(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記扁平複合粉末の真密度の、この扁平複合粉末の原料である多数の金属の粉末の真密度に対する比R2が、0.70以上0.95以下である請求項5又は6に記載の扁平複合粉末。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ及びタブレット型パーソナルコンピュータのような携帯用電子機器が、普及している。近年は、この電子機器の小型化及び高性能化が進んでいる。これに伴い、この電子機器の回路に用いられる磁性部材にも、小型化及び高性能化の要求が高まっている。
【0003】
回路基板内の磁性部材には、フェライトからなるシートに配線が印刷された基盤が用いられている。フェライトは、酸化物であり、磁性材料である。フェライトの使用例として、積層インダクタ及び積層コンデンサが挙げられる。フェライトは、周波数が10MHzから10GHzである高周波領域において、電流を受けて磁力に変換するときの損失が少ない。しかしフェライトには、透磁率が小さいという欠点がある。
【0004】
透磁率が小さいというフェライトの欠点を補う目的で、樹脂及びゴムのような絶縁物中に、透磁率の高い軟磁性金属粒子が分散した成形体が、磁性部材に用いられている。この金属粒子に絶縁物が被覆された粒子も、成形体に用いられている。これらの成形体は、磁性シートとして利用されうる。しかしながら、透磁率の高い軟磁性金属粒子では、低周波領域で磁気損失が発生する欠点がある。低周波領域で磁気損失が発生すれば、周波数が10MHzから10GHzである高周波領域において、さらに大幅な磁気損失が生じる。
【0005】
磁性シートに用いられる粉末についての様々な検討が、なされている。特開2014−204051公報には、84.0%以上96.0%以下のFe、3.0%以上8.5%以下のSi、及び1.0%以上13.0%以下のAlを含む軟磁性扁平粉末が開示されている。この粉末のアスペクト比は、15以上である。この粉末は、下記の数式を満たす。
2・Si% − Al% ≦ 15.0
【0006】
特開2014−075511公報には、Fe−Si−Cr系合金からなる軟磁性扁平粉末が開示されている。この粉末のアスペクト比は100−150である。この粉末の平均厚みは、1μm以下である。
【0007】
特開2007−266031公報には、Fe−Si−Cr合金からなる磁芯部材が開示されている。この部材の性能指数(μ’×Q)は、大きい。
【0008】
特開2015−050361には、Fe−Si−Al系扁平粉末及びFe−Si系扁平粉末が開示されている。これらの粉末では、粒子が絶縁皮膜を有している。これらの粉末が用いられた磁性部材では、渦電流による磁気損失が少ない。同様の粉末が、特開2015−050360公報にも開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2014−204051公報に開示された粉末では、高周波領域、具体的には周波数が10MHzから10GHzの領域においての磁気損失に関する検討が、なされていない。本発明者の知見によれば、この粉末では、周波数が10MHz未満の領域での磁気損失が高い傾向が認められた。従ってこの粉末では、高周波領域においてさらに大幅な磁気損失が生じる。
【0011】
上記特開2014−075511公報に記載の扁平状軟磁性粉末を用いた磁性体では、高周波領域での磁気損失に関する検討が、なされていない。本発明者の知見によれば、この粉末では、周波数が13.56MHz未満の領域での磁気損失が高い傾向が認められた。従ってこの粉末では、周波数が13.56MHzから10GHzである高周波領域において、さらに大幅な磁気損失が生じる。
【0012】
上記特開2007−266031公報に記載の扁平状軟磁性粉末を用いた磁性体では、高周波領域での磁気損失に関する検討が、なされていない。本発明者の知見によれば、この磁性体では、周波数13.56MHz未満の領域での磁気損失が高い傾向が認められた。従ってこの粉末では、周波数が13.56MHzから10GHzである高周波領域において、さらに大幅な磁気損失が生じる。
【0013】
上記特開2015−050361公報に開示された粉末では、絶縁皮膜の成分に関する詳細な検討がなされていない。この粉末が用いられた磁性部材では、高周波領域での磁気損失が高くなるおそれがある。さらにこの磁性部材では、効果を奏しうる周波数域が狭くなるおそれがある。同様の問題は、特開2015−050360公報に開示された粉末にも存在する。
【0014】
