特許第6702741号(P6702741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6702741異種二核錯体を用いて水素および一酸化炭素を酸化する方法、燃料電池並びに発電方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702741
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】異種二核錯体を用いて水素および一酸化炭素を酸化する方法、燃料電池並びに発電方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/58 20060101AFI20200525BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20200525BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20200525BHJP
   B01J 31/22 20060101ALN20200525BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20200525BHJP
   C07F 15/04 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
   C01B3/58
   H01M4/90 Y
   C07F15/00 E
   !B01J31/22 M
   !H01M8/10
   !C07F15/04
【請求項の数】10
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-15824(P2016-15824)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-132671(P2017-132671A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小江 誠司
(72)【発明者】
【氏名】浅野 正志
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/143663(WO,A1)
【文献】 特表2009−502727(JP,A)
【文献】 特表2009−526650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86−4/98
B01J 31/22
C07F 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される異種二核錯体[NM]を用いて水素および一酸化炭素を酸化する方法。
【化1】
式(1)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。zは錯体の電荷を表し、0または2+である。
M=RuIIの場合、L=ヘキサメチルベンゼン基、X=HO、Y=なし、z=2+、M=RhIIIまたはIrIIIの場合、L=ペンタメチルシクロペンタジエニル基、X、Y=共にCl、z=0である。
【請求項2】
上記式(1)で表される異種二核錯体[NM]による一酸化炭素の酸化反応が、下記の工程で示される請求項1に記載の方法。
(工程A)一酸化炭素分子(CO)に上記式(1)で表される異種二核錯体[NM]を作用させ、下記式(2)で表される異種二核カルボニル錯体[NM−CO]を生成する工程。
CO+[NM]→[NM−CO]+X+Y
(工程B)異種二核カルボニル錯体[NM−CO]に水酸化物イオン(OH)を作用させ、下記式(3)で表される異種二核ヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]を生成する工程。
[NM−CO]+2OH→[NM−C(O)OH]
(工程C)基質(Q)に異種二核ヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]を作用させ、基質を還元し、異種二核錯体[NM]を再生する工程。
Q+[NM−C(O)OH]+X+Y→(Q+2e)+CO+HO+[NM]
【化2】
式(2)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
【化3】
式(3)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
【請求項3】
下記式(1)で表される異種二核錯体[NM]を含むアノード電極を用いることを特徴とする一酸化炭素−酸素燃料電池。
【化4】
式(1)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。M=RuIIの場合、L=ヘキサメチルベンゼン基、X=HO、Y=なし、z=2+、M=RhIIIまたはIrIIIの場合、L=ペンタメチルシクロペンタジエニル基、X、Y=共にCl、z=0である。zは錯体の電荷を表し、0または2+である。
【請求項4】
アノードガスとして一酸化炭素を含む水素ガスを使用して駆動することを特徴とする、請求項3に記載の一酸化炭素−酸素燃料電池。
【請求項5】
アノードガス中に含まれる一酸化炭素の濃度が0.001〜100%の濃度範囲で駆動する請求項4に記載の一酸化炭素−酸素燃料電池。
【請求項6】
下記式(1)で表される異種二核錯体[NM]を含有する一酸化炭素−酸素燃料電池用電極触媒を用いた、一酸化炭素−酸素燃料電池による発電方法。
【化5】
式(1)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。M=RuIIの場合、L=ヘキサメチルベンゼン基、X=HO、Y=なし、z=2+、M=RhIIIまたはIrIIIの場合、L=ペンタメチルシクロペンタジエニル基、X、Y=共にCl、z=0である。zは錯体の電荷を表し、0または2+である。
【請求項7】
請求項3に記載の一酸化炭素−酸素燃料電池に用いる下記式(1)で表される異種二核錯体[NM]。
【化6】
式(1)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。zは錯体の電荷を表し、0または2+である。M=RuIIの場合、L=ヘキサメチルベンゼン基、X=HO、Y=なし、z=2+であり、M=RhIIIまたはIrIIIの場合、L=ペンタメチルシクロペンタジエニル基、X、Y=共にCl、z=0である。
【請求項8】
請求項2に記載の方法に用いる、下記式(2)で表される異種二核カルボニル錯体[NM−CO]。
【化7】
式(2)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
【請求項9】
請求項2に記載の方法に用いる、下記式(3)で表される異種二核ヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]。
【化8】
式(3)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
【請求項10】
請求項1に記載の方法に用いる、下記式(4)で表される異種二核ヒドリド錯体[NM−H]。
【化9】
式(4)において、Mは、RhIIIまたはIrIIIである。Lはペンタメチルシクロペンタジエニル基、YはClを表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と一酸化炭素の両方を酸化できる金属錯体を用いて水素および一酸化炭素を酸化する方法。更に、該触媒を電極触媒に用いた燃料電池の作製に関する。
【背景技術】
【0002】
水素−酸素燃料電池のアノードでは水素を酸化し電子を取り出している。現在、アノードには白金触媒が用いられている。しかし、白金は高価であり代替触媒が求められている。一方、白金触媒は水素ガスに含まれる一酸化炭素によって被毒され性能劣化(非特許文献1)する。そのため高純度の水素ガスを使用する必要がある。
【0003】
一方、代替触媒には安価であることと共に、一酸化炭素があっても機能する触媒が求められる。非特許文献2では一酸化炭素を酸化する燃料電池用錯体触媒が開示されている。また、非特許文献3及び特許文献1では、水素を酸化する錯体触媒が開示され、非特許文献4及び特許文献2にはそれらを固定した電極を用いた燃料電池について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−235054号公報
【特許文献2】国際公開第2010/143663号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Electrochim.Acta,1998,43,3637−3644
【非特許文献2】Angew.Chem.Int.Ed.,2006,45,3120−3122
【非特許文献3】Science,2007,316,585−587
