(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記硫化水素ガス生成装置と前記硫黄供給源とを繋ぐように設けられ、前記硫化水素ガス生成装置の液体硫黄の液面高さ上限を超えた液体硫黄を前記硫黄供給源に回収する硫黄オーバーフロー回収ラインをさらに備え、
前記硫黄戻りラインの他端が、前記硫黄オーバーフロー回収ラインを介して前記硫黄供給源に間接的に接続されている、
請求項1に記載の硫化水素ガス生成プラント。
硫黄供給源から供給される硫黄と、水素供給源から供給される水素ガスとを混合して得られる混合ガスから、硫化水素ガスの生成を促進する触媒が保持された触媒管を用いて硫化水素ガスを生成させる硫化水素ガス生成方法であって、
前記触媒管から得られる該硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を、一端が該触媒管に接続され、他端が直接又は間接的に前記硫黄供給源に接続されているラインを介して該硫黄供給源に回収する、
硫化水素ガス生成方法。
【背景技術】
【0002】
例えば、HPAL(高圧酸浸出法)技術を用いた低品位ニッケル鉱の製錬においては、ニッケル酸化鉱石の浸出液を中和して得られた中和溶液や、不純物を除去したニッケル回収用溶液に対して、硫化水素ガスを吹き込む硫化処理が行われる。この硫化処理では、中和溶液やニッケル回収用溶液に含まれるニッケルやコバルト等の金属Mを、例えば式(1)に示す反応式を経て硫化させて硫化物MSを形成し、この硫化物MSを析出させて溶液から回収する処理が行われる。
MSO
4+H
2S → MS+H
2SO
4 ・・・(1)
【0003】
このとき用いられる硫化水素ガスは、例えば
図1に記載される硫化水素ガス生成方法を用いて製造されている。より具体的には、硫黄と水素とを混合させた混合ガスから硫化水素ガスを発生させる反応工程S1と、硫化水素ガスを冷却して硫化水素ガスに随伴する硫黄の蒸気を凝縮させて回収する冷却工程S2と、温水を用いて硫化水素ガスを洗浄する洗浄工程S3と、洗浄後の硫化水素ガスを乾燥して水分を除去する脱水工程S4とを経て製造されている。
【0004】
このうち、硫化水素ガスを発生させる反応工程S1では、気相部に硫化水素を得るために、水素ガス中に液体硫黄を降らせて得られる混合ガスから硫化水素ガスを発生させる手法と、液体硫黄に水素ガスを吹き込んで得られる混合ガスから硫化水素ガスを発生させる手法が一般に用いられる。所定時間内に十分な量の硫化水素を得るには、高い温度や圧力が求められるところ、触媒を用いて活性化エネルギーを低減することにより、圧力、温度ともに低い条件での運転が可能となる。前述の両手法で得られる混合ガスは、硫化水素のほかに硫黄蒸気と水素ガスが混ざり合って含まれているため、これをそのまま触媒に供給して硫化水素の収率を高めることができる点が操業上の利点となっている。
【0005】
この硫化水素ガス生成方法で用いられる硫化水素ガス生成プラントとしては、例えば
図3に記載されるような硫化水素ガス生成プラント9が挙げられる。この硫化水素ガス生成プラント9では、例えば特許文献1、2に記載されるように、反応工程S1において、硫黄を硫黄供給源91から硫化水素ガス生成装置93に供給するとともに、水素ガスを水素供給源92から硫化水素ガス生成装置93に供給し、硫化水素ガス生成装置93で得られる混合ガスを、触媒管930に保持された触媒に供給することで、硫化水素ガスを生成している。
【0006】
また、この硫化水素ガス生成プラント9では、硫化水素ガス生成装置93で生成する硫化水素ガスに含まれる硫黄蒸気を、冷却工程S2において硫化水素ガス流通ライン94を経て硫黄凝縮装置95で凝縮し、ここで凝縮された液体硫黄を凝縮硫黄回収ライン96に回収し、反応工程S1が行われる硫化水素ガス生成装置93に貯留されている溶融硫黄Lに液体硫黄を戻すことで、液体硫黄を再び反応工程S1に供することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に記載される硫化水素ガス生成プラント9では、触媒管930の内部で液体又は固体の硫黄が付着し、また、触媒管930の内壁の腐食によって生じるスケール(堆積物)が触媒管930の内部に溜まることで、触媒管930の内部における蒸気やガスの流量が低下し、ついには触媒管930が閉塞するリスクが生じていた。
【0009】