本発明の目的は、周波数が10MHzから10GHzである高周波領域での、磁性部材の磁気損失の低減に寄与しうる扁平粉末の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る扁平金属粉末は、多数の扁平金属粒子からなる。この扁平金属粒子の材質は、0.01質量%以上3.0質量%以下のCと、0.1質量%以上5.0質量%以下のSiと、Cr及び/又はMoとを含み、かつ残部がFe及び不可避的不純物である合金である。この合金におけるCrとMoとの合計量は、10質量%以上30質量%以下である。この合金の、下記数式(I)で導出される値Aは、−600以上800以下である。
A = 50 ・ Cr% + 80 ・ Mo% - 3 ・ AR (I)
この数式(I)において、Cr%は合金におけるCrの質量含有率を表し、Mo%は合金におけるMoの質量含有率を表し、ARはこの粉末のアスペクト比を表す。
【0016】
この合金が、Fe、Cr及びMo以外の、体心立方格子を有する1又は2以上の金属元素MBをさらに含んでもよい。好ましくは、この合金における金属元素MBの含有率は、1.0質量%以上7.0質量%以下である。この合金の、下記数式(II)で導出される値Bは、−600以上3500以下である。
B = 50 ・ Cr% + 80 ・ Mo% + 170 ・ MB% - 3 ・ AR (II)
この数式(II)において、MB%は合金における金属元素MBの質量含有率を表す。
【0017】
好ましくは、扁平金属粉末の、タップ密度に対するかさ密度の比R1は、0.5以上1.0以下である。
【0018】
好ましくは、扁平金属粉末の平均粒径は、20μm以上150μm以下である。
【0019】
他の観点によれば、本発明に係る磁性部材用の扁平複合粉末は、多数の扁平複合粒子からなる。それぞれの扁平複合粒子は、金属と、この金属を覆う皮膜とを有している。この金属の材質は、0.01質量%以上3.0質量%以下のCと、0.1質量%以上5.0質量%以下のSiと、Cr及び/又はMoとを含み、かつ残部がFe及び不可避的不純物である合金である。この合金におけるCrとMoとの合計量は、10質量%以上30質量%以下である。この合金の、下記数式(I)で導出される値Aは、−600以上800以下である。皮膜の材質は、チタンアルコキシド類及びケイ素アルコキシド類を含む混合物から得られる重合物である。
A = 50 ・ Cr% + 80 ・ Mo% - 3 ・ AR (I)
この数式(I)において、Cr%は合金におけるCrの質量含有率を表し、Mo%は合金におけるMoの質量含有率を表し、ARはこの粉末のアスペクト比を表す。
【0020】
扁平複合粒子の金属の部分が、合金成分として、Fe、Cr及びMo以外の、体心立方格子を有する1又は2以上の金属元素MBをさらに含んでもよい。好ましくは、この合金における金属元素MBの含有率は、1.0質量%以上7.0質量%以下である。この合金の、下記数式(II)で導出される値Bは、−600以上3500以下である。
B = 50 ・ Cr% + 80 ・ Mo% + 170 ・ MB% - 3 ・ AR (II)
この数式(II)において、MB%は合金における金属元素MBの質量含有率を表す。
【0021】
好ましくは、扁平複合粒子の真密度の、この扁平複合粒子の金属部分のみの真密度に対する比R2は、0.70以上0.95以下である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る扁平粉末が用いられた磁性部材は、周波数が10MHzから10GHzである高周波領域での磁気損失が小さい。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0025】
[第一実施形態]
[扁平金属粉末]
本発明に係る扁平金属粉末は、多数の扁平金属粒子の集合である。本発明において扁平金属粒子とは、扁平形状を有し、かつ単一金属又は合金からなる粒子のことを意味する。
図1に、この扁平金属粒子2が示されている。
図2に、この扁平金属粉末を含む磁性シート4が示されている。
【0026】
この扁平金属粒子2の材質は、合金である。この合金は、0.01質量%以上3.0質量%以下のCと、0.1質量%以上5.0質量%以下のSiと、Cr及び/又はMoとを含む。好ましくは、この合金の残部は、Fe及び不可避的不純物である。この合金におけるCrとMoとの合計量は、10質量%以上30質量%以下である。この合金は、軟磁性材料である。
【0027】
磁性部材の性能を表す指標として、透磁率μ、実部透磁率μ’及び虚部透磁率μ”がある。実部透磁率μ’は、電磁波遮蔽特性の優劣を表す。虚部透磁率μ”は、電磁波吸収特性の優劣を表す。透磁率μは、下記数式によって導出される。