【非特許文献4】Angew.Chem.Int.Ed.,2011,50,11202−11205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献2に記載の燃料電池用錯体触媒は水素の酸化活性が殆どない。また、一酸化炭素を酸化する触媒については報告がなく、水素−酸素燃料電池において、一酸化炭素の酸化能力をも有した触媒が望まれている。
【0007】
したがって、本発明は、水素と一酸化炭素を両方酸化できる触媒、およびこれら触媒を用いる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を検討した結果、分子設計の最適化により、特定の構造を有する異種二核錯体を触媒として用いることにより水素と一酸化炭素の両方を酸化できること、該触媒をアノードに固定した電極を用いた燃料電池は、水素−酸素燃料電池及び一酸化炭素−酸素燃料電池の両方として機能することを確認した。更に、該水素−酸素燃料電池において、アノードガスに一酸化炭素を含む水素ガスを用いても電池として機能することを確認し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は下記の通りである。
1.下記式(1)で表される異種二核錯体[NM]を用いて水素および一酸化炭素を酸化する方法。
【0010】
【化1】
【0011】
式(1)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。zは錯体の電荷を表し、0または2+である。
M=RuIIの場合、L=ヘキサメチルベンゼン基、X=HO、Y=なし、z=2+であり、M=RhIIIまたはIrIIIの場合、L=ペンタメチルシクロペンタジエニル基、X、Y=共にCl、z=0である。
2.上記式(1)で表される異種二核錯体[NM]による一酸化炭素の酸化反応が、下記の工程で示される前記1に記載の方法。
(工程A)一酸化炭素分子(CO)に上記式(1)で表される異種二核錯体[NM]を作用させ、下記式(2)で表される異種二核カルボニル錯体[NM−CO]を生成する工程。
CO+[NM]→[NM−CO]+X+Y
(工程B)異種二核カルボニル錯体[NM−CO]に水酸化物イオン(OH)を作用させ、下記式(3)で表される異種二核ヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]を生成する工程。
[NM−CO]+2OH→[NM−C(O)OH]
(工程C)基質(Q)に異種二核ヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]を作用させ、基質を還元し、異種二核錯体[NM]を再生する工程。
Q+[NM−C(O)OH]+X+Y→(Q+2e)+CO+HO+[NM]
【0012】
【化2】
【0013】
式(2)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
【0014】
【化3】
【0015】
式(3)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
3.下記式(1)で表される異種二核錯体[NM]を含むアノード電極を用いることを特徴とする水素−酸素燃料電池または一酸化炭素−酸素燃料電池。
【0016】
【化4】
【0017】
式(1)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。zは錯体の電荷を表し、0または2+である。M=RuIIの場合、L=ヘキサメチルベンゼン基、X=HO、Y=なし、z=2+、M=RhIIIまたはIrIIIの場合、L=ペンタメチルシクロペンタジエニル基、X、Y=共にCl、z=0である。
4.アノードガスとして一酸化炭素を含む水素ガスを使用して駆動することを特徴とする、前記3に記載の水素−酸素燃料電池。
5.アノードガス中に含まれる一酸化炭素の濃度が0.001〜100%の濃度範囲で駆動する前記4に記載の水素−酸素燃料電池。
6.下記式(1)で表される異種二核錯体[NM]を含有する燃料電池用電極触媒を用いた発電方法。
【0018】
【化5】
【0019】
式(1)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。M=RuIIの場合、L=ヘキサメチルベンゼン基、X=HO、Y=なし、z=2+、M=RhIIIまたはIrIIIの場合、L=ペンタメチルシクロペンタジエニル基、X、Y=共にCl、z=0である。zは錯体の電荷を表し、0または2+である。
7.前記3に記載の水素−酸素燃料電池または一酸化炭素−酸素燃料電池に用いる下記式(1)で表される異種二核錯体[NM]。
【0020】
【化6】
【0021】
式(1)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。zは錯体の電荷を表し、0または2+である。M=RuIIの場合、L=ヘキサメチルベンゼン基、X=HO、Y=なし、z=2+であり、M=RhIIIまたはIrIIIの場合、L=ペンタメチルシクロペンタジエニル基、X、Y=共にCl、z=0である。
8.下記式(2)で表される異種二核カルボニル錯体[NM−CO]。
【0022】
【化7】
【0023】
式(2)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
9.下記式(3)で表される異種二核ヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]。
【0024】
【化8】
【0025】
式(3)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
10.下記式(4)で表される異種二核ヒドリド錯体[NM−H]。
【0026】
【化9】
【0027】
式(4)において、Mは、RhIIIまたはIrIIIである。Lはペンタメチルシクロペンタジエニル基、YはClを表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
なお、これらの式において、C、N、O、Sなどは、元素記号である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の異種二核錯体を用いる水素および一酸化炭素を酸化する方法によれば、燃料電池用電極において、一酸化炭素による性能低下を受けない電極触媒を提供できる。そのため、現行の水素−酸素燃料電池の問題を解決することが可能であり、電気エネルギーの効率向上に寄与する効果は大きい。また、本発明の方法によれば、一酸化炭素による被毒の影響を受けない還元触媒を広範囲に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1(a)は[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]のESI−MSで分析した結果を示す。図1(b)は、m/z 641.1付近の拡大図を示す。図1(c)は理論値を示す。
図2図2は、X線解析により得られた[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]のORTEP図を示す。
図3図3は、X線解析により得られた[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]のORTEP図を示す。
図4図4は、X線解析により得られた[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFのORTEP図を示す。
図5図5(a)は[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFのESI−MSで分析した結果を示す。図5(b)は、m/z 317.1付近の拡大図を示す。図5(c)は理論値を示す。図5(d)は[NiII(N)IrIII13CO)(η−CMe)](PFのESI−MSで分析した結果を示す。
図6図6(a)は[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFのIRスペクトル、図6(b)は[NiII(N)IrIII13CO)(η−CMe)](PFのIRスペクトルを示す。
図7図7は、X線解析により得られた[NiII(N)RhIII(CO)(η−CMe)](PFのORTEP図を示す。
図8図8(a)は[NiII(N)RhIII(CO)(η−CMe)](PFのESI−MSで分析した結果を示す。図8(b)は、m/z 272.0付近の拡大図を示す。図8(c)は理論値を示す。図8(d)は[NiII(N)RhIII13CO)(η−CMe)](PFのESI−MSで分析した結果を示す。
図9図9(a)は[NiII(N)RhIII(CO)(η−CMe)](PFのIRスペクトル、図9(b)は[NiII(N)RhIII13CO)(η−CMe)](PFのIRスペクトルを示す。
図10図10(a)は[NiII(N)(OH)IrIII(C(O)OH)(η−CMe)]のESI−MSで分析した結果を示す。図10(b)は、m/z 651.1付近の拡大図を示す。図10(c)は理論値を示す。
図11図11は、X線解析により得られた[NiII(N)(OH)IrIII(C(O)OH)(η−CMe)]のORTEP図を示す。
