(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(b)を、ロータリー窯、ロータリー炉床窯、振り子窯、ローラー炉床窯、トンネル窯、充填床反応器、流動床反応器、又は流動化床の別の段で実施する請求項1に記載の方法。
前記リチウム化遷移金属酸化物が、リチウム化スピネル、層状酸化物、及びリチウムニッケル−コバルト−アルミニウム酸化物から選択される請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
前記前駆体が、混合遷移金属酸化物、混合遷移金属オキシ水酸化物、混合遷移金属水酸化物、及び少なくとも2種の遷移金属の混合遷移金属炭酸塩から選択される請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
リチウム化遷移金属酸化物及びリチウム鉄リン酸塩は、現在、リチウムイオン電池用の電極材料として使用されている。電荷密度、貯蔵容量、エネルギー等の特性を改良するだけでなく、電極材料を製造するための有利な方法等の他の性質についても改善するために、過去数年間にわたって広範な研究及び開発が行われてきた。このような方法は、費用対効果が高く、環境にやさしく、容易にアップスケールされるはずである。
【0003】
実施されているか、又は開発中である様々な電極材料製造プロセスは、基本的に2段階のプロセスからなる。第1の工程では、それぞれの遷移金属を混合水酸化物又は混合炭酸塩として共沈させることによって、いわゆる前駆体を作製する。第2段階では、前記前駆体をリチウム化合物と混合した後、高温下で固相反応させる。固相反応は、しばしば電極材料製造との関連ではか焼と呼ばれている。
【0004】
過去においては、共沈作業について多くの開発研究が行われてきた。しかしながら、か焼プロセスも、それぞれの電極材料の特性及び製造方法のコストに影響を及ぼし得る。
【0005】
多くの態様において、か焼は900℃以下の温度で、或いは950℃さえでも、行われる。
【0006】
多くの出願では、ロータリー(回転)窯又はローラー炉床窯の使用が開示されている。しかしながら、前駆物質とリチウム化合物との混合物は、特に、か焼に必要な高温では腐食を引き起こす可能性がある。このため、わずかな、非常に高価な材料のみが各ロータリー窯に適合する。腐食問題を軽減するためにセラミック材料を使用した場合、セラミック材料の熱伝導率は金属の熱伝導率よりもはるかに低いことを観察することができる。不完全な熱移動は、か焼される材料のより高い加熱コスト及び長い滞留時間をもたらす。
【0007】
WO2012/177833では、2つのロータリーか焼炉のカスケードにおけるか焼が提案されている。しかしながら、特に第2のロータリーか焼炉における腐食の問題は依然として解決されていないで残っている。
【0008】
ローラー炉床窯プロセスでは、前駆体とリチウム化合物の混合物、例えばカーボネート又は水酸化リチウムとを匣鉢に入れ、次いで加熱ゾーンを通過させる。このプロセスは、腐食の問題を減少させる。しかしながら、ローラー炉床窯は、匣鉢のサイズが限られているという欠点がある。従って、ローラー炉床窯ベースのプロセスのアップスケールは、高い投資コストを強いることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、容易にアップスケールすることができ、良好な熱回収を可能にする、リチウム化遷移金属酸化物を製造する方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、冒頭で定義された方法が見出された。これは、以下、本発明の方法又は(本)発明に従う方法とも呼ばれる。
【0012】