μ = μ’ + jμ”
この数式において、jは虚数を表す。jの二乗は、−1である。透磁率μ、実部透磁率μ’及び虚部透磁率μ”のそれぞれは、真空透磁率との比である比透磁率を表す。高周波での磁気損失tanδは、下記数式によって導出される。
tanδ = μ” / μ’
この数式から明らかな通り、μ’が小さい場合及びμ”が大きい場合に、磁気損失tanδが大きい。渦電流損失及び磁気共鳴により、μ’の低下及びμ”の上昇が生じうる。
【0028】
金属系の磁性材料は、フェライトに比べ、飽和磁束密度が高く、磁気特性に優れる。扁平加工により、表皮深さ(発生した渦電流が流れることが可能な深さの尺度)よりも薄くされた金属粒子2では、渦電流損失が抑制される。この金属粒子2を含むシート4は、高周波領域での磁気特性に優れる。
【0029】
金属の磁気共鳴は、フェライトに比べ、低周波側で発生する。この観点からは、金属は、高周波領域での損失低減に不向きである。本発明者は、前述の合金を材質とする金属粒子2が磁性シート4に適することを見いだした。本発明者は、高周波領域において磁性損失が抑制される磁性シート4を得た。
【0030】
この合金においてCの含有率は、0.01質量%以上3.0質量%以下である。含有率がこの範囲内である粉末を含むシート4では、高周波領域での磁気損失が少ない。この観点から、この含有率は0.1質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上が特に好ましい。この含有率は2.5質量%以下がより好ましく、2.2質量%以下が特に好ましい。
【0031】
この合金においてSiの含有率は、0.1質量%以上5.0質量%以下である。含有率がこの範囲内である粉末を含むシート4では、高周波領域での磁気損失が少ない。この観点から、この含有率は0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。この含有率は4.5質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。
【0032】
Feの結晶構造は、体心立方格子である。C及びSiと共にFeを含む合金では、結晶格子の3軸の内の1つの軸が、他の2つの軸よりも長い。この結晶は、磁気異方性を有している。この結晶は、シート4の磁気共鳴を高周波領域にシフトさせる。Feを含むシート4では、高周波領域での磁気損失が小さい。
【0033】
Crの結晶構造は、体心立方格子である。C及びSiと共にCrを含む合金では、結晶格子の3軸の内の1つの軸が、他の2つの軸よりも長い。この結晶は、磁気異方性を有している。この結晶は、シート4の磁気共鳴を高周波領域にシフトさせる。Crを含むシート4では、高周波領域での磁気損失が小さい。
【0034】
Moの結晶構造は、体心立方格子である。C及びSiと共にMoを含む合金では、結晶格子の3軸の内の1つの軸が、他の2つの軸よりも長い。この結晶は、磁気異方性を有している。この結晶は、シート4の磁気共鳴を高周波領域にシフトさせる。Moを含むシート4では、高周波領域での磁気損失が小さい。
【0035】
高周波領域での損失抑制の観点から、合金におけるCrとMoとの合計量は、10質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。合計量は30質量%以下が好ましく、27質量%以下がより好ましく、25質量%以下が特に好ましい。Crの含有率は、2質量%以上25質量%以下が好ましい。Moの含有率は、2質量%以上25質量%以下が好ましい。合金が、CrとMoとの両方を含むことが好ましい。
【0036】
この合金の、下記数式(I)で導出される値Aは、−600以上である。
A = 50 ・ Cr% + 80 ・ Mo% - 3 ・ AR (I)
この数式(I)において、Cr%は合金におけるCrの質量含有率を表し、Mo%は合金におけるMoの質量含有率を表し、ARは粉末のアスペクト比を表す。値Aが−600以上である粉末を含むシート4は、周波数が10MHzから10GHzである高周波領域での磁気損失が小さい。値Aは−500以上がより好ましく、−400以上が特に好ましい。値Aは800以下が好ましい。
【0037】
合金が、Fe、Cr及びMo以外の、体心立方格子を有する1又は2以上の金属元素MBをさらに含んでもよい。この合金からなる金属粒子2を含むシート4は、高周波領域での磁気損失が極めて小さい。合金における金属元素MBの含有率は、1.0質量%以上7.0質量%以下が好ましい。この含有率は1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。この含有率は4.5質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。金属元素MBの具体例として、V、Mn、Nb、Ta、W等が例示される。