図12図12(a)は[NiII(N)(OH)RhIII(C(O)OH)(η−CMe)]のESI−MSで分析した結果を示す。図12(b)は、m/z 561.1付近の拡大図を示す。図12(c)は理論値を示す。
図13図13は、[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]を出発錯体とするH雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応のpH依存のターンオーバー数(TON)を示す。
図14図14は、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を出発錯体とするH雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応のpH依存のターンオーバー数(TON)を示す。
図15図15は、[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]を出発錯体とする、CO雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応のpH依存のターンオーバー数(TON)を示す。
図16図16は、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を出発錯体とする、CO雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応のpH依存のターンオーバー数(TON)を示す。
図17図17は、[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]を出発錯体とする、H/CO混合ガス雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応のpH依存のターンオーバー数(TON)を示す。
図18図18は、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を出発錯体とする、H/CO混合ガス雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応のpH依存のターンオーバー数(TON)を示す。
図19図19は、[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]を電極触媒に用いた水素−酸素燃料電池評価実験の結果を示す。
図20図20は、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を電極触媒に用いた水素−酸素燃料電池評価実験の結果を示す。
図21図21は、[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]を電極触媒に用いた一酸化炭素−酸素燃料電池評価実験の結果を示す。
図22図22は、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を電極触媒に用いた一酸化炭素−酸素燃料電池評価実験の結果を示す。
図23図23は、[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]を電極触媒に用いた水素/一酸化炭素−酸素燃料電池評価実験の結果を示す。
図24図24は、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を電極触媒に用いた水素/一酸化炭素−酸素燃料電池評価実験の結果を示す。
図25図25は、X線解析により得られた[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]のORTEP図を示す。
図26図26(a)は[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]のESI−MSで分析した結果を示す。図26(b)は、m/z 607.1付近の拡大図を示す。図26(c)は理論値を示す。図26(d)は[NiIICl(N)(μ−D)IrIII(η−CMe)]のESI−MSで分析した結果を示す。
図27図27(a)は[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]のIRスペクトル、図27(b)は[NiIICl(N)(μ−D)IrIII(η−CMe)]のIRスペクトルを示す。
図28図28は、X線解析により得られた[NiIICl(N)(μ−H)RhIII(η−CMe)]のORTEP図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を更に詳しく説明するが、本発明の範囲はそれに限定されない。
【0031】
本発明の異種二核錯体を用いて水素および一酸化炭素を酸化する方法および燃料電池は、出発物質として、下記式(1)で表される異種二核錯体を用いる。
【0032】
【化10】
【0033】
前記式(1)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。zは錯体の電荷を表し、0または2+である。
【0034】
M=RuIIの場合、L=ヘキサメチルベンゼン基、X=HO、Y=なし、z=2+であり、M=RhIIIまたはIrIIIの場合、L=ペンタメチルシクロペンタジエニル基、X、Y=共にCl、z=0である。
【0035】
前記式(1)で表される異種二核錯体[NM]による一酸化炭素の酸化反応が、下記の工程で示される。
(工程A)一酸化炭素分子(CO)に上記式(1)で表される異種二核錯体[NM]を作用させ、下記式(2)で表される異種二核カルボニル錯体[NM−CO]を生成する工程。
CO+[NM]→[NM−CO]+X+Y
(工程B)異種二核カルボニル錯体[NM−CO]に水酸化物イオン(OH)を作用させ、下記式(3)で表される異種二核ヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]を生成する工程。
[NM−CO]+2OH→[NM−C(O)OH]
(工程C)基質(Q)に異種二核ヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]を作用させ、基質を還元し、異種二核錯体[NM]を再生する工程。
Q+[NM−C(O)OH]+X+Y→(Q+2e)+CO+HO+[NM]
【0036】
【化11】
【0037】
前記式(2)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
【0038】
【化12】
【0039】
前記式(3)において、Mは、RuII、RhIIIまたはIrIIIである。Lはヘキサメチルベンゼン基またはペンタメチルシクロペンタジエニル基を表す。l、mおよびnは、それぞれ独立して2〜4の整数である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基である。
【0040】
以下、本発明を、異種二核錯体の具体例であるニッケル・イリジウムクロロ錯体を例に挙げて説明する。
(I−1)ニッケル・イリジウム錯体による水素と一酸化炭素の酸化反応
<ニッケル・イリジウムクロロ錯体>
本発明のニッケル・イリジウム錯体を用いて、水素と一酸化炭素の両方を酸化する方法は、出発物質として、下記式(1’)で表されるニッケル・イリジウムクロロ錯体を用いる。
【0041】
【化13】
【0042】
前記式(1’)で表されるニッケル・イリジウムクロロ錯体[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]は、実施例に記載の方法により調製することができる。
【0043】
ニッケル・イリジウムクロロ錯体(1’)を構造解析する場合、実施例において後述するように、(1’)のアセトン溶液にエーテルをゆっくり添加することにより、(1’)の単結晶を得て、構造解析することができる。
【0044】
図2に示すように、式(1’)で表されるニッケル・イリジウムクロロ錯体は、ニッケルとイリジウムの二核構造をしている。
【0045】
図1(a)〜図1(c)に示すように、ニッケル・イリジウムクロロ錯体(1’)はESI−MSでも確認できる。
【0046】
<ニッケル・イリジウムクロロ錯体による一酸化炭素の酸化反応>
ニッケル・イリジウムクロロ錯体による一酸化炭素の酸化反応と、それに伴う基質の還元反応は、下記工程A〜Cを含む。
(工程A)一酸化炭素分子(CO)に、下記式(1’)で表されるニッケル・イリジウムクロロ錯体[NM]を作用させ、下記反応式で表されるように、下記式(2’)で表されるニッケル・イリジウムカルボニル錯体[NM−CO]を生成する工程
CO+[NM]→[NM−CO]+X+Y
(工程B)ニッケル・イリジウムカルボニル錯体[NM−CO]に、水酸化物イオン(OH-)を作用させ、下記反応式で表されるように、下記式(3’)で表されるニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]を生成する工程