ここで、本発明者らは、触媒管930の内部での流量低下や閉塞を防ぐため、硫化水素ガス生成装置93で触媒を用いたときの触媒の温度の調整や、硫化水素ガス生成装置93の液体硫黄の液面高さの調整によって、硫化水素ガス生成装置93と硫黄凝縮装置95との内圧差を低減させることも考えた。しかしながら、この場合であっても、触媒管930の内部で蒸気やガスの流量が低下し、または触媒管930が閉塞するリスクを低減することは困難であった。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、触媒管における内部流量の低下や閉塞を低減させることが可能な、硫化水素ガス生成プラント及び硫化水素ガス生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、硫化水素ガス生成装置の触媒管から得られる硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を、一端が触媒管に接続され、他端が直接又は間接的に硫黄供給源に接続されているラインを介して硫黄供給源に回収することで、触媒管の内部における蒸気やガスの流量低下や、触媒管の閉塞が起こり難くなることを見出した。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、硫黄供給源及び水素供給源と、前記硫黄供給源から供給される硫黄と、前記水素供給源から供給される水素ガスとの混合により得られる混合ガスの流路に設けられ、該混合ガスから硫化水素ガスの生成を促進する触媒が保持されている触媒管を備えた硫化水素ガス生成装置と、前記触媒管から該硫化水素ガスを流し出す硫化水素ガス流通ラインと、前記硫化水素ガス流通ラインに接続され、該硫化水素ガスに含まれる硫黄蒸気を凝縮する硫黄凝縮装置と、前記硫黄凝縮装置での凝縮によって得られる液体硫黄を前記硫化水素ガス生成装置に送液して回収する凝縮硫黄回収ラインと、一端が前記触媒管に接続され、他端が前記硫黄供給源に直接又は間接的に接続されており、前記触媒管から得られる該硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を前記硫黄供給源に回収する硫黄戻りラインと、を備える、硫化水素ガス生成プラントである。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記硫化水素ガス生成装置と前記硫黄供給源とを繋ぐように設けられ、前記硫化水素ガス生成装置の液体硫黄の液面高さ上限を超えた液体硫黄を前記硫黄供給源に回収する硫黄オーバーフロー回収ラインをさらに備え、前記硫黄戻りラインの他端が、前記硫黄オーバーフロー回収ラインを介して前記硫黄供給源に間接的に接続されている、硫化水素ガス生成プラントである。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記触媒管の流出口には、高さ方向において、上側に前記硫化水素ガス流通ラインが接続されており、下側に前記硫黄戻りラインが接続されている、硫化水素ガス生成プラントである。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、硫黄供給源から供給される硫黄と、水素供給源から供給される水素ガスとを混合して得られる混合ガスから、硫化水素ガスの生成を促進する触媒が保持された触媒管を用いて硫化水素ガスを生成させる硫化水素ガス生成方法であって、前記触媒管から得られる該硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を、一端が該触媒管に接続され、他端が直接又は間接的に前記硫黄供給源に接続されているラインを介して該硫黄供給源に回収する、硫化水素ガス生成方法である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、前記触媒管を用いて生成した前記硫化水素ガスに含まれる硫黄蒸気を凝縮させ、得られる液体硫黄を該硫化水素ガス生成装置に送液する、硫化水素ガス生成方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、触媒管における内部流量の低下や閉塞を低減させることが可能な、硫化水素ガス生成プラント及び硫化水素ガス生成方法を提供することができる。これにより、例えば、より大きい流量の水素ガスを硫化水素ガス生成装置に供給しても、液体硫黄が逆流するリスクが低減されるため、硫化水素ガス生成プラントにおける安全性と、硫化水素ガスの生産性をより高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0020】