本発明の方法は、任意のリチウム化遷移金属酸化物の製造方法として使用することができる。以下、「リチウム化遷移金属酸化物」という用語は、リチウムと、限定されないが、ニッケル、コバルト、マンガン等の少なくとも1種の遷移金属及びこれらの組み合わせとを含む混合金属酸化物を指す。リチウムと全遷移金属との化学量論比は、好ましくは1.13:0.87〜1:2の範囲である。リチウム化遷移金属酸化物は、遷移金属又はリチウム以外の少量の金属カチオン、例えばバリウム、カルシウム又はアルミニウム及びこれらの組み合わせ等を含有してもよい。例えば、リチウム遷移金属酸化物は、その全遷移金属含量に対して、5モル%までのAlを含むことができる。しかしながら、本発明の一実施形態では、リチウム化遷移金属酸化物は、その全遷移金属含量に対して、遷移金属及びリチウム以外の金属カチオンを痕跡量、例えば0.01モル%以下でしか含ままない。
【0013】
リチウム化遷移金属酸化物は、例えば、層状酸化物構造又はスピネル構造を有することができる。
【0014】
本発明の一実施形態において、リチウム化遷移金属酸化物は、リチウム化スピネル、リチウム・ニッケル−コバルト−アルミニウム酸化物、及び層状構造を有するリチウム金属酸化物(層状酸化物とも呼ばれる)から選択される。
【0015】
リチウム化遷移金属酸化物の例は、LiCoO
2、LiMnO
2、LiNiO
2、及び一般式Li
1+x(Ni
aCo
bMn
cM
1d)
1−xO
2(M
1はCa、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、V及びFeから選択される)であり、さらなる変数は以下のように定義される:
xは0.015〜0.13の範囲であり、
aは0.3〜0.7の範囲であり、
bは0〜0.35の範囲であり、
cは0.2〜0.5の範囲内である
dは0〜0.03の範囲であり、
且つa+b+c+d=1である。
【0016】
リチウム化遷移金属酸化物のさらなる例は、一般式:
Li
1+yM
22−yO
4−rで表されるものである。
上式において、rは0〜0.4であり、yは0〜0.4の範囲であり、M
2は、周期律表第3〜12族の1種以上の金属(例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Mo、Mn、Co及びNiそしてこれらの組み合わせが好ましく、特にNiとMnの組み合わせが好ましい)である。さらにLiMn
2O
4及びLiNi
2−tMn
tO
4がさらに好ましく、変数tは0〜1の範囲である。
【0017】
リチウム・ニッケル−コバルト−アルミニウム酸化物の例は、一般式Li[Ni
hCo
iAl
j]O
2+rの化合物である。h、i、jの典型的な値は次のとおりである:
hは0.8〜0.85の範囲であり、
iは0.15〜0.20の範囲であり、そして
jは0.01〜0.05の範囲である。
rは、0〜0.4の範囲にある。
【0018】
本発明の方法に従って製造することができる好ましいリチウム化遷移金属酸化物は、層状構造を有するリチウム化スピネル及びリチウム金属酸化物である。
【0019】
本発明による方法は、以下、工程(a)、工程(b)及び工程(c)とも呼ばれる3つの工程を含む:
(a)少なくとも1種のリチウム塩、及び遷移金属酸化物、遷移金属オキシ水酸化物、遷移金属水酸化物、及び遷移金属炭酸塩から選択される(遷移金属水酸化物と遷移金属オキシ水酸化物が好ましい)前駆体を混合する工程、
(b)工程(a)で得られた混合物を300〜700℃の範囲の温度で予備か焼する工程、及び
(c)工程(b)で得られた予備か焼混合物を、多段流動床反応器において、550℃〜950℃の範囲の温度でか焼する工程。
【発明を実施するための形態】
【0020】
工程(a)、工程(b)及び(c)を以下に詳細に記載する。
【0021】
工程(a)では、少なくとも2種の化合物、すなわち少なくとも1種のリチウム塩及び前駆体の混合が行われる。
【0022】