[NM−CO]+2OH→[NM−C(O)OH]
(工程C)下記反応式で表されるように、前記ニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]を基質(Q)と反応させて、基質を還元し、ニッケル・イリジウムクロロ錯体[NM]を再生する工程
Q+[NM−C(O)OH]+X+Y→(Q+2e)+CO+HO+[NM]
【0047】
【化14】
【0048】
(工程A)ニッケル・イリジウムカルボニル錯体(2’)を生成する工程
工程Aは、下記反応式で表されるように、下記式(1’)で表されるニッケル・イリジウムクロロ錯体[NM]と一酸化炭素分子(CO)とを作用させ、下記式(2’)で表されるニッケル・イリジウムカルボニル錯体[NM−CO]を生成する工程である。
CO+[NM]→[NM−CO]+X+Y
【0049】
【化15】
【0050】
工程Aは、一酸化炭素を系内に導入して反応させる。工程Aの反応時間は好ましくは1〜5時間、反応温度は好ましくは5〜40℃、反応圧力は好ましくは1〜8気圧とすることが好ましい。
【0051】
(工程B)ニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体(3’)を生成する工程
工程Bは、下記反応式で表されるように、下記式(2’)で表されるニッケル・イリジウムカルボニル錯体[NM−CO]と水酸化物イオン(OH)とを作用させ、下記式(3’)で表されるニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]を生成する工程である。
[NM−CO]+2OH→[NM−C(O)OH]
【0052】
【化16】
【0053】
工程Bは、水酸化物イオンを系内に導入して反応させる。工程Bの反応時間は好ましくは1〜5時間、反応温度は好ましくは5〜40℃とすることが好ましい。
【0054】
(工程C)基質を還元する工程
工程Cは、下記反応式で表されるように、下記式(3’)で表されるニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]を基質(Q)と反応させて、基質を還元し、下記式(1’)で表されるニッケル・イリジウムクロロ錯体[NM]を再生する工程である。
Q+[NM−C(O)OH]+X+Y→(Q+2e)+CO+HO+[NM]
【0055】
【化17】
【0056】
工程Cは、還元基質を系内に導入して反応させる。工程Cの反応時間は好ましくは1〜5時間、反応温度は好ましくは5〜40℃、反応圧力は好ましくは1〜8気圧とすることが好ましい。
【0057】
本発明の還元反応の対象である基質としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、メチルビオロゲン、フェロセニウムイオン、アクリジニウムイオン、メチレンブルー、ジクロロインドフェノールが挙げられる。
【0058】
ニッケル・イリジウムクロロ錯体(1’)と一酸化炭素を用いたジクロロインドフェノールの触媒的還元反応はpHに依存し、図15に示すように、pH10で最大となる。
【0059】
<ニッケル・イリジウムカルボニル錯体>
前記式(1’)で表されるニッケル・イリジウムクロロ錯体[NM]に、水中で一酸化炭素分子(CO)を作用させることにより、下記反応式で表されるように、下記式(2’)で表されるニッケル・イリジウムカルボニル錯体[NM−CO]が生成する。
CO+[NM]→[NM−CO]+X+Y
【0060】
【化18】
【0061】
前記式(2’)で表されるニッケル・イリジウムカルボニル錯体のPF塩[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PF(2’(PF))は、実施例に記載の方法により調製することができる。
【0062】
ニッケル・イリジウムカルボニル錯体のPF塩(2’(PF))を構造解析する場合、実施例において後述するように、(2’(PF))のアセトン溶液にエーテルをゆっくり添加することにより、(2’(PF))の単結晶を得て、構造解析することができる。
【0063】
図4に示すように、式(2’)で表されるニッケル・イリジウムカルボニル錯体[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)]2+は、ニッケルとイリジウムの二核構造をしている。
【0064】
ニッケル・イリジウムカルボニル錯体(2’)はESI−MSでも確認できる。図5(a)〜図5(d)に示すように、ESI−MSの測定には、ニッケル・イリジウムカルボニル錯体[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)]2+とニッケル・イリジウム13カルボニル錯体[NiII(N)IrIII13CO)(η−CMe)]2+を用いた。
【0065】
ニッケル・イリジウムカルボニル錯体(2’)のC−O伸縮振動は、IRによって確認できる。IRの測定には、[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFとニッケル・イリジウム13カルボニル錯体[NiII(N)IrIII13CO)(η−CMe)](PFを用いた。
【0066】
図6(a)および図6(b)に示すように、ニッケル・イリジウムカルボニル錯体[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFのIRスペクトルでは、C−O伸縮振動が2034cm-1に、ニッケル・イリジウム13カルボニル錯体[NiII(N)IrIII13CO)(η−CMe)](PFでは、13C−O伸縮振動が1987cm-1に観測された。
【0067】
<ニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体>
前記ニッケル・イリジウムカルボニル錯体(2’)に、水中で水酸化物イオン(OH-)を作用させることにより、下記反応式で表されるように、下記式(3’)で表されるニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]が生成する。
[NM−CO]+2OH→[NM−C(O)OH]
【0068】
【化19】
【0069】
前記式(3’)で表されるニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体[NiII(N)(OH)IrIII(C(O)OH)(η−CMe)]は、実施例に記載の方法により調製することができる。
【0070】
ニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体(3’)を構造解析する場合、実施例において後述するように、(3’)のアセトン溶液にエーテルをゆっくり添加することにより、(3’)の単結晶を得て、構造解析することができる。
【0071】
図11に示すように、式(3’)で表されるニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体[NiII(N)(OH)IrIII(C(O)OH)(η−CMe)]は、ニッケルとイリジウムの二核構造をしている。
【0072】
ニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体(3’)は、図10(a)〜図10(c)に示すように、ESI−MSでも確認できる。
【0073】
<ニッケル・イリジウムクロロ錯体をアノード触媒とした一酸化炭素−酸素燃料電池>
ニッケル・イリジウムクロロ錯体(1’)をアノード触媒、白金をカソード触媒とする、一酸化炭素−酸素燃料電池を作製すると、図21に示すように、電池として駆動する。
【0074】
<ニッケル・イリジウムクロロ錯体による水素の酸化反応>
ニッケル・イリジウムクロロ錯体(1’)による水素の酸化反応と、それに伴う基質の還元反応は、下記工程D〜Eを含む。
(工程D)水素分子(H)に、下記式(1’)で表されるニッケル・イリジウムクロロ錯体[NM]を作用させ、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、下記反応式で表されるように、下記式(4’)で表されるニッケル・イリジウムヒドリド錯体[NM−H]を生成する工程
+[NM]→[NM−H]+H+X
(工程E)下記反応式で表されるように、前記ニッケル・イリジウムヒドリド錯体[MH]を基質(Q)と反応させて、基質を還元し、ニッケル・イリジウムクロロ錯体[NM]を再生する工程。
[NM−H]+Q+X→[NM]+(Q+2e)+H
【0075】
【化20】
【0076】
(工程D)ニッケル・イリジウムヒドリド錯体(4’)を生成する工程
工程Aは、下記反応式で表されるように、下記式(1’)で表されるニッケル・イリジウムクロロ錯体[NM]と水素分子(H)とを作用させ、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、下記式(4’)で表されるニッケル・イリジウムヒドリド錯体[NM−H]とプロトン(H)とを生成する工程である。
+[NM]→[NM−H]+H+X
【0077】
【化21】
【0078】
