(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
変位検出装置として光電式エンコーダが広く利用されている。
エンコーダの高分解能化、さらには、ミスアライメントに対するロバスト性向上を目的として、スケール回折格子と再帰反射素子とを組み合わせた再帰反射型の光電式エンコーダが提案されている(例えば、特許文献1、2、3)。
【0003】
再帰反射型光電式エンコーダの典型例の1つが特許文献1(特開平4−270920号)に開示されている。
スケール回折格子による一回目の回折で光が2光束に分離され、それぞれの光束が再帰反射素子によって再帰してスケール回折格子で再度回折し、その後、受光素子に入射する。
ここで、受光素子に入射する前に2つの光束が混合(干渉)してしまっては、再帰反射型とする意味がなくなってしまう(特に、移動方向を弁別するための位相差情報が失われてしまう)。
したがって、2つの光束が混合(干渉)しないように、互いの偏光軸が直角になるようにする。
【0004】
特許文献1では、互いに直角な偏光軸を有する偏光子をそれぞれの光路に入れて、互いに直角な偏光になるようにしている。
その上で、複数のビームスプリッタ、複数の位相板(波長板)および複数の偏光子を用いて互いに90度の位相差を持った2つの位相信号を取り出す。
これにより、単純な一回回折に比べて光学4逓倍の分解能を得る。
また、スケール回折格子に再帰させることにより、スケール回折格子の傾斜や回転を相殺することができ、ミスアライメントに対するロバスト性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の変位検出装置100に係る第1実施形態を示す図である。
また、
図2は、第1実施形態の正面図である。
ただし、構成が見やすいように、検出ヘッド部300の筐体310を破線で示し、筐体310の内部を透視して描いている。
【0016】
変位検出装置100は、メインスケール200と、検出ヘッド部300と、を備える。
メインスケール200と検出ヘッド部300とは互いに相対移動可能に設けられており、検出ヘッド部300は、メインスケール200に対する検出ヘッド部300の相対変位量を検出する。メインスケール200は、測長軸方向となる長手方向に沿って反射型の回折格子210を有する。
説明のため、メインスケール200の長手方向(測長軸方向)にX軸をとり、メインスケール200の短手方向にY軸をとり、メインスケール200の法線方向にZ軸をとることとする。
【0017】
メインスケール200は、典型的にはガラス基板の上に金属薄膜を蒸着したものである。
カラス基板の上に、例えばアルミニウム、クロム、金などを蒸着した後、エッチングによって反射部を格子ピッチPの回折格子210にパターニングする。
(さらに、ピッチPだけでなく、格子の高さhも上手く調整して、0次光を相殺したり、±1次回折光だけを強く回折するようにしたりするとなおよい。)
【0018】
検出ヘッド部300は、破線で示す筐体310の内部に、光源320と、2つの再帰反射部350、360と、受光部380と、を備えている。
光路に沿って上記構成を順に説明する。
光源320は、レーザー光を発射する光源であり、例えばレーザーダイオード(LD)であってもよい。なお、
可干渉光を発することができればよいのであって、光源の種類は限定されない
。光源320は、Z軸に沿って光L0を発射し、光L0はメインスケール200に垂直に入射する。メインスケール200に入射した光L0は、メインスケール200の回折格子で反射回折される。
反射回折光のうち、+1次の回折光L11と、−1次の回折光L21と、を変位検出に利用する。本実施形態では、+1次回折光L11は+x軸方向に進み、―1次回折光L21は−x軸方向に進むとする。
【0019】
再帰反射部は、1次回折光L11をメインスケール200に向けて反射する第1再帰反射部350と、−1次回折光L21をメインスケール200に向けて反射する第2再帰反射部360と、を有する。
第1再帰反射部350は、第1コーナーキューブ351と、第1ウェッジプリズム352と、を有する。同じく、第2再帰反射部360は、第2コーナーキューブ361と、第2ウェッジプリズム362と、を有する。
【0020】
1次回折光L11は第1コーナーキューブ351に入射し、第1コーナーキューブ351で再帰反射される。
本第1実施形態では、
図1に示すように、第1コーナーキューブ351への入射光(L11)は、+Y方向(つまりメインスケール200の短手方向)にシフトした後、入射光(L11)と平行に射出されるとする。