リチウム塩は、酸化リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、過酸化リチウム、炭酸水素リチウム、及びハロゲン化リチウム、例えばフッ化リチウム、特に塩化リチウム及び臭化リチウムから選択することができる。好ましいリチウム塩は、水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択され、炭酸リチウムが特に好ましい。工程(a)では、前記前駆体を、1種のリチウム塩又は少なくとも2種のリチウム塩の組み合わせ、例えば2種又は3種のリチウム塩の組み合わせと混合することを行うことができる。2種のリチウム塩の適当な組み合わせの例としては、酸化リチウムと水酸化リチウムとの混合物、及び水酸化リチウムと炭酸リチウムとの混合物、及び炭酸リチウムと炭酸水素リチウムとの混合物が挙げられる。3種のリチウム塩の適当な混合物の例は、酸化リチウム、水酸化リチウム及び炭酸リチウムの混合物である。実質的に1種のリチウム塩と前駆体を混合することによって工程(a)を実施することが好ましいが、「実質的に1種のリチウム塩」とは、厳密に1種のリチウム塩又は2種以上のリチウム塩の混合物を指し、塩の1種は全リチウム塩の少なくとも95質量%を構成することが好ましい。
【0023】
前記前駆体は、遷移金属酸化物、オキシ水酸化物、遷移金属水酸化物、及び遷移金属炭酸塩から選択され、遷移金属水酸化物及び遷移金属オキシ水酸化物が好ましい。
【0024】
本発明の一実施形態において、前記前駆体は、1種の遷移金属の、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及び炭酸塩から選択される。前記遷移金属は、好ましくは、Ni、Mn及びCoから選択される。本発明の好ましい実施形態において、前駆体は、少なくとも2種の遷移金属の、酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物及び炭酸塩から選択され、前記遷移金属はNi、Co及びMnの2種の組み合わせから選択されることが好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態では、前駆体は、Ni、Co及びAlの組み合わせの、酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物、及び炭酸塩から選択される。
【0026】
本発明の一実施形態では、前駆体は、Ni、Mn、任意にCoの組み合わせ、そして任意にCa、Al、Ti、Zr、Zn、Mo、V及びFeから選択される少なくとも1種のさらなる金属の組み合わせの、酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物、及び炭酸塩から選択される。
【0027】
本発明の一実施形態では、前駆体は、3〜20μm、好ましくは5〜16μmの範囲の平均粒径(平均粒子直径)(D50)を有する。平均粒径は、例えば、光の散乱によって測定される。平均粒径という用語は、工程(a)で使用される前駆体の平均粒径を指す。本発明の方法の工程(a)で使用されるリチウム塩は、4〜7μmの範囲の平均粒径(D50)を有することが好ましい。多くの実施形態では、工程(a)、(b)及び特に(c)において、乾燥又は脱水された前駆体及びリチウム塩、及び任意にリチウム化遷移金属酸化物から選択される複数の粒子を含む特定の凝集体が形成される。前記凝集体は、通常、前駆体の平均粒径より大きな直径を有する。前記凝集体は、通常、動的挙動を示し、例えば、それらは乾燥又は脱水された前駆体及び/又はリチウム塩の粒子、及び適宜、リチウム化遷移金属酸化物の粒子を放出する。同時に、それらは、乾燥又は脱水された前駆体及び/又はリチウム塩の粒子と、適用できれば、リチウム化遷移金属酸化物の粒子とを包含する。
【0028】
金属及び特に前駆体の遷移金属の化学量論は、リチウム化遷移金属酸化物中のそれぞれの金属の所望の化学量論から選択されるのが好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態では、全遷移金属(Al又はBa又はCaが存在する場合、リチウム以外の全金属)に対するリチウムの化学量論は、好ましくは、それぞれのリチウム化遷移金属酸化物の化学量論に従って選択される。本発明の別の実施形態では、昇華又は他の原因によるリチウムの欠損を回避するために、リチウムの総量を基準にして、例えば0.2〜5モル%の範囲の過剰のリチウム塩が使用されている。