工程Dは、水素を系内に導入して反応させる。工程Dの反応時間は好ましくは1〜5時間、反応温度は好ましくは5〜40℃、反応圧力は好ましくは1〜8気圧とすることが好ましい。
【0079】
(工程E)基質を電子還元する工程
工程Eは、下記反応式で表されるように、下記式(4’)で表されるニッケル・イリジウムヒドリド錯体[NM−H]を基質(Q)と反応させて、基質を還元し、下記式(1’)で表されるニッケル・イリジウムクロロ錯体[NM]を再生する工程である。
[NM−H]+Q+X→[NM]+(Q+2e)+H
【0080】
【化22】
【0081】
工程Eは、還元基質を系内に導入して反応させる。工程Eの反応時間は好ましくは1〜5時間、反応温度は好ましくは5〜40℃とすることが好ましい。
【0082】
本発明の還元反応の対象である基質としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、メチルビオロゲン、フェロセニウムイオン、アクリジニウムイオン、メチレンブルー、ジクロロインドフェノールが挙げられる。
【0083】
ニッケル・イリジウムヒドリド錯体(4’)によるジクロロインドフェノールの触媒的還元反応はpHに依存し、図13に示すように、pH6で最大となる。
【0084】
<ニッケル・イリジウムヒドリド錯体>
前記ニッケル・イリジウムクロロ錯体(1’)に、水中で水素分子(H)を作用させることにより、該水素分子をヘテロリティックに活性化し、下記反応式で表されるように、下記式(4’)で表されるニッケル・イリジウムヒドリド錯体[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]が生成する。
+[NM]→[NM−H]+H+X
【0085】
【化23】
【0086】
ニッケル・イリジウムヒドリド錯体(4’)を構造解析する場合、実施例において後述するように、(4’)のアセトニトリル/アセトン溶液を静置すると、(4’)の単結晶を得て、構造解析することができる。
【0087】
図25に示すように、式(4’)で表されるニッケル・イリジウムヒドリド錯体[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]は、ニッケルとイリジウムの二核構造をしており、Ni・・・Irの距離は、2.784Åである。
【0088】
ニッケル・イリジウムヒドリド錯体(4’)はESI−MSでも確認できる。図26(a)〜図26(d)に示すように、ESI−MSの測定には、ニッケル・イリジウムヒドリド錯体[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]とニッケル・イリジウムジュウテリド錯体[NiIICl(N)(μ−D)IrIII(η−CMe)]を用いた。
【0089】
Ir−H伸縮振動は、IRによって確認できる。IRの測定には、ニッケル・イリジウムヒドリド錯体[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]とニッケル・イリジウムジュウテリド錯体[NiIICl(N)(μ−D)IrIII(η−CMe)]を用いた。
【0090】
図27(a)および図27(b)に示すように、ニッケル・イリジウムヒドリド錯体[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]のIRスペクトルでは、Ir−H伸縮振動が1952cm-1に、ニッケル・イリジウムジュウテリド錯体[NiIICl(N)(μ−D)IrIII(η−CMe)]では、Ir−D伸縮振動が1401cm-1に観測された。
【0091】
<ニッケル・イリジウムクロロ錯体をアノード触媒とした水素−酸素燃料電池>
ニッケル・イリジウムクロロ錯体(1’)をアノード触媒、白金をカソード触媒とする、水素−酸素燃料電池を作製すると、図19に示すように、電池として駆動する。
【0092】
<ニッケル・イリジウムクロロ錯体を用いた水素・一酸化炭素混合ガスの酸化反応>
水素分子(H)と一酸化炭素(CO)の混合ガスを用いる、ニッケル・イリジウムクロロ錯体(1’)によるジクロロインドフェノールの触媒的還元反応はpHに依存し、図17に示すように、pH10で最大となる。
【0093】
一酸化炭素(CO)の濃度は0〜100%の任意の濃度で反応を行うことができるが、より好ましくは100%に違い方が好ましい。一酸化炭素(CO)の濃度が100%に違い方場合に、より高いTONを示す。
【0094】
<ニッケル・イリジウムクロロ錯体をアノード触媒とした水素/一酸化炭素−酸素燃料電池>
ニッケル・イリジウムクロロ錯体(1’)をアノード触媒、白金をカソード触媒とする、水素/一酸化炭素−酸素燃料電池を作製すると、図23に示すように、電池として駆動する。
【0095】
上記においてはニッケル・イリジウムクロロ錯体を例に挙げて説明したが、ニッケル・ロジウムクロロ錯体及びニッケル・ルテニウムアクア錯体についても同様である。上記したように異種二核錯体の製造方法は特に限定されるものではなく、該異種二核錯体に配位する配位子に応じて適宜好ましい製造方法を従来公知の方法から選択し、または、組み合わせて用いればよい。また、上記異種二核錯体として市販されているものを利用することもできる。
【0096】
(I−2)燃料電池用電極触媒
本発明に係る燃料電池用電極触媒は、上記金属錯体を含有している。本発明に係る燃料電池用電極触媒は、どのような燃料電池にも好適に用いることができるが、特に固体高分子型燃料電池により好適に用いることができる。
【0097】
固体高分子型燃料電池は、一般的には電解質膜をアノードとカソードとで挟んで構成され、燃料である水素等と酸化剤である酸素(または空気)から電気化学反応を用いて電気と熱エネルギーを取り出す。このとき、アノード(負極または燃料極ともいう)では燃料の酸化反応が起こり、カソード(正極または空気極ともいう)では酸化剤の還元が起こる。燃料としては、水素の他、ガソリン、メタノール、ジエチルエーテルまたは炭化水素等を用いることもでき、これらを水素に改質して燃料電池に供給する。また、メタノールまたはジエチルエーテル等を直接燃料として供給可能な直接型の燃料電池にも、本発明に係る燃料電池用電極触媒を用いることができる。
【0098】
本発明に係る燃料電池用電極触媒は、上記金属錯体を含有していればよい。従って、本発明に係る燃料電池用電極触媒は、上記金属錯体から選ばれる単一の金属錯体を含有していてもよいし、上記金属錯体から選ばれる2種類以上の金属錯体を含有していてもよい。
【0099】
また、本発明に係る燃料電池用電極触媒は、上記金属錯体のみを含有していてもよいし、必要に応じて他の成分を含有していてもよい。
【0100】
かかる他の成分としては、例えば、バルカン(Cabot社製)、カーボンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、黒煙、炭素繊維および活性炭等の触媒担持体;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオール、ポリイミダゾール、ポリピリジン、ポリアニリンおよびポリチオフェン等の導電性高分子を挙げることができる。
【0101】
他の成分が含有される場合の上記燃料電池用電極触媒に含有される金属錯体と、上記他の成分との割合も特に限定されるものではないが、金属錯体に対する上記触媒担持体の割合は好ましくは0重量%以上50重量%以下であり、金属錯体に対する上記導電性高分子の割合は好ましくは0重量%以上50重量%以下である。
【0102】
さらに、本発明に係る燃料電池用電極触媒には、必要に応じてナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)等のプロトン伝導性高分子電解質が含有されていてもよい。
【0103】
(I−3)アノード及びカソード両用燃料電池用電極触媒
本発明は、従来燃料電池用電極触媒としての活性を有さないと考えられていた金属錯体が燃料電池用電極触媒として機能することを初めて見出したことに基づくものである。本発明ではさらに、驚くべきことに、上記金属錯体が、アノードのみではなくカソードにおいても燃料電池用電極触媒として機能するという予測できない効果が見出された。
【0104】
すなわち、通常、水素分子を活性化するアノード用の電極触媒と、酸素分子を活性化するカソード用の電極触媒とは別種の触媒であることからも、上記金属錯体が、アノードのみではなくカソードにおいても燃料電池用電極触媒として機能することは予想されなかった。また、これまでに、金属錯体がカソードで燃料電池用電極触媒として機能するとの報告はない。
【0105】
しかし、上記金属錯体は、カソードにおいても燃料電池用電極触媒の機能を示した。すなわち、上記金属錯体を含有する本発明に係る燃料電池用電極触媒は、燃料電池のアノード及びカソードに用いることができるアノード及びカソード両用の燃料電池用電極触媒である。
【0106】
前記金属錯体を、アノードのみではなく、カソードにおいても使用することができることにより、白金単体や白金合金の使用をさらに減らすことができ、かつ、触媒能力の制御をより容易に行うことができる。
【0107】