第1コーナーキューブ351から射出された光(L12)は、続いて第1ウェッジプリズム352を通過する。
第1ウェッジプリズム352を通過した光(L13)は、所定の偏角をもって第1ウェッジプリズム352から射出される。
【0021】
ここで、XZ面内においてZ軸をX軸に近づけるように回転する方向を正の回転方向(+θ)とする。
このとき、第1ウェッジプリズム352は、入射光(L12)をXZ面内で正の回転方向に所定微小角度(+θ)偏向させて射出する。
【0022】
第1ウェッジプリズム352からの射出光(L13)は、メインスケール200に入射する。
第1ウェッジプリズム352からの射出光(L13)がメインスケール200に入射する点を再帰入射点P1とする。
【0023】
光(L13)は、再帰入射点P1でメインスケール200により反射回折される。
反射回折された光のうち、+1回折光L14を変位検出に利用する。
+1回折光L14が受光部380に入射する。
【0024】
−1次回折光21は第2コーナーキューブ361に入射し、第2コーナーキューブ361で再帰反射される。
図1に示すように、第2コーナーキューブ361への入射光(L21)は、+Y方向(つまりメインスケール200の短手方向)にシフトした後、入射光(L21)と平行に射出される。
【0025】
第2コーナーキューブ361から射出された光(L22)は、続いて第2ウェッジプリズム362を通過する。
第2ウェッジプリズム362を通過した光(L23)は、所定の偏角をもって第2ウェッジプリズム362から射出される。
第2ウェッジプリズム362は、入射光(L22)をXZ面内で負の回転方向に所定微小角度(−θ)偏向させて射出する。
【0026】
第2ウェッジプリズム362からの射出光L23は、メインスケール200に入射する。
第2ウェッジプリズム362からの射出光L23がメインスケール200に入射する点を再帰入射点P2とする。
【0027】
光(L23)は、再帰入射点P2でメインスケール200により反射回折される。
反射回折された光のうち、−1回折光L24を変位検出に利用する。
−1回折光L24が受光部380に入射する。
【0028】
+1回折光L14と−1回折光L24とが受光部380に入射し、受光部380上に干渉縞ができる。
受光部380は、その受光面に受光素子アレイ381を有する。
図3は、受光部380上に形成された受光素子アレイ381の配列を例示する図である。
受光素子アレイ381は、干渉縞の波長λに対し、幅W(=λ/2)の受光素子382がV(=λ/4)の間隔で配置されることで構成されている(つまり、受光素子382のピッチQは3λ/4である)。隣接する受光素子382で得られる検出信号の位相差は90°である。同位相の受光素子382同士を結線すると、(a1)位相0°、(a2)位相90°、(a3)位相180°、(a4)位相270の検出信号a1−a4が得られる。検出信号a1−a4をプリアンプ383で増幅した後、180°位相差の信号同士(信号a1と信号a3、信号a2と信号a4)を差動増幅する。
このようにして得られた信号b1(Asinθ)と信号b2(Acosθ)とにより、干渉縞の移動量および移動方向を得ることができる。
【0029】
なお、受光素子アレイ381の配列は上記の例に限らず、干渉縞の変位に応じて2相以上の検出信号を取り出せればよい。例えば、3相の信号を得る場合は受光素子382の間隔V'をλ/3(=120°)にするなど、種々の配列を採用し得る。
【0030】
このような構成において、メインスケール200と検出ヘッド部300とが測長軸方向(X軸方向)で相対移動すると、相対移動量および相対移動方向に応じて干渉縞が変位する。干渉縞の変位量および変位方向は受光部380で検出される。
【0031】
本第1実施形態によれば次の効果を奏することができる。
(1)第1、第2ウェッジプリズム352、362を用いて光L13、L23を偏向させている。したがって、光L13、L23の再帰入射点P1、P2が互いに異なる。光L13、L23の再帰入射点P1、P2が互いに異なるので、各再帰入射点P1、P2からの反射回折光(L14、L24)が受光部380の手前で合波(干渉)することがなく、受光部380において干渉縞の位相信号を検出することができる。
【0032】
(2)それぞれの光路にウェッジプリズム352、362を挿入するという簡易な構成でありながら、再帰反射型の光電式エンコーダの利点を活かして光学4逓倍の分解能で変位検出可能となっている。もちろん、変位方向の弁別も可能である。
従来技術では、受光部380の手前で合波(干渉)することを防止したり、あるいは、干渉しないようにした二光束を受光部380で干渉させたりするため、複数の偏光子、複数の位相板(波長板)あるいは複数の回折格子を利用しなければならなかった。