【0038】
合金が金属元素MBを含む場合、下記数式(II)で導出される値Bは、−600以上3500以下が好ましい。
B = 50 ・ Cr% + 80 ・ Mo% + 170 ・ MB% - 3 ・ AR (II)
この数式(II)において、MB%は合金における金属元素MBの質量含有率を表す。値Bが−600以上3500以下である粉末を含むシート4は、高周波領域での磁気損失が小さい。値Bは−500以上がより好ましく、−400以上が特に好ましい。値Bは3000以下がより好ましく、2500以下が特に好ましい。
【0039】
扁平金属粉末のアスペクト比ARは、10以上300以下が好ましい。アスペクト比ARが10以上である金属粉末を含むシート4は、高周波領域での実部透磁率μ’が大きい。この観点から、アスペクト比ARは30以上がより好ましく、50以上が特に好ましい。アスペクト比ARが300以下である金属粉末を含むシート4では、扁平金属粒子2同士が接触しにくく、従って渦電流による磁気損失が生じにくい。この観点から、アスペクト比は250以下がより好ましく、200以下が特に好ましい。
【0040】
アスペクト比ARの算出では、扁平金属粒子2が走査型電子顕微鏡(SEM)で観察され、平面視においてその輪郭内に画かれうる最長線分の長さLが求められる。無作為に抽出された50個の金属粒子2について長さLが求められ、これらの相加平均値Lavが算出される。次に、金属粒子2が樹脂に埋め込まれて研磨され、この研磨面が光学顕微鏡で観察される。この金属粒子2の厚さ方向が特定され、最大厚みtm及び最小厚みtnが計測される。最大厚みtm及び最小厚みtnの平均値((tm+tn)/2)が、算出される。無作為に抽出された50個の金属粒子2の平均値((tm+tn)/2)に基づき、これらの相加平均値tavが算出される。平均値Lavが平均値tavで除されることにより、扁平金属粒子2のアスペクト比ARが得られる。
【0041】
扁平金属粉末の、タップ密度に対するかさ密度の比R1は、0.5以上が好ましい。比R1が0.5以上である粉末は、樹脂等との混練性に優れる。この粉末を含むシート4では、金属粒子2同士の接触に起因する過電流が抑制される。このシート4の磁気損失は、小さい。この観点から、比R1は0.6以上がより好ましく、0.7以上が特に好ましい。理想的な比R1は、1.0である。タップ密度は、「JIS Z 2512」の規定に準拠して測定される。かさ密度は、「JIS Z 2504」の規定に準拠して測定される。
【0042】
扁平金属粉末の平均粒径は、20μm以上150μm以下が好ましい。平均粒径がこの範囲内である粉末は、樹脂等との混練性に優れる。この粉末を含むシート4では、金属粒子2同士の接触に起因する過電流が抑制される。このシート4の磁気損失は、小さい。この観点から、平均粒径は比R1は40μm以上がより好ましく、50μm以上が特に好ましい。平均粒径は130μm以下がより好ましく、110μm以下が特に好ましい。平均粒径は、粉体の全体積を100%として累積カーブが求められたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径である。粒子径は、日機装社のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置「マイクロトラックMT3000」により測定される。この装置のセル内に、粉末が純水と共に流し込まれ、粒子の光散乱情報に基づいて、平均粒径が検出される。
【0043】
扁平金属粉末の製造では、まず母粉末が得られる。母粉末は、ガスアトマイズ、水アトマイズ、機械的粉砕、化学的プロセス等によって得られうる。ガスアトマイズ及び水アトマイズが好ましい。この母粉末が、メディア撹拌型ミル(アトライタ)に投入され、粉砕される。この粉砕のときに粒子が扁平化し、扁平金属粉末が得られる。扁平化後の粒子に、歪取り焼鈍が施されてもよい。
【0044】
この扁平金属粉末が、混合機によって、樹脂又はゴムと混合される。混合により、組成物が得られる。組成物が、潤滑剤、バインダー等の加工助剤を含んでもよい。この組成物から、押出等の既知の成形方法により、磁性シート4が成形される。
図2に示されるように、このシート4では、樹脂又はゴムのマトリクス6中に多数の扁平金属粒子2が分散している。これらの金属粒子2は、シート4の長手方向(押出方向)に配向している。
【0045】