【0030】
混合は様々な温度で行うことができ、工程(a)が行われる温度は通常臨界的ではない。工程(a)は、0〜100℃又はそれ以上の温度で実施することが可能である。
【0031】
本発明の一実施形態では、工程(a)は、10〜30℃の範囲の温度で実施される。
【0032】
工程(a)は、常圧で行うことができる。
【0033】
工程(a)は、固体を混合するための従来の混合装置中で実施することができる。特定の実施形態では、工程(a)は、工程(b)の前に工程(b)と同じ容器内で実施される。
【0034】
工程(a)を実施した後、混合物が得られる
【0035】
工程(b)において、工程(a)で得られた混合物は、300〜700℃の範囲の温度で予備か焼(焼成)される。このような予備か焼を行うために、工程(a)によって得られた混合物を300〜700℃の範囲の温度に付す。1ステップ又は2ステップ以上、例えば2ステップ又は3ステップで温度を上昇させることが可能である。例えば、温度を300〜350℃に上昇させた後、工程(a)で得られた混合物をそのような温度に維持し、次いで温度を500〜600℃に上昇させ、次に後者の温度で温度を維持した後、温度を700℃に上昇させる。別の例では、温度を300〜350℃に上昇させ、次いでステップ(a)によって得られた混合物をこの温度に維持し、次に650〜700℃に上昇させ、次いで温度を後者の温度に維持する。別の実施形態では、温度を350〜400℃に上昇させ、次いでステップ(a)により得られた混合物をこのような温度に維持し、次いで温度を550〜600℃に上げ、次いで後者の温度で温度を保持した後、温度を700℃に上昇させる。
【0036】
本発明において、工程(a)で得られた混合物をある温度に保持することは、それぞれの混合物を、少なくとも1つの特定の温度±10℃で15分〜5時間の範囲の期間にわたって加熱処理することを意味する。
【0037】
本発明の一実施形態では、工程(a)で得られた混合物を、少なくとも1つの特定の温度±5℃で15〜120分の範囲の時間にわたって保持する。
【0038】
本発明の一実施形態では、工程(b)は常圧で行われる。他の実施形態では、工程(b)は、常圧よりも高い圧力、例えば10バールまでの圧力で実施される。常圧又は1.5バールまでの高圧が好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態において、工程(b)は、1時間〜10時間の範囲の時間にわたって実施される。
【0040】
本発明の一実施形態では、工程(b)は、ロータリー窯、ロータリー炉床窯、振り子窯、ローラー炉床窯、トンネル窯、充填床反応器、流動床反応器、又は工程(c)のために使用される流動床反応器の別のゾーンで実施される。本発明の好ましい実施形態において、工程(b)は、ロータリー窯中又は流動床の別の段(stage)で実施される。
【0041】
本発明の一実施形態において、工程(b)の間の加熱は、1〜5℃/分の平均速度で行われる。工程(b)が流動床の別のゾーン又は段で行われる実施形態では、前駆体及びリチウム塩の粒子が流動床に直接導入されるため、加熱がより速く起こる。
【0042】
本発明の特に好ましい実施形態では、工程(b)は流動床の別の段(ステージ)で実施され、この別の段は他の段と少なくとも同じであり、好ましくは他の段よりも大きなホールドアップ(hold-up)を有する。「他の段」という用語は、工程(c)で使用される段を指す。前記(a)で得られた混合物の粒子の潜在的な粘着性を克服するためには、同じ又は好ましくはより大きなホールドアップが必要である。
【0043】
工程(b)を流動床として実施する工程(b)の実施形態では、例えば25%/時間まで、好ましくは約1〜10%/時間までの別個の段のホールドアップのわずかな部分のみが、工程(a)から得られた新鮮な混合物に置き換えられる。より低いホールドアップ又はより高い交換レートが選択される時はいつでも、材料は安定した流動化をもたらすためには粘着性が高すぎる。