この点、本実施形態によれば部品点数が劇的に少なくなり、小型化、低廉化に格段の優位性をもつことは明白である。部品点数が少ないことから検出ヘッド部300をコンパクトに集積化することもより簡単になり、小型化はもちろん、組み立てコストの削減にも効果が期待できる。
【0033】
(変形例1)
上記第1実施形態では、コーナーキューブとウェッジプリズムとは別体であった。
図4に示すように、コーナーキューブとウェッジプリズムとを一体化してもよい。
このようにコーナーキューブとウェッジプリズムとを一体化すれば、さらに、小型化、集積化に適した光電式エンコーダとなる。
【0034】
(変形例2)
再帰反射部の構成はコーナーキューブとウェッジプリズムとの組み合わせに限定されない。
例えば、ミラー373とレンズ371、372とを組み合わせて偏向機能付きの再帰反射部としてもよい。
図5に、ミラー373とレンズ371、372との組み合わせによる再帰反射部の例を示す。レンズ371、372としては、メインスケール200からの反射回折光(L11、L21)が入射する第1レンズ371と、メインスケール200に向けて光(L13、L23)を射出する第2レンズ372と、がある。ここでは、第1レンズ371も第2レンズ372もそれぞれ半分に切断している。
なお、
図5では、第1レンズ371も第2レンズ372も光軸AX1、AX2を含む平面で切断しているが、「形」は問題ではないので、切断面が光軸AX1、AX2を含まなくてもよい。
(例えば、光軸に平行な面で切断すればよい。)
【0035】
第1レンズ371と第2レンズ372とを配置するにあたって、第1レンズ371の光軸AX1と第2レンズ372の光軸AX2とは、平行ではあるが、ズレている。
図5では、第1レンズ371と第2レンズ372とを互いの光軸AX1、AX12がズレた状態で接合している。
結果として、このレンズアレイは第1レンズ371による焦点f1と第2レンズ372による焦点f2との二焦点を有するので、これを二焦点レンズアレイ370と称することにする。
ミラー373は、第1レンズ371の焦点位置f1において、第1レンズ371の光軸AX1に垂直に配置されている。
【0036】
メインスケール200からの反射回折光(L11、L21)は、まず、第1レンズ371に入射する。
光路をイメージし易いように、メインスケール200からの反射回折光(L11、L21)は、第1レンズ371の光軸AX1と平行に第1レンズ371に入射するとする。(ただし、光(L11、L21)は、第1レンズ371の光軸AX1上を進行するのではなく、第1レンズ371の光軸AX1からズレた位置で第1レンズ371に入射する。)
【0037】
光(L11、L21)は第1レンズ371による屈折を受けながらミラー373に向かい、ミラー373によって反射される。ミラー373からの反射光(L12、L22)は第2レンズ372を通過する。すると、入射光(L11、L21)に対して所定の角度オフセットを持って第2レンズ372から光(L13、L23)が射出される。
【0038】
ミラー373は第1レンズ371の焦点f1において光軸AX1に垂直に配置されている。もし仮に、ミラー373からの反射光が第1レンズ371を再度通過すると、入射光(L11、L21)と平行に光(L13、L23)が射出されるだけであり、入射光(L11、L21)と射出光(L13、L23)との間に偏向(角度オフセット)はない。
ここで、二焦点レンズアレイ370は、切断した第1レンズ371と第2レンズ372とを光軸AX1、AX2をずらして接合したものである。したがって、ミラー373からの反射光(L12、L22)は第2レンズ372を通過し、入射光(L11、L21)に対して所定の角度オフセットを持って第2レンズ372から光(L13、L23)が射出されるようになる。
【0039】
このように、ミラー373と二焦点レンズアレイ370との組み合わせによっても偏向機能付き再帰反射部を構成することができる。
【0040】
図や説明が分かりやすいように、ミラー373をレンズ371の焦点に配置した場合を例示したが、第1レンズ371を通過してきた光を第2レンズ372に入射するように反射できるのであれば、ミラー373の設置位置や設置角度は限定されない。
【0041】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を
図6、
図7に例示する。
第2実施形態の基本的構成は第1実施形態と同じであり、対応する要素に同じ符号を付す。
【0042】
