の間隔Dは、磁芯5の長さ(3.0mm)以下であることが好ましい。
【0104】
なお、上述した実施例3では、樹脂モールドされたセンサ本体9にヨーク板10,10を設ける構成としたが、これとは異なり、センサ本体9の磁芯5の両端部5b,5bにヨーク板10,10を装着したものを樹脂で一括モールドして検出系を構成しても良い。
【0105】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。