【0044】
工程(c)の一実施形態では、1つの段の高さは30cm〜1mの範囲にある。工程(c)におけるホールドアップは、段の数及び各段の体積に応じて変化し、例えば高さ及び直径によって特徴付けられる。
【0045】
工程(b)の間に、前駆体が炭酸塩から選択される実施形態では、前駆体からの炭酸塩は、CO
2として部分的又は完全に除去される。
【0046】
工程(b)中、前駆体が水酸化物及びオキシ水酸化物から選択される実施形態では、前駆体からの水酸化物の一部又は全部がH
2Oとして除去される。
【0047】
工程(b)を実施した後、混合物が得られる。このような混合物は、700℃までの温度を有する。このようにして得られた混合物は、水酸化物を含まないか又は非常に低いが、5質量%以上の炭酸塩含量を有していてもよい。
【0048】
工程(b)で使用される装置は、スチール製であってもよく、またセラミックス材料による保護が有っても、無くてもよい。工程(b)が、工程(c)が実施される流動床反応器の別個の段又はゾーンで実施される実施形態では、前記ゾーンはセラミック材料によって保護されてもよい。セラミック材料は、以下により詳細に説明される。
【0049】
工程(c)において、工程(b)により得られた混合物を、多段流動床反応器中、550℃〜950℃の範囲の温度でか焼する。
【0050】
工程(b)及び(c)において、温度は、工程(c)が工程(b)の温度より高い温度で、好ましくは工程(b)の温度より少なくとも50℃高い温度で行われるように選択される。 一実施形態では、工程(b)は300〜500℃の温度で、工程(c)は550〜950℃の範囲の温度で行うことができる。一実施形態において、工程(b)は500〜600℃の範囲の温度で実施され、工程(c)は650〜950℃の範囲の温度で行われる。さらなる実施形態において、工程(b)は600〜650℃の範囲の温度で実施され、工程(c)は700〜950℃の範囲の温度で行われる。さらなる実施形態では、工程(b)は650〜700℃の範囲の温度で実施され、工程(c)は750〜950℃の範囲の温度で行われる。
【0051】
本発明における多段流動床反応器は、定常状態において、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、最も好ましくは3〜20つの範囲の流動床の段が存在する、反応器又は反応器の組み合わせを含んでいる。前記段はゾーンとも呼ばれ得る。段は、水平又は垂直に配置することができ、好ましくは垂直に配置することができる。異なる段は、物理的設備(physical provisions)によって、特に少なくとも1つの構造的手段(structural measure)によって、互いに分離されている。構造的手段の例としては、穿孔プレート、穿孔ボード、及びバブルトレー(ドイツ語:Glockenboeden)が挙げられる。
【0052】
本発明の一実施形態では、多段流動床反応器の異なる段が、スタンドパイプ(standpipe)を介して相互に接続される。固体粒子は、流動床の異なる段を、相互に、より高い段階から下方の段に分離する物理的設備を通過することができる。多段流動床反応器の段上の流動床のレベルが、このレベルまでの固形物供給のためにスタンドパイプの高さを超えている場合、流動床固形物のレベルが流動床のそれぞれの段が、それぞれのスタンドパイプの高さを超え、それによって、下の段に移される限り、流動化した固形物がそれぞれのスタンドパイプ内に落下することができる。段の短絡を避けるために、上段のスタンドパイプが多段流動床反応器の別個の段に入る点及び下段へのスタンドパイプが位置する点は、多段流動床反応器の別個の段の反対側にあるべきである。
【0053】
本発明の一実施形態では、工程(c)における平均滞留時間は、1時間〜6時間、好ましくは90分間〜4時間の範囲である。
【0054】
本発明の一実施形態では、ステップ(c)におけるガス入口温度は室温である。他の実施形態では、予熱ガスが使用されており、ガス入口温度は100〜950℃の範囲であってもよい。