本発明に係る扁平金属粉末を含む磁性部材は、シート4には限られない。リング、立方体、直方体、円筒等の種々の形状を、磁性部材は有しうる。
【0046】
[第二実施形態]
[扁平複合粉末]
本発明に係る扁平複合粉末は、多数の扁平複合粒子の集合である。本発明において扁平複合粒子とは、扁平金属粒子の表面に絶縁皮膜が形成された粒子のことを意味する。
図3に、1つの扁平複合粒子8が示されている。この複合粒子8は、金属10(扁平金属粒子)と、この金属10に積層された皮膜12とを有している。皮膜12は、金属10に接合されている。皮膜12は、金属10の全体を覆っている。皮膜12が、金属10を部分的に覆ってもよい。複合粒子8が、金属10と皮膜12との間に他の皮膜を有してもよい。複合粒子8が、皮膜12を覆う他の皮膜を有してもよい。
【0047】
扁平複合粉末は、第一実施形態の扁平金属粉末と同様、シート等の磁性部材に用いられる。この磁性部材では、樹脂、ゴム等のマトリクス6(
図2参照)に、扁平複合粒子8が分散する。
【0048】
金属10は、合金からなる。この金属10の材質は、第一実施形態の扁平金属粒子2の材質と同一である。多数の金属10からなる粉末の性状は、第一実施形態の扁平金属粉末の性状と同一である。
【0049】
皮膜12は、有機物からなる。この皮膜12は、金属10に比べると絶縁性である。皮膜12は、磁性部材において金属10同士の接触を阻止する。この磁性部材では、過電流が生じにくい。この磁性部材では、実部透磁率μ”の上昇が抑制される。
【0050】
皮膜12の典型的な材質は、チタンアルコキシド類及びケイ素アルコキシド類を含む混合物から得られる重合物である。チタンアルコキシド類は、1分子中にあるチタン原子に少なくとも1つのアルコキシド基が結合している化合物である。ケイ素アルコキシド類は、1分子中にあるケイ素原子に少なくとも1つのアルコキシド基が結合している化合物である。本発明では、アルコキシド基とは、有機基が負の電荷を持つ酸素と結合した化合物のことである。有機基とは、有機化合物からなる基のことである。チタンアルコキシド類という概念には、チタンアルコキシドのモノマー、このモノマーが複数重合されて形成されたオリゴマー、及びチタンアルコキシドが生成する前の段階の化合物(以下、前駆体とも称される。)が含まれる。ケイ素アルコキシド類という概念には、ケイ素アルコキシドのモノマー、このモノマーが複数重合されて形成されたオリゴマー、及びケイ素アルコキシドが生成する前の段階の化合物(以下、前駆体とも称される。)が含まれる。皮膜12が、チタンアルコキシド類及びケイ素アルコキシド類に加えてさらに別の成分を含む混合物の重合物から形成されてもよい。
【0051】
チタンアルコキシドの具体例として、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド及びイソプロピルトリドデシルベンゼンスフォニルチタネートが挙げられる。
【0052】
ケイ素アルコキシドの具体例として、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン及びN−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランが挙げられる。
【0053】
皮膜12は、種々のコーティング方法で作製されうる。コーティング方法として、混合法、ゾル・ゲル法、スプレードライヤー法及び転動流動層法が挙げられる。
【0054】
チタンアルコキシド類及びケイ素アルコキシド類は、溶剤で希釈されて用いられ得る。チタンアルコキシド類又はケイ素アルコキシド類を溶解又は分散させうる種々の溶剤が、用いられ得る。溶剤の具体例として、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、酢酸エチル、プロピオン酸エチル及びテトラヒドロフランが挙げられる。
【0055】
チタンアルコキシド類及びケイ素アルコキシド類の混合物は、チタンアルコキシド類、ケイ素アルコキシド類、アルミニウムアルコキシド類、ジルコニウムアルコキシド類等のアルコキシド類単体と比較して、適切な反応速度で金属10の表面で重合する。この混合物から形成された皮膜12では、クラックが少ない。しかも、この皮膜12は薄い。この皮膜12は、磁性部材の電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性の向上に寄与しうる。
【0056】
好ましいチタンアルコキシド類は、チタンアルコキシドのオリゴマーである。このオリゴマーは、チタンアルコキシドのモノマーに比べ、適切な速度で重合反応を起こす。従って、この皮膜12ではクラックの発生がより抑えられ、しかもより薄い皮膜12が得られる。この皮膜12は、磁性部材の電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性の向上に寄与しうる。