(II)本発明に係る燃料電池用電極触媒の利用
本発明に係る燃料電池用電極触媒は、安価、かつ、触媒能力の制御が容易にできることから、これを用いた燃料電池用電極、燃料電池、及び、発電方法に好ましく用いることができる。それゆえ、本発明には、上記燃料電池用電極触媒を用いた燃料電池用電極、燃料電池、及び、発電方法も含まれる。
【0108】
(II−1)燃料電池用電極
本発明に係る燃料電池用電極は、上記燃料電池用電極触媒を含有するものであれば特に限定されるものではなく、燃料電池の種類に応じて、従来公知の様々な構成を備えうる。
【0109】
例えば、固体高分子型燃料電池を例として挙げれば、本発明に係る燃料電池用電極は、カソード用および/またはアノード用の、触媒層付ガス拡散層電極として構成することができる。かかる触媒層付ガス拡散層電極では、上記燃料電池用電極触媒を含有する触媒層は、ガス拡散層上に積層されている。上記ガス拡散層は、カーボンクロス、カーボンペーパー等のような多孔質カーボン等からなっており、ガス流路から供給された燃料または酸素(空気)を拡散させ効率よく触媒に供給するようになっている。
【0110】
かかるガス拡散層上に形成された触媒層は、例えば、上記燃料電池用電極触媒を、溶液、懸濁液、スラリー、ペースト等として、上記ガス拡散層に塗布し、乾燥させることにより形成される。ここで、上記燃料電池用電極触媒を、溶液、懸濁液、スラリー、ペースト等とするための媒体も特に限定されるものではなく、従来公知の媒体から適宜選択して用いればよい。塗布量は0.1〜10mg/cmとすることが好ましく、より好ましくは0.5〜5mg/cmである。
【0111】
なお、上記触媒層は、上記燃料電池用電極触媒に加え、必要に応じて、上記触媒担持体、導電性高分子またはアイオノマー等を含有していてもよい。上記触媒担持体、導電性高分子またはアイオノマー等は、上記燃料電池用電極触媒の溶液、懸濁液、スラリーまたはペースト等に添加してもよいし、上記燃料電池用電極触媒の溶液、懸濁液、スラリーまたはペースト等とは別に、溶液、懸濁液、溶液、スラリーまたはペースト等として、触媒層を塗布する前、同時、又は後に塗布してもよい。
【0112】
(II−2)燃料電池
本発明に係る燃料電池の構成は、通常燃料電池に採用される構成であれば特に限定されるものではないが、例えば、少なくとも電解質膜、アノードおよびカソードを備え、電解質膜をアノードとカソードとで挟んだ構造を有している。
【0113】
かかる燃料電池は、例えば、上述したように、カソード用の触媒層付ガス拡散層電極およびアノード用の触媒層付ガス拡散層電極を作製し、これらの触媒層付ガス拡散層電極の間に、触媒層が電解質膜を挟んで対向するように電解質膜を挟み、膜電極接合体(MEA)を作製すればよい。かかる膜電極接合体を燃料電池セルに組み込んで使用することができる。
【0114】
ここで、本発明に係る燃料電池は、上記燃料電池用電極触媒を、アノードおよび/またはカソードにそれぞれ独立して含有していればよい。すなわち、本発明の燃料電池用電極は、アノードおよびカソードの両方に用いられてもよいし、アノードおよびカソードのいずれか一方に用いられてもよい。本発明の燃料電池用電極が、アノードおよびカソードのいずれか一方に用いられる場合、対向する電極触媒には、従来公知の触媒を用いればよく、例えば、白金単体、白金合金等を含有する触媒を用いればよい。
【0115】
上記電解質膜は、水素イオン伝導性の高い高分子膜であれば特に限定されるものではなく、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)またはアシプレックス(登録商標)のパーフルオロスルホン酸系のプロトン交換膜等、通常用いられる電解質膜を用いればよい。
【0116】
(II−3)発電方法
本発明に係る発電方法は、上記燃料電池用電極触媒を用いて、燃料の酸化反応を行う工程、および/または、上記燃料電池用電極触媒を用いて、酸化剤の還元反応を行う工程を含んでいればよい。すなわち、本発明に係る発電方法は、上記燃料電池用電極触媒を用いて、燃料の酸化反応を行う工程、および、上記燃料電池用電極触媒を用いて、酸化剤の還元反応を行う工程の両方を含んでいてもよいし、いずれか一方を含んでいてもよい。
【0117】
より具体的には、例えば、本発明に係る発電方法は、上記燃料電池用電極触媒を用いて水素分子から電子を放出させて水素イオンとする工程、および/または、上記燃料電池用電極触媒を用いて、酸素分子、水素イオンおよび電子を反応させて水を生成する工程を含む。
【0118】
本発明に係る発電方法は、従来公知の方法により行えばよく、特に限定されるものではないが、一例を説明すると、燃料電池のアノード側に水素ガスを、カソード側に酸素を供給する。このとき水素ガスおよび酸素はバブラーを通して加湿してもよい。
【0119】
アノード側から水素ガスが供給されると、水素ガスが上記燃料電池用電極触媒の作用によって水素分子から電子を放出して水素イオンとなる。この水素イオンは電解質膜を通過して対向するカソードに移動する。カソードでは、上記燃料電池用電極触媒の作用により、移動してきた水素イオンと、カソードに供給される酸素分子とが反応して水を生成する。このとき、電線に生じる電子の流れが直流電流として取り出される。
【実施例】
【0120】
以下に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0121】
(材料および方法)
全ての実験は、標準のシュレンク技術及びグローブボックスを用いることによってN又はAr雰囲気下で実施した。
【0122】
NiII(N)は、文献(Inorg.Chem.,1990,4779−4788)に記載の方法によりNiII(N)において記述されている方法によって調製した(N=N、N’−dimethyl−3,7−diazanonane−1,9−dithiolato)。[IrIII(η−CMe)Clは、文献(Inorg.Chem.1990,29,2023−2025)に記載の方法により[IrIII(η−CMe)Clにおいて記述されている方法によって調製した(η−CMe=1,2,3,4,5−pentamethylcyclopentadienyl)。[RhIII(η−CMe)Clは、文献(Org.Lett.2004,6,2785−2788)に記載の方法により[IrIII(η−CMe)Clにおいて記述されている方法によって調製した。[NiIICl(N)RuII(HO)(η−CMe)](NOは、文献(Science 2007,316,585−587)に記載の方法により[NiIICl(N)RuII(HO)(η−CMe)](NOにおいて記述されている方法によって調製した。
【0123】
2、COガス、H/CO混合ガス(CO:50%、H:50%)ガスは、太陽東洋酸素株式会社から購入した。HOは、和光純薬工業株式会社から購入した;これらは、更に精製することなしに使用した。
【0124】
・赤外スペクトル
KBrディスク中に含まれる固体化合物の赤外スペクトルは、25℃で2cm−1の標準解像度を用いて400から4000cm−1までの領域をサーモ・ニコレーNEXUS8700FR−IR計器で測定した。
【0125】
・紫外線可視スペクトル
紫外線可視スペクトルは、25℃にて日本分光V−670 UV−Visible−NIR分光計(セルの長さ1.0cm)で測定した。
【0126】
・元素分析データ
元素分析データは、パーキンエルマー2400IIシリーズCHNS/O分析器によって得た。
【0127】
・X線結晶学的解析
測定は、共焦点単色化Mo−Ka放射光(l=0.7107Å)を備えたリガク/MSCサターンCCD回析装置で行った。データを集め、CrystalClaerプログラム(リガク社)を用いて処理した。全ての計算は、モレキュラー・ストラクチャー・コーポレーションのteXan結晶学ソフトウェア・パッケージを用いて実施した。
【0128】
[実施例1]異種二核錯体[NM]の合成および解析
(1)ニッケル・イリジウムクロロ錯体[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]の合成
[NiII(N)](55.8mg、0.2mmol)を含むメタノール溶液(10mL)に、[IrIII(η−CMe)Cl(79.7mg、0.1mmol)を含むアセトニトリル溶液(5mL)を加え、室温で3時間撹拌した。生成した不溶性の沈殿をろ別し、溶媒を減圧除去することで[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]の茶色粉末を得た(収率:74%)。
【0129】
ESI−MS(in methanol):m/z(% in the range m/z 200−2000):641.1(100)[[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]−Cl].Anal.Calcd.for[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)](C1935ClNiIr):C,33.69;H,5.21;N,4.14、Found:C,33.64;H,5.26;N,4.09.