【0055】
好ましくは、工程(c)の熱は、工程(c)で使用されている反応器の壁又は他の要素の加熱によって少なくとも部分的に導入される。
【0056】
本発明の一実施形態では、工程(c)におけるガス出口温度は室温である。他の実施形態において、工程(c)におけるガス出口温度は、50〜100℃の範囲内である。
【0057】
ガス入口は、5〜50cm/s、好ましくは20〜30cm/sの範囲のガス空塔速度を有することができる。前記速度は、流動床で測定され、空の反応器に関するものである。ガスの平均滞留時間は、1段当たり1秒未満から1分間であり得る。
【0058】
好ましい実施形態では、流動床中のガス空塔速度は、工程(b)及び(c)における段の異なる温度のために、段ごとに変化する。次いで、容積ガス流量及び反応器直径は、ガス空塔速度が最小流動化速度より低すぎないか、又は終端速度(ドイツ語:Einzel-Partikel-Austragsgeschwwindigkeit)を上回らないように選択される。これにより、安定した流動化を達成することができる。
【0059】
ガスが多段流動床反応器から出るとき、固形物は、重力に基づいて、フリーボードを介して、例えば、サイクロンにより、又はフィルタキャンドルにより、ガス流から除去され得る。
【0060】
本発明の一実施形態では、工程(c)の熱は、熱放射、特に500℃以上の温度で熱放射によって少なくとも部分的に伝達される(transferred)。前記熱放射は、多段床反応器の壁の中又は近くに、又は2つの段の間の空きスペースに、設置することができる加熱システムを通じた加熱によって部分的に生じる。前記熱放射は、流動化粒子間の熱交換により部分的に生じ得る。温度が高いほど、熱放射による熱交換の割合が高くなる。
【0061】
本発明の一実施形態では、工程(c)は、3〜20つの範囲の段の多段流動床で実施される。
【0062】
本発明の一実施形態では、工程(c)が実施される装置は、セラミック材料製の表面を有する。これは、好ましくは、工程(b)で得られた混合物と接触する表面を指す。セラミック製又はセラミック材料製の表面は、複数の表面を指すが、必ずしも壁全体を指すわけではない。従って、前記装置の壁は、セラミック材料で被覆されたスチールからなることが可能である。前記表面はまた、異なる段を構成する部分の一部又は全部を含むことができる。
【0063】
セラミック材料は、酸化物、非酸化物、及び複合材料から選択することができる。本発明のセラミック材料として好適な酸化物の例は、アルミナ及びジルコニアである。本発明のセラミック材料として好適な非酸化物の例は、ホウ化物、窒化物及び炭化物、特にSiCである。複合材料の例は、粒状強化セラミック、繊維強化セラミック、及び少なくとも1種の酸化物と少なくとも1種の非酸化物との組み合わせである。複合材料の好ましい例は、繊維強化アルミナ及びアルミナとSiCとの組合せである。
【0064】
工程(c)を実施した後、このようにして得られた材料は、ガス流により多段流動床反応器から除去され得る。
【0065】
その後、さらなる工程、例えば、このようにして得られた材料を冷却し、そしてふるい分けする工程、を行ってもよい
【0066】
本発明の特定の実施態様において、本発明の方法の工程(c)は、化学的不活性粒子材料(chemically inert particulate material)の存在下で行われる。このような化学的不活性粒子材料は、工程(b)の前又は間に、或いは、遅くとも工程(b)の後及び工程(c)の前に添加することができる。このような化学的不活性粒子材料を、工程(b)が流動床の別の段又は別個の流動床反応器中で実施される実施形態において、工程(b)の前又は間に添加することが好ましい。工程(b)の開始時に化学的不活性粒子材料を添加することが特に好ましく、従って、工程(b)が流動床の別個の段階又は別個の流動床反応器で実施される実施形態において、350℃以上の温度に加熱する前に添加することが特に好ましい。
【0067】