本発明に係る硫化水素ガス生成プラントは、硫黄供給源及び水素供給源と、前記硫黄供給源から供給される硫黄と、前記水素供給源から供給される水素ガスとの混合により得られる混合ガスの流路に設けられ、該混合ガスから硫化水素ガスの生成を促進する触媒が保持されている触媒管を備えた硫化水素ガス生成装置と、前記触媒管から該硫化水素ガスを流し出す硫化水素ガス流通ラインと、前記硫化水素ガス流通ラインに接続され、該硫化水素ガスに含まれる硫黄蒸気を凝縮する硫黄凝縮装置と、前記硫黄凝縮装置での凝縮によって得られる液体硫黄を前記硫化水素ガス生成装置に送液して回収する凝縮硫黄回収ラインと、一端が前記触媒管に接続され、他端が前記硫黄供給源に直接又は間接的に接続されており、前記触媒管から得られる該硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を前記硫黄供給源に回収する硫黄戻りラインと、を備えるものである。
【0021】
また、本発明に係る硫化水素ガス製造方法は、硫黄供給源から供給される硫黄と、水素供給源から供給される水素ガスとを混合して得られる混合ガスから、硫化水素ガスの生成を促進する触媒が保持された触媒管を用いて硫化水素ガスを生成させる硫化水素ガス生成方法であって、前記触媒管から得られる該硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を、一端が該触媒管に接続され、他端が直接又は間接的に前記硫黄供給源に接続されているラインを介して該硫黄供給源に回収するものである。
【0022】
そして、本発明に係る硫化水素ガス生成プラント及び硫化水素ガス製造方法では、硫黄凝縮装置での凝縮によって得られる液体硫黄を、凝縮硫黄回収ラインを経て硫化水素ガス生成装置に回収し、且つ、硫化水素ガス生成装置の触媒管から得られる硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を、硫黄戻りラインを介して硫黄供給源に回収する。これにより、触媒管の入口側の内圧と出口側の内圧の差が大きくなっても、凝縮硫黄回収ラインと硫黄戻りラインによって回収される硫黄が、これらの内圧の差によって押し出されなくなるため、凝縮硫黄回収ライン及び硫黄戻りラインの逆流が低減される。したがって、本発明に係る硫化水素ガス生成プラント及び硫化水素ガス製造方法によることで、触媒管における内部流量の低下や閉塞を低減することができる。また、これにより、大きい流量の水素ガスをよりスムーズに硫化水素ガス生成装置に供給することも可能になるため、硫化水素ガス生成プラントにおける安全性と、硫化水素ガスの生産性をより高めることができる。
【0023】
≪1.硫化水素ガス生成プラントについて≫
本発明に係る硫化水素ガス生成プラントは、硫黄供給源及び水素供給源と、これら硫黄供給源及び水素供給源から供給される硫黄及び水素ガスから硫化水素ガスを生成する硫化水素ガス生成装置と、を備える。
【0024】
図2は、本発明に係る硫化水素ガス生成プラントの構成の一例を示す構成図である。硫化水素ガス生成プラント1は、少なくとも硫黄供給源11及び水素供給源12と、硫黄及び水素ガスから硫化水素ガスを生成する硫化水素ガス生成装置13と、硫化水素ガス生成装置13から硫化水素ガスを流し出す硫化水素ガス流通ライン14と、硫化水素ガスに含まれる硫黄蒸気を凝縮する硫黄凝縮装置15と、硫黄凝縮装置15から硫化水素ガス生成装置13に液体硫黄を送液して回収する凝縮硫黄回収ライン16と、硫化水素ガス生成装置13で生成する硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を硫黄供給源11に回収する硫黄戻りライン17と、を備える。
【0025】
[硫黄供給源・水素供給源]
硫黄供給源11及び水素供給源12は、硫化水素ガスの原料となる硫黄及び水素ガスの供給源となるものであり、例えば硫黄や水素ガスを貯留するタンク等が挙げられる。
【0026】
硫黄供給源11及び水素供給源12は、それぞれ、硫黄及び水素ガスの供給先である硫化水素ガス生成装置13と供給ラインによって接続されており、それぞれの供給ラインを介して、硫黄供給源11からは液体硫黄を、水素供給源12からは水素ガスを、硫化水素ガス生成装置13に供給する。