[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]は、上で得た茶色粉末のアセトン溶液にエーテルをゆっくりと添加することにより単結晶として得られ、X線構造解析を行った。
図2に[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]の構造解析の結果を示す。
【0130】
(2)ニッケル・ロジウムクロロ錯体[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]の合成
[NiII(N)](27.9mg、0.10mmol)を含むメタノール溶液(5mL)に、[RhIII(η−CMe)Cl(30.9mg、0.05mmol)を含むメタノール(5mL)/アセトニトリル(3mL)の混合溶液を加え、室温で1時間撹拌した。得られた溶液の溶媒を減圧除去することで茶色粉末を得た。この茶色粉末をアセトン/ジエチルエーテルで再結晶することで、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]の単結晶を得た(収率:51%)。
【0131】
ESI−MS:(in methanol):m/z(% in the range m/z 200−2000):551.1(100)[[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]−Cl].Anal.Calcd.for[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)](C1935ClNiRh):C,38.80;H,6.00;N,4.76、Found:C,38.79;H,5.98;N,4.74.
図3に[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]の構造解析の結果を示す。
【0132】
[実施例2]異種二核カルボニル錯体[NM−CO]の合成および解析
(1)ニッケル・イリジウムカルボニル錯体[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFの合成
[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)](41.0mg、0.060mmol)を水(5mL)に溶解させ、CO雰囲気下、室温で5時間撹拌した。得られた溶液にKPF(71mg、0.39mmol)を含む水溶液(2mL)を加えると、赤橙色固体が生成した。得られた固体をアセトン(2mL)で抽出し、溶媒を減圧除去し、[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFの赤色粉末を得た(収率:43%)。
【0133】
Anal.Calcd.for [NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PF・CHCOCH(C234112NiIr):C,28.12;H,4.21;N,2.85、Found:C,28.00;H,4.19;N,2.92.
[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFは、上で得た赤色粉末のアセトン溶液にエーテルをゆっくりと添加することにより単結晶として得られ、X線構造解析を行った。
【0134】
図4に[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFの構造解析の結果を示す。
【0135】
[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFはESI−MSでも確認できる。図5(a)〜図5(d)に示すように、13COを用いて合成した[NiII(N)IrIII13CO)(η−CMe)](PFを用いるとm/zで0.5のシフトが確認された。
【0136】
また、IRの測定では、図6(a)および図6(b)に示すように[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFで観測される2034cm-1のC−O伸縮振動が、[NiII(N)IrIII13CO)(η−CMe)](PFでは、1987cm-1に観測された。
【0137】
(2)ニッケル・ロジウムカルボニル錯体[NiII(N)RhIII(CO)(η−CMe)](PFの合成
[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)](26.9mg、29mmol)を水(4mL)に溶解させ、CO雰囲気下、室温で4時間撹拌した。得られた溶液にKPF(64.4mg、0.35mmol)を含む水溶液(2mL)を加え、生じた[NiII(N)RhIII(CO)(η−CMe)](PFの赤橙色固体をろ過して回収した(収率:77%)。
【0138】
Anal.Calcd.for [NiII(N)RhIII(CO)(η−CMe)](PF・CHCOCH(C234112NiRh):C,30.93;H,4.63;N,3.14、Found:C,30.66;H,4.58;N,3.16.
[NiII(N)RhIII(CO)(η−CMe)](PFは、そのアセトン溶液にヘキサンを蒸気拡散することにより単結晶として得られ、X線構造解析を行った。
【0139】
図7に[NiII(N)RhIII(CO)(η−CMe)](PFの構造解析の結果を示す。
【0140】
[NiII(N)RhIII(CO)(η−CMe)](PFはESI−MSでも確認できる。図8(a)〜図8(d)に示すように、13COを用いて合成した[NiII(N)RhIII13CO)(η−CMe)](PFを用いるとm/zで0.5のシフトが確認された。
【0141】
また、IRの測定では、図9(a)および図9(b)に示すように[NiII(N)RhIII(CO)(η−CMe)](PFで観測される2061cm-1のC−O伸縮振動が、[NiII(N)RhIII13CO)(η−CMe)](PFでは、2014cm-1に観測された。
【0142】
[実施例3]異種二核ヒドロキシカルボニル錯体[NM−C(O)OH]の合成および解析
(1)ニッケル・イリジウムヒドロキシカルボニル錯体[NiII(N)(OH)IrIII(C(O)OH)(η−CMe)]の合成
[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)](6.77mg、0.010mmol)を水(1mL)に溶解させ、CO雰囲気下、室温で30分撹拌した。得られた溶液に1M NaOH/HO(0.050mL)を加えた。生じた沈殿をろ過で回収することにより、[NiII(N)(OH)IrIII[C(O)OH](η−CMe)]の固体を得た(収率:47%)。
【0143】
ESI−MS:(in acetonitrile):m/z(% in the range m/z 200−2000):651.1(100)[[NiII(N)(OH)IrIII[C(O)OH](η−CMe)]−OH].Anal.Calcd.for[NiII(N)(OH)IrIII[C(O)OH](η−CMe)](C2037NiIr):C,35.93;H,5.58;N,4.19、Found:C,36.10;H,5.48;N,4.16.
[NiII(N)(OH)IrIII[C(O)OH](η−CMe)]は、上で得た固体のアセトン溶液にエーテルをゆっくりと添加することにより単結晶として得られ、X線構造解析を行った。
図11に[NiII(N)(OH)IrIII[C(O)OH](η−CMe)]の構造解析の結果を示す。
【0144】
(2)ニッケル・ロジウムヒドロキシカルボニル錯体[NiII(N)(OH)RhIII(C(O)OH)(η−CMe)]の合成
[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)](15.0mg、25.5mmol)を水(0.5mL)に溶解させ、CO雰囲気下、室温で30分撹拌した。得られた溶液に1M NaOH/HO(0.035mL)を加えた。生じた沈殿をろ過して回収することにより、[NiII(N)(OH)RhIII(C(O)OH)(η−CMe)]の固体を得た(収率:42%)。
【0145】
ESI−MS:(in HO pH9):m/z(% in the range m/z 200−2000):561.1(100)[[NiII(N)(OH)RhIII(C(O)OH)(η−CMe)]−OH].
[NiII(N)(OH)RhIII(C(O)OH)(η−CMe)]はESI−MSでも確認できる。図12(a)に[NiII(N)(OH)RhIII(C(O)OH)(η−CMe)]のESI−MSで分析した結果を示す。図12(b)は、m/z 561.1付近の拡大図を示す。図12(c)は理論値を示す。
【0146】
[実施例4]異種二核ヒドリド錯体[NM−H]の合成および解析
(1)ニッケル・イリジウムヒドリド錯体[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]の合成
[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)](50.8mg、0.075mmol)を水(8mL)に溶解させ、pH7に調整した後、H雰囲気下(0.8MPa)、室温で5時間攪拌した。溶媒を減圧除去することにより、[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]の黄色粉末を得た(収率:72%)。
【0147】
ESI−MS:(in acetonitrile):m/z(% in the range m/z 200−2000):607.1(100)[[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]−Cl]. Anal.Calcd.for [NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]・CHCOCH(C2242OClSNiIr):C,37.69;H,6.04;N,4.00、Found:C,37.70;H,4.27;N,5.89.