本発明のこの特定の実施形態における化学的不活性粒子材料とは、リチウム塩、それぞれの前駆体及び各実施形態のそれぞれのカソード活物質のいずれとも化学反応を起こさない材料を指す。アルミナ、酸化イットリウム、ジルコニア、及びこれらのうちの少なくとも2種の組み合わせ等(これらに限定されない)のセラミックが好ましく、アルミナ、酸化イットリウム、ジルコニアが特に好ましい。αアルミナ相(コランダム)のアルミナ及びジルコニアが最も好ましい。
【0068】
このような化学的不活性材料は、工程(c)の間でさえ粒子、即ち粒子状である。従って、このような化学的不活性粒子材料の融点は、工程(c)が実施される温度よりも高い。このような粒子は回転楕円体であってもよい。このような化学的不活性粒子材料の平均直径(平均粒径)は、前駆体の平均直径と同じであってもよいが、好ましくは平均直径よりもかなり大きいか又はかなり小さいことが好ましい。かなり大きいことがより好ましい。例えば、不活性材料は、少なくとも20μmの平均粒径(d50)を有することができる。35μm〜500μmの粒径が可能であり、45〜150μmが好ましい。
【0069】
本発明の一実施形態では、工程(c)の開始時に、前駆体と、リチウム塩と、適用できれば、工程(b)中に形成されたカソード活物質との合計に対する、化学的不活性粒子材料の質量比は、20:1〜1:20、好ましくは10:1〜1.5:1、さらにより好ましくは5:1〜2:1の範囲である。
【0070】
化学的不活性粒子材料が使用される実施形態では、このような化学的不活性粒子材料を、工程(c)の最後に、又は好ましくは工程(c)の後に、例えばふるい分けによりカソード活物質から除去することが好ましい。
【0071】
このような化学的不活性粒子材料は、より安定した流動化状態にすることができる。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、化学的不活性粒子材料の添加は、潜在的に粘着性の前駆体粒子との接触回数を減少させると推測され得る。実質的に、前駆体(又はカソード活物質)と、化学的不活性粒子材料との間の焼結は観察することができない。
【0072】
本発明の方法により、リチウムイオン電池の電極に優れた適性を有するリチウム化遷移金属酸化物が形成される。これは優れた形態を持つだけではない。好ましくは、このようなリチウム化遷移金属酸化物は、工程(c)中において腐食及び侵食応力が低いように、低い鉄含有量を有する。本発明の一実施形態では、リチウム化遷移金属酸化物の鉄含有量は、1〜75ppm、好ましくは50ppmまでの範囲である。好ましい実施形態では、リチウム化遷移金属酸化物の鉄含有量は、それぞれの前駆体の鉄含有量よりも50ppm以下だけ高い。
【0073】
本発明を実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0074】
以下の管型反応器システムを使用する。管型反応器は、スタンドパイプを備えた複数の分配板を有する。
【0075】
用語の説明:
RS:反応器システム
Nm
3:標準、すなわち、室温及び大気圧での立方メートル
固定床(Settled bed)高さ:同じ断面の空の円筒に移されたかのような、固定床の全高さ
流動床高さ/固定床高さの比
床と段との間の高さ:流動床の各段の上側レベルと次の段の多孔板との間の距離
【0076】
層状構造を有するリチウム遷移金属酸化物の合成
【0077】
【表1】
【0078】
工程(a.1):
このような反応器では、式Ni
0.33Co
0.33Mn
0.33(OH)
2の前駆体(平均粒径12μm)を、1.12当量のLi
2CO
3(平均粒径5.5μm、Liの当量は前記前駆体の遷移金属の全含有量を指す)と混合する。
【0079】
工程(b.1):工程(a.1)で得られた混合物を、675℃の温度で予備か焼する。
【0080】