【0027】
硫黄供給源11は、上述のように、液体硫黄(溶融硫黄)を貯留するタンク等からなる。ここで、タンクに貯留されている液体硫黄は、融点を超える温度まで加熱されたものである。他方で、後述する硫化水素ガス生成装置13から硫黄戻りライン17を経て硫黄供給源11に回収される液体硫黄は、硫化水素ガス生成装置13の触媒管130から硫化水素ガスとともに流出する際には反応熱によってより高い温度になった後、硫黄戻りライン17を通る間に融点を下回らない程度に冷却されて硫黄供給源11に回収される。なお、硫黄供給源11は、後述する硫黄戻りライン17から回収される液体硫黄との温度差を軽減させるため、図示しない撹拌手段を備えてもよい。
【0028】
ここで、硫黄供給源11における内圧は、プラント外部からの硫黄の受け入れ(原料補充)を容易にするため、大気圧の近傍にあることが好ましく、より具体的には±10kPaG以下の範囲にある。この内圧は、硫化水素ガス生成装置13より低い場合が多いため、硫黄供給源11と硫化水素ガス生成装置13との間に、硫化水素ガス生成装置13に硫黄を供給するためのポンプ(図示せず)を備えることが好ましい。
【0029】
[硫化水素ガス生成装置]
硫化水素ガス生成装置13は、硫黄供給源11から供給される硫黄と、水素供給源12から供給される水素ガスとを用いて得られる混合ガスから、硫化水素ガスを生成するものであり、混合ガスの流路に設けられ、該混合ガスから硫化水素ガスの生成を促進する触媒が保持されている触媒管130を備える。この硫化水素ガス生成装置13は、硫化水素ガスを生成する際の温度及び圧力に耐える容器によって構成され、その下部には溶融硫黄Lが貯留されており、供給する硫黄の温度を調節することで、また、プラントの起動時等には図示しないヒーターによって、所定の温度、例えば300℃以上の温度に保持されている。
【0030】
硫化水素ガス生成装置13において硫化水素ガスを生成する手段は、液体又は気体状の硫黄と水素ガスとの混合物から、硫化水素ガスの生成反応を経るものであれば、特に限定されない。例えば、硫黄蒸気と水素ガスの混合ガスから硫化水素ガスを発生させる手法を用いてもよく、液体硫黄に水素ガスを吹き込んで得られる混合ガスにおいて硫化水素ガスを発生させる手法を用いてもよい。ここで発生した硫化水素ガスは、その大部分が硫化水素であるが、未反応の硫黄蒸気を一部に含み、また、液体硫黄も巻き込んでいる。
【0031】
硫化水素ガス生成装置13が備える触媒管130は、硫黄と水素ガスを混合して得られる混合ガスの流路に設けられるものであり、その内部には硫黄と水素から硫化水素ガスの生成を促進する触媒が保持されている。本発明の硫化水素ガス生成プラント1では、硫化水素ガス生成装置13の内圧が硫化水素ガス流通ライン14の内圧より相当に大きくなっても、比較的圧力の低い硫黄供給源11に接続された硫黄戻りライン17では液体硫黄の逆流が起こり難いため、逆流した液体硫黄による触媒管130の内部における蒸気やガスの流量低下や、触媒管130の閉塞を低減することができる。ここで、触媒管130で保持される触媒としては、硫黄と水素から硫化水素ガスの生成を促進できるものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0032】
硫化水素ガス生成装置13における内圧は、硫化水素ガスの生成反応を効率的に進めるのに高温高圧が必要になるため、大気圧より高く、より具体的には10kPaG以上であることが好ましい。なお、硫化水素ガス生成装置13の内圧の上限は、装置の耐圧性能に応じて設定することが可能であるが、例えば50kPaG以下としてもよい。
【0033】
硫化水素ガス生成装置13には、触媒管130の上部に設けられる流出口として、高さ方向の上側に第一流出口131が、高さ方向の下側に第二流出口132が、互いに分かれて設けられている。そして、第一流出口131には硫化水素ガス流通ライン14が接続されており、第二流出口132には硫黄戻りライン17が接続されている。このように、硫化水素ガス生成装置13の流出口には、高さ方向の上下に別々の流出ラインが設けられている。なお、硫黄戻りライン17の詳細については、後で述べる。
【0034】