【0057】
チタンアルコキシドのオリゴマーは、チタンアルコキシドのモノマーから形成されうる。このオリゴマーは、複数のモノマーの重合によって得られる。オリゴマーをなすモノマーの数は、皮膜12の形成時における混合物の反応速度に影響する。適切な反応速度の観点から、このモノマーの数は4以上が好ましく、50以下が好ましい。
【0058】
この皮膜12は、チタン酸化物及びケイ素酸化物を含む。ケイ素は、電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性に寄与する。このケイ素は、金属粒子2と皮膜12との密着性を高める。従って、扁平複合粉末が樹脂、ゴム等と混合されて組成物が得られるとき、又は、この組成物から磁性部材が成形されるときにおいて、皮膜12の金属粒子2からの剥離が防止される。
【0059】
皮膜12に含まれる、ケイ素の質量に対するチタンの質量の比は、2.0以上6.0以下が好ましい。この比が上記範囲内である皮膜12は、金属10との密着性に優れる。この皮膜12は、金属10から剥離しにくい。従って、剥離に起因する絶縁抵抗の低下が生じにくい。この皮膜12を有する複合粒子8は、電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性に優れる。密着性の観点から、この比は3.5以上が特に好ましい。密着性の観点から、この比は5.5以下が特に好ましい。
【0060】
皮膜12による金属10の被覆率は、20%以上が好ましい。被覆率が20%以上である複合粒子8は、電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性に優れる。この観点から、被覆率は30%以上がより好ましく、50%以上が特に好ましい。理想的には、被覆率は100%である。
図3に示された複合粒子8では、被覆率は100%である。
【0061】
この被覆率の算出には、透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影された複合粒子8の断面画像が用いられる。詳細には、TEMにて観察される多数の複合粒子8の中から、金属10と皮膜12との境界の確認が可能な状態の画像が撮影される。この画像において、金属10が皮膜12で被覆されている長さ(以下、被覆長さとも称される。)及び複合粒子8の表面の長さが計測される。被覆長さが複合粒子8の表面の長さで除されて、被覆率が算出される。無作為に抽出された10の画像において被覆率が算出され、平均値が求められる。
【0062】
図3において、両矢印Tで示されているのは、皮膜12の厚さである。厚さTは、磁性部材の電磁場吸収特性及び電磁波遮蔽特性に影響を与える。厚さTは、1nm以上200nm以下が好ましい。厚さTが1nm以上である複合粒子8を含む磁性部材の絶縁抵抗は、大きい。この磁性部材では、実部透磁率μ’が大きく、かつ高周波領域の虚部透磁率μ”も大きい。この観点から、厚さTは5nm以上が特に好ましい。この厚さTが200nm以下である扁平複合粉末を含む磁性部材は、金属10を多量に含有しうる。この磁性部材では、実部透磁率μ’が大きく、かつ高周波領域の虚部透磁率μ”も大きい。この観点から、厚さTは180nm以下が特に好ましい。
【0063】
厚さTは、複合粒子8の断面が透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影された画像において測定される。撮影のとき、複合粒子8に、収束イオンビーム(FIB)加工による処理がなされる。無作為に抽出された10の複合粒子8の厚さが測定され、平均される。
【0064】
扁平複合粉末の真密度の、多数の金属10の粉末のみの真密度に対する比R2は、0.70以上0.95以下が好ましい。比R2が0.70以上である扁平複合粉末を含む磁性部材は、金属10を多量に含有しうる。この磁性部材では、実部透磁率μ’が大きく、かつ高周波領域の虚部透磁率μ”も大きい。この観点から、比R2は0.75以上が特に好ましい。比R2が0.95以下である扁平複合粉末を含む磁性部材では、絶縁抵抗が大きい。この磁性部材では、実部透磁率μ’が大きく、かつ高周波領域の虚部透磁率μ”も大きい。この観点から、比R2は0.90以下が特に好ましい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0066】
[実験1]