次に、工程(c.1)を、高密度アルミナ及びアルミナシールド反応器の内壁から作製された分配プレート及びスタンドパイプを備えた流動床反応器中で開始した。ガス入口温度は25℃、ガスの最高温度は925℃である。壁を電気加熱することにより、熱さを達する。固体を25℃から925℃に加熱するために必要な熱流は約166.7kWである。この実施例では、必要な熱流は外部からの熱導入によって部分的にのみ提供され、主な熱量はガスによって粒子に伝えられる(熱回収)。それぞれの工程(c.1)〜(c.4)を段の50%で実施し、他の段は前駆体の粒子を所望の温度に加熱するか、又はそれらを環境温度に冷却する役割を果たす。
【0081】
Li
1.06(Ni
0.33Co
0.33Mn
0.33)
0.94O
2のカソード活物質を得た。鉄含量は75ppm未満であった。
【0082】
II.リチウム化Ni−Co−Al酸化物の合成
(a.II)反応器システムRS.1において、LiOH、Al
2(OH)
3及び式Ni
0.84Co
0.16(OH)
2の前駆体の混合物を、最終ニッケルコバルトアルミニウムカソード材料がリチウム/金属比が1.02(この場合の金属はニッケル、コバルト及びアルミニウムである)を有するように混合した。水酸化アルミニウムの量は、Ni
0.81Co
0.15Al
0.04である最終のリチウム化ニッケルコバルトアルミニウム層状酸化物中の原子の比によって定義される。
【0083】
(b.II)工程(a.II)で得た混合物を400℃の温度で4時間予備か焼し、続いて675℃で6時間予備か焼する。両方の予備か焼における滞留(dwell)は酸素雰囲気中で行われる。
【0084】
(c.II)か焼システムは、(c.1)と同じである。か焼は酸素雰囲気下で行う。最高温度ゾーンの材料温度は780℃である。最高温度ゾーンでの材料の滞留時間は6時間である。
【0085】
式Li
1.01(Ni
0.81Co
0.15Al
0.04)
0.99O
2のカソード活物質を得る。鉄含有量は75ppm未満である。
【0086】
III.リチウム化スピネルの合成
(a.III)反応器システムRS.1において、Li
2CO
3は、リチウム対遷移金属比(リチウム/遷移金属)が1.01であるように、式Ni
0.5Mn
1.5(OH)
4のスピネル前駆物質と混合する。
【0087】
(b.III)得た混合物を、375℃で3時間、650℃で6時間、両方とも空気中で予備か焼する。
【0088】
(c.III)材料のか焼は、(c.1)で説明したものと同じシステムで行う。か焼は空気中で行う。か焼は、材料を820℃(820℃がか焼の過程で材料が到達する最高温度である)で6時間処理するように行う。
【0089】
式Li
1.01(Ni
0.5Mn
1.5)
0.99O
2のカソード活物質を得る。鉄含有量は75ppm未満である。
【0090】
IV.化学的不活性粒子材料の存在下での層状構造を有するリチウム遷移金属酸化物の合成
AGSCO社の白色酸化アルミニウムを化学的不活性粒子材料として使用した。結晶形態はα−アルミナであり、化学的性質は両性であり、粒子密度は3.95g/cm
3であり、ルーズバックかさ密度(loose back bulk density)は1.61〜1.87g/cm
3であり、モース硬度は9で、融点は2000℃であった。粒度分布は、Horiba粒度分布アナライザーLA−950V2を用いて測定した。化学的不活性粒子材料の平均粒径は52.3μmであった。
【0091】
工程(a.1)と(a.2)を上記のように繰り返した。しかしながら、反応器システムRS.5を充填する前に、白色酸化アルミニウムの前駆体に対する質量比が7:3であるように、上記白色酸化アルミニウムの量を工程(b.1)から得た予備か焼混合物に添加した。予備か焼した混合物をガラス容器の冷流流動床システムに最初に充填し、次いでアルミナを同じ容器に充填した。混合は、容器充填物を1分間流動化させることによって行った。混合物の品質を目視で判定した。このようにして得た混合物を反応器システムRS.5に充填した。流動化は、表1に従ってバッチ操作として、925℃の床温度を2時間維持して行った。
【0092】
式Li
1.06(Ni
0.33Co
0.33Mn
0.33)
0.94O
2のカソード活物質を得た。鉄含量は75ppm未満であった。