触媒管130の流出口の上部では、生成した硫化水素ガスと、硫化水素ガスに混合した未反応の硫黄蒸気が上側に集まり、硫化水素ガスに随伴した液体硫黄が下側に集まる。そのため、触媒管130の流出口のうち、高さ方向の上側に接続された硫化水素ガス流通ライン14から、硫黄蒸気を含んだ硫化水素ガスが流し出されるとともに硫黄凝縮装置15に送られ、他方で、流出口のうち高さ方向の下側に接続された硫黄戻りライン17から、液体硫黄が流し出される。このように、触媒管130の流出口に、高さ方向の上下に別々の流出ラインを設けることで、効率よく液相と気相とを分離することができる。
【0035】
[硫化水素ガス流通ライン]
硫化水素ガス流通ライン14は、硫化水素ガス生成装置13の第一流出口131に接続されており、硫化水素ガス生成装置13で生成した硫化水素ガスを触媒管130から流し出す。硫化水素ガス流通ライン14の他端は、後述する硫黄凝縮装置15に接続されており、硫化水素ガス生成装置13において生成した硫化水素ガスは、硫化水素ガス流通ライン14を経て、硫黄凝縮装置15に移送される。
【0036】
[硫黄凝縮装置]
硫黄凝縮装置15は、硫化水素ガスに含まれる硫黄蒸気を凝縮するものである。硫黄凝縮装置15には、一端が硫化水素ガス生成装置13の触媒管130に接続された硫化水素ガス流通ライン14の他端が接続されており、硫化水素ガス生成装置13で生成して硫化水素ガス流通ライン14から流し出された硫化水素ガスが移送される。この硫黄凝縮装置15からは、硫化水素の純度が高められた硫化水素ガスと、硫黄蒸気が凝縮された液体硫黄が得られる。ここで得られた硫化水素ガスは、例えば、ニッケル鉱石の製錬プロセスにおける硫化処理に用いることができる。
【0037】
硫黄凝縮装置15としては、硫黄蒸気を直接又は間接的に凝縮させて液体硫黄を得る装置を用いることができる。ここで、硫黄蒸気を間接的に凝縮させる態様としては、硫黄蒸気を含む硫化水素ガスを冷却して、硫黄蒸気を一度固体の状態にして捕集することで硫化水素ガスと分離し、得られた固体硫黄を融解して液体の硫黄を得る態様が挙げられる。例えば、硫黄蒸気を凝縮させる冷却設備と、冷却設備で冷却された硫化水素ガス中の硫黄を固化して底部に堆積させ、堆積した硫黄を溶融して回収する硫黄除去設備(ノックアウト設備)と、を有する装置を用いることができる。
【0038】
硫黄凝縮装置15における内圧は、硫化水素ガス生成装置13よりも相対的に低いことが多く、例えば5kPaG以上10kPaG以下の範囲内にある。
【0039】
[凝縮硫黄回収ライン]
凝縮硫黄回収ライン16は、硫黄凝縮装置15において凝縮されて得られた液体硫黄(溶融硫黄)を、硫化水素ガス生成装置13に送液して回収するものである。
【0040】
凝縮硫黄回収ライン16は、一端が硫黄凝縮装置15に接続され、他端が硫化水素ガス生成装置13に接続された配管であり、硫化水素ガス生成装置13に貯留されている溶融硫黄Lに液体硫黄を送液する。このとき、凝縮硫黄回収ライン16の一端を他端よりも高い位置に設けることで、一端と他端の位置エネルギー差によって、硫化水素ガス生成装置13へ液体硫黄を流動させることができる。
【0041】
[硫黄戻りライン]
硫黄戻りライン17は、一端が硫化水素ガス生成装置13の第二流出口132に接続されており、硫化水素ガス生成装置13から硫化水素ガスに随伴して排出された液体硫黄を、他端が直接又は間接的に接続された硫黄供給源11に移送して回収するものである。
【0042】
上述のように、硫黄戻りライン17は、一端が硫化水素ガス生成装置13の触媒管130に接続され、他端が硫黄供給源11に接続されている。本発明の硫化水素ガス生成プラント1では、硫黄戻りライン17を用いて、触媒管130から得られる硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を、硫黄供給源11に移送している。これにより、硫化水素ガス生成装置13の中でも内圧が高い触媒管130の入口側に、回収経路が分岐しなくなるため、触媒管130の入口側と出口側の内圧差に影響されずに、硫黄戻りライン17によって回収された液体硫黄を硫黄供給源11に移送することができる。このことで、硫黄戻りライン17における液体硫黄の逆流を低減することができる。
【0043】
硫黄戻りライン17は、他端が硫黄供給源11に直接又は間接的に接続されている。ここで、硫黄戻りライン17の他端が「直接的に接続されている」とは、硫黄供給源11を構成するタンク等に直接連結されていることをいう。また、硫黄戻りライン17の他端が「間接的に接続されている」とは、硫黄供給源11を構成するタンク等に直接連結されているのではなく、そのタンクに(直接又は間接的に)接続されている別の配管に連結されており、その別の配管に合流したうえで、硫黄供給源11に接続されていることをいう。