[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]は、アセトン/ジエチルエーテルにより単結晶として得られ、X線構造解析を行った。
図25に[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]の構造解析の結果を示す。
【0148】
(2)ニッケル・ロジウムヒドリド錯体[NiIICl(N)(μ−H)RhIII(η−CMe)]の合成
[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)](29.5mg、0.050mmol)を水(5mL)に溶解させ、pH7に調整した後、H雰囲気下(0.8MPa)、室温で6時間攪拌した。溶媒を減圧除去することにより、[NiIICl(N)(μ−H)RhIII(η−CMe)]の赤色粉末を得た(収率:88%)。
【0149】
ESI−MS:(in acetonitrile):m/z(% in the range m/z 200−2000):517.1(100)[[NiIICl(N)(μ−H)IrIII(η−CMe)]−Cl].
[NiIICl(N)(μ−H)RhIII(η−CMe)]は、アセトン/アセトニトリルにより単結晶として得られ、X線構造解析を行った。
図28に[NiIICl(N)(μ−H)RhIII(η−CMe)]の構造解析の結果を示す。
【0150】
[実施例5]Hを電子源とする異種二核錯体[NM]を用いた基質の触媒的還元反応
(1)ニッケル・イリジウムクロロ錯体[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]を用いたH雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応
[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]と85当量のジクロロインドフェノールを水中(pH4−10)で混合し、H雰囲気下(0.1−0.8MPa)、25−60℃で2時間撹拌した。UV−visスペクトルで生成したジクロロインドフェノールの還元体を定量し、ターンオーバー数(TON)を算出した。図13に各pHで算出されたTONを示した。
【0151】
(2)ニッケル・ロジウムクロロ錯体[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いたH雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応
(1)で用いたニッケル・イリジウムクロロ錯体の代わりに、ニッケル・ロジウムクロロ錯体[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いて同様の反応を行った。図14に各pHで算出されたTONを示した。
【0152】
[実施例6]COを電子源とする異種二核錯体[NM]を用いた基質の触媒的還元反応
(1)ニッケル・イリジウムクロロ錯体[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]を用いたCO雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応
[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]と85当量のジクロロインドフェノールを水中(pH4−10)で混合し、CO雰囲気下(0.1−0.8MPa)、25−60℃で2時間撹拌した。UV−visスペクトルで生成したジクロロインドフェノールの還元体を定量し、ターンオーバー数(TON)を算出した。図15に各pHで算出されたTONを示した。
【0153】
(2)ニッケル・ロジウムクロロ錯体[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いたCO雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応
(1)で用いたニッケル・イリジウムクロロ錯体の代わりに、ニッケル・ロジウムクロロ錯体[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いて同様の反応を行った。図16に各pHで算出されたTONを示した。
【0154】
(3)ニッケル・ルテニウムアクア錯体[NiIICl(N)RuII(HO)(η−CMe)](NOを用いたCO雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応
(1)で用いたニッケル・イリジウムクロロ錯体の代わりに、ニッケル・ルテニウムアクア錯体[NiIICl(N)RuII(HO)(η−CMe)](NOを用いて同様の反応を行った。pH9で反応を行ったとき、TONは1.6であった。
【0155】
[実施例7]H/CO混合ガスを電子源とする異種二核錯体[NM]を用いた基質の触媒的還元反応
(1)ニッケル・イリジウムクロロ錯体[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]を用いたH/CO混合ガス雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応
[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]と85当量のジクロロインドフェノールを水中(pH4−10)で混合し、H/CO混合ガス(H:50%、CO:50%)雰囲気下(0.1−0.8MPa)、25−60℃で2時間撹拌した。UV−visスペクトルで生成したジクロロインドフェノールの還元体を定量し、ターンオーバー数(TON)を算出した。図17に各pHで算出されたTONを示した。
【0156】
(2)ニッケル・ロジウムクロロ錯体[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いたH/CO混合ガス雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応
(1)で用いたニッケル・イリジウムクロロ錯体の代わりに、ニッケル・ロジウムクロロ錯体[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いて同様の反応を行った。図18に各pHで算出されたTONを示した。
【0157】
(3)ニッケル・ルテニウムアクア錯体[NiIICl(N)RuII(HO)(η−CMe)](NOを用いたH/CO混合ガス雰囲気下でのジクロロインドフェノールの触媒的還元反応
(1)で用いたニッケル・イリジウムクロロ錯体の代わりに、ニッケル・ルテニウムアクア錯体[NiIICl(N)RuII(HO)(η−CMe)](NOを用い、100ppmのCOを含むH/CO混合ガス(CO:99.99%、H:0.01%)雰囲気下で同様の反応を行った。pH5で反応を行ったとき、TONは1.4であった。
【0158】
[実施例8]異種二核錯体[NM]をアノード触媒に用いた燃料電池評価実験
(1)水素−酸素燃料電池評価
[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)](5mg)をカーボンブラック(5mg)と混合し、カーボンクロス上に塗布することで、アノード電極を作成した。カソード電極としてはPt/C(10mg)をカーボンクロス上に塗布したものを用いた。以上の電極を用いて電池を作成し、アノードガスとして水素、カソードガスとして酸素を用い、60℃での燃料電池評価を行った結果、図19に示すように電池として機能した。
【0159】
[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]の代わりに、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いて同様にアノード電極を作成し、水素−酸素燃料電池の評価を行った。
【0160】
その結果、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いても燃料電池として機能した。図20に[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を電極触媒に用いた燃料電池評価実験の結果を示す。
【0161】
(2)一酸化炭素−酸素燃料電池評価
(1)で[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)](5mg)を用いて作成したアノード電極を用いた電池を用い、アノードガスとして一酸化炭素、カソードガスとして酸素を用い、60℃での燃料電池評価を行った結果、図21に示すように電池として機能した。
【0162】
[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)]の代わりに、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いて同様にカソード電極を作成し、一酸化炭素−酸素燃料電池の評価を行った。
【0163】
その結果、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いても燃料電池として機能した。図22に[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を電極触媒に用いた燃料電池評価実験の結果を示す。
【0164】
(3)水素/一酸化炭素−酸素燃料電池評価
(1)で[NiIICl(N)IrIIICl(η−CMe)](5mg)を用いて作成したアノード電極を用いた電池を用い、アノードガスとして水素と一酸化炭素の混合ガス(H:50%、CO:50%)、カソードガスとして酸素を用い、60℃での燃料電池評価を行った結果、図23に示すように電池として機能した。
【0165】
[NiII(N)IrIII(CO)(η−CMe)](PFの代わりに、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いて同様にカソード電極を作成し、水素/一酸化炭素−酸素燃料電池の評価を行った。
【0166】
その結果、[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を用いても燃料電池として機能した。図24に[NiIICl(N)RhIIICl(η−CMe)]を電極触媒に用いた燃料電池評価実験の結果を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
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