表1に示された成分を有する母粉末を準備した。この母粉末(10kg)をアトライタに投入し、粉砕及び扁平化を行って、扁平金属粉末を得た。この扁平金属粉末のアスペクト比AR、数式(I)によって導出される値A、かさ密度、タップ密度、タップ密度に対するかさ密度の比R1及び平均粒径が、下記の表1に示されている。
【0067】
この扁平金属粉末を、小型ミキサーを用いて100℃の温度下でエポキシ樹脂と混練し、粉末が均一に分散した樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂と扁平金属粉末との体積比は、5対2とされた。この樹脂組成物を、圧力が4MPaであり温度が200℃である条件で5分間熱プレス処理し、厚みが0.1mmである磁性シートを得た。
【0068】
作製した磁性シートについて、温度25℃で磁気損失の指数である損失係数tanδを各周波数ごとに測定しtanδ=0.1となる周波数FRを調査した。この結果が、下記の表1に示されている。なお、このtanδの測定には、アジレント・テクノロジー(Agilent Technologies)社製の商品名「ベクトル・ネットワーク・アナライザーN5245A」を用いた。
【0069】
【表1】
【0070】
表1では、各粉末の総合評価が、S2、S1、A、B及びFのいずれかにランキングされている。
【0071】
[実験2]
表2に示された成分に表3に示された元素を加え、母粉末を準備した。この母粉末(10kg)をアトライタに投入し、粉砕及び扁平化を行って、扁平金属粉末を得た。この扁平金属粉末のアスペクト比AR、数式(I)によって導出される値A、数式(II)によって導出される値B、かさ密度、タップ密度、タップ密度に対するかさ密度の比R1及び平均粒径が、下記の表3に示されている。
【0072】
この扁平金属粉末を、小型ミキサーを用いて100℃の温度下でエポキシ樹脂と混練し、粉末が均一に分散した樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂と扁平金属粉末との体積比は、5対2とされた。この樹脂組成物を、圧力が4MPaであり温度が200℃である条件で5分間熱プレス処理し、厚みが0.1mmである磁性シートを得た。
【0073】
作製した磁性シートについて、温度25℃で磁気損失の指数である損失係数tanδを各周波数ごとに測定しtanδ=0.1となる周波数FRを調査した。この結果が、下記の表3に示されている。なお、このtanδの測定には、アジレント・テクノロジー(Agilent Technologies)社製の商品名「ベクトル・ネットワーク・アナライザーN5245A」を用いた。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
表3では、各粉末の総合評価が、S2、S1、A、B及びFのいずれかにランキングされている。
【0077】
[実験3]
表4に示された成分を有する母粉末を準備した。この母粉末(10kg)をアトライタに投入し、粉砕及び扁平化を行って、扁平金属粉末を得た。この扁平金属粉末のアスペクト比AR、数式(I)によって導出される値A、及び数式(II)によって導出される値Bが、下記の表4に示されている。
【0078】
この扁平金属粉末の粒子の表面に、表5に示された組成を有する皮膜を形成し、扁平複合粉末を得た。この扁平複合粉末の、数式(II)によって導出される値B、かさ密度、タップ密度、タップ密度に対するかさ密度の比R1、平均粒径及び密度比R2が、下記の表6に示されている。
【0079】
この扁平複合粉末を、小型ミキサーを用いて100℃の温度下でエポキシ樹脂と混練し、粉末が均一に分散した樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂と扁平金属粉末との体積比は、5対2とされた。この樹脂組成物を、圧力が4MPaであり温度が200℃である条件で5分間熱プレス処理し、厚みが0.1mmである磁性シートを得た。
【0080】
作製した磁性シートについて、温度25℃で磁気損失の指数である損失係数tanδを各周波数ごとに測定しtanδ=0.1となる周波数FRを調査した。この結果が、下記の表3に示されている。なお、このtanδの測定には、アジレント・テクノロジー(Agilent Technologies)社製の商品名「ベクトル・ネットワーク・アナライザーN5245A」を用いた。
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
表6では、各粉末の総合評価が、S2、S1、A、B及びFのいずれかにランキングされている。
【0085】
実験1−3の結果より、本発明の優位性は明かである。