【0044】
図2の構成図は、硫黄戻りライン17の他端が硫黄供給源11に間接的に接続されている態様の例を示している。
図2の構成例では、硫黄戻りライン17の他端を、後述する硫黄オーバーフロー回収ライン18に連結して合流させた上で、硫黄供給源11に接続されるようになっている。このように、例えば、硫黄戻りライン17の一端を硫黄オーバーフロー回収ライン18に連結させ、間接的に硫黄供給源11に接続させることで、硫黄供給源11を改造しなくても配管を変更するだけで硫黄戻りライン17からの液体硫黄を硫黄供給源11に送ることができ、且つ、硫黄戻りライン17における液体硫黄の逆流を低減することができる。
【0045】
[硫黄オーバーフロー回収ライン]
硫黄オーバーフロー回収ライン18は、硫化水素ガス生成装置13と硫黄供給源11とを繋ぐように設けられ、硫化水素ガス生成装置13の内部の液体硫黄のうち、その液面高さの上限を超えた分(オーバーフロー分)の液体硫黄を、硫黄供給源11に戻して回収するように構成される。この硫黄オーバーフロー回収ライン18では、硫化水素ガス生成装置13と硫黄供給源11の内圧の差によって、硫化水素ガス生成装置13から硫黄供給源11に向かう液体硫黄や雰囲気の流れが生じている。
【0046】
このように、硫黄オーバーフロー回収ライン18を設けることによって、硫化水素ガス生成装置13内の液体硫黄の量が過剰となることを防ぎ、硫化水素ガス生成反応を適切に生じさせるようにすることができる。また、生成する硫化水素ガス中の硫黄蒸気の含有量や、硫化水素ガスに随伴する液体硫黄の量を低減することができる。
【0047】
また、硫化水素ガス生成装置13と硫黄供給源11とを繋ぐ硫黄オーバーフロー回収ライン18を設けておくことによって、上述したように、硫黄オーバーフロー回収ライン18を硫黄戻りライン17の他端の連結対象として利用することができ、硫黄供給源11の改造を要することなく、硫黄戻りライン17を硫黄供給源11に(間接的に)接続させることができる。
【0048】
なお、
図4に示すように、硫化水素ガス生成プラント8において、硫化水素ガス生成装置83で生成する硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を、硫黄戻りライン87を経て凝縮硫黄回収ライン86に回収し、硫黄蒸気から生成される液体硫黄とともに再び反応工程S1に供することも考えられる。このとき、硫黄凝縮装置85では硫黄が凝縮するので、隣接する硫化水素ガス流通ライン84の内圧は、硫化水素ガス生成装置83の内圧よりも低くなる。その結果、硫化水素ガス生成プラント8には、以下の2つの圧力勾配が、並列関係で存在する。
第1の圧力勾配:硫化水素ガス生成装置83>触媒管830(触媒が保持されている部分)>硫化水素ガス流通ライン84
第2の圧力勾配:硫化水素ガス生成装置83又は凝縮硫黄回収ライン86>硫黄戻りライン87>触媒管830の第一流出口831及び第二流出口832>硫化水素ガス流通ライン84
このうち、第2の圧力勾配によって硫黄戻りライン87から触媒管の第一流出口831及び第二流出口832に向かう力は、硫黄戻りライン87に高密度に液体硫黄が充填されている間は、硫黄戻りライン87に保持されている液体硫黄の重みと釣り合っている。ところが、硫黄戻りライン87における液体硫黄の充填率が低下すると、より具体的には硫黄戻りライン87にガスが多く含まれて液体硫黄が泡状になると、第2の圧力勾配によって、液体硫黄が硫化水素ガス生成装置83から凝縮硫黄回収ライン86と硫黄戻りライン87を経て触媒管830の第一流出口831や第二流出口832まで逆流し、それにより触媒管830や硫化水素ガス流通ライン84の内部で、蒸気やガスのさらなる流量低下を招く可能性が考えられる。そのため、本願発明のように、硫黄戻りライン17を硫黄供給源11に接続させて、硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を硫黄供給源11に回収することが望ましい。特に、硫黄供給源11は、硫化水素ガス生成プラント1の中では比較的圧力が低いので、硫化水素ガス生成装置13から掛かる圧力を分散するとともに、触媒管130の第一流出口831及び第二流出口832から遠ざかる流れを硫黄戻りライン17に作り出すことができる。