図6において、第1コーナーキューブ351に入射光した光(L11)は、XZ平面内におけるシフトを受けた後、入射光(L11)と平行に射出される。
そして、第1コーナーキューブ351から射出された光(L12)は、第1ウェッジプリズム352を通過して、正の回転方向に所定微小角度(+θ)偏向する。
第1ウェッジプリズム352からの射出光(L13)は、メインスケール200に入射する。
第1ウェッジプリズム352からの射出光(L13)がメインスケール200に入射する点を再帰入射点P1とする。
光(L13)は、再帰入射点P1でメインスケール200により反射回折される。
反射回折された光のうち、+1回折光L14が受光部380に入射する。
【0043】
第2コーナーキューブ361への入射(L21)は、XZ平面内におけるシフトを受けた後、入射光(L21)と平行に射出される。そして、第2コーナーキューブ361から射出された光L22は、第2ウェッジプリズム362を通過して、負の回転方向に所定微小角度(−θ)偏向する。
第2ウェッジプリズム362からの射出光(L23)は、メインスケール200に入射する。
第2ウェッジプリズム362からの射出光(L23)がメインスケール200に入射する点を再帰入射点P2とする。光(L23)は、再帰入射点P2でメインスケール200により反射回折される。反射回折された光のうち、−1回折光L24が受光部380に入射する。
【0044】
このように第2実施形態にあっても上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。また、第2実施形態にあっては、光路がすべてXZ面内となる。したがって、幅方向の薄化に適した光電式エンコーダとなる。
【0045】
(第3実施形態)
第3実施形態を
図8に示す。
第3実施形態の基本的構成は第1実施形態と同様であり、対応する要素に同じ符号を付す。
第3実施形態においては、光源光L0をメインスケール200に対して斜めから入射するようにしている。
第1実施形態においては、光源光L0はZ軸と平行に射出され、メインスケール200に対して垂直に入射していた。これに対し、本第3実施形態では、光源光L0は、YZ面内においてZ軸に対して所定角度を持って射出され、メインスケール200に斜めに入射している。
光源光L0を斜め入射にしたことに伴って第1、第2再帰反射部350、360の配設位置および角度を変更し、受光部380の配置にも変更を加えている。(XZ面を間にして、−Y側に光源320と受光部380とが配置され、+Y側に第1、第2再帰反射部360が配置されている。)
基本的には、第1、第2再帰反射部350、360を通って再帰反射した光が受光部380で干渉縞を形成するようにこれら光学要素を配置すればよい。
【0046】
このように第3実施形態にあっても上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
また、第3実施形態によれば高さを抑制し、高さ方向の薄化に適した光電式エンコーダとできる。
【0047】
(第4実施形態)
第4実施形態を
図9に示す。
第4実施形態の基本的構成は第1実施形態と同様であり、対応する要素には同じ符号を付す。
図9において、光源320を、レーザー光源に代えて、白色光源321と光源格子(回折格子)322とで構成している。このような光源光でもコヒーレントな光を得られることはもちろんである。
また、受光部380を、受光素子アレイ381に代えて、インデックススケール(回折格子)384と受光素子382(広い受光面を有する単一の受光素子382)とで構成してもよい。
ここで、インデックススケール384の格子ピッチをメインスケール200の格子ピッチと同じにしておく。すると、メインスケール200と検出ヘッド部300との相対移動に対し、P/2周期で変化する信号が得られる。
【0048】
このような第4実施形態においても上記実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
コーナーキューブ351、361からの射出光L12、L22の光路上にウェッジプリズム352、362を配置したが、コーナーキューブ351、361への入射光L11、L21の光路上の方にウェッジプリズム352、361を配置するようにしてもよい。
【0050】
上記実施形態では、メインスケールが反射型回折格子の場合を例示したが、メインスケールが透過型の回折格子であってもよい。
この場合、第1再帰反射部350および第2再帰反射部360がメインスケール200を間にして光源および受光部と反対側にくるように変更すればよいだけである。一例を
図10に示した。