【0049】
≪2.硫化水素ガス生成方法について≫
本発明の硫化水素ガス生成方法は、硫化水素ガス生成装置に硫黄及び水素ガスを供給して硫化水素ガスを生成させ、硫化水素ガス生成装置の触媒管から得られる硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を、硫黄供給源に回収するものである。
【0050】
以下、硫化水素ガス生成方法の一例として、
図2に示される硫化水素ガス生成プラント1を用いた硫化水素ガス生成方法について説明する。
【0051】
[硫化水素ガスの生成]
硫化水素ガス生成プラント1の硫化水素ガス生成装置13において、硫黄供給源11から供給される硫黄と、水素供給源12から供給される水素ガスとを混合して得られる混合ガスを、硫化水素ガスの生成を促進する触媒が保持された触媒管130に供給して、硫化水素ガスを生成させる。この工程は、
図1に記載される反応工程S1と同様の工程である。
【0052】
この工程によって生成した硫化水素ガスを、硫化水素ガス生成装置13の触媒管130の流出口から流し出す際、流出口の高さ方向の上側から気体状の硫化水素ガスを流し出し、他方で、流出口の高さ方向の下側から液体硫黄(エアロゾル)を流し出すことができる。このとき、高さ方向の上側から流し出されるガスについては、触媒管130の第一流出口131から、硫化水素ガス流通ライン14を経て硫黄凝縮装置15に移送することができる。また、高さ方向の下側から流し出される液体硫黄については、第二流出口132から硫黄戻りライン17に回収することができる。
【0053】
[硫黄凝縮装置での硫黄の凝縮及び除去]
このうち、高さ方向の上側から流し出され、硫黄凝縮装置15に移送した硫化水素ガスについて、硫化水素ガスに残存している硫黄蒸気を硫黄凝縮装置15で(直接又は間接的に)凝縮させ、凝縮によって得られる液体硫黄を、凝縮硫黄回収ライン16を経て硫化水素ガス生成装置13に送液する。この工程は、
図1に記載される冷却工程S2と同様の工程を含む。この工程によって得られる、硫化水素の純度が高められた硫化水素ガスは、
図1に記載される洗浄工程S3及び脱水工程S4と同様の工程に供された後、例えば、ニッケル鉱石の製錬プロセスにおける硫化処理に用いることができる。
【0054】
[未反応の硫黄の回収]
他方で、高さ方向の下側から流し出される液体硫黄を、一端が触媒管130に接続され、他端が直接又は間接的に硫黄供給源11に接続されている硫黄戻りライン17を用いて、硫黄供給源11に回収する。本発明の方法では、未反応の液体硫黄を、硫化水素ガス生成装置13の触媒管130の出口側から硫黄供給源11に回収している。これにより、相対的に内圧が高い触媒管130の入口側に回収経路が分岐しなくなることで、触媒管130の入口側と出口側の内圧差に液体硫黄の流れが影響されなくなるため、硫黄戻りライン17における液体硫黄の逆流を低減することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
実施例1として、
図2に示す硫化水素ガス生成プラント1を用いて、硫化水素ガスを製造する通常の操業を行った。
【0057】
より具体的に、この硫化水素ガス生成プラント1では、硫黄供給源11から硫黄を、水素供給源12から水素ガスを、それぞれ硫化水素ガス生成装置13に供給し、硫黄蒸気と水素ガスの混合ガスから、触媒管130に保持された触媒を用いて硫化水素ガスを発生させる手法を用いて硫化水素ガスを生成し、硫化水素ガス生成装置13の上部にある触媒管130の流出口から硫化水素ガスを流出させた。
【0058】
ここで、硫化水素ガス生成装置13の流出口は、高さ方向の上側に位置する第一流出口131と、高さ方向の下側に位置する第二流出口132とに分岐するように構成し、第一流出口131及び第二流出口132の開口の面積は、硫化水素ガスに随伴する液体硫黄の第二流出口132からの流れが、エアロゾルとして形成されるように構成した。
【0059】
このうち、第一流出口131は、硫化水素ガス流通ライン14を介して硫黄凝縮装置15に接続した。第一流出口131から得られるガスを、硫化水素ガス流通ライン14から硫黄凝縮装置15に流し、硫黄凝縮装置15において凝縮された液体硫黄を、凝縮硫黄回収ライン16を経て硫化水素ガス生成装置13に送液して回収するように構成した。
【0060】
他方で、第二流出口132は、硫黄戻りライン17を介して硫黄供給源11に接続した。このとき、第二流出口132から得られる液体硫黄を硫黄戻りライン17に流し、液体硫黄を硫黄戻りライン17から硫黄オーバーフロー回収ライン18に流入させることで、硫化水素ガス生成装置13で過剰になって硫黄オーバーフロー回収ライン18に流れる液体硫黄とともに、硫黄供給源11に回収されるように構成した。
【0061】
硫化水素ガス生成装置13に供給する水素ガスの流量を600Nm
3/hrにして連続運転したところ、硫黄凝縮装置15からは1ヶ月間にわたり安定して590Nm
3/hr以上の硫化水素ガスが得られた。そのため、触媒管130の内部を流通するガスや蒸気の流量の低下や、触媒管130の閉塞は起こらなかった。
【0062】
(比較例1)
比較例1として、
図4に示すように、硫化水素ガス生成装置の第二流出口について、硫黄戻りラインと凝縮硫黄回収ラインとを介して硫化水素ガス生成装置に接続した。このとき、第二流出口832から得られる硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を、硫黄戻りライン87から凝縮硫黄回収ライン86に供給し、硫黄凝縮装置85から凝縮硫黄回収ライン86に移送される液体硫黄とともに、硫化水素ガス生成装置83に貯留されている溶融硫黄Lに戻すように、硫化水素ガス生成プラント8を構成した。その他の条件は実施例1と同じになるようにした。
【0063】
硫化水素ガス生成装置83に供給する水素ガスの流量を600Nm
3/hrにして連続運転したところ、硫黄凝縮装置85から得られる硫化水素ガスの流量は、1ヶ月間に7回にわたり590Nm
3/hrを下回った。特に、流量の低下が甚だしいときは、第二流出口の付近で風切り音が聞こえた。硫化水素ガスの流量が低下している間は、硫化水素ガス生成装置83の内圧が上昇傾向を示し、所定流量の水素ガスの供給に高い圧力を要するようになった。このことから、触媒管830の内部を流通するガスや蒸気の流量が低下しており、その一因として、触媒管830の内部が局所的に閉塞していることが推察される。
【0064】
(実施例2)
実施例1と同じ硫化水素ガス生成プラント1を用いて、硫化水素ガスを製造する通常の操業を行った。ここで、硫化水素ガス生成装置13に供給する水素ガスの流量を60Nm
3/hrにして、実施例1と同様に連続運転したところ、硫黄凝縮装置15からは1ヶ月間にわたり安定して59Nm
3/hr以上の硫化水素ガスが得られた。そのため、触媒管130の内部を流通するガスや蒸気の流量の低下や、触媒管130の閉塞は起こらなかった。
【0065】
(比較例2)
比較例1と同じ硫化水素ガス生成プラントを用いて、硫化水素ガスを製造する通常の操業を行った。ここで、硫化水素ガス生成装置83に供給する水素ガスの流量を60Nm
3/hrにして、比較例1と同様に連続運転したところ、硫黄凝縮装置85から得られる硫化水素ガスの流量は、59Nm
3/hrを下回ることがあった。このことから、触媒管830の内部を流通するガスや蒸気の流量が低下しており、その一因として、触媒管830の内部が局所的に閉塞していることが推察される。
【0066】
以上のことから、実施例1、2のように、硫化水素ガス生成装置13の触媒管130から得られる硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を、硫黄戻りライン17から硫黄オーバーフロー回収ライン18に供給して硫黄供給源11に回収することで、硫黄戻りライン17において液体硫黄の逆流が生じず、また、硫化水素ガス生成装置13から流れ出る硫化水素ガスの流量も、比較例1、2と比べて安定して高められることが分かった。
【解決手段】硫化水素ガス生成プラント1は、硫黄供給源11及び水素供給源12と、硫黄及び水素ガスから硫化水素ガスの生成を促進する触媒管130を備えた硫化水素ガス生成装置13と、硫化水素ガス生成装置13から該硫化水素ガスを流し出す硫化水素ガス流通ライン14と、硫化水素ガス流通ライン14に接続され、該硫化水素ガスに含まれる硫黄蒸気を凝縮する硫黄凝縮装置15と、硫黄凝縮装置15での凝縮によって得られる液体硫黄を硫化水素ガス生成装置13に送液して回収する凝縮硫黄回収ライン16と、一端が触媒管130に接続され、他端が硫黄供給源11に直接又は間接的に接続されており、触媒管130から得られる硫化水素ガスに随伴する液体硫黄を硫黄供給源11に回収する硫黄戻りライン17と